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No.29850の一覧
[0] 【一発ネタ】そして、今日から「ゆ」のつく自由業【完結・DQ3・TAS臭】[気のせい](2011/09/21 12:08)
[1] QB「僕と契約して勇者になってよ!」【DQ3+QB・TAS臭】[気のせい](2012/02/24 15:03)
[2] もし転生のカミサマがQBだったら【シリアス】[気のせい](2011/10/16 16:13)
[3] 【恋愛】惚れたあの子は残機が足りない【誘爆系ヒロイン・他短編】[気のせい](2012/01/20 10:00)
[4] 【恋愛】惚れたあの子は残機が足りない②[気のせい](2012/01/22 23:32)
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[29850] 【一発ネタ】そして、今日から「ゆ」のつく自由業【完結・DQ3・TAS臭】
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2 次を表示する
Date: 2011/09/21 12:08
1、そして……勇者と遊者。

 ルイーダの酒場。
 その扉の前に僅かに緊張と不安の見える一人の少女がいた。
 その名はアルス、勇者。
 その日、めでたいかどうかともかく17歳の誕生日を迎え、
「起きなさい。起きなさい、私の可愛いアルスや……。おはようアルス。もう朝ですよ。今日はとても大切な日。アルスが初めてお城に行く日だったでしょ……」
 とアルスは母に起こされた。
 支度を整えると城の前まで連れられ、促されるままに王様と謁見し、
「……魔王バラモスを倒して参れ! 街の酒場で仲間を見つけ、これで装備を整えるがよかろう。ではまた会おうアルスよ!」
 との言葉と共に50ゴールド、たびびとのふく、こんぼう、こんぼう、ひのきのぼうを内心がっかりしながら体裁上はありがたく頂戴し、一度家に返って母に報告した後、仲間を見つけるため今まさにルイーダの酒場の前に至る。
(よし、がんばろっ)
 アルスは小さく腕を構えながら自分にエールを送った。
 入ると、何故か酒場内は閑散としており、ゴールド銀行の受付のおじさん、二階に続く階段の前にいるシスター、そして受付のルイーダだけだった。
(えー……)
 思わずそう心の中で呟いたアルスはさっきまでとは違う方向に一転不安になる。
(と、とにかく……)
 アルスは気を取り直して、ルイーダに話しかけた。
 妙に生暖かい表情をしたルイーダは口を開く。
「ここはルイーダの店。旅人たちが仲間を求めて集まる出会いと別れの酒場よ。……何をお望みかしら?」
 アルスは一度振り返った。
 見回せば……どう見てもそもそも出会いが無さそう。
 ゆっくりルイーダに向き直し、恐る恐る尋ねる。
「えっと……では名簿を見せて下さい」
「名簿を見るのね」
 ルイーダは名簿を出して見せた。
 登録されていたのは一名。

???
あそびにん
ラッキーマン
せいべつ:俺の性別が気になるのかい?
レベル:??

Eぬののふく



ちから:俺に眠る力は数字で計れるようなものではないのさ。
すばやさ:俺から目を離さないように気をつけな。そうでないとはぐれちまうぜ。
たいりょく:もう一度言うぜ。俺に眠る力は数字で計れるようなものではないと。
かしこさ:遊ぶのにも……頭は使うものさ。
うんのよさ:俺の運の良さは目で見た方が早い。
さいだいHP:???
さいだいMP:???
こうげき力:???
ぼうぎょ力:???
Ex:???????

 これ何てウザいステータス。
「ぁ……あの……この、???さんというのは……?」
 ルイーダはため息混じりに答える。
「???さんは???さんね。……言いたいことがあれば本人に言って頂けるかしら」
 他に答える事は無いとばかりの事務的対応にアルスはつられて頷く。
「は……はい」
「他にご用は?」
「で、では、???さんを呼び出して貰えますか」
「???さんを仲間に加えるのね。分かったわ。???さーん! アルスさんがお呼びよー!」
 ルイーダは二階の階段に向かって大きめの声を出した。
 数秒して階段からコツコツと音を立てながら遊び人が現れた。
 大きなぐるぐる眼鏡。
 取ってつけた大きなつけ鼻。
 そして付け髭。
 お陰で表情は全く見えず、服装は桃色を基調とした縞々の衣装。
 体型は良く言えばぽっちゃり系、悪く言えば言わずもがな。
 背丈はアルスが少し見上げる必要がある程度の高さ。
 唖然としているがアルスにとって???の第一印象は悪かった。
 表情の全く見えない???はアルスの側まで近づくと大仰に手を動かす。
「こんな素敵なレディに呼ばれるなんて光栄だ。おっと失礼、自己紹介が先だったね。私は自称伝説の遊者。レディの旅の供になろう」
 その声色は何だか耳が幸せになる包容力のあるものだった。
(い、良い声……だけど)
 ???の口元は一切動いていなかった。
 腹話術である。
(それに、ゆ、ゆうしゃ……? 自称……?)
 良く分からない発言にアルスは混乱しつつ思わず答えた。
「は……はぁ……。よ、よろしくお願いします」
「礼儀正しいレディだ。こちらこそよろしくお願いする」
 そう言う???の対応もそのふざけた見た目とは裏腹に実に礼儀正しいものだった。
 そこへ空気をぶった切る事務発言をルイーダがする。
「他にご用は?」
「あ……名簿に登録されている人は他にはいませんか?」
「いなくてよ。他に登録者が現れるのを待つとなると、時間がかかるでしょうね」
「具体的にはどれくらい……?」
「判りかねるわね。全ては冒険者次第」
「そうですか……」
 アルスが沈んでいる様子なのを他所にルイーダはまた言う。
「他にご用は?」
「あ……ありません」
「じゃ、またいらしてね」
 ルイーダはオホホと営業スマイルを浮かべて言った。
 アルスは内心何度も来たくはないと思った。
(二人旅……よりにもよって遊び人……しかも訳が分からないし……)
 うんうん唸ってアルスは自分の世界に入ったままルイーダの酒場から出た。
 黙って後をきちんと付いてきていた???が声を出す。
「レディ、早速魔王討伐の旅に出るかい?」
「わっ!?」
 アルスは驚いた。
「えっと、もちろん! でもまずは???さんの装備を整えた方が」
 ふざけた見た目で???はジェスチャーをする。
「それには及ばない。私はこのぬののふく一枚で充分だ」
「は、はぁ……。って、そういう問題じゃなくて!」
「大丈夫だ。問題ない」
 ……しばしの沈黙。
 アルスがジト目で言う。
「……その自信がどこから来るか知りませんけど、ど、どうなっても知りませんよ……?」
「心配感謝しよう。では、行こうか」
 表情の全く見えない顔面で???は城下町の外を手で示した。
「……はい」
 先行きに不安を感じざるを得ないアルスはため息混じりに肯定した。

