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No.29737の一覧
[0] 試される大地【北海道→異世界】[石達](2012/11/29 01:19)
[54] 序章[石達](2012/11/29 01:05)
[55] 起業編1[石達](2012/11/29 01:06)
[56] 起業編2[石達](2012/11/29 01:07)
[57] 起業編3[石達](2012/11/29 01:08)
[58] 国後編1[石達](2012/11/29 01:08)
[59] 国後編2[石達](2012/11/29 01:09)
[60] 転移と難民集団就職編1[石達](2012/11/29 01:09)
[61] 転移と難民集団就職編2[石達](2012/11/29 01:10)
[62] 礼文騒乱編1[石達](2012/11/29 01:10)
[63] 礼文騒乱編2[石達](2012/11/29 01:11)
[64] 礼文騒乱編3[石達](2012/11/29 01:11)
[65] 礼文騒乱編4[石達](2012/11/29 01:12)
[66] 戦後処理と接触編1[石達](2012/11/29 01:12)
[67] 戦後処理と接触編2[石達](2012/11/29 01:13)
[68] 嵐の前編[石達](2012/11/29 01:14)
[69] 北海道西方沖航空戦[石達](2012/11/29 01:14)
[70] 大陸と調査隊編1[石達](2012/11/29 01:15)
[71] 大陸と調査隊編2[石達](2012/11/29 01:16)
[72] 大陸と調査隊編3[石達](2012/11/29 01:16)
[73] 魔法と盗賊編1[石達](2012/11/29 01:17)
[74] 魔法と盗賊編2[石達](2012/12/08 01:24)
[75] 決戦[石達](2012/12/08 01:20)
[76] 盗賊と人攫い編1[石達](2012/12/31 22:47)
[77] 盗賊と人攫い編2[石達](2013/01/19 21:24)
[78] 盗賊と人攫い編3[石達](2013/01/19 21:23)
[79] 道内情勢(霧の後)1[石達](2013/02/23 15:45)
[80] 道内情勢(霧の後)2[石達](2013/02/23 15:45)
[81] 外伝1 北海道航空産業の産声[石達](2013/02/23 15:46)
[82] 東方世界1[石達](2013/03/21 07:17)
[83] 東方世界2[石達](2013/06/21 07:25)
[84] 東方世界3[石達](2013/06/21 07:26)
[85] 幕間 蠢動する国後[石達](2013/06/21 07:26)
[86] 東方世界4[石達](2013/06/21 07:27)
[87] 東方世界5[石達](2013/06/21 07:27)
[88] 東方世界6[石達](2013/06/21 07:28)
[89] 東方世界7[石達](2013/06/21 07:28)
[90] 世界観設定[石達](2013/06/23 16:49)
[91] 人物設定[石達](2013/06/23 16:57)
[92] 東方世界8[石達](2013/07/15 01:51)
[94] 帝都ティフリス1[石達](2013/08/09 02:02)
[95] 帝都ティフリス2[石達](2013/08/12 00:21)
[96] 帝都大脱走1[石達](2013/09/23 00:16)
[97] 帝都大脱走2[石達](2013/09/22 22:47)
[100] 帝都大脱走3[石達](2014/02/02 03:03)
[101] 対エルフ1[石達](2014/02/02 03:03)
[102] 対エルフ2[石達](2014/02/05 22:45)
[103] 対エルフ3[石達](2014/02/05 22:45)
[104] 対エルフ4[石達](2014/02/05 22:46)
[105] カノエの素性1[石達](2014/02/05 22:46)
[106] カノエの素性2[石達](2014/02/09 13:13)
[107] 別れ、そして託されたモノ1[石達](2014/02/09 13:14)
[108] 別れ、そして託されたモノ2[石達](2014/02/09 13:16)
[109] 決意[石達](2014/02/09 13:42)
[110] 新しい風[石達](2014/04/13 10:41)
[111] 交流拡大、浸透と変化1[石達](2014/04/13 10:41)
[112] 交流拡大、浸透と変化2[石達](2014/06/04 23:46)
[113] 交流拡大、浸透と変化3[石達](2014/06/04 23:47)
[114] 交流拡大、浸透と変化4[石達](2014/06/15 23:55)
[115] 交流拡大、浸透と変化5[石達](2014/06/15 23:55)
[116] 平田、大陸へ行く1[石達](2014/08/16 04:02)
[117] 平田、大陸へ行く2[石達](2014/08/16 04:02)
[118] 対外進出1[石達](2014/09/14 08:19)
[119] 対外進出2[石達](2014/08/16 04:04)
[120] 対外進出3[石達](2014/10/13 01:58)
[121] 回天1[石達](2014/10/13 01:59)
[122] 回天2[石達](2014/10/14 20:24)
[123] 回天3[石達](2015/01/18 08:20)
[124] 回天4[石達](2015/01/18 08:24)
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[29737] 礼文騒乱編1
Name: 石達◆48473f24 ID:a6acac8b 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/11/29 01:10
拓也が決意を決めたのと同時刻

