第25話 投影開始─────第一節 流血へのカウントダウン─────各生徒達が講義を受けている中、それに参加しない生徒がいた。間桐 慎二である。彼が訪れた場所の足元には、そこにある筈の結界の基点、呪刻がなかった。「………チ!クソ、ここもかよ!」地面を踏みつける慎二の姿は明らかに苛立っていた。順調に進んでいた結界の準備。確かに過去数日の間に呪刻破壊の妨害活動はあったが、修復できるレベルだった。だが今日、ここにきて一気に9つの呪刻の破壊。流石にこれだけの数を同時に破壊されては一気に修正はできない。無論、時間をかければ完全修復は可能だろうが、それはつまり結界発動の遅延を意味する。「おい、ライダー!」誰もいない空間に向かって叫ぶ。そこに現れた者はいつか見たライダーの姿だった。「コレ、どういうことなワケ? お前の魔方陣ってさぁ、こんな簡単に見つかって潰されちゃう程度のもんなの?」苛立った感情そのままにライダーに問いただす慎二。一方のライダーは慎二の怒りなどまるで関係ないように普段通り、冷静な態度で応答する。「これまでと今回の差を考えると、妨害活動をしていた者に協力者が現れたと推測するのが妥当です。おそらくその協力者が」「ふん、衛宮ってワケか」吐き捨てるように慎二が士郎の名を口にする。「確かに、遠坂による妨害活動はあった。けど、ここまでの被害はなかった。そこに衛宮が加わっただけでこれだけ変わるもんなの?」「実際、これだけの被害を出している以上はそうなのでしょう。ですが、それでも結界発動のための魔力は着実に集まっています。もう数日すれば準備は整いますが」「数日!? 何寝ぼけた事いってるワケ!? そんなんで本気で大丈夫だと思ってんのかよ!」慎二の苛立ちにはもはや歯止めが効かなかった。慎二にとってこの破壊数はあまりに想定外すぎた。たしかにライダーの言う通り、あと数日すれば結界は発動できるだろう。が、その間にも凛と士郎の妨害活動は続くと見て間違いない。短期間でこれだけの呪刻破壊がされている。故に、放っておいたらもっと被害が出ると危惧するのは当然だった。「わかってるとは思うけどもう一度言うぞ、ライダー。僕は“絶対に”聖杯を手に入れなきゃいけないんだよ」「…………」「そのためならなんだってする。だって、僕には聖杯を手にするっていう崇高な目的があるんだからな。だからライダー、僕はね間違ってもほかの奴らに遅れはとりたくないんだよ」「………つまり、後手に回り相手に対策を講じられる前に倒したい、と?」「そういうことだ。僕が見たいのはサッカーや野球のナイスゲームじゃない、圧倒的な差で相手を叩きのめすゲームなんだよ。だから僕はこうやって常に先手先手を打ってきた」学校の結界準備然り、魂食い然り。慎二はライダーを手に入れたその時からすでに動き始めていたのだ。「だけど、この短時間でこれだけの被害。確かに結界の解除には繋がらないかもしれないけど、“出力”は落ちる。それはそれだけ非効率につながるってことだろ」「………ええ、確かに出力が落ちてしまえば結果は変わらずともそこに至るまでの過程に要する時間には遅れが生じるでしょう。」「なら、一刻も早く呪刻の修復をしてさっさと結界を発動させろ。遠坂たちが破壊するスピードよりも早く!」慎二が命令するが、ライダーは首を縦に振らない。否、振れない。どう足掻いても破壊スピードの方が早い。故に慎二の命令である『破壊よりも修復を早く』という命令を実現することは困難だった。「なに? お前、サーヴァントの分際でこの僕に刃向うワケ?」「いえ………そうではありません」「じゃあなんだってんだよ!」激昂する慎二を、それでも物静かな態度で冷静に対応するライダー。「シンジ。あなたの命令ですが、それは物理的にかなり困難です。それこそ令呪を使わなければいけないでしょう。しかし我々にはそれはできない。ならば」「ならば………?」ライダーの次の言葉を待つ慎二。対するライダーの口元はほんのわずかに笑っていた。◆4限目。それぞれのクラスはそれぞれの授業を受けていた。衛宮士郎、柳洞一成のいるクラスもまた教室で授業を受けている。「眠い………」誰にも聞こえないように呟く士郎。就寝したのは今日の2時前。そして5時すぎ起きというタイムスケジュール。3時間程度しか寝ていないものだから、どうしてもうとうとしてしまうところがあった。いっそこのまま眠ってしまいたかったが、この授業を担当している教師が「はい、それでは次の英文を読んでね、後藤くん」藤村大河となるとそれはできなかった。おそらく今朝の事もあって多少とも目をつけているであろう大河の前で授業中に眠ってしまうと何を言われるかわかったものではない。