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No.29737の一覧
[0] 試される大地【北海道→異世界】[石達](2012/11/29 01:19)
[54] 序章[石達](2012/11/29 01:05)
[55] 起業編1[石達](2012/11/29 01:06)
[56] 起業編2[石達](2012/11/29 01:07)
[57] 起業編3[石達](2012/11/29 01:08)
[58] 国後編1[石達](2012/11/29 01:08)
[59] 国後編2[石達](2012/11/29 01:09)
[60] 転移と難民集団就職編1[石達](2012/11/29 01:09)
[61] 転移と難民集団就職編2[石達](2012/11/29 01:10)
[62] 礼文騒乱編1[石達](2012/11/29 01:10)
[63] 礼文騒乱編2[石達](2012/11/29 01:11)
[64] 礼文騒乱編3[石達](2012/11/29 01:11)
[65] 礼文騒乱編4[石達](2012/11/29 01:12)
[66] 戦後処理と接触編1[石達](2012/11/29 01:12)
[67] 戦後処理と接触編2[石達](2012/11/29 01:13)
[68] 嵐の前編[石達](2012/11/29 01:14)
[69] 北海道西方沖航空戦[石達](2012/11/29 01:14)
[70] 大陸と調査隊編1[石達](2012/11/29 01:15)
[71] 大陸と調査隊編2[石達](2012/11/29 01:16)
[72] 大陸と調査隊編3[石達](2012/11/29 01:16)
[73] 魔法と盗賊編1[石達](2012/11/29 01:17)
[74] 魔法と盗賊編2[石達](2012/12/08 01:24)
[75] 決戦[石達](2012/12/08 01:20)
[76] 盗賊と人攫い編1[石達](2012/12/31 22:47)
[77] 盗賊と人攫い編2[石達](2013/01/19 21:24)
[78] 盗賊と人攫い編3[石達](2013/01/19 21:23)
[79] 道内情勢(霧の後)1[石達](2013/02/23 15:45)
[80] 道内情勢(霧の後)2[石達](2013/02/23 15:45)
[81] 外伝1 北海道航空産業の産声[石達](2013/02/23 15:46)
[82] 東方世界1[石達](2013/03/21 07:17)
[83] 東方世界2[石達](2013/06/21 07:25)
[84] 東方世界3[石達](2013/06/21 07:26)
[85] 幕間 蠢動する国後[石達](2013/06/21 07:26)
[86] 東方世界4[石達](2013/06/21 07:27)
[87] 東方世界5[石達](2013/06/21 07:27)
[88] 東方世界6[石達](2013/06/21 07:28)
[89] 東方世界7[石達](2013/06/21 07:28)
[90] 世界観設定[石達](2013/06/23 16:49)
[91] 人物設定[石達](2013/06/23 16:57)
[92] 東方世界8[石達](2013/07/15 01:51)
[94] 帝都ティフリス1[石達](2013/08/09 02:02)
[95] 帝都ティフリス2[石達](2013/08/12 00:21)
[96] 帝都大脱走1[石達](2013/09/23 00:16)
[97] 帝都大脱走2[石達](2013/09/22 22:47)
[100] 帝都大脱走3[石達](2014/02/02 03:03)
[101] 対エルフ1[石達](2014/02/02 03:03)
[102] 対エルフ2[石達](2014/02/05 22:45)
[103] 対エルフ3[石達](2014/02/05 22:45)
[104] 対エルフ4[石達](2014/02/05 22:46)
[105] カノエの素性1[石達](2014/02/05 22:46)
[106] カノエの素性2[石達](2014/02/09 13:13)
[107] 別れ、そして託されたモノ1[石達](2014/02/09 13:14)
[108] 別れ、そして託されたモノ2[石達](2014/02/09 13:16)
[109] 決意[石達](2014/02/09 13:42)
[110] 新しい風[石達](2014/04/13 10:41)
[111] 交流拡大、浸透と変化1[石達](2014/04/13 10:41)
[112] 交流拡大、浸透と変化2[石達](2014/06/04 23:46)
[113] 交流拡大、浸透と変化3[石達](2014/06/04 23:47)
[114] 交流拡大、浸透と変化4[石達](2014/06/15 23:55)
[115] 交流拡大、浸透と変化5[石達](2014/06/15 23:55)
[116] 平田、大陸へ行く1[石達](2014/08/16 04:02)
[117] 平田、大陸へ行く2[石達](2014/08/16 04:02)
[118] 対外進出1[石達](2014/09/14 08:19)
[119] 対外進出2[石達](2014/08/16 04:04)
[120] 対外進出3[石達](2014/10/13 01:58)
[121] 回天1[石達](2014/10/13 01:59)
[122] 回天2[石達](2014/10/14 20:24)
[123] 回天3[石達](2015/01/18 08:20)
[124] 回天4[石達](2015/01/18 08:24)
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[29737] 盗賊と人攫い編2
Name: 石達◆48473f24 ID:3d3e3532 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/01/19 21:24
カノエが攫われた事の顛末をアコニーが説明し終ると、拓也と共に村を離れていた全員が、驚愕と憤怒の混じった表情を浮かべていた。
アコニーが説明した当初はその場には拓也達一行とアコニーらしかいなかったが、今ではエンジン音を聞きつけた教授や村の皆も集まり、皆、一様に残念そうな表情を浮かべている。

「そんな事が…… で、奴らの後を追ったパッキーはどうした?
それと、他の被害は?」

説明を一通り聞き終えた拓也がアコニーに聞く。
彼女の説明では、賊を追いかけていったパッキーが追跡の唯一の手がかりになるようだったし、トラックが燃えている事も気になる。

「パッキーは、まだ戻ってきてません。
それと、攫われたのはカノエだけです。他の村人は、パッキーと司祭様の奮闘で怪我人こそいますが全員無事です。
あとの被害は、物取りと、奴らが逃げるついでに数件の家に火を放って行きました。
トラックが燃えたのもそのせいです。
ですが、襲ってきた賊の内、十数名を打ち倒しまして、一人を捕虜にしました。
賊は全員が亜人で、種族も様々です。そして、捕まえたハイエナの捕虜は奴等の会話の内容から頭目に近いと思います」

