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No.29756の一覧
[0] アスカのアスカによるアスカのための補完【完結済】[dragonfly](2023/05/31 23:38)
[1] アスカのアスカによるアスカのための補完 第壱話[dragonfly](2011/09/14 09:08)
[2] アスカのアスカによるアスカのための補完 第弐話[dragonfly](2011/09/14 09:09)
[3] アスカのアスカによるアスカのための補完 第参話[dragonfly](2011/09/14 09:09)
[4] アスカのアスカによるアスカのための補完 第四話[dragonfly](2011/09/14 09:09)
[5] アスカのアスカによるアスカのための補完 第伍話[dragonfly](2011/09/14 09:09)
[6] アスカのアスカによるアスカのための補完 第六話[dragonfly](2011/09/14 09:10)
[7] アスカのアスカによるアスカのための補完 第七話[dragonfly](2011/09/14 09:10)
[8] アスカのアスカによるアスカのための補完 第八話[dragonfly](2020/05/20 21:28)
[9] アスカのアスカによるアスカのための補完 第九話[dragonfly](2011/09/14 09:10)
[10] アスカのアスカによるアスカのための補完 第拾話[dragonfly](2011/09/14 09:11)
[11] アスカのアスカによるアスカのための補完 第拾壱話[dragonfly](2011/09/14 09:11)
[12] アスカのアスカによるアスカのための補完 第拾弐話[dragonfly](2011/09/14 09:11)
[13] アスカのアスカによるアスカのための補完 第拾参話[dragonfly](2011/09/14 09:12)
[14] アスカのアスカによるアスカのための補完 第拾四話[dragonfly](2011/09/14 09:12)
[15] アスカのアスカによるアスカのための補完 第拾伍話[dragonfly](2011/09/21 10:37)
[16] アスカのアスカによるアスカのための補完 第拾六話[dragonfly](2011/09/14 09:12)
[17] アスカのアスカによるアスカのための補完 第拾七話[dragonfly](2011/09/14 09:13)
[18] アスカのアスカによるアスカのための 補間 #EX2[dragonfly](2011/09/14 09:13)
[19] アスカのアスカによるアスカのための補完 第拾八話[dragonfly](2011/09/14 09:13)
[20] アスカのアスカによるアスカのための補完 最終話[dragonfly](2011/09/14 09:13)
[21] アスカのアスカによるアスカのための補完 最終話+[dragonfly](2011/09/14 09:14)
[22] アスカのアスカによるアスカのための補完 カーテンコール[dragonfly](2011/09/14 09:14)
[23] アスカのアスカによるアスカのための 保管 ライナーノーツ [dragonfly](2011/09/14 09:14)
[24] アスカのアスカによるアスカのための補間 Next_Calyx #EX3[dragonfly](2011/09/28 10:08)
[25] [IF]アスカのアスカによるアスカのための 補間 #EX1(ないしょのカーテンコール)[dragonfly](2011/09/28 10:08)
[26] [IF]アスカのアスカによるアスカのための 補間 #EX4[dragonfly](2020/06/27 04:39)
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[29756] アスカのアスカによるアスカのための補完 第拾四話
Name: dragonfly◆23bee39b ID:7b9a7441 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/09/14 09:12