故に目を覚ますために、手を握ったり開いたりしながら意識を保たせていた。欠伸を噛み締めながら時計を見る。昼休みまでは残り5分。この授業が終われば、眠気覚ましにコーヒーでも買って飲もう、なんて考えていた。視線を降ろして前の席に座る一成を見る。彼もまた少しうとうととしているのがわかった。が、流石は生徒会長。そんな状況であっても自分に喝を入れて勉学に励もうと気合いを入れなおしているのだから恐れ入る。周囲に視線をやると、ノートに黒板の内容を書いている者や教科書を読んでいる者。一見勉強してそうに見えるが、ノートの隅に絵を描いている者など多様な人がいた。そんな中ですぐ近くの空席を見る。間桐慎二がいるはずの席であるが、そこに慎二はいない。桜の風邪でももらったのか、などと考えているうちに残り時間5分が経過し、チャイムが鳴り響いた。「じゃあ今日はこれで終わりです。宿題はちゃんとやってくるようにー」大河の言葉を聞いた生徒達はそれぞれ各自に積を立ち始めた。机の上に広げた教科書を机の中に入れ、席を立つ。「衛宮」自販機に向かおうと廊下へ出た時に声がかけられた。聞き覚えのある声だったので、まさか、という思いで声をかけた人物を見る。そこにいたのは「慎二? お前、学校に来てたのか」間桐慎二だった。「ああ、少し遅れてきてね。けど、こんな時間だろ? 休もうかとも思ったけど、一応学校には来ておいた方がいいと思ってね」そういう慎二の顔は妙に愛想がいい。「………? 慎二、お前どっかヘンだぞ? やっぱり風邪か?」素直な感想を述べる士郎。その言葉を聞いた慎二は一瞬睨んでくるが、一転してまた愛想のよい顔になる。「慎二? いや、それとも何かいいことがあったのか?」「………ああ、これからいいことが起きるんだよ」「これから?」慎二のいう事がイマイチよく理解できない士郎。そんなことはお構いなしに慎二は士郎にある提案を出してきた。「そうだ、衛宮。ちょっと話したい事があるんだ。そうだな………5分後、屋上に来てくれないか?」「5分後? 別にいいけど、今じゃだめなのか?」「売店によって昼飯を買う時間くらいあってもいいんじゃないか、衛宮」「ああ………そうか」昼休みだしな、と納得する。「じゃあ、5分後。屋上で待ってるぞ、衛宮。あ、もちろん一人で来いよな。誰か連れてくるとかは無しだぞ」「? ああ、わかった。5分後だな」その返答を確認した慎二はそのまま、廊下を歩いていき、教室から出てきた他生徒の中に消えて行った。「………ヘンな慎二だったな」そう一言呟いて、当初の目的通り自販機で缶コーヒーを買うために階段を下りて行く。残り、4分43秒。◆「あら、士郎。こんなところで何してるの?」自販機のすぐ傍に設置されたベンチに座り、缶コーヒーを飲んでいたところに凛が近づいてきた。「見ての通りコーヒーを飲んでる」「そんなのわかってるわよ。お昼は食べてないのかって聞いてるのよ」そういいつつ凛は自販機に近づきコインを投入していく。選んだのはミルクティーだった。「いや、食べるぞ。けど、あと少ししたら慎二と会う約束してるからな。昼飯は終わってから食べる」缶コーヒーを飲み干してゴミ箱へ。カフェインの効果で眠気が襲ってくることはなくなったと信じて時計を見る。「慎二………ね」何やら含みがある言葉で凛が呟いた。「? 慎二がどうかしたのか?」「いえ、何でもないわよ。ま、せいぜい気をつけなさい。アイツ、ここ最近様子がおかしいとか噂されてるから」「様子がおかしい………?」そんなことを言われて先ほどの様子を思い出す。確かに士郎の目から見ても少し変ではあった。「ああ、確かに少し変だったけど気をつけるようなものでもないだろ。………と、それじゃ」凛と別れて屋上へと向かう。残り時間2分56秒。 ◆階段を上り再び自分の教室がある階まで登ってきたときに鐘と出会った。「お、氷室。これから昼食か?」一人で歩いていた鐘を見かけて声をかける。「その前に担任の教師に用を言い渡されてね。今から一階に行くところだ」「担任………葛木先生か」「そういう事だ。ところで衛宮、今日の放課後はどうするのだ? 今日は部活動があるのだが」「ん、じゃあ終わるまで待ってる。一緒に帰った方がいいだろ。同じ家だし」「そうか、わかった。では用を終わらせるのでこれで失礼する」「ああ、じゃあな」階段を下りて行く鐘を見送って、屋上へ向かうために歩を進める。廊下の喧騒も普段通りであるのを耳で確認しながら屋上へと階段を上って行く。残り時間15秒。─────第二節 他者封印・鮮血神殿 発動─────屋上。そこへとつながる階段。