それを聞いて拓也は思う。
貴重な情報源を一人でも確保できたのは不幸中の幸いだろう
頭目ならば何かしらの情報は知っているはずだ。
仲間を売るかは分らないが、一応尋問しておくべきだ。

「ちょっと会わせてくれ」

拓也はアコニーにそう言うと、アコニーは言われるがままに拓也らを宿にある倉庫へと案内した。
さほど大きくは無い板張りの倉庫。
そんな薄暗い小屋の中に、後ろ手を柱に括り付けられ猿轡を噛まされた亜人の女盗賊が一人、来訪者をギロリと睨みつけていた。

「ん~~~!んんーー!!」

なんとか抜け出そうと頑張る女盗賊だが、ステンレスの手錠は彼女の手首に食い込むばかりで身動きが取れない。

「コイツか」

「そうです。ハイエナ族の女です。コイツの部族は根っからの盗賊家業ですよ。凶暴ですから気をつけてください」

そういって、アコニーが殴られて腫れ上がった頬を押さえながらハイエナの女盗賊を睨む。

「あぁ気を付ける。それはそうと大丈夫かアコニー?」

拓也は気付いていないわけではなかったが、毛皮のせいで痣こそ良く見えないものの、彼女の鼻血の痕と不自然に腫れた顔はよく目立った。
先ほどまでは、カノエが攫われたことが気がかりであまり意識はしていなかったが、見れば見るほど盛大に殴られたようであった。

「コイツの投げつけてきた何かの汁のせいで、暫くは鼻が利きません。
それ以外は、多少殴られた箇所が痛みますが大丈夫です」

「そうか。何か治療に欲しいものがあったら何でも言ってくれてかまわない」

「ありがとうございます。社長」

見た目は痛々しいが、本人が大丈夫というなら大丈夫なのだろう。
拓也は気を取り直してハイエナの女盗賊を見る。

「それじゃぁ、面談といくか。猿轡を取ってくれ」

拓也の言葉に、女盗賊の背後に回ったアコニーが猿轡を解く。

「ぶはぁ!この!クソ野郎!さっさとあたいを解放しないと、あんたの粗末な金玉もぎとるよ!」

開口一番、深呼吸と共に下品に拓也を罵る声。
実に元気が良い。
だが、それが気に入らないのか、女盗賊の横に立っていたアコニーが無言で彼女の顔を殴った。

「ガハッ」

「なぁ、社長に向かって何て口きいてんの?
立場わかってる?さっさとカノエの場所教えなよ」

そう言って、アコニーが女盗賊の胸倉を掴んで無理やり立たせる。
だが、そうした恫喝にも彼女は全く怯むそぶりも見せない。

「まぁ まて、アコニー。
パッキーがいつ帰ってくるか分らないし、円滑なコミュニケーションの始まりは自己紹介からだ。
と言う事で、仕切りなおそう。
俺の名前は石津拓也。
君の名前は何ていうんだ?」

アコニーが何も指示する前から殴りかかっていったのを見て、拓也はなるべく優しく女盗賊に接する。
それは、以前、拓也が刑事物のテレビドラマで見たベタな手法だった。
怖い刑事の後に優しく接し、被疑者の味方だと錯覚させて自白させようという魂胆だ。
拓也はニッコリ笑って女盗賊に自己紹介する。
だが、現実は上手くはいかないものだった。

「ペッ!!」

女盗賊が拓也の顔面に唾を吐く。
それも、吐く直前にカァ!っと悪魔玉(痰)を絡める凶悪ぶり。

「おまえ!!」

それを見たアコニーが咄嗟に殴りにかかるが、拓也はそれを静止する。

「まぁ待てアコニー。落ち着いていこう」

拓也はそう言って、顔面に付いた唾(悪魔玉を含む)を拭う。
その途中、粘つく液体が糸を引くのを見て拓也は何ともいえない気持ちになるが、それでも彼は耐えた。

「元気が良いのは結構だ。
名前も言いたくないなら別に良い。
だが一つ、言っておきたい。
君の現在の肩書きは、捕まった盗賊だ。
しかも現行犯で逮捕された。
自分はこちらの法には詳しくないが、重罪を犯した君は恐らく死刑になる。
いや、やはり絶対死刑だ。君は死刑。間違いない」

拓也は断定した口調で女盗賊に告げる。
お前は死ぬのだと。
女盗賊は、淡々と真っ直ぐに見詰められて告げられる言葉に、流石に顔を青くする。

「……」

女盗賊は黙って拓也を睨む。
覚悟はしていたようだったが、改めて言われると感じ方が違うのだろう。
拓也は女盗賊の表情が硬くなるのと確認すると、優しく彼女に笑う。

「だが、自分達は一つだけ君の命を助けれる方法を知ってるんだけど、知りたくないか?」

そう言って微笑みながら拓也は女盗賊の回答を待つが、数秒考えた末、彼女はボソボソと小さな声でそれに答えた。

「……どうせ仲間の居場所を教えろっていうんだろ?」

女盗賊の拓也を睨む目つきが険しさを増す。

「理解が早くて助かる。
まぁそれが、君が助かる唯一の選択肢だよ」

「……」

「命は一つしかない。
それに、もし仲間が捕まっても罪状を軽くするよう陳情してあげてもいいよ?」

拓也は女盗賊に言う。
捕まった以上、処刑という未来しかない彼女に対し、地獄に下ろされた一本の蜘蛛の糸を垂らすかのように。
拓也は彼女がその糸を取るのを待つ。
だが、それは彼女の方から断ち切られた。

