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No.29793の一覧
[0] そして魔王様へ【DQ3】(5/8新話投稿)[NIY](2014/05/08 23:40)
[1] 新米魔王誕生[NIY](2014/03/05 22:16)
[2] 新米魔王研修中[NIY](2014/04/25 20:06)
[3] 続・新米魔王研修中[NIY](2012/09/28 10:35)
[4] 新米魔王転職中[NIY](2014/03/05 22:30)
[5] 新米魔王初配下[NIY](2014/03/05 22:41)
[6] 新米魔王船旅中[NIY](2012/10/14 18:38)
[7] 新米魔王偵察中[NIY](2012/01/12 19:57)
[8] 新米魔王出立中[NIY](2012/01/12 19:57)
[9] 駆け出し魔王誘拐中[NIY](2014/03/05 22:52)
[10] 駆け出し魔王賭博中[NIY](2014/03/19 20:18)
[11] 駆け出し魔王勝負中[NIY](2014/03/05 22:59)
[12] 駆け出し魔王買い物中[NIY](2014/03/05 23:20)
[13] 駆け出し魔王会議中[NIY](2014/03/06 00:13)
[14] 駆け出し魔王我慢中[NIY](2014/03/19 20:17)
[15] 駆け出し魔王演説中[NIY](2014/04/25 20:04)
[16] 駆け出し魔王準備中[NIY](2014/05/08 23:39)
[17] 記録[NIY](2014/05/08 23:37)
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[29793] 駆け出し魔王会議中
Name: NIY◆f1114a98 ID:3c830b8f 前を表示する / 次を表示する
Date: 2014/03/06 00:13
二章五話 駆け出し魔王会議中


「なあリン。お前達ってどうやって他人を見分けてるんだ?」
「どうやってって……?」

 タクトと出会ってすぐ頃の話だ。ハルが唐突にリンにそんなことを聞いてきた。

「いや、スライム同士ならいいんだが。他の種族ってのはやっぱ普通見分けつかないもんじゃないかと思ってな。ジパングではイヨと俺の性別が違うから分かったのかとも思ってたが、タクトと俺を間違えたこと一度もないだろ? 体型的にもそこまで差はないし、俺が鎧を外してあいつとそう変わらない恰好の時も間違えなかった。顔で判別できるのか?」
「あーうん。性別は姿でも声でもだいたい分かるし、ハル様ぐらい一緒にいれば顔でも分かるようになるけど、確かにタクトはまだ他の人間と見分けは付かないわね。ただ、私たちは魔力の個性が何となく分かるから……」
「魔力の個性?」

 初めて聞いたらしい単語に、ハルが首を傾げる。ハルとて魔法使いとしては人間でもかなりの実力者だ。魔力を認識する事ぐらいわけはないし、感覚的に魔力を捉えることだってできる。それでも、個々の魔力に個性など感じた事はないのだろう。

「そうそう。どういうものかって言われたらちょっと困るんだけど、生き物って基本的に魔力に個性があって、常に体の外に魔力を放出しているの。今のハル様でも分からないぐらいすっごい少ないけど。で、私たちはそれを感じる事で個人を見分けることができるのよ。色というか匂いというか……感覚的なものだから口には出しにくいけど。ボウ辺りに言わせたら、ハル様はホワホワシャキッ!って感じで、タクトはシュワシュワって感じとか、もの凄い擬音語で説明するかしら? そんな感じで、姿と魔力を併せて見分けているの」

 なるほどなと、リンにうなずきつつ、ボウがそう言うところを想像したのか、ハルが苦笑する。

「ふむ……スライム族っていうより、魂型の生き物と器型の生き物の差かもしれんな。存在自体の魔力に対する依存率が高いから、その認識の深さが違うのか。レムオルとか消え去り草みたいな姿を消す方法が魔物に通用しないってのも、姿を認識しているか魔力を認識しているかということかね」
「姿を消すことなんてできるの?」
「実際に見た事はないけどな。そういう魔法なり道具なりってのはある筈だぞ? レムオルは俺じゃ使えんが、消え去り草はランシール辺りに生えてるらしい」

 ハルは物知りである。同郷らしいタクトもあれで不思議と物知りなので、元よりそういう国柄なのかもしれない。多くの知識がある一方で、どこへ行くのも初めてだというような世間知らずな部分が非常にアンバランスであるが。霊樹の下で暮らしている者のように閉鎖的な場所だったのだろうか。
 こういった話を聞くのがリンは好きだ。スライムという種族は好奇心が強いのか、ボウが行動で示すような動的好奇心が強ければ、リンは知的好奇心が強い。新しいことを知る度に、わくわくと心が躍っているのは否定出来ない。

「そうだな……リンは魔力を認識出来ているんだよな?」
「もちろん。魔物や魔族だったら皆そうだと思うわよ? それがどうかしたの?」
「いや、認識出来てるってことなら、操作もできるんじゃないかって思ってな」

 ハルの言葉に、リンは不思議そうに体を震わす。

「魔法が使えるんじゃないかってこと? どうかしら……というかどうやって魔法って使っているの?」
「どうやって……か。ま、魔法使いなら放・凝・入・発の四動作だって答えるんだが、俺の見解を交えてもう少し詳しくやってみるか」

 魔法の動作の基本は放出、凝固、入式、発動の四動作であることは魔法を使う者にとっては常識である。
 そもそも、ハルは転職して初めて魔力の存在を知覚したとのことが、生き物は生まれた時点で誰もが魔力を持っているらしい。これはこの世界において、魂と魔力が密接な関係にあることから間違いないだろう。もっとも、その力の大小は人によって違うため、魔力を極々僅かしか持っていない者は知覚することすら出来ない。タクト曰く魔法に関しては固有スキルを持っていたハルですら、魔法使いになって初めて知覚できたほどだ。
 魔法使いに転職すれば誰でも魔力は増加し、最低限ながらでもそれを扱うことができるが、魔力を扱うことと魔法が使えることは決して同一ではない。
 ハルは、魔法とは方程式のようなものだと言う。
 放出とは魔力という変動数値を出すことであり、凝固とはその数値を固定化すること。そして入式により魔力を変化させ、発動により結果を生み出す。
 魔法とはそれぞれ式が決まっており、例えばメラが足し算であるならヒャドは引き算、メラミはかけ算と言ったように与えられた数値を式によって変化させる。
 もちろん、ハルの得意とする圧縮魔法のように魔力密度を上げて効果を上昇させることもできたりするので、そこまで単純なものではないが。

「魔法が使えるかどうかは、要するに式を知っているかどうかってことだな。俺はヒャダルコまでの魔法しか使えないが、式さえ分かればマヒャドやイオナズンでも使えると思う。レベルを上げることでしか式が手に入らないから、今のところどう足掻いても使えんがな」
「それなら、私だって式が分からないから魔法使えないじゃない」

 ハルの言葉を早とちりして、リンは口を窄める。そんなリンに、ハルは小さく笑みながら首を振った。

「さすがに式を教えるってのは、やり方が分からん以上無理だがな。リン、魔法を使えるようになるということと、魔力を使えるようになるってのは別問題だぞ?」
「? どういうこと?」
「この世界には空気が存在するだろう?」
「ええ。空気が無い所じゃ私達は生きられないし、当たり前じゃないそんなの」

