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No.29737の一覧
[0] 試される大地【北海道→異世界】[石達](2012/11/29 01:19)
[54] 序章[石達](2012/11/29 01:05)
[55] 起業編1[石達](2012/11/29 01:06)
[56] 起業編2[石達](2012/11/29 01:07)
[57] 起業編3[石達](2012/11/29 01:08)
[58] 国後編1[石達](2012/11/29 01:08)
[59] 国後編2[石達](2012/11/29 01:09)
[60] 転移と難民集団就職編1[石達](2012/11/29 01:09)
[61] 転移と難民集団就職編2[石達](2012/11/29 01:10)
[62] 礼文騒乱編1[石達](2012/11/29 01:10)
[63] 礼文騒乱編2[石達](2012/11/29 01:11)
[64] 礼文騒乱編3[石達](2012/11/29 01:11)
[65] 礼文騒乱編4[石達](2012/11/29 01:12)
[66] 戦後処理と接触編1[石達](2012/11/29 01:12)
[67] 戦後処理と接触編2[石達](2012/11/29 01:13)
[68] 嵐の前編[石達](2012/11/29 01:14)
[69] 北海道西方沖航空戦[石達](2012/11/29 01:14)
[70] 大陸と調査隊編1[石達](2012/11/29 01:15)
[71] 大陸と調査隊編2[石達](2012/11/29 01:16)
[72] 大陸と調査隊編3[石達](2012/11/29 01:16)
[73] 魔法と盗賊編1[石達](2012/11/29 01:17)
[74] 魔法と盗賊編2[石達](2012/12/08 01:24)
[75] 決戦[石達](2012/12/08 01:20)
[76] 盗賊と人攫い編1[石達](2012/12/31 22:47)
[77] 盗賊と人攫い編2[石達](2013/01/19 21:24)
[78] 盗賊と人攫い編3[石達](2013/01/19 21:23)
[79] 道内情勢(霧の後)1[石達](2013/02/23 15:45)
[80] 道内情勢(霧の後)2[石達](2013/02/23 15:45)
[81] 外伝1 北海道航空産業の産声[石達](2013/02/23 15:46)
[82] 東方世界1[石達](2013/03/21 07:17)
[83] 東方世界2[石達](2013/06/21 07:25)
[84] 東方世界3[石達](2013/06/21 07:26)
[85] 幕間 蠢動する国後[石達](2013/06/21 07:26)
[86] 東方世界4[石達](2013/06/21 07:27)
[87] 東方世界5[石達](2013/06/21 07:27)
[88] 東方世界6[石達](2013/06/21 07:28)
[89] 東方世界7[石達](2013/06/21 07:28)
[90] 世界観設定[石達](2013/06/23 16:49)
[91] 人物設定[石達](2013/06/23 16:57)
[92] 東方世界8[石達](2013/07/15 01:51)
[94] 帝都ティフリス1[石達](2013/08/09 02:02)
[95] 帝都ティフリス2[石達](2013/08/12 00:21)
[96] 帝都大脱走1[石達](2013/09/23 00:16)
[97] 帝都大脱走2[石達](2013/09/22 22:47)
[100] 帝都大脱走3[石達](2014/02/02 03:03)
[101] 対エルフ1[石達](2014/02/02 03:03)
[102] 対エルフ2[石達](2014/02/05 22:45)
[103] 対エルフ3[石達](2014/02/05 22:45)
[104] 対エルフ4[石達](2014/02/05 22:46)
[105] カノエの素性1[石達](2014/02/05 22:46)
[106] カノエの素性2[石達](2014/02/09 13:13)
[107] 別れ、そして託されたモノ1[石達](2014/02/09 13:14)
[108] 別れ、そして託されたモノ2[石達](2014/02/09 13:16)
[109] 決意[石達](2014/02/09 13:42)
[110] 新しい風[石達](2014/04/13 10:41)
[111] 交流拡大、浸透と変化1[石達](2014/04/13 10:41)
[112] 交流拡大、浸透と変化2[石達](2014/06/04 23:46)
[113] 交流拡大、浸透と変化3[石達](2014/06/04 23:47)
[114] 交流拡大、浸透と変化4[石達](2014/06/15 23:55)
[115] 交流拡大、浸透と変化5[石達](2014/06/15 23:55)
[116] 平田、大陸へ行く1[石達](2014/08/16 04:02)
[117] 平田、大陸へ行く2[石達](2014/08/16 04:02)
[118] 対外進出1[石達](2014/09/14 08:19)
[119] 対外進出2[石達](2014/08/16 04:04)
[120] 対外進出3[石達](2014/10/13 01:58)
[121] 回天1[石達](2014/10/13 01:59)
[122] 回天2[石達](2014/10/14 20:24)
[123] 回天3[石達](2015/01/18 08:20)
[124] 回天4[石達](2015/01/18 08:24)
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[29737] 決戦
Name: 石達◆48473f24 ID:a6acac8b 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/12/08 01:20
クラウスが戦場を見渡しているのとは反対側の丘に、一人の男が馬上から戦況を見ている。
鋼の甲冑を身にまとい、深い皺の刻まれた痩せ顔の彼は、エルヴィス辺境伯討伐軍の諸侯を束ねるマヌエル・アサーニャ伯爵。
彼は討伐軍の諸侯の中でも一番の戦場での経験と実績から、軍の総大将に選ばれていた。
そんな彼が、打ち上がる青い光を見て、自らの白い顎鬚を触りながらニヤリと笑う。
戦闘開始の合図により開始された火力戦は、討伐軍の有利に推移していた。
物量で勝る討伐軍は、魔術師とバリスタの攻撃によって敵を満遍なく叩き、辺境伯軍の数を削っていく。
対して討伐軍の被害は、敵の執拗な攻撃によってバリスタの数を減らしつつも、本体の部隊は全くの無傷といっていいほど無事であった。