そこへとつながる扉。その扉に手をかけて、開けた瞬間に、それは訪れた。「え─────」その眩暈は唐突に、吐き気を伴って、全身を打ちのめした。「は─────ぐ」胃が蠕動する。立っている感覚が保てなくなる。眼球に血が染み込んだかの如く、視界内にある全てのものが赤く反転した。「っ─────なんだ、これ─────」そう呟いたと同時にもたれかかる様にして屋上へ出た。そして気付く。この異常が自身にだけ襲いかかったものではなかったということに。「なっ…………」校舎の外。つまりは空。空までもが赤い。学校を覆い尽くすように空に赤いヒビが入っている。それで理解することができた。“コレ”が結界であるということに。「くっ─────」校舎の外へ向けていた視線を周囲へと見渡す。ここには慎二がいる筈である。ならば慎二もこの異常で倒れているかもしれない。そう思って周囲を見渡したというのに、目に飛び込んできた映像は別の人物を映し出していた。「美綴…………?」膝をついて座り込んでいる綾子を発見する。倒れていないのは今朝凛の宝石を呑んで一時的に対魔力が向上したおかげだろう。意識もまだあるようで、士郎の声に反応して顔をあげた。「衛宮………?」そう言った綾子ではあったが、声に力はない。対魔力を上げようとも、一般人である綾子にはそれが限界であった。彼女の容体を確かめるために近づこうとした士郎。だが、その歩みは止められてしまう。「慎二………!」「やあ、衛宮。時間ぴったりにきてくれたんだね」座り込んだ綾子の後ろに立っていた慎二が綾子の首元にナイフを向けている。それを見た以上、足を止める他なかったのだ。「お前………何を」「鈍いね、衛宮。言われないと気づかないかい?」目の前にいる慎二は不敵に笑う。力なく座り込んでいる綾子。平然と佇み、ナイフをもっている慎二。屋上にいる綾子。ここに士郎が呼び出された。到着と同時に異常が襲った。バラバラの点を繋ぎ合わせるように考えをまとめていく。学校。結界。基点の大量破壊。マスターの動き。ライダー。慎二の今の言葉。そうして導き出された結論。それは「お前が─────この結界を張ったマスターだってことか………!」それこそが導き出した答えだった。「そうだぜ、衛宮。お前が探していたマスターは、この僕だ」笑う慎二を一転して睨む。そんな士郎を見て、慎二は冗談を言う様に軽い口調で「おいおい、衛宮。そう睨まないでくれよ。そんな怖い顔で睨まれたらうっかりこの手が滑っちまいそうだ」なんてことを言ってきた。「お前、本気でそんなコトやってんのか慎二─────」「当然だろ。本気だからここで待ってたんじゃないか。この期におよんでなに寝ぼけてんだよ、おまえ」「っ………!」士郎の体が前に出る。今すぐにでも綾子の傍から引き離さないと気が済まなかった。「同調、開始トレース・オン」自身の身体に強化の魔術をかけて、突進できる体制になる。もはや目の前にいる慎二に手加減は不要。今は一刻も早く綾子を救出することが士郎の目的となる。だが、「知ってるぜ、お前の魔術。“強化”だろ?」そう言った慎二の目の前に現れたのはいつか見た紫色の長髪をした女性だった。「ライダー………!」動き出そうとしていた士郎の体が止まる。否、止まらざるを得なかった。どう足掻いてもライダーの横をすり抜けて後ろにいる慎二と綾子のもとへは辿り着けない。どうしてもライダーが邪魔だったのだ。「慎二………アンタこんなこと………して………!」息遣いが荒くなっている綾子は現状を理解して、後ろに立つ慎二を睨む。この状況を理解できないほど綾子は混乱も衰弱もしていなかった。「はぁ? 人質風情が僕を睨むなよ、美綴」ガン!! と。見下すように睨みつけたあと、慎二は綾子の後頭部目掛けてナイフの柄で殴りつけた。「あ────ぅ」「とはいえ僕も驚いているんだよ。てっきり結界が発動したら倒れて意識を失うものだとばかり思ってたのにさあ、思う様に動けないとはいえまだしっかりと意識は残ってるっていうのが」「慎二ぃ!」士郎の叫びなど聞く耳持たずの慎二。倒れてしまった綾子の髪を掴み、無理やり起こさせてナイフを綾子の首元に突き付けた。「さあ衛宮。ヘタな真似をするとどうなるかくらいわかるよな?」「っ………!!」「おおっと、サーヴァントを呼ぼうだなんて考えるなよ。そんなことをした瞬間どうなるかぐらいわかってるとは思うけどさ」一瞬思考の中にセイバーを呼び出そうとも考えた士郎だったが、慎二の言葉によってそれすらも断たれてしまう。つまり、人質を取られている以上はもう士郎に手段は残されていなかった。そう、士郎には。(遠坂………!遠坂が駆け付けてくれれば!)