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No.29756の一覧
[0] アスカのアスカによるアスカのための補完【完結済】[dragonfly](2023/05/31 23:38)
[1] アスカのアスカによるアスカのための補完 第壱話[dragonfly](2011/09/14 09:08)
[2] アスカのアスカによるアスカのための補完 第弐話[dragonfly](2011/09/14 09:09)
[3] アスカのアスカによるアスカのための補完 第参話[dragonfly](2011/09/14 09:09)
[4] アスカのアスカによるアスカのための補完 第四話[dragonfly](2011/09/14 09:09)
[5] アスカのアスカによるアスカのための補完 第伍話[dragonfly](2011/09/14 09:09)
[6] アスカのアスカによるアスカのための補完 第六話[dragonfly](2011/09/14 09:10)
[7] アスカのアスカによるアスカのための補完 第七話[dragonfly](2011/09/14 09:10)
[8] アスカのアスカによるアスカのための補完 第八話[dragonfly](2020/05/20 21:28)
[9] アスカのアスカによるアスカのための補完 第九話[dragonfly](2011/09/14 09:10)
[10] アスカのアスカによるアスカのための補完 第拾話[dragonfly](2011/09/14 09:11)
[11] アスカのアスカによるアスカのための補完 第拾壱話[dragonfly](2011/09/14 09:11)
[12] アスカのアスカによるアスカのための補完 第拾弐話[dragonfly](2011/09/14 09:11)
[13] アスカのアスカによるアスカのための補完 第拾参話[dragonfly](2011/09/14 09:12)
[14] アスカのアスカによるアスカのための補完 第拾四話[dragonfly](2011/09/14 09:12)
[15] アスカのアスカによるアスカのための補完 第拾伍話[dragonfly](2011/09/21 10:37)
[16] アスカのアスカによるアスカのための補完 第拾六話[dragonfly](2011/09/14 09:12)
[17] アスカのアスカによるアスカのための補完 第拾七話[dragonfly](2011/09/14 09:13)
[18] アスカのアスカによるアスカのための 補間 #EX2[dragonfly](2011/09/14 09:13)
[19] アスカのアスカによるアスカのための補完 第拾八話[dragonfly](2011/09/14 09:13)
[20] アスカのアスカによるアスカのための補完 最終話[dragonfly](2011/09/14 09:13)
[21] アスカのアスカによるアスカのための補完 最終話+[dragonfly](2011/09/14 09:14)
[22] アスカのアスカによるアスカのための補完 カーテンコール[dragonfly](2011/09/14 09:14)
[23] アスカのアスカによるアスカのための 保管 ライナーノーツ [dragonfly](2011/09/14 09:14)
[24] アスカのアスカによるアスカのための補間 Next_Calyx #EX3[dragonfly](2011/09/28 10:08)
[25] [IF]アスカのアスカによるアスカのための 補間 #EX1(ないしょのカーテンコール)[dragonfly](2011/09/28 10:08)
[26] [IF]アスカのアスカによるアスカのための 補間 #EX4[dragonfly](2020/06/27 04:39)
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[29756] アスカのアスカによるアスカのための補完 第七話
Name: dragonfly◆23bee39b ID:7b9a7441 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/09/14 09:10


『シンジ、空き缶』
 
『あっ、うん』
 
踏まないように気をつけてって意味だったんだけど、誤解したシンジは拾ってゴミ箱を探した。歩道橋の上にあるはずもないから、ちょっと持て余し気味。
 
一度、シンジが誤ってテープの空ケースを踏んづけたことがある。そのときにワタシが上げた声なき悲鳴を、シンジは聞いてないだろう。艦艇を…ううん、UN海軍の将兵を踏み潰した感触を、まざまざと思い出させられたのだ。
 
それ以来。シンジが何か踏んづけやしないか、そればかり気にしてるような気がする。
 
 