「ペッ!!
 誰が仲間を売るもんか!教えた途端、かぁちゃんも弟も一族皆殺しになるに決まってんだろ!
おとといきやがれ!」

再び拓也に向かって唾を吐く女盗賊。
顔面に滴る女の唾。
拓也は眉間に皺を寄せながら垂れる唾を手で拭うと、無表情で顔に付いた唾をハンカチで拭いながら無言で立ち上がった。

「駄目だな。バトンタッチ」

拓也はくるりと踵を返すと、そばにいたエドワルドの肩を叩く。

「ん?俺でいいのか?」

「任すよ。
好きにしちゃっていいわ」

どうやら彼女はこっちを舐めてる。
尋問の始めから懐柔を図ったのは失敗だったかも知れない。
ならば、少々怖い目に遭ってもらおう。
拓也はそう考えてエドワルドに以後のことを一任すると、出口に向かって歩き出した。

「じゃぁ 俺、腹減ったからちょっと飯食ってくる。
あと、他に腹へっている奴がいたら、交代で飯食いにいってくれ」

拓也はそういうと、宿の食堂に向かって歩き出した。
それに付き添うようにラッツやヘルガ等、数人がその後を付いてくる。
思えば、戦闘の後から何も食べてない。
皆、腹も減るはずだった。
拓也達は、食堂に入ると宿の親父に食事を頼む。
今日のメニューは、大陸田舎料理に飽きた拓也が、宿の親父にあげた米と宿にあった塩漬け肉とピクルスだった。
拓也は薄くスライスされた塩漬け肉をご飯の上に一切れのせる。
保存の為にふんだんに塩を使った肉は、とてつもなく塩辛いため、日本人の拓也としてはご飯無しでは食べれない。
思えば、嫁のエレナも時々酒のおつまみとして塩漬け肉を作ってくれたが、ロシア人やこの大陸の人間は、よくこんな物をご飯なしで食べれるものだ。
そんな事を拓也が考えていると、頼んでもいないのに宿の親父が小鉢をもう一品出してきた。

「これは?」

「トゥルルー芋をすり落としたものだよ。
あんた達にゃ、この村を守ってもらったからな。些細な恩返しの一つだ」

「トゥルルー芋?」

「摩り下ろしたらネバネバになるんだが、ソースと絡めて食べれば結構旨い」

拓也は小鉢を手に取ると、ネバネバした白い芋の摩り下ろしを一口食べる。

「あぁ、とろろ芋か。うん、自然薯みたいに粘り気が強くていいね」

そう言って拓也はトゥルルー芋をご飯にかける。
宿の親父は魚醤のソースをかけるようにいってくるが、拓也はそれを無視して食堂に置かせてもらっている醤油のビンを取ると、おもむろにトゥルルー芋の上にかけた。

「はぁ……」

久々にゆっくり食べる炊きたてのご飯。
今までも調査中は、野外で飯盒炊爨はしたものの、ゆっくり屋内で米を食べることは無かった。
疲れたときこそ食事は至福の時間になる。
拓也は肩の力を抜き、リラックスしながら夕食を頬張っていると、食堂に入ってくる足音と共に、後ろから声がかかった。

「あの、大丈夫ですか?」

声のした方を振り返れば、そこには不安そうな瞳で拓也を見つめる荻沼が立っていた。

「あ、荻沼さん。
なかなか口を割らないですね」

茶碗を持ったまま回答する拓也。
そんな食事中の拓也の様子を見ながら、荻沼は拓也に対面する席に腰をかける。

「そうですか。
カノエさん…… 無事だといいですね」

自分達の囮となって捕まったカノエを思い、荻沼は祈るように拓也に話しかける。

「それについては祈るしかないです」

荻沼と同様に拓也も仲間の無事を願ってはいるが、あまりにも情報がない。
軍にも一応連絡はしたが、霧から始まる一連のドタバタのせいで捜索に回せる人員の余裕はなく
その上、普通の民間人ではなく自ら危険地域に飛び込んだ民間軍事会社の社員。
それも北海道民ではなく難民出身の人物ということで、あまり積極的には動いてくれない。
その為、今、拓也に出来ることは盗賊の追跡に向かったパッキーを待ち、カノエの無事を祈ることだけだった。
そんな事から、食堂に集まった二人の間には、気の利いた会話があるでもなく、ただ沈黙のみが支配する。
時間にしてみれば十数秒の事だったかもしれないが、その沈黙を破ったのは、押し黙ることに耐え切れなくなった拓也だった。

「それはそうと、食堂に来たって事は、荻沼さんも食事ですか?」

拓也は暗くなった空気を変えようと話題を振るが、荻沼は暗い表情のまま目を伏せる。

「いえ、ちょっと声が怖くて……」

「声?」

そこまで言われて、拓也はハッと気付いた。


「うわあああ!!!……」

宿の中に響く、尋問を受ける女盗賊の声。
防音なんて考えてない作りの建物なだけに、彼女の部屋まで響いていたのだろう。
それに内容を伝えていない"尋問"による同性の叫び声に、色々と不安になったに違いない。

「すいません。不快なら村長のお家にお邪魔させてもらえるよう頼んできますが?」

仲間を助けるために情報は少しでも必要だ。
これが、被害が盗賊の物盗りだけであれば、拷問に近い尋問はためらったが、事実として仲間が攫われている。
最低でもカノエの救出だけはなんとしても行わなければならない。
荻沼には悪いが、尋問はやめることは出来ない。
よって、そのための配慮として、村長の家で休むことを提案してみたが、荻沼はこの提案に首を横に振る。

