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No.29793の一覧
[0] そして魔王様へ【DQ3】(5/8新話投稿)[NIY](2014/05/08 23:40)
[1] 新米魔王誕生[NIY](2014/03/05 22:16)
[2] 新米魔王研修中[NIY](2014/04/25 20:06)
[3] 続・新米魔王研修中[NIY](2012/09/28 10:35)
[4] 新米魔王転職中[NIY](2014/03/05 22:30)
[5] 新米魔王初配下[NIY](2014/03/05 22:41)
[6] 新米魔王船旅中[NIY](2012/10/14 18:38)
[7] 新米魔王偵察中[NIY](2012/01/12 19:57)
[8] 新米魔王出立中[NIY](2012/01/12 19:57)
[9] 駆け出し魔王誘拐中[NIY](2014/03/05 22:52)
[10] 駆け出し魔王賭博中[NIY](2014/03/19 20:18)
[11] 駆け出し魔王勝負中[NIY](2014/03/05 22:59)
[12] 駆け出し魔王買い物中[NIY](2014/03/05 23:20)
[13] 駆け出し魔王会議中[NIY](2014/03/06 00:13)
[14] 駆け出し魔王我慢中[NIY](2014/03/19 20:17)
[15] 駆け出し魔王演説中[NIY](2014/04/25 20:04)
[16] 駆け出し魔王準備中[NIY](2014/05/08 23:39)
[17] 記録[NIY](2014/05/08 23:37)
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[29793] 駆け出し魔王誘拐中
Name: NIY◆f1114a98 ID:9f67d39b 前を表示する / 次を表示する
Date: 2014/03/05 22:52
二章 一話 駆け出し魔王誘拐中


 火を制する者は戦場を制する。


 轟と火が猛るその場所は、まさしく戦場であった。
 狂ったように刃物を振るい、喧々囂々と声が飛び交う。右へ左へ人が流れ、次々と状況が変わっていく。
 その戦場にて火を押さえつけていた青年が、大きく手を動かす。それはこの混乱を収めるのに必要な一手であった。


「野菜炒め上がりましたーー!!」
「よっしタクト!! 後二・三品で注文一旦落ち着くから、終わったら飯食ってこい!!」
「あざーっす!!」



 ダーマで人気の大衆向け食事処『ゴッダ亭』は今日も繁盛しています。




***




 青年が気が付いたとき、世界は全て変わっていた。見知らぬ土地。見知らぬ風景。見知らぬ人々。それは、青年が生きてきた世界とは明らかに異なるものだった。
 ここがどこか分からない。行く宛もない。どうすればいいのか分からない中で、青年は死を幻視した。
 こんな所で孤独に死んでいくのかと絶望にうちひしがれて、人混みを避けるように路地裏で座り込んでいた。
 今思えば、相当に運がよかったのだろう。座り込んだ場所がたまたま料理屋の裏手で、ゴミを捨てに来た店の主人が、浮浪者を拾ってくれるような人物であったのだから。

「はー落ち着くわー。やっぱ仕事の後は冷たい物だよなー」

 露天で買ったジュースを飲みながら、タクトは一息吐いていた。店の方も夜のかき入れ時までは人も入ってこないだろうし、少しばかりゆっくりする時間がある。
 この世界に放り込まれて早一年。最初は何も分からなかったのだが、少し余裕ができてみればここがドラクエ世界だとすぐに気が付いた。暮らしている内に耳に入る話で、どうやら三作目の世界だと理解した。
 分かった始めは興奮がこみ上げて来たが、よくよく考えてみれば自分はこれといって体を鍛えていたわけでもなく、生きていくことすらかなり難易度の高い話だ。さすがに若干Lvは上がったが、魔法なんかを使えるようになることもなく、何かを為すのは無理と早々に諦めた。
 店長の好意で何とか暮らしていけているし、元の世界では調理師学校に通っていたお陰で重宝もして貰っている。帰る方法が分からない以上、日々を精一杯に生きるしかタクトに道はなかった。

