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No.29737の一覧
[0] 試される大地【北海道→異世界】[石達](2012/11/29 01:19)
[54] 序章[石達](2012/11/29 01:05)
[55] 起業編1[石達](2012/11/29 01:06)
[56] 起業編2[石達](2012/11/29 01:07)
[57] 起業編3[石達](2012/11/29 01:08)
[58] 国後編1[石達](2012/11/29 01:08)
[59] 国後編2[石達](2012/11/29 01:09)
[60] 転移と難民集団就職編1[石達](2012/11/29 01:09)
[61] 転移と難民集団就職編2[石達](2012/11/29 01:10)
[62] 礼文騒乱編1[石達](2012/11/29 01:10)
[63] 礼文騒乱編2[石達](2012/11/29 01:11)
[64] 礼文騒乱編3[石達](2012/11/29 01:11)
[65] 礼文騒乱編4[石達](2012/11/29 01:12)
[66] 戦後処理と接触編1[石達](2012/11/29 01:12)
[67] 戦後処理と接触編2[石達](2012/11/29 01:13)
[68] 嵐の前編[石達](2012/11/29 01:14)
[69] 北海道西方沖航空戦[石達](2012/11/29 01:14)
[70] 大陸と調査隊編1[石達](2012/11/29 01:15)
[71] 大陸と調査隊編2[石達](2012/11/29 01:16)
[72] 大陸と調査隊編3[石達](2012/11/29 01:16)
[73] 魔法と盗賊編1[石達](2012/11/29 01:17)
[74] 魔法と盗賊編2[石達](2012/12/08 01:24)
[75] 決戦[石達](2012/12/08 01:20)
[76] 盗賊と人攫い編1[石達](2012/12/31 22:47)
[77] 盗賊と人攫い編2[石達](2013/01/19 21:24)
[78] 盗賊と人攫い編3[石達](2013/01/19 21:23)
[79] 道内情勢(霧の後)1[石達](2013/02/23 15:45)
[80] 道内情勢(霧の後)2[石達](2013/02/23 15:45)
[81] 外伝1 北海道航空産業の産声[石達](2013/02/23 15:46)
[82] 東方世界1[石達](2013/03/21 07:17)
[83] 東方世界2[石達](2013/06/21 07:25)
[84] 東方世界3[石達](2013/06/21 07:26)
[85] 幕間 蠢動する国後[石達](2013/06/21 07:26)
[86] 東方世界4[石達](2013/06/21 07:27)
[87] 東方世界5[石達](2013/06/21 07:27)
[88] 東方世界6[石達](2013/06/21 07:28)
[89] 東方世界7[石達](2013/06/21 07:28)
[90] 世界観設定[石達](2013/06/23 16:49)
[91] 人物設定[石達](2013/06/23 16:57)
[92] 東方世界8[石達](2013/07/15 01:51)
[94] 帝都ティフリス1[石達](2013/08/09 02:02)
[95] 帝都ティフリス2[石達](2013/08/12 00:21)
[96] 帝都大脱走1[石達](2013/09/23 00:16)
[97] 帝都大脱走2[石達](2013/09/22 22:47)
[100] 帝都大脱走3[石達](2014/02/02 03:03)
[101] 対エルフ1[石達](2014/02/02 03:03)
[102] 対エルフ2[石達](2014/02/05 22:45)
[103] 対エルフ3[石達](2014/02/05 22:45)
[104] 対エルフ4[石達](2014/02/05 22:46)
[105] カノエの素性1[石達](2014/02/05 22:46)
[106] カノエの素性2[石達](2014/02/09 13:13)
[107] 別れ、そして託されたモノ1[石達](2014/02/09 13:14)
[108] 別れ、そして託されたモノ2[石達](2014/02/09 13:16)
[109] 決意[石達](2014/02/09 13:42)
[110] 新しい風[石達](2014/04/13 10:41)
[111] 交流拡大、浸透と変化1[石達](2014/04/13 10:41)
[112] 交流拡大、浸透と変化2[石達](2014/06/04 23:46)
[113] 交流拡大、浸透と変化3[石達](2014/06/04 23:47)
[114] 交流拡大、浸透と変化4[石達](2014/06/15 23:55)
[115] 交流拡大、浸透と変化5[石達](2014/06/15 23:55)
[116] 平田、大陸へ行く1[石達](2014/08/16 04:02)
[117] 平田、大陸へ行く2[石達](2014/08/16 04:02)
[118] 対外進出1[石達](2014/09/14 08:19)
[119] 対外進出2[石達](2014/08/16 04:04)
[120] 対外進出3[石達](2014/10/13 01:58)
[121] 回天1[石達](2014/10/13 01:59)
[122] 回天2[石達](2014/10/14 20:24)
[123] 回天3[石達](2015/01/18 08:20)
[124] 回天4[石達](2015/01/18 08:24)
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[29737] 大陸と調査隊編3
Name: 石達◆48473f24 ID:a6acac8b 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/11/29 01:16
反省する。
少し、羽目を外し過ぎた。
前世界では見た事もない動物やら何やらで、気分はサファリツアーだったのと
知的好奇心が刺激され過ぎて、テンションが常にハイ状態で維持されている教授たちと一緒に居たのが不味かった。
というか、初めての調査任務で緊張してた皆に、カノエが「リラックスできるお茶ですよ」と言って水筒を回してたのがそもそもの始まりな気がする。
あれを飲んだ後は、今思ってもホントに狂ってたとしか思えない。
ここに来る途中で川を一つ渡った時も、ほぼ減速なしで車列が橋に突入したせいで、荷重と衝撃に耐えかねた橋が半ば崩落していく中を、皆笑いながら強引に渡って行ったし。
新しい村を見つければ、「ヒャッハァー!村だぁ!」とか車にハコ乗りしながら叫んで接近して、見事に警戒されてしまったし。
あのお茶って実は覚醒剤か何かが混じっていたんじゃないのか?
まぁ そんな状態で村に接近したもんだから、当然のごとく警戒され爆走する車列に向かって矢を射られ、急停止。
急激なGによりミックスされた車内で、トリップしていた皆の脳が正常化する頃には
村の入り口に、ひっくり返した荷車等で作られた即席バリケードが構築されていた。
まぁ 訳のわからん連中が奇声を上げながら近づいてきたら、当然警戒しますよね。わかります。
村の外周は、入口以外は積み上げた石の壁で囲まれていて、やはり村に入るには入口は一つしかない。
…中に入るのはなかなか難しそうだ。
だが、諦めようにも、せっかく村を見つけたのに引き返すのは勿体無い。
うーむ、この状況… 
一体、どうするかな。