リツコに言われてロビーまでミサトを呼びに行ったら、加持さんが一緒だった。
 
どうやらヒマを持て余してるらしい加持さんにナンパされて、こうしてジオフロントのベンチでお茶してんだけど。
 
この、つぶつぶオレンジって、のど越しが面白いわね。自分の体があるときに巡り合いたかったわ。
 
 
「加持さんって、もっとまじめな人だと思ってました」
 
「安心してる相手だと、遠慮がないな。碇シンジ君」
 
「あ、すみません!」
 
あのね、加持さん。コイツの本性は生意気で反抗的な皮肉屋なのよ。…案外、父親にそっくりだったりしてね。
 
「いや、こっちこそすまない。嫌味のつもりはないんだ」
 
 
立ち上がった加持さんが、イタズラっ子みたいな笑顔を見せた。
 
「そうだ。一つ、いいものを君に見せよう」
 
 
****
 
 
「スイカ、ですか?」
 
しゃがみこんだシンジが、スイカを覗き込んだ。小さな黄色い花がキュートね。
 
「ああ、可愛いだろう。俺の趣味さ。みんなには内緒だけどな」
 
ふ~ん。ワタシには教えてくんなかったクセに、シンジには見せてたんだ。男同士でや~らし~の。
 
「何かを作る、何かを育てるのはいいぞ。いろんな事が見えるし解かってくる」
 
加持さんが、ジョウロで水を撒いてる。う~んと…、こんな夕方にお水なんかあげて、いいのかしら?
 
 
…楽しい事とかな。と、こちらを窺う気配が、ちょっと優しい。
 
「…つらいこともでしょ」
 
唐突にそんなことを言い返したシンジの気持ちが、なんだかとてもよく解かった。…だって、ワタシもシンジと同様に、スイカから目を離せなくなってしまったもの。そのカタチが、つらい記憶をひきだすんだもの。…シンジには、きっと16時間の圧迫感を。ワタシには、16時間の無力感を。
 
 
「つらいのは、嫌いか?」
 
「…好きじゃないです」
 
「楽しい事、見つけたかい?」
 
シンジが押し黙った。やっぱり加持さんも、ミサトたちと同じ世代なのね。思春期ってモノを解かってないと思うわ。
 
「…それもいいさ。けど、辛い事を知っている人間のほうがそれだけヒトに優しくできる。それは弱さとは違うからな」
 
加持さんの言いたいことは解かる。でも、つらいことの渦中に居る人間に、そんなアドバイスがナンの役に立つだろう。シンジが欲しいのは未来の希望じゃなくて、今の救済なのに。
 
一般論に過ぎない言葉は、距離を置いてればこそ掛けられるモノだと思う。やっぱり加持さんもミサトたちと同じ世代なのね、ワタシたちを壊れ物みたいに扱って、触れることすらしてくれない。
 
