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No.29737の一覧
[0] 試される大地【北海道→異世界】[石達](2012/11/29 01:19)
[54] 序章[石達](2012/11/29 01:05)
[55] 起業編1[石達](2012/11/29 01:06)
[56] 起業編2[石達](2012/11/29 01:07)
[57] 起業編3[石達](2012/11/29 01:08)
[58] 国後編1[石達](2012/11/29 01:08)
[59] 国後編2[石達](2012/11/29 01:09)
[60] 転移と難民集団就職編1[石達](2012/11/29 01:09)
[61] 転移と難民集団就職編2[石達](2012/11/29 01:10)
[62] 礼文騒乱編1[石達](2012/11/29 01:10)
[63] 礼文騒乱編2[石達](2012/11/29 01:11)
[64] 礼文騒乱編3[石達](2012/11/29 01:11)
[65] 礼文騒乱編4[石達](2012/11/29 01:12)
[66] 戦後処理と接触編1[石達](2012/11/29 01:12)
[67] 戦後処理と接触編2[石達](2012/11/29 01:13)
[68] 嵐の前編[石達](2012/11/29 01:14)
[69] 北海道西方沖航空戦[石達](2012/11/29 01:14)
[70] 大陸と調査隊編1[石達](2012/11/29 01:15)
[71] 大陸と調査隊編2[石達](2012/11/29 01:16)
[72] 大陸と調査隊編3[石達](2012/11/29 01:16)
[73] 魔法と盗賊編1[石達](2012/11/29 01:17)
[74] 魔法と盗賊編2[石達](2012/12/08 01:24)
[75] 決戦[石達](2012/12/08 01:20)
[76] 盗賊と人攫い編1[石達](2012/12/31 22:47)
[77] 盗賊と人攫い編2[石達](2013/01/19 21:24)
[78] 盗賊と人攫い編3[石達](2013/01/19 21:23)
[79] 道内情勢(霧の後)1[石達](2013/02/23 15:45)
[80] 道内情勢(霧の後)2[石達](2013/02/23 15:45)
[81] 外伝1 北海道航空産業の産声[石達](2013/02/23 15:46)
[82] 東方世界1[石達](2013/03/21 07:17)
[83] 東方世界2[石達](2013/06/21 07:25)
[84] 東方世界3[石達](2013/06/21 07:26)
[85] 幕間 蠢動する国後[石達](2013/06/21 07:26)
[86] 東方世界4[石達](2013/06/21 07:27)
[87] 東方世界5[石達](2013/06/21 07:27)
[88] 東方世界6[石達](2013/06/21 07:28)
[89] 東方世界7[石達](2013/06/21 07:28)
[90] 世界観設定[石達](2013/06/23 16:49)
[91] 人物設定[石達](2013/06/23 16:57)
[92] 東方世界8[石達](2013/07/15 01:51)
[94] 帝都ティフリス1[石達](2013/08/09 02:02)
[95] 帝都ティフリス2[石達](2013/08/12 00:21)
[96] 帝都大脱走1[石達](2013/09/23 00:16)
[97] 帝都大脱走2[石達](2013/09/22 22:47)
[100] 帝都大脱走3[石達](2014/02/02 03:03)
[101] 対エルフ1[石達](2014/02/02 03:03)
[102] 対エルフ2[石達](2014/02/05 22:45)
[103] 対エルフ3[石達](2014/02/05 22:45)
[104] 対エルフ4[石達](2014/02/05 22:46)
[105] カノエの素性1[石達](2014/02/05 22:46)
[106] カノエの素性2[石達](2014/02/09 13:13)
[107] 別れ、そして託されたモノ1[石達](2014/02/09 13:14)
[108] 別れ、そして託されたモノ2[石達](2014/02/09 13:16)
[109] 決意[石達](2014/02/09 13:42)
[110] 新しい風[石達](2014/04/13 10:41)
[111] 交流拡大、浸透と変化1[石達](2014/04/13 10:41)
[112] 交流拡大、浸透と変化2[石達](2014/06/04 23:46)
[113] 交流拡大、浸透と変化3[石達](2014/06/04 23:47)
[114] 交流拡大、浸透と変化4[石達](2014/06/15 23:55)
[115] 交流拡大、浸透と変化5[石達](2014/06/15 23:55)
[116] 平田、大陸へ行く1[石達](2014/08/16 04:02)
[117] 平田、大陸へ行く2[石達](2014/08/16 04:02)
[118] 対外進出1[石達](2014/09/14 08:19)
[119] 対外進出2[石達](2014/08/16 04:04)
[120] 対外進出3[石達](2014/10/13 01:58)
[121] 回天1[石達](2014/10/13 01:59)
[122] 回天2[石達](2014/10/14 20:24)
[123] 回天3[石達](2015/01/18 08:20)
[124] 回天4[石達](2015/01/18 08:24)
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[29737] 帝都ティフリス2
Name: 石達◆48473f24 ID:50ab87b3 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/08/12 00:21
カノエが生き残る事を決意したのとほぼ同時刻
帝都ティフリスから遠く離れた札幌の地において、北海道の対サルカヴェロ政策が大きく動き出し始めていた。


