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No.29737の一覧
[0] 試される大地【北海道→異世界】[石達](2012/11/29 01:19)
[54] 序章[石達](2012/11/29 01:05)
[55] 起業編1[石達](2012/11/29 01:06)
[56] 起業編2[石達](2012/11/29 01:07)
[57] 起業編3[石達](2012/11/29 01:08)
[58] 国後編1[石達](2012/11/29 01:08)
[59] 国後編2[石達](2012/11/29 01:09)
[60] 転移と難民集団就職編1[石達](2012/11/29 01:09)
[61] 転移と難民集団就職編2[石達](2012/11/29 01:10)
[62] 礼文騒乱編1[石達](2012/11/29 01:10)
[63] 礼文騒乱編2[石達](2012/11/29 01:11)
[64] 礼文騒乱編3[石達](2012/11/29 01:11)
[65] 礼文騒乱編4[石達](2012/11/29 01:12)
[66] 戦後処理と接触編1[石達](2012/11/29 01:12)
[67] 戦後処理と接触編2[石達](2012/11/29 01:13)
[68] 嵐の前編[石達](2012/11/29 01:14)
[69] 北海道西方沖航空戦[石達](2012/11/29 01:14)
[70] 大陸と調査隊編1[石達](2012/11/29 01:15)
[71] 大陸と調査隊編2[石達](2012/11/29 01:16)
[72] 大陸と調査隊編3[石達](2012/11/29 01:16)
[73] 魔法と盗賊編1[石達](2012/11/29 01:17)
[74] 魔法と盗賊編2[石達](2012/12/08 01:24)
[75] 決戦[石達](2012/12/08 01:20)
[76] 盗賊と人攫い編1[石達](2012/12/31 22:47)
[77] 盗賊と人攫い編2[石達](2013/01/19 21:24)
[78] 盗賊と人攫い編3[石達](2013/01/19 21:23)
[79] 道内情勢(霧の後)1[石達](2013/02/23 15:45)
[80] 道内情勢(霧の後)2[石達](2013/02/23 15:45)
[81] 外伝1 北海道航空産業の産声[石達](2013/02/23 15:46)
[82] 東方世界1[石達](2013/03/21 07:17)
[83] 東方世界2[石達](2013/06/21 07:25)
[84] 東方世界3[石達](2013/06/21 07:26)
[85] 幕間 蠢動する国後[石達](2013/06/21 07:26)
[86] 東方世界4[石達](2013/06/21 07:27)
[87] 東方世界5[石達](2013/06/21 07:27)
[88] 東方世界6[石達](2013/06/21 07:28)
[89] 東方世界7[石達](2013/06/21 07:28)
[90] 世界観設定[石達](2013/06/23 16:49)
[91] 人物設定[石達](2013/06/23 16:57)
[92] 東方世界8[石達](2013/07/15 01:51)
[94] 帝都ティフリス1[石達](2013/08/09 02:02)
[95] 帝都ティフリス2[石達](2013/08/12 00:21)
[96] 帝都大脱走1[石達](2013/09/23 00:16)
[97] 帝都大脱走2[石達](2013/09/22 22:47)
[100] 帝都大脱走3[石達](2014/02/02 03:03)
[101] 対エルフ1[石達](2014/02/02 03:03)
[102] 対エルフ2[石達](2014/02/05 22:45)
[103] 対エルフ3[石達](2014/02/05 22:45)
[104] 対エルフ4[石達](2014/02/05 22:46)
[105] カノエの素性1[石達](2014/02/05 22:46)
[106] カノエの素性2[石達](2014/02/09 13:13)
[107] 別れ、そして託されたモノ1[石達](2014/02/09 13:14)
[108] 別れ、そして託されたモノ2[石達](2014/02/09 13:16)
[109] 決意[石達](2014/02/09 13:42)
[110] 新しい風[石達](2014/04/13 10:41)
[111] 交流拡大、浸透と変化1[石達](2014/04/13 10:41)
[112] 交流拡大、浸透と変化2[石達](2014/06/04 23:46)
[113] 交流拡大、浸透と変化3[石達](2014/06/04 23:47)
[114] 交流拡大、浸透と変化4[石達](2014/06/15 23:55)
[115] 交流拡大、浸透と変化5[石達](2014/06/15 23:55)
[116] 平田、大陸へ行く1[石達](2014/08/16 04:02)
[117] 平田、大陸へ行く2[石達](2014/08/16 04:02)
[118] 対外進出1[石達](2014/09/14 08:19)
[119] 対外進出2[石達](2014/08/16 04:04)
[120] 対外進出3[石達](2014/10/13 01:58)
[121] 回天1[石達](2014/10/13 01:59)
[122] 回天2[石達](2014/10/14 20:24)
[123] 回天3[石達](2015/01/18 08:20)
[124] 回天4[石達](2015/01/18 08:24)
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[29737] 北海道西方沖航空戦
Name: 石達◆48473f24 ID:a6acac8b 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/11/29 01:14







北海道からの大規模な航空部隊が飛び立った夜。
最初の変化に気付いたのは竜と竜人達だった。
日も暮れた為、厩舎で休んでいた竜たちだったが、殆どの竜が寝藁から起き上がり東の方角を向いている。
そして、竜に同調していた竜人の一部も今までにない変化に気が付いた。
いや、小さな変化自体は前々から感じていたが、敵地に近づくにつれその変化は急速に増大していったというのが正しいだろう。
その竜人達の不安は、竜人の長が王族とその配下の宴へ無粋に踏み入るのに戸惑うことはさせなかった。