…ワタシたちは決してガラス細工なんかじゃないわ。確かに傷つきやすいけど、だからこそ強くなろうとするんだと思う。
 
 
ケータイの呼び出し音。
 
「はい、もしもし?」
 

 
「葛城から。今からシンクロテストをやるそうだ」
 
 
その日のシンクロテストで、シンジのシンクロ率が低かったのは当然だったと思う。
 
 
****
 
 
「昨日の新横須賀、どうだったの?」
 
屋上の柵に身を預けたシンジが、柵の向こっ側に座ってるバカケンスケの方を向いた。
 
「バッチシ!ところで、ちょいと気になる情報を仕入れたんだけど…」
 
みんながお昼ご飯を食べ終えても、バカトウジはまだ屋上に上がってこない。さっきの呼び出しの放送、あれはきっと…
 
 
「エヴァ参号機?」
 
「そ。アメリカで建造中だった奴さ。完成したんだろ?」
 
「知らないなぁ」
 
っていうか、こんな機密事項、なんでバカケンスケが知ってんのよ。
 
「隠さなきゃならない事情も解かるけど、なぁ、教えてくれよ!」
 
「ほんとに聞いてないよ!」
 
「松代の第2実験場で起動試験をやるって噂、知らないのか?」
 
「知らないよ」
 
…ダダ漏れじゃない。
 
「パイロットはまだ、決まってないんだろ?」
 
「判らないよ、そんなの…」
 
今頃、校長室で通知されてるころなんでしょうけどね。
 
「俺にやらしてくんないかなぁ、ミサトさん。なぁ、シンジからも頼んでくれよ!乗りたいんだよ、エヴァに!」
 
「ほんとに知らないんだよ…」
 
バカケンスケは、シンジがとぼけてると思ってるらしい。眉間にシワが寄ってるもの。
 
「じゃあ、四号機が欠番になったって言う話は?」
 
「何それ?」
 
「ホントにこれも知らないの? 第2支部ごと吹っ飛んだって、パパのところは大騒ぎだったみたいだぜ」
 
パパ? ネルフの関係者なのかしら? 家族に話したんだとすれば、セキュリティ意識が低すぎだわ。
 
「ほんとに?」
 
「おそらく…は、」
 
「 ミサトさんからは何も聞いてない… 」
 
シンジの呟きを耳にして、バカケンスケが眉尻を下げたのが見えた。ここに至ってようやく、シンジが本当に何も知らされてないって判ったんでしょうね。
 
「やっぱ、末端のパイロットには関係ないからな。言わないって事は、知らなくてもいいことなんだろ? シンジにはさ」
 
バカケンスケのフォローも、今のシンジには届いてないんだろう。目の焦点が遠いもの。
 
『…どうして…ミサトさんは、』
 
ミサトに限らず、そもそもネルフってのは秘密主義が酷いところナンだけどね。
 
でもね、シンジ。ミサトはアンタを蔑ろにして隠してるワケじゃ、ないと思うわ。なんたってあの世代の連中は、思春期ってモンを解かってないのよ。
 
ううん、少なくともミサトはそのことを自覚してる。だからこそ、必要以上に神経質になってんだと思うもの。
 
「すまなかったな、変な事聞いて。…しかし、トウジの奴、遅いなぁ」
 
 
****
 
 
シンジが登校する頃合に、ミサトの仕度が出来てるのは珍しい。ベレー帽まで被ってるとなれば、珍しいを通り越して稀有ってヤツ? いつぞやの礼装以来のコトだわね。
 
今日から松代にいくからって、それなりに身なりを気にしてんだわ。
 
 
「アスカ、帰ってきそう?」
 
今まさに玄関を出ようとしてたシンジを呼び止めといて、よりによって切り出した話題がソレ? …本っ当にアンタって…
 
「…まだ、みたいです」
 
気まずさに、2人とも顔を伏せる。アンタたち、そういうところ兄弟みたいよ。
 
「あの」
「ところで」
 
ほらね。仲のおヨロシイこと。
 
「あはっ、…どうぞ」
 
「四号機が欠番っていう噂、本当ですか? なんか事故があって爆発したって…」
 
「ええ、本当よ。四号機はネルフ第2支部と共に消滅したわ。S2機関の実験中にね」
 
シンジの視線が落ちる。
 
「ここは大丈夫よ。3体ともちゃんと動いてるじゃない。パイロットもスタッフも優秀だし」
 
違うわよミサト。シンジはね、否定して欲しかったの。バカケンスケの情報は間違ってるって、バカケンスケでも知ってるような情報をミサトが教えてくれてないなんてことはないんだってね。
 
「でも、アメリカから参号機が来るって。松代でするんでしょ、起動実験」
 
「うーん、ちょっち4日ほど留守にするけど、加持が面倒見てくれるから心配ないわよ」
 
「でも実験は…」
 
ほら。シンジにしては、しつこいでしょ。バカケンスケの情報が間違ってて欲しいから、訊けるだけ訊こうとしてんの。
 
「リツコも立ち会うんだし、問題ないわよ」
 
「でもパイロットは…?」
 
「その、パイロットなんだけど…」
 
やっぱり、言い出せないままに松代に行っちゃう気だったのね。
 
…♪~♪♪~
 
「ん? はーい!」
 
チャイムの音に気をとられて、シンジが視線を逸らす。ミサトの肩から力が抜けたのが見えた。
 
それにしても、こんな朝っぱらに誰が来たっての?
 
 
開いたドアの向こうに、背中が見えるほど腰を折った人の姿。
 
「おはようございます!」
 
上げた面にメガネが光って…って、バカケンスケ!!
 