或いはこの状況を覆すことが可能かもしれない。そう考えた士郎は一旦冷静になるように深呼吸をする。「僕としては衛宮の顔面蒼白が見たかったからさ。趣向は凝らしたんだ。どう、気に入ってくれた?」「お前は………何がしたいんだ、慎二」「何がしたい? そんなの決まってるじゃないか、僕はね“聖杯”がほしい。そのためにこの聖杯戦争に参加してるんだからね」「違う!美綴を人質にして、俺をここに呼び出して、お前は俺に何をさせたいんだって聞いてるんだ。土下座でもしてほしいのか」綾子が屋上に来て、結界を発動して、屋上に呼び出した。となれば、何らかの要求がある。ならばその要求は聞いておかなければいけない。「そんなの要らないよ。男に頭下げられて何が嬉しいっていうんだ。僕は戦う為におまえを呼び出したんだ。わかるだろ?」その言葉とともにライダーが一歩、士郎へと詰め寄る。「つまり………ライダーと戦えってことか、慎二。」「理解が早くて助かるよ。僕はね、スポーツのようなゲーム運びはいらないんだよ。一方的試合ワンサイドゲーム。聖杯戦争にいい試合なんて僕は求めない」「─────っ」慎二のいう事は現実的である。聖杯戦争という殺し合いにおいて、「いい試合」なんていうものは存在しないし必要じゃない。どれだけ安全に、確実に、圧倒的に事を有利に展開できるか。結局はそれを実践できた者が殺し合いに勝利する。「ああ、けど安心しなよ。圧倒的すぎて一瞬でカタがつくのも面白くない。ライダーにはある程度、手加減するようには言ってあるからさ。ただし─────」じゃらり、とライダーの手に鎖のついた短剣が握りしめられた。「─────遠坂がくるまでだけどね」慎二が言葉を言い終えると同時に疾風の如くライダーが突撃してきた。「っ!」咄嗟に後ろへ下がる。その場所を ヒュン と空を斬る軌跡があった。ライダーの短剣。それが自分の目の前数センチの場所を横切ったのだ。狙ってきたのは目。完全なる目潰しだった。「…………」沈黙のまま、さらに腕を振るうライダー。対する士郎の手には何もない。強化できる武器もなければ盾もない。故に使えるのは強化した自身の身体のみだった。「ぐっ───!」とにかく体勢を整える為に距離を取ろうと下がる士郎。だが、ライダーの速度からは逃げることができない。ドスッ! という嫌な音が屋上に響く。「がっ………!」疾風。ライダーの攻撃が以前よりも速くなっていた。前回のライダーは士郎の力を測り間違えていた。ならば、二戦目となる今回はその間違いを犯すこともない。「は、あ、あ─────!」何が起きたかも理解できないまま、しかしとにかく後退する。ヒュ、と目の前に現れたライダーが腕を大きく振りかぶる。それを視認した士郎は両腕を上げて衝撃に備える。が、「っ、ぐ─────!」肩から根こそぎ吹き飛ばされそうな衝撃が腕を襲った。そのあまりにも強い衝撃の所為でクロスしていた上部の腕、右腕の感覚が鈍った。「は……………!」身体を強化しただけではだめだ、そう判断した士郎は後ろに下がりながら薄っぺらな学生服に魔力を通す。せめて学生服を鉄くらいの硬度に強化しなければ次の打撃で完全に腕の感覚がなくなってしまう。「トレース…………」「させません」顔面を殴りに来たライダーの拳を左腕で受け止める。「っっ─────!」左腕が“ブレ”た。玄翁じみた一撃が士郎の左腕を容赦なく麻痺させていく。顔だけは決して狙われてはいけない。そうなったら絶対に意識を保っていられなくなる。「っ………!」ゾクリ、と悪寒を感じ、わからないまま首筋をガードする。そこへ。「ずっ………!」ドスッ! とガードに入った腕に刃物が突き刺さる。骨を削るギチ、という鈍い音が次は殺すと宣告しているようにすら感じられる。打撃と斬撃の組み合わせ。何を避けて、何が防げるか。打撃と斬撃を組み入れ高速で織り交ぜることにより、判断を鈍らせてダメージを与える。「はっ───く!」打撃に関しては腕が麻痺する恐れはあってもただそれだけだった。しかし斬撃は身体で受け止めるものではない。逃げようにも強化を施した筈の身体はライダーの速さに圧倒されてしまっている。「アハハハハ!いいぞ、ライダー!ほら、衛宮、どうしたんだよ。美綴を助けるんじゃないのか!? 結界を止めるんじゃないのか!? こうしてる間にもみんなどんどん溶けていくぞ!? そろそろ誰か死んだかな? それともだいぶくたばっちまったか?」ライダーと士郎の戦いを見て優越感に浸る慎二。高らかと笑う慎二の足元で、綾子は「いい加減に………!」力を振り絞って、全身に力を込めた。「しろ!」起き上り、振り向きざまに拳を慎二の腹へ入れる。