「あの、あんな事があった後だと皆さんから離れるのも怖くて……」

そう言って荻沼は自らの体を抱きかかえて俯いてしまう。
拓也はそんな荻沼の姿を見て暫く無言で考えた後、茶碗を置いて席を立った。

「ん~。そうですか。
分りました。ちょっと止めてきます」

「え?」

荻沼が拓也に聞き返す。
仲間の救助の為に過激な尋問をしていることは理解をしてはいるが、ここまであっさり止めてもらえるとは思っていなかったからだ。

「捕虜虐待の容疑とか世間体が悪いですしね。
ちょっと尋問方法を注意してきます」

そう言うと拓也は女盗賊が監禁されている倉庫へ向かおうとするが、テーブルから数歩歩いたところと一つのアイディアを思いついた。

「あ、そうだ。
目の前で食べ物チラつかせたら吐く気になるかな……
おっさん、ご飯のお代わりくれ!それもトゥルルー芋山盛りで!」

「おうよ!」

とりあえず、やるだけやってみよう。
拓也は威勢の良い声で宿の親父にお代わりを頼むと、荻沼に手を振って食堂を出る。
ホカホカのご飯に醤油掛けトゥルルー芋。
その匂いを振りまいて拓也が倉庫に入ると、だらしなく涎を垂らす女盗賊の周りでスタンガンを持つアコニーをエドワルドが目に入った。

「おっす。吐いた?」

片手にトロロ飯を持ちながら倉庫に戻ってきた拓也は、捕虜の前にいたエドワルドに声をかけた。
だが、その問いに対し、結果はあまり芳しくないのかエドワルドは口をへの字に曲げて首をふる。

「なんとうか強情だな。痛みに慣れてやがる」

「ふん!あんたらの拷問なんて、かーちゃんの折檻に比べたら屁でもないね!」

女盗賊は、強がりなのか本当に堪えてないのか、鋭い目付きでキッと拓也をにらみつける。

「……こんな感じだ」

エドワルドが肩をすくめながら拓也に言う。

「ふーん。まぁいいや、一回尋問やめようか」

あっけらかんと言う拓也の言葉に、エドワルドは首を傾げる。

「ん?どうしたんだ?」

「いや、意外に電気ショックの叫び声って宿に響いてさ。
荻沼さんが怯えてる」

「そんなの、一時の間、宿から離れて貰えばいいじゃないか」

そんな些細なことを気にしているのかをエドワルドは視線で拓也に問いかけるが、拓也のほうもそれを察して宥める様に説明する。

「それが、今回の件の後だと一人でいるのは不安だから、皆と一緒にいたいんだと。
それに北海道に帰った後、俺達が捕虜虐待してたって大っぴらにされると色々と不味い。
今はまだ彼女が精神的に耐えれる限度内だけど、やりすぎて彼女の良心の呵責の範疇を超えるようになるとね……」

PMCの現地人虐待。
理由はどうあれ北海道の大手新聞社が好きそうなネタである。
あまり悪評が出ると、今後の入札や随意契約時に影響が出ても困るのは確かだ。
今は仲間を救出するための尋問と称して教授達を納得させているが、尋問の限度を過ぎれば彼らがゲロする可能性も無きにしもあらずである。
拓也とエドワルドは暫くその事について話をしていると、尋問が止まった事で余裕が戻ってきたのか女盗賊が勝気な声をあげた。

「フン!なにをコソコソしてんだい!
根性なし共め!拷問する度胸も無いんなら、あたしが立派なイチモツであんた等に根性を注入してあげるよ!尻をだしな!」

女は下品な笑い声を上げながら拓也達を挑発する。
それは、女が未だに自分の心は屈していない事を表したかったのだが、その一言に拓也は顔をしかめて嫌そうな表情をする。

「え?、何?イチモツ?何言ってんのコイツ……」

ちょっと前に、偽クシャナ様に騙されたばかりなのに、こいつもか……
実は、こちらの世界は、転移前世界のタイみたいにニューハーフ文化が花開いているのではないかと拓也の頭に嫌な想像がよぎる。
だが、拓也のそんな疑問を感じ取ってか、エドワルドは倉庫の中で拾った棒で女盗賊の衣服をぺろりとめくった。

「いや、どうもコイツは特殊らしい。
こいつはハイエナの獣人で、さっき様子を見に来た教授が言ってたんだが、ハイエナはメスにも偽根といったイチモツに似たものが付いてるらしい。
で、コレがこいつのナニだそうだ」

そう言ってエドワルドが木の棒で女盗賊の下半身をつつき、それを見た拓也は眉を顰めた。

「マジかよ。とんだファンタジーだな」

「何でも、ハイエナはそこから出産もするそうだ。
想像してみろ。小さな尿路結石でも激痛が走るのに、そこから赤ん坊を産み落とすんだぞ?
こいつが尋問に耐えているのも、そこらへんが影響して、生理的に痛みに対してかなりの耐性があるからかもしれないな」

拓也は、かつて尿道炎にかかった痛みを思い出して青くなりつつ、エドワルドの話を聞いて思った。
これはやっぱり痛み系の尋問では埒が明きそうにない。
やはり、別のアプローチが必要だ。

「なぁチンコ犬。
腹減ってるだろ?」

拓也は女盗賊の前に座ると、醤油のかかったトロロ飯を見せびらかすように頬張る。

「犬じゃない!ハイエナ族だ!
なんだ飯食うのを見せ付けるってか?この下衆野郎!!」

「そんなところだ。
いやぁ、ファンタジー世界で食べるトロロ飯は美味いね。
これでマグロの切り身でもあれば、もっと最高だったんだけどさ」

「悪趣味な……」

そういって拓也は女盗賊の前でトロロを伸ばし、ホカホカのご飯に絡めて見せる。
それを間近でみていた女盗賊は、ゴクリと喉を鳴らすと、出来るだけ見ないようにと目を伏せた。

「お?何だ?食いたいか?
食いたかったら何をすればいいか分るよな?」

「フン!腹減ったくらいで仲間を売るもんかね!」

「まぁ それもそうだな。
だが、こっちも仲間を攫われた以上、引下る訳にはいかないんだ。
村人はどう思ってるかは知らないが、仲間が帰ってくるなら正直な所、お前らが捕まろうが逃げようがどうでもいい。
そこで、改めて取引だ」

