*スマホから投稿したら改行がおかしい…
後程そこは直します*
「ここがサルカヴェロの首都か……」
色々と問題も発生しつつ、馬車に揺られる事、数日。
遂に拓也達一行は、サルカヴェロの首都ティフリスに辿り着いていた。
帝都に近づくにつれ、徐々に立派に、そして数を増やしていく家々。
王城へと続く道の沿線では、石造りの3階建てや4階建ての建物が軒を連ねていた。
建物の外観は、どこか中央アジアっぽかったバトゥーミとは違い、東欧風に近い装飾が美しい石造りであった。
そんな町並みが、幅50mはあるかという大通り沿いに延々と続いているのである。
それだけ見ても、この国の豊かさが十分にわかるというものだった。
「田舎者には刺激が強すぎたか?
これが帝都ティフリスさ。
今までお前たちが見た事のある西方の町なんかとは次元が違うだろう?
コレが大帝国である帝国の国力さ」
流れる町並みを見て、御者がふふんと鼻を鳴らして自慢する。
その顔には自国に対する絶対の自信が満ち溢れていた。
「まぁ、いつまでも街並みを見ていたい気持ちは分かるが、時間は限られているからな。
今走っているルスタヴェリ大通りを抜ければ帝国議会と王城がある。
そして、お前たちがぶち込まれるのは、豪華絢爛な王城!……ではなく、それを過ぎたところにあるナリカラ要塞だ。
そこに入れば、見れるのは石壁くらいしかないから、今の内に美しい町並みを楽しんでおくんだな」
街並みをぽーっと眺める四人に対し、馬車の御者が小ばかにしたように町を説明する。
お前らの田舎と違ってこっちは凄く栄えているんだぞという優越感がにじみ出ている発言だったが
拓也以外の3人は、小ばかにされた事など気にもせず、珍しそうに街並みに魅入っていた。
そんな彼女らの姿を見て、かつては盗賊として野山をかけていたニノとタマリは当然としても、アコニーまで惚けているのには拓也は釈然としなかった。
「なぁ アコニー。
大都市なら北海道でいっぱい見たんじゃないのか?」
「え?
あぁ 確かに稚内や北見にユジノクリリスクは見ましたけど、ここまで大きく無かったですよね?」
「あれ? 札幌とかは見てなかった?」
「見てませんよ。
私は、稚内から直接ユジノクリリスク送りでしたし」
そんなアコニーの答えに、拓也はアコニーまで惚けている事の合点がいった。
確かに今アコニーが名前を出した都市の中に、見た目の規模でこのティフリス以上の都市は無い。
そのなかで一番大きな北見も、新潟県に匹敵する面積のあるオホーツク管内で唯一10万人越えの人口を有してはいたが、町の大きさで明らかに負けている。
文明レベルでは明らかに勝っている相手に、下に見られる屈辱。
拓也は後日、アコニーに札幌の街並みでも見せてやろうと思ったが、今、重要なのはそんな事ではない。
拓也は、アコニーに「そうだったか」と軽く返事をすると、別の質問を御者にぶつけた。
「なぁ こっちはそのナントカ要塞に連れて行かれるのは分かったが、向こうの馬車は何処に行くんだ?
俺たちと同じじゃないのか?」
拓也は、拓也達の乗る馬車がカノエ達の車列から離れて別の道に差し掛かったのを見て、すぐさま御者に理由を聞いた。
「あ? あぁ、青髪の乗った馬車の事か。
そりゃぁ超重要人物だから、王城の地下牢にでも入れられるんだろ。
普通の犯罪者とは別格だよ。
お前らみたいな一山いくらの犯罪者とは別さ。
まぁ どうせ二度と会えないんだから綺麗サッパリ諦めるんだな」
そういって御者の兵士は、考えるだけ無駄とばかりに軽く言い放つ。
二度と会えない、そんな言葉を簡単に受け取れない拓也だったが、それ以上に慌てる人物がもう一人いる。
「に、二度と会えない?
タ、タマリに何かしたら許さないんだからね!」
御者の言葉に不吉な物を感じ、アコニーが御者に抗議の声を上げる。
だが、その言葉に対しても、御者の対応は淡々としていた。
「いや、お前たちも処刑だよ?