北海道連邦政府ビル

会議室

「……対サルカヴェロとの接触を前提とした東方派遣部隊の状況ですが、既に国後から先遣隊と特殊施設隊が出発し、既に拠点と埠頭の造成工事が始まっています。
なお、万一の際の即応部隊として、国後にて既に部隊が待機に入っております」

会議室に集まる閣僚の面々を前に、スクリーンに映し出される写真にあわせて現在の状況を報告する担当官。
彼の説明によれば、既に北海道側の行動は東方領域で始まっているとの事だった。
スクリーンに映し出された写真には、ちょこんと海に突き出た岬の先端部が映し出されている。
まるで、硫黄島の擂鉢山のように岬に張り出した丘の下部に、色々な資材が次々にヘリにて空輸されている様子が写真には写っている。

「わかりました。では、引き続き拠点の造成をお願いします。
即応部隊の方も何か動きがあるかもしれませんので、待機を継続してください。
今回の件について、他に何か問題点などはありませんか」

駆け足にで進んでいる対サルカヴェロとの接触に向けた準備。
高木はどこかで不備が出てくるだろうと予想しつつ担当官に聞く。
なにせ湾口設備も何も無いところに物資を揚陸し、拠点を造成するのだ。
今はロシア軍のMi-26大型ヘリコプターにより機材を運んでいるが、コスト的に非効率きわまりなく、どこかしらで無理が出てきそうではあった。

「それについて、現地の進捗はまずまずと言ったところですが、問題は国内です。
今回の派遣で色々と世論に波風が立っております。
おおよその国民感情としては、一部左派系の運動家やマスコミが、道外への施設建設は侵略だと騒いでいる節がありますが
大方の世論としては、外地に施設建設をする余裕があるなら、未だ産業の足腰が弱い国内開発に回せといった感じでありましょうか」