 そんな当然のことを聞いてどうするのかと、リンは体を傾ける。

「そうだな。俺たちは空気が無ければ生きられない。当然として、目の前に空気が存在することは知っている。だが、それを操作することはできるか? 道具無しで、ある程度自由度があるとして」
「……無理ね。特に私なんてハル様みたいに手とか無いもの。ボウみたいにグニグニ体を動かせたら別でしょうけど、精々空気を吸って吐くぐらいしかできないわ」
「一方で、同じく形が無い水はどうだ? お前には手が無いから人間みたいなことはできんかもしれんが、触れられるということはそれだけ干渉する幅が大きいということだろう?」

 リンが水を使うとして、口に含む以外にも体を上手く使って飛ばすこともできるし、空気に比べれば干渉できる幅が広い。

「それを俺は認識力の差だと考えている。認識の深さこそ、そのものにどれだけ干渉できるかの幅に繋がると。認識できるのならば、干渉もまた可能なんだ。リン、お前は技術こそ俺に及ばなくとも、魔物であるが故に魔力に対する認識は俺より深い。なら、魔力に干渉して操作することもできる筈だ。魔法を使うことができなくてもな」

 言いながら、ハルは手を差し出してそこに魔力の玉を作り出す。ハルによって精緻に調えられた魔力が綺麗な球体を作っていることがリンには分かる。

「…………やってみたらできるかしら? それができたら何か変わるかな?」
「さあな。何もできないかもしれないし、あるいは俺ができないことをできるようになるかもしれない。だが、こういうこともできるんだと思えば、何かしら得られる物はあると思うぞ」
「……うん。ちょっと興味出てきたかも。ハル様、魔力の操作ってどうするの?」
「ん、そうだな―――――――」




***




 目を開ける。見えたのは、下り始めたとはっきり分かる太陽だ。

「ふあ…………んむ……夢、かぁ……」

 オアシスの木陰は意外と涼しい。クウとボウが遊びに行って、一人でのんびりしている内に眠ってしまったようだ。
 少し前の夢。ハルは時折ああいう風にリンに色々教えてくれる。旅の間でも、今のように忙しくなければ聞いた事には必ず答えてくれる。リンにとってはそれはとても楽しい時間であり、ハルに付いてきて一番よかったと思える部分だ。

「うん……まだ二人とも帰ってきてないし……ハル様達もまだだし……魔力操作の練習でも……ふあぁ…………」

 ハルに教わった魔力操作の訓練でもしようと思ったが、欠伸にその思いが阻害された。
 せかせかした性格かと思われがちのリンだが、意外にも好きな事はこうして心地よい場所を探してうたた寝をすることである。ボウなどがたびたび問題行動を起こすので、それをどうにかしなければと動く事が多いが、アリアハンにいたころも一人で何事もなければよく霊樹の影でうとうとと微睡んでいた。
 やりたいことはあるが、この睡魔の気持ちよさには抗いがたい。もう一眠りすれば頭も働いてくれるかしらと、リンは今一度目を閉じた。
 あるいは、ここで睡魔に抵抗していれば結果は違ったかもしれない。

「――――ッ!! ピキャッ!?」

 気が付いた時は、もう反応するにも遅すぎる状態であった。頭の上に何かを振り下ろされている。睡魔に囚われていた体は酷く重く、送られた命令に付いてこれない。
 ガバリとリンの体が何かに包まれる。すくい上げられるように体が浮き、素早く口が閉ざされた。

 ――――やられた!

 今度こそはっきりと、頭が覚醒する。体を包み込むのは、麻のような素材で作られた袋か。体を動かせるような大きさでなく、袋の口も絞られ暴れることすら許されない。

「へ、へへへ……やった! スライム生け捕ってやったぜ!」
「んーーー!! んーーーー!」

 聞こえたのは若い男の声。どこか淀んだ、卑しさを覚えるような声である。
 アリアハンにいたころではあり得ないミスだ。完全に安全と言えぬ場所で、ああも気を抜いてしまうとは。
 その原因は言うまでもない。ハルの所為である。より正確に言うなら、『ハルに頼りすぎていた自分』の所為だ。
 守ってくれと、リンが最初に言ったようにハルは必要な部分でずっと守ってくれていた。
 周りが危険な場所で野宿する時は、常にハルが警戒してくれていた。たとえうとうとしていたとしても、ハルの傍ならば安心だった。クウやボウの訓練でごうけつぐまやキラーエイプなどと戦った時も、本当に危ない時は必ず助けてくれた。
 ハルと旅をし始めて、まだ半年も経っていない。しかし、『慣れてしまう』には充分な時間だった。外の世界が危険で溢れているという認識が、考えている以上に薄くなってしまうほど。

(なんて馬鹿……ハル様が近くにいないなら、アリアハンよりも遙かに危険な場所だっていうのに!)

 分かっていたつもりだった。分かっていたつもりでしかなかった。
 その結果がこれだ。情けなくて仕方ない。

(…………っ! しっかりしなさい私! 自己嫌悪なんてしてる場合じゃない! そんなことで恥の上塗りをするつもり?)

 心の中でかぶりを振って、リンは気持を入れ替える。
 冷静になり、状況を見極めるのだ。生け捕りにしたことを喜んでいたということは、今すぐに殺されるようなことはないだろう。
 ならばどこへ連れて行かれるのか。まさかペットにする為に捕まえたわけではあるまい。若いとは言っても決して子供のような声でなく、それなりの年を重ねた者が利もなく魔物を生け捕りになどするものか。
 魔物に恨みのあるものならば直ぐに殺される。弱い者をなぶり殺しにするような、嗜虐思想を持ち合わせている訳でないのならだが。
 人間のもっとも欲しがる利とは何か。ハルから教わったところによると、人間には金が必要であるらしい。いや、必要以上に欲しがるとも言っていたか。
 スライムを捕まえて金にする。そんなことできるものなのか。ハルはマッドオックスなどを殺し、タクトが食品として処理をした物を売って金を得ていたらしいが、リンはスライムが人間に食べられたなどとは聞いた事がない。

(情報が少なすぎるわね……ハル様なら何か思いつくんでしょうけど……)

 とりあえず自分がどこかへ運ばれていることは分かるのだが、何も見えず、聞こえるのは人のざわめきだけ。おそらく町の中へ入ったのだということしか分からない。
 いやまて、ハルはこの町へ何をしに来ていたか。この町では、魔物が捕まりその殺し合いを見せ物にされている場所がある。その魔物達を救出して味方に付けようとしていた筈だ。自分と同じ、霊樹の下で暮らしていたと思われる者達を。

(なら……私も?)