「王よ!報告が有ります」

王を呼ぶ声と共に、歴戦の勇士といった出立の竜人の長が室内に乱入すると、それまで楽しく飲食していた王や姫たちの手が止まる。

「何事だ!?」

竜人の長の突然の乱入に楽しい一時を邪魔された王は不満げに尋ねる。

「東の空が謎の輝きに包まれておる。コレは何かの予兆かと思うのだ」

「輝いている?」

長の言葉に王も顔をしかめる。
今の時間からして日はとうに沈んでいる。
なにか大きな火災だろうか?
王は一体それは何かと思慮を巡らそうとするが、実際に見た方が早いと席を立ち、アルドと配下を連れて城塞の上へと駆け上がった。
城壁の上にたどり着いた王は、箱舟の進む先、東の方角の空を凝視する。

「真っ暗だぞ。何もないではないか」

王はいつもと変わらぬ東の星空を見ながら、ふざけた報告をしてきた長を睨む。

「この光は人には見えぬ。
我らは竜光と呼んでいるが、竜だけが見える光がある。
そもそもこの竜光と言うのは、竜が大空を飛ぶ時に遠くの仲間や獲物を探す時に発するものなのだが、それが今、東の方角からこちらを照らし出すように放たれている。
最初ははぐれ竜でもいるのかと思っておったが、目的地に近づくにつれ徐々に大きくなり、つい先ほどからまるでこちらを照らすかのように急激に輝き始めたのだ」

「こちらを照らし出すように?」

長の言葉に横で聞いていたアルドも質問する。

「うむ。竜はこの光で空を照らし、たとえ月の無い闇夜であっても、この光の反射で獲物の位置を感じ取れる。
今はまるで、こちらが竜に狙われる獲物が如く照らし出されている。
勝手ではあるが、既に配下にはいつでも出れるように待機を命じているが、どうする?王よ」

長の言葉を黙って顎鬚を撫でながら聞いていた王であったが、その決断は早かった。

「竜を上げろ。お前が気になると言うのであれば、出さぬ訳にもいくまい。
不安が無くなるまで好きにするがいい」

「うむ。その言葉、待っておったわ」

長は短く礼をするとすぐさま厩舎にかけていく。
その姿を見送りながら王は呟いた。

「敵に竜が居るとなると、少々面倒くさいな」

そう言って王はアルドを睨む。
彼からの情報では、敵に竜が居るなど聞いていない。
王は、事態が少々面倒くさくなる事の落とし前として、辺境領から巻き上げる予定の財貨にいくら上乗せしようかと考えつつ、
厩舎より飛び立ち始める竜を見送るのであった。




箱舟の進行方向の先、石狩湾上空の星空に数多の猛禽が編隊を組んで旋回している。
青白い炎を曳いて飛び回るその光景は、まるで星座がダンスを踊っているようであった。
だが、その翼は決して踊っているわけではない、迫りくる脅威が此方の罠に嵌るのを今か今かと待っている肉食獣の群れであった。

『bear1より各機。
地上からの連絡だ。目標は射程圏内に侵入した。我々の飛行隊は、これより敵の梅雨払いを開始する』

猛禽たちが待ちに待った命令。
敵は、我らのキリングフィールドに愚かにも舞い込んできた。
編隊は進路を敵飛行要塞に向け、レーダーサイトとのデータリンクにより映し出された攻撃目標を選択する。
最初の目標は、此方の動向に感付いたのか、わらわらと舞い上がり始めた竜と呼ばれる飛行生物。

『怪獣退治は自衛隊の伝統だ。択捉の奴らに手本を見せてやれ』

そう言ってbear1がミサイルの引き金を引く。
ミサイルが機体を離れ、同時に炎を吹いて夜空を突き進む。
予想外のアラートが鳴ったのはそんな時だった。
見れば、計器の一つに緑色のマーカーが現れている。

『!? レーダー警報だと? 奴ら、トカゲのくせに電波を使うのか!』

レーダー波を感じた際に反応するレーダー警報装置。
それが今、ミサイルが向かった方角からの反応を示していた。





王とアルドらに見送られた竜たちは、次々と厩舎から飛び立っていく
大きな翼と魔法の力を借りた上昇力で、竜たちはぐんぐんと高度をあげた。

『凄いな。東からとんでもない量の竜光を感じるぞ』

十分な高度を稼いで水平飛行に移った後、竜達を束ねている一匹(正確には竜を操る竜人だが)が言う。
彼の言うとおり、他の竜たちも東の方から雑多な色の竜光の中に、ひときわ大きな点がいくつもある事が感じられた。
だが、特に気になるのが東の空に感じる異質な存在、微かではあるが竜光を発する何かが空を舞っている。

『竜の竜光とは何か違うな。』

その言葉の通り、東から来る竜光は、竜のモノとは違い特定の色だけを放っているものが多い
普通、竜光はどんなに集中しても多少の他の色が混ざる物だが、向かう先の発光源は様々な色があるものの一つの点からは同じ色の光しか出ていなかった。

『よし、こちらからも照らしてみろ。何が飛んでるのか探ってみよう』

その言葉により、竜たちの中で一番大きい個体が大出力で竜光を放とうとしたそんな時だった。
東の空に浮かぶ微かな輝きは、突然十数個もの大きな輝きに変わり、此方を照らし始めた。

『!!? 狙われている? こちらも照らせ!相手を探るんだ!」

その言葉に先ほど竜光を放ちかけた個体が慌てて東へ向けて竜光を放ち、その結果に誰もが息を飲んだ。
輝いている十数個だけではない、その後ろも含めて数十の飛行体がこちらに向かっている。