青髪に関係してたんだもん。当たり前じゃないか」
「「……え゛ぇ?!」」
さも当たり前のように死刑だと告げる御者の言葉にアコニーと拓也の声が重なる。
確かに身柄を押さえられた時はカノエと一緒にはいたが、別にサルカヴェロに害を与えあるような事はしていない。
あまりに理不尽な裁きに、拓也は今一度、御者に確認する事にした。
「いや、でも、前に取調べがあるとか何とか言ってたよね?」
「あぁ、あんなのは、青髪の一味かと聞かれてハイと言ったら即死刑だよ。
……形式だけだな」
「……」
拓也達は絶句した。
捕まりはしたが、拓也達の立場やコレまでの経緯を説明すれば、何とかなるんじゃないかという淡い期待もあった。
だが、実際の所、このまま何もしなければ処刑される算段が大きい。
ならば、機会を見て行動に移す方が良いだろう。
「アコニー……」
拓也は御者に聞かれないよう小声でアコニーに囁く。
そんな拓也の態度にアコニーも察したのか、彼女も声を潜めて応えた。
「はい」
「まだイワン達の匂いはするか?」
「風に乗って時々します。
まだ追って来ているようです」
猫系と言っても人族よりは遥かに鼻が利くアコニー。
彼女は、帝都までの移送中、風向きによって時より香るイワン達の匂いに気付いていた。
「何とか連絡を取るんだ。
隙を見て逃げるぞ」
これまでは重装備の護衛隊が近くにいたために行動に移せなかったが、それらと別れるのであれば何かしらチャンスはあるはず。
拓也は、その可能性に賭け、アコニーに意思疎通をする。
何も行動を起こさない場合の結末が見えているなら、多少荒事になっても遠慮はいらない。
何としてでも脱出してみせると拓也は決意するのであった。
そんな拓也達の決意から暫し後
拓也達の馬車と別れたカノエの乗った馬車は、サルカヴェロの王城に到着していた。
巨大な石とローマンコンクリートの様な素材で形成されたその城は、拓也達の世界で例えるなら、尖塔の無いイスタンブールのアヤソフィアと言った感じだろうか。
巨大な箱型の構造にドームの天井が載った姿は、帝国の強大さと建物の美しさを同時に表しているようだった。
そんな豪華絢爛な王宮の中心。
一階からドームの天井まで吹き抜けの大広間。
サルカヴェロの皇帝が謁見の間として使うその場所の中心で、当代の皇帝と大勢の元老院議員に囲まれる形でカノエは立たされていた。
だが、衛兵に連れてこられたカノエは、特に抵抗らしい抵抗もせず、その場で周りを見渡しただけで何も言葉を発しない。
ただ、キリっとした目で皇帝を見つめるだけである。
「流石は青髪の一族。
これから待っているのは処刑だけだと分かっていながら、実に凛としている」
そう言って、最初に口を開いたのは皇帝の方であった。
当代皇帝ジュガシヴィリ
それは元老院から指名された小人族の男であった。
小柄な体格ながらも立派な口髭を生やし、精力に溢れた目をしている。
彼は、青髪を政権から追い落とす際、もっとも多くの青髪を抹殺した男でもあった。
そんな功績によって皇帝にまで上り詰めた男であったが、そんな男を前にしても、カノエは怯える事も無くいつもの調子で言葉を返す。
「まぁ 既に長い事生きましたしね。
死ぬ事に対してはあまり未練はありませんわ。
色々と最後は楽しかったですし」
皇帝の問いかけに、長い髪の毛の毛先を指でクルクルと弄りながら、まるで思い出話でもするかのように答える。
「楽しい?」
「うふふ……
聞きたいですか?
話せばちょっと長くなりますけど」
笑顔を浮かべ、まるで自分の惚気話でも語るかのようにカノエは皇帝に尋ねる。
その顔は、これから処刑されると宣言されたのにも関わらず、恐怖とは無縁の表情であった。
何がそんなに可笑しいのか。
なおも笑顔を浮かべるカノエの態度を見て、皇帝はその理由に興味がわいた。
「……ふん。
まぁ 既にエルフには魔導具にて青髪捕縛の連絡は行ったが、彼らも直ぐに来るわけではない。
夜明け前には着くとは言っていたが、どの道まだまだ時間はある。
その間の暇つぶしに聞いてやらん事もない」
「まぁ 優しい皇帝さんね。
優しいついでに私を逃がしてくれると助かるんだけども」
"だめ?"と、軽い調子でカノエが訪ねる。
あくまで冗談の延長線上の言葉ではあるが、そんな言葉に対しても皇帝は一切譲歩はしない。
「それは出来ん。
貴様らには、かつて同胞達を奴隷のように扱ってくれた過去がある。
その罪を死で以って償うまでは、解放は出来ん」
予想通りの拒絶の言葉。
それも恨み節を込めてである。
カノエは、そんな皇帝の言葉に「心外だわ」と軽く拗ねてみせた。
「奴隷だなんて……
ただちょっと効率的に貴方達を纏めただけじゃない。
それに想像してみて?