 身動きが取れないままに、リンは顔を顰める。これが当たっているのなら、リンは何者かと戦わなければならない。普通のスライムと比べれば、リンは十分に強いと言える実力を持っているが、種族的に弱小であることは間違いない。ただ一人で戦う事になった時、生き残る確率はいかほどか。

(逃げなきゃ……)

 このままでは死ぬ。逃げなければ。逃げなくてはいけない。
 恐慌に陥りかける心を必死に押さえる。闇雲に動いたところで逃げられる訳がない。警戒されないように、状況をよく見て隙をみつけるのだ。

「ほら! スライム生きたまま捕まえてきたんだ! 生きた魔物なら何でも買ってくれるんだろう?」

 と、リンを捕まえた男は目的地に着いたのか、必死さを滲ませてそう言った。グイッと、リンの入った袋が前へと差し出される。
 どうでもいいが、いくらスライムとはいえ女性が入っているのだから丁寧に扱えないのか。まぁ人間からしたらスライムの性別など分かるわけない上、向こうからしたら権利も何もあったものじゃないので仕方ないのだが。リンがそう内心うんざりと思っていると、不意に袋の口が解き放たれた。

「ピキ? ってうわ!」

 口から入ってきた手に抵抗する間もなく捕まえられ、上へと引っ張られる。

「ふむ……確かにスライムだな。こいつなら100ってとこか」
「へ? ちょ、ちょっと待ってくれよ。スライムなんてこの大陸にいないだろ? 珍しいんだからもっと高くてもいいじゃないか」
「あ? 何言ってんだてめえ。スライムごとき捕まえてきた程度でもっとよこせだあ?」
「いや……その……」

 がたいのいい男に凄まれて、リンをここに連れてきたらしい男はしどろもどろになる。どう見ても駆け出しの冒険者だ。さえない風貌に、装備は丈夫そうな服と腰につるしたナイフらしきものだけ。これでは凄んでいる男に勝てるわけがない。
 こんなのに捕まったのかと思うと再び情けなさでいっぱいになるが、リンは気を取り直して状況を把握する。
 今リンがいる場所は、それほど大きくはない一室だ。捕まった当時の時間からそれほど長い時間は経っておらず、まだ太陽は見えるはずなのだが、部屋には外からの明かりが全く感じられない。それほど人間の建物に関して詳しい訳ではないが、どこか洞窟の中の雰囲気を感じさせるこの場所は、ひょっとしたら地上にあるものではないのかもしれない。
 部屋の中にある家具らしい家具は机一つのみで、後は壁にいくつか袋が吊ってある程度。出入り口はリンから見て右手側に一つあるだけで、部屋の中には男二人以外の姿は認められない。

(…………とりあえず、逃げるならあそこだけ。今私を掴んでる男の力には対抗できないけれど……何か少しきっかけがあれば……)

 焦っていたのは否めない。空回りする思考の中で、リンはそれでも脱出するための道筋を考える。
 そして、その瞬間はリンが思っていたよりもすぐに訪れた。

「…………ずいぶん大人しいなこいつ。寝てんのか?」

 萎縮した冒険者を尻目に、男は動かないリンを疑問に思ったか、グイッと自分の顔の前へとリンを引き寄せた。とっさに、リンは思いっきり息を吸う。

「わああああああああああああああっ!!!!!」
「うおっ!?」

 突如叫び声を上げたリンに驚き、男の手の力が緩む。

(――――今!!)

 グッと体を振るようにして、男の手から離脱する。跳んだ先は男の頭の上だ。

「なぁ――ぐべっ!?」

 その動きを目で追ってきたがために、男は思い切り勢いをつけようとしたリンに強く踏みつけられてしまう。スライムとは思えない力に、男は体勢を崩したまま仰向けに倒れた。冒険者は、突然の出来事に驚き戸惑っている。
 リンはそんな後ろの状況を確認することもなく、唯一の出入り口に向けて走り出す。しかし、部屋を出る直前に左右に通路があることに気がついた。

「これどっち……ピキャ!?」
「うわっ!?」

 タイミングの悪いことに、部屋の外にはまた一人男がいた。リンの叫び声を聞き、何事かと見に来たのだろうか。

「捕まえろ!!」
「お、おお!!」

 部屋の中で倒れた体勢のまま発せられた声に、新たに現れた男が反応する。

「っ! 誰がそう簡単に!!」
「うおっ!?」

 男が伸ばしてきた手を躱して、リンは当てずっぽうに走り出す。とりあえず逃げればいいのだ。男達の視界から逃れられれば、隠れることもできるだろう。


 が、リンのその考えが達成されることはなかった。


「【ラリホー】!」
「なっ……う……そ…………」

 それは対象に眠りを与える呪文。逃げることに必死だったリンは、それに抗うことはできず、猛烈な睡魔に意識を落とされた。




***




 重たい睡魔の中、リンは自分の周りに誰かの気配があることを感じる。
 一つは大きい気配。これはハルだろう。
 一つは何かが浮いているような気配。これはクウか。
 一つは自分とさほど変わらぬ気配。おそらくはボウ。
 二人寄れば騒がしいボウとクウが、自分が寝ていられるほど静かだとは珍しいこともあったものだ。ハルも近くにいることであるし、安心して微睡むことができる。
 しかし何故だろう。三人の気配をずいぶん近くに感じる。まるで、自分をのぞき込んでいるような…………。
 疑問のままに、うっすらと目を開ける。ぼんやりとした視覚の中に、やはり三つの陰があった。だが、傍らに見えるスライムらしき陰はいいとして、後二つに強烈な違和感を感じる。
 ハルの姿はずいぶん無機質のように見えた。自分の知る限り、ハルが好んで身につける防具は動きやすいものであり、全身を覆うようなものは持っていない筈だ。しかしぼやけた視界に見えるのは、どう見ても金属的な塊である。
 クウの姿はずいぶん小さく見えた。出会ったときから既に半年以上。すくすくと育ったクウはもうハルよりも大きく、少しの間ならハルやタクトを背に乗せて跳ぶことすらできる。だが目の前に見える陰は小さく、どう見てもハル達を乗せることは不可能であり、さらには蔦のような物が生えている。
 何かがおかしい。リンは目を瞬かせて視界をはっきりさせようと―――

「あ! 起きたっすねリンの姐さん!!」
「―――――――へ?」

 あまりにもあり得ない声に、リンは耳を疑った。
 聞こえた声を思わず否定してしまうほど、聞こえる筈のない声である。その声の持ち主は、八年近く前ににリン達の前から去って行った筈だ。ある朝突然「俺……外の世界を見てくるっす! この情熱は誰にも止められないっす!!」などとぬかしながら飛び出していったあの姿を未だに覚えている。
 持てるだけ霊樹の雫は持って行っていたのだが、どれだけ節約しても8年も保たすことは不可能で、てっきり呪われたか死んでいるだろうと思っていたスライム。それでも聞こえてきたのは確かに彼の声であった。

「サス……ケ……?」
「うっす! お久しぶりっす!」

 勢いよく言うその姿に、確かに見覚えがある。(そもそもスライムは10年やそこらで姿が劇的に変わることなどない)
 驚きのあまり目を見開いて、周りもろくに見ることもなく、リンは体を起こした。

「ちょ、ちょっとあんた! なんでいるのよ!? ていうかなんで生きてるのよ!? 何? 私死んだの!?」
「お、落ち着いてくださいよ姐さん。生きてるっす。自分、生きてますから」
「なんで!?」
「いやなんでって言われても……生きてちゃだめっすか俺…………」
「だってあんた8年よ!? 生きてるわけが「すまないが、少しいいか?」何よ!?」