エルヴィス辺境伯領
港町 プラナス





大陸の先端にほど近い、鉤爪のような半島に囲まれた湾の奥にその港町はある。
辺境伯領最大の町にして、領主の居城もある大きな港町だった。
イグニス教を国教とする国家群の中で、最東端でもあるこの港は、かねてから東方の異教徒との密貿易で栄えていた。
東方からの珍しい物品は巨万の富を生む。
だがしかし、イグニス教の教会が異教徒との取引を禁止していた。
過去には、特にそういった規制は無かったのだが、30年ほど前から教会は公式な交流はおろか、交易にまで口を出してきた。
これに対し、各方面から不満が噴出したが、この世界力の源泉である魔法を管理する教会に対して公然と不満を言えるものはついに現れなかった。
それにより、それまで東方との交易にて生計を立てていたものの大半は海賊に身を落とした。
東方とは交易が出来なくなり、イグニス教諸国間の交易に転向しようとしても、すでに諸国間交易はグレスデン商人同盟が独占し、大量の船団が組合に新規加入するのは拒否された。
こうなった以上、残る手は二つ。
廃業か、非合法か。
堅気で商売している以上は教会の影響は排除できなかったが、海賊となれば別である。
結果として密貿易から東方で本当に海賊行為をするものまで現れ、この町に集積される富は途絶えることは無かった。
本来なら密貿易が行われていることが咎められるのだが、領主を間に挟んだ町の教会への断続的な多額の寄付により、プラナスの司祭は見て見ぬふりを決めているし、領主も特に何も言わなかった。
その為、この港町の春は、資金が動いている限りは終わる気配は見えなかった。
そんな活気にあふれた港の一角に、10隻の軍船が停泊している。
見れば物資を運びこみ、出航に向けての準備を行っている。
その中でも特に大きい一隻。巨大な三本のマストに四角帆と三角帆を張り、船腹から多数のオールを生やした軍船。
その前楼閣に、煌びやかな甲冑に身を包んだ集団が作業の進行を眺めている。

「アルド様。もう二刻もすれば出航準備が完了します。
漕ぎ手のゴーレムも調整は完了しておりますし、バリスタ用の魔力槍も十分な数が用意できております。」

太めの騎士が誇るように報告する。
それを聞いたアルドは彼の肩をバシバシと叩きながら労をねぎらった。

「おぉ!よくやった。
私が家督の相続に追われている間、一切こちらに構う事が出来なかったが、そなたのお蔭で時間を無駄にせず軍備が整えられたようだな
此度の遠征が成功した際には、そなたに新領地を下賜しよう!」

「はは! ありがとうございます!」

アルドの言葉に、満面の笑顔で片手を伸ばした敬礼で返す騎士。
これだけの準備をしたのだ。負けるはずがない。
彼はそう思いながら、新たに得るだろう領地の事を想像し、期待に胸を膨らませながら、作業の進捗の説明を続けている。
その説明によると、旗艦以外は既に兵員の乗船も完了し、いつでも出航できるそうだ。
旗艦より一回り小さいガレー船4隻に、兵員輸送用のずんぐりとした帆船5隻が兵士を満載して、その旺盛な戦闘意欲を発揮する機会を今か今かと待っていた。
だが、それを見ていた一人がアルドに意見する。

「兄上。しかし、良かったのですか? 民の新たな入植地として亜人の居住地を平定しましたが、そこの治安を維持するはずの兵を全てこちらに回したようですが
大丈夫なのでしょうか?」