もし私達が居なければ、あなた方の暮らしはどうなっていたかしら?
火薬から初歩的な蒸気機関まで、その技術を授けたのは誰?
竜人の操る竜に対抗できる武器を与えたのは?
貴方達に最適な社会基盤は誰が考えたの?
私が思うに、私達が居なければ、貴方達は未だに遅れた農業国として西方諸国の食い物にされていたと思うわ」
今の帝国の中で、皆がそう知ってはいるが誰も口に出さない絶対的な事実。
カノエは、それを口にして恨み節に対する反論を試みる。
だが、それは自立を勝ち取った帝国民にしてみたら受け入れる事が出来ない。
青髪の功罪に対して、罪の部分を徹底的に糾弾して政権を簒奪したのだ。
青髪の功績をそのまま受け入れるには、未だ時間を必要としている。
案の上、カノエを取り巻く元老院の議員からは、そんな事で貴様らの罪が消えるかとヤジや怒号が飛んだ。
口汚く罵る言葉から、丁寧かつ理論的に糾弾する声等で騒然とする広間。
言葉の洪水が渦巻く中、彼らの口を塞いだのは皇帝の腕であった。
皇帝が右手を挙げると、それを見た議員が一斉に口を噤む。
再び場が静寂に戻ると、皇帝は再びカノエに話しかける。
「……確かに技術を伝えた貴様らの功罪は分かっている。
だが、貴様らはその手法を間違えたのだ」
青髪の罪は、その一点に集約される。
皇帝はカノエの反論に対してそう答えるが、当のカノエは皇帝の答えにつまらないとばかりに溜息を吐く。
「そんなものかしらね。
私達としては、貴方達の余計な雑念を取っ払って、全体の底上げをしていただけなのに……
それに、もし仮に私達が放逐されていなかったら、今頃、貴方達は空を縦横無尽に駆けていたかもしれないわね」
「そんなものは、既にあり得ない過程の話だ。
それに我々は既に自分の足で立っている。
貴様らの教えが無くとも、いずれは天地から海の彼方まで全てを征服して見せるさ」
「まぁ 豪気ね」
「ふん。この世の全てに神の偉大さを広めるのは、我々の使命だからな。
それより、貴様が話したがっていた楽しい事とはこんな事か?」
「あぁ それはこんな些細な事より楽しい事よ。
何せ、貴方達の育成に使った何十年かは一体何だったのかと思える位、いい具合の技術を持った人たちが転移してきたんだから。
喜びのあまり、思わず電子の奔流に種を蒔いちゃいもしたわ」
そう言ってカノエは皇帝に意味深な笑いを浮かべる。
そんな彼女の笑顔とは裏腹に、皇帝はカノエの言葉の意味が全く分からないでいた。
「電子?種?
何を言っているんだ?」
「まぁ 貴方達にはまだ理解できないわ。
あと、それは私が二番目に楽しいと感じた事で、私が一番楽しいと思ったのはソコじゃない。
私達の種族が没落以降、何年も孤独に身を隠して西方を彷徨っていたけど、私は北海道で友達や信頼できる人を初めて得たわ。
ほかに仲間が居たと時も助け合ってはいたけども、ソレは意識の並列化による集団的意識の命令によってであり、自意識による行動じゃない。
孤独になって始めて得た自由意志の中で、私は初めて人の善意を体感したの。
今にして思えば、同族たちとの関わりはあくまで細胞の集まりのようなものであって、自分の意思なんて存在しえなかった。
もっとも孤独になった初めのうちは、西方を彷徨い歩いている時に手を差し伸ばしてくる連中の大半が私の体が目当てのような連中ばっかりだったけどね。
でも、世の中はそれが全てじゃなかった。
種族という繋がりの義務や、私の体を狙った下種な打算を抜きにして、攫われた私を助けに来てくれたのよ。
アコニーやヘルガ、社長に皆……
全員が掛替えのない私の仲間だわ」
「……それが、おまえの言う楽しい事か?」
カノエの告白に、皇帝は静かにそれだけかと言いたげに尋ねる。
だが、その皇帝の言葉に対して、カノエの態度はハッキリしていた。
「そうよ!」
ヘルガはキッパリと、自信満々に答える。
まるで自分の宝物を自慢する子供の様に。
「……青髪は悪魔のような奴らだと思ってはいたが、人の善意も知らぬのか。
駆逐した今でこそ言うが…… 本当は別に大した事のない寂しい奴らだったのかもしれんな」
哀れみを含んだ皇帝の言葉。
だが、それに対してカノエは否定しなかった。
そんな事実も全て飲み込み、カノエの身の内からは、決壊したダムの様に言葉が溢れる。
「なんとでも言うが良いわ。
私は自分の居場所を見つけた。
あぁ でも、こんな事を語ると駄目ね。
さっきまでは諦めが済んでいたのに、また未練が出てきちゃった。
やっぱり、さっきの発言は撤回するわ!