 そして、勇者と遊者の旅が始まった。




2、そして……自称伝説の遊者の超難度遊戯。

 アリアハンを出て、橋を渡ったアルスは黙々と早足で歩き続ける。
 自称伝説の遊者はその後ろをお手玉を投げながら早足で進む。
(魔王討伐の旅に出ようって自分が先に言ったくせにこの遊び人はっ……)
 チラとアルスは後ろを振り返って確認しすぐまた前を向く。
(魔物が出たらどうするつもりなのよ……。やっぱりこんぼうだけでも渡した方が良いか……)
 そんな事を考えながら進み続ける事しばし。
「魔物が……現れない……?」
 一向に魔物が現れない。
 勇者になるべくして育てられて来たアルスにして見れば、アリアハンの外に出て魔物と戦った事ぐらいあるのは当然だが、全く現れないというのはどういうことなのか。
「レディ、魔物が現れないのが不思議かい?」
 突然???の声が上がり、驚いて後ろ振り返って答える。
「も、もちろん」
「種明かしをお望みかな?」
 言って、???は腕を交差させながらボールを投げる素人目には何だか複雑そうに見えるお手玉をピタリと止めた。
「えっ……???さんが何かやっているの?」
「よくぞ聞いてくれたッ!」
 途端に???はビシビシと無駄にポーズを取りながら饒舌に腹話術で語り始める。
「これは私の会得している108の超難度遊戯の一つ。その名も『あっちいけ魔物!』……だっ!」
 大きな声が周囲に響き渡り、ひらひら飛んでいた蝶がアルスと???の間を通過する。
 穏やかな草原の風景を肌に感じ、
「……な、なんだってー!?」
 と優しいアルスは突っ込みを入れてあげた。
 ピッと???は直立不動の体勢に戻り、
「では先に行こうか」
 歩き始める。
「うん……。って待ってよ!」
 思わずアルスは呼び止めた。
「他にご用が?」
「その返答何かやめて!」
「ならば今後は気をつけよう」
「うん……そうして。で……あ……『あっちいけ魔物』の種を聞いていないんだけど」
「何かなその酷いネーミングは。それはともかく種明かしをするとでも思ったのかい?」
「するつもりなかったの!? っていうか酷いネーミングなのはそっちでしょ!」
(さっき種明かしをお望みかなって言った癖に!?)
 やれやれ、と???は肩をすくめる。
「残念ながら無い。何分こちらも命を賭けて遊んでいるのでね」
 ポヒューと鼻の穴から紙ストローが飛び出し、また引っ込んだ。
「そ……そうですか……」
 真剣な声色だが、締まらなさすぎる返答に呆れ、アルスは力無げにどうでもよくなった。
(調子……狂うなぁ……)

 アルスは当然レーベの村へ行くつもりだったが、常識的に一日で進める距離ではない。
 陽も傾き始め、当然一泊野宿する必要があるとは分かっていたが、途中???が道なりに草原を行くより、森を抜けた方が早いだろうと言い出した。
(魔物も出ないし……まあ良いか……)
 と思ったアルスも了承し、そして北上を続ける事しばらく。
 森の中に石造りの建物がポツンと建っている場所へと出た。
「こんな所があったなんて……」
 キョロキョロと辺りを見回し、アルスは建物に近づくと最後の鍵で開く灰色の扉を見つけ試しに触れる。
「やっぱり、この扉は鍵持ってないし開かないわね」
 ふっと息をついて振り返ると???が優雅に片手を胸に当てて言う。
「レディ、ここは一つ私にお任せあれ」
「はい?」
 何言ってんだ、とアルスは一応避けると、???が重く閉ざされた扉に素手で触れる。
 そして、キィィという音と共に難なく開いた。
「ほら開きましたよ、レディ」
 どやぁ、と手で示して見せる。
「何で!?」
 アルスは目を丸くして叫んだ。
「よくぞ聞いてくれたッ!」
 途端に???はまたしてもビシビシと無駄にポーズを取りながら饒舌に相変わらず腹話術で語り始める。
「これは私の会得している108の超難度遊戯の一つ。その名も『届いて私の想い! お願い開いて! はぁと!』……だっ!」
 技名のみやたら甲高い声であった。
「気持ち悪い……」
 耐え切れずアルスは本音を漏らした。
 しかし???は全く堪えた様子を見せない。
「そう。その気持ち悪さが重要なのだよ」
「は?」
 ガタガタと震えながら???は声を出し、
「余りの気持ち悪さに鍵も思わず開いてしまう。……そういう事さ」
 両手を広げた。
「んな訳あるか!」
「……事実は小説より奇なり。では中に進もう」
 言って、勝手に???は中に入ってしまう。
「あ、ちょっと! ったく」
 中に入るとあったのは青く渦巻く、旅の扉。
「これは……」
「旅の扉」
 初めて見た、とアルスが声を上げる。
「これが旅の扉……?」
「ではレディ、お手を失礼」
「え? あ、何? ちょっと待!」
 アルスの制止も聞かず、???はアルスの手を自然な動作で取って旅の扉に足を踏み入れた。
 瞬間、二人は吸い込まれるようにしてアリアハン大陸を後にした。