「ふん。辺境伯め。
火力戦で不利と見るや、こちらの歩兵を叩くよりバリスタを叩いて被害を抑える事を優先したか……
だが、いくら温存しようとも彼我の戦力差は覆らん。
一思いに引導を渡してやろう」

そういって彼は軽く手を上げ、配下の兵を呼ぶ。

「歩兵を前へ。弓兵は歩兵の後に続け」

それを聞いた配下の兵は即座に手に持っていた角笛を吹く。
長く一音、短く二音。それが歩兵部隊への突撃の合図だった。
方陣を形成しパイクを装備した1万を超える前衛の歩兵部隊が、列を維持したまま行進する。
そして、それに追従するように弓兵部隊も行軍していく。
攻勢をしかける討伐軍だが、先に矢を放ったのは辺境伯の軍だった。
雨のように降り注ぐ矢を盾で受けつつも、穂先を並べて進むパイク兵。そして、お返しとばかりに矢を放つ弓兵部隊。
彼らを襲う矢の雨は、運の無かったものの手を、腹を、そして頭を貫き、バタバタと兵が倒される。
だが、兵の行進は止まらない。
そして、何度かの斉射の応酬の後、遂に先頭のパイク兵部隊が辺境伯の部隊と激突した。

「ワァァアアア!!!!」

咆哮を上げながら両軍は入り乱れて槍を叩き合う。
兜ごと頭を叩き潰し、襟口に穂先が沈む。
正面戦闘は両軍の完全な力押しの場となった。
数で圧倒する討伐軍だが、辺境伯軍も練度が高い。
戦場での圧力は拮抗しているといっていいだろう。
そして、アサーニャ伯爵は両軍の衝突が激しさを増すのを見て、次段階への命令を下した。

「よし、敵正面は拘束した。
数の少ない奴等は下手な動きは取れまい。
これより後衛本陣も進出し、前衛の代わりに正面を受け持つ。
騎兵隊は左右から回り込んで背後に移動。前衛部隊は騎兵の移動と同時に左右に展開。敵側面を拘束する。
反逆者を包囲殲滅するのだ」

伯爵の命と共に全軍が動き出す。
それまで待機していた後衛本陣は、左右に分かれる前衛の穴を埋めるように前方に進出する。
そして、側面を押さえにかかる前衛の横から数千の騎兵が、土煙を上げながら辺境伯領の背後に回りこむ。

「流石は伯爵だ。
包囲が完成すれば勝ったも同然。
我々としてもこの決戦の指揮官に貴方を選んだ甲斐があったというものですな」

伯爵とくつわを並べて進軍する諸侯の一人が、既に戦後の辺境伯領の分配を想像してニヤリと笑う。

「なに。
数の面でも我々が勝って当然の戦いだ。
予想外の誤算でもない限り、我々の勝利は揺ぎ無い。
……だが、一つ気になることがある。
現辺境伯のクラウスは、戦に関しては才気溢れる青年だった。
果たして、このまま何も無く殲滅されるに任せるのだろうか……」