 言葉を遮ってきた声に、リンはサスケに詰め寄っていた勢いのままに振り向く。
 と、そこで初めてリンは先ほどの違和感の正体を知る。ハルだと思った無機質な塊はさまよう鎧であり、クウだと思った飛行物はホイミスライムであった。

「え……なに……って私……!」

 思い出す。自分が捕まった事実を。脱出に失敗し、ラリホーで眠らされたことを。
 リンがいるのは外ではなく、広い牢屋の中。周りはすべて壁に囲まれ、窓などはなく、大きな鉄の扉が一つあるのみ。その中に、大勢の魔物達がいた。

「ここは……」
「…………少し落ち着いてくれただろうか? ここは、イシスの街にある格闘場の地下。格闘場で戦わされる魔物達が捕らえられている牢屋だ」
「…………ええ、思い出したわ……眠らされたとこまで全部……!」

 さまよう鎧の言葉に、リンは顔を顰めて答える。その表情が語るのは、自分を捕らえた人間に対する激しい怒りと、再びあっさり捕まってしまった自分に対する情けなさだった。

「………………災難だったな」
「………………寝ぼけて捕まった自分の責任だけどね……。あなた達は?」
「ああすまない。私はフターミ。こちらのホイミスライムはホイミンという」
「はじめまして」

 ぺこりと、紹介されたホイミンがお辞儀をする。

「どこか痛いところとかありますか? 怪我はしてないみたいでしたけど、一応ホイミは掛けておきましたが……」
「大丈夫よ。もともと怪我はしてなかったから……」
「そうですか。よかったです」

 怪我はないと言われ、ホイミスライムはパアッと明るい笑みを浮かべる。ずいぶんお人好しらしい。

「それで、もう少し状況を教えて欲しいんだけど……とりあえずサスケ。あんたはなんでこんなところにいんのよ? というかよく今まで生きていたわね……」
「へ? 俺っすか? まあほら、俺隠れるの得意っすから」
「………………あぁ、そういえばそうだったわね」

 サスケは、昔から隠れるのが非常に得意だった。かくれんぼなどでは鬼が降参するまで絶対見つからないので、サスケと遊ぶときは隠れて有利になるものはほとんど除外されていたほどである。
 それで危険な旅を順風満帆にこなしてきたが、やはり問題になったのは霊樹の雫。町中に隠れることでかなり節約していたらしいのだが、およそ二年で底をつき、フターミ達の霊樹を見つけなければ相当危なかったらしい。

「それでしばらくご厄介になったのはいいんすけど、俺が来たときにはもう霊樹もほとんどだめな状態だったんすよ」
「……だめって?」
「……………………私たちの霊樹は、枯れてしまったのだ」

 重く、フターミが口を開く。

「あるときから急に霊樹の葉が枯れ始めた。気づいた時にはかなり状態は悪く、結局何もできないままに…………」
「…………そう」

 アリアハンの霊樹の状態は、アキに言われるまでリン達は誰も気付かなかった。フターミ達の場合、さらに深刻だったのだろう。

「それで、呪いの影響を受けないために街のほうへ? 話し合いもなく、抵抗もしなかったの?」
「…………抵抗したくとも、できなかったのだ。戦えない者達が大勢いた。魔物だけで抵抗しようにも、仲間だった人間には子供や老人が多く、彼らに被害を出すわけには……」
「本当に人間も一緒に暮らしてたのね…………」

 ハルの予想はやはり殆ど当たっていたらしい。今更ながらに、その勘の良さと思考能力の深さを実感する。

「………………君はどうしてそこまで私たちの事情を把握してるのだ? 確信していなかったところを見ると、私たちの仲間に出会った訳でもないようだが……」

 最初からフターミ達の状況を分かったかのように発言するリンに対して、当然のように出てくる疑問。しかし、リンは何のことは無いとばかりに体を振って、フターミに答える。

「予測した人がいたのよ。たった少しの噂話からあなた達の居場所と状況を予測した人が。あなた達を助けて仲間になって貰うために」
「ぼく達を助けて……?」

 ホイミンが信じられないとばかりに声を出す。無理もないことだ。リンが同じ立場であったとしたら、同様の反応を示すであろうから。だが、さらにリンは彼らが耳を疑うであろう言葉を続ける。

「そう。それで三日前にここに着いたのだけど、今日はあなた達の仲間……人間の方と会えそうだって言って街へ行ったから、もう一緒にいるんじゃないかしら?」
「…………待ってくれ。街へ行っただと……? 君の言うその人物とは……」
「人間よ」

 即答したリンの言葉に、フターミ達は絶句する。

「あり得ないと思うかもしれないけれど、本当の話よ。その人……ハル様は人間も含めたあなた達全員を助けて、自分の味方になって貰おうと考えてこの国へやってきたの」
「ていうかハル『様』? リンの姐さんとその人ってどんな関係なんすか?」

 口を挟むのはサスケ。リンのことをよく知る彼からすれば、その質問が出るのは当然と言えた。しかし、聞かれたリンは答えに詰まる。

「どんなって……」

 ハルとリンは主従の儀を交わした。その場の誓いだけならばハルはリンの主である。
 だが、リンがハルに付いて行っているのは長老がそう命じたからであるし、ハルのことを『様』づけで呼んでいるのは最初の出会いの流れから何となくそうなっているからであって、明確に主だと心から認めた瞬間はなかった。
 ハルからリンに仲間になってくれと頼まれたことも無い。むしろ、リンがハルの傍にいるのはハルのためでなく、自分たちスライム族のためである。ハルの目的からすれば、リン達のことなど余計なだけで、どれだけ数が揃ったところで弱いスライム族では幾ばくの助けにもならない。
 それなのに、ハルはリンのことを守ってくれている。その存在を疎ましく思うような素振りも無く。

 リンにとって、ハルとはどんな存在なのだろうか。

 ハルにとって、リンとはどんな存在なのだろうか。


「私とハル様は―――」
「あっ! リンみーーっけ!」

 と、不意に牢獄の中に響く声。このような状況下においても変わらぬ脳天気な声。見れば、扉に付いた格子から中を覗いているボウの姿があった。

「やっと見つけたよー。そんなとこでなにやってんの?」
「何やってるって……それはこっちの台詞よ! あんたこそ、何でそこにいるのよ?」
「え? 僕はリンを探しに来たんだけど……ハル様がこの中のどこかにいるかもしれないって言ったから」
「ハル様が? ハル様もいるの?」
「外にねー。とりあえずリンがいるかどうかを確認してこいって」

 言いつつ、ボウはグニッと体をゆがめて細い格子の隙間を抜けてくる。それを見てフターミ達は驚愕するが、リンにとってはボウの非常識具合などいまさらだ。普通のスライムとは比べものにならないほど自由自在に体の形を変えられるボウならば、リンやサスケが通れない格子の隙間を通ることなど造作ない。

「よっと。リン、大丈夫だった? ってあれ? サスケ?」
「うっす! 久しぶりっすボウの兄さん。やっぱ姐さんと一緒にいたんすね?」
「そだよー。サスケも元気そうだねー」