『敵だ! 全員、遠距離戦用意!敵を丸焦げにしてやれ!』

その号令と共に竜たちは魔力を練り、鼻先に超高温の火球を生成する。

『放て!』

全員の火球が準備できたのを見計らい、統率する竜が一斉攻撃を命じる。
魔力によって生成され、魔力によって高速移動する火球は、術者の誘導の下に確実に前方の正体不明の敵へと向かう。
高速で相対する彼我の距離は急速に縮まっていき、そろそろ着弾するかと思われたその時、竜たちにとって最悪の光景が現れた。

それは突然だった。
彼らの前方に竜光を放つ点が多数現れ、超高速で此方に向かって突っ込んでくる。
ある者は火球の誘導を止めて急機動により回避に入るが、それでも火球の誘導を続けた者は、次の瞬間には飛んできた何かに貫かれ、爆炎と共に肉片を飛散した。

『クソ!』

竜の一匹が炎に包まれて墜落する仲間の死骸を見て悪態をつくが、その意識も突然に途切れた。

『!?』

それまで墜落した仲間を見ていた視界がいきなり切り替わる。
見渡せば、先ほどまで意識を乗り映させていた竜が、見ていた竜と同じように落ちていく
そこでやっと、彼は敵に撃墜され、あらかじめ秘術をかけていた別の竜に意識がシフトしたことを認識する。

『何匹やられた!?』

生れて初めて乗り移っていた竜を撃墜されたことに驚愕を隠しきれない彼に、指揮を取る竜から念が来る。
それにハッとして、即座に秘術のつながりを感じる竜を探すが、既に自分の分だけでも2匹足りない

『2匹やられました』

そう彼が報告すると、指揮を取っている竜は回避行動と同時に他の竜にも別途で話ているのか返事は無い。

『…チッ!いきなり半分喰われ…』

個別に回避行動を取る群れの損害をやっと確認できたのか、指揮竜から全員に向けて何かを指示しようとするも、それは途中で爆発と共に途切れた。
数秒の沈黙の後、意識を乗り換えた彼の声も復活したが、その声には微かな混乱と怒りが混じっている。

『クソ!何だ?奴らの攻撃は!?
全員、敵の攻撃は紙一重で避けるな!直撃せずとも爆発するぞ』

一方的な殺戮に遭いつつも、必死に回避行動をとる竜たち。
彼らが己の事で手一杯になっているころ、彼らの混乱など無視するかのように戦いは新たなステージを迎えていた。

戦端が開かれている空域に最も近い海岸
かつて日本海があった方面にひょっこりと飛び出た積丹半島は、元々人口が希薄な上、敵の着上陸が予想される地域の住民は既に避難済みということもあり、ひっそりとした闇に包まれていた。
野生の動物たちはいつもと変わらぬ静かな夜を過ごしている様だが、その安眠も突如として終わりを告げる。
地を揺らすかのごとき轟音と共に、夜の森が日中の如く明るく照らし出され、大量の煙を吐きながら垂直にたくさんの炎が空に飛び上がる。
そんな、この世の終わりのような光景を動物たちに見せた炎の柱は、そのまま海のかなたへと凄まじい速度で消えていった。

「SSM-1改 発射完了」

動物たちにトラウマを植えつけたその物体は、指令所のスクリーンの地図上で簡単な記号の移動物体として映し出されている
高木はそのマーカーを見ながら、兵士からミサイルの正常な発射の報告を受ける。

「今のところ正常に動作してますね。
今回の作戦では改修された対艦ミサイルの比重が大きい分、連日夜を徹してミサイルのシステム改修に当たってくれた技術者たちには、作戦後に国から表彰させてもらいましょう」

高木のその言葉に、横に立っている幕僚の一人が頷きながら言葉をかける。

「しかし閣下、設計・プログラミング支援AI技術が進んでいて本当に良かったですな。
これで呼び出されたのが2010年代の我々であれば、いささか対応が難しかったですよ。
何せロシア製ミサイルの飛行プログラム改修もありましたから」

その言葉の通り、本作戦では飛行する要塞への打撃手段として、対艦ミサイルに上空を飛行する目標への突入を可能にする為の改修が行われた。
その数は、対艦ミサイル一個連隊96発、ミサイル艇2隻の8発,ステレグシュチイ級コルベットの8発、ロシア機の空対艦ミサイル約40発と、本作戦に投入するだけで150発を超えるミサイルである。

「でも、これで本当に足りるのかしら」

高木の疑問に二人の話を聞いていた基地指令もスクリーンを睨み付けながら話に加わる。

「足りてもらわなければ困る。
矢追博士の話によれば、火力を集中し敵が魔力切れになれば障壁は消えるとの事だが、敵の容量がわからない以上、我々は全火力を投入するしかない。
これでも足りないのであれば、もう我々には奴等を叩き落す火力は無いですな」


魔法障壁
この未知なるバリアに対し、北海道では礼文の騒乱以降から調査が行われていた。
難民や捕虜の魔術師を使い発生の原理を究明しようと様々な試みがなされたが、その原理については未だに糸口すら掴めていなかった。
だが、その利用法ならば話は別である。
これは、難民の代表のラバシ氏の協力のもと矢追博士の人体実験が幾度と無く行われた成果である。
捕虜の魔術師に障壁を張らせ、最初は石を投げ、次にラバシ氏の魔法による一撃、さらには銃で撃ってみたりと数々のテストが行われた。
その結果わかった事は、術者の魔力量が十分なときは、どんな攻撃も完全に防御して見せるが、魔力量の限界に近づくにつれ障壁が薄くなり、終いには貫通するというものだった。
実験では魔力消費は障壁の強さと時間に比例する事がわかったが、それは人間の魔術師が張ったものでの実験結果であり、本当に通用するかは未知数というのが実情であったが…