伯爵は、過去に帝国との国境紛争の際、クラウスと一緒に従軍したことがあった。
その時の記憶が確かなら、彼はここにいるような愚鈍な貴族どもとは違い、戦に関して光るものがあった。
そんな彼が、何も勝算も無く決戦に臨むだろうか……
だが、そんな彼の疑念を他所に、包囲は着々と完成しつつある。
そんな何か隠し玉があるのではないかという彼の疑念は、騎兵が敵に接触を始めた段階になって現実となって現れた。
辺境伯軍の両翼。
まるで防御陣地のように、正面の攻撃を無視して動かなかった両翼が、騎兵が彼らを越えて回り込もうとしたところで、その咆哮を上げた。
爆発のような連続音が響き渡り騎兵の先頭集団がバタバタと落馬していく。
見れば敵の両翼には土塁のような盛り上がりがあり、その頂上が爆発音の発生源らしい。
バタバタと先頭集団が倒れた騎兵部隊は、途端にその衝力を失っていく。
敵側もそれを確認してか、目標を騎兵から側面に移動した前衛部隊に変えたようだ。
前衛のパイク兵部隊に降り注ぐ敵の攻撃は、後衛部隊と切り離されるようにバタバタと後衛に近い兵が一直線に倒されていく。
伯爵は意外すぎる敵の隠し玉に呆然としたが、それでもハッと我に返ると口惜しげに奥歯をかむ。
クラウスの隠し玉の存在により、後ろに回りこむはずだった騎兵は衝力を失い。左右に展開する部隊は切り離された上で動揺が広がっている。
恐らく、敵の意外な攻撃に比べて実際の被害はさほど多くは無いため、この程度の混乱は直ぐに収束できるとは思うが、今この瞬間、伯爵の制御下にある部隊は敵正面でぶつかり合う本陣だけとなっていた。

「奴め!これが狙いか!」

伯爵が、怒気を孕ませて吐き捨てるように言う。
そして、それは辺りに響き渡る敵の角笛の音と、ほぼ同時だった。









北海道側からの支援で両翼の陣に設置されていたM2重機関銃は、期待通りの成果を上げていた。
そもそも、少ない兵力を十二分に活用するため両翼の軍勢は機動することは念頭に置かれていない。
それらは全て銃座の守備に当てたものだ。
そして、過去に何度かくつわを並べたアサーニャ伯爵の戦術は良く知っている。
そして、彼は私の予想通り包囲殲滅を目的とした動きをしていた。

「魔術兵!騎兵へ剛力と疾風の加護を!」

兵たちは良い働きをしてくれている。
それが策の内だとしても、半ば包囲された状況で、私を信じて己の職分を忠実にこなしている。
敵への攻撃を必要最小限に控え、魔力を温存していた魔術兵の術式が私を含めた騎兵達の体を包む。
高揚する精神。溢れる力。今では飛び交う矢の切羽の模様すら見て取れる。

「騎兵隊整列!突撃準備!」

流石は練度の高い我が兵たち。
私の背後で見事なまでの陣形移動をみせる。
そうして周りを見渡し、陣形が整っているかを確認していると、ふと顧問団の面々と目が合った。
まるで信じられないものを見ているかのような表情だ。
まぁ 当然だろう。
彼らの常識と私達の世界の常識は違う。
なにより、私自身もこれからの行動が馬鹿らしくてたまらない。
これが教会の立会いで無い戦場だったならば、迷わず両翼に配置された機関銃という武器で敵の本陣を蜂の巣にしていただろう。
いや、そもそも彼らの航空兵力で、馬鹿共を戦場に到着すらさせなかったかもしれない。
だが、今となっては無粋な"もし"は不要。
ただただ我等の理に則って、その本分を発揮するのみ。

「さぁ!戦士達よ!遂に我々の出番となった!
戦場という名の舞台が、諸君らの出番を待っている。
そして見せてやろう!観戦司祭という観客に我々の勇姿を!愚かな王国軍には彼らの首を刈り取る死神の姿を!
そして私は君達に敵を刈り取る自由を与えよう。
だが、見ての通りご馳走は山のようにあるが、一つだけ条件がある。
敵将の首を全て刈り取れ!
一人も残すな!
我等が郷土を荒らす不逞な輩は、一人残らず地獄に叩き込むのだ!
騎兵突撃!中央軍前へ!!」

「ウーラァァァァァァ!!!!!」

私の言葉に対する呼応の声と共に私は駆け出した。
敵に向かい、全力で愛馬が駆ける。
私と共に魔術で強化された愛馬の脚力は、吹きすさぶ風さえも追い越して突き進む。
そして、それを追いかける同じく強化された騎兵と追従する歩兵部隊は、全力で中央突破を行っていた。

指揮官先頭の中央突破。
教会の一番推奨する美しき戦術。
そして、論理的に考えれば愚かにもほどがある戦術。
それに相対する敵側は、両翼が分断されたといえど数の上では我々と同等か少し上。
そんな敵側の本陣は、此方の突撃をしのぐ為、包囲のために左右に広がり始めた陣形を中央に集め始める。

「うぉぉおりやぁあ!!!」

突撃阻止のために接近するパイク兵。
そして一閃。
魔術により強化された曲刀の一撃は、敵の穂先を切り落とし、返す刀で敵兵の頭を二つに切り裂く。
土煙を上げながら走り抜けた後で、敵兵は血飛沫を上げながら倒れたが、そんな姿を見ても敵の勢いは変わらない。
迫り来る無数のパイク兵をいなし、切り伏せ、時には愛馬の蹄で叩き潰しながら前進する。
そうして敵陣の半分まで来た頃であろうか、追従してきた騎兵の一人が叫んだ。