…と、拓也がこんがり始めた状況に頭を悩ませていると、不意に後ろから声がかかる。

「社長… 村人は絶対、私たちの事を盗賊か何かだと思ってますよ」

半ば呆れたようにヘルガが言う。

「というか、動物やら家畜程度で騒ぎ過ぎですよ。
普通の家畜やら獣見て何であんなに興奮できるのか理解できません。
あと、流石にあのテンションはドン引きでした」

「だが、そうはいっても教授らみたいな動物専門の学者にしてみれば、こっちの動物たちは宝の山みたいなもんだよ。
そんなものに周りを囲まれて、何だか一緒に楽しくなってしまったのは悪いと思ってるけどさ。
それにテンションのヤバさ的には、カノエのお茶がすべての元凶だと思っている」

「あぁ… 確かに」

ヘルガは水筒ごと地面にぶちまけられた水たまりを見つめながら相槌をする。
それは、お茶の効果が切れた後、即座にカノエから取り上げて捨てたものだが、どうにも甘ったるいような苦いような不思議な匂いが漂っていた。
投げるてる時にカノエが涙目で「あぁん」とか抗議の声を上げていたが、そんなものは無視する。
最初、リラックスできるお茶と聞いてハーブティーか何かを想像していたが、実は覚醒剤的な作用のあるお茶でしたとか極悪すぎる
そんなものを社員の皆に飲ませるなど、社長として断じて認めない。ダメゼッタイ。No薬物。

「まぁ それはそれでいいとして、とりあえず目の前で殺気立てている村人の誤解をとかなきゃいけない。
…よし!みんな、サファリ気分は終わりだ。気持ちを切り替えていくぞ。
とりあえず… そうだな、ヘルガ。一緒に来い。」

「え゛ぇ? 私もですか?」

いきなり指名されたヘルガは驚いた顔をするが、そうやって如何にも嫌そうな顔をしないで欲しいと拓也は思った。

「何のために連れてきたと思ってるんだ。
元行商人だから、こっちの常識には詳しいだろ?
話合いのサポートに入ってくれ。それに、見た目が子供だから向こうも気が緩むだろ」

なんだか凄く嫌そうな顔で渋々頷いて見せるヘルガだが、給料払っている以上、社畜として十二分に働いて貰わねば。
それに、仮に他のメンバーを連れていくとしても、教授らはお客様なので危険の矢面に立てるのは論外だし
アコニーその他の亜人は脳筋すぎるし、エドワルドのおっさんは何処の傭兵だよって顔なので、和やかな空気を作るのは難しそうだ…
となると限られた人材の中で一番的確なのは彼女である。
何より目の前にいるんで丁度良かった

「…見た目は人族の子供でも、実年齢は社長より上なんだけどなぁ」

何事も初対面は見た目が重要である。
ヘルガの呟きは意図的に無視することにして、拓也はバリケードに向かって歩き出した。
誤解を解く為に拓也とヘルガは両手を上げてバリケードの前に進む。
だが、結果はあまり思わしくなかった…

「私たち、決して怪しい者じゃありません!
話合いにそちらへ伺ってもいいですか?」

「『ヒャッハー!』とか叫んで現れた正体不明の奴らが、怪しくないと言って信用できるか!」

うん、村人の言い分にも一理ある
ヘルガの呼びかけにも全く応じない。
それならばと、拓也は背中に背負っていた布袋を手に掲げ、再度村人に話かける。

「とりあえず、話だけでも聞いてください。
敵意がない証拠に、自分ら二人は丸腰です。それと手土産も持参しました」

そう言って、持っていた袋を頭上に掲げると彼らの表情が変わる。
どうやら彼らの興味を引くことに成功しているようだ。
拓也は手持ちの袋を投げ渡し、村人が中を改めると彼らの中から驚きの声が聞こえた。
袋を持った村人が、その中身を彼らの代表と思われる人物に渡し、何やら話合いをしている。
しばらくすると、話合いがしたいという事で自分とヘルガに村へ入る許可が出た。
まぁ 話合いと言うより、一行がどんな物を持っているのか知りたいというようだったのだが…
彼らに見せた手土産として持参した物資の内訳は、砂糖や塩と言った食品から、簡単に火を起こせる百円ライターや市販の常備薬
これは何かと尋ねる村人に色々な薬ですと説明すると、村人の一人の表情が変わる。
その変化を見逃さずに誰か病気なのかと尋ねると、村長の孫が病気だそうな。
聞く所によると、熱が出て色々と薬草を試したが回復せず、プラナスまで薬を買いに行こうにも、ここ数年の不作の影響と戦の影響で薬が軒並み値上がりしていることもありで
高価な薬に手を出せるほどの余裕がないそうだ。
そんな中での「お近づきの印に、我々の薬を少々お分けしましょうか?」の言葉は効果覿面だった。
まぁ医者じゃないので市販薬を適当に渡す程度しかできないのだが、村長はまさか薬が手に入るとは思っていなかったのか大いに驚いていた。

それならばと村長に引かれるままに村の奥に案内されそうになるが、すぐに連れて行こうとする村長の手を引き留めた。

「ちょっと待ってください。
それならもう一人、薬の調合が出来る人物を連れて行ってもいいですか?」

「なんと薬師もいるのか。それは願っても無い事だ。
是非とも連れてきてくれ」

それを聞いて、村長はすぐに連れてくるように促してくる。
その顔をみると、先ほどまでの警戒感が随分と薄れているように思える。
それほどにまで孫が可愛いのだろう。
まぁ こちらは丸腰なので、変な動きをすればそのまま人質に出来るという思惑もあるのだろうが
此方は変な動きをするつもりはないし、村側が自分らに危害を加えれば、バリケードの外に待機してる社員たちによって多分村一つが浄化されるであろう。
村側は気付いていないが、絶対的な火力の差は簡単に村一つ虐殺できてしまう。
という物騒な考えは置いといて、まずは信頼関係を築くのが第一。
薬の調合(薬と言っても副作用不明の魔法薬だが)ができるカノエを呼んで来よう。
医者じゃないが、病人の病状位は軽く見れるだろう。