 普通に考えたら生きて会えることが奇跡に近い再会を果たしているというのに、二人は実にあっさりとしたものだった。もはや突っ込むつもりにもなれず、リンは深くため息を吐く。
 フターミはあまりにも急な出来事に驚き戸惑っていたが、ボウとサスケの平然としたやりとりにようやく冷静さを取り戻してボウに話しかけた。

「………………せっかくの再会のところを申し訳ないが、彼女を助けに来られたのか?」
「ん? んーー……そうかな? リンをここから連れ出せとは言われてないけど」
「そうなんですか? じゃあ何のために……」

 ホイミンは仲間が危険な目に遭っているというのに、すぐに助けようとしないことに不信感が籠もった声をだした。その傍らでリンは、ハルが何を考えているのかを思考する。
 今まできちんとリンを守るという約束を果たしてくれていたハルが、ここで簡単に自分を見捨てるとはリンには考えられなかった。現にこうしてボウを潜入させて、リンの居場所を確認している。

「…………ボウ、ハル様はあなたに何て言ったの?」
「えーっと……難しく考えなくていいから、どこに皆がいるのか探してこいって。で、リンがいたらそれも言えって」
「それだけ?」
「うん。そだよ?」
「そう……」

 ハルは決して無理なことは要求しない。ボウは物事を深く考えることは苦手であるし、建物の内部構造を覚えてこいと言われても難しいだろう。一方で、人間から見つからないように中へ潜入し、こうしてリンの元へと辿り着けるということを信じてボウを送り出した筈だ。

「心配……してくれたのかな?」
「……何故そう思う?」
「私に何も伝言もなく、建物の情報確認の為だけにボウをここへ来させたのは、ハル様らしくないもの。全部分かるほど長く一緒にいた訳じゃ無いけど、少なくとも私たちの命に危険があるときはすごく慎重だわ。いくらボウがここにうまく潜れたとしても、何度も潜入させるのはその分危険度が上がる。なら、私と建物の情報確認だけじゃなくて、最低でも何か伝言ぐらいは持ってくる筈よ。それらが全くないってことは、私の安否を気遣って慌ててたからだと思ったの」

 フターミ達に説明しつつ、リンは今までのハルの行動を思い返す。
 ハルはいつだって守ってくれていた。それこそ、リンが外の危なさを忘れるほどに。
 ハルの傍だったら安心だったのだ。ハルがいるから安心だったのだ。
 今回のハルの『らしくない』行動も、リンがこうして捕まってしまったが故だと考えれば、リンのことが心配だからだと思える。
 心配するほどに思ってくれているなら、必ずハルは助けにくる筈だ。

「そう……ハル様は必ず助けてくれる……約束したもの……」

 自分に言い聞かせるように呟く。助けてくれることを信じるのだと。
 しかし、確かに安堵したはずのリンの胸中には、何か棘のような違和感が残っていた。それがなんなのかが分からない。分からないことが、リンの不安を煽る。

「………………私たちにはそのハルという人がどういう人間か分からない。だが、リンにとっては信じるに値する人物なのだろう。何とか君だけでも助けて貰えたらいいのだが……」

 フターミの言葉に、リンはムッとする。
 ハル様は彼らを助けるためにここへ来たのだ。リンだけでもということは、彼らはそんなことありえないとハルを否定しているに等しい。
 そんなリンの雰囲気を悟ったか、フターミは首を振った。

「すまない。私たちを助けようとしてくれていることを疑っている訳ではないのだ。リンが言うように、時間さえあれば助けられることもあったかもしれない」
「じゃあ何で…………時間さえあれば? どういうこと?」

 噛み付こうとしたところを、フターミの言い方に疑問を抱く。

「…………リン。君がここへ入れられたとき、君を放り込んだ男が言っていたのだ。『次の"場"が開催される時の、メインに入れた』と」
「それって…………」
「…………"場"っていうのはぼく達が殺し合いをさせられる試合のことです。それでメインっていうのは、その日の最後の試合……珍しい魔物や強い魔物が戦わせられる試合なんです」

 ホイミンの言葉を聞いて、リンは少し考えてしまった。二人の言葉を理解した瞬間、サァッと血の気が引く。

「な、何と戦わされるのよ!?」
「……あの男曰く、ごうけつ熊らしい」
「っ!」

 思わず叫びそうになる声を、何とか自制する。声を出してしまえば、パニックになって何も考えられなくなるからだ。
 ごうけつ熊。あのジパングに生息していた魔物。
 ジパングに着いた当初はクウとボウとリンが三人がかりになっても、ハルに助けて貰わなければどうしようもなかった相手だ。リンとて当時の自分と比べたら十二分なほど強くなっているが、今でもなおサポート以上のことは手に余る。
 知らない相手ではない。獣型の魔物である以上、固体によって変わるのは単純な肉体の性能のみ。戦いの技量はそれほど大きく違わないはずだ。
 だが、知っている相手であるがこそ、逆に自分との絶望的な差を具体的に理解してしまう。

「次の場が開催されるのは九日後。リン達がこの町に初めてやってきたのが三日前だということは、まだ街の情勢を調べている最中だったのだろう? ハルという人物がいかに優れていようと、個人の力で私たちを助けるには相当準備が必要な筈だ。そして、君を助ける為には後九日で私たちを助けなければならない。もし君だけ助けたとしたら、私たちを使っている人間は警戒して、救出はとてつもなく困難になるだろう。だから、君を助けるには私たちを見捨てる他ないのだ」

 フターミの言うことは決して的外れなことでは無かった。ハルがリンたちを含めた少人数で動いていることは、軍隊規模、国家規模を動かせる存在が自分たち程度を助けようとする訳が無いという思いがあるからであろうが、実際にその通りであり、どれほどハルが急いだところで彼らを助けるのに九日間は短すぎる。かといって、もしリンだけを助けたりしたならば、その後に彼らを救う難易度が跳ね上がる。
 リンは、既に戦いの場に行く時が決まっているのだ。もしその時にリンがいなかった場合疑われるのはフターミ達や彼らの仲間の人間達。いや、疑われるどころか、単なる八つ当たりさえ受けかねない。
 よって、必然とハルの前には二択が提示されているだろう。リンを助け、彼らを見捨てるか。彼らを助け、リンを見捨てるか。そうなったときに、ハルがリンを選んでくれることはあるだろうか。
 こうして捕まるなどして迷惑ばかり掛けて、今後もハルの力になる可能性が低いリンと、人数的にも能力的にも確実にハルの力になるだろう彼らと、普通に考えればどちらをとるのかは明白だ。特に、必ずヒミコを助けるというハルの決意を思えば、リンが乗る天秤はどこまでも軽くなる。
 きっと助けてくれるという、ハルを信じたい気持ち。その思いの強さを知るが故に、助けて貰えないかもしれないという不安。さらには、棘のように刺さったまま消えることが無い違和感。
 それらが全て合わさって、リンから思考力を奪っていった。
 が、そんなリンの様子などお構いなしに、横から上がる脳天気な声。