「今日は、葛城三佐にお願いにあがりました!」
 
ずいっと玄関の中に踏み込んでくる。
 
「自分を、自分をエヴァンゲリオン参号機のパイロットにしてくださいっ!」
 
「…へ?」
 
 
****
 
 
「ミサトさんも冷たいよ、まったく」
 
バカケンスケのおかげで、フォースチルドレンの件はうやむやになってしまったわ。そのうえ、教室に着いてまでアンタのグチを聞かされなきゃなんないなんてね。
 
ワタシに自由に使える手があったら、アンタとっくに地獄行きよ?
 
「やる気なら俺が一番なんだし、予備でもいいから使ってくれりゃあいいのに。なぁ、トウジ?」
 
「あ? ああ…」
 
バカトウジは上の空だ。コイツはシンジの戦う姿を見てるから、ただならぬ立場に追い込まれたってことに気づいてんのね。
 
 
通行の邪魔だった椅子をつま先でどかして、アスカが入ってきた。
 
シンジが見てないのに何でそんなことが判るかっていうと、かつてワタシもそうしたからよ。
 
 
「どうしたの? 洞木さんはもう来てるのに、ずいぶん遅かったじゃない」
 
アスカは、シンジを無視しようとする。
 
「なんや、今日は夫婦喧嘩はないんかい…」
 
バカトウジの呟きに過敏に反応したアスカが、カバンを机に叩きつけてバカトウジを睨みつけた。…そう。この時にはもう、ワタシはバカトウジがフォースチルドレンだってことを知ってたわ。
 
「アンタ達の顔、見たくなかっただけよ!この3バカトリオが!」
 
このときのワタシは、矛盾に満ちた存在だっただろう。自分より優れた人間がチルドレンに選ばれたりすれば立つ瀬がなくなるのに、バカトウジみたいなのが選ばれたことも許容できないんだもの。
 
 
…ううん、違うわね。今さら自分を偽ってもしょうがない。
 
正直に言えば、ワタシは新しく登録されてくるチルドレンを怖れてた。それが、取るに足らないバカトウジだったことが、むしろ恐怖に拍車をかけたわ。
 
ぱっと見に冴えないシンジは、しかし厳然たる戦績を誇ってる。なにより初号機しかなかった時期に、たった一機で第3新東京市を護りぬいた実績は大きい。少なくともワタシはそう感じてたわ。
 
このうえシンジ以上にぱっとしないバカトウジが、もし弐号機を凌ぐ働きを見せたりしたら…。エヴァのパイロットはエリートだと信じて拠りどころにしてたワタシの、アイデンティティーが揺らぐのだ。
 
最後の砦だったシンクロ率でも追い上げてくるシンジの気配を背後に感じて、まだ聞こえないバカトウジの足音にびくついて。ワタシの心は疑心暗鬼で凝り固まってた。
 
 
****
 
 
「さーて、飯メシ…あれ? トウジは?」
 
理科室から購買部経由で戻ってきたバカケンスケが、ビニール袋の中身を物色してた手を止める。
 
「いないんだよ」
 
おべんとを取り出したシンジが、かぶりを振って見せた。
 
「メシも食わずに? あいつが? ありえない話だぞ」
 
教室を見渡すバカケンスケの視線に釣られて、シンジも視線を巡らせる。
 
いつもならいそいそと教室を後にするヒカリが、なんだか表情を曇らせて窓から外を見上げてた。ここからじゃあ見えないケド、前にヒカリが言ってた話からすると、その視線の先にはバカトウジとレイが居るんじゃないかしら?
 