 
「ハローゥ、シンジ!グーテンモルゲーン!」
 
「おはよう」
 
卑屈になって迎合することはないと言ってあるから、シンジがドイツ語で返事することはない。
 
「朝っぱらからボランティア活動? …イイコちゃんねぇ」
 
シンジが手にしてた空き缶を、アスカが指先で弾いた。
 
「…で、ここに居るんでしょ、もう1人」
 
「誰が?」
 
「アンタ、バカぁ? ファーストチルドレンに決まってるじゃない」
 
言われてみて思ったケド、あの言い方から即座にレイのコトだと判るのは本人だけだ。世界に3人しか居ないチルドレンの1人だって意識が強いから、ああいう言い方になるのは解かる。だけど、だから他のチルドレンも同じように意識してると考えるのは間違いだわ。現にシンジはそこまで意識してないから、もう1人と言われてもピンとこなかったんだと思う。そこを理解せずに人をバカ呼ばわりするのは筋違いってものよね。相手が解かるように話せない自分が悪いんだもの。
 
「ああ、綾波なら…」
 
シンジが見下ろした先に、レイ。植え込みの陰で本を読んでるみたい。何もあんな人通りの激しそうなところで読まなくてもいいと思うんだけど、それがレイってコトなんだろう。あのコはああ見えて寂しがりやみたいだから、多そうな人通りのわりに詮索されることは少なそうなこの時間のあの場所は格好の書斎なのかも。
 
…それはそうと、こんなトコで立ち止まってたら通行の邪魔よね。2人の身体で堰き止められた生徒たちのざわめきが、なんだか重い。
 
 
 
「ハロゥ!アナタが綾波レイね。プロトタイプのパイロット」
 
シンジを促して、アスカの後について歩道橋を降りてきた。
 
こっちも、できれば少しは良い出会い方をさせたいじゃない。
 
「ワタシ、アスカ。惣流・アスカ・ラングレィ。エヴァ弐号機のパイロット、仲良くしましょ」
 
「…どうして?」
 
…ホント、アンタらって…
 
「その方が都合がいいからよ。いろいろとね」
 
「…命令があれば、そうするわ」
 
『…シンジ、』
 
って耳打ちするまでもなく、シンジはレイの前まで進み出る。
 
「綾波。そういうのって良くないよ」
 
「…どうして?」
 
じゃあさ。って小首をかしげたシンジが、右手を自分の胸に当てた。
 
「僕との絆は、命令されたから?」
 
…いいえ。と、レイ。…求められたことに応じたいと思った、私の心。なんて呟いてる。
 
「じゃあ、仲良くしようって言ってくれた惣流さんに、さっきのはないよね」
 
「…そうね。ごめんなさい」
 
「謝るのは、僕にじゃないよ」
 
シンジが目配せするように視線をやる先に、ちょっとブゼンとした様子のアスカ。
 
…ええ。と立ち上がって、レイが深々と頭を下げた。
 
「ごめんなさい、惣流さん。仲良くしてください」
 
「変わったコねぇ」
 
  「ほんま。エヴァのパイロットって、変わりモンが選ばれるんとちゃうか?」
 
ははは…。バカトウジ、聞こえてないと思ってんなら大間違いよ。今のワタシは、まさしく地獄耳なんだからね。
 
 
****
 
 
ウイングキャリアーから投下されて砂浜に降り立つと、電源装置トレーラーがケーブルを接続してくれる。
 
もうじき、あの分裂する使徒が現れるはずだ。
 
≪2人掛かりなんて、卑怯でヤだな。趣味じゃない≫
 
 ≪ アタシたちに選ぶ余裕なんてないのよ、生き残るための手段をね ≫
 
珍しく、ミサトの言うとおりね。戦力の逐次投入が愚の骨頂だってコト、今のワタシにだって解ってるはずなのに…ワタシのココロの中は、ワタシが、ワタシには、ワタシだけが!って…、そればっかりだったんだわ。
 
…ううん、それしか無かったのよね? アスカ。
 
なんだか哀しいわ。自分への同情ってナンて言うんだったっけ、えぇと…、憐憫?
 