3、そして……新大陸。

 二人が知ってか知らずかはともかく到着したのは、ポルトガとの間に海峡を挟み、ポルトガの丁度対岸の大陸にある灯台一階の旅の扉。
 ???は先行して、大きめの最後の鍵で開く扉を難なくまた素手で開けた。
(一体何なのよ……)
 アルスは存在からしてフリーダムすぎる仲間に頭を痛めながらも後から付いて出た。
 一面濃紺色の壁が広がり、割合良い造りをしている建物だとアルスは判断した。
 そこへふらっと勝手に一度外に出ていた???が戻ってきて声を出す。
「ここは灯台さ」
「灯台……?」
 キョトンとした顔でアルスは首を傾げた。
「上に行けば、灯台守がいるだろう」
「そ、そうね。ちょっと行ってみる?」
 大仰なジェスチャーで???は胸に手を当てる。
「……そのお誘いはとても魅力的だが、私には外の確認を任せて欲しい。ここに魔物は現れないから一人でも安全だ」
「わ……分かったわ。じゃあちょっと行ってくるわね」
 若干引き気味にアルスは了承して、階段へと向かい、???は外へと出た。
 アルスは何段も階段を登っているうちに、内心???がどうして単独行動を取ったのかと邪推していた。
(こんなに高いなんて聞いてない……あの遊び人……登るのが面倒だったんじゃないでしょうね……)
 きちんと定期的に明かりが灯っている円形状の階段を延々と登り続ける事頂上に着くまで。
 ???の言った通り、頂上には灯台守の男がいた……が、寝ていた。
 話しかけても反応がないので、揺すって起こすと、男は酷く驚いて飛び上がった。
 落ち着いた所で男は船で来たのかと尋ねたが、アルスは首を振って否定、旅の扉から来たと答えた。
 旅の扉から来た事に男は驚いたが、ともあれ、折角だからと、アリアハンとの時差の関係で灯台は深夜である中、南の方を示してアルスに説明を始めた。
「ここから南に陸に沿って船を漕げばやがてテドンの岬をまわるだろう。そしてずっと陸沿いを行くとバハラタ。更に行けば黄金の国ジパング。世界のどっかにある六つの『オーブ』を集めた者は船がいらなくなるって話だ。とにかく南だ」
 との事。
(そう言われたものの、船が無いなら今の所意味はない……。でも一応)

―アルスは今の言葉を深く心に刻み込んだ―

 そしてアルスは再び階段を降り始め一階へと向かった。
 登りよりは当然楽だが下りは下りでそこそこ大変なのを我慢しつつ到着。
「いない……」
 しかし、???の姿は見当たらなかった。
(まさか旅の扉で先に戻った……?)
 一瞬アルスはそう思いながら真っ暗ながら灯台の外へと出ると、すぐに例の声が聞こえる。
「レディ、夜道を一人で進むのは危険ですよ」
 すぐアルスが反応する。
「んっ。それは???さんが……って、今更だけど???って本名……何ですか?」
 ???は首を振る。
「もちろん本名ではない。書類上の名前という奴さ」
「やっぱりそうですか……正直、呼びにくいんですが」
「ならば、遊ぶ者、すなわち遊者と呼ぶといい」
「……は、はぁ……」
 アルスは生返事をした。
(遊ぶ者で……遊者……自称伝説の遊者……何て下らない……)
 聞かなくても良かったと若干の後悔と共にアルスはため息をついて再び口を開く。
「……分かりました。とにかく、私達に船が無い以上旅の扉でレー」
 しかし話の途中で遊者が声を挟む。
「レディ、いつから船がないと思っていた?」
「はいー?」
「ついさっき、通りすがりの船が近くに着いてね。どうやら乗せて貰えそうなのだよ」
 ポカーンとアルスは唖然として声を上げる。
「……え? 本当に?」
「どうして私がレディに嘘をつかなければならないんだい?」
 そんな事するとでも思ったのかい、と遊者は肩を竦めた。
「じゃ、じゃあ……乗せてもらう?」
「よろしい。ならば善は急げだ。エスコートはお任せあれ」
 遊者は恭しく礼をして、アルスの道先案内人となって、暗闇の中、浜辺へと向かった。
 少し離れると灯台の明かりによって周囲が見えるようになり……間もなく、遊者の言う船が接舷しているのがぼんやりと見える所へと到着した。
 アルスにとってその船の印象は何だか少しボロそうだなぁ、という物であった。
 交渉したであろう船乗りの姿が見えないことにアルスは不思議に思いながらも遊者の後を追い、二人で板を伝って船に乗り込んだ瞬間。
 その板を回収する事もなく勝手に船は出航し、岸を離れた。
「は?」
「いざ、海の旅へ!」
 高々に遊者は声を上げた。
 アリアハンから旅に出て一日目。
 勇者と遊者は新大陸に移動したばかりか、「偶然」通りかかった『幽霊船』に乗り込む。
 かくして広大な海の旅へと飛び出した。
 ……しかし、行き先不明。
 間もなくアルスの絶叫が船にこだましたのは言うまでもない。




4、そして……また新大陸。

 勇者とはいえ17歳の少女には、旅に出て一日目でいきなり幽霊船とはちょっとどころではなく難易度が高かった。
 乗る時甲板では全く見あたらなかったが、一つ下の階に降りてみれば、あちこちに腐った死体やら骸骨がいるわ、火の玉は浮いているわ、とかく気味が悪い。
 アルスのストレスがマッハ。
 せめてもの救いは、遊者の超難度遊戯のお陰かやはり魔物が出ない事。
 そして船に乗り込んですぐの甲板、船最後尾の船室に、大体二人と似たような感じで乗り込んでしまったらしい二枚目冒険者がいたりもした。
「おや? あなたは亡霊ではなさそうだ。さてはあなたも財宝がお目当てですね? でもこの船にいるのは亡霊ばかり……参りましたよ」
 などと話をしてみると普通にメンタルが強い。
 なぜなら、
「いざとなればキメラの翼がありますから」
 という心強いアイテムを持っていたからである。
 冒険者の心得。
 備えあれば憂いなし。
 それを聞いて道具袋にキメラの翼が一枚入っている事を確認したアルスも相当安堵した。
 となると、恐怖でストレスは溜まるものの、アルスがキメラの翼で戻れる場所と言えばアリアハンしかないので結局どこか大きめな大陸に着くまでできるだけ頑張る方向性に落ち着いたのだった。
 一方で自称伝説の遊者はといえば、魔物の出ない船室にアルスと冒険者を残し、勝手に幽霊船内を物色して周り、目ぼしいアイテムを集めて戻って来た。
 その収穫はと言えば。