それを聞いて、アルドが折角の意気揚々とした気分に水を差されたと口元を曲げる。

「心配はいらん。彼の地には既に一人の亜人もおらん。
根切りにしてやったからな。
ありもしない事に心配するとは、本当にお前は臆病だな。
無き父上も、クラウスは外見は元より心も女のようだと言っていたが、まさにその通りだな」

ふうやれやれといった具合にアルドは疑問を投げかけた弟のクラウスに答える。
対してクラウスは兄の言葉に顔を真っ赤にして反論する。

「私は恐れてなどいない! …ただ気になったから言ってみただけだ。」

クラウスは頬を膨らませてそっぽを向く。
本人は否定しているが、線の細い体型の上、整った女顔に長い髪を後ろで束ねている外見ではどこからどう見ても女騎士にしか見えない。
宗教上の理由によりそう育てられたとはいえ、そんな膨れているのもどこか愛らしい彼を見ると、どこか男同士では生まれてはならない感情が生まれそうになる。
アルドを含めてその場にいた者たちは一瞬あってはならない感情を抱いてしまうが、咳払いを一つしてそれが幻想であることを確認する。
一瞬頭によぎった感覚は何かの間違いであり、気のせいに違いないとアルド達は心の中で自分自身に念を押した。

「ふん。 まぁ その真偽は戦場で証明することだな。
それよりも気を取り直して軍議を始める。
これより我々は、出航後に東に進路を取る。目的地は亜人共の向かった陸地だ。
亜人共の抵抗も予想されるが、手負いの難民に出来る抵抗等限られている。
上陸後、5隻の輸送船に載せている兵士1000と騎兵50が橋頭堡を確保したのち、護衛のガレー船からも兵力を順次上陸させる。
その後は… まぁ 戦果の早い者勝ちだな。乱取りも許可する。
むしろ推奨するところだ」

アルドがこんなもんだろと軽く周りに話を振る。
女子供まで抱え込んだ手負いの亜人の群れ。
恐れる必要など何もない。

「それでは、私がガレー船から上陸するまで皆様には海岸で待っていてもらわなければなりませんな」

太めの騎士が笑いながら言う。
戦働きの機会を無理にでも作ってもらわないと恩賞が減ってしまう。
そんな軽口を叩いて笑うと、それにつられて周りの騎士もそれは断ると冗談で返して軍議は笑いにあふれた。
だが、そんな朗らかな空気も関係なしの者が一名。クラウスがアルドに向かって手を揚げる。

「兄上、一つ宜しいですか?」

「…なんだ? クラウス」

空気を無視して質問があるというクラウスにアルドは面倒くさそうに応える。

「あの陸地の事ですが、仮に逃げた亜人以外の住人がいた場合は如何いたしますか?」

なんだそんな事かと思いながら、アルドは不敵な笑みを浮かべてその答えを言う。

「乱取りの褒美が増えるだけだな。
彼の地の富はすべて我々の物と考えよ。
エーア神への信仰をもたぬ亜人から奪って何が悪い。
そんな奴らを匿う奴らも同じだ。
邪を滅して聖なる版図を拡大せよ。神がそれを望んでおられる!」

その言葉に全員が息を呑む。
アルドはこの戦いが聖戦であると宣言したのだ。
辺境伯家への忠誠。神への信仰。全てがこの戦いを肯定するといっているのだ。
その言葉は家臣たち伝って各艦に乗り込む全将兵に伝えられた。
アルドの鼓舞によって欲望の炎が更に燃え上がった艦隊が、今、静かに港を出ようとしていた。





辺境伯艦隊出航翌日 0900

とから級巡視船"しらかみ"船上



稚内沖の海上は朝を迎えていた。
朝の陽光が海をキラキラと照らす中、しらかみは単艦で利尻島の南西を航行している。
稚内沖に謎の大陸が出現して以降、その任務領域はかなり縮小してしまったが、目と鼻の先に陸地が現れたため、そこからの難民や密航船が無いよう目を光らせていた。
まぁ 難民については最初の受け入れ以降、パタリと止んだが、今度は、勝手に上陸する者が無いように海上を監視している。
これまでに何度か商船とみられる船が宗谷海峡を越えたが、そのすべてに対してぴったりと張り付き、亜人の声で録音した上陸は現状では許可できない旨のメッセージを送ることで上陸を阻止していた。
(亜人の声を録音したのには理由があり、体組織の移植で確かに意思疎通は出来るようになったが
それはお互いが一定の距離にいる条件下だけであり、電話などを使った遠隔地とのやり取りは出来なかった。
これは、この効果がテレパシーの一種であり、多言語を脳単体で変換しているわけではないことが原因だった。
余談だが、この効果は日本語-ロシア語の会話でも見られたため、両地域の交流に多大な貢献をもたらしている。)