 
盛大にあがった水しぶきに、シンジが息を呑んだ。
 
「来た!」
 
 ≪ 攻撃開始! ≫
 
≪じゃ、ワタシから行くわ!援護してね!≫
 
「わかった」
 
ヤジロベエみたいなカッコした使徒に、初号機のパレットライフル。
 
≪行けるっ!≫
 
「えぇっ!?」
 
半ば水没したビルを足場に、弐号機が使徒に接敵。残した間合いを一気にジャンプで詰めて、ソニックグレイブを振り上げる。
 
≪やぁあああああーっ!!≫
 
案の定、使徒はあっさり両断された。あのときの手応えは良く憶えてる。ううん、手応えの無さを、…かしらね。自分の実力を過大評価してたワタシは、その違和感が意味するトコロを都合のいいように解釈してたわ。
 
「お見事…」
 
≪どう? サードチルドレン!戦いは、常に無駄なく美しくよ≫
 
この使徒がこの程度で斃せないことはよく知っている。現に今、分裂を終えようとしてるもの。シンジにも、最後の最後まで油断しないよう、常々言い聞かせてあるわ。
 
『シンジっ、まだ!』
 
『…うん!』
 
弐号機に近いほうの使徒に向かってパレットライフルを斉射しながら、初号機が駆け寄った。使徒がひるんだ、その瞬間を奇貨として弐号機が下がる。
 
「大丈夫!?」
 
≪アンタなんかに心配されたくないわ!…≫
 
弐号機は問題ないと判断して、シンジが初号機に近いほうの使徒に攻撃を切り替えた。パレットライフルで牽制しながら左手にプログナイフを装備、すかさずコアを突き刺す。
 
…やるようになったじゃない。って!
 
『避けてっ!』
 
無造作に振るわれた使徒のツメを、初号機がかろうじて避ける。切り裂かれるパレットライフルの向こっ側で、弐号機が使徒の片腕を斬り落としてた。だけど、両断されたときと同様、まるで気にした様子がない。反撃を受けそうになって、あちらも一歩後退。
 
「ミサトさん!使徒の傷が!!」
 
 ≪ ぬゎんてインチキっ! ≫
 
プログナイフで傷つけたコアが、見る間に修復されてく。とどめを刺そうと腕の無い方から使徒に突撃してた弐号機が、唐突に生え治った腕に薙ぎ払われた。放物線を描いて跳ね飛ばされた赤い機体が、地面を穿って沈黙する。
 
アスカの悲鳴に気を取られたシンジを見過ごすほど、使徒も甘くないらしい。あっという間に目前まで詰め寄ってきて、今度こそ避けられそうもない間合いでツメを振るった。
 
 
****
 
 
「「はーい!」」
 
玄関のチャイムが鳴ったので、2人してリビングを出た。
 
ドアを開けると、ヒカリとバカコンビ。…まぁワタシは知ってたんだけどね。
 
「またしても今時ペアルック、イヤ~ンな感じ」
 
「「 こ、これは…、日本人は形から入るものだって、無理矢理ミサトさんが… 」」
 
このところのユニゾン訓練の成果ってワケでもないんだろけど、2人がきっちりハモる。
 
「ふ、不潔よっ!二人とも!」
 
「ごっ、誤解だよっ!」
「ごっ、誤解だわっ!」
 
誤解も六階もないわっ。って、ヒカリ…。アンタ、シンジの尽力でバカトウジと結構いい雰囲気になってきてるっていうのに、それはナイんじゃない?
 
「あら、いらっしゃい」
 
いやんいやんとかぶりを振るヒカリに声をかけたのはミサト。3人がやって来たエレベーターホールの方から現れなかったのは、レイを引き連れて隣の住戸の下見に行ってたから。
 
シンジに言われてレイの部屋を見に行ったミサトが、そのあまりの酷さに絶句してレイも引き取ると言い出したのだ。物理的に今のミサトんちじゃムリがあるから、隣りの住戸に住まわせることなったってワケ。予定では、それに合わせてアスカも隣りに引っ越すことになってる。
 
「こんわやぁ、どないなんか、教えてもぅて宜しぃでっしゃろか?」
 
 
***
 
 
「そないならそないやて、はよぅ言ぅてくださりゃぁええんですわ」
 
誤解が解けて、みんなが笑ってる。まぁ、レイはいつもの通りだし、こっちは特訓中でそんな余裕ないケドね。
 
「…で、ユニゾンは上手く行ってるんですか?」
 
「それは、見ての通りなのよ…」
 
ヒカリの質問に、ミサトが答えた途端にブザーが鳴った。
 
「「「「 はぁ~… 」」」」
 
苛立ち紛れに、アスカがヘッドホンを投げつける。
 
「当ったり前じゃない!このシンジに合わせてレベル下げるなんて、うまく行くわけないわ!どだい無理な話なのよ」
 
実は、アスカが言うほどシンジはひどくない。なんてったって、このワタシがアドバイスしてんだもの。これ以上のコーチなんて、ありえないでしょ?
 