「ヘルガ、そういう訳だからカノエを連れてきてくれ。
あと車内の医療キットも頼む」

「了解です」

例え、カノエが役に立たなかった場合、手持ちの薬&タブレットにインスコしてある家庭の医学電子版でなんとかしよう。
そんな事を考えていると、ヘルガはカノエを連れて戻ってきた。
3人は村長に連れられて村の奥へと入る。
案内されたその先には、一軒の家があった。
南欧を思わす素焼きの屋根瓦に漆喰などは無い石積み壁の二階建て。
突然の客人の来訪に家人は驚いているようであったが、村長が一言二言、言葉を交わすと此方を見つめながら頷いて招き入れてくれた。
室内に案内され、孫の部屋に案内されると、寝床で横になる村長の孫と思しき男の子が息を荒くして横になっている。

「孫のベニートだ。
どうだ?何とかなりそうか?」

そう言って村長が横たわる男の子を紹介する。

熱があるようだが、医術の心得があるわけじゃないので何の病気かは分からない。
一応、タブレットで"家庭の医学"電子版を読んでみるが、素人には病名の断定は無理だったので、全てをカノエに丸投げすることにした。

「カノエ。病状はどんな感じ?」

横になる男の子の横に座って呼吸などを見ているカノエ
どうやら一通り検診が終わった様なので、彼女に病状を聞いてみた。

「そうですね。少し熱があるので解熱薬でも飲ませた後、滋養のあるものを取って安静にしてたら治るでしょう。
病状はそう大した事はありませんが、無理は禁物ですよ」

「本当か!?」

カノエの言葉に喜ぶ村長。
そんな彼にカノエは優しく笑って返した。

「そうか、じゃぁ 解熱剤を渡せばいいんだな。カノエ」

「えぇ あと、私の薬は強すぎるので北海道から持ってきた薬が良いと思います。
たしか、あすぴりんでしたっけ?いい薬がありましたよね」

そう言ってカノエは持ってきた医療キットからアスピリンの箱を取り出し、横になっているベニートと言う男の子に水と一緒に飲ませた。
そうして弱弱しくも男の子が薬を飲み下したのを確認し、後ろで様子を伺っていた村長の方を振り返ると、
いつのまにやら家人や他の村人たちが集まって村長の後ろから此方の様子を伺っていた。

「あの子は大丈夫ですか?」

恐らくは母親だろう。村長の後ろから心配そうな顔をした女性が尋ねてくる。

「熱があったんで、一応解熱剤を与えたから楽にはなるかと思います。
あとは滋養の良いものを食べさせてやってください」

「そうですか… それでも、あの子の苦しんでいる姿を見るのは不憫だったんで
熱が下がってくれるだけでもありがたいです。」

そういって女性は頭を下げて感謝していたのだが、顔を上げると、ふと思いついたのか胸の前で手を打ち鳴らすと微笑みながら言った。

「そうだ。お礼にお茶でもいかがですか?
あまり大したおもてなしは出来ませんが。それくらいは良いでしょう?お父様」

「うん?そうだな。色々聞きたい事もある。茶でも飲みながらゆっくり話を聞こうか」

娘の言葉に村長も賛成し、茶の用意に台所へと向かった娘の後を追う様に、村長達は客間の方へぞろぞろと移動していった。
拓也もそれに続き客間へと移動しようとするが、皆が部屋から去った所でカノエに手を掴まれた。

「社長… ちょっとお話が」

拓也を引き留めたカノエは誰にも聞こえないよう小声で拓也に話かける。

「あの子の病状ですが、正直サッパリわかりません」

「なに?!」

カノエの一言に思わず大きな声が出そうになったが、咄嗟にカノエに口をふさがれた。

「社長!声が大きいです」

そう言われて落ち着きを取り戻した拓也は静かにカノエに聞き返す。

「でも、さっきは普通に診断してただろ」

「一つ社長は誤解してます。
確かに、こっちの一般的な薬師は病人にあった薬を配合する為、医術の心得がある事も多いですが、
私はそういう系統じゃありません。
私は色々と薬を調合できますが、それは肉体強化だったり精神薬だったりで、病気用じゃありません」

自信満々で診断した後で、実は専門外ですと告白する彼女に拓也は開いた口がふさがらなかった。

「それじゃ、さっきの診断は出鱈目って訳か?」

「いや、熱があるのは確かですから解熱剤を投与すれば一時的に熱は下がると思いますよ。
ここは一つ、ヤブ医者とばれる前にちゃんとした医師に診せるべきです。
大丈夫、最終的に治れば誤診したかどうかなんてバレませんって。
仮に病状が悪化しても、先に"油断は禁物"ってまだ不安定な事を匂わせておきましたし、なんとかなりますよ」

そういってカノエは胸の前でグッと拳を握りニヤリと笑った。

「この娘は…」

不敵な笑みを浮かべる彼女に、拓也はただただ呆れるしかなかった。



その後、皆に遅れて拓也達がやってくると、客間はお茶会という名の質疑応答の場となった。

「自己紹介がまだだったな。
私はこのメリダ村の村長をしているエルナンという。そして助けてもらった孫はベニート。
それと今更だが、そもそもお前さんたちは何者だね?
あまり商人には見えんし、盗賊なら薬を分けるなんて回りくどい事もせんだろう」

テーブルの真ん中に座り、コップで茶を啜りながら村長がいう。

「申し遅れました。自分たちは北海道から派遣されてきました動物や家畜を調べている調査隊で
自分はその調査隊の護衛の代表をしています石津といいます。
横に座っているが社員のヘルガとカノエです」

拓也の紹介に二人は「どうも」と頭を下げる。

「ホッカイドウ?はて…この辺りでは聞かない名だな?
結構遠くから来たのかい?」

「北海道自体は元々この世界の島ではありませんでした。
おおよそ一年前、謎の膜が私たちの島を覆い、それが消えたと思ったらこの世界にいました。
そして右も左もわからない世界を調べる為に、一番近くにあった陸地に我々のような調査隊が送り込まれ
そのいちばん近い陸地と言うのが、この辺境伯領だったわけです」

「ほぅ… 良くは分からんがそれは難儀なことだな。
それでお前さんが、調査の為にこの村に来たと。
だが残念ながら、この村には珍しい物も特産品も何も無くてな。
見てもあまり面白い物は無いと思うぞ」

「まぁ 面白いかどうかを決めるのは私の雇い主であって
私は護衛として粛々と用心棒に努めるだけですよ。
もし、私を信用していただけるなら、街道のバリケードを撤去していただけるなら、私の雇い主に会ってもらえませんか?
我々も色んな物資を持っているので、村にとっても損にはならないと思います」