接近船を全て阻止しているのは、いまだ札幌では外地に対する情報を収集している段階であり、対外方針が定まっていない。
本来ならば、そういった船に積極的に接触すべきなのだが、難民の処遇もあり内部をまとめる時間が欲しかったのである。
何でもかんでも受け入れたところで、それを捌く体制が確立されていなければ管理など無理である。
その為の消極策だった。

この日も、しらかみは近海を航行する漁船や商船を警戒していた。
だが、その日、最初の異変はレーダー上に現れた。

「レーダーに感!10隻の船舶が単縦陣で稚内方面に向け東進中」

画面に目を光らせていた電探員が船長に対して報告し、それを聞いた船長が眉をひそめて確認する。

「それは艦隊行動をとっているのか?」

「間違いありません。5ノットの速度で方位〇九〇へ航行中。単縦陣です!」

これまで接近してくる船はあるにはあったが、それでも単艦もしくは多くても2~3隻であり、10隻もの船で接近してくるものは無かった。
大商船団だろうか?だが、軍艦だった場合、その目的地は?
船長の脳裏に嫌な予想が思い浮かぶ。

「船の進路を船団にむけろ。まずは、通常通りに警告を行う」

船団の正体と進路。
それを確かめるため、しらかみは北西に向け進路を切るのだった。




稚内東方海上 1030

辺境伯艦隊 旗艦カサドラ

巨大な帆をパンパンに張って、巨大なガレアス船を先頭に艦隊が東へ進む。
威風堂々と波を切る衝角の付いた船首。
力強い風を受ける巨大な帆。
それに船腹から伸びる無数のオールが突き出すこの船は、この国最大の軍船であり、天下無双と彼らが信じる旗艦カサドラ。
その雄雄しい姿は、この世にこの船より強い船はいるはずがないと艦隊の全ての乗組員に強い共通認識を与えていた。

「蛮族相手に豪華過ぎたか?」

アルドは言う。
難民は雑多な小舟と筏ばかり、最大でも20メイル程のコグしか持たない。
あのサイズの船と小舟の集団なら、ガレー船の2隻もつければ十分だったかもしれない。

「だが、海戦の機会は少ないからな。コイツにも血を吸わせないといかん」

独り言を言いながらアルドはカサドラのメインマストをポンポンと叩く。
既に軍議のメンバーはそれぞれの船に戻っている。
その為、暇を持て余したアルドは、一人で甲板に立っていた。
そのまましばらくマストに手を掛けながら遠くの海上を眺めていると、直上の見張り台から叫ぶ声がした。

「南方より船が近づいてくるぞー!」

マスト上の見張りが甲板に向かって有らん限りの声で叫んだ。
その言葉に、遂に戦か!と興奮気味にアルドは弦側に走る。
そうして目を細めながら水平線上を見ると、一隻の船がこちらへ向かっているようだった。
水平線上に見える影からすると、なかなか大きい船体のようだ。

「各員戦闘用意!!!」

アルドが嬉々として号令を発する。
船の乗組員が持ち場に向かって走る中、近くにいた船長がアルドに向かって聞き返す。

「敵味方の確認はいいのですか?」

そんな船長の問いに、アルドは笑いながら言う。

「あの方向から来る味方なんぞいるか!
敵だ!敵に違いない!喜べ!戦が出来るぞ!」

そして、さぁ行け!とその場に通りかかった不運な船員の尻に蹴りを入れると、アルドは自身も船内へ走る。
アルドが向かった前艦橋の片隅。
そこには、テーブルの上に布で固定された一個の水晶玉が置いてあった。
アルドはその前のイスに座ると水晶玉に向かって話し始める