高木は博士の説明を思い出し、スクリーンを注視する。
これが駄目ならば、もうあのラピュタを止める手立ては無い。
そんな彼女の祈りともいえる視線を受け、スクリーン上のマーカー達は更なる動きを見せ始めた。
SSMの発射にあわせ、上空を飛ぶSu-51の飛行隊から数多のミサイルのマーカーが現れ、同時に海上に展開する艦艇からもマーカーが現れる。
後の戦史研究が行われるならば、箱舟の運命は、正にこの時に決したのかもしれない。



『また敵の反応が増えたぞ!?』

上空を乱舞する竜達に混乱が広がる。
東の空から飛来した敵とは別の方角から照射を受け、そちらの方角へこちらから照らしてみると、また新たに数十の飛行体が接近している。
方向からして箱舟の方角に向かっているようだが、今の彼らには対処する余裕は無い。
先ほど接敵した敵の翼は、旋回能力こそ、こちらの足元にも及ばないが、その速度は我々をはるかに凌駕している。
何度か後ろに喰らいついて、一撃をかまそうとしたがその速度差にあっという間に逃げられる。
幸いにも敵は格闘戦に移行して以降、最初に竜達が大きな被害を受けた武器は使っていない。
必死に飛び続ける竜達はなんとかそこに勝機を見出したいと粘るが、こちらも決定打にかけている。
そんな時だった、箱舟の方角に真っ赤な炎が立ち上がる。

『糞!やりやがったな!』

統率する竜が炎に包まれる箱舟を見て叫ぶ。

『全員聞け、これより箱舟の守りに向かう、敵の足止めに数羽残して残りは箱舟に向かえ
魔法障壁があるため大丈夫かとは思うが、俺たちの本体に危険が及ぶ可能性は摘み取らねばならん!
足止めは嫌がらせに終始しろ、敵を撃墜できなくてもかまわん。
さぁ! いくぞ!』

竜達を束ねる彼は焦っていた。
例え、魔法障壁で守られていても、本体が眠る場所から断続的に爆炎があがっているのは見過ごしておけない。
一刻も早く、敵の攻撃を止める。
彼の頭は、そのことで一杯だった。
だからだろう、迫りくる光弾のシャワーをもろに浴びてしまったのは。
急に意識が切り替わり竜を率いていた彼は軽く混乱する。
視界の隅には肉片となり落ち行く竜の姿が見えるが、彼にとって重要なのはそこではない

『一体、どこから…』

打たれた直前、彼の周囲には射線を確保できる敵の姿は無かった。
正体不明の敵の攻撃に周囲に竜光を放っていると、鼻先を敵の飛行体がかすめて通過する

『あいつか!』

彼はあわてて視線で追い竜光を放つが、その結果に彼は驚愕した。
竜光が反射しない…
いや、反射するにはしているがそれはとても小さなものだった。
先ほどまで戦っていた敵と明らかに違う。

『気をつけろ、竜光に写らない敵がいるぞ!』

彼らは知るはずも無かったが、それは改修した対艦ミサイルを打ち終えたSu-51であった。
メインの役目を終えた彼らは、残りの燃料と機銃弾を使い尽くすべく、空戦の真只中に舞い戻ってきたのだった。
新たな敵の増援。
竜達の救援が絶望的になる。
一方で、その頃の箱舟は、いまだ地獄の蓋が開いたばかりだった。


『目標上空に到達、敵航空部隊の脅威なし。
これより、爆撃工程に入る』

竜達が箱舟より引き剥がされた後、爆装した一個飛行隊のF15が箱舟に対する爆撃を開始した。
次々に投弾し、代わる代わる現れる荒鷹達に箱舟は炎の傘に包まれる。
だが、もちろんその攻撃は本体には届いていない。
攻撃側のF15もそれを分かってやっていた。
誘導爆弾の使えないF15に搭載された各機16発づつの500lb爆弾による爆撃は、唯単にミサイルの雨が到達する前に少しでも敵に魔力を消費させる為の準備に過ぎない。
だが、直径400mの飛行物体に対する爆弾のバラまきともいえる攻撃は視覚効果としては十分だった。
よく見れば、障壁により攻撃が到達していないようだが、端から見れば爆発の度に箱舟は炎に包まれている。

『クリオネ2より、クリオネ1へ
すごい光景ですね。俺があの場所にいたら小便ちびって逃げますよ』

『クリオネ2。馬鹿なこと言ってないで投弾が終わったら基地に帰投するぞ』

『了解。しかし、俺らは択捉の奴等みたいに空戦に行かなくて本当に良いんですか?』

『そういう命令だ。しかし、無線で聞く限りだと、201飛行隊の奴ら、竜相手じゃ赤外線追尾の短距離ミサイルが使えなくて苦労しているらしいな』

『正直言って、夜間に機銃で空戦とか無理じゃないですか?』

『やつらもトカゲどもを引き剥がす為に無理を承知でやってるんだ。
現に、トカゲは戻ってきてないだろ?無理が通れば道理は引っ込むんだよ。』

『そんなもんですかね』

『そんなもんだ。クリオネ2無駄口もここまでだ、全機の投弾が完了した。
これより編隊を組んで帰投する』




彼らの話ていた通り、箱舟の中は大変な騒ぎになっていた。
障壁があるため、実害こそ出ていないが、兵士の相当数が空を覆う炎に恐怖し身を屈めている。
そして、その混乱は、城砦内の豪華な一部屋が一番大きかった。

「お父様!もういや!いやなの!帰る!」

「いゃぁぁあぁああぁぁぁ!!!」

それまで宴席が行われていた一室で、王を囲うように、その王妃やら姫達が泣き叫んでいる。
両腕をきつく握られて身動きの取れない状況の中、姫たちのあまりの狼狽振りをみて、同じように驚くこともできなかった王が優しく彼女らを諭す。