それに、ワタシはユニゾンの結果を知っていた。だから自信を持って、シンジなら出来る。と言ってやれる。アンタのコトはワタシが一番知ってる…と励ますことができた。そのお陰かシンジは前向きで、そのぶん呑みこみも早い。
 
「じゃあ、やめとく?」
 
「他に人、いないんでしょ?」
 
だけどアスカは、シンジがそこそこついてきてると気付くと、勝手にゲームのレベルを上げてしまうのだ。
 
…自分がこんなに頑なだったなんて、ちょっと認めたくないものだわね。
 
「レイ」
 
「…はい」
 
…ミサト。アンタの意図はわかるケド、今ものすごくイジワルな目、してるわよ。
 
「やってみて」
 
…はい。とレイが立ち上がる。
 
依怙地なアスカが、…ワタシが悪いのはわかるケド、これはあんまりだと思う。
 
『…』
 
だから、お願いね。シンジ…
 
「僕はやりたくありません。ミサトさん」
 
「えっ? あの…シンちゃん?」
 
まさかシンジに反対されるとは思ってもいなかったんだろう、ミサトの目が点になった。
 
「…どうして? 碇くんは、私としたくないの?」
 
…レイ。アンタ口の利き方、勉強なさい。鈍感魔王のシンジでなきゃ、モノスゴイ誤解、しちゃうわよ。ほら、ヒカリなんか顔真っ赤だもの。
 
そういうわけじゃないけどね。と頭を掻いたシンジが、目つきも鋭くミサトを睨んだ。
 
「ミサトさん。零号機は出撃できるんですか?」
 
「えっ? …いやぁ、まぁだ、ちょっちねぇ…」
 
目を泳がせて誤魔化そうとするが、しかしシンジは追及の手を緩めない。
 
「それとも、綾波を弐号機に乗せようって云うんですか?」
 
「えぇと…、それもどうかなぁって、ミサトさん思うんだけど~」
 
…なははは~っ。なんて、笑って誤魔化せると思ったら大間違いよ。
 
確か、レイは初号機にもシンクロできたはずだ。そして、第6使徒戦でシンジが弐号機を動かせてた事実から考えると、レイが弐号機にシンクロできてもおかしくはない。
 
だけどまあ、ここでそれはどうでもいいことだわ。
 
「なら、綾波がやってみたところで、意味はありませんよね」
 
「いや、その? シンちゃん、あのね…」
 
言い募ろうとするミサトを、ヘッドホンを持った左手の一振りで一蹴。
 
「ミサトさんが何をしたいかは解かるつもりです。でも、こんなあてこするようなやり方、僕は嫌いです」
 
シンジが喋ったのは、ほとんどワタシが吹き込んだ言葉なんだけど…。ヤダ、なんかシンジ頼もしいじゃない。
 
なのに、アスカは…
 
「アンタなんかに同情されるなんて、ワタシもヤキが回ったわね」
 
振り返るシンジの視界の中に、それこそ親の仇でも睨んでいるかのような目つきで。
 
シンジの視線は困惑で縁取られてむしろ優しいだろうに…、ううん、だからこそ居たたまれなくなって目を逸らしたのね? アスカ。
 
「もう、イヤッ!やってらんないわ」
 
引き戸を叩きつけて、逃げ出した。
 
「アスカさん!」
 

 
「…鬼の目ぇにも涙や」
 
ちょっと待って。ワタシって、あんなにヒネくれてた? ヒトの好意をナニひとつ素直に受け取れないような、こんなヤなコだったの?
 