「うぐっ!?」不意打ちを受けた慎二は一歩、二歩と後ろへ下がってしまう。その隙をついて綾子が慎二の持つナイフを弾き飛ばそうと手を伸ばす。「この………!」「お前こそ鬱陶しいんだよ、美綴!」綾子がナイフを掴もうとしたそれよりも早く、懐に手を伸ばした慎二。その手には少し分厚めの本があった。「お前は大人しく倒れてろ!」その瞬間。慎二の周囲に黒い“ナニカ”が現れた。「!?」その現象を見た士郎は驚愕する。対して、慎二のすぐ傍にいた綾子は“ナニカ”に触れた瞬間「ご………!?」吹き飛ばされていた。ガシャン!! と音を立てて綾子の体が屋上のフェンスに叩きつけられる。そのあまりの勢いの所為で、フェンスが少し傾いてしまっていた。「ごほっ………げほっ………うっ…………」フェンスからずれおちるように屋上の床へ倒れ伏す綾子。「美綴!」倒れこんだ綾子に叫びかける士郎だったが、目の前のライダーからの攻撃の所為で近づくことができない。腹部を抱え込むような形で倒れている綾子のもとへ慎二が歩み寄る。「チッ!本当に鬱陶しいやつだね、お前。…………まあ罰だと思って受け入れるんだね!僕を馬鹿にした罪のね!」慎二と綾子の間にあった抗争。否、抗争という言葉からはあまりにもかけ離れたもの。慎二が弓道部で問題を起こした時に、いつも頭を悩ませていた綾子は部員たちの目の前で慎二に謝罪させた。これ以上問題を起こすなら弓道部をやめてもらう、その権限がある、と言って。それを聞いた慎二は周囲に白い目で見られ、仕方がなく謝罪したのだった。しかし、慎二の高いプライドはそれを許さなかった。部員全員が自分の事を馬鹿にしていると物に八つ当たり、そしてその原因を作った綾子を許さなかった。そうして出てきた手段がサーヴァントによる襲撃だった。「本当ならあの夜にお前はめでたく病院行きだったんだよ。それなのに助かっちゃってさぁ。ああ、本当に鬱陶しい!そしてあまつさえ僕を殴ってくれるっていう始末だしさ!」ガン! と倒れている綾子の頭部を踏みつける。何度も何度も何度も。「慎二!やめろ!!」「おかげで僕のイライラは高まってさぁ!そしてあの衛宮が魔術師として聖杯戦争に参加してるってことを知ったときはもう最ッ高だったよ!」ドゴッ!!という低い音を響かせた。腹部を抱えていた綾子の腕もろとも蹴ったのだ。「あ………ぐ。………は、ぁ、─────」頭部を何度も衝撃を与えられたのと、腹部への魔術によるダメージと蹴り。そしてこの結界による衰弱効果。それらが相乗した結果、綾子はもう立つ事すらできなくなっていた。「あはははは!いいザマだ!これなら真っ先に死ぬんじゃねぇの!?」「え………みや………」高らかと笑う慎二と、苦しそうな表情をする綾子。綾子の容体はかなり危険域まで達している。いくら宝石のおかげで対魔力が上がっていようとも衰弱するスピードを弱めるだけであり、無効化はできない。だというのにあれだけの攻撃を仕掛けられればどうなるかくらいわかる。「──────────」ガチリ、と完全に“切り替わった”。まるで頭の中に撃鉄が落ちてきて、完全に、中身が別の者に入れ替わったかの如く。「投影、開始トレース・オン、同調、開始トレース・オン」ライダーの攻撃の最中、士郎自身最速の言葉で暗示をかける。駆けつけるためには目の前の敵をどうにかしなければならない。助けるためには一刻も早く駆けつけなければいけない。武器がない。距離が遠い。ならば。一つは目の前にいる敵を退けるだけの武器を、一つは今すぐにでも駆けつけて助け出すための術を。助けるためなら。守るためなら。作る。作り出す。無いなら作れ。無理でも作れ。どんな犠牲を払ってでも作れ。強化と複製、元からある物と元々ない物、その違いなど僅かだと思い込め。迷う暇はない。考える暇はない。何としても偽装しろ。故障しても構わない。どこかを失っても構わない。偽物だろうと文句はない。急げ。忘れろ。わかっているのか。壊れるのは自分だけじゃない。この学校にいる人全員。目の前で自分の名前を呼んだ彼女も。助けろ、助け出せ。己の理想を貫き通せ。そして──────────理想イメージを現実リアルに顕在トレースさせろ。刹那の時間に出来上がったソレをみたライダー。「………!それは私の─────」「そこをどけぇ!!!」両手に握られたのはライダーが持つ短剣とまったく同じ武器。驚愕した一瞬の隙をついて、士郎がライダーの首元目掛けて短剣を強化した身体で突き立てる。「クッ………!」一瞬の出来事に戸惑ったライダーは、しかしそれでも士郎の渾身の一撃を身体を逸らすことでやり過ごす。