そう言って拓也は茶碗を置くと、改めて女盗賊と向かいあう。
対する女盗賊も、拓也の態度が急に改まったため、何も言わずにジッと拓也を睨み返した。

「捕虜の交換。シンプルな取引だろ?
仲間を帰せばお前も解放して、お前の仲間には手を出さない」

「……」

「もちろん、これは村人には内緒だ。
金目の物も取り返したい村人は、こんな密約は認めないだろうからな。
筋書きとしては、お前を尋問して盗賊のアジトを突き止めたは良いが、接近を盗賊に感づかれ逆に捕虜を奪われる。
そして、なんとか仲間を取り返したものの盗賊は取り逃がしてしまった。
……というストーリーを思いついたんだが、どうだ?」

拓也が取引の内容を説明する。
此方が妥協の姿勢を見せたことにより、女盗賊も思うところがあるようだ。
女盗賊は暫く黙って考え込んだ後、そっと口を開いた。

「……あたいを解放した後に、追ってこないって保障はあるのかい?」

「保障は無いな。これは現段階では俺とお前との口約束に過ぎない。
忠実にそれが履行されるかは、俺達の信頼関係次第だ。
まぁ こっちは駆け出しだけども経営者の端くれ。そちらに違反が無い限り約束は守るよ。」

「……」

拓也の言葉に女盗賊も悩む。
悪くない話だが、それを信じていいものか。
囚われの身では確証を得るための情報を集める手段は無く、ほぼ賭けに近いものだった。

「……ンカ」

「ん?なんだって?」

下を向いて考え込んでいた女盗賊が何かを呟く。
だが、あまりに小さい声に拓也の耳には届かない。
拓也は聞き返そうと女盗賊に近づく。
そんな時だった。

「カァーー!!!ペッ!!」

再度拓也の顔に振りそそぐ女盗賊の唾(with悪魔玉)。
女盗賊は滴るそれを見て勝気に言い放った。

「ぶぁーーかめ! 何処のどいつが盗賊との約束なんて守るもんか!
いままでも、あたしらにそんな話を持ちかけてきた奴はいたが、みーんな嘘っぱちだったさ!
誰がそんな話なんて信じるもんかね!」

顔面にまたしても唾を吐きかけられた拓也は、硬直したまま彼女の言葉を最後まで聞くと、無言でスクッと立ち上がり、顔をしかめながら顔にかかった唾を拭く。
そうして一通り拭き終わると冷たい目線で女盗賊を見下して言った。

「そうか、これが最後のチャンスだと思ったんだがな。
何、お前が言わないなら斥候の帰りを待つだけだ。
時間をロスした分、遠くに逃げるだろうが、そんなものすぐに追いついてやる」

そう言って拓也は傍に置いていたトロロ飯を手に取ると、女盗賊の紐パンを引っ張って、茶碗の中身をパンツの中にぶちまけた。

「うわぁぁあ!!!!熱い!熱い!熱い!熱い!」

「まぁ 心変わりして話したくなったら見張りに言え。
……行くぞ」

拓也は女盗賊に背を向けると、アコニーの肩をポンと叩く。
アコニーは立ち去ろうとする拓也に戸惑いを見せてながら女盗賊のほうを見る。

「え?でも……」

「今は何を話しても無駄だ。
それに、その内パッキーも帰ってくる。
それまで放置だ。どうせ口を割らんよ」

「あ…… ハイ……」

そういってアコニーも納得したのか、見張りを一人残すと他の皆も倉庫を後にする。

「あああああ!え?何コレ?トゥルルー芋が……
ちょっと助けて!あぁ痒い!ちょっとまってよぉぉぉ!」

倉庫から聞こえる女盗賊の叫び声、だが、拓也達は振り返ることは無かった。
拓也はエドワルド達を引き連れて宿の廊下を歩く。
何か聞きだせるかと思ったが、当てが外れた拓也は落胆していた。

「まぁ 改心してこちらの役に立つ確証があれば助けてやっても良いと思ったけどね。
だが、そんな可能性も無さそうだ。
装備を点検してパッキーが帰ってくるのを待とう」







あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ……





拓也達が倉庫から立ち去った後も、スタンガン等を用いた尋問時とは声色の違う叫びが一晩中宿に響く
皆の睡眠を妨害するその声がやんだのは、パッキーが帰ってきたのは翌朝になってからだった。

「ご苦労だったな。
で、どうだった?」

朝方、村に一人戻ってきたパッキーは、帰還するやいなや拓也の元に報告に来る。
だが、その姿は何時ものシャキっとした姿の彼とは明らかに違った。

「ブツブツブツ…… 俺は何をやっても駄目だ…… 一人は寂しい……」

ふらつく足取りに加え、ずっと俯いて目を合わせようとしない。

「いかん、単独行動させて鬱になってる。
ちょっと皆、パッキーを励ましてくれ」

パッキーの姿を見てこれはいかんと思った拓也の言葉を聞いて、ヘルガやアコニーがパッキーに優しい言葉でフォローする。
皆で囲んでパッキーの労をねぎらってはいるが、拓也はその姿を見て一つ溜息をついた。

「うぅむ。武装ピー○ーラビット君は優秀なんだが、この欠点さえなけりゃぁな」

うつ病ウサギを立ち直らせるため、ヘルガ達が頭を撫でたりスキンシップをする。
その過程で、アコニーが頑張れ、超頑張れとか言っているけど、あの言葉ってうつ病患者に禁句じゃなかったか?
そうして10分が経過する頃には、パッキーはようやくいつもの姿を取り戻していた。

「社長。すいませんお手数かけました」

「で、賊はどこに逃げた?」

「この先の川までは追跡できたのですが、奴等、そこから筏で川を下りました。
自分が追跡できたのはそこまでです。すいません」

「何だって?」

「ですが、逃げられる前に奴等の話を盗み聞きしました。
奴等、一度捕まえた奴隷を捌く為に奴隷船に接触するそうです」

「で、その場所は?!」

「残念ですが、そこまでは……」

「クソ!」

その報告は肝心な所が抜けてた。
盗賊の居場所。
その大体の位置が分かっていれば、速力にモノを言わせた全力出撃で補足しようと思っていたが
川を下ったのであれば、こちらの車両を用いた速力のアドバンテージが効かなくなってしまう。
その為に、このパッキーの斥候が決定打に欠く以上、拓也の取りうる選択肢は只一つだった。