「ハル様なら大丈夫だよ?」
「え?」

 一同が声を上げた存在へと目線を向ける。集中した視線を受けてもなお、ボウは何の心配もないとばかりに笑った。

「ハル様はきっと全部いい方へ持って行ってくれるよ? だって、ハル様は魔王になるんだもん」
「「「は?」」」「ッ! ボウッ!!」

 ボウの声はよく通る。その言葉は、フターミだけでは無く部屋の中でこちらを伺っていた他の魔物達にも聞こえた。
 あまりにも無防備すぎる発言だ。周り全てが敵に回るかもしれない状況の中で、ハルの成そうとしていることは、一番慎重に扱わなければならない情報だというのに。
 ただ、リンの反応も悪かった。既に口に出してしまった以上、呆れて何を言っているのかと戯言で終わらしてしまえばよかったのに、ボウの口を閉ざそうとしたが為に信憑性を増してしまう。

「人間が魔王に………………?」

 呆然と呟いたフターミの声を皮切りに、あちらこちらがざわめき出す。よもや冗談と言うこともできない。
 どうするべきかとリンは迷う。ハルの判断も仰がず、ここで話してもいいものかと。しかし、一度知られたしまったからには下手に隠すと悪印象を与えてしまう。これ以上自分のミスでハルの迷惑になることを、リンは許容できなかった。だから、意を決して口を開く。

「…………本当よ。ハル様は今の魔王バラモスを倒して、自分が魔王になろうとしているわ。愛してしまった魔物の為に」
「人が魔物を愛したって……その……友達としてとかじゃないですよね?」
「勿論、男女の関係としてよ。それが誰かは言えないけれど、ハル様はその方の為に、下手をすれば世界全体の敵になる道を進んでいるわ」

 世界全体の敵となる。人として魔物を味方にし、魔王として人を味方にする。それはどちらの存在からも敵視されうるということだ。
 だが、こうしてリンがついて行っており、フターミ達の仲間である霊樹の民と接触しているということは、紛れもない事実なのだろう。
 そして、リンは目を伏せる。

「………………だから、私は助けて貰えないかもしれないわ。だって、私一人よりもあなた達の方が圧倒的にハル様の力になるもの。元々、私はハル様を慕ってた訳じゃ無くて、長に言われて付いてきただけ。ハル様も長に頼まれたから…………。そうよ…………私は、ハル様の重みしか……」
「リンそれは…………」

 意気消沈するリンの言葉を、フターミは否定できなかった。世界全ての敵にすらなろうと覚悟している者にとって、リンをどれほど重要視できようか。

「…………姐さんはその人のことどう思ってるんすか?」
「え……?」

 サスケが問うたことに、リンは固まった。そんな様子を見ながらもお構いなしに、サスケは言葉を続ける。

「長に言われたから来たっていったっすけど、今はどういう風に思ってるんすか? その人のこと、信じてないんすか?」
「――――――っ!」

 ハルが今までやってきてくれたことを知らずに、何を言うのか。何の意味も無い。何の得も無い。守ってくれとリンが言ったから、守ってやると約束したから、それだけでずっと守ってくれていたハルを信じていない訳が無い。
 自分でもどうしてか分からないままに、リンは激昂する。

「信じてるわよ! だってずっと守って来てくれたもの! あんたに何が分かるのよ!」
「分からないっすよ? でも、それなら信じるしかないんじゃないすか? ね、ボウの兄さん。その人は、姐さんを救ってくれるんすよね?」
「ん? そうだよ? 当たり前じゃん。だって、リンはハル様の仲間だもの」

 ボウは、当然のことだと言ってのけた。盲信とも言えるほど、ハルがリンを救うことを全く疑っていない。
 仲間だから。ハルにとってリンも大切な存在なのだと。
 心が揺れる。ボウほどにハルを信じられないのが情けなく、悔しい。不安は消えること無く、されどハルを信じたいと思う気持ちは強く、それらと別に何かが詰まったような奇妙な思い。
 リンが心を整えるのを待たずに、サスケとボウは話を進める。

「しっかし、ボウの兄さんがそう言うなら、その人ってよっぽどすごい人なんすね! ちょっと会ってみたいっす」
「おお? じゃあ一緒に行く? ハル様外で待ってるし」
「いいんすか? なら行くっす。そろそろフルガスのおっちゃん達にこっちの様子伝えに行く頃ですし」
「って、あんたそんな簡単に外出られるの!?」

 何でも無いとばかりに言うサスケに、リンが突っ込む。

「え? ああ、俺、ここの連中に捕まった訳じゃないんすよ」
「はあ? じゃあ何でここにいるのよ?」
「そりゃ、皆さんが心配だからに決まってるじゃないっすか。危ないところを助けて貰った恩もありますし」
「いや、だからね……」

 前提条件自体がそもそもおかしいと、そう言いたいリンの意図をようやく察したか、サスケは困ったように笑う。


「姐さん、さっき思い出してくれたじゃないっすか。『隠れる』のは俺の一番の特技っすよ?」




***




 リンのことを聞かされたハルは、まず真っ先に状況を確認した。いつまで一緒にいたのか。最後に一緒にいたときリンはどうしていたか。いなくなった場所にリンが殺された形跡はなかったか。
 状況確認には若干頼りないボウではあったが、生きていそうだと判断し、捕まえられたのならば一番いそうな場所は格闘場であると考えた。魔物にとっては極めて危険度が高い町中での失踪であったので、その安否を確認することを優先した。
 すぐにもその場を離れようとしたハルだが、フルガスに止められ、格闘場の内部の地図を渡される。何故そんな物を持っているのかはともかくして、今の状況では絶対に必要な物であったのでありがたく借り受け、ボウと共に格闘場へと向かった。
 ボウを中に進入させてから半刻ほど、ハルは中から出てきた二匹のスライムと合流する。魔物を連れてそこに留まるのは危険であるため、聞きたいことを後回しにハルはとりあえずその場を後した。
 人目を避け辿り着いたフルガスの家には、ここで待たされていたタクトとクウ。家主のフルガスとその妻リーシア。娘のルナとマナ。他、数人の姿があった。彼らは帰ってきたハルの姿と、その後ろに付くスライム二匹の姿を認め安堵の息を吐く。

「……サスケも一緒に来たのか」
「うっす。皆、一ヶ月ぶりっす。中の状況は相変わらずっすよ」
「そうか……誰が死んだ?」
「…………今月死んだのは、さまよう鎧のメルビン。ホイミスライムのミランにカロン。お化けキノコのポロ。キャットフライのミーア。以上っす。フターミの兄さんや他の強くなった人が頑張ったから、だいぶマシっすけど……」
「…………皆………………」

 そのやりとりで、ハルはおおよそのことを察する。このスライムが、中の状況をフルガス達に定期的に伝えていたらしい。内部の地図があったのもこのお陰か。
 死んだ仲間達のことを思って、場の空気がグッと重くなる。さすがに何年もこうして聞いているだけに、そこまで取り乱す者はいない。それがいいことなのかどうかは分からないが。
 そんな彼らを尻目に、ハルはボウに話しかける。リンが居たことは既に聞いたが、詳しくはまだだったのだ。