「案ずることは無い。障壁がある限り、この程度の攻撃でオドアケルが傷つくなどありえないのだよ」

心配は要らないと王はできる限り優しく接するが、既にヒステリーの域にまで達した彼女らの恐慌は止まらない。

「いやなの!私は帰るって言ってるの!もう帰して!帰して!帰して!」

「うぁあああぁぁあん!!!」

「いや、だから大丈夫だと… 窓の外を見てみるがよい
あれほどの爆発でも、箱舟は無傷だぞ?」

「嫌!!!」

王室で何不自由なくぬくぬくと過ごしてきた為か、姫たちは自分の嫌がるものを決して直視しようとしない。
そんな彼女らの聞き分けの無さに嫌気が差したのか、王は縋る彼女らを振り払って席を立つ。

「ならば、大丈夫であることを、余自らが確認してくる。
アルド、ついてまいれ」

そう言って、姫たちが泣き叫ぶ光景を黙ってみていたアルドに目を配らせると、行かないでと叫ぶ彼女らをおいて王は階段を上る。

「良かったのですか?」

アルドは王に尋ねる。
その言葉に、王はため息を一つついて答える。

「聞き分けが無いのだからしょうがなかろう。
それに一番安全なのは城内だ。あの場でじっとしていてくれる分にはかまわぬ」

王は溜息を吐き、忌々しげに爆発音を聞きながら歩いていると、さほど時間もかからずに彼らは屋上に着いた。

「なんとも不思議な光景であるな・・・」

そういって二人は空を見上げる。
そこには敵が上空を通過するたびに炎が空を包む光景が広がっている。
障壁の為、爆風はおろか熱も届いていない。
時折、遠く爆発音が聞こえる程度である。
暫く二人でその光景を見ていたが、それもじきに下火となった。

「お?奴らの攻撃もこれで終わりのようですね。
しかし、我らの鉄壁の守りの前には、どんな攻撃も無意味と言ったところですか」

空を見上げながら言うアルドの言葉に王も頷く、だが彼等は気付いていなかった。
最初は光り輝いていた障壁も、攻撃の最後では、その輝きが若干色あせていた事に…
そして今まで上空で花開いていた爆炎から打って変って、新たに前方で花開く炎の大輪が、戦いの新たなステージが始まった事を告げていた。



用意周到な作戦の下で放たれたミサイルの雨は、ほぼ同時刻に箱舟へと殺到する。
その内訳は、積丹半島より放たれたSSM-1改が96発、はやぶさ型ミサイル艇より放たれたSSM-1Bが8発、コルベットから発射されたP-800が6発(残りの二発はリバースエンジニアリング用に降ろされた)、
そして本来は予備機を除く14機の全力出撃したかったのだが、本国からの部品供給が途絶え、稼働率が下がったため10機で出撃したSu-51の各機2発づつのKh-31AMが20発、計130発であった。
目標に向かう途中、急な改修の為に不具合が生じたのか、正常に作動しなかったものが13発あったが、この世界には電波妨害も米艦隊のような濃密な防空網は存在しない。
正常に作動した残りの117発は、そのまま目標に吸い込まれた。
夜空に白煙を曳くミサイルが着弾する度に、新たに殺到するミサイルが爆発の光に照らされてその姿を現す。
10発、20発と絶え間なく続く爆発は、鉄壁の魔法障壁を少しづつ、そして確実に消耗させていった。
だが、50発、60発と着弾しても中々抜ける気配が無い、全軍がその動向に注目する。
そして着弾が100発を超え、スクリーン或いはコックピット越しにその光景を見る者達が焦りの色を濃くした時、それは訪れた。
最後尾で着弾したP-800ミサイル。
固体ロケット・ラムジェット統合推進システムを用いてマッハ2.5で飛翔するその物体は、3トンの質量を持って障壁に衝突し、そしてついに鉄壁を誇ったその防壁を撃ち抜いた。
それまでの攻撃により限界にまで薄くなっていた障壁は、丸い波紋を残して消失し、それを突き抜けたミサイルは城塞の一部に衝突して250kgの弾頭に火を付ける。
遂に内部に到達した破壊の炎により、箱舟の構造物の一部が爆発に呑まれて倒壊する。
ある者は爆発に巻き込まれて絶命し、またある者は倒壊した瓦礫に押しつぶされて命を散らした。
箱舟に乗り込んだ者の中で、誰がこの事態を想像できただろうか。
誰も彼もが慌てふためき、満足な消火活動等出来てはいなかった。
そんな中、一番冷静であったのは意外にもレガルド王だった。

「はやく火を消せ!
損害は!?どこをやられた?」

炎によってオレンジ色に照らされる城塞上で、王は兵達に懸命に指示を出す。
その危機によって発揮された王たる者の振る舞いを見て、若干腰を抜かしていたアルドも正気を取り戻した。
即座にアルドは王を補佐するべく声を掛けようとするが、その声は後ろから迫る悲鳴にも似た鳴き声に掻き消された。

「お父様!!! もう嫌よ! 城に戻りましょう!!!」

そう言って姫たちが城塞内から走り寄ってくると、王の足に縋る。
そんな彼女らに王は優しく諭す。

「お前たち、ココは危ないから中に戻るんだ」

「でも!でも!」

「今は父の言う事を聞きなさい。わかったね?」

未だに燃え盛る城塞を背景に、優しくかけられる父の言葉、これにより姫たちも落ち着きを取り戻し、王の顔にも余裕が出てくる。
だが、その直後に現れた伝令の報告により、王の顔から余裕が完全に消え去った。