「最近はめぼしい冒険者ってなかなかいないよなー。Lv高くても15以下ばっかだし、スキル高いのもあんまり……あ、あいつこの前より剣のスキル上がってる。努力してんだなー」

 そんなタクトの趣味は、町行く人間のステータスチェックである。
 何故かは分からないが、この世界にやってきたときからタクトの目には、人のLvやスキル、アイテムを見透かす力が宿っていた。
 少し意識をすれば、その人物の現在Lvと職業、次のLvまでどれぐらい経験値が必要でLv上限はどこなのか、スキル(技術)は大体どれぐらいのクラスなのか、見えているアイテムはどんな名前で、どのような性能と状態なのか等が見えるのである。
 ようするに、王様の力にちょっとプラスアルファした鑑定能力であった。タクトはこの能力をシンプルに『超鑑定』と呼んでいる。商人であったら喉から手が出るほど欲しい力であろうが、商売人としての能力を持ち合わせていないタクトでは宝の持ち腐れもいいところだ。今ではこうして暇つぶしの道具程度にしか役立っていない。
 まぁもし、万が一勇者でも見つけることができたのなら、元の世界に帰るのに手を貸してくれるかもしれないと、淡い期待があるのも確かだが。

 タクトがなんとなしに町行く人を眺めていると、ふと目にとまった人物がいた。半年以上前に、ゴッダ亭で食事をしていた冒険者である。
 よほどよく見かける冒険者ならともかく、一度見ただけの冒険者を覚えているような記憶力があるわけじゃない。何やら神官らしき少年と話していた内容が際だっていた為に印象が強かったのだ。
 Lv1だったは転職したからか、それだけ見れば確かに有象無象の冒険者達よりも頭一つ抜けた存在ではあったのだろうが、いかんせんLv上限が低すぎた。普通の人間で大体25から30ある上限が、その冒険者は20と転職がギリギリ可能なところしかなかったのだ。
 装備も特別際だった物はなく、ギリギリで上級クラスに足が掛かる程度の冒険者が、魔王を倒すなどと言っていたのである。随分と無謀な事をと思ったものだ。

「よく生きてたなー。無茶して死んだんじゃないかと思ったんだけど……げっ! もうLv20まで上がってる!? どんな荒行すればこんな短期間にそこまで上げれんだよ? 剣スキルはFだけど魔力使用スキルはCって……」

 タクトの能力は割とフレーバーな部分がある。特にスキル関係は、持ち合わせている技術を合わせた大体総合的な大ざっぱなもので、同じランクでも人によってかなり違いがある。しかし、今まで見てきた中でCランクというのは存在しなかった。冒険者ならば高くてもD。殆どはGからEの者ばかりなのだ。スキルランクCとは、他の人間とは一線を画する技量の持ち主に相違ない。
 装備自体は殆ど変わっていない。相変わらず鎧は量販物の皮鎧であるし、盾や兜は無くインナーも冒険者がよく好むただの旅人の服だ。しかし、腰に付けた白鞘の剣が目を引いた。全ての装備の中で、シンプルながらも美しいその剣だけが浮いている。
 タクトはジッとその剣に目を凝らして――次の瞬間に思わず駆けだしていた。
 タクトが読み取ったその剣の銘は、くさなぎの剣。タクトが知る限りでは、それを手に入れる方法はただ一つだけの筈だった。

「なぁ! そこの白鞘の兄さん!!」
「あ?」

 人混みを掻き分けながら、青年の背中に向けて声を掛ける。特徴的な鞘であるのは自覚しているのか、青年はタクトの声に振り向いた。
 この時、タクトはこの世界の事に気付いた時と同じほど興奮していた。後から考えてみれば、当時の自分を殴ってでも止めたいと思わずにはいられない。そんなことを後々思うなどとは露知らず、タクトは興奮のままに青年に話しかけていた。