 ちいさなメダル二枚。
 すごろくけん。
 ガーターベルト。
 128ゴールド。
 670ゴールド。
 どくばり。
 ちからのたね。
 あいのおもいで。

「既に他の冒険者に目ぼしい財宝は持って行かれた後だったようですね……」
 そう言って、少々残念な様子で、二枚目冒険者は二人に挨拶をした後、キメラの翼で早々に幽霊船から去っていった。
 酷く呆気ない別れ。
 そして、航海というよりどちらかというと漂流すること幾日。
(灯台守の人が言ってた通り南下してるけど、南下しすぎ……)
 テドンの岬は回ったが、その後の航路は陸沿いなんてものは完全に無視していたのだ。
 しかもアルスは良く良く思い出すと、出港時、普通にポルトガに着けたんじゃないのか、と文句の一つも言いたかった。
 だが、この幽霊船がロマリア付近の海域を離れて外海へと出ていくのは異常で、実は遊者自前の道具袋に船乗りの骨の一本が乱雑に入っていた事をアルスは知る由もない。
 そして何だかんだ暇すぎて、アルスは遊者の拾ってきたガーターベルトを「防御力上がるし、試着してみようかな……」と乱心しかけたが何とか思いとどまったり、『あいのおもいで』とは知らずに「これがオーブだったりするのかな……」と勘違いしたりしているうちに、陸地が見えた事を遊者が船室に入って来て報告する。
「レディ、陸地が見えた」
「ほんと!?」
 その報告に慌ててアルスは甲板へと出て前方を確認すると、一面銀世界だった。
 レイアムランド。
「……あ?」
 アルスは思いっきり顔を引き攣らせた。
 そして間もなく、レイアムランドに幽霊船は到着した。
 仰々しく遊者はアルスへと手を出す。
「お手をどうぞ」
「う……うん。……っていうかホントに降りるの!? しかも寒ッ!」
「流石にこれ以上漂流するのは食料の蓄えから難しい。しかし幽霊船にある地図からして、この大陸には祠があるようだし、一応行ってみるのも悪くはないだろう? 寒いとあれば、これを羽織ると良い」
 声を出して、アルスの手を取っていた遊者は体積と中身が間違いなく合っていない自前の道具袋から暖かそうなコートを取り出して流れるような動作でアルスの背に掛けた。
「あ、あったかい……。ありがとう、遊者」
「どういたしまして」
 仰々しく礼をして体勢を戻すと、ポヒーと遊者の鼻から紙ストローが飛び出して、引っ込んだ。
(本当に締まらないわね……)
 一瞬顔を赤らめかけたアルスはやっぱり阿呆らしくなってジト目でため息を吐いた。
「では、祠へ」
「うん」
 アリアハンではアルスが先導していたが、歩きにくい雪の中では遊者が先導して雪を掻き分け、アルスが歩きやすいよう道を作っていた。
 しかし、その事にアルスは気がつけなかった。
 遊者108の超難度遊戯の一つ『どこまで気づかれないかな? かなぁ?』である。
 大体、技名はウザイ。
 かくして、レイアムランドの祠へと二人は魔物には一切会わずに無事到着。
 アルスは祠を見上げて呟く。
「本当に祠があった……」
「ではお先に失礼」
 言って、遊者は立てかけてある梯子のような階段を先に登り始めた。
「あ、待って私も」
 勝手に行くなんて! と少し憤りながらも慌ててアルスも後を追いかけて梯子を登り始めるが途中まで登った所でふと下を見て思う。
(あ……もしかして……)
 自分が先に登った場合見られのでは、と。
(やっぱり……紳士ではあるのよね……。けど、未だに本名も素顔も知らないし一体何者なんだか……)
 アルスは頭を振って、少し距離の開いた階段を一気に登った。
 登り切った先には六つの頂点を描く金色の台座、その中央に巨大な卵。
 そして、卵の前に双子の幼女、ただし人間のようではない、がいた。
 徐に近づくと、双子は同時に口を開いて話し始める。
「わたしたちは」「わたしたちは」
「卵を守っています」「卵を守っています」
「六つのオーブを金の冠の台座に捧げた時……」
「伝説の不死鳥ラーミアは蘇りましょう」
 短い台詞に、アルスはまだ何か言うだろうと思って期待の表情で待っていたが、双子は完全に黙ってしまった。
(そ、それだけ……? えっと……)

―アルスは人々の話を思い出した―

「世界のどっかにある六つの『オーブ』を集めた者は船がいらなくなるって話だ」

 アルスは顎に手を当てる。
(つまり、オーブを集めるとその不死鳥ラーミアに乗れるって事よね……多分)
 そう見当を付けて、アルスは袋から『あいのおもいで』を取り出した。
「もしかしてこれがオーブ?」
 言うとパッと双子の真剣な視線が集まり、
「違います」「違います」
 全力で揃えて首を振った。
「……そ、そうですかぁ……」
 きっぱり言われ過ぎてアルスは少し肩を落とした。
「ではお嬢さん方、もしや私の十八番『金の玉』に使っているコレはどうかな?」
 と、突然遊者が袋から取り出してみせたのは黄色に穏やかに輝く宝玉。
「それはイエローオーブ!」「それはイエローオーブ!」
 双子はハッとした表情で揃えて言った。
「なるほど、これは奇遇」
 うんうん、と遊者は頷く中、
「はぁ!? 何で持ってるの!?」
 しかも『金の玉』とかお前ナニをしている! と内心叫びながらアルスは現実に大声を上げた。
「何で、と聞かれたとあれば答えよう。何でもコレは『人から人へ世界中を巡り巡っている』という品らしく、その人から人へと渡ったのが今偶然私だったという事さ」
 相変わらずの饒舌な腹話術でイエローオーブを頭上に掲げながら遊者は、当然だよね、とばかりに答えた。
 一瞬の沈黙の後、またしてもジト目になったアルスは驚きよりも呆れた様子で呟く。
「……へ、へぇー……。でも、後そのオーブが五つ無いと駄目なのよね」
 すると、やれやれと遊者は肩を竦めてイエローオーブを袋に戻す。
「レディ。いつからオーブが一つしかないと錯覚していた?」
「な、何っ? まさかまだ他に……?」
 恐る恐るアルスが言うと、遊者は首を振る。
「残念ながら私もそこまで万能ではないよ。だが、今ここに丁度キメラの翼があるので問題はない」
「キメラの翼?」
 何で? とアルスが思った瞬間、
「とくとご覧あれ! 108の超難度遊戯の一つ『あれれーおっかしいなぁー! 不思議も不思議、何故か増えるよ!』 発 動 !」
 そう盛大に声を出して、遊者は袋に手を入れてゴソゴソと弄り始めた。
「……ぉぃ」
 アルスは低い声で突っ込みを入れてその奇怪な遊者の様子を白けた様子で見ていたが……。
「ふぅ……」
 次の瞬間、ゴトリゴトリ……とイエローオーブが袋から六つ現れた。
 所謂アイテム増殖バグである。
「…………ぇー?」「…………ぇー?」
 一番唖然として目を丸くしたのは双子だった。
「これで六つ。レディ、悪いが祭壇に手分けして捧げては貰えないだろうか?」
「う……うん……?」
 目の前の現象に理解が追いつかないアルスは生返事で、ふらふらっとイエローオーブを一つ抱えて近くの祭壇に掲げに向かった。
「あわわ……」「あわわ……」
 次々にイエローオーブばかりが祭壇に捧げられていく中、双子はオロオロと止めようかどうかと迷っていたが、間もなく六つの祭壇がイエローオーブで占拠されてしまった。