「陛下、報告します!敵の攻撃は竜人の待機室を直撃。箱舟本体は無傷ですが増築部分の一部が倒壊したことにより損害が多数出ている模様です!」

「何!?」

竜人の待機室。
そこは、今出撃している竜たちを操る竜人の本体が眠っている場所。
そこがやられたという事は…


「クケェェェェ!!!!!」

報告を受けた王達の頭上に一匹の竜が飛び去っていく。

「本体がやられて術が解けたのか」

その言葉の示す通り、先ほどまで力及ばずとも果敢に空中戦を繰り広げていた竜達が四方八方に潰走していく。
その様子は、本能に赴くまま必死に逃げているようである。

「…くっ」

王は悔しげにその様子を眺め、また再度縋りつく姫たちの顔を見て決断した。
箱舟の本体が無事であるならば、障壁はいずれ回復するが、竜達はそうはいかない。
手持ちの最強の攻撃力だったために、それが失われては今回の遠征自体が難しくなる。
何より、愛すべき王妃や姫たちの泣き叫ぶ顔を見るのは彼にとって苦痛であった。

「…撤退だ」

「は?」

小さく呟くように言った王の言葉に、報告に来た兵が聞き返す。

「撤退すると言ったのだ。進路変更。王都に戻るぞ!」

「は!」

王の叫び声と共に兵達が動き出す。
伝令が走り、この戦役も最早これまでと思われたその時だった。

「撤退など認めん!」

先ほどまで従順に王に従っていたアルドが、まるで悪魔のような形相で王を睨んでいる。
睨まれた王も、突然のアルドの変わりように戸惑いを隠せない。

「何を言っているのだ?」

王は眉間に皺を寄せてアルドに問いかける。

「撤退など認めん!まだ一発貰っただけだ!何より未だ蛮族共を血祭りに上げていないのに撤退とは何事か!」

「貴様、王に対してその物言いは何だ」

アルドの王に対してのあまりに不遜な物言いに、流石の王も憤りを隠さない。

「黙れ無能王!戦に女子供まで連れてくる馬鹿が。
ここでおめおめと逃げ帰ったら、何のために箱舟まで繰り出させたと思ってるんだ。
俺に敗北の屈辱を味あわせた奴らに、まだ代価は支払わせてない!
城塞の一部が崩れたのが何だ!そんな事、戦では些細な物ではないか!」

彼は狂っていた。
最初の敗戦の後、今まで敗北を知らなかった彼が、無様に波間を漂っている中で培われた復讐心は、莫大な財貨を使って今回の遠征を企てるほどに歪んだ物だった。
それが、あともう少しで敵地に差し掛かるという所での撤退という王の決断は、彼にとって到底容認できるものではなかった。

「…アルドよ。先ほどの攻撃で気がふれたか?
部屋に戻れ。今ならまだ、先ほどの無礼も不問にしてやろう」

王は明らかに狂気が宿った目をしているアルドに穏やかに語りかけるが、最早、彼は聞く耳を持ってはいない。

「黙れ!」

シュ…

アルドは腰から鈍く光る剣を抜くと、王の首筋に充てる。

「突撃だ!引き返すことは許さん!」

「きゃぁあぁあぁ!」

いきなり抜刀して王に剣を向けた事に対し、それを見ていた女たちから悲鳴が上がる。
そして、首筋に切っ先を当てられ不用意に動けなくなった王も、背筋が凍り微動だに出来なくなった。

「くぅ… 本気で狂ったか…」

「さぁ 命令しろ!蹂躙だ!撤退などではなく、徹底的な蹂躙を命じるんだ!」

場に緊迫した空気が漂う中、アルドは高らかに笑う。
最早彼の目には先の事など写っていないようだった。
王を人質に取られ全員が凍ったように固まるが、それも長くは続かなかった。
丁度その時、箱舟の上空では統制を失って本能の赴くままに四方に逃走を図ってい竜たちの一匹が箱舟の方角に向かって落ちていく
撃墜されたのか、爆発に巻き込まれたのかは定かではないが、その皮膜で出来た翼には大きな穴が開いている。
落ちてきた竜は、元々持っていた速度に加え、重力の加速も加えながら城塞の屋上に突っ込んだ。
どぉんという衝撃と共に発生した土埃を巻き上げ、肉片を飛び散らせながら転げまわる竜の骸は、あたりの人間を何人か巻き込む。
不幸な兵士の一人は、転がってきた胴体に吹き飛ばされて絶命し、細かい肉塊の雨はアルドたちに容赦なく降り注いだ。
急な出来事に皆が目を瞑って屈みやり過ごし、舞い上がった土煙が晴れる頃、また再度何かが崩れ落ちるような音が辺りに響く。
竜の血や土埃で汚れた皆の中心。
視界が戻ったその場所には、血に染まり立ち尽くすアルドと崩れ落ちた王の姿があった。
竜の肉片が彼に衝突したのだろうか、彼の足もとには竜の指と思われるものが落ちている。
そして、その結果だろう。
喉元に刃を向けている時に加えられた衝撃により、仰向けに倒れる王の首には真一文字の裂け目が出来ていた。

「いやぁあぁぁあ!」

「陛下!!!」

王妃たちが叫び、抜刀した兵士たちがアルドに斬りかかる。
急な出来事に困惑したアルドは、その刃を避けきる事が出来なかった。
袈裟がけに斬られ、そのまま崩れる様にして倒れこむアルド。
倒れた体に蹴りを入れられ、王の体から放されるように転がされる。
危険が排除されたことにより、兵士や王妃たちが王の亡骸に集まるが、王の瞼は開くことは無い。
だが、諦めずに手を尽くそうと兵や姫たちも王に呼びかけたり、止血を止めることは無かった。