しかしそれは、士郎が慎二と綾子のもとへ走り出すのに邪魔な障害物ライダーがいなくなることと同じである。「慎二ぃ!!」ライダーに攻撃を仕掛けた勢いそのままに綾子を救うために慎二のもとへ全力疾走する。限界レベルまでの強化を施したその身体能力は慎二の想像を超えていた。「なっ、速………!」だが、それ以上に速い人物がこのステージにいる。「あまり調子にのらないほうが、身の為です。」士郎が慎二の元へ走っていたその背後に短剣を突き刺そうとしているライダーがいた。「っ………!」背後からの殺気を感じ、恐ろしいまでのリアルな死のイメージを直感だけで感じ取った士郎。しかし速度を落とさずに、前へ跳びだすようにジャンプ。同時に身体を捻じ曲げるように反転させながら左手に持つ短剣を振るった。ガキィン!! という、金属同士が激しくぶつかり合う音が響く。ライダーの背後からの攻撃をその手に持つライダーと同じ短剣で防いだのだ。だが、同時に「─────」パキン、という音と共に士郎の持っていた短剣が砕けた。ガラス細工が壊れたときのように破片が散り散りに空中を舞う。初撃を防ぎ、前方への慣性を利用して足を滑らせる。その間にも二撃目の必殺をライダーが放つ。「ぐ─────!」右足だけで地面を蹴り、バックステップの要領で後ろへ跳ぶ。残った右手の短剣だけでライダーの攻撃を弾き飛ばす。しかし、左手同様にパキン、と塵となってしまう短剣。「─────これで終わりです」にやり、と僅かに笑うライダー。士郎の手にはもう何もない。防ぐ武器はない。心臓目掛けてライダーが右手の短剣を突き立てる。それを「ぐ、ぅ─────!」左手で受け止める形で防ぐ。士郎の左手から鮮血が飛び散る。突き出された勢いも殺せずに胸に突き刺さったが、軌道を逸らすことができたのと左手という“余分な物”を仲介したことにより胸の傷はまだ少し浅く済んだ。しかし攻撃は終わらない。右手の短剣が防がれたのならば、左手の短剣で首を狙えばいい。僅かに振りかぶって、ライダーが士郎の首目がけて短剣を突き刺す。その予備動作を強化された視力が見抜く。首へと突き刺さるその軌道上に右腕を置く。それを確認したライダーは、しかし軌道は変えずにより一層左手に力を込める。右腕ごと首に風穴を開けるつもりで短剣を突き刺した。はずだった。「─────!?」ギィン!! という甲高い音。右腕を突き刺そうとしたその短剣の先端部分が、わずかに刃こぼれを起こしていた。士郎の左手に刺さっていた短剣を抜き出して、状況把握に努めるライダー。あの速度で突き出した短剣が負けて刃こぼれを起こすという現状。つまり、「………驚いた。私の刃物ではあなたを殺せない」そう結論を出した。一方の士郎も、一体なぜあの攻撃を防ぐことができたのか理解できなかった。理解できなかったが、今は理解している時間などない。僅か数メートルまで近づいた綾子と慎二に向かって最後の全力疾走を行う。この距離ならば、ライダーが再度追いかけてくるよりも早く二人の元へたどり着く。慎二を突き飛ばしてでも足元にいる綾子を救う。そのために再加速したその時に、背後から声が聞こえた。「シンジ、私の視界に入らないようその場を離れなさい」その声はとてつもなく冷えていた。─────第三節 ワンサイドゲーム─────「は─────え………?」ライダーの言葉を辛うじて理解した慎二は迫ってくる士郎から逃げる様に全力でその場を走って離れた。対する士郎もまた、その胸に“とてつもない嫌な予感”を感じながら、これから行われるであろう攻撃を思考の幅が狭まった脳で可能な限り考えていた。「視界………?」つまりは見える範囲ということ。見る事で何かができるということ。「魔眼か何かか………!?」そう推測した士郎は、綾子の元にたどり着く。しかし声をかけてやれる余裕も時間もなかった。慎二が慌ててライダーの視界から出る。その僅かな時間の間に士郎達もライダーから隠れなければいけない。しかし隠れる場所がない。慎二の方へ逃げたとしても間にライダーが入りこんだらそれで終了。「美綴!しっかり捕まってろよ!」しかし活路を見出した士郎は綾子を抱き上げる。「─────投影、開始トレース・オン」右手に現れた武器は、ライダーのもっているソレと同じ。それをライダーではなく、拉げたフェンスへと斬りかかった。「自己封印─────」慎二が視界外へと出る。それと同時にライダーが自身の目隠しを取る。「間に合えっ………!」斬りつけたフェンスを押しつぶすように、綾子を背負っていない方の身体の側面で体当たりをする。崩れ落ちるフェンス。それと共に自然落下する二人の身体。「─────暗黒神殿ブレーカー・ゴルゴーン」その名を以ってして、ライダーの眼帯は外された。