というか、ここまで友好的に対応しておいて、仮に拒否されたら、その時はこの村をどうしてくれよう?
そんな事を考えつつ、拓也は村長に笑って調査隊の入村許可を求める。

「そうだな。いつまでも待たせることもあるまい。
村の者達に道を開けるように言おう」

村長はそう言うと、近くにいた村の男を呼んであれこれと指示をする。
そして男がバリケードの方まで使いに走ると、程なくしてバリケードも撤去されたのか、車列のエンジン音がゆっくりと村の中心に響いてきた。
先頭を走るBTR装甲車に先導されてやって来たバンが村長の家の前に止まると、スライドドアを開けて教授が車から降りてくる。

「やぁ 石津君。なんとか話はついたようだね」

そう言って教授は笑みを浮かべながら拓也達の方へ近づいてきた。

「村長、ご紹介します。
こちらが調査隊の団長である漆沢教授です」

「どうも漆沢です」

そういって右手を差し出した教授は、どうしていいのか戸惑う村長の手を取って握手する

「あぁ 私はメリダ村の村長のエルナンだ。
この度は孫の病気に薬を分けて頂いたことに礼を言いたい。ありがとう」

拓也は教授に此方で行った処置を説明した。

「…なるほど、お孫さんが病気でしたか。
いやぁ コレが動物なら獣医師の資格のある私が診る事が出来たんですがね。
でもまぁ、ウチに医術の心得のある人材が居て良かった良かった」

それを聞いて拓也の顔が引きつる。
対して当のヘルガは全く同じた様子も無い。
この娘、綺麗な顔してとんでもなくツラの皮が厚いなと拓也は思った。

「貰った薬のお蔭で孫の熱も下がってきたようだ。
後は彼女の忠告通りに滋養を付けさせて安静にさせることにするよ」

村長は人の良い笑顔で感謝の言葉をのべる。
だが、拓也はそれを聞いて良心が痛む

「あぁ でも、やっぱり本職のお医者さんに診てもらった方が良いですよ。
彼女も本職の医者じゃないし…
あと、滋養を付けるなら良いものが有ります。
自分の国じゃ、病気の時は桃缶…桃のシロップ漬けを食べるんですが、持ってきた物資の中にも有ったはずなんで
分けて上げますよ」

そう言って拓也は止まっていたトラックまで走ると、荷台から桃缶を一つ手に取り、それを村長へと渡した。

「おおこれはどうもありがとう。
…だが、医者の件は少し難しいな。
なんせプラナスから医者を呼んでくる金が無い…」

村長は溜息を吐いてうな垂れる

「今年はイモが害虫にやられてな。収穫が少なかったうえにイモの価格は、他が豊作だったから下がる一方…
金さえあれば、医者でも魔術師でも診てもらえるんだが、金がない以上どうにもならん」

何処の世界でも貧困は人間の最大の敵であるようだった。
金が無いと言い表情の曇る村長。
そんな村長を見て、拓也はある一つの提案を思いついた。

「なら我々の医者に診てもらいますか?」

「でも金が…」

「そんなの別に良いですよ。
本来は調査団の健康の為の支援プログラムですが、事情の説明すればおそらく大丈夫でしょう」

「なんと!無償で診てくれるのか」

「ええ。ですが、それには一つ許可を頂きたいのです…」



村長に求めた許可。
それは気球無線中継システムを村に設置する事だった。
本来は軍の調査隊が訪れる村々に設置していっているのだが、軍より先に民間の調査隊が未調査の集落に到達した時用に
設備を1セットほど政府から押し付けられていた。
元が災害用と言うだけあって設置もさほど難しくない。
マニュアルを見ながら組み立てれば、特に問題なく設置できる。
ネットワークさえ確立すれば、簡単な診断であればオンラインで道内に待機する軍の医師からやってもらえる。
それでも駄目なら最悪、男の子を連邦軍の橋頭堡にある簡易診療所へと運べばいいだろう。
そう言った事情を村長に説明すると、村長は二つ返事で許可をくれた。まぁ説明の大半は何を言っているのか理解できていないようであったが…

許可が出れば後は早い。
早速、拓也らは施設の設営に取り掛かった。

「拓也。基部の固定が終わったから気球にヘリウム入れるぞ」

「りょうかーい」

エドワルドのおっさんの確認の声と共に通信装置の付いた気球が上空へと登っていく。
それが静かに空へと登っていく様子を見て、周囲で作業を観察していた村人から歓声が上がった。

「おぉ!これはなんと。布袋が空に飛びよった」

多分、空飛ぶ生き物でも何でもない人間の作った道具が空を飛ぶのを見るのは初めてなんだろう
村長は感心したように空高く上がった気球を見ている。

「これで後は太陽電池と風車で充電するだけなんだけど…」

そこまで言いかけて拓也の言葉が止まる。

「曇ってるな。それに雨も降りそうだ」

そう答えたエドワルド一緒に空を見つめるが、何時の間にやら上空には濃密な雲がかかり始め
西の空を見ると、既にそちらの方では雨が降っているのか灰色のもやに覆われていた。
設置した装置は、フル充電されていれば半月は悪天候が続いても電源を供給できる高性能な蓄電池を持っているのだが
いかんせん、初期状態では蓄電池は空。稼働の為には充電が必要であった。

「マニュアルには緊急時には車載バッテリーからも起動できるって書いてあるけど… わざわざ雨に濡れてまでやりたくは無いわ。
非定常作業で漏電しても嫌だし」

「同感だ。とりあえず、雨が通り過ぎるのを待ってから作業しよう」

「じゃぁ 作業はいったん中断して、雨の凌げる滞在用の宿を確保しようか」

流石にいつ止むかも分からない雨を、じっと車の中で待つのは嫌だ。
せっかく集落があるんだから、屋根の下で休みたい。
そんな風に思いながら村長にこの村に宿は無いかと尋ねたところ、さほど大くはないが一軒だけ旅人向けの宿があった。
それも、村長の家のすぐ裏手に。
宿側としても、凶作の影響で村を訪れる商人や旅人が減っていたところに大口の宿泊客が訪れたという事で、大慌てで部屋を用意してくれた。
だが、元々さほど大きくない村の宿。全員が泊まれるほど部屋数は無かったので、女性陣は村長の家に泊めてもらう事になった。
拓也が村長と宿の親父に話を付け必要な荷物を宿に運び込んだのと、大粒の雨粒が空から降り始めたのはほぼ同時だった。
降り始めた雨は時間が経つにつれ激しくなり、日が落ちた後も一向にやむ気配がない。
低く響く雨音は、外界からの一切を拒む様に村を取り囲む。