「……仕方ない。奴に聞いてみるか」

拓也は嫌な顔を浮かべながらそう呟く。
盗賊が奴隷船と接触するのであれば、その予定は前々からあったはず。
であるならば、拓也達に残された道は捕虜から聞くより仕方なかった。






「うわ!臭!」

部屋に入った途端に鼻腔を刺激する生臭い匂い。
見れば、縛られた女盗賊が土下座するかのような体勢で地面に突っ伏していた。

「はぁはぁはぁはぁ…… もう、許して……」

呼吸が荒く、顔が上気している。
見れば、とろろ芋の他に各種液体で体中がドロドロになっている。
そしてそのドロドロは女盗賊の近くで水溜りとなっており、出来ればあまり近づきたくない有様だった。

「ちょっと、バケツに水汲んで洗い流してやって
こりゃ、やりすぎたかも……」

だらしなく口の端から涎を垂らす女盗賊を見ながら拓也は反省する。
まさか股間トゥルルー芋の威力がここまであるとは……
そんな事を考えていると、バケツに水を汲んできたアコニーが、その水を女盗賊に向かって容赦なく浴びせる。

バシャ!

「あぁ!」

女盗賊は突然浴びせられた冷たい水に妙に艶っぽい声を出すが、その一撃で大体の汚れは流されていた。
拓也は比較的綺麗になった女盗賊に近づくと目の前にしゃがむ。

「なぁ おい!」

「は、はい」

一晩のトゥルルー芋の刑が余程こたえたのか、妙にしおらしい声で女盗賊が答える。

「お前ら、奴隷を売りさばくつもりだったろ」

「はい」

「その場所って分る?」

「それは…… この先の川を下った先にある入り江に奴隷船が停泊することになっているんです。
あたいらは、この村を襲った後、そこに向かう予定でした」

「そうか、ありがとう」

昨日とはうって変わってペラペラと喋る女盗賊に拓也は首を傾げつつも、有益な情報が得られたためさっそく追撃の準備をしようと拓也は立ち上がる。

「あ、あの! それだけですか?」

倉庫から出て行こうとする拓也に女盗賊が声をかける。

「は?」

「いえ、なんでもないです……」

何の用だと拓也は聞きたかったが、女盗賊は俯いて黙ってしまう。

「……まぁいい。アコニー、こいつも連れて行くからトゥルルー芋で汚れた服とか取り替えてやれ」

「はい。社長」

拓也の命令にアコニーが衣類を取りに部屋を出て行く。
そして拓也も女盗賊は最早用済みと倉庫から立ち去る。
情報は聞き出した。
急いで追撃しなければならない。
拓也は出立の準備をしながらエドワルドに話しかける。

「なんか、いやに素直だったね。
昨日のトゥルルー芋がそんなに効いたのかな?」

「さぁ、どうだろうな。あまりに素直すぎて何かの罠かもしれんな」

先ほどの遣り取りを思い出し、拓也達は語る。
昨日の反抗的な態度は何処にいったのか、口調まで変わって従順な女盗賊の姿に二人は首を傾げる。
そんなこんなで二人が話し込んでいると、社長~と拓也の事を呼びながらアコニーが此方にかけてくるのが見えた。

「お、アコニー。どうした?」

「社長。ちょっと不味いです」

アコニーは、こちらに来るなり眉を顰めて報告する。

「どうした?何が不味いんだ?」

「あいつ、トゥルルー芋地獄で放置されてから、少しおかしくなってます」

「おかしい?」

拓也はその言葉に、女盗賊があまりの痒さに気が狂ってたのかと想像する。
もし、そうならば狂人の言葉にどこまで信頼性があるだろうか。
もしかしたら追撃が全くの空振りになるかもしれない。

「はい。
最初はあまりの痒さに社長の事を憎く思ってたらしいんですけど……」

「それで?」

「凄まじい痒さの中、憎い社長の事を待ち続けているうちに痒さが気持ちよくなってきて、その間も社長の事を考えてたら変な気分になってきたと……」

「……」

「奴の中で何かが目覚めたようですね。
今まで加虐心しか持っていなかったのが、トゥルルー芋によって強制的に被虐心が覚醒したようです」

「……」

拓也にとって、その変化は予想外だった。
最早、何も言えず、拓也はその場に硬直するしかなかった。

「処分しますか?あまり変なのが社長の周囲をうろついていると、奥さんに殺されますよね?」

そう言ってアコニーが首を掻っ切る仕草をする。
それに対し、拓也は何と言って良いか言葉が見つからない。
盗賊の襲撃から始まる一連のトラブルは、色々と複雑化を極めていた。









大陸の南海岸。
外洋からすっぽり隠すように入り組んだ入江のその奥に、盗賊の一団の隠れアジトがある。
そこでは、襲撃によって得た金品の集計や、奪った食料で食事の準備の真っ最中だった。
襲撃の後、結構な人数が減ってしまった盗賊たちであったが、討ち取られた盗賊の過半数はハイエナ族とは違う他族の難民崩れ
そういった連中は、まださほど盗賊団に馴染んではいなかったため、特に悲しみもされなかった。
そんな集団の中、ハイエナ族の少年が、もと来た方角を見ながら一人佇んでいた。

「ねーちゃん……」

その口から漏れるのは、戻ってこなかった一人の姉を呼ぶ声。
だが、いくら呼んでも求める人は帰ってこない。

「諦めな。イラクリ。
残念だけど、あいつは運が無かったんだ」

そう言って少年の後ろから彼の頭を撫でるのは、少年の母。
この盗賊団の首領でもあるニノだった。
盗賊家業をやっていれば身内が死ぬのも珍しいことじゃない。
過去に何度もその様な光景を見てきたニノは、すぐに慣れると言ってイラクリを慰める。