『あれ? …綾波?』
 
普段レイは、シンジが弁当を手渡すまで自分の席で待ってる。そのレイが居ないことに、ようやく気付いたらしい。
 
「うん…変だよね、このごろ」
 
…みんな。と言い切れずに呑み込んだ言葉は、不機嫌そうに教室に入ってきたアスカの姿を見止めて、物理的な硬度をもってシンジの胸につかえた。
 
日直で理科室の後片付けをさせられてたアスカは、教科書を自分の机に放って、そのままこちらへと歩いてくる。ヒカリには、アスカの分のおべんとを作らないように頼んであるから、アスカはシンジが作ったおべんとを取りに来ざるを得ない。
 
アスカのほうから話し掛けてくれる唯一の機会を、シンジは朝から心待ちにしていた。
 
「早く寄越しなさいよ」
 
反射的に差し出そうとしたおべんと箱を寸前で押しとどめて、こじ開けるように口を開く。
 
「あの、アスカ…」
 
「なによ」
 
不機嫌さが最高潮に達して、アスカの瞳孔が絞り込まれる。青い瞳の圧力に屈したシンジが視線を逸らすが、そこで逃げ出すほど今のシンジは弱くない。
 
「…今晩から、加持さんが泊まりに来るんだ」
 
「加持さんが?」
 
途端に声を弾ませたアスカが、しかし一転して訝しげに。
 
「どうして?」
 
促すような身じろぎに、シンジが視線を戻す。高圧的だったアスカの瞳は、純粋な疑問に縁取られて今は柔らかい。
 
「…今日から、ミサトさんが出張だから」
 
それって、もしかして松代? と口を挟もうとしたバカケンスケを、アスカが一睨みで沈黙させた。その鋭さを、思考のそれに切り替えたアスカが黙り込む。
 
かつて加持さんが泊りに来た4日間。ワタシはそれを楽しめなかった。フォースチルドレンの存在を受け入れがたかったワタシはむしろ、そんな姿を見られることに苦痛すら感じてたわ。
 
その時は逃げ出しようもなく受け入れるしかなかったけど、このコは…
 
「そう。じゃ、加持さんによろしく言っといて」
 
すげなくそう言い放って、呆気に取られたシンジの手からおべんと箱を掠め取る。
 
そうね。ワタシでも、アンタと同じ状況なら同じように決断したと思うわ。誰が好きこのんで好意を寄せてる相手に、自分の嫌な面を見せたがるもんですか。
 
「ヒっカリー!おべんと食べよ♪」
 
踵を返したアスカが、窓際にたたずむヒカリに駆け寄った。楽しげな口調は、ちょっと無理してテンションを上げてんのだと、ワタシには解かる。
 
まさか加持さんを引き合いに出して、無下にあしらわれるとは思ってなかったんだろう。楽しげに振舞うアスカを、シンジが呆然と見やってた。
 
 
****
 
 
リビングに布団を敷いた加持さんと一緒に寝ようと、シンジが布団を持ち出してきた。今日アスカを連れ戻そうとしたことといい、最近シンジはヒトと積極的に会話を持とうとしているみたい。
 
それは、いい傾向なんだと思う。こんな身の上になってようやく解かったことだけど、ヒトは話し合わなければお互いを理解できないものだもの。
 
床の上で寝るのは抵抗あるけど、こういうとき布団って便利ね。
 
 
「もう寝ました? 加持さん?」
 
「いや、まだ」
 
加持さんもきっと、シンジがなにか話したがっていると感づいてたんでしょうね。寝ようっていう素振りが、感じられなかったもの。
 
「僕の父さんって、どんな人ですか…?」
 
「こりゃまた唐突だな。葛城の話かと思ってたよ」
 
もしかして加持さんは、身構えてたのかも知んない。肩の力が抜けたような、そんな気配がする。
 
「加持さん、ずっと一緒にいるみたいだし」
 
「一緒にいるのは副司令さ。君は、自分の父親のことを訊いて回っているのかい?」
 
自分の親のことが気になるのは、子供なら当然だと思う。最も身近な、自分のルーツなんだもの。そんなことナイって、存在ごと否定してたワタシだって、結局…
 
「ずっと、一緒にいなかったから…」
 
「知らないのか」
 
「でも、このごろ解かったんです、父さんのこといろいろと。仕事のこととか。母さんのこととか。だから…」
 
「それは違うなぁ。解かった気がするだけさ。人は他人を完全には理解できない。自分自身だって怪しいもんさ。100%理解し合うのは、不可能なんだよ」
 
…なんだ、加持さん。シンジにはこんなコト話してくれるんだ。前の時もこうして、こんな話をしてたのかしら?
 