「あんたの持ってるのくさなぎの剣だろ? それどうやって手に入れたんだ? それってヤマタノ―――――――」

 タクトの言葉は最後まで紡がれることは無かった。話しかけた青年に口を塞がれ、一気に路地裏まで連れて行かれたからだ。
 いくら相手が魔法使いといえど、転職した上でLvを上げた相手に、低Lvのタクトが抗うことなどできるわけもなく、為すがままに人気の無い所まで引きずり込まれる。
 混乱し、何が起こったのかも分からないまま放り出されたタクトの喉元に、青年はナイフを突きつけてきた。

「ひっ―――――」
「騒ぐな。こんなところで死にたく無いだろ?」

 静かに問うてくる青年に、タクトは言葉を飲み込んで目で了承を訴えた。それを見て、青年はナイフを引く。

「安心しろ、逃げ出したりしない限りは何もしない。俺の質問に答えればそれでいい。分かったな?」
「は、はい」

 体を震わせ、顔を引きつらせながらも何とか返事をする。タクトの様子を見ながら、青年は静かに頷いた。

「まず、お前は何者だ? なんでこの剣のことを知っている?」
「お、俺はこの町の飲食店で働いてるただの下っ端です。その剣の事はゲームで……」
「ゲーム?」

 眉を顰め、問い返された事柄にタクトは声を詰まらせる。思わず言ってしまったが、この世界の人間に対して、自分は違う世界の人間で、この世界は自分の世界の娯楽の一つだったなどと言って信じられる訳がない。頭のおかしい奴だと思われるか、巫山戯てると見なされて殺されるか。何とか上手い説明を考えようにも、焦って頭が回らない。
 だが、そんなタクトを余所に、青年は考えるように口元に手を当てながら次の質問をしてきた。

「……何で一目でこれがくさなぎの剣だと分かった? この剣はこの世界でもこいつ一本しか存在しない。外に出たのは初めてで、知ってる人間はいない筈だ」
「お、俺にはちょっとした力がありまして、そう意識して見たものの情報が分かるんです」
「情報? 商人の鑑定みたいなものか?」
「も、物だけじゃなくて人の情報も見れますが……その人間のLvと職業、大体のスキルランク……あと、Lv上限も……」
「へぇ……」

 『超鑑定』の説明に、青年は目を細めた。

「なら、試しに俺の情報を上げてみろ。なに、どんな事言われたって殺しはしないさ」
「…………ほ、ほんとですね?」
「ああ、誓ってやる」

 はっきりと頷いた青年に、タクトは恐る恐る目を凝らした。いつものように、脳裏に青年の情報が浮かんでくる。

「……現在Lv20。Lv上限20。職業魔法使い。スキルランクは剣F、短剣F、格闘E、魔力使用C、魔力認識D…………魔力理解? 固有スキルかこれ?」
「固有スキル?」
「あ、いえ……魔法使いのスキルは俺の知ってる限り二つだけで、魔力使用と魔力認識だけなんですよ。スキルランクも付いてないですし、スキル名からすると魔法関係スキルのブーストか何かかな?」
「……あー」

 思い当たる節があるのか、青年は納得したように声を出した。
 それにしても、どこか奇妙である。話している内に落ち着いてきた頭で、タクトはこの青年のことを考えた。常識的に知られるLvのことならともかく、スキルランクのことはタクト以外に知る人間など殆どいない筈の話なのに、あまりにもあっさりと理解をしすぎではないか。

「しかし……あの時のあいつの驚きもこんな感じだったのか? いや、まったく分からん状態だからこれ以上の不気味さか。よく見逃すつもりになってくれたもんだ。まったく、頭が下がるな」