「まぁ 確かに現段階で発表された情報だけを見たら、無駄な箱物に思えてしょうがないわね」

「はい。ですが、かのレポートを読んだ後では、この程度の反発は気にしていられないでしょう」

そう言われて高木が目を落とす先にあるのは、一冊の冊子。
後の世でツィリコレポートと呼ばれるそれに、問題の記述はあった。
レポート内の主な対象は、東方の覇権国家であるサルカヴェロ帝国。
その帝国が、未だどの国家にも属していない亜人居住地の平定に乗り出している。
現在、遠征軍の主力は征服した港湾都市にて行軍を止めているものの、従属部族によって編成された部隊が独自に動きを進めているという。
レポートでは、そんな好戦的な国家との緩衝地帯を設けるために、東方全域が制圧される前に北海道に近い側の一部を確保するように進言して結ばれている。
それは奇しくも、先日、ステパーシンが高木に囁いた内容を補強するようなシロモノであった。
数日前に相手と接触した将校が書くには、あまりに早すぎかつ内容が整っていたソレは、冷静に考えてみれば代筆者の存在が疑われるのであるが
転移後に何度も紛争を経験していた高木を含めた閣僚らは、そんな些細な事には気を留めなかった。
それよりも、続けさまに巻き起こる危機の方に意識が集中してしまったのだ。
レポートの中で警鐘される危険。
だが、それでも自分の信条に従って領域拡大に渋る閣僚には、ステパーシンが最後の一押しの言葉をささやいた。
彼曰く、日本は帝政ロシアとの争いで、自国に戦火が及ぶのを避けるために満州と朝鮮半島を緩衝地帯とした。
今回もそれと同じだと。
本土防衛のためにはなりふり構っている余裕は無いと。
本国に危害が及ぶのに比べたら、干渉地帯を置くくらいは当然だとステパーシンハは彼らに語る。
かくして、不安に駆られた閣僚たちの意見は纏まり、政府では東方への勢力拡大が方針として決まる事になったのだ。
だが、そんな政府方針も全てが国民に伝えられるわけではない。
領土拡大で無駄に左派を刺激したり、民族主義者を喜ばせても得など何もない。
よって、今回、東方に施設を建設する目的は、安全な交通のための灯台建設となっている。
これについては、灯台を建設予定の海峡が、内海と外海との交通に欠かすことができないジブラルタルのような要衝だと、北海道近海を通る船の航路の解析で判明しているため、一応筋は通っている。
だが、いつの世も政府の発表を全く信じない人々は一定数はいるもの。
深読みしすぎる連中からは、軍が東方に行くこと自体が侵略の第一歩だと、非常にけたたましい非難の嵐が巻き起こった。
その激しさは、高木たちに報告する担当官の表情からも、その面倒くささが伺える。

「今回派遣されている部隊は、国後のロシア兵が主力と言えど、わざわざ北海道から渡ってきた市民団体が基地周辺での反対集会等を行う事によって色々と障害が出ています。
主に軍事や箱物公共事業が絡むと何でも反対と言う団体ですね。裏では野党からの資金援助があると思われます。
今は基地周辺でのデモ集会程度ですが、これが道内各都市に広がって更にマスコミも加わって扇動すれば色々とまずいです」

デモやマスコミ対策……
今回の件は、今後の対応を考えれば、色々と無駄な労力をかけねばならないのが明らかであった。
関係各所の入り口を占拠し、罵声を浴びせ、自分達の理想だけを語る人々。
例え、どんな世界に行こうとも全くブレないかれらのスタンスは、ある意味称賛に値するが、それが自分の味方ではないとなると話は別である。
皆が一様に困ったもんだと苦笑いを浮かべるが、そんな彼らを小馬鹿にしたように、一人の声が会議室に響く。

「ふん…… それにしても、日本人の世論と言うのも少々面倒です。
"偶然"にも国後で演習前だった部隊が動かせる状態だったのにも関わらず、折角の領土拡大のチャンスに施設部隊しか動かせないとは……」

折角の機会をと言わんばかりにステパーシンは溜め息を吐く。

「ステパーシンさん。こちらで左派の活動が盛んなのは、ソ連時代にそちらが種を蒔いたからでしょう?
公式発表では、交通の要衝への灯台設置及び探検基地の設置の為の部隊移動ですが、こんな回りくどい事をしてるのも、いきなり軍を大々的に動かせばマスコミや市民団体が侵略だの何だのと大騒ぎするにきまってますから。
まぁ…… 既に一部でそう騒がれてますけど……
それでも、これ以上拡大させないために、公式のお題目に沿って行動する必要性があるんです!」

高木の言う通り、北海道が赤い大地なのは、冷戦時代にアカの内通者にソ連が資金を供与していたという事実がある。
そんな時代に合わせて肥大した左派組織は、冷戦崩壊から30年以上たった現代でも生き生きと活動していた。
どんな時でも反政府活動と偏った平和運動を忘れない左派組織とメディア。
転移後にステパーシンによって影ながら打撃を受けていたと言ってもまだまだ健在である。
今回の部隊派遣でも、軍に所属する部隊が施設建設へ行くと言う事に一部メディアは噛みついてきている。
彼ら曰く、戦地でないなら民間だけでいいのでは?という言い分なのだ。(民間だけであっても、無駄な公共事業と叩かれるのであるが……)
高木は、そんな厄介事の元凶を育てたと言っても過言ではないロシア人が、日本人に対して面倒くさいとのたまっている事に皮肉を持って言い返した。
だが、そんな高木の言葉をステパーシンは気にしない。
一本取られたと言わんばかりに、笑って高木に返事をする。