「なんというゲリラ豪雨…」

窓の外を見ながら拓也が呟く

「いやぁ 雨が降り出す前に撤収してよかったな」

「ホントだよ。こんな雨の中で外にいたら、パンツまでグチュグチュに濡れちまうよ。
濡れていいパンツは女性用だけだ」

「なんだ、女どもが居なくなった途端に下ネタか?」

エドワルドが呆れるように笑って言う。

「久しぶりに女性陣に気をつかわなくてもいい時間なんだ。
男が集まったら酒と下ネタと馬鹿騒ぎと相場は決まっている。
そして、それはどれも最近の自分に不足していた物…
雨が止むまでする事も無いし、宿の酒場で飲み明かそう!」

そう言って拓也は拳を握って力説するとエドワルドを飲みに誘う。
普通なら、就業中の飲酒はご法度だが、エドワルドはロシア人。体のつくりが違う。
大陸系のアルコール分解酵素は伊達ではないことを、拓也はエレナや他のロシア人との飲み会で知っていた。
それに、警戒に誰か飲まない人間を決めておけば大丈夫だろうし、問題があればエドワルドが指摘するはずだ。

「まぁ 元ロシア軍の俺たちが居るから、少々酒が入った所で教授の護衛には支障はない。
歩哨は…。そうだな、酒の弱いラッツか誰かは飲ませずに警戒させとこうか。
それでこっちは良いとしても、女どもは放って置いていいのか?
向うにも護衛対象も一人いるんだろ。
あまり騒ぎが起こると、今後の仕事の受注が不味いんじゃないのか?」

村長の家とはいえ、拓也達の目の届かない所で寝床を確保した女性陣に、最初は拓也も大丈夫かとの思いもあった。
だがよくよく考えてみると、その中には最近メスゴリラ化の進んだケモノ娘、アコニーを筆頭に護身用の拳銃を持ったヘルガやカノエがいる。
仮に村長やその家人が彼女らに手を出したら、逆に彼らの命が危なそうな気がする。
女性陣に迫りくる欲望をむき出しにした悪漢。筋力と速度に物を言わせたアコニのベアクロー。宙を舞う悪漢のナニ…
そこまで想像して拓也は想像の中の悪漢に深く同情した。

「まぁ 彼女らの安否については近接格闘戦が最強に近いのが一匹いるから大丈夫でしょ」

拓也はそう答えるが、エドワルドはそういう事じゃないと否定する。

「いや、だから鎖につないでおいた方が良いんじゃないのか?
放って置いたら何しでかすか分からんぞ」

「あーね…」

心配すべきは身内が暴れるかどうかだった。
そんな心配を拓也らがしていると、入口の扉が勢いよく開いた音が宿に響いた。
何事かと拓也達が身構えると、入口の方から村長の声が聞こえる

「おーい みんな集まってくれ~」

宿屋に滞在する拓也達を集める声を聞いて、他の部屋に滞在していた社員たちもぞろぞろと部屋から出てくる。
酒場も兼ねている宿の入り口に集まると、そこに立っていたのは少々雨に濡れた村長と何かの包みを持ったわが社の女性陣。
村長は大体皆が集まった事を確認すると、皆に向かって高らかに宣言する。

「皆さん!昼間は孫を診察してくれてどうもありがとう。
そのお礼と言っては何だが、新たな出会いと治療のお礼に一杯やろうと思ってね。
余り量は無いが、この村の蜂蜜酒を持ってきたから一緒に飲もう。
大盤振る舞いは出来ないが、これは我々からのお礼の気持ちだ
肴はあまり用意できないが、まぁ気にせずに飲んでくれ」

そう村長が言うと、後ろに付いてきていたウチの女性陣が、持っていた包みから何本もボトルを取り出す。
その言葉に、酒場に居合わせた全員から歓声が上がった。

「飲み会なら我々も盛り上げさせてもらいますよ。
おい、何人かトラックへ行って焼酎やウィスキーやらを箱ごと持って来てくれ。
それと、何か摘むものを… まぁ 適当にドバっと持ってきたらいいよ」

村長の思いにこたえる様に、拓也も負けじと近くにいた亜人の社員を捕まえて物資を持ってくるように指示するが
その大盤振る舞いに心配になったヘルガが拓也に問いただした。

「社長、本当にいいんですか?
箱ごと飲んじゃったら手持ちの酒類が無くなっちゃいますよ」

「なに、もともと現地での交換・接待用として持ってきたんだ。
別に出し惜しみはしないよ。
それに、燃料的にもこの村の調査が終わったら、一度橋頭堡に戻って補給しなけりゃならないし
今頃、国後島じゃ酒やら何やらの補給物資を満載した酌船長が、出航準備をしている頃だよ」

「はぁ まぁ大丈夫なら何も言いませんよ」

「ハハハ。流石に元行商人は無駄遣いは気になるか?」

「う~ん。まぁ コレだけの食糧を無償で譲渡ってのは気が引けますね」

「そうか。だが心配無用。
調査隊用の支出は、全額必要経費として税務署が認めてくれるそうだから節税対策に役立つし
なにより、飲む・食う・女は接待の基本。
まぁ"女"に関しては、ウチの社員をそんな業務に就かせるわけにはいかないから今回は使わないけど、他は出し惜しみしないよ。
なぜならこの村は、他の調査隊との接触はまだなので、北海道としてじゃなく石津製作所として接して友好関係を築ければ
後々の大陸進出に大いに役立つかもしれないしな」

「はぁ そんなものですか」

「そんなもんだよ。
景気の良い時代は、肝臓壊すまで会社の為に連日接待する営業の人が多かったそうだ」

「お酒を飲むのも仕事ですか。営業さんって大変なんですねぇ」

そう言ってヘルガは未だ見ぬ職種を想像してその苦労を偲ぶ
行商人時代、打算で人に一杯奢る事はあったが、奢って飲むのが仕事と言うのは想像したことも無かったし
何より、大陸と北海道では税の仕組みが大きく違うため、節税と称して浪費した方が得などという考え方は思いもしなかった。

「そういやまだ言ってなかったけど、ヘルガは北海道に帰還後、札幌のビジネスセミナーで強化合宿だから。
大陸での営業担当として教育する予定だから覚悟しといてね」

「う…う~ん。また商人が出来るのは嬉しいですが、その話を聞いた後だとちょっと不安が…
それって、拒否は出来ないんですよね?」

「当然。既にセミナーも予約済みだ」

拓也はニコリと笑ってヘルガの肩を叩く
それに対して、ヘルガはぎこちない笑みを浮かべる事しかできなかった。









「ほう… それでこっちの世界に現れたばっかりのホッカイドウとやらから
学者先生を連れてやって来た訳か」

「そういうことですね」

村長と拓也はテーブルに座って酒を交わしている。
周りでは、ドンチャン飲めや歌えの大騒ぎになっているが、一応護衛期間中なので自制する様にと全社員に通達してあるので
主に飲んで大騒ぎしているのは村の連中であった。