加持さんの人生観、今のワタシなら解かるような気がする。ううん、今のアスカだって、加持さんの言葉なら必死に理解しようとするわ。
 
「ま、だからこそ人は、自分を、他人を知ろうと努力する。だから面白いんだなぁ、人生は」
 
こんなふうにワタシにも接してくれてれば、ワタシもモ少し、素直になれてたかもしれないのに。
 
…ずるいなぁ、シンジばっかり。ワタシ、ここに来て初めてアンタに嫉妬しちゃった。前の時に、みんなしてシンジばっかり甘やかしちゃってる。なんて思ったりしたケド、あながち被害妄想じゃなかったのね。
 
だからと云って、それでシンジが救われてるっていうワケでもなさそうなのが悲しいんだケド。
 
 
「ミサトさんとも、ですか?」
 
「彼女というのは遥か彼方の女と書く。女性は向こう岸の存在だよ、われわれにとってはね」
 
そう思ってわざわざオンナを遠ざけてんのは、オトコのほうじゃないかしら…
 
今、こうして寄り添ってみて、ワタシはシンジのことがよく解かるような気がする。そこに思い込みがあったにしても、それはオトコとかオンナとかに関係のない、ヒトとして普遍の不理解だと思うもの。
 
「男と女の間には、海よりも広くて深い河があるって事さ」
 
そう認識することで溝を拡げてるっていう意味では、間違ってないケドね。
 
「…僕には、大人のヒトは解かりません」
 
 
****
 
 
 ≪ 目標接近! ≫
 
 ≪ 全機、地上戦用意! ≫
 
送られてきた映像は、先鋒に立ってる弐号機に随伴してる部隊からのモノ。
 
日没の早い山際の、夕陽を背負って歩いてくるのは、
 
「えっ? まさか、使徒…? これが使徒ですか?」
 
エヴァ…、参号機。
 
≪そうだ。目標だ≫
 
実に淡々と。 シンジのパパの声音には、感情ってモンが一切感じられない。
 
「目標って、これは、…エヴァじゃないか」
 
  ≪ そんな、使徒に乗っ取られるなんて… ≫
 
発令所越しのアスカの呟き、シンジには聞こえてないでしょうね。言った憶えがあるワタシだから、見当がついた。
 
「やっぱり、人が…子供が乗ってるのかな…同い年の…」
 
≪アンタまだ知らないの!? 参号機にはね…≫
 
開かれた通信ウィンドウはあっという間に砂嵐になって、
 
「アスカ?」
 
≪きゃあぁぁあぁぁぁっ!≫
 
…途絶えた。
 
「アスカっ!?」
 
 
   ≪ エヴァ弐号機、完全に沈黙! ≫
 
…ごめんね、シンジ。ワタシもアンタにバカトウジのことを教えるべきか、ずっと迷ってた。
 
   ≪ パイロットは脱出、回収班向かいます ≫
 
ミサトのこと、とやかく言えた義理じゃないわね。
 
   ≪ 目標移動、零号機へ ≫
 
アンタが何も知らないままに、すべてが終わってくれればって思っちゃったもの。
 
   ≪ レイ、近接戦闘は避け、目標を足止めしろ。今、初号機を廻す ≫
 
でもね、シンジ。たとえミサトでも、こうなることが判ってたらきっと教えたと思う。だからね…
 

 
『…シンジ。フォースチルドレンはきっと、トウジだわ』
 
「えっ!『ええっ!? …どういうこと?』
 
『トウジが校長室に呼び出されたあの時、学校にネルフの車が来てたわ…』
 
『…嘘!』
 
もちろん、嘘よ。
 
『授業に遅れてきても咎められなかったし、それに、今日なんでトウジが学校を休んだんだと思う?』
 
『…まさか!』
 
『もちろんその可能性が高いってだけ、ワタシの推測だもの』
 
 
   ≪ 零号機、中破。パイロットは負傷 ≫
 
「そんな…」
 