「元気をお出し。ほら、入江に船が入ってきたよ。」

そう言ってニノはイラクリの頭をグシャグシャと撫でる。
見れば、入江には一隻の船が入ってきていた。
ゆっくりと入江に侵入してきた船は、外海からは見えない位置まで来て投錨する。
それは、かなり年季の入った中型の帆船だった。
投錨して帆が畳まれると、海面に降ろされた小船に乗って乗員が浜の方に近づいてきた。

「久しぶりだね。商品を持ってきたよ」

女は浜まで歩いていくと、小船を降りて上陸する人影に声をかける。
その声をかけられた方はというと、伸ばしっぱなしの黒髭に黄色い歯、服装からして船長だと推測できるものの
深い皺の刻まれた痩せた顔からは、堅気の雰囲気は一切感じないような男だった。

「おう、ニノか。
待たせたな」

船長とみられる男は、女にフレンドリーに片手を上げて挨拶し、ニノは肩を叩いて彼を出迎えた。

「今回は男4子供1女2だよ」

再開を喜ぶ短い応対の後、ニノはすぐに商売の話に入る。

「なんだ。今回はすくねぇな」

「ちょっと仕事でドジっちまってね。
仕方が無かったんだよ」

船長は期待はずれだと言わんばかりに肩をすくめ、ニノはその言葉を聞いてポリポリと頭をかく。

「そうか、まぁ そういう時もあるか。
まぁいい 商品を見せてくれ」

船長は今更商品が少ないのは仕方ないと割り切り、ニノに商品を見せるように言う。
それに対してニノも海岸近くの林に潜んでいる手下に命じて、縄で繋がれた誘拐被害者達を一列に並べた。
船長は、並べられた者達を舐め回すように観察し、歯の有無や肉の付き方を一人づつ確認しはじめた。
奴隷として売るためには健康状態などの目利きが大事。
船長は入念に一人ずつチェックする。

「そういえば、お前の娘のタマリの姿がみえねぇな」

途中まで商品をチェックしたときだった。
船長がふと気になったことを口にする。
いつもなら自分が来た時にはニノの子供であるタマリやイラクリが挨拶に来ていたのだが、今日はその片方の姿が見えない。

「ちょっと、運が無くてね」

船長の問いに、言葉を濁して答えるニノ。
だが、船長はその言葉と彼女の表情で全てを察したようだった。

「そうか、すまんかったな。
まぁ 辛気臭い話は置いといて商売といこうか」

堅気の商売じゃない以上、殺しただの殺されただのは珍しくない。
変に気を使う事でもないと船長は割り切っていた。
船長は一言謝ると、暗い雰囲気にならぬよう陽気にさぁ商売だと言いながら商品の鑑定を再開する。

「……この男は歯も全部あるし、なかなか働けそうだな。
金貨一枚でどうだ?」

「何言ってんだい。それは足元見すぎだよ。聞けば大した病気もしてないそうだし、もうちょっと色をつけてよ」

「しょうがねーな。
じゃぁ金貨一枚と銀貨三十枚でどうだ?」

「仕方ないね」

「毎度」

盗賊家業で身内が死ぬのは珍しいことじゃない。
陽気に対応する船長に感化されるように、ニノも調子を戻して値段の交渉にはいる。
そうしている内に、捕まえた人間は次々に値段が付いていき、残るは最後の一人となった。

「じゃぁ 最後はコイツだね」

そう言ってニノは、後ろでを縛られたカノエの髪を掴むと、船長に良く見えるよう顔を上げさせる。
先ほどまで伏せていた顔を髪を掴んで強制的に晒され、その痛みにカノエは苦悶の表情を見せるが、二人は一向に気にしない。

「おぉ!コレはなかなかの別嬪さんだな」

そう言って船長はいやらしく笑うと、おもむろにカノエの胸を掴む。

「ん゛!ん゛ん゛ん~~!!!」

カノエは船長を睨みつけながら声をあげようとするが、口に咥えさせられた猿轡のせいで唸る以上の声が出ない。

「これは中々の掘り出しもんだよ。肌の張りもいいし。胸もデカイ。
ちょっと最近捕まえたばっかりで元気が良すぎるから猿轡で黙らせてはいるけど、歯も全部揃ってるし顔も良いよ。
東方に持っていけば良い値になるんじゃない?」

船長はカノエの体を舐めるように見ながら、じっくりと値踏みする。

「そうだな。金貨二枚でどうだ?」

「五枚」

「三枚」

「五枚」

明らかに低めな船長の提示する値段に、ニノは一切値下げしない。
それだけ、ニノにはカノエが高く売れると踏んでいたのだ。

「ち、仕方ねーな。
金貨四枚とペニー銀貨二十枚だ。それ以上はだせねぇぞ」

強気なニノの姿勢に船長もついに折れた。
ニノは船長の表情を見て、ここらが限界かと納得し、ニヘラと笑いながら船長の肩を叩いた。

「へへへ。毎度」

笑みのこぼれる彼女の横で船長は悔しそうに舌打ちをすると、他に商品は無いかと辺りを見渡した。

「これで全部か?」

「あぁ そうだね」

ニノは捕まえた人数に対して、予想以上に儲かったことに満足しながら朗らかに笑う。
船長も全ての取引が成立したことで上機嫌となり、手下の船員に買い取った全員を船倉にぶち込むようにと指示すると
部下が持ってきた金貨をニノに渡した。

「良い取引だったよ。
そんで、あんた、これからどうする?」

「どうするも何も。今の混乱に乗じて、もうひと稼ぎしようかと思ってるけど」

船長はその言葉を聞くと、あぁそれはイカンとニノに言う。

「それならやめたほうがいいぞ。
聞いた話じゃ辺境伯領が独立してエルヴィス公国になったらしい」

「それが何だってんだい?」

辺境伯がどんな肩書きを名乗ろうと、この稼業に何の関係がある?
今までと同じようにコソコソやるだけさ。
ニノは船長の話を聞きながらそう思った。

「いいから聞けって。
そんで、独立した辺境伯が、ちょっと前に起こった会戦で王国の諸侯をコテンパンにしたそうなんだが
その際に、キィーフ帝国との国境にあった軍を全て領内に戻したらしい。
現状のゴタゴタに乗じて荒稼ぎしてるようだが、今の領内の混乱なんて何時まで続くかわかんねぇぞ」