「んで、あんたらはその用心棒をしていると…
失礼かもしれんが、その頭のあんたは余り腕が立ちそうに見えんが、大丈夫なのかい?」

村長が値踏みするように拓也を見る。

「いやぁ、そもそも自分は軍需企業…えーと武器工房の経営者です。
最近は傭兵業も始めたんで、最初の仕事は責任を持って監督しようと同行したわけなんですよ。
と言っても、戦いはからっきしですから、荒事の指揮は他の人間にとらせます。
自分のやることは会社の方針の決定ですね」

「なるほど…
最初の仕事はしっかり見届けようってのか。お前さん、若いのに中々しっかりしとるようだ。
商売がうまくいくよう祈っとるよ。
と、まぁ。そんなことより、あんたらから貰ったこれは良いな。
"でんしぽすたー"とかいったか?
こんな腐ったような酒場も、これのおかげで華やかになったよ」

拓也の説明を聞くのもほどほどに、村長は壁に貼られたA0サイズのポスターに視線を向ける。
そこには、露出の高いブラジル水着姿の美女が挑発的な笑みを浮かべていた。

「あぁ 今は水着の女の子の写真ですが、ネットワークに繋がったら定期的に絵柄が変わりますよ。
設定によっては、子供らの起きている昼間は読み書きの練習のために文字や算数の問題が表示されたり
夜はエロいポスターやらニュースの掲示板にすることだってできます」

「ほぉ なんだか良くは分からんが凄い魔導具だ。
さぞかし高かったんじゃないのか?それをこんな村に分けて大丈夫なのか?」

本来、魔導具は高級品である。
魔導具を作る魔術師たちが価格を高値で据え置いているという事情もあるが、何より絶対量が少ない。
おいそれと人に贈る様なものではなかった。

「まぁこれは政府が配ってこいと押し付けてきたものですからね。
それに魔法じゃなく科学の力です。
そもそも電子ペーパーなんて、2020年代に入ってから価格が暴落してゴミみたいに安いですよ。
コッチの世界に転移後も、構造が単純だもんで既に生産ラインも復旧してると新聞で読んだなぁ」

拓也が村長になんてことないと説明する。
その説明にはこちらの人間には分からない単語も多かったが、村長も拓也も酒が回ってきているのか
あまり気にしてはいないようだった。

「うむ、言っている事はよくはわからんが、ホッカイドウとやらではそんな扱いなのか…
だが、素晴らしい物には違いない。有難く貰っておくよ」

そういって、村長はコップに新たな一杯を注ぎ、一気に飲み干した。

「…ぷはぁ!そんな話よりもこっちの方が良く知りたい。
こんな酒、初めて飲んだよ!」

村長が今飲んだ酒のボトルを手に取りまじまじと見て言う。

「あぁ それは米から作った蒸留酒に紫蘇のエキスが入ってる奴ですね。
タンタカタンタンだったか、そんな名前の焼酎です。
まだまだあるんで遠慮なく飲んでください」

そういって拓也は村長のコップに焼酎を注ぐ。

「ホッカイドウは酒も変わってるんだな」

「いやぁ それは特別ですよ。
向うでも、その銘柄以外に紫蘇焼酎なんて見たことないですもん」

拓也はそう言って、テーブルの上に並べられた他の銘柄を見る。
十勝のワイン、余市のウィスキー、どれも品質は素晴らしいが至って普通の酒である。
まぁ 村長は焼酎自体が初めてだったので、それ自体に新鮮味を感じられたのかもしれない。

「しかし、こんな色々としてもらっても、我が村としては大したお礼も出来ないぞ?
先に言った通り最近の不作の影響で金もないし、特にこれと言った特産品も無い」

「別にお礼は良いですよ。
何度も言ったように半分は政府からの仕事で、もう半分は今後の仕事の為の挨拶回りみたいなもんですから
まぁ 対価といったら… あえていえば、今後とも良いお付き合いをお願いしたいのと、情報が欲しいですね」

「情報?」

村長が真面目な顔で尋ねる。

「そうです。例えばこの世界の地理、どこの国やら町の特産は何だとか、変わった物やら動物がいるやら色々です。
そう言うのを教えて頂けると、うちのお客さんが喜ぶんで」

「うーん、わしも余り村の外に関することは詳しくない。
それなら教会に行って神父様に聞いた方が良いかもしれんな」

「神父様?」

「そうだ。
今この場には来ていないが、村の西側… お前さんたちが来た方と反対方向だな。そこに村の教会がある。
明日の朝になったらそこを訪れてみると良い。神父様だけあって村一番の物知りだよ」

「そうですか、じゃぁ 明日、教授を連れて行ってみます」

「神父様には、村長の紹介と言っておけば良いはずだ。
…っと、それよりも。お前さんコップが空じゃないかい?」

そう言って村長は拓也のコップになみなみと焼酎を注ぐ。

「何にせよ。全ては明日になってからだ。
若いんだからこの位は余裕だろう?さぁ かんぱーい!」

乾杯の掛け声と共に拓也は村長と一緒にコップを煽る。
喉を焼くアルコール。
鼻腔を刺激する紫蘇の風味。
回りだす世界の中、アルコールというビックウェーブに拓也の意識は急速に飲まれていった。







う…ん…
体がだるい
頭がボーっとする。
拓也は目覚めるなり、体の不調に気付いた。
おかしい、昨日はチャンポンせずに飲んでいたはず… 普段ならここまで体調は悪化しない。
そんな事を考えながらも拓也は再度起きようと試みるが、意識がもうろうとするためにバランスを崩し、盛大な音と共にベッドから落下した。

「社長!大丈夫ですか?」

拓也の倒れる音を聞いて、いつもの三人組がなだれ込んできた。

「教授達やエドワルドさん達も軒並みダウンしているので、まさかと思えば社長もですか」

「教授達も?」

拓也は怪訝な表情で報告を聞く

「えぇ!私ら元々こっちの人間以外は皆起きて来ません。
昨晩一緒だった村人もピンピンしてます。
社長たちだけがダウンしてますよ」

おかしい…只の飲み過ぎであれば、彼女ら亜人達にも影響がありそうだが(事実、浴びる様にして飲んでいた物も数名いた)
ピンポイントで地球からきた人間だけが体調の不良に陥っている。
これは…何かの風土病だろうか?