 纏まらない考えにもどかしさを抱いているタクトを余所に、青年はため息を吐きながら頭を抑えている。そして、タクトを見てにいっと底意地の悪そうな笑みを浮かべた。

「まさかいるとは思わなかったよご同類」
「は? え?」

 青年の言葉を、タクトは最初理解出来なかった。しかし、すぐにその言葉の意味を悟る。
 同類――――この場においてその言葉が指し示す答えは一つしかない。

「俺と……同じ……?」
「ま、ドラクエって言葉が通じる程度には同類だろ?」
「嘘……だろ……? 俺以外にいたのか……? あんた……ほんとに……?」

 一年間、タクトはずっと孤独感を抱えていた。
 いくらよく知っているゲームの世界とはいえ、自分を助けてくれた人物がいたとはいえ、この世界にタクトの気持ちを理解できる人間などいなかったのだ。青年が自分と同じ立場の人間だと聞かされて、信じられなかったのも無理はない。急激な郷愁に心を打たれ、タクトは思わず涙ぐんでしまった。

「っ!? お、おいおい……何で泣くよ……」

 まさか泣き出すとは思ってもなかったか、ここにきて初めて青年が狼狽を見せた。いきなりナイフを突きつけてくるような人間だが、絵に描いたような危険人物とは言えないようである。

「す、すいません……久しぶりに向こうの話が通じる相手だったから……」

 目元を拭うタクトに、青年は困ったような、呆れたような表情で頭を掻く。

「あー……くそっ、毒気抜かれた……。まあいい、それよりお前、誰かにこの世界の事とか何か話したか? ジパングのことだのサマンオサのことだのをだ」
「……いえ、話してないです。話したって信じて貰えないだろうし、頭おかしい奴って思われて放り出されたら死ぬと思ったんで」
「……ん、ならいい」

 青年はタクトの言葉の真偽を確かめながら飲み込んでいるようであった。
 結局この青年は何者なのだろう。脅され一方的に質問されるばかりであったが、つくづく謎ばかりな人物である。
 分かったのはタクトと同じ世界の住人であったということだけ。今までどんな生活を送ってきたのか。本気で魔王を倒そうとしているのか。そして、何故くさなぎの剣を持っているのか。
 知りたい。自分と同じ境遇であった彼のことを知りたいと、タクトは強く思った。

「……聞いてもいいですか?」
「ん? 何をだ?」
「…………今まであんたが何をしてきたのとか……どうして魔王を倒そうとしているのとか……」

 タクトの言葉に、青年は怪訝そうに眉を顰めた。

「ちょっと待て、何でそれを知っている? 俺とは初対面だろう?」
「半年ほど前にあんたが話してるのを見たことがあります。そこ、俺が働かせて貰ってる店だったんで……。神官っぽい奴が言った言葉が印象的だったので覚えてたんです」

 自分でも当時のことを思い出したのか、片手で目を覆うようにしながら青年は空を仰ぎ見る。最初脅されてた時と比べたら、その姿が随分と人間らしい。
 と、青年は口元に手を当て、ジッとタクトを見ながら何やらつぶやき始める。

「…………ふむ、最初のあれは随分考え無しだったが、意外と頭は回るのか? 行動的には慎重と言うより臆病っつった方がいいのか……どうするにせよこのままにしておくのは…………」

 思案するように暫くそうした後、青年はコクリと頷いた。

「よし、じゃあちょっと付いてこい」
「へ? ち、ちょっと!」

 タクトの返事も聞かず、青年は踵を返して歩き始める。一瞬呆気にとられながらも、タクトは慌ててその後を追った。
 ダーマの表路地の人混みを、スルスルと抜けていく青年の後ろを、必死にタクトは追いかける。これが冒険をしてきた者とそうでない者の差か、青年は遅れるタクトを待つような素振りすら見受けられた。
 青年はそのまま門を通過し郊外へと出る。タクトからすれば、実に一年ぶりの都市外だ。外壁近くはまだ魔物が寄りつくことはないが、襲われるかもしれないという恐怖が押し寄せる。
 一体どこへ向かっているのか。言いしれぬ不安が胸をよぎるが、今更逃げ出すこともできない。
 心臓の音がやけに大きい。ゴクリと自分の唾を飲み込む音が、焦燥を掻き立てる。