5、そして……大空ェ……。

 刹那、六つのイエローオーブは美しい輝きを次々に放ち始め、ラーミアの卵がカタカタと震え始める。
 アルスと遊者が卵の元に向かうと、双子は額から汗を流しながら口を何とか開く。
「わ……わたしたち」「わ……わたしたち」
「こ、こ、この日をどんなに……」「こ、こ、この日をどんなに……」
「待ち望んで……いたことでしょう……?」
 上ずった声を出して二人は同時に冷や汗を拭い、カタカタ震える両手を合わせる。
「さぁ……祈りましょぅ……」「さぁ……祈りましょぅ……」
「時は……来たれり……」
「今こそ……め、目覚める時」
「大空は、お前のもの」
「舞い上がれぇ……空高くー……」
 か細い声で言った瞬間、一気に卵は割れ……。
 全身黄色のラーミアが現れた。
 クェーと鳴き声を上げるそのイエローラーミアをポカーンと双子とアルスが眺めていると、また一つクェーと鳴いてバッサバッサと適当にその辺に飛んでいった。
「で……伝説の不死鳥ラーミアは……多分……無事に蘇りました」
「ラーミアは神のしもべ……」
 双子は深呼吸をして更に続ける。
「心正しき者だけが」
「その背に乗ることを許されるのです」
「さあラーミアがあなたがたを待っています」
「……外に出てごらんなさい」
 そう言うと、双子はホッと胸を撫で下ろし、わたし何とか言えたよ……とボソボソ呟きながらアルスと遊者の事はそっちのけになった。
「レディ、ここは勧めに従って外に出てはどうかな?」
 ピヒーという音を立てて遊者の鼻から紙ストローが飛び出した。
 その不抜けた音で現実に引き戻されたアルスは我に返る。
「ハッ! ……あ、うん。そ、そうしよっか」
 そして二人が外に出ると、その辺にイエローラーミアはきちんと待っていた。
「よ、よろしくねー……」
「よろしく頼む」
 いそいそとその背に二人が乗ると、クェーという鳴き声と共に、イエローラーミアは翼をはばたかせ、大空へ舞い上がった。
「あれー……。でっ、どこにラーミア向かってるのッ……? くっ!」
「北のようだね」
 行き先を特に告げていないが、イエローラーミアは一路北へと物凄い速度で飛び、風圧でアルスは落ちないようにするのに必死だった。
 一時間もしない内にラーミアは突如高度を落とし始め、対岸には禍々しい城が見える深い湖に囲まれた何だかやっぱり禍々しい毒の沼地に降り立った。
「降りろって……?」
「どうやらそうらしい」
 空気を読み、二人はとりあえず降りるとクェーと鳴き声を上げて勝手にイエローラーミアはその辺に飛んでいった。
「ってオイッ! コラァッ!」
 思わず叫んだアルスだったが、返事は無かった。
 完全に放置であった。
 しばしの沈黙の後、遊者が声を上げる。
「レディ、とりあえず中に入ってみないかい?」
「……そ、そうね……」
 がっくし意気消沈したアルスは、よく状況を判断せず、ホイホイ遊者の後について『ギアガの大穴』へと入った。
 中に入ると意外にも兵士がいたが、入ってすぐの詰所で兵士二人は寝ていた。
 とても不気味な所だった為、アルスは遊者が強固な壁伝いをふらふら行くのを慌てて追いかけて言ったが、遊者はピタリと足を止めた。
「なるほど、ラーミアはこの先に行けと言っているのか……」
「はぃ?」
 何その脳内妄想、大丈夫か、とアルスは声を上げたが、遊者の独り言は止まらない。
「……ならば話は早い。この壁が私達の行く手を遮るというのならば、この自称伝説の遊者、推して参る!」
「ちょ!」
 シュババッという擬音を立てて遊者は僅かな間に幾つかのポーズを取り、
「108の超難度遊戯の一つ『んー、何が起こるか分からない! それが怖い、悔しいっ! でもわたし止めないッ!』 発 動 !」
 デデーン!
 ……という音と共に、壁が全て崩れ去った。
「ふぅ……」
 良い仕事した、とばかりにぐるぐる眼鏡が邪魔で額を触れないながら、遊者は額を拭おうとして失敗した。
「ふぅ……じゃないだろ! 今の何よ! ってかこれどうすんのよー!」
 再起動したアルスが突っ込みを入れた。
「ではレディ、ここはご一緒に」
「な。まさか」
 サッとアルスの背後に回りこんだ遊者はアルスを抱えて、全く躊躇という文字を知らない様子でギアガの大穴に飛び込んだ。
「ぬわ――っっ!」
 胃の辺りがフワッとする嫌な感覚に囚われながら、アルスは少女が叫ぶには考えものな台詞を叫びながら落ちていったのだった……。


アルス
ゆうしゃ
くろうにん
せいべつ:おんな
レベル:1
Eどうのつるぎ
Eたびびとのふく



ちから:12
すばやさ:20
たいりょく:10
かしこさ:6
うんのよさ:1
さいだいHP:20
さいだいMP:12
こうげき力:24
ぼうぎょ力:18
Ex:0




6、そして……伝説ェ……。

 ストッという音と共に、遊者が華麗に着地すると、抱えられていたアルスは盛大に気絶していた。
「ふむ……」
 着地した先はどうやらまたしても祠のようであり、とにかく辺りを歩いていると父親と子供の親子に出会い、かくかくしかじか話すとここは闇の世界アレフガルドで、船を自由に使って良いと言われ、遊者は礼儀正しく礼を述べて船を駆って東へと進んだ。
 陸地に接岸すると、