「とりあえず、連絡を… あぁ!そういえばネットワークの設定がまだだったな…
指示を出すからネットワークの設定をやるぞ。
すまないけど、気球の下まで連れて行ってくれ」

「了解!」

そうして彼女らの肩を借りて宿の外に出てみるが、そこで拓也は息を飲んだ。
ドアの向こうは一面の白だった。
昨日の雨はすっかり止んでいるが、外はまるで牛乳のような濃密な霧。
視界は5mもあるだろうか。
目と鼻の先にあった村長の家も、霧に覆われてみる事が出来ない。

「なんだこりゃ」

「あぁ これは聖なる霧です」

「聖なる霧?」

「なんでも神様か精霊が、地上のあらゆる物に触れて調べるために作られたとか言い伝えはありますが
大体、一年に一度発生するんですよ。年によって時期はまちまちですが、大体10日くらい続きます」

「こんな霧が10日も!?」

「そうですよ」

さも当たり前のようにヘルガが言うが、拓也にとってこれは想定外だった。

「これじゃヘタに動けないな…
まぁいい。取りあえず建物伝いに気球の所まで行こう」

そういって気球の下にまでやってくると、基礎の部分にある設備のカバーを開け、ネットワークにつなぐ設定を開始する。
ハード的な工事は昨日終わらせた。あとは、ソフト面での設定だけのはずだったのだが…

「バッテリーが少なすぎるな」

コンソールを見てみると、濃密すぎる霧で太陽電池パネルは役に立たず、サブの風車も昨日から無風に近かったのか余り充電できてはいないようだった。
だが、何はともあれ調査隊に異常が発生したことを政府に報告しなければならない。
拓也は、他の亜人の社員も呼び、車から取り外したバッテリーで非常電源を確保して通信システムを起動してみるが
いくらやっても通信が成功しない。

「マニュアル通りに設定はしたよな… なにが悪いんだ?」

何度確認してもマニュアル通りに設置されている。
非常用に取り付けたバッテリーも正しく接続されている。
全く持って悪い個所が見つからない。
時間と共に朦朧とする意識の中、拓也は別の手を使うことにした。

「カノエ、BTRまで連れてってくれ、車載無線で軍に呼びかけてみる。
ヘルガはそのままアコニーと一緒に、教えたとおりにネットワークの設定を試してみてくれ。
何かあったらレシーバーで連絡する」

ネットワークに接続できない。
ならば、頼るのはこれしかない。
拓也はそう思って装甲車まで戻り、無線のスイッチを入れた。

『調査隊12より調査隊4。応答願う』

『ザー…』

『こちら調査隊12、調査隊4聞こえますか?』

『ザー…』

…おかしい
それから幾度も拓也は無線を送り続けるが、一向に返事がない。
この村に来る前、最後にネットワークで確認した時は、軍の第4調査隊がこの付近で活動していたはずだ。
かれらの活動予定範囲は十分に無線の範囲内のはずだ…
もしかしたら、彼等にも何かあったのだろうか
拓也は最悪の想像をしつつ、なおも無線を送り続ける。

『こちら調査隊12.誰か聞こえるか?』

『ザー…』

「何の反応も無いですね」

全く反応の無い無線をカノエも心配そうに見つめる。

「あぁ…一体どうなっているんだ?」

「ヘルガ達も同じですかね?」

「そうだな。一応聞いてみるか。」

そう言って拓也は持っているレシーバーを使い、ヘルガに状況を聞くことにした。

『ヘルガ。そっちはどうだ?ネットワークに接続できたか?』

『ザー…』

『ヘルガ!』

『ザー…』

「レシーバーも駄目だ」

いくら問いかけても応答がない。

「如何します?」

「とりあえず、一旦宿に戻ろう。
今後の対応を考える必要がある」

拓也はそう言って宿まで戻る為にカノエの肩を借りようとするが、足取りは先ほどよりも酷くなっている。

くそ!こんな時に限って通信がイカレて孤立するとか最悪だ!

拓也は不安を伝播させないよう誰にも聞かれないように心の中で叫ぶが、その表情は本人も気付かぬうちに険しいものになっていた。
その為、宿に戻ると拓也達を見つけた他の社員が心配そうにこちらを見て来るが、その表情を見るなり誰も話かけてはこない。

「カノエ、みんなを集めてくれ。話さなきゃならない事がある。
あぁ だが、起き上がれない人は無理に連れてこなくてもいい」

カノエは拓也を椅子に座らせると即座に駆け出した。
暫くすると、カノエに呼ばれた亜人の社員たちが集まってくるが、他の人間の姿は無い。
唯一、エドワルドがカノエに付き添われて現れたが、教授や他の人間は動けそうにないようだった。
拓也はエドワルドが着席し、他に現れる人が無さそうな事を確認すると。
皆に現状を説明しだした。

「……何度もやってみたが機械に故障らしい故障も無い上、無線を使う機器が軒並み駄目だ。
政府に応援を要請したいところだが、通信が出来ない以上どうする事も出来ない」

「原因はこの霧か…」

拓也の説明を聞いてエドワルドが呟く。
原因不明の体調不良、無線機器の障害、その全てはこの霧の発生から始まっていた。
何かしらの関係があるのだろう。

「普通の霧ならばすぐに晴れるんだろうが、厄介なことにこの霧は普通のモノじゃなく晴れるには時間が掛かるそうだ」

「ええ、この霧は毎年発生してまして晴れるのに10日前後かかりますよ」

拓也の言葉の後にカノエが補足する。
それを聞いて、エドワルドの眉間に皺が寄る。

「そうなると動けないな。こんな深い霧の中で移動するなんて危険すぎる。」

「なら村人を案内に立てて別働隊を出しては?
幸い、辺境伯領は昔の領主様が魔法で街道を整備したために、それなりの道が整備されてます。
案内板を辿れば、前に通った軍のキャンプあたりまで戻る事も可能ですよ」

エドワルドと拓也が苦虫を噛み潰した表情でどうした物かと思案していると
ヘルガが伝令を出したらどうかと進言するが、拓也はそれを却下する。

「駄目だな。俺たちが車の運転も出来ない状況じゃ、初心者ドライバーの君らだけになる。
そんな君らに視界ゼロのなかを運転とか自殺行為だ。
こんな霧の中で仮に事故でも起こしたら、助けに行くこともままならない。」