空気が固まり着く。ありとあらゆるものが停止を余儀なくされる。しかし、「─────落ちましたか」それよりも早く、士郎と綾子は屋上より跳び下り、ライダーの視界から逃れていた。つまりは逃げ切ったのである。「しかし、落ちただけでは逃れられませんよ」欠けたフェンスへと近寄り真下を見る。視界に入ってしまえば、その者の動きを停止させることができるライダー。故に落ちた程度では逃れたとは言えない。ライダーが下を見る。この短時間ではまだ空中にいるだろう。ならば遮るモノは何もない。そう思ったからこそ、下を覗いた。「こい………、セイバァァァアアアアア!!」眼下で起こった眩い光。そしてその次にはその場から落下していた筈の二人の姿がなかった。「チ………セイバーを呼んで私の視界から逃れましたか………」素早く眼帯を着け戻す。裸眼のままでマスターの方を向いてしまうと慎二まで石化してしまう。「おい、ライダー。あの二人はどうなったんだ!」屋上の隅に移動した慎二がライダーに声をかけた。「セイバーを召喚され、完全に逃げられました。」「はぁ!? 逃げられた!? あんな奴にか!」先ほどまで驚愕の顔をしていた慎二だったが今は憤怒の顔をしている。しかしライダーはそんなマスターに構っている余裕はない。セイバーが来たとなれば、体勢を立て直して攻めてくるだろう。それにまだこの学校にはもう一名サーヴァントがいる。「あんな奴─────とは大きく出たものね、慎二」学校内に続く出入り口に現れたのは凛とアーチャーだった。「やはり来ましたか。─────しかし、思いの外来るのが遅かったですね」「ええ。私がいたのは一階。そしてこの結界の核となる基点があったのも一階。ついでだからこの結界の基点も破壊させてもらったわよ」「…………結界の出力が落ちているとは思っていましたが、やはりそうでしたか」慎二を庇うようにしてライダーがアーチャーと対峙する。「凛、構わんのだな?」「ええ。こんな畜生を許すつもりはない。アーチャー、思いっきりやりなさい!」「了解した、凛」そう言ったアーチャーの手に握られていたのは弓。「─────I am the bone of my sword」構えの中に矢が現れる。「─────赤原猟犬フルンディング」構えてから発射するまでに要した時間は1秒。しかしこの相手ならば十分である。「矢ですか………。しかし、そんなものには」慎二を抱えてその矢を避ける。そのまま矢は校舎の外へ出て行ってしまった。「この程度なのですね、アーチャーと言えども」「さて、それはどうかな」不敵に笑うアーチャー。それに違和感を覚えたライダーが、矢が跳んで行った方角を見る。すると、「なっ…………!?」驚愕する時間こそが無駄と言わんばかりに、全速力でその場から離脱するライダー。背後より襲って来たソレは先ほどアーチャーが放った矢だった。「よく躱した─────と言いたいところだが、無駄だな」「何を─────」赤原猟犬フルンディング。それは射手が狙い続ける限り、標的を追い続ける矢である。故にこれから逃れるためには回避ではなく叩き潰す必要がある。「くっ………!」再び襲いかかってきた矢を短剣で叩き潰す。だが、それは大きな隙となってライダーに襲いかかる。「そら、背中がガラ空きだぞ」「!!」ライダーがその声に反応するよりも早く、アーチャーの持つ短剣がライダーの足を掠った。「よく躱した。しかしどこまでやれるか!」「チ………!」アーチャーがライダーに追撃をかける。それに圧倒されているライダーは慎二と離れてしまった。そこへ。「慎二、覚悟はできてるんでしょうね」魔術刻印を光らせた凛がやってきた。「ふん、ライダーがいなければ何もできないって思ってるんだろ。………見せてやるよ、間桐の後継者である僕の真の力ってヤツを!」慎二が懐から本を取り出した瞬間に、周囲に黒い影が現れた。そしてそれがまるで断頭台のように3本、カタチをもって蠢きだした。黒一色でできた刃。それらが凛へと襲いかかる。「ッ…………、魔術による攻撃!?」咄嗟に拳を強化魔術で強化し、襲いかかってきた黒い刃を弾き飛ばす。その視線の先、慎二が持つ本。「…………偽臣の書、ね」「さすが遠坂。これくらいすぐに看破できるか。そうさ、この本があれば僕は君と魔術戦を演じることすらできるのさ!」「─────そう、魔術回路が途絶えた貴方がマスターだなんておかしいとは思っていたけど」次々に襲いかかってくる黒い刃を蹴散らしていく。その凛にダメージの色は全く見られない。対する凛は、攻撃を仕掛けてくる慎二を睨みつける。