「今日の大統領閣下は、なかなか痛い所を突いてくるな。
いつもなら、次の選挙がとか言ってビクビクしているのに」

そう言えばそうだったと、笑って答えたステパーシン。
そんな彼を見て、高木はため息交じりに話を続ける。

「最終的にはどんな反発を突っ切っても、想定される最悪の事態には供えなければなりませんから。
どうせ、みんな腹は括ってるんですし、もう怖いものなんてないわ。
国内対応の変更はありません!あくまで公式発表のゴリ押しで行きます!」

高木はそう言って、目の前で手をパン!と打ち合わせると、これ以上の余計な口出しは認めないとばかりに場を静める。
静かになった会議室。
彼女はそれに満足すると、大きく鼻息を吐きだして、次の話を切り出した。

「……と、まぁ これ以上の無駄話は事はさておいて、もっと実のある話をしましょうか。
話は変わるけど今回派遣した特殊施設隊について中々面白い話を耳にしました。
実際、使えそうなのですか?"彼ら"は」

今更左派がどうのこうのと言っても仕方がない。
高木は、いい加減にその話を打ち切ると、それよりもっと実のある話として
各方面から聞こえてきた噂がどうなのかと担当官に問う。

「大統領閣下の質問に簡潔に答えさせていただくと、イエスです。
今回は、軍の施設隊に加え、作業を迅速に進める為に地方からゼネコンを一社連れて行かせてますが
彼らの働きぶりに、ゼネコンが彼等を引き抜こうと軍に掛け合ってきてます。
それにしても、こちらに下った魔術師で試験的に編成した戦闘工兵がここまで使えるとは思いませんでした。
最初は射程と火力で近代兵器に劣る彼らを、どのように運用しようか迷った物ですが、我々の知識と彼らの魔術を混ぜた野戦築城は素晴らしいの一言です。
道内での実験では、こちらの指示通りに水系統の魔術をコンクリートに発現させた場合、1/4の養生時間で通常の物と同じ強度が出たそうです。
それに、土系統の魔術は、パワーショベルの代用として使用可能との事で、土建屋にとっては是非とも欲しい人材だそうです」