「クラウス様!敵本陣警護の騎兵です。ここは我々にお任せください!」

見れば前方から、突撃阻止のために黒い馬に乗った敵騎兵の一群が向かってくる。

「すまん!任せる!」

そうして、返事をするや否や、ここまでの突破に付いて来れた味方の騎兵が、クラウスを追い抜いていく。
敵とほぼ同数の馬や鳥に乗った騎兵が、ランスを抜いて交差する。
騎兵の集団同士の激突。
たった一度の激突であるが、それによって半数の兵が串刺しになったり、落馬して状況は混戦に陥っていた。
諸侯軍の寄せ集めといえど、警護の騎兵はアサーニャ伯爵の親衛隊。
我が精鋭たちと互角の戦いを繰り広げている。

「殿下!今のうちです!」

ランスを捨て、曲刀に持ち替えた騎士の一人が、敵騎と斬り合いながら叫ぶ。

「ご苦労!」

配下の兵を一瞥すると、愛馬に鞭をいれ混戦を離脱。
敵本陣に向かって一目散に駆け抜ける。
途中、槍を向ける雑兵を何人か切り捨て突破すると、遂に王国旗の翻る本営に手が届いた。
伯爵までに至る直線上の最後の雑兵を切り倒し、曲刀を鞘に戻すと、馬にくくりつけてあったランスを抜く。

「伯爵!覚悟ぉ!」

絶叫と共に円錐のランスの先端を伯爵の喉元に狙いを付け、必殺の突撃を行う。
目にも留まらぬ愛馬の加速。白銀に煌くランスの切っ先。
当たれば鎧すら貫通し、胴体を抜けると思われた一撃であったが、それは火花を散らして宙をきった。

「むぅん!」

長剣を手にした伯爵の横なぎが、私のランスの軌道を逸らす。
だが、外れたといえど、その慣性力は変わらない。
愛馬に急制動をかけ、踏ん張りを利かせた蹄から土埃を上げてようやく停止した。

「残念だったな辺境伯。決死の突撃もここまでだ」

何処か余裕めいた伯爵の笑み。
だが、言い合いをしている余裕は無い。
数の上で負けているため、時間は伯爵に味方する。
私は持っていたランスを地面に刺すと、曲刀に持ち替えて愛馬と共に駆けた。

「うらぁぁあ!」

繰り出す斬撃。
それを伯爵は私と並走しながら難なくいなす。
双方が魔術による肉体強化をしている為、その一撃同士の激突は刀身から盛大な火花を飛び散らせる。
上段、中段、下段、あらゆる方向から斬撃を放つが、その全てが受け止められる。

「くぅ!」

恐らく、伯爵の剣技は私をうわまわっている。
このままでは時間ばかりが過ぎて、ますます不利になる。
これではいけないと一度距離を取ると、ある策に打って出ることにした。
少し離れた事で、広がる二人の戦闘空間。
そして、時間を食った事によって集まりだす雑兵。
私はこれらの状況を確認すると、雑兵を切り捨てながら伯爵への再度の突撃を開始した。
まるでチーズか何かのように斬られる雑兵。
そして、伯爵まで残り一人となったとき、私はそれまでの斬撃から雑兵に向かって垂直に刃を入れる。
鎧もろとも貫かれる雑兵。
そして、力ずくでにそれを持ち上げると、走る馬の勢いに乗せて伯爵に向かって投げつけた。
刀身が雑兵の体からズルリと抜け、その体は伯爵目線を遮る様に飛んでいく。
雑兵の胴体が伯爵の視界を塞ぎ、それと共に繰り出される斬撃が伯爵に必殺の一撃を入れて勝負を決める。

……ハズだった。
当初の目論見では、戦に関しては無慈悲な伯爵は、飛んでくる障害物を例え味方であろうとも切り裂いて防ぐと思った。
そして、その一瞬の隙を突いて繰り出される我が曲刀は、伯爵を袈裟切りにする予定であった。
だが、伯爵は飛んでくる雑兵を空中で片手で受け止めると、それによって生まれた死角から、此方が切りかかるのを予期していたかのように、もう片方の手に持っていた剣を切り上げた。
一瞬の事だった。
右肘から先が空中を舞う。
片腕を失ってもなお、落馬せずに駆け抜けて距離を取れた事は幸いだったが、失った腕は剣を握ったまま地面に突き刺さった。

「どうだ?
もう十分だろう。降伏しろ。
今なら、お前の命一つで部下の命は助けてやる」

「黙れ!」

伯爵が冷静な目で降伏を勧めるが、今の私にはその様な言葉は聞こえない。
魔術の効果で感情が高まっているのと、片腕を失った動揺で冷静な判断など無理だった。

「流石は伯爵。
若造に伯爵の相手は荷が重過ぎましたな。
まぁ こんな反逆者には情けなどかける必要は無い。
配下の兵共々、根きりにしてやりましょうぞ」

ふざけた外野が煩い。
今まで本陣の隅でガタガタ震えているだけだった糞諸侯が、勝利者ヅラをしているのが鼻に付く。

「引っ込んでいろ豚!
後で全員塩漬け肉のように切り刻んでやるから、大人しく待っていろ!」

怒りを露にして、肥えた貴族の豚に向かって吼える。

「豚?!だと……」

豚が豚といわれて青筋を浮かべて震えている。
余りに怒気を含ませて吼えたため、怖気づいてしまったのだろうか。
そんな侮蔑の視線を豚に送ってあざ笑ってやると、心に余裕が出来たのか精神も落ち着きを取り戻してきた。
そのまま伯爵と距離を取りながら、地面に刺したランスを探す。
……あった。