 やがて、ダーマの外壁からほんの少し外れた場所に、テントが張られたキャンプベースが現れた。ダーマ周辺は森で覆われているので、探そうと思わなければそう見つからない場所である。
 Lv20ともなれば、その辺りの宿をとる金に困ることなどそうそう無いであろうに、何故このような所で生活しているのか。


 その答えは、タクトが問うまでもなく判明した。


「クウウー」
「へ?」

 ガサリとタクトの右手から鳴き声を上げ現れたのは、タクトより大きい龍―――スカイドラゴンであった。
 タクトがこの世界に来てから、生きている魔物と接近したことなどない。ましてや、目と鼻の距離に自分を殺せる存在がいるなどと、脳が受け付けるまで時間が掛かるのも仕方なかった。

「あ、ああ……」

 状況を理解したとき、刺激をすれば食われるかとも考え、声を上げることもできず尻餅をつく。スカイドラゴンはそんなタクトを見つめ、品定めをしているようだった。
 真っ白になった頭に、この場に連れてきた青年のことが浮かぶ。そうだ。彼ならばこの魔物とてどうにかできる筈である。
 祈るように青年の方を見ると、青年は口元に薄い笑みを浮かべて腕を組んでいた。何をしているのか。魔物がこれ程近くにいるというのに。
 タクトが絶望感を覚えたとき、それを打ち破ったのは脳天気に響いた声だった。

「ハル様ー! おっかえりなさいー!!」

 ポーンと、スカイドラゴンの背から何か青い物体が飛び出す。一直線に自身に向かってくるそれを、青年は慌てる様子もなく片手で受け止めた。

「ん、ただいま」

 青年が受け止めたのは、人の頭ほどの青いゼリー体……スライムだ。この大陸に存在しない魔物なので、有名とはいえタクトが実物を見たのは初めてである。

「もう帰って来たの? 転職してくるって言ってたのに随分早いじゃない……何か変なの連れてきてるし」

 また新たに聞こえてきた声は、先ほどのスライムが飛び出してきたドラゴンの背から。見れば、スカイドラゴンの頭にちょこんともう一匹スライムが乗っていた。

「神殿にたどり着く前に厄介事に出くわしたからな。まぁ、また後で行ってくるさ。お前らの飯も買ってこないといかんし」
「クウ! クウ!」
「……分かってるから落ち着け。途中の露天でリンゴ安売りしてるの見たから、多めに買ってきてやる」
「クウウー♪」
「うわちょっとクウ! いくら嬉しくても私が上にいるの忘れないでよ!!」
「ハル様ハル様! 僕の! 僕のは!?」

 やいのやいのと騒ぐ魔物達と青年に、タクトは激しく混乱する。訳が分からないのも、もはや最高潮だ。スライムが喋ってることも、魔物達が青年に懐いているのも、疑問ばかりが増えてどうしようもない。魔物使いなんてドラクエ3の世界に存在しない筈だ。
 青年は魔物達に向け呆れたように首を振り肩を竦める。そして、思い出したかのようにタクトの方へ向いた。

「さて、まず最初の質問から答えてやろう。俺がくさなぎの剣を持っている理由だったな。まぁ、単純に譲り受けただけなんだが」
「ゆ、譲り受けた?」

 鸚鵡返しに尋ねるタクトに、青年は一つ頷く。

「俺が気付いた場所はジパングだったからな。そこを出るときにヒミコが餞別として譲ってくれた」
「…………は? え? ヒミコが? 何で? ヤマタノオロチだろあいつって?」