「ボウ、リンの様子はどうだった? 怪我はなかったか?」
「あ、うん。大丈夫だったよ。元気はなかったけど……」
「そうか……」

 捕まってしまった以上、元気が無いのは仕方ない。重傷などは負っていないようであるので、その点だけは安心した。
 と、サスケが思い出したようにハルに向き直る。

「おっと、そういやご挨拶がまだでしたっすね。初めましてハルの兄さん。自分はボウのアニキやリンの姐さんと昔なじみで、サスケっていうっす」
「……昔なじみっていうと、やっぱりアリアハン出身か。何でこんなところに?」
「いやぁ、男だったらやっぱり一度は世界を見てみたいじゃないっすか」

 そう言いつつ、サスケは自分のことを語った。よくもまあ無事だったものだと思うが、こうして簡単にここと格闘場を行き来できるほど隠密行動を得意とするなら、それほど不思議なことではない。

「皆と違って元々自分からあの中へと入ったんで、あそこの連中は俺のこと誰も知らないっす。だからこうして簡単に外に出てこれるんすけどね」

 一日に一度やってくる食料配給の隙を突いて、サスケは牢を出入りしているらしい。地図の方は、いつか彼らを助ける役に立つだろうとコツコツ調べてフルガス達と作り上げたとのことだ。

「って、そんな簡単に出入りできるんなら中の連中も助けられるんじゃ?」

 あっさりと言うサスケにタクトが疑問を投げかけるが、とんでもないと大きく体を振って否定される。

「いやいやいや、無理っす。全然無理っすよ。俺一人ならあの連中から隠れるの簡単っすけど、皆が皆そうじゃないっすから。ボウの兄さんみたいに物陰に対応して体の形変えられるとかならともかく、比較的小さくて隠れるの得意なキャットフライの皆でも、見つからずに全員脱出ってのは不可能っす。それに、連中きちんとどの種族が何匹いるかって記録してるから、一匹でもいなくなればすぐばれちゃうっす」
「加えて、まだ外へ出たときの対策がないからな。脱出できたところでどうにもならんだろう」
「クウ…………」

 いかに脱出が困難かを説明するサスケをハルが補足し、クウが心配そうに一声鳴く。中に居るリンのことを思い憚っているのだろう。
 ハルはいつものように口元に手を当て、顔を顰める。
 悩むのは、まさにリンが牢の中で考えていたこと。ただ、リンを見捨てるという選択肢は既に排除していた。
 リンを救出するだけならそれほど難しいことでは無い。適当に陽動しつつボウに助けに行って貰えばいい。合流さえしてしまえばルーラを使って離脱で十分だ。だが、他の者たちを救出することを考えればそれはあまりにも愚策過ぎる。
 仮に無理に突入して救出できたとしても、相手はこの国でトップクラスの豪族だ。追っ手を出されてしまえば、戦えない者を守って逃げるのはどう考えても不可能である。逃げる先のことも考えなければならないし、単純に暴れてどうにかなることでは無い。

「あと……リンの姐さんは次の場でごうけつ熊ってのと戦わされるらしいっす」
「クウッ!?」「…………マジか……」

 クウもタクトも、ごうけつ熊の強さは知っている。タクトは遠くから見ただけだが、クウは実際に戦ったのだ。余計にリンが一人で勝てる相手ではないと思えるだろう。
 ハルはことさらに顔を顰め、手の下でギリッと歯を鳴らす。

「昨日開催されたばかりだから、次に開かれるのは9日後か……」

 呟きながら、どうすればいいかと自問する。一応、ハルはフターミ達を助ける為にいくつか計画を考えていた。しかし、情報収集も含め準備が何一つできていない状態では、何もすることができない。
 そんなハルに、フルガスは問う。

「…………どうするのだ? あなたの仲間はこのままだと確実に死ぬぞ? もとより、我らとは関係のない身。好きに動いてくれても恨むことはしないが……」
「…………待ってくれ。今考えてる」

 そう言いつつ、二択を避けようがないことをハルは理解していた。何をするにも、全てが足りていない。今のハルの力では、どう足掻いても彼らを助けることができないのだ。
 自分に力が足りていないということは、知っていた筈だった。だが、こうもそれを目の当たりにさせられると、情けなさが溢れてくる。
 リンが捕まっていなかったら。時間さえあれば。
 そういった『もし』が浮かび、頭を振る。現実から逃避してどうするというのか。後悔から過去の可能性を考えても、何の役に立つことも無い。

「…………どうすればリンを助けられる?」

 不意に、ハルは誰ともなしに問いかけた。

「は? いや、そりゃ中に入って連れ出すしかないんじゃね?」

 まず答えたのはタクトだ。言ってることは至極当然。どうやって中に入り、いい形で助けるかが問題なのだが、それは誰にも答えられない。
 が、ハルはそれを受けて先に進める。

「中に入る。誰が?」
「…………あそこに入って救出できる者は、私たちの中には居ない。そこのボウと言うスライムか、サスケ……あるいはあなたぐらいだろう」

 次に言葉を返すのはフルガス。これもまた既に答えは出ていることだ。

「警備が少ないときに俺が奇襲し、敵を全員殺すのはできるかもしれない。建物内部の地図はある程度あるから、ボウやサスケにリンを連れ出して貰えば助けられる可能性はそれなりにある。だが、そうなれば警備体制は強化され、もしかしたら中に居る他の魔物達に危害が及ぶかもしれない。じゃあ、それをさせない為にはどうすればいい?」
「んー、リンが勝手に外に出ちゃったらあそこの人たちが怒っちゃうからそうなるんでしょ? なら、怒らせなきゃいいんじゃない?」

 ボウが言うことが可能なら苦労はしない。リンを救出するには避けて通れない道の筈だ。

「なんでリンを勝手に連れ出せば連中は怒る?」

 ハルが何をしているのか。一番初めに気付いたのは、タクトだった。
 分かりきっていることを聞いて、その答えを促す。この国にやってくる前にも似たようなことをしていた。あの時は既にハルの考えは大体決まっていて、タクト達への説明や理解しやすいようにとの意図があったのだろうが、今は違う。ハルは情報と状況を整理し、事の根本を洗い、見落としが無いかを確認し、新たな選択肢を得ようとしているのだ。

「そりゃ、損するからじゃないっすか? 誰だって意図的に人から損させられたら怒るっすよね?」
「損……連中に損をさせなければ、連中が怒ることはない。リンが居なくなることで、何故連中は損をする?」

 サスケの答えをハルはさらに深く掘り始める。

「……試合をさせられないから……でしょうか? リンさんの試合が既に決定しているのなら、その分他の魔物を使わなければなりませんし。後、おそらくリンさんは売られてあそこに入れられたのでしょうから、リンさんを買った分のお金も無意味になってしまいます」
「魔物があそこに売られてるってのは知ってたけど……」
「改めてきちんと聞かされたら、私たちと同じ奴隷ですよね……」

 リーシアの発言に、マナとルナが続く。もう既に、ハルが何をしているのかをこの場に居る全員が理解し始めていた。

「リンをあそこから連れ出せば、リンに試合をさせられないから連中は損をする。さらに前提として、リンは直接あそこの連中に捕まった訳で無く、経由して売られたとすれば買った分の金も損をする。損害が出るから連中は怒る。その怒りは霊樹の連中へと向けられ、もうそんな事が起こらないよう警戒をする。では、全ての問題点の中心になるのは、連中が『損』をすることにある」