「伯爵。
あの小僧に止めを刺す前に、私に奴の身柄を貸していただけませんかな?
奴の少女のように整ったあの顔を汚し抜き、絶望に染めてから殺したいのです」

豚が伯爵に提案する。
その提案を聞いて、あまりの下種さに伯爵も興を削がれたのか辟易した顔をしている。

「それは、決着しだいですな。
場合によっては戦いの中で殺してしまうかもしれないので、約束はできません」

伯爵は馬の歩みを止めて豚に答える。
だが、そんなやりとりを向こうがやっているうちに、此方は此方で残った左腕で地面に刺さったランスを回収する。
よくやった豚。
お前の下種さのお陰で、難なくランスは回収できた。感謝するぞ。

「ほぅ……
利き腕を失っても、まだ武器を取るか。
その敢闘精神は賞賛に値するな」

伯爵が剣を仕舞い、侍従からランスを受け取る。
どうやら騎士としての一戦を望むようだ。

「フフフ。
敢闘精神は神への信仰そのものじゃないですか。
片腕がなくなったって、まだもう一本ある。
不利になった分は、他のもので補えば良い。
これは普段は使いたくは無かったのですが……
この際だ、仕方ない。特別にお見せしましょう」

そう言ってニヤリと笑うと、もう不要だとばかりに兜を脱ぎ捨て、普段は決して使わぬ術式を構築するために言の葉を紡ぐ。
全身を包む赤い魔力が、まるで炎のように体に纏わりつき、兜から解放された黄金のような長髪が風に揺れる。

「……そうか、貴様はエルヴィス一族の中でも、教皇の座を狙うために教会に籍を置いた人間だったな。
教会に身を置いていたのなら、魔術くらい使えて当たり前か」

そう言って、伯爵の表情から全ての感情が消える。
全てを次の一撃に託し、全精神を構えたランスに集中させる。

「上位階級の聖職者のみに伝授される秘術。
人を捨て、闘争本能のみを神に捧げる戦士の賛美歌。
とくと味わって頂こう」

視界が真っ赤に染まる。
恐らく、その姿を客観的に見ることが出来れば、瞳が獣の眼光の如く鋭くなり、野獣のような気迫に満ち溢れているに違いない。
そして、次の瞬間、自分の中で何かが弾けた。
全てが止まり、空間が加速する。
愛馬は疾風の如き速さで駆け出すが、その一挙一動が手に取るように分る。
相対する伯爵は、それに呼応するように向かってくるが、その呼吸すら感じてしまえるような感じがする。
一歩、また一歩と相対距離が近くなり、伯爵は此方の心臓めがけてランスを構えている。
間合いが近づく。
彼我の相対速度は軍馬の限界を超えて加速され、それに乗せるように左手のランスを大きく振りかぶると
己を抹殺せんとする眼前の敵へと全力で突き出した。
限界を超えた一撃に筋肉が悲鳴を上げる。
普通ならば回避不能な速度。
当たれば一撃必殺の槍。
それに相対する伯爵は、此方のあまりの気迫に得体の知れぬ悪寒を感じたのか、手に持つランスの向きを攻撃から防御に切り替える。
此方のランスの軌道に割り込む伯爵の技。
余りに重い一撃に、擦れ合うランスが火花を上げる。

「ぐぬぅ! なんと、左手でこの威力か……」

伯爵は何とか一撃を免れたものの、その威力に驚愕の表情を浮かべている。
ただ此方の軌道を変えるために、ランス同士を接触させただけだったが、想像以上の力に手がジンジンと痺れて止まらないようだった。

「ウ゛ア゛アァアァアア!!」

そんな伯爵を見て雄たけびをあげる。
一撃で屠れなかった悔しさと、次こそはという死の宣告を込めて。
そうしてクルリと馬体を反転させると、改めて伯爵に向かい直る。

「次で…… 終わらせる!!!」

再度の疾走。
ぐんぐん馬体は加速する。
伯爵は少々の恐怖を滲ませた表情を浮かべるも、即座に迎え撃つ構えを取る。
だが、その恐怖が伯爵の技を鈍らせたのだろうか、伯爵のランスは此方のランスをいなし切れず、双方の穂先が互いの胴に命中する。

ドォン!!