ワタシとの会話に気を取られていたシンジは、零号機がどんな目に遭ったか気付いてないだろう。…それでいいわ。
 
≪目標は接近中だ。あと20で接触する。おまえが斃せ≫
 
「でも、目標って言ったって…」
 
背負った夕陽を厭うように背中を丸めて、参号機が歩いてくる。
 
「…トウジが乗ってるかもしれないのに?」
 
唸りを上げるや膝を落として、参号機が身を投げ出すように跳ねた。そのまま回転して、足の裏からぶつかってくる。
 
田畑を削りに削って吹っ飛んだ初号機が、山肌に当たってようやく止まった。
 
シンジが、すかさず参号機の行方を追う。四肢のすべてを折り曲げるようにして地に伏せた参号機の、その延髄に焦点。
 
「エントリープラグ…やっぱり、人が乗ってるんだ!」
 
立ち上がった途端に、首を絞められてた。
 
あんな場所から!こんなに手が延びるだなんて!!
 
倍加する力。左手も延ばしてきたらしい。
 
「…ぐっ、ぐあっ!」
 
『シンジ!戦いなさい!』
 
『…だって、トウジが乗ってるかもしれないんだよ!』
 
初号機が山に叩きつけられた。山肌に押し付けるようにして、参号機が喉を潰しにくる。握力だけで絞めていた先ほどまでとは、比べ物にならない力で。
 
『バカシンジ!よく考えなさい。アンタがここで死んだらっ、どうなるかを!!』
 
『…僕が、ここで…?』
 
  ≪ 生命維持に支障発生! ≫
 
『そうよ。第7使徒を思い出しなさい』
 
『第7? 分裂したヤツ…?』
 
  ≪ パイロットが危険です! ≫
 
『…N2爆雷!?』
 
 
≪シンジ、なぜ戦わない!?≫
『シンジ、戦いなさい。トウジを救けるために戦えるのは、アンタだけなのよ』
 

 
『救ける…ために…』
 
 …
 
締め上げる両手に抗って、シンジが参号機を睨みつける。
 

 
「…わかった。戦うよ。僕が戦う!」
 
  ≪ よし、シンクロ率を60%にカットだ ≫
 
副司令!? ナイス!シンジに伝わる苦しみが軽くなった。
 
『シンジ!膝、膝で参号機の肘を蹴り上げて!』
 
跳ね上がった右膝が、参号機の左肘を挫く。そのまま振り上げたつま先が顎を捉える。
 
…やるじゃない。
 
参号機が怯んだ隙に、回り込むように背後へ。
 
『狙いはエントリープラグ』
 
『…判ってる』
 
延髄に向けて伸ばした手が、体を翻した参号機の右手に弾かれた。その手がまたも喉元めがけて延びてくるけど、同じ手喰うほどシンジはバカじゃないわよ。
 
『それ、掴んで倒す!』
 
首を傾げて躱したシンジが、その手に左手を絡めて引き倒す。
 
『踏んで!』
 
つんのめった参号機の肩に右手をかけて地面に押し付けると、背中を踏みつけて固定。すかさず延髄に絡みついた菌糸みたいなのを引き千切る。…だけど、プラグは排出されない。
 
『引っこ抜くわよ。プラグ周辺ごと抉り取るつもりで!』
 
初号機が、両の貫き手をプラグの両サイドに突き入れた。おそらく、それでどっかのロックが外れたかしたんだろう。途端にプラグが排出される。
 
「やった!」
 
『いったん下がるわよ』
 
鳥の雛でも庇うようにプラグを抱えて、初号機が駆け出す。目指すは、山陰に控えた指揮車。
 
 …
 
「よし!」
 
それはそれは丁寧にプラグを降ろした瞬間、視界が吹っ飛んだ。もちろん吹っ飛んだのは初号機のほうで、吹っ飛ばしたのは参号機。…なんだろうケド、ちょっと見えなかった。
 

 
さんざん転げ回って、ようやく初号機が止まる。ケーブルに引き摺られて跳ねた電源車が、初号機の足元に落ちた。視界の隅で状況表示を確認。やっぱり電圧が不安定になってる。切れなかっただけマシだけど…
 