アルドは、そんな王の周りで泣き叫ぶ王妃達や必死に傷口を抑える兵達を地面に転がりながら眺めていた。
何が彼をここまで狂気に駆り立てたのであろうか。
高すぎたプライドの代償は、王国全体を巻き込んだ紛争に発展させ、最悪に近い結末を迎えつつある。

「父上… クラウス・・・」

そんな騒動の中心にあった彼が、誰にも届かないほど小さな声で死んだ父と敵の捕虜になった弟の名を呼ぶ。
死の直前、彼は少しの間でも正気に戻れたのであろうか、だが彼の目から命の灯が消えた今では、誰も知る由は無かった。







「閣下、敵飛行物体反転。
後続の船団と共に撤退していきます」

司令部のスクリーンに映し出されたマーカーが反転していくのを見て、司令官は高木に報告する。

「ご苦労様です。
撃墜こそできなかったものの、なんとか敵の上陸は防げそうですね」

戦闘の推移を手に汗を握りながら見つめていた高木は、敵が反転したとの報告にほっとする。
そんな高木に、司令官は言葉を続けた。

「ですが、逃走に入った敵残存部隊に対する処遇は如何になされますか?
確かに敵主力は損傷を受けたようですが、海上の敵船団は無傷です」

それを聞いて高木は悩む。
追撃を出すか深追いを止めるか…
しばらく悩んだ後、高木は一つの結論を出した。

「司令は如何すべきと思いますか?」

餅は餅屋。
高木は自分が軍事戦略は素人であるなら、戦略眼を持つ人間の助言を得るのが一番良いと判断し、司令官に尋ねた。

「そうですね。
戦術的には追撃戦を行った方が戦果は拡大できますが…
やはり、補給の問題から、追撃戦を行うと後々の行動に支障が出ます。
特に一隻しかないステレグシュチイ級は、現状の残弾は船内に残されているのみです。
それに巡視船やミサイル艇用の大口径砲弾も未だに生産は軌道にのっておりません。
倉庫に眠っている分もありますが、それほど豊富なわけではありません。
唯一補給の期待できるのは、国後に工場の出来た小火器用の弾薬くらいでしょうか。
確かに今が戦果拡大のチャンスではありますが、その後の海上兵力の実効性を失ってまで拘る必要は無いかと。
この世界の国家がゴートルムだけならば問題ありませんが、更に他にも複数の国があるとか。
ならば、我々は余力を残しておかねばならないでしょう」

司令官の話を高木は黙って頷きながら聞く。

「補給の縛りによって、行動のフリーハンドが大きく制限されているわけね」

「その通りです」

「そうですか。深追いは止めて置いたほうがいいですね」

高木は司令官の助言に従って命令する。
警戒は維持するも深追いする必要はないと。
それを聞いて司令部が各所へ命令の伝達を始め、高木は黙ってそのキビキビとした動きを見つめる。
そんな高木の背後から、司令部内で戦況を注視していたステパーシンが彼女の肩をポンとたたく。

「まずは戦勝おめでとう大統領。
だが、これからが大変ですよ。今回の戦闘で我らのミサイルの備蓄はほぼ枯渇してしまった。
準備爆撃と100発以上のミサイルでやっと損傷させられるような相手に二回戦目は出来まい。
軍備の拡充とそれを可能にするための産業の育成がこれまで以上に急務になる。
これはもう、大統領には過労死を覚悟して貰わねばなりませんね」

ステパーシンの言葉に高木はウウ…と表情が曇る。

「うっ… それは私も痛感しました。
あの防御を破るには大威力な兵器を量産するしかないって…
ソレについてですが、実はロシア側がやっぱり反応兵器を隠し持ってましたとかは無いんですか?
駄目なら弾道ミサイルでもいいんですが」

高木はロシア側も報告にあった武器以外に何か持ってないか縋るように聞くが
ステパーシンは高木の質問を鼻で笑うだけだった。

「我々の装備は新政府の樹立前に伝えたモノのみです。
残念ながら冷戦時には反応兵器もありましたが、核軍縮後はありませんよ。
それにスカッドもイスカンダルも南クリルには配備してません。
仮にあったとしても、核アレルギーのそちら側の住民が五月蠅いでしょう?」

「…まぁ そうですね。
無い物ねだりは止めましょう。
それに軍備で言うなら、現在の転移前の装備をそのまま引き継いだ偏った装備品の編成を何とかしなければなりませんしね」

「流石に爆撃機や早期警戒機を始め、輸送機すら無いのでは論外ですね」

ステパーシンは高木の言葉にうなずく。
その言葉通り、今の北海道の軍備は凄まじく歪な物になっている。
今回の作戦でも、F15を爆撃に使ったくらいだ。
本来ならそのような役目は支援戦闘機であるF2の役目であるが、それらはみんな転移前は内地に配備されていた。

「まぁ、時間のかかる軍備の話は閣議ででも行いましょう。
とりあえずは、今行うべき方策としては、大陸でも資源獲得のための調査隊編成を前倒しでしょうか。
産業の育成に資源が無い事には進みませんし、あまり時間をかけると経済が崩壊してしまう。
すべては時間との勝負です」

「そうですね。これからはどれだけ早く産業基盤を築き上げれるかが生死の分かれ目ですからね。
もっともっと頑張らねばならないですね」

高木は戦況のスクリーンを見ながら気合を入れる。
全ては生存のために…



「あ、それから大統領」

気合いを入れる高木をよそに、戦況が収束しつつある司令部を退出しようとしたステパーシンが、ふと思い出したように振り返る。

「どうしましたか?」

「先ほどの追撃中止命令ですが、あれは助かりました」

「はぁ。何故です?」

「今は世論の共感が得られずに、なりを潜めている反戦団体の動きが活発化しています。
仮に大量の敵兵の死体が流れ着いて、大々的な反戦運動を始めたら、連邦の社会秩序が少々乱れていたことでした。
今は内務省警察が過激派の摘発に精力を注いでおりますが、ソフトな連中は取り締まりにくい。
敵は外だけではないことも頭の片隅に置いといて頂きたい」