一瞬の交差。
そして、その一瞬で勝者が決まった。

「ぐぅ…… ガハッ!」

此方のランスよって、馬上から刈り取られたかのように貫かれた伯爵が、血の泡を吹きながらズルリと抜け落ちる。
同時に命中したのに、なぜ伯爵だけが倒れているのか。
それは当の伯爵にも理解できてはいなかった。
伯爵のランスも、確かに命中はしていた。
だが、プレートメイルを貫いたものの、不思議な感触に阻まれる。
対して此方の放ったランスは、プレートメイルごと伯爵の胴体を貫いた。
一体何が伯爵の槍を防いだのか。
それは、鎧の下に来ていた北海道の軍事顧問団から渡された、リキッドアーマーといわれる防御装備。
衝突の瞬間に硬化した液体が、伯爵の槍の貫通力を奪っていた。

「ウ゛オォオオォォォォォオオオォオオオォオ!!!」

勝利の雄叫び。
その声は戦場に響き渡る。
全軍が交戦を止め、その視線が血に染まるこの身に集まる。
何ともいえぬ高揚感。……そして、快感。
それらを全身で感じた時。
未だ、かすかに残っていた自我は、狂気の渦へと落ちていった。







「おぉ!クシャナ様(仮)が敵将を討ち取った!」

戦場から離れた丘の上で、高倍率の双眼鏡を覗きながら拓也が呟く。
その視線の先では、丁度クラウスが伯爵を討ち取った処だった。

「いや、だから、あれは男でエルヴィス辺境伯だ。
それより辺境伯の周りを見ろ。頭を討ち取られて軍勢の動きが止まったぞ」

拓也はエドワルドの言葉に従い双眼鏡の視線を移す。
そこには鬨の声と伯爵戦死の報が広がり、まるで風に凪ぐ草原の草のように動揺が広がるのがハッキリと見て分った。
明らかに動きが鈍くなる討伐軍。
そして、勢いづく辺境伯軍の攻勢は、いつしか討伐軍の潰走という形で現れた。

「凄い…… 一人で形勢を変えちゃったよ。あのクシャナ様(偽)……
それに、トンでもないバーサーカーっぷり…… 逃げる敵軍を虐殺し始めたよ?」

拓也はそう言って視線をクラウスに戻す。
そこには目に入る全ての敵を片っ端から斬り捨てる姿があった。

「まぁ それはそれとして、やばくないか拓也?
潰走する軍勢の一団が、真っ直ぐ此方に向かってくるぞ?」

辺境伯軍の攻勢に、我先にと逃走に入る討伐軍。
その軍勢は、四分五裂しながら戦場を離れ始める。
そして、その中の一団が、真っ直ぐに拓也達のいる村の方向に向かっていた。

「……ヤバイ。
一旦、BTRに戻ろう。ラッツ、君は皆を集めるんだ!仲間も村人の生き残りも全員集めてくれ」

拓也はそう言うと、村に向かって丘を駆け下りる。
全力で丘を駆け下りたため、途中で何度か転びそうにもなったが、それでも無事に停車しているBTRのところまで辿り着いた。

「どうする?急いで引き上げるか?」

ゼイゼイと肩で息をする拓也の後ろで、汗すらかいていないエドワルドが指示を仰ぐ。

「とりあえず、村人には急いでメリダ村に避難してもらうけど、それだけじゃ十分じゃない。
連邦軍の顧問団が来てるんだ。救援要請だよ。それとメリダ村に残してきた奴等にも連絡だ。
電波障害か何かは知らないが、無線がおかしくなったのは霧が出てから……
なら、霧の消えた今なら無線も復活しているんじゃないか?」

そう言って拓也はBTRに付けられた車載無線機を取ると、置いてあった周波数表から緊急事態用の周波数を探し出してコールした。

『メーデー。メーデー。こちら第12調査隊。応答を願う……』









クラウスが突撃した後の本陣にて、本陣を任された辺境伯の将校らと共に、北海道からの軍事顧問団もその場に残されていた。
重機関銃の支援により、戦闘は此方の策が見事に発動し、現在はクラウス自身が未曾有の活躍を見せている。
そんな状況下で、正直な所、手持ち無沙汰な顧問団の団長の下へ、一人の兵が駆け寄ってきた。

「大佐。緊急電です」

本陣の後方。
道や展開した部隊との連絡用に設置した仮設コマンドポストが何かを受信したらしい。
CPから出てきた兵士は、短い敬礼の後に報告する。

「どこからだ?」

「この先の村に民間の調査隊の一隊がいるそうです。
潰走した討伐軍が向かってくるのを見て、救助要請を出してきました」

その報告に顧問団長は眉を顰める。
軍の調査隊は何日も前に引っ込めたが、未だに民間の調査隊がいるとは聞いていなかった。

「調査隊だと?この辺一帯には退去勧告が出ていたんじゃないのか?」

「おそらく例の通信障害で連絡が上手くいかなかったのでしょう。それより、如何なさいますか?」

「如何も何も、邦人の保護は何事にも優先される。
しかし、決戦に我々は表立って出てくるなと辺境伯に言われている手前、一応確認は取りたいが辺境伯自身が戦場に出てしまったとなると……
そうだな。辺境伯軍の将校を呼んできてくれ。話がある」