貴方達が何を思っていようと、私は死ぬ気はさらさらない!」
カノエはキッパリと宣言する。
処刑だろうが何だろうが、そんなものは受け入れない。
死んでたまるか、と。
そして、それに対する皇帝の言葉も、運命は変わらないという宣言であった。
「ふん。
貴様がどう思おうと、すでにエルフどもはこちらに向かっている。
どのような手段かは知らんが、明日の朝日が貴様の見る最後の陽光となるだろう。
衛兵!
こいつを特別牢へ入れておけ。
何があろうと逃がすんじゃないぞ」
絶対に逃がさない。
それはカノエに対する死の宣告。
しかし、ここまで開き直っただからだろうか、不思議な事にカノエには臆した様子は微塵もない。
「あらあら、特別牢とは結構な待遇ね」
「もともとお前達の作った城で一番厳重な牢だ。
そこで己が一族の罪を見詰め直すがいい」
そう皇帝が言い終ると同時に、巨人族の衛兵がカノエの肩を掴む。
そして、そのまま強引に広場から退場させられても、カノエの笑みが消える事は無かった。
……
…………
カノエの笑みは、王城の地下深くに作られた特別牢でも消えることは無かった。
「ふぅ……
白の地下に作られた石造りの個室に重厚な扉。
それに、解放部は小さな覗き窓だけ。
普通なら絶対逃げ出せないと思うわね」
ニヤリと笑うカノエが居るのは、出入り口の扉を除けば全方面が重厚な石造りである小さな間取り。
ここは、サルカヴェロの王城の中でも際奥かつ最も深い場所に位置する部屋だった。
宝物庫より厳重なその場所は、カノエ達青髪よりサルカヴェロ人に政権が移ってからは、貴人専用の牢屋として使われている部屋だった。
普通に考えれば絶対に脱出は不可能。
今やサルカヴェロにとって超重要犯罪者として拘束されたカノエが捕らえられたのは、そんな特別牢であった。
外界との接触は、時々思い出したように開けられる覗き窓のみ。
定期的な監視が無いのは警備が不十分ではないかと思われるが、ここではそんな心配は要らなかった。
なぜなら牢から外までは一本の通路しかなく、そこまで抜けるには8箇所もの検問を抜けなければならない。
到底、脱獄は不可能な警備体制だった。
だが、そんなところに閉じ込められたにも関わらず、カノエの表情はいたって前向きであった。
最初は興味本位からか短間隔で覗き窓から中を確認されていたが、しばらく静かにしていると衛兵が中を確認する感覚も長くなっていった。
カノエは深夜を待った。
人間の気が緩み始める夜中の静かな時間。
そんな時間帯を待って、カノエは静かに動き始める。
カノエは覗き窓が閉じられている事を確認すると、おもむろに石壁を見渡してとあるものを探す。
といってもソレは探すと言うよりも、知っている物の位置を確認するといった方が的を得ていた。
色と光の加減から、傍目には分かりにくい何かの紋章。
カノエはそれを見つけると、手で撫でながらニヤリと笑った。
「でも、やっぱり彼らも抜けてるわね。
私達が意識を並列化してたって事は、この城の設計者の記憶とも並列化してたということ……
それに彼らは、ここを牢屋だと思っているようだけど、別に牢屋じゃ無かったって思いもしないわよね」
そういってカノエが紋章を撫でると、紋章の刻印された石が淡く輝く。
カノエはそれを確認すると、もう一度してやったりと言わんばかりの笑みを浮かべるのだった。
「……最初は使うのは躊躇ったけど、生残ると決めた以上は使えるものは無制限に使っちゃうわよ」