自分で自分が、ワカンナイ…
 
「い~か~り~く~ん!」
 
視界が、すっと前進した。
 
『…シンジ?』
 
『うん。追いかけなきゃ…』
 
追いかけて!っていうヒカリの叫びを背後の彼方に置き去りにして、シンジがリビングを後にする。
 
確かに、前回もシンジは追いかけてきてくれた。だけど、それがシンジの自発的な行動だったとは思えない。…だって、あのシンジだもの。
 
…なのに、このシンジは。ワタシが見てきたこのシンジは、自らの意思で追いかけようとしてくれてるのだ。
 
シンジ…、アンタ確実に変わってきてる。…それはワタシのおかげだって、しょってイイ? …いいよね?
 
 
***
 
 
…やっぱり、コンビニに逃げ込んでいた。
 
声をかけようとするシンジを押しとどめる。下手な慰めなんか聞きたい気分じゃなかったことを、憶えてるもの。
 
買い物カゴを持たせて、サンドイッチとかをテキトーに放り込ませる。おサイフ、持たせてきて正解だったわね。
 
しゃがみこんだアスカの、隣りのガラス戸を開けて、シンジがコークを取り出した。
 
「なんか飲む? おごるよ?」
 
「…何しにきたのよ」
 
休憩だよ。とシンジがコークを棚に戻す。…やっぱペプシかな。って、そんなのどうでもいいじゃない。
 
ぎろり。と睨み上げる気配を、シンジの視野のぎりぎりで確認。下手に目なんか合わせると気迫負けしちゃうだろうから、シンジにはアスカを見ないように言ってある。
 
 …
 
逃げちゃダメだ。と幾度も繰り返し、シンジが視線を上げた。ワタシがシンジに言わせようとしてることは、シンジの性格では口にしづらいだろう。
 
「…せっかくだから言っとくけど、謝らないよ」
 
「何をよ?」
 
シンジは、ずいぶんと緊張してるみたい。口ん中が急速に渇いてきたもの。それでも詰まったり調子を外すこともなかったのは、シンジもこういうことに慣れてきたのかもね。
 
「…僕が、惣流さんについていけないこと」
 
「何? 開き直り?」
 
そうかもしれないけど…。と、シンジがペプシを取り出す。
 
「…僕の反射神経が劣ってるってことは、謝るようなことじゃないと思うんだ」
 
冷えたアルミ缶が奪い去ってくれるのは熱だけじゃないとばかりに、シンジが右手に力を篭めた。
 
「…その差を縮めるために僕が努力してないって云うなら謝るべきかもしれないけど…僕は出来る限りのことをやっている」
 
そうよ、シンジ。アンタが頑張ってるってコト、他ならぬワタシが保証したげる。
 
「だから、惣流さんがすごいってことも判るんだ」
 

 
それは、ワタシが言わせた言葉じゃない。ためらいも緊張もなく、ごく自然に紡がれたのは、それがシンジの本心だからだと思う。ユニゾン特訓の間に感じてくれてたことだからだと思う。だからこそ、ミサトに逆らった時のシンジの言葉が力強かったのだと、解かる。
 