そう言って団長は兵に待機している将校を呼んでくるよう命ずると、兵は即座に命令を復唱してクラウスの配下の将校を探す。
そして、程なくして留守を任された本陣で一番階級が上と思われる辺境伯軍の将校を呼んで来た。

「なんでございましょうか?」

呼び出しを食らった将校が、何事かと問いかける。

「今回の決戦。既に勝負は付いていると思うのだが、我々は何時までじっとしていればいい?
付近にいる不運な我々の調査隊の一部から救難要請がある。
我々としては直ぐにでも向かいたいのだが、今回の戦いは政治的な局面が強い。
そこで、本陣に残っている将校の君に聞きたいんだ。
見たところ、辺境伯自身は連絡がつきそうに無いのでな」

「そうですね。決戦自体は伯爵の首を取って敵軍が潰走した段階で終わりです。
現在は追撃戦ですので、教会は小うるさい事は言わないかと思いますが……」

「つまり、政治的に戦いは決着している為、我々が敵の掃討に出ても影響は少ないと?」

「まぁ 私見ですが、そのように思われます。
少なくとも、大勢は殿下自身が決したため、教会の審判には影響しないはずです」

あまり断定した返事ではないが、これまでの慣例から語る将校の言葉に団長は考えた。
政治問題になる可能性を恐れて動かぬべきか、それとも動くべきか……
少々の時間、団長は唸って考えた後、一つの決断を出し、配下の兵に命令する。

「……うーむ。
なるほど、多少の不安は残るが、余力がありながら邦人の救助要請を無視するなど出来ない。
それに、大統領からは辺境伯の意向の範囲内で軍の力を見せつけてやれとの命令もある。
よし、直ちにヘリ部隊に通達。調査隊の方へ迫る敵残存部隊を攻撃し、掃討戦に移れ。
間違っても地上の辺境伯軍を誤射するなよ」

その言葉を聞き、兵は素早くCPへと戻る。
そして、ヘリ部隊出動の命令に対し、いつでも出れるようにと準備していた部隊の行動は迅速だった。
大陸が霧に覆われる直前に移送を完了していたヘリ部隊は、戦場から山一つ挟んだポイントでその身を隠していた。
霧のせいで数日に渡り飛行が制限されていたこともあり、早く飛び立ちたいとウズウズしている兵器の群れは、出撃の合図と共に歓喜するかのようにローターを回し、一斉に飛び立つ。
それは、北海道と南クリルから集まったAH-1ZヴァイパーとMi-24VPハインドの群れだった。
10分とたたずにローターの回転音を戦場に響かせて現れたその群れは、辺境伯軍の上空をパスして逃走する討伐軍へと向かう。
その勇姿に両軍ともに驚愕の表情で見上げているが、辺境伯軍の中では事情を知るものから「あれは味方だ」との声が上がると鬨の声をあげてそれを見送る。
対して討伐軍の間では、得体の知れない飛行物体の出現と、敵の声を聞いて一気に恐慌が広がった。
生き残りの魔術師が空に向かって炎弾を放つが、それらは全てヘリのはるか後方にそれるばかりで一向に当たる気配は無い。
むしろそれらの行為は、かれらの死期を早める以外の何者でもなかった。

『敵からの迎撃を確認。遠距離から制圧しろ』

先頭を飛行する一機が、自身に向かって放たれた炎弾を見て全機に通達する。
そして、その光景を見ていた後続の機体から、何本もの白い筋が炎弾の発射源目掛けて放たれた。

『ハッハァ!迎撃なんて地対空ミサイルに比べたら屁みたいなもんだぜ。
さぁ!このロケット弾はプレゼントだ。とくと味わえ!』

ハインドやヴァイパーから放たれたロケットが、敵軍集団の中央で炸裂し、敵兵とその肉片を炎と共に宙へと舞い上げる。
突如として発生した魔術とはまた異なる爆発に驚きと悲鳴が辺りに響く。

「うわぁぁ!何だアレは?!」

「りゅ、竜?イヤ、違う…… 一体あれは……」

一体頭上を我が物顔で飛び回るモノは何か?
幾人かの討伐軍兵がそれにに思慮を巡らすが、それも次の瞬間には恐怖で塗りつぶされた。

GYUOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO……

一直線に兵士を薙ぎ払うようにして放たれるハインドの23mm連装機銃は、土煙を上げながらその軌跡を血と肉片の筋に変える。
そして一緒に敵を掃討するヴァイパーも同様の活躍を見せていた。