「クラウス!聞こえるか!クラウス!」

イグニス教諸国の軍船にはこの種の魔法の水晶玉が通信装置として乗っていることは珍しくなかった。
知っている相手が水晶玉の前にいるときにしか使えないという制約があったが、
諸国の軍船では、水晶玉を常に艦橋に置くという運用でカバーしている。
アルドは、その水晶玉を通してクラウスを呼ぶ。
その呼び声に答え、艦橋で待機していたのかクラウスの返事がすぐに返ってきた。

「どうしました?兄上」

「船だ!船戦ができるぞ!俺は、この後ガレー船を率いてその船の方角へ向かう。
お前は輸送船団を率い、東進して先に兵を揚陸しろ。わかったか?」

「わかりましたが、性急すぎやしませんか?もっと…」

「うるさい!お前は俺に従っていればいいんだ!」

アルドはクラウスの質問を遮り、一方的に通信を終わらせる。

「口うるさい奴め…」

そう言うとアルドは自身の武装を取りに自室へ向かっていくのだった。





1100

巡視船しらかみ


海上に木造のガレー船が5隻航行している。
しらかみは、その先頭艦に並走しながら警告を送っていた。
30分ほど前、目視距離に入った船団は隊を2分した。
一隊はこちらに接近してきたガレー船。
もう一隊は進路をそのままで東進を続けているそうだ。

…まずい

船長は思う。
ここで時間を喰っていては、もう一隊の接近を防げない。
船団発見の際に署に連絡をしたから、稚内港のもとぶ型巡視船"れぶん"が応援に向かってくれるそうだが、このままでは間に合いそうもない。
船長は再度の警告の為、船を更に先頭艦に近づける。
是が非でも警告の内に立ち去って貰わねば、船長がそう祈った…・その時だった。
弦側の木製の窓が開き、甲板にローブを纏った人間がわらわら出てくる。
巡視船内の誰もが一体何事だと身構える。
そして、次の瞬間、木製の窓から何かが飛び出したかとおもうと、それがこちらの船体に突き刺さり爆炎を上げた。
それも一本だけではなく複数が飛んでくる。更には甲板上の人間が手から火の玉を繰り出し甲板を火の海に変えた。
乗員にとっては敵船から飛んできた物体、バリスタから射出された魔力槍が甚大な被害を与えた。
およそ500km/hで船体に衝突した1.5mはある巨大な矢は、外壁を貫いた瞬間に秘められた魔力を解放した。
船内を紅蓮の爆炎が駆け巡り、船員を殺傷。最初の一撃で艦橋は地獄と化した。
炎が乗員を殺傷する中、船に対してはもう一つの要因が船体を攻め立てる。
巡視船に向けて発射された魔力槍。その中でも外れたり、外板にはじかれて海に落下したものが、それを発射したものの意図しない効果を生み出す。
矢につけられた鉄の矢尻。敵船を貫く為に重厚に作られたそれは、海に落ちて魔力が解放された瞬間、白熱する液体へと変わる。
海水中に落ちる白熱した液体金属。一瞬の間の後、付近の水を多量の水蒸気に変えて爆発を起こした。
巨大な水柱が連続して水面下の船体に耐えがたい衝撃を与え、それは亀裂となり巡視船内への浸水へと繋がる。
バリスタと魔術師の攻撃が止む頃、しらかみの船体は業火につつまれ、その進路を海底へと向かわせつつあったのだった。

「はっはっは!大したことないな!やはり、この船は素晴らしい!力の権化だ!」

アルドは燃え盛る船をみながら高笑いを浮かべる。
最初、近寄ってきた船がマストも無く、オールもないのをみて魔法の船かと思い警戒したが、今では我らの攻撃の前に、なすすべもなく沈もうとしている。
亜人共の船ではないようだが、このような船では何隻あっても物の数ではない。
我々の行く手を阻めるものなど何もないのだ。
アルドはそう思いながら満足そうに波間から消える燃え盛る船を見送った

「まだ他に敵はいないのか?俺はまだまだ食い足りないぞ!」

先頭の興奮冷めやらぬ甲板でアルドが叫ぶ。
それに呼応するように兵士たちの勝鬨が船上を支配するのであった。








11:20

北海道連邦政府ビル  


赤レンガの旧北海道庁舎の横にそびえ立つ、少し前までは道庁と呼ばれた少々デザイン性に欠ける直方体の建物は、現在は北海道連邦政府ビルと名前を変えていた。
その中の知事室から名を変えた大統領室で、初代北海道連邦大統領 高木はるかは執務を取っていた。
既に新政府移行の会合は実務者協議に移っており、彼女は溜まった実務を処理していた。
新たに起きる細々とした問題は部下に投げていることもあり、転移後の混乱で溜まった仕事量は殺人的だったが、それなりに平穏に午前の仕事を片づける事ができた。、
時刻はそろそろお昼を迎えるという頃、慌ただしく部屋に入ってきた秘書官の報告により、彼女の短い平穏な時間は終わりを告げた。