…シンジ。アンタ、見ていてくれてるのね。
 
 
「…買い物が済んだら、先に帰るから」
 
「何よ。連れ戻しに来たんじゃないの?」
 
だから、ただの休憩だよ。と、心なしか温くなったアルミ缶を買い物カゴに入れて、棚からもう1本ペプシを取り出す。
 
「惣流さんが休んでくれてる間に練習して、少しでも追い着けるようにしなくちゃならないからね」
 
「…」
 
突然立ち上がったアスカが、棚から瓶入りのジンジャーエールを取り出した。ウィルキンソンは日本で唯一の、本物のジンジャーエールだったわね。
 
「アンタがワタシに追い着くなんて、100万年かけてもムリよ。だ…」
 
続けようとした言葉を呑み込んで、アスカの視線が泳いだ。いったい何を言おうとしたのか、それはワタシでも想像するしかない。
 
辿り着いた買い物カゴを胡乱げに眺めて、シンジの手からペプシを奪い取る。…とうぶん、開けないほうがよさそうだわ。あれ…
 
「ワタシがおごるわ。他は戻してきなさい、…アンタの手料理で充分よ」
 
ぷいと踵を返したアスカが、そそくさとレジに向かった。
 
ワタシもそうだったけれど、ちゃんとおサイフを持ってきている辺り、衝動的な破滅型ではないのかもね。
 
「置いてくわよ!」
 
さっさとレジを済ませたアスカに急きたてられて、あたふたとシンジが品物を戻していく。あはは…、そんなに慌てなくても、アスカならちゃんと待ってるわよ。
 
 
****
 
 
弐号機と初号機の損傷は、前回と比べれば軽かったみたい。作戦決行は1日ほど早く、作戦地域も違う。
 
当然のようにミサトも、1日早く徹夜仕事に入ったってワケ。
 
 
この壁をちょっとでも越えたら死刑よ!子供は夜更かししないで寝なさい。なぁんて言い放ってさっさと寝たはずのアスカが、引き戸を開けた。
 
とっさに寝たフリするシンジを気にかけた様子もなく、向かったのはトイレかしらね? …っていうのも、ワタシには憶えがなかったから。寝惚けてたのかしら?
 
 …
 
どさっ、て音と振動にまぶたを開けたシンジの、目前にアスカの寝顔。驚いたシンジがSDATのリモコンを誤操作して、テープがきしみだす。ここんところリビングでミサトと3人して寝てたもんだから、アスカは寝床を勘違いしたんだろう。
 
美人は寝顔もキレイねぇ。…なんて思ってたら、シンジの視線がふと下を向いた。半ば押し潰されて強調された、釣鐘型の見事なバスト。いくらシンジが鈍感魔王でも、見ずには居られないみたいね。
 
「…ん」
 
身じろぎしたアスカに釣られて、シンジが視線を上げる。その焦点が、桜貝のように可憐な唇に注がれて…
 
…そういえば、キスしかかって止めた。って言ってたような…?
 
なんてコトを思い出してる間に、シンジが顔を近づけていってる!
 
きゃーっ!きゃーっ!そんなのダメよ!シンジ。オンナノコが寝てる間に奪っちゃうなんて、ケダモノの所業よ!世紀の美少女の唇が欲しいって気持ちはよっく解かるし、1週間近い特訓生活でナニかとモヤモヤしてんのも知ってるケド、イケナイわ!
 
…でも、今のシンジなら、キスくらい許してあげても、って… きゃーだ♪きゃーだ♪ワタシったらナンてことをっ!!
 
そんなこと考えてるうちに、ワタシの顔はもう焦点が合わないくらい間近で。…って、なんでワタシ、シンジを止めよぉってシテないの…?
 
もちろん、先に寝たことになってるワタシが声を出すわけには行かない事情はある。せっかく築いたシンジとの信頼関係をブチ壊しちゃうもの。
 
…だけど、だけどよ?
 
 …
 
ああもうダメ!って瞬間、アスカがママって…呟いた。
 
脂汗たらしながらにじり寄ってたシンジが、ぴたりと止まる。
 
見つめる先、アスカの目元から大粒の涙がこぼれた。
 
…ママの夢見て泣いてたなんて。ワタシ、自分がどれだけ強がっていたか、今ようやく解ったわ。
 
ワタシ、ホントに弱かったのね…
 
 
毒気を抜かれたらしいシンジが、タオルケットを引きずって部屋の端へと退避した。
 
  …
 
ふう…アヤマチは未然に防がれたわ。…なのに、なぜか損したようなキモチになるのは、どうして?
 
 
****
 
 
作戦決行が1日早い分、使徒迎撃はこちらからも出向くことになった。
 
再び進攻を始めた使徒に、ウイングキャリアーで接近。ドッキングアウトして、上空から電磁柵形成器を投げ下ろして分断すると、落下の勢いそのままに蹴りつける。
 
おもいっっっきり!地面にメリ込んだ第7使徒は、エヴァ2機を吹き上げるように爆発した。おかげで、最後に2人がケンカすることもなかったわ。だからキス未遂事件も闇の中よ…
 
まずはメデタシ、…かしらね?
 
 
                                         つづく


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