 ―???は鷹の目を使った―
―???は『ピオリム』を唱えた―

 遊者は未だ気絶したままのアルスを抱えたまま、草原を蹴り東の方角にあるラダトームへと一気に距離を縮めていった。
 そしてラダトームの街にて。
「……ここどこ?」
 アルスが気がついて目覚めると、ふかふかのベッドの上だった。
 辺りを見渡すと、床は中々高級そうな赤い絨毯が敷かれていた。
「宿屋……?」
 徐にベッドから降り、身支度を整えて部屋の外へと出ると、宿屋の主人が挨拶を掛けてくる。
「お休みになられましたか?」
「ぁ、は、はい。どうも……。あの」
「お連れ様であれば、情報を集めると言ってお出かけになられましたよ」
「そ、そうですか。ありがとうございます」
 アルスは会釈して宿屋から出ると、夜とは違う異質な暗さと肌寒さを感じた。
「何……ここ……」
「レディ、お目覚めかな?」
「ぅわぁっ!」
 どこからともなく現れた遊者の声にアルスは驚いて一歩飛びのいた。
「って、遊者! あんたのせいでもー訳分かんないわ! ここどこよ!」
「御怒りのようだね。これは失礼」
 そしてプヒーという音と共に耳から紙ストローが飛び出して引っ込んだ。
「…………笑わないわよ?」
「構わないさ。さて、色々興味深い情報が集まった事だし、質問に答えようか。ここは大魔王ゾーマの支配する闇の世界アレフガルド、そのラダトームという城下町だ」
 声を出すなり、遊者は割合落ち着いた様子で説明をした。
「んん?」
 しかし、そうは言われたって状況をつかめないアルスは首を傾げた。
「そうだ、私達の倒した魔王バラモスは大魔王ゾーマの手下にすぎないそうだ」
「な、何だってーっ!? ……ってバラモスまだ倒してないわぁッ!!」
 ビターン! とアルスはどうのつるぎを鞘ごと地面にぶん投げた。
「ん……え、というかバラモスが手下……? って事は……」
「そう、魔王バラモスには親玉がいたという事らしい」
 驚愕の事実にアルスは口元を手で抑えた。
「何よ……それ……」
「更に耳よりな情報だが、落ち着いて聞いて欲しい」
「何……?」
「……レディの父上、オルテガ殿は記憶喪失になってこの世界に来たそうだ」
 アルスはサッと遊者の表情の分からない顔面を見上げる。
「え……今、何て……?」
 遊者は両手を広げ、諭すように声を出す。
「つまり、オルテガ殿は生きているかもしれないという事だ」
「……そ……そう……」
 突然告げられた可能性にアルスは頭がこんがらがり始めたが、遊者が軽く声を出す。
「そういう訳だからレディ、今から早速大魔王ゾーマを倒しに行くとしようか」
「はぁ!? 何で!」
 その大声に全く動じず遊者は首を傾げる。
「倒さないのかい?」
 アルスは言葉に一瞬詰まり、手振りを交えて説明を始める。
「ぅ……ちょ、ちょっと待ってよ。倒すって言っても私はどうのつるぎとたびびとの服で、遊者はぬののふくだけで一体どうしろっていうのよ? それに私まだレベル1だし」
「大丈夫だ、問題ない」
 ポヒョーという音を立てて鼻と耳から紙ストローが飛び出し、遊者はいつの間にかアルスの両手を握っていた。
「この伝説の遊者がついている」
 唖然とした表情でアルスは数秒停止すると、プッと吹き出し、
「……ホント、締まらないわね……」
 はぁとため息を吐いた。
「それで、どうするの?」
「出発さ。大魔王ゾーマの城はラダトームと目と鼻の先だからね。すぐ着くよ」
「はぃ?」
 散歩にでも行こうというレベルの雰囲気にアルスは変な声を上げたが、遊者の先導に従うまま街を出て少し行くと、確かに対岸に禍々しい城が見えた。
「近っ!」
「だろう? さ、行こうか」
 するとサッと遊者はアルスをまた自然な動作で抱える。
「え、ちょ!」
「少し乱暴な方法だが、怖かったら目を瞑ると良い。但し、口はしっかり閉じていないと舌を噛むから気をつけて」
「一体何を」
「108の超難度遊戯の一つ、究極遊戯呪文『オナラズン!』」
 瞬間、ボホワッ! という音と共に、遊者の、但し尻からイオ系の魔法が飛び出し始める。
 すぐに出力が安定するとボボボボボと宙を浮き始め、そして、順調に移動を開始した……。
「くっ……嫌すぎるぅ……」
 アルスは正直涙目、いや、泣いた。
 遠目にラダトームの住民が皆指さしてこっち見ていたのが見えたから。
「到着だ」
「あーはぃはぃ……」
 無事、対岸に到着。
 入り口に向かう為、毒の沼地を通過する事になったが、遊者が躍り出てポーズを取る。
「108の超難度遊戯の一つ『辛いの辛いの飛んでいけぇー! トラマナッ!』」
「ってオイッ! 今何かトラマナって小さい声聞こえたわよッ!」
 スパーン! とアルスは遊者の頭を引っぱたいた。
「気のせいだ」
「嘘だッ!」
 遊者は親指と人指し指をピッタリ顎に当てて考えるポーズを取る。
「ふむ……レディがトラマナなる魔法だと断言するのなら仕方がない。レディにとってはきっとトラマナなのだろう。であれば、私が何を言った所で栓のない話だ。多くは語るまいよ……」
 一人で自己完結した遊者は寂しげな背中をして先を歩き始めた。
 アルスはジト目でええー……と息を吐く。
(なに、この虚しい感じ……)
 そして、ハッと我に返って遊者の後を追った。
 城の正門まで周り、門がガガーっと開いて中に入る。
 アルスと遊者は並んで進んでいくが、やはり全く魔物が出ない。
(慣れておいて言うのも何だけど、何これホントありえない……)
 時折ポヒューと音を立てて紙ストローが飛び出す遊者を横目に、全く緊張感の欠片もない様子で二人は一階を進んでいった。
 一階にはあちこち小部屋のようなものがあったが「大魔王の間に行くための通路がせせこましい訳が無い」という一応納得の行く遊者の発言により、行き着いた先には大魔神の像が並び、固く閉ざされていそうな門が見える間に辿りついた。
 反射的にアルスは遊者の服を片手で掴んだ。
(怖ッ……!)
 そして遊者と勇者はそのまま門の前まで前進。
 遊者が軽く門に触れると、ガガーッと開いた。
「……開いたわね」
 拍子抜けの様子で二人はバリア床を遊者の『辛いの辛いの飛んでいけぇー! トラマナッ!』により無視し、玉座の間に入ったが行き止まりのようだった。
「行き止まり……?」
「そう判断するには早計だろう。例えば……こういう所には隠し階段というものがつきものだとは思わないかい?」
 声を出して、コンコンと遊者が床を叩き始める。
「そんな都合よく……」
「おや、当たりのようだ」
「え」
「ほら」