「大統領!海保より連絡です。稚内方面へ向け航行中の未確認船団に、海保の巡視船が警告の為に接近したところ
武力行使を受け巡視船が沈没したそうです! 現在は稚内より出航した巡視船れぶんが向かっておりますが
地元警察から、既に武装勢力の一部が礼文島に着岸しているとの報告も上がってきているそうです」

「沈没!? 攻撃を受けたのですか?」

「そのようです。海保から攻撃直後の映像が上がってきております。こちらをご覧ください」

秘書官が彼女にタブレット端末を見せる。
そこには巡視船から見る大型の木造船が映っている。
巨大なマスト、船腹に並ぶオール、その船に対し巡視船が警告を発しながら近づいていく。

「ガレー船?ですか」

「そのようです。ですが、彼らは強力な武装を持っているようです。
弦側の窓と甲板にご注目ください。」

秘書官に言われた通り映像を注視していると、ガレー船に動きがあった。
甲板にローブを纏った人影が現れ、船腹にある木製の窓が一斉に開く
次の瞬間、画面は飛んできた火の玉や巨大な矢が発生させた爆炎を映して映像は終わった。

「この映像は15分前に巡視船しらかみから、リアルタイムで稚内署に送られていた映像です。
現在、しらかみはレーダー上から消え、船団は二手に分かれて東進している模様です。」

高木は片手で口元を蓋いながら考える。
確かに難民の話を聞き、この世界には好戦的な勢力が居るのは分かっていた。
だが、早すぎる。こちらは未だ組織改編すら途中の状況だ。
しかし、事態は既に進行している。打つべき手は全て打たなくては…

「緊急の安全保障会議を招集します。関係各位に至急連絡を。
稚内の海保には本道への着上陸を絶対に阻止するよう連絡してください。
既に相手が明確な敵対行動をとっている以上、威嚇無しでの船体射撃を許可します。
それと、防空軍及び道北の駐屯地に出動準備をお願いします。」


それにしても…
どんな世界でも争いは尽きないものね。
もしかしたら、戦争こそ三千世界で唯一の共通言語なのかしれないわ。
緊迫した状況の中、ある種の悟りのような心境で彼女は思うのだった。






同時刻

礼文島

船泊湾


緩やかな弧を描く岬に囲まれた湾は、爽やかな青空を水面に映し
沿岸の村は、いつもと変わらぬ静かな昼時を迎えていた。
人々は昼食を取るために昼休みに入り、各家庭では調理もしくは食事の真っ最中だ。
だがこの日、そんな平和な時間は唐突に終わりを告げた。
村内各所にある防災無線からサイレンが鳴り響き、音声によるアナウンスが流れる。

『着上陸侵攻警報。着上陸侵攻警報。当地域に着上陸侵攻の可能性があります。直ちに島南部へ避難してください』

転移により衛星が使えない今、J-ALERTは機能せず、役場の職員による放送であった。
だが、想定外の事態に焦燥感が伝わる職員の肉声放送は、全島民に緊迫感を伝播させるのに効果的に作用した。
明らかに焦り、戸惑っているアナウンスの声。その声色はただ事ではないという雰囲気を島民たちに広めていく。
サイレンとアナウンスが交互に連続して続き、あちこちの家で避難のために車に貴重品を運び込む光景が見られた。
ある者は隣家の老人の安否を確認しに行き、またある者は職場から家族の下に駆けもどる。
そんな中、漁船で逃げようと港に出た者は、その混乱の元凶を見た。
湾内に侵入する5隻の帆船。
元の世界ではキャラックと言う名の船に似た外観を持った船が、西方から湾を舐める様に侵入する。
その様子を呆然と見ていた村人は、真後ろから発生した爆炎により吹き飛ばされ強制的に意識を現実に戻された。
何事だと起き上がりながら振りかえると、後ろにあった船が燃えていた。
見れば、向かってくる船から大きな矢のようなものが飛んでくる。
降り注いだその物体は着弾すると爆炎を上げて燃え上がり、小さな漁港はあっという間に火の海と化した。