北海道へ下った魔術師。
それは礼文島での生き残りの魔術師であった。
最初は捕虜生活や死んだ仲間の恨みという事で反発の多かった彼等であったが、北海道の文明に触れるにつれ寝返る者も多々出ていた。
既にクラウスの帰還と共にエルヴィス公国へと帰還することが可能であった彼等であったが、北海道の外交活動に協力していたメディア嬢を始め
理由は様々だが、北海道への帰化を希望する者が多々出ていた。
便利で快適な科学の発展した社会に、多種多様なエンターテイメントにグルメ。
エルヴィス領では得る事が出来なかった優れた文明に彼らの心が動かされたのだ。
そして、北海道がクラウスの後ろ盾になった事により、昨日の敵国が今日は味方となったのも大きかった。
クラウス曰く、故郷の為に北海道の全てを学んで来いとの一言は、強く彼らの背中を押した。
北海道で生活する為に必要な、家族を含めた北海道での永住権。
それを得る為に、多数の捕虜たちが北海道への協力を決めたのだった。
そして、そんな彼らを待ち受けていたのは大まかに二つの道。
一つは、新しく研究開発の拠点が置かれた北見工業大学での魔術知識の供与と研究。
そしてもう一つは、その軍事利用可能性を研究する為に編成された陸軍魔術研究部隊への配属であった。
最初は前線部隊として使えるかの可能性を検討されたが、限られた人的資源を生かすにはごく少数の特殊部隊として育成するか、纏めて後方支援に充てるかの二つとなった。
何せ純粋な攻撃力や射程では火器に劣り、正面戦闘では現代兵器に混じって能力を生かす場面が無い。
今後、魔術の追う様に関する研究が進めば違った展開になるのかもしれないが、現状では後方部隊として運用するのが一番有用である。
そして、結論から言えばそれは大正解であった。
軍の施設科から土木技術のノウハウを授けられた彼らの有用性は想像以上の結果をもたらす。
水系統が得意な魔術師は、生コンを攪拌し、コンクリートの養生時間を短縮させた。
土系統が得意な魔術師は、基礎の造成にその威力をいかんなく発揮している。
更に火系統が得意な魔術師は、従来は広範囲に炎を拡散させることに力を注いでいたが、逆にその熱量を一点に集中することにより金属の溶接を可能としていた。
彼等から話を聞くと、溶接に関しては小規模ながらこの世界の一部の工房では既に行われていたそうだが、それが北海道の技術と混じる事により大いに発展の兆しを見せている。
溶接棒と部材の突合せ部を含めた溶接箇所全体を直接加熱することによって、北海道内でのテストではテストピースでの溶け込み不良はゼロ。
放電ではない為にスパッタも飛ばず、野外であっても魔術で焼鈍を実施し(長時間の熱処理は相応の交代要員を要したが)内部応力を除去できた事に北海道側からの技術者からも驚きの声が出ていた。
それでも、マンパワーである限り生産性に限りがある事、品質は魔術師としてのスキルに依存するという弱点はあるが、それでも魔術師が道内の産業界へ参入した際のインパクトは十分すぎると予想された。

「そうですか。
ドワーフ等の亜人達と並んで、魔術師たちも色々と役に立ちそうですね。
コレで作動原理が分かって機械で代用できれば最高なんですが……」

そう言って彼女は愚痴を漏らすが、現実は彼女が想定していたほど甘くは無かった。
何せ、前の世界には無かった魔導の力を利用した技術体系は、全く持ってその作動原理が理解の範疇を超えていた。
恐らく未知の力を利用しているのか、エネルギーの流れが一切不明。
基礎研究の始めてみたものの、最初の一歩すら進めていない始末。
分かりやすく説明すると、AとBを行えばCという結果が出るのは分かったが、AとBの間に何が行われているのかさっぱり分からないのだ。
そのような理由から、現在の北海道では一体どのような反応が起こっているのか調べるよりも、前述のような応用面の研究に重点がシフトし始めていた。

「まぁ 分からないものはしょうがないですね。
魔導研究は今後に期待しましょう。
他に、この東方への派遣に関して何かありますか?」

何も時間が限られているわけではない。
早ければ早いに越したことは無いが、魔導研究は始まったばかり。
今後の成果に期待すればいい。
高木はそんな未来の成果を楽しみにしつつ、まだ終わってはいない会議を進行させようとする。

だが、その時だった。

一束の紙を持った職員が、会議に参加していた外相である鈴谷の元に駆け寄る。
鈴谷は、職員の耳打ちを聞き、パラパラと紙に目を通すと顔をしかめつつも高木に話しかける。

「大統領。
たった今、本件に関してエルヴィス公国からの連絡が有りました。
なんでも、東征するなら援軍は何時でも出すと……」

「援軍ですか?
といっても、彼らには何も伝えてないのですけれど……
こちらに恩を売る機会とでも考えているんでしょうかね」

鈴谷の急な報告に、高木もエルヴィスの真意を考えて首をひねる。

「何でも、サルカヴェロの近況と北海道側の動きから推測したそうです。
彼らの言をそのままお伝えしますと、"北海道が戦に赴くならば、何時でもそれを支える用意がある。全ては我らの友好の為に"と言葉ではそう言っておりました。
友好関係の深化が目的であると……」

「言葉では?
それには何か含みがあるのですか?」

「それが…… この報告書に添付されている大使館の盗聴記録の考察によりますと、どうも彼らの本当の目的は、友好の深化も目的の一つではありますが
我々からの軍事顧問団が提供したドクトリンや兵制のテストをしたいような感じを受けましたと結論付けられています」