 一瞬何を言われたのか分からず、理解して思わず問うてしまう。タクトの言葉を聞いて、スカイドラゴンとその上のスライムが緊張に体を強ばらせた。

「………………ハル様? こいつに言ったの? いや、そんな訳ないわね……。こいつ、迂闊すぎるもの」
「クウゥ…………」

 今にも飛びかかって来そうな雰囲気を醸し出す魔物達。遅まきながら口を手で覆うも、出した言葉は覆らない。

「落ち着け。こいつがヒミコの事を知ってる理由は分かってる。少しばかり事情があって言えんが、今のところ問題はない」

 青年の言葉に、魔物達は一応戦闘態勢を解除した。未だタクトのことをジッと見てはいるが、青年の意思に反して動くつもりはないのだろう。
 そして今度は、先ほど飛び出してきて、今青年の肩に乗っているスライムが、青年の顔を覗き込む。

「ねぇねぇハル様。この人のことどうするの? 僕たちと一緒?」
「そうだな……放置する気にはさすがになれんし、それが一番いいんだが……」
「お、俺をどうするつもりなんだよ?」

 まるで生きた心地がしない中、タクトは青年に問いかける。そして青年は、またあの底意地の悪そうな笑みを口元に浮かべた。

「……お前、俺の配下にならないか?」
「……………………はぁ? 配下?」

 まるで、王であるかのような物言いに、タクトの口から疑問符がはき出される。それに気分を悪くした様子もなく、青年はコクコクと軽く頷いた。

「ま、いきなり言われても訳分からんだろうから、とりあえずお前が知りたかったこと、俺が今まで何をしてきたのか、俺の最終的な目的を教えてやろう」

 言って、青年は話し始める。事の起こりを。青年が今までどうやって過ごし、何を思って旅をしているのかを。
 全て聞き終えたとき、タクトは驚愕という一言では済まないほどの衝撃を受けていた。

「ま、魔王になるだって? それも、一目惚れした人間でもない相手の為に? 本気かよ!?」
「ああ、どこまでも本気で、その為なら命だって簡単にチップにできるさ」

 タクトの絶叫に近い声に、青年は全く揺るぐことなく返してくる。何故そこまで自信満々な笑みを浮かべられるのか。一度達したのならば、タクトに言われるまでもなく自分の限界Lvの低さを知っていただろうに、尚も諦めずに魔王を倒そうというのか。魔物と共存するなどと不可能にしか思えないことを、どうして実現できると思うのか。

「今まで何度も聞かれたし、これからも聞かれるだろうが、俺はそのたびに同じ言葉を返すだろうさ。生きている限り、俺は魔王になってみせると」

 どれだけ困難な道か分かっている筈だ。それでも、諦めなど心の端にも浮かべていないようだ。
 自信ではないのだと、タクトは理解した。青年のこれは、自己ではなく、先に続く道を信じ続ける強い意志の上に紡がれる言葉なのだろう。

「…………それを俺に聞かせたってことは、俺が選べる選択肢は……」
「想像に任せる。ま、あんまり面白くない結果になるかもしれないけどな」
「…………やっぱ強制じゃねーか」

 吐き捨てるように言うタクトに、青年はやはり肩を竦めるだけで返してくる。

「そう思うもお前の勝手だな。で、どうする? お前の特技は有用だ。少々迂闊ではあるが、お前自身だってそう悪くない。……いや、はっきり言った方がいいか。単純に、お前がいれば有り難い」
「―――――――っ!」

 素直に告白するなら、タクトはこの言葉に喜びを感じてしまった。必要だと、はっきり言われたことなど生まれてこの方一度もない。
 魔物達のことだって聞いたが、彼らもただ成り行き上青年について行ってるだけではないのだろう。他者を引きつける魅力を、この青年は確かに持っている。
 心が揺らいだ。しかし、それを認めることを無意識に避けて、どのみち従うより他ないのだからと、タクトは自分に言い訳しながら青年に答えた。


「…………分かった。だけど、危なくなったら俺は逃げるからな?」
「構わんさ。誰だって死んだら終わりだ。好きにすればいい。俺はハルだ。よろしく頼む」
「…………タクトだ。俺は、よろしくしてくれなくていい」






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