「停泊中の船を全て沈めた後、湾の反対側の埠頭に接舷する!総員上陸用意!」

燃える岸を見ながら、クラウスが甲板に待機する兵や水夫に向かって指示を飛ばす。
それに応え、甲板からは男たちから歓声が上がった。
慣れぬ船に揺られてやっとついた戦場である。
それにアルドが乱取りを奨励していたため、その士気は十二分であった。
そんな彼らを満載した船は、ゆっくりと埠頭に向かう。
そしていよいよ上陸と言う所でクラウスは兵に向かって叫んだ。

「兄上の言った通り、乱取りは構わぬ。だが、剣を持たぬ者、抵抗せぬ者に対して不必要な殺生は避けよ!
我らはエーア神の名の下、その名を汚さぬ行動をせねばならぬ。不要な虐殺を好むものは暗黒神アリマに魅入られると心せよ!
さぁ行くぞ!勝利を我らに!!」

その声に合わせ、兵士たちは雄たけびを上げながら飛び出していった。
兵士たちの背を見ながらクラウスは思う。

大陸で散々亜人達を虐殺したのに、今さら無抵抗の者を殺すなとは私は何を言っているんだろう。
既に港や船に向かって魔力槍を撃ち込んでいるし、なにより間違いなく他の船の騎士や兵は容赦なく住民に襲い掛かるだろう。
こんなことをやっているから、兄上に甘ちゃんだと馬鹿にされるのは百も承知だ。
だが、兄上は洋上で今はいない。
ならば、この時だけでも自己満足を通させてもらおう。
言い訳は、後で考えればいいや。
無抵抗の者を殺す後味の悪さよりはマシだから…


そんな、おおよそ侵略を行う軍勢を率いているものとは思えぬ事を考えながら、クラウスは護衛と共に船を飛び出していった。







11:50

礼文島沖東海上
巡視船れぶん

しらかみの連絡を受け、稚内を出航したれぶんの船内は、ただならぬ空気が漂っていた。
不明船団の発見と接触を行ったしらかみが攻撃を受け撃沈されたと署から連絡があったのは、つい先程。
その直後に入った命令には、それまで違法漁船の拿捕や密航船の取り締まりを任務としてきたれぶんにとって、すぐには信じられない内容だった。

「着上陸の阻止と威嚇無しの発砲許可か…
本来、こういった仕事は海自の仕事だと思ったんだがな」

れぶんの船長が副長に向かって呟く。

「転移以降、船の数が足りないんですよ。
自衛隊なんてミサイル艇が2隻だけ、ロシア側はフリゲートが一隻あるそうですが今頃、函館のドックです。
武装の無いCL型の巡視艇も含めて40隻に満たない我々が最大勢力となれば、今後は様々な面倒事がこっちに来ますよ。」

犯罪の取り締まりや領海の警備が海保の仕事だと思っていたが、どうやらそういった考えは既に古いようだった

「まぁ 今後の任務については色々と難しい事も多くなりそうだが、今回ばかりは、周囲に海自…今は連邦海軍だったな。
彼らがいないことは神様に感謝しなければならないな。
なんたって、我々海保の手で、しらかみの敵が打てるのだから」

そう言うと船長は手に持っていた双眼鏡を覗き。
水平線上に浮かぶ憎き相手を凝視する。
我等が仲間に手をかけ、それでいて悠々と航行する船団。
今に見てろよと船長が思っていると、水上レーダーを見ている部下から報告があがる。

「目標との距離、6000!あと900で射程に入ります!」

その報告を聞き、船長は双眼鏡を覗きながら呟いた。

「見てろよ。しらかみ… 敵は取ってやる」





礼文島沖南東海上 

辺境伯艦隊 旗艦カサドラ


敵船を一隻沈めた事で、船内は笑い声に満ちていた。
どうやら敵は大したことは無いらしい、魔法船を一隻、抵抗らしい抵抗もさせずに撃沈できた。
余裕だったとはいえ通常の船ではなく魔法船を沈めたのである。これで今