「それじゃぁ徒歩は?」

ヘルガは何とか自分たちに何か出来ないかと思案するが、今度はそれをエドワルドが否定する。

「最後の軍の中継キャンプから距離がありすぎる。
それにこの村の手前にあった橋は崩落してしまった上、昨日の雨で増水もしてるだろう。
ここは、霧が晴れるまで宿で安静にしているほかにないと思うんだが、どうだろう拓也」

「ああ、自分も同じ事を思っていたよ。
原因不明の病気も不安だが、動けない以上仕方ない。
霧が晴れるまで、現在地で待機となるが、自分もエドワルドもこんな状況だ。
可能な限りは自分が指示を出すが、自分もエドワルドも駄目なときは、ヘルガ。君が皆を統率しろ」

「え!?私ですか?」

いきなりの指名にヘルガが飛び上がる。

「ヘルガが頭で、カノエが補佐。
もし荒事になったらアコニーが指揮を取れ。みんな分かったか?」

「「了解」」

全員が戸惑いながらも返事を返すが、名前の出た三人は明らかに動揺していた。

「じゃぁ ヘルガ。部屋で寝込んでいる教授達に方針を伝えにいってくれ。
本来なら自分が伝えに行きたいんだが、もう無理だ。
瞼が重い…」

そう言うと拓也は、椅子からバランスを崩して倒れこむ。

「ちょっと!しゃ、社長!大丈夫です!?」

急に倒れた拓也を咄嗟にヘルガは抱えるが、拓也の体を揺すっても目を覚ます兆候は無い。
これは大変だとエドワルドの方も確認してみるが、どうやら向こうも同じような状況だった。
椅子に腰かけたままピクリとも動かない。

「社長ー!!」

ヘルガが叫ぶ。
だが、拓也から目に見える反応は返ってこない。
拓也はヘルガの叫びを聞きつつも、微かに掴んでいた意識の手綱を手放したのだった。





一方その頃、村から然程離れていない森の中では…

「おーい。ただいまー!」

いつぞやの盗賊の女の亜人が、捕まえた人質と奪った荷物を荷車に乗せて森の中にある天幕に向かって叫ぶ。
見れば、森の中とはいっても木を切り開いて広場が作られており、複数の天幕が並んでいた。
そして、彼らが広場に入ると一番大きい天幕から出てきた人影が彼らを出迎える。
ブチの入った茶色い尻尾に、イヌのような形の茶色い耳の亜人の女。
その特徴は盗賊のリーダーをしていた女と似ているが、こちらはそれよりも年を喰っているようだった。
彼女は帰ってきた一行に近づくと、リーダー格の女に話かける。

「首尾は?」

「上々だよ。かーちゃん。
特にイラクリなんて一人で用心棒野郎の首を掻っ切ってやったよ」

そう言って女は横に座る弟の頭を撫でる。

「おー あんたも仕事を覚えたかい。いい子だねぇ。
まぁ それはそれとして、タマリ。稼ぎを見せてもらうよ」

彼らの母親だという女は、ズカズカと乗り込んで荷台を見る。

「ん~ あまり値の張る物は無いね。
金になるっていったら、攫ってきた奴を人買いに売るくらいさね」

女は荷台を見渡した後、長い溜息を吐いた。

「え~。かーちゃん、それは無いよぅ。
わたしら頑張って奪ってきたんだよ?」

「頑張りってのは結果が無けりゃ無駄なんだよ」

「むぅ~…」

タマリは母親の言い草に口を突き出してむくれるが、一つある事を思い出した。

「そう言えば、かーちゃん。凄く珍しい物を持ってる奴らを見たよ」

「珍しい物?」

「見た事も無い魔法の荷車に乗って、これまた食べた事も無い菓子とか持ってたよ。
追いかける途中、霧が出たんでこっちに戻って来たけど、奴らこの先の村に行くって言ってたよ」

タマリは、これならどうだと胸を張って報告する。

「そうかい… 村か…
今は聖なる霧の時期だから、村人たちも大した警戒は出来ないだろうね。
それに私たちゃ人族と違って鼻と耳が効く…」

「かーちゃん、やろうよ。ね?」

タマリがニヤリと笑う。

「そうだね。襲うなら今だ。
とりあえず、あんたらは帰って来たばかりだから少し休みな。
たんと休んだ後は… 分かってるね?」

「そりゃもちろん!」

「そうと決まったら、荷解きは私らに任せて、お前たちは飯でも食って休みな。いいね?」

「おーう!」

そう言ってタマリとイラクリは、飯炊き場に向かおうと馬車を降りる。

「じゃぁ あたしは人質を牢にでも… ん? こりゃ、なかなか可愛い顔した子も混じってるね」

捕まえた人質を検分して牢へ移動させようとする女だが、その中の一人が彼女の目に留まった。
むさ苦しい商人の男などが荷台に転がる中、少年が一人、泣きそうな瞳で彼女を見上げている。
彼女はその顔を見て、じゅるりと舌を舐めた。

「あ!だめだよ、かーちゃん。それ、あたし用に捕まえたの!」

「五月蠅いよ!あんたは黙って飯食って寝ちまいな!
人質の検分はあたしの役目だよ。あんたの所には後で回してやるからそれで我慢しな!」

「え゛ぇ~」

タマリはそりゃないよと言いたげに不満感を露わにするが、それ以上の反抗は出来ない。
それがタマリとこの集団の長であるニノとの力関係の証左であった。

「良いからあんたはさっさと休みな。
次は小さいとは言え、村一つだよ。
それが上手くいけば、何でも好きな物を取っていいから、それで我慢しな」

「うむぅ~… はぁ~い…」

ニノはそう言ってタマリを納得させると、少年を連れて天幕へと消えていく。

「ねーちゃんも大変だね」

がっくりとうな垂れるタマリを見てイラクリが慰める。

「う~ん あんたは良い子だね。
はぁ… かーちゃんに取られたら絶対にあの奴隷壊されちゃうよ。
折角捕まえたのに…」

「よくわかんないけど、次の村を襲った時に、また捕まえればいいじゃん。
ねーちゃんなら奴隷も一杯捕まえられるよ」

そう言ってイラクリはタマリに子供らしい笑顔で笑う。
それを見て、タマリも励まされたようだ。

「そうだね!
人族の村なんて、あたしにかかれば只の餌場みたいなもんだよ。
おねーちゃん頑張るから、あんたも応援してね!」

「うん!」

そうして二人は飯炊き場に向かって歩いていく。
次なる獲物に備え、しばしの休息を取るために…


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