「テスト…… ですか?
というか盗聴記録?」

「そうです。
盗聴はステパーシン内務相の管轄する内務省警察が行っている防諜活動の一環です。
この報告書の関連資料も内務省警察の資料がソースになってますが、ここまで早く報告書にまとめられたのも、外交・対外諜報面で内務省と外務省が緊密に連携をしている成果ですね。
コレによりますと、非公式にではありますが、向こうからも万が一サルカヴェロとの戦端が開かれるようなことが有れば、自分達を盾にしてほしいと言っているようであります」

「そうですか。
それにしても盾とは……
でも、仮に戦闘になった場合、彼らに頼ると言う事は借りを作る事になりそうですが、その点は大丈夫?」

高木は、無駄に借りを作ることになるのではないかと危惧し、その可能性を指摘してみるが
その指摘に他の出席者からも言葉が返ってくる。

「何、自分達で盾になりたいといっているんだ。
やらせてやれば良いじゃないか。
仮に情勢が悪化したら、増援部隊が車での時間稼ぎになってもらおう。
これで、彼らが貸し借りだの言ってきた時は、"我らの友好の証明となった"とでも返しておけばいい」

そう返事をしたのは、政府内で一番胆力のありそうな外見の男。武田勤。
彼は役職こそ科学技術補完機構の長官だが、元々は政権与党の幹事長も勤めた男。
進むべき時には動じず決断できるだけの図太い神経があった。
だが、それでも今回ばかりは他の閣僚からも異論は出る。

「だが、自分達で対処できる事に対して無駄に借りを作る事はないんじゃないか?」

「無駄なものか。
小銃弾は別としても、今の北海道での大口径砲や重火器の生産状況はお寒い限りだ。
弾薬を温存できる場合は、それに越した事はないよ」

航空機用エンジンすら自給できない今
ミサイル等の兵器の自給はまだまだ先である。
武田の言葉通り、現在の北海道で、ミサイル等の高度な兵器は古代文明の超兵器並みの価値があった。

「それも一理あるな。
現状で一発のミサイルの価値は、義理より遥かに重い。
今回は公国を十二分に利用するとしよう。
仮に見返りを求めてきた場合は、既に政府内で決まっていた繊維産業の技術供与を前倒しして公国に通達するまでだ。
後で供与予定だったものを前倒しして与えても何も損はないだろう」

仮に見返りを求めてきた場合は、既に内々で供与が決定している技術の引き渡しを早めるだけ。
全くもって北海道側にとって損はない。

「確かにそうね。
まぁ それにオマケして、東方への移動はこちらの船舶とヘリを使わせてあげましょうか。
彼らの小さな帆船より、よっぽど早いわ」

未だ施設の建設現場に揚陸用の埠頭が完成していない為、稚内からヘリでの空輸となるのが、それでも帆船よりはよっぽど早い。
北海道で手の空いた高速フェリーはいくらか余っているし、現状で使いどころのない元青函連絡船のナッチャンシリーズは、満載時でも36ノットは出る。
今だ文明的に遅れた彼等にそれらを見せつければ、北海道に対する畏敬の念もさらに増すはずだ。

「よし!
では、エルヴィスについては、協力に感謝する旨と、移動の支援についてそのように返答しておいてください。
そして、同時に今回のサルカヴェロの動きに対し、他の国々がどう動いているのか情報を集めておいてください。
まぁ こっちの世界は技術的には遅れていると言っても魔導技術がありますからね。
連絡くらいならエルヴィス同様に迅速に伝わってる事でしょう。
今はまだ外交官の交換も行っていない国が大半ですが、エルヴィスに寄った商船など情報源を問わず、広範に集めておいてください。
我々には各国間の友好関係の情報も足りないから何とも言えないけど。
サルカヴェロが動くことによって、連動する国家もあるかもしれませんから」

高木はそう言って外相の鈴谷に命令を下す。
諸国全てに対しての対サルカヴェロ関係の調査。
東方から始まった動乱の波は、静かに……そして世界規模へと広がりを見せ始めているのであった。


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