―???は足元を調べた!―
―何と 階段を見つけた!―

「……都合……良いわね」
「実際都合は良い」
 そのまま二人は階段を降り、更に階段を降り、回転床の間に到着。
 見たこともない仕掛けにアルスが不安げな様子を見せる。
「何……罠……?」
「違うさ。遊びだよ」
 ヒョイっと近場の回転床に乗って遊者が言った。
「遊び?」
「なるほど……。けど、余り頭を使わなくて良い優しい設計だね」
 スイッと遊者は床を回転させながらアルスの近くに戻った。
「どこが!?」
「法則性が掴めてしまえば何の問題も無い。さて、いいかいレディ。そこの床からずーっと何も考えずに足を前に出し続けるんだ。そうすればあの対岸までつける」
「そ、そう言われても……」
 真っ直ぐ行けばいいだけだなどと正直アルスには信じられなかった。
「ならば、手っ取り早く行こうか」
「ってまた!? あわわっ!」
 声を出して、ヒョイッと遊者はまたアルスを抱えると宣言通り真っすぐ進み始めた。
 左右にやたら迂回したが……間もなく対岸にあっさり到着。
「ほらね」
「……そうね」
 二人は先にあった階段を降りた。
 次の瞬間、遊者は左手を大仰に上げた。
「数多ある超簡単遊戯の一つ『左の法則!』」
「何それ」
「つまり、自分から見て左の壁伝いに進むという歩法の事さ」
「……はぃはぃ」
 聞いて損した、とアルスは何度目かの息を吐いた。
(大体歩法って何よ……)
 しかし、しばらく歩くと、すんなり階段に到着した。
 二人は階段を降りた。
 遊者が一枚扉を開けると、今度は大分雰囲気の変わった階であるようで、装飾も凝られ、水が流れ、橋が架かっていたりと風情があった。
 全く魔物が現れないまま、二人は道なりに進んでいく。
 キングヒドラとか、出ない。
 そして宝物庫っぽい場所があり、アルスは完全スルーしようとする遊者を呼び止めた。
 しかし、
「幽霊船の亡くなった者の物はまだしも、まだ生きている大魔王の私物を盗むのは勇者としてあるまじき行為なのではないかな?」
「む……なら、何か良いわよ……」
 思わずムキになってアルスは諦め、そのまま先に進んだが、
「っ、ゴハァッ!」
 階段を目前にして突然遊者が盛大に口から血を吐き、四肢を床につけた。
 慌ててアルスが駆け寄り、背中をさする。
「遊者っ!? どうしたのっ!?」
 尚も遊者は苦悶の声と共に吐血し続け、見た目には危険な状態だった。
 やがてスースー呼吸をし、大分落ち着いた状態になると遊者は血で紅く染まった付け髭を取り外し、口元の血を拭って新しい付け髭に取り替えた後、再び立ち上がった。
「もう大丈夫だ。失礼した。心配かけて済まない。背中をさすってくれて感謝する」
「そんなお礼より今のなに? 大丈夫なの?」
 不安の色を顔一杯に浮かべてアルスは遊者に問いただした。
「ああ。大丈夫だ、問題ない。ちょっとした反動さ」
「ちょっとした反動って……まさか」
 ハッとアルスは口元を手で抑える。
(108の超難度遊戯の一つ)
(何分こちらも命を賭けて遊んでいるのでね)
 アルスの脳裏に浮かんだのは二つの台詞。
(まさか……『あっちいけ魔物』を使い続ける……のは命がけって事……?) 
 大魔王ゾーマの城の深奥部に至って今更遊者の技のリスクについて考えを巡らせたアルスであった。
「では、先に階段を降りさせて貰うよ」
「あっ!」
 考えている隙にサッと進んでしまう遊者の後をアルスは追って、階段を降りていった。 
 そして……地下五階。
 今までとは一層嫌な雰囲気のする薄暗い中、二人は真っ直ぐ足を進める。
 至るのは、祭壇。
 暗闇の中、遠くから順に明かりが灯り、禍々しい巨体をした存在が二人に近づいて来る。
(あれが……まさかっ……)
 緊張と恐怖で体がガタガタ震えるアルスは遊者の袖を掴む。
 そしてとうとう大魔王ゾーマが二人の前に到着し、高らかに宣言する。
「アルスよ! 我が生贄の祭壇へよくぞ来た! 我こそは全てを滅ぼすもの! 全ての命を我が生贄とし、絶望で世界を覆い尽くしてやろう!」
 レベル1のアルスにとって目の前の存在はとてもではないがまともに立っているのも辛いものであった。
 そして、アルスは隣の遊者が何かを小声で唱えているのには気付かなかった。
 ゾーマは圧倒的存在感で言葉を続ける。
「アルスよ! 我が生けにえとなれい! いでよ我が」

―???は パルプンテを唱えた!―

   ―時間が 止まった!―

 そして、周囲の風景が灰色に変貌する。
「アルス、大丈夫かい?」
「え……?」
 目を閉じてしまっていたアルスはそっと目を開けると、奇妙な状況に声を失った。
「説明している時間は余り無い。まだ目を閉じていた方が良い。手早く済ませる」
 遊者は盛大に口を開き、ポーズを構えて唱え始める。
「108の超難度遊戯の一つ『んー、何が起こるか分からない! いや、いつから何が起こるか分からないと錯覚していた? そんな事はない! 来たれ! 望む事象よ!』 発 動 !」

―???は パルプンテを唱えた!―

 遊者のこれまでに聞いた事もない気合の入った声と共に、ゾーマの肉体がバラバラになって行く。 

―ゾーマは 見事に砕け散った!―

「……なに……ぅっ!?」
 目をもう一度開けたアルスはその目の前の惨状に吐きそうになる。
「嫌な物を見せて済まない。だがアルス、この『どうのつるぎ』であの大きい破片に一撃を入れて欲しい」
 遊者は普通に口を開いてそう言い、アルスの背中に収まっている『どうのつるぎ』を引き抜いて手渡した。
「わ、私が……?」
 不安そうにアルスが遊者を見ると、
「その通り」
 ポヘーという音と共にここでも紙ストローが鼻と耳から時間差で飛び出した。
 そしてやはりその表情は全く分からない。
 反射的にアルスはジト目になった。
「……はぁ……分かったわ。それぐらいできるから、後で説明してよね!」
 言って、アルスは『どうのつるぎ』を両手で受け取り、目標を定めて飛び上がり、