「ぐわぁぁぁ!!!」

「ひぃ!神様!」

思わず、狙われた兵士達は神に祈る。
だが、それは聞き入れられることは無い。
今、この瞬間。大空を飛び回るハインドとコブラの群れこそが、戦場の神であった。

『調査隊へと向かっていた敵部隊の壊滅を確認』

ヘリ部隊の隊長機がCPに連絡する。

『CP了解。敵が纏まって逃げるように誘導しろ。はぐれた敵は好きに刈り取って良し。
現在、上空待機していたSu-51が、そちらに向けて接近中。15分で敵に接触する。
狩りに夢中になってクラスター爆弾の雨に巻き込まれるなよ』

『そこまで鈍臭くないさ』

そう軽口を叩き合って双方は笑いあう。
それはまるで、地獄に君臨する悪魔の軽口のようであった。







暗転した意識が、次に己の体に戻ったとき、そこは目を覆うような地獄であった。
夕暮れの赤く染まった大地の上に、雑兵の屍骸を基礎にして立てられたランスが、串刺しにされた伯爵の遺骸を掲げている。
その周りには、八つ裂きにされた諸侯の死体や、雑兵や軍馬など夥しい死体があふれている。
足元を見れば、どれほど酷使したのだろうか、傷だらけの愛馬が息を引き取ろうとしているところであった。

「これは…… 私は今まで……」

血に濡れた左手を見ながら、そっと呟く。
見れば伯爵との戦いで失った右腕は、当然元の位置には無く、ただジンジンとした痛みだけが感じられる。

「正気に戻られましたかな?」

突然聞こえた背後の声に、ハッとして振り向く。
その振り向いた先には、満足げな観戦司祭の一団が立っていた。

「私は一体…… いや、それより決戦はどうなりましたか!?勝敗は?」

思い出したかのように尋ねるこちらの問いに、彼らは微笑を浮かべたまま答えてくれた。

「覚えておりませんかな?
あなたは、伯爵との一騎打ちにて闘争特化の魔術を使われた。
それによって伯爵は討ち取られ、周りにいた諸侯も粗方クラウス殿の手によって討ち取られました。
頭を失った諸侯軍は敗走し、今は貴方の不思議な友人達によって掃討されている最中でしょう」

それを聞いて、だんだんと記憶の整理が付いてきた。
そうか、目の前の死体の山は、自分がやったのか。
ん?だが、ちょっと待て。
今、観戦司祭達は不思議な友人と呼ばなかったか?
もしや、異教徒である北海道のことか?

「……不思議な友人ですか?」

「ええ、貴方の指揮で動いているとは言ってましたが、決戦の勝負が付いた後、潰走した討伐軍が近隣の村を襲おうとしたので介入したと言っておりました。
まぁ 何とも不思議な軍勢でしたな。空飛ぶ魔導具を駆使する連中など聞いたことが無い」

「えっと、あの、彼らはですね……」

「ですが! 不思議な連中が介入してきたのは決戦の後。
今回の決戦は、あなたの指揮官先頭による突撃と、大将同士による一騎打ちという、近年稀に見る素晴らしい戦いだった。
このような勇猛さと敢闘精神は、神も大変お喜びになるでしょう。
特に貴方の戦いっぷりは教会から戦の手本として、世に広めたいほど素晴らしかった。
形成不利となっても決して諦めず、己を捨て、闘争本能のみとなっても勝利をもぎ取る。
このような戦場を見せてもらったのに、些細なことで興を削がれるのは面白くない。
不思議な友人達の出自はともかくとして、今回の決戦は、教会はエルヴィス辺境伯の勝利と認定します。
此度の独立は、神がお認めになったものとして教皇庁に報告しましょう」

「あ、はい。感謝いたします」

「ん?あまり嬉しそうじゃないですね?」

その言葉にドキりと心臓がなる。
戦勝の嬉しさより、彼らの存在がばれてもなお、異端認定されなかったことに安堵する気持ちが強かったなど口が裂けても言えない。

「いや、嬉しいですよ。嬉しいですけど色々と失った物もあったので……」

そういって肘から先の無い右手を摩る。
司祭達も、その様子を見て、先ほどの無感動の原因が腕を失ったことと勘違いしてくれたようだ。

「神は戦傷に見合った加護を与え、天の国でその恩賞を与えたまります。
あなたの失いし右手に神の祝福がありますように……」

そう言って司祭は、右手の傷に祝福の儀礼を行う。
一通りの祝福を終えた後、司祭は満足したかのように此方に話しかけてきた。

「それでは、我々は報告のために教皇庁に戻ります。
今後は、神の導きにしたがって正しく国を治めてください」

手を振り、西に向かって歩き出す観戦司祭の一行は、夕日の中に消えていった。

数日後、教皇庁から出された布告により、エルヴィス辺境伯領はエルヴィス公国として正式に独立が教会より認められることになる。
これをもって、エルヴィス辺境伯クラウス・エルヴィスの独立戦争はここに終結したのだった。


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