『シンジ、立って!』 
 
立ち上がった途端、参号機が視界から消える。最初のときと同じ、前方宙返りで跳んできたんだ。…シンジが半歩下がって打撃点を逸らした。…と思ったのに、打ち下ろすような一撃を喰らう。そこからさらに回転して頭突き…だなんて!
 
「…ぐっ」
 
つんのめった初号機が、間髪入れずに叩きふせられた。
 
!!…延髄に衝撃。参号機が…ストンピング!?
 
起き上がろうとするシンジの努力をことごとく踏み潰して、蹴り下ろされる参号機の足の裏が容赦ない。
 
 
…トウジって人質が無ければ、コイツなんか問題ないと思ってた。
 
なのに、なに? この強さ!?
 
 
  ≪ …構わん。パイロットと初号機のシンクロ率を全面カットだ! ≫
 
…えっ?
 
  ≪ そうだ。回路をダミープラグに切り替えろ! ≫
 
…ダミープラグ?
 
  ≪ 今のパイロットよりは役に立つ!やれ ≫
 
オートパイロットのこと?
 
途端にシンクロが切れた。…ううん、切られたのね。いったん途絶えたモニターが、非常灯への切り替えとともに復帰する。視界すべてが赤く染まってて、気持ち悪い。
 
「なんだ…?」
 
背後で唸りをあげたディスクドライブに、シンジが振り向いた。
 
「何をしたんだ!? 父さん!」
 
 …
 
いま機体を震わしたのは、初号機の咆哮!?
 
「…なっなに?」
 
腕立てふせの要領で、初号機が唐突に体を持ち上げる。踏みつけられてることなど気にかけもせず、実に無雑作に。蹴り下ろしてた足をとられて、参号機が体勢を崩してた。
 
『…暴走、してるみたいね』
 
すかさず立ち上がって、さっきのお返しとばかりに首を絞める。
 
「暴走?」
 
そっか、初号機が暴走してるときって、シンジは大抵…
 
『ダミープラグとか言ってたわ。初号機を暴れさせてるのよ。発令所の命令でね』
 
「そんな…」
 
首を絞められても、参号機が怯んでる様子はない。即座に絞め返してくる。だけど、暴走状態じゃなかった初号機すら絞め殺せなかった参号機に、勝ち目などあるわけなかった。
 
 …
 
ごきり。とイヤな音をたてて、参号機の頚椎が折れる。驚いたことに、それでも参号機の抵抗が止まんない。
 
不機嫌そうに唸った初号機が、参号機を投げ飛ばす。
 
山肌にたたきつけられた参号機に向かって前方宙返り。胸部装甲に両膝を叩きつける。そのままマウントポジションをとると、戦闘は、あっという間に一方的な殺戮へと変わったわ。
 
 
かつて、回収班と合流したワタシは、号泣しながら懇願するシンジの絶叫を聞いていた。初号機を止めようと、懸命に動かすレバーの音まで鮮明に憶えてる。
 
誰かを傷つける恐れがないから、今回シンジは泣き叫ばないんだろう。それでも、必死に吐き気を堪えてた。下手に吐いたら窒息するから…。ううん、吐いてしまえば歯止めが効かなくなるって解かってるんでしょうね。…いろんなコトの。
 
 
 
ようやく初号機が止まった時、辺りはバラバラ殺人事件の現場さながらだったわ。
 
こんな状態で、前回フォースチルドレンはよくあの程度の負傷ですんだわね。
  
 
                                         つづく
2007.08.01 PUBLISHED
2007.08.24 REVISED


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