―アルスのこうげき!―

ゾーマの肉片にその刃を突き立てる。

―かいしんの 一撃!―
―ゾーマを 倒した!―

 そして、時は動き出す。
「………………」
 色合いの戻ったゾーマの屍は何も言わず、否、何も言えず自然に燃え始めた。
 同時に、城全体がガタガタと揺れ、次々に崩れ始める。
「ではお手を失礼」
「へ」
 遊者はアルスの手を取り真っ直ぐ通路を駆け抜け……思いっきり穴に落ちた。
「うわぁっ!」
 地鳴りのような音と共に穴から放り出されたのはどこかの洞窟。
「……ってて……」
「もう少し走るよ」 
 腰をさすっていたアルスはやや乱雑に更に手を引かれて宝箱が五つある部屋を後にして階段を駆け上がり、出た先の通路を突っ切った。
 すると再び大きな地鳴りと共に背後の床が崩落し、そこに残ったのは底なしの闇だった。
「さて、地上へ出るとしよう」
 言葉通り、二人は呪文の一切使えない洞窟を気にせず、地上へと出た。
 空の上の方で何かが閉じたような音がし、見上げてみればアレフガルドの世界に光が差し込み始めた。
 アルスがポツリと呟く。
「……普通の、夜明けね」
「そう言われると、そうかもしれない」
 そして二人は全く魔物の出ない中ラダトームの方角に向かって歩き出した。

 実はこの時、ひいこら言ってリムルダールから近い岬から泳いでゾーマ城のある陸地まで辿りついた絶賛記憶喪失中のオルテガは「あるぇー?」と空を見上げ、精霊の祠に住むエルフも「あるぇー?」と空を見上げ、聖なる祠に住む神官も「あるぇー?」と空を見上げ、精霊ルビスは勝手に封印が解けて「あるぇー?」と驚いていたが、どれもこれも勇者と遊者の知った事ではなかった。

 草原を歩きながらアルスが尋ねる。
「で……あの時どうして時間が無いだとか、私に一撃入れて欲しい何て言ったの? 遊者って何か色々知ってたの?」
 ピタリと遊者が足を止める。
「……レディ、いつから私が黒幕臭いと錯覚していた?」
 アルスもピタリと足を止める。
「……は?」
「正直に言うと、私は何も知らない」
「え?」
 ふむ、と遊者は考えこむ。
「あの時、時間が無かったのは事実だが、一撃入れる意味は……『実は無かった』……だろう」
 ピヒーという音と共に四本の紙ストローがちぐはぐに飛び出した。
「……ぁんだってぇ? なら何、あの意味深な発言はっ!?」
 圧倒的ジト目でアルスは遊者の紙ストローを毟りとり、
「遊戯さ」
 という遊者の答えを聞くと同時に無造作に地面に放り出した。
 続けて投げやりに言う。
「つまり……それっぽい演技だったって事……?」
「……その通り」
「なんだそれぇー、えぁぁぁっー!!」
 絶叫して、アルスは『どうのつるぎ』を地面に叩きつけた。
 やれやれ、と遊者は肩を竦める。
「レディ、それはもうただの『どうのつるぎ』ではない、大魔王ゾーマに止めを刺した『勇者の剣』だ。もう少し大切に扱うべきだと私は思う」
「うっさいわ! じゃあ、一体あの吐血は何だったのよ!」
「ああ。あれはここ最近の腹話術の使いすぎの反動さ」
「そっち!?」
 アルスの驚愕を他所に、当然だよねとばかりに遊者が声を出す。
「それ以外に何があると思っていたんだい?」
 『あっちいけ魔物』はこっそり聖水を使いまくっていただけだったりするが、そんな事知らないアルスは微妙に涙目になって言う。
「……じゃ、じゃあ……あの周囲が変な風景になったり、ゾーマを粉砕したりしたのは一体何?」
「これは門外不出と言いたい所だが……実を言えば『パルプンテ』という魔法によって起きる幾つかの現象を特殊な訓練によって私は自由自在に操る事ができるだけなのさ」
「へー。そうだったんだー。ってそれが一番おかしいわッ!! しかもやっぱ魔法使ってたか!」
 スッパーン! とアルスは遊者の頭を引っぱたいた。
「その通り。以前に違う職業を経験した事がないなんて私は一言も言ってない」
「こ……こいつ……」
 ぐぬぬ、とアルスは唸り、再び目に涙を浮かべて更に口を開く。
「そんな凄い力があるなら、ならっ……何でわざわざ私の仲間になったのよっ! そもそも一体あんた何者よ! 本名はっ!? 素顔はっ!?」
 叫んで、大粒の涙が落ちた。
「……なぜなら、それは意味は違えど私が自称伝説の『ゆうしゃ』に他ならないからさ。アルスと同じね」
「へ?」
 遊者は胸に手を当てて続ける。
「そして、私は私。本名はダーマ神殿で毎日のように変えていた時期があって何が本名だったのかもう良く分からない。素顔はというとだね……」
 徐に首筋の辺りに両手を当てると、ベリッ、ベリッと皮を向き始めた。
 気味の悪さにアルスは反射的にサッと距離を取る。
「こうかな」
 何も変わっていなかった。
 でろーんとくたびれた怪しげな皮は確かに地面に落ちているが……問題の顔にはぐるぐる眼鏡、つけ鼻、付け髭は健在。
「ってオイッ!」
 アルスは助走をつけて引っぱたいた。
 ……どこまでも遊びに命を賭ける自称伝説の遊者は勇者アルスにギャーギャー言われながら二人でラダトームに着くと、やたら歓迎されたりなんたりしているうちに、アルスはその場の流れで勇者ロトの称号を授けられ英雄になり、

 彼女が残し、脱いで放り出した、
 武器・防具はロトの剣・ロトの服として、
 聖なる守りとかは無い。
 とりあえずあった分だけ後の世に伝えられたという。

 そして、割と適当に伝説が始まった……。








後書き

突然下らない電波を受信した結果がコレでした。
正直「白けるわー」と笑えないかと思いますが、どこか一箇所でももし笑われたとあれば多分私の勝ちです。
とはいえ、この電波の誘惑に勝てずにホイホイ書いている時点で私は盛大に負けだったりします。
本作の要素としては

1、TAS臭(露骨な乱数調整。主に遊者の奇怪な動作全て)
2、SSならではのご都合主義(幽霊船、パルプンテなど)
3、公然とバグ使用(イエローオーブ)
4、アバカム使用(実際にはアリアハンで頑張って習得しても結局魔法の玉を普通に受け取ってロマリアに行くことになります)
5、色々放りだしすぎ(バラモスルー)
6、超速クリア・一話完結(多分作中二週間ぐらいで冒険終了。幽霊船での漂流が一番長い)

辺りが濃いですが、私のSFCドラクエ3は随分昔にデータが吹き飛び、SFC本体も耐用年数的に終わっています。
記憶が薄い部分はプレイ動画系や攻略系サイトを参考にしております。
GBC版はやった事ないですが検索したら良く分からないながらキメラの翼バグがあるそうなので利用致しました。
以上、長々とした後書き失礼致しました。


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