 そして、ハルは一つの方法を考えた。あまりにも危険であるが、今の状況で唯一何とかできる方法を。
 同時に、ハルは苦々しい思いを抱かざるを得ない。誰かに問いながら、あるいは自答しながら、状況を整理し答えを手に入れる。これはハル自身のやり方で無く、ハルが誰よりも尊敬し、誇り、絶望させられた人が得意とした手法だった。
 あの人ならば、こんな方法をとらずとも何とかしたのだろうと、そもそもこのような状況すら作ることは無いのだろうと、そんな思いが胸中に巡る。それでも、今の自分にできる最善の行動をするしかない。

「サスケ。当日の試合表っていうのは毎回作られているのか?」
「はい? あー……そういえば連中が何か書いてたような覚えもあるっすけど、それが試合の表かどうかは俺には分からないっす。人間の文字は読めないっすから」
「ふむ……何とか手に入れられないか?」
「できないことはないかもしれないっすけど……それをどうするんすか?」
「リンとごうけつ熊が一対一で戦うようなことはありえない。それではまるで賭けにならないからな。順当にいったらごうけつ熊が勝つが、もしかしたら勝てるかもしれないという相手も組ませる筈だ。ごうけつ熊とリン以外に1,2匹は違う魔物も出るとなれば、それらによってはリンが勝てる可能性もある」
「ちょっ!? お前リンに戦わせる気かよ!?」

 ハルの言い出したことに、ざわりと場が揺れる。誰もが思うだろう。スライムがごうけつ熊に勝てる筈が無いと。ハルはリンを見捨てるのかと。

「リンが出る試合はもう決められている。この状況でリンをあそこから出すには時間が無い。あそこに居る魔物は奴隷かそれ以下として扱われている。なら、一度試合に出させてその後に連中からリンを買う。そうすれば、連中は何も損せずにリンを取り戻せる」

 やけっぱちになってるのだと、その場にいる人間は誰もが思った。どうしようも無い状態で、現実逃避しているのだと。しかしハルは、誰よりも冷静に、どれほどの勝率があるのか考えていた。

「まずはサスケ。リンの試合のメンバーを知りたい。他の試合は決まっていなくても、リンを入れるぐらいならそこだけは決まってるはずだ。少量ずつでいいから、それらしき記録を探してきてくれ」
「ハルさんに見せるたびに元に戻しとけばいいんすか?」
「そういうことだ。できるか?」
「問題ないっす。直接姿見られでもしない限り、あの連中に見つかることはないっすから」
「なら頼む。ボウとクウは悪いが留守番だ。今のところお前達がやることはない」
「クウ……」「はーい」
「タクト。俺たちは情報収集だ。アッシャの奴について詳しく調べたい。今までの経歴から、格闘場ができてからの動き、嗜好や性格まで、できる限りだ」
「ハル! いい加減に……!」

 淡々と無謀な作戦を組み立てるハルに、ついにタクトが激昂し胸ぐらを掴む。が、そのあまりに真剣な目を見て止まってしまった。
 まっすぐに、タクトを見つめ返してくる瞳。自分のやろうとしていることがどれだけ危険なことか分かっていながら、まったく揺らぐことの無い瞳。

「…………殴って気が済むならそうしろ。お前がしたくないなら、俺は一人でやるだけだ」
「っ! くそっ!!」

 ドンと、ハルを押すように胸ぐらから手を放し、タクトは座り込んで俯く。少しの間の後、小さく口を開いた。

「…………ほんとにリンは勝てるんだろうな?」
「今のままでも勝率は僅かにある筈だ。だから、それを上げる為に今から動く」

 勝てると、ハルは口にしなかった。状況さえ整えば勝てるだろうと思っているが、それが確実で無い以上嘘になる。できることなら、ハルとて自分の手で救い出したいが、状況が許してくれない。
 タクトも、はっきりと言わなかったハルの胸の内を感じ取ったのだろう。顔を上げ、ハルの顔に向かって呟くように言った

「……分かった。手伝う。どうすればいい?」
「言ったように、情報収集だ。リンの試合のメンバーが分かったら、それに応じて動く」
「お前、どういうメンバーになるか大体予想してるだろ?」

 思えば、状況に応じてひたすら先を予測しながら動くこの男が、そこで終わってひいる訳が無い。タクトがそう考えた通り、ハルはおおよその目星はつけていた。

「……ごうけつ熊はそれなりの実力を持った人間なら倒せる相手だ。一対一なら、きちんと腕を上げた者ならLv15から17あたりで倒せる。だが、この辺りにいる魔物で対抗できるのは少ないだろう。だが、ごうけつ熊と同等の魔物は売買される値段も高いだろうし捕らえるのは難しい。ある程度は対抗できる相手じゃ無いと試合が成り立たないとなれば、自ずと選ばれるのは今居る中で最強に近い存在」
「…………フターミ?」

 ハルの言葉から、ルナが自分が知る一番強い魔物を想像する。ハルはその名前の者を知らないが、おそらく闘技場で見たさまよう鎧のことだろうと推測した。Lvも腕も、さまよう鎧としては別格であったあれならば、ごうけつ熊にも十分対抗できる。

「まだ、想像以上の領域は出ないがな。全ては情報を集めてからだ」
「私たちは……何かできないのか?」

 動こうとしたハルに、問いかけるのはフルガスである。娘を助けて貰った恩があり、今もこうしてフルガス達の仲間を助けるために、自分の仲間を危険に曝さなければならないハルに、何か少しでも力になることはできないのかと。
 しかし、ハルは首を振る。

「あんた達が下手に動けば、アッシャに察知されかねない。それに、あんたの娘二人のように、攫われて奴隷にされる危険性だってある。その心はありがたいが、大丈夫だ。何とかしてみせる」

 そう言いながら、ハルは足りない部分があることを自覚していた。
 リンの試合のメンバーを知るのは、リンが勝てるように助言をするため。アッシャの情報を集めるのは、リンを引き取る条件を考えるため。ただ、そうしてリンが生き残った後に、どうやってアッシャと交渉の場を設けるのかが抜けている。
 霊樹の者たちとは無関係と思わせ、自分のことも隠しながらリンを引き取るのに、一応考えた道筋はあるが、ハルでは無理があるのだ。
 どうにかしなければいけないが、今はじっと考えている時間も惜しい。得られた情報の中で違う道筋を立てられる可能性もあるので、まずは動いてからだ。
 と、不意に入り口辺りが騒がしくなった。一体何事かと思えば、フルガスの家に見知らぬ者が近づいて来たらしい。
 また嫌なタイミングで厄介事かと、ハルが顔を顰め家の外に出てみれば、見覚えのある顔が三つ並んでいた。
 フルガスの家に近づかせまいと防波堤を作る霊樹の民に囲まれながら、三人の中心にいた人物がハルを認める。相も変わらず酷く人が良さそうで、憎めないながらもハルにとっては実に胡散臭い笑みを浮かべて、極めて軽く彼はハルに手を振った。

「よう親友。なにやらおもしろい事になってるみたいだな?」





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