「─────けどね、そんなエセ魔術でこの私と魔術戦を演じることができる?…………思い上がるのもそれくらいにしなさい、慎二」冷えた瞳が慎二を貫く。指を向ける。「Fixierung狙え、、EileSalve一斉射撃─────!」その指先から大量のガンドが発射された。その数に負けじと慎二もまた黒い影を操る。しかし、数は同数とできても、威力が全く違った。「クソ!僕の攻撃がかき消される!?」黒い影が凛のガンドによって瞬く間に消失させられていく。それどころか、慎二本体へ攻撃が届き始めた。「ヒ…………!」ドン! とたった一撃、彼の足元すぐ傍に着弾する。それに狼狽してしまう慎二。「呆れた………その程度で怯えるだなんて。これなら士郎の方が何倍も強いわよ」黒い影が消え失せたのを確認し、凛もガンド撃ちを一旦やめる。「は─────僕、より衛宮の方が………優れてる、だって?」「魔術回路を失って、それでも本来“自分に与えらえる筈であった特権”を得たいがために固執した。そんなことをしたって魔術師にはなれないっていうのに」「し、知ったようなクチを叩くな!────ふざけるなよ、僕が魔術師になれないだと? そんな事、どうしてお前にわかるっていうんだ!それに実現するのが聖杯だろ!」「判るわよ。断言してもいい。そりゃあ確かに聖杯を使えば魔術回路は得られるでしょう。けど“それだけ”よ。貴方は魔術師にはなれない。だって才能がないもの。そこも士郎とは違うところ」「さ………才能がない? 衛宮にはあるっていうのか………!本来、魔術師の家系でもなければ、セイバーを連れてるだけの雑種だろ!第一、なんでオマエが衛宮なんかを口にするんだよ!!」「言ったでしょ。彼が貴方より強いから。魔術師としての素質もある。間桐慎二にはないものを衛宮士郎は持っている。彼は魔術師としてやっていける絶対的な素質がある。それは誰も勝てない、彼が一番たり得るところ」「一番だって!? ハ、笑わせるなよ遠坂!あいつにあって僕にないものは魔術回路ぐらいだ!それさえあれば僕はあいつよりも上なんだ!あいつはただ運よくセイバーを召喚できただけの野良犬じゃないか………!」衛宮士郎への増悪が完全に恐怖に打ち勝った。真正面から凛を睨む慎二。対する凛はそのあまりにも偏執しきった視線を見て、もはや何か諦めてしまったようにはぁ、と両肩で嘆息した。「────もうどうしようもないわね。責任を取らせようと思ったけど、貴方にはその価値すら皆無だわ。ほら、見逃してあげるからさっさとその本を焼いて教会へ逃げ込みなさい。士郎に潰される前にね」慎二を見る凛の瞳は完全に冷え切っていた。もはや話し合う価値すらない、お前はそもそもここに立っていい人間ですらない。今の慎二には凛がそう言っているようにすら感じられた。「は─────は、はははは………。はははははは!!!!!!」突如として笑い出した慎二の周囲に再び現れる黒い影。もはや正気を留めていない慎二を見る凛。「無駄だって言っているのにわからないのね。─────ここまでくるともはや憐れね」同時に、次は黒い影ごと慎二を打ち抜くつもりで魔力を指へ込める。ガンド撃ち。威力を最大にまで強化し、同時にできる限りの連射性も持たせたガンド。ただの連射性のガンドですら黒い影は勝てなかった。もはや慎二に勝機はない。「僕が………衛宮に劣るだって………!? 遠坂─────おまえ、おまえ………!」際限のない怨嗟の声をあげる慎二。「いいわ、慎二。最後に教えてあげる。自分以外の為に先を目指す者、自己よりも他者を顧みる者、そして誰よりも自分が嫌いな者。これが魔術師の素質ってヤツよ。どんなに魔術回路があっても、それがない者には到達できない所がある。………慎二、アンタは他人を蔑む事で、同時に抱かなくてもいい劣等感を抱いた典型例。見下す相手が上にいるもんだから、つまらない劣等感に囚われてた人間。─────この際だからはっきりと言ってあげるわ、慎二」「と、お、─────!」「慎二、アンタはマスターには絶対的に向かない。どれだけ自分がマスターだって言い張ったって、貴方はマスターにはなれないわよ」「とぉぉおぉぉさぁぁぁかぁぁぁあああ!!」轟! という音を立てて慎二の周囲にあった全ての影が一斉に凛目掛けて襲いかかってきた。目の前が一面真っ黒になるぐらいの攻撃密度。しかしそんな攻撃でも凛には届かない。「同時に教えてあげる。─────これが私と貴方の差よ」ドン!! という地響きにも似たガンドが発射される。しかし、それだけでは終わらない。それと全く同じ音が連続再生されたかの如く屋上に鳴り響いた。一方的試合ワンサイドゲーム。ここにこの図式は成り立った。