「それは本当かい?」

「そりゃもちろん。
プラナスから出港する前に聞いたんだ。
今、港はその話題で持ちきりだ」

ニノは眉間に皺を寄せる。
今、大手をふるって荒稼ぎが出来ているのは、辺境伯領内の警備が手薄だからだ。
もし、辺境伯軍が治安維持に全力を傾けれるなら、盗賊家業なんてあっという間に廃業させられて縛り首だ。

「それは……良くないね……」

ニノはあごに手を当て、真剣な顔つきで思考をめぐらせる。
今、彼女の両肩には、一族と新たに加えた難民の新団員の命がかかっている。
彼らの今後を左右する決断には、一層の熟慮を要した。

「なぁ あんた」

ニノはまじまじと船長の顔を見ながら声をかける。

「なんだ?」

「男の奴隷を一人ただでくれてやるから、私達を東方まで運んでくれないかい?
ちょっと、しばらく雲隠れしたほうが良さそうだしさ」

公国軍と名を変えた辺境伯軍が戻ってくるのであれば、もはやこちらに居場所はない。
もともとの根拠地だった村も、辺境伯の亜人討伐があった際に畑ごと焼き払われた。
他の亜人の村が、ただ乗っ取られただけに比べると、畑ごと焼き払われた自分たちは特段に目をつけられている可能性もある。
ちょっと盗賊家業と村をあげてケシ栽培をしていただけなのだが、人族達の器量の狭さは彼女らにとって問題だった。
その点、東方大陸の西端には亜人の居住地もあり、そこは東方帝国の支配も及んでいないので、こちらに比べれば遥かに安全だろう。

「奴隷一人か。それは…… ちょっと、安すぎじゃないか?
お前らの人数に対して奴隷一人じゃ航海中の飯は出せんぞ?
もう一人付けてくれたら、飯に加えて向こうで俺の知り合いに渡りを付けてやるよ。
どうせ、向こうに知り合いもいないだろ?」

「そこを何とかならないかい?
それと、渡りについては必要ないね。
向こうのバトゥーミって町で叔父が商売やってんだよ。
あそこを頼ってみる」

ニノは飯は欲しいが、渡りは必要ないとやんわり断る。
当てにしている叔父は、最近は疎遠になっていたが、一族は一族。
何かしらの手助けは期待できそうだとニノは踏んでいた。

「バトゥーミ?あそこのハイエナって言ったら、盗品ばっか売ってるジィさんか」

ニノの言葉に船長は思い当たる節があったのか、ニノにその叔父とは自分の知っている人物ではないかと聞いてみた。

「よく知ってるね」

意外な船長の反応に、これにはニノも驚く。
まさか船長が叔父を知っているとは思ってもみなかった。

「いや、東方の亜人の地で、大きな港があるのはバトゥーミだけだろ。
あそこなら良く行くから知ってる。それに俺がこれから行く奴隷市場はあそこの港だ。
西方諸国にも東方帝国にも属さない港ってのは便利がいいんでな。
そんな中、盗品を扱うあのジィさんは使い勝手がいいんだよ。どんなヤバイ品でも仕入れてくるし買ってくれるからな。
そうか、お前さん、あの悪党ジジィの姪っ子か」

船長は納得したようにうんうんと頷く。

「なら話が早い。ついでに乗っけてってくれよ」

「いや、でも奴隷一人じゃな」

船長は盗賊全員を運ぶのには安すぎる運賃に難色をしめす。
そんな煮え切らない船長を見て、ニノは船長に体を絡めて頼み込む。

「そこをなんとか…… 私も色々とサービスす・る・よ」

そういってニノは片手で船長の体をまさぐる。
船長も最初はありがた迷惑な表情でそれに耐えていたが、ニノの手が服の中に侵入してくると、それもついに折れた。

「ったく、しかたねぇな。だが、酒はださねぇからな?」

「恩にきるよ」

ニノは船長にほお擦りして感謝すると、船長からパッと離れて集まっていた手下共に向かい直る。

「と、聞いていた通りだ。
あたしらは暫く東に逃げるよ」

腰に手を当てて堂々とズラかる宣言をするニノ。
ほとんどの手下は「へーい」と返事をする中、最前列から一本の手があがる。

「かーちゃん。でも、ねーちゃんがもし生きてたらどうするの?」

その質問の主はイラクリだった。
大好きだった姉が戻ってこないのにここを離れてしまったら、仮に姉が生きていた場合にどうしたらいいのか。
当惑の表情を浮かべて彼は母であるニノに質問するが、対するニノはイラクリの前にしゃがむと、その頬を両手で触りながらその問いに答えた。

「……いいかい。あたしたちゃね。いつも誰かに追われてるんだ。
脱落者は置いていく。それが代々伝わる群れの掟なんだよ
例え、それが我が子でも…… それが盗賊家業であたしたちの部族が生残ってきた秘訣なんだよ」

まっすぐ目を見据えて、今まで何度も説明してきた一族の掟をイラクリに告げるニノ。
その真剣は視線にイラクリもそれ以上の言葉はつむげなかった。

「……」

沈黙するイラクリに、ニノは彼が納得したのだと感じると、いつものようにグシャグシャと彼の頭をなでながらニノは立ち上がる。

「物分りがいいね。だったら姉ちゃんの分までしっかり生きるんだ」

そう言ってポンポンとイラクリの頭をたたくニノ。
そんな彼を気遣う彼女の前で、イラクリはただ必死に涙をこらえることしかできなかった。

「ねーちゃん……」


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