「…肝に銘じます」

そうやって、言いたい事を言うとステパーシンは司令部を後にする。
後に残ったのは、司令部の人間を除けば、高木と頭の痛い問題だけだった。



この後、ニュースでは防衛戦の戦勝と調査隊派遣の前倒しが全国民に対して報道された。
それは、道民に勝利の喜びを味あわせるのと共に、新たな騒動の始まりを告げるものだった。










ゴートルム王国の宰相であるロドリーゴにとって、その報告は予想を超えて最悪なものだった。
遠征軍の敗北の情報は、王国の各地に張り巡らされた魔法による通信網により翌日には中央に入っていた。

「まさか、こんな事が…」

彼は苦悩する。
なぜならば、神代から続く安定していた王朝が、ある日、ポッと出現した蛮人たちによって、その根幹が揺らいでいるからだ。
無敵を誇った箱舟は、大軍を従えた諸侯の目の前で敗北し、何より王を失ったのが痛かった。
王は後継ぎとして男児を残さなかった。
二人の子供はいたが両方ともに姫であり、王妃は目の前で夫が殺された事で心が壊れてしまったと報告にはある。
男系の血統が途絶え、心の壊れた王妃の代わりに未だ少女と言っても過言ではない長女が女王として王位につく予定だが、今まで王城の箱庭でぬくぬくと暮らしていた彼女に政が出来る筈もない。
王宮内ではそれを見越して、新女王に代わり政を行う必要から官僚同士の派閥抗争が激化し、貴族社会では王家に婿入りし王家を我が物とせんがために貴族同士の水面下での争いが勃発するだろう。
その中で王家への婿入りのみを考えた場合、順当な流れで対処するならば国内で最も力のある貴族から婿を取ったであろう。
しかし、それには如何ともしがたい問題があった。
何故ならば王殺しの犯人は、貴族の中でも最大の力と領地を持つエルヴィス辺境伯。
捕縛する際に当主のアルドは命を落としたが、辺境伯家の改易は疑いようが無い。
他の貴族たちにとってみれば最大の障害は消えてなくなった。
特に頭一つ飛び出す者の居ない中での貴族たちの主導権争い。
そのため、王の死という報告からさほどの時間がたっていないにもかかわらず、王国内の貴族社会は数多の毒蛇が王座を狙い蠢動を始めていた。
実際、何人かの貴族が既に王の死を悼む振りをしつつ、ロドリーゴに袖の下を持って挨拶に来ている。
だが、特に目立った差のない彼らの中から一人選ぶとなれば、選ばれなかった者達の不満は想像に易い。
最悪、国が割れる事態になりかねない。
それに改易になる予定の辺境伯領にしても、あの忠誠心の高い家臣団が素直に応じるだろうか。
彼らの軍勢は箱舟不在の穴を埋める為、北の帝国との国境に張り付かせているが、仮に丸ごと帝国に取り込まれるようなことになれば非常に面倒くさい事態に発展するだろう。
ロドリーゴは、思慮を巡らせた末に、帝国との紛争の可能性まで出現したことで自身の胃に強烈な痛みを感じていた。

「うっ、胃が… いたたた…」

そんな彼が激痛に耐え机に突っ伏した姿勢で苦悶の表情を浮かべていると、重厚な扉の向こうからノックが聞こえる。

「ぬぅ…、 入れ」

ロドリーゴは痛みに耐え、一呼吸おいて姿勢を正すと、ドアの向こうに向かって入室を許可する。

「失礼します」

そういって一人の役人が入室して彼の前に立つと、持っていた書状を広げて読み上げる。

「閣下、報告します。
先日まで我が国と交渉を希望していた蛮人たちですが、遠征軍の侵攻の際に一度は逃げたかと思われましたが、再び戻って来たようです。
報告によりますと、今度は交渉のための交渉ではなく、休戦勧告であり本交渉の日時と場所を指定してきました。
場所はエルヴィス辺境伯領のプリナスに寄港する船上。日時は今日から丁度10日後だそうです。
そして、もし交渉の席に着かない場合、拡大する戦火の責任は王国側にあると通達してきております」

「休戦だと?」

「はっ、報告によりますと、向こうはあくまで無益な戦乱の拡大は望まないと申しているようです」

「ふむ…」

ロドリーゴは思案する。
現在の戦況は、蛮人共が此方の切り札を退けた事で向こう側が優勢なはず。
それにもかかわらず、反攻ではなく休戦を求めてくるという事は、向こうにも紛争を継続できない何らかの理由があるのか…
それが小国ゆえに兵站を維持できない為か、何らかの内患を抱えている為か、はたまた先の紛争で損害を受けていたのかどうかは
情報が少なすぎる為に知りようが無いが、この事は体制が不安定化してしまった今の王国には好機とみるべきだろう。
再侵攻にしても、損耗した竜人達の代わりを新たに竜の地から招聘するにも時間と出費がかかるし、何より軍の統帥権を握っているのは
ついこの間まで、この世の穢れを知らなかったような少女である姫様だ。
此方としても国内問題を解決するまで下手には動けない…

「よかろう。一時休戦だ。
姫さ… もう既に女王陛下だったな。陛下にすぐさま上奏だ。
王国宰相として休戦交渉の全権委任を陛下から頂かなくてはならん」

彼は決断する。
今は誰も彼もが王国の未来より己の栄達のみに執着している。
なれば宰相の持つ権限を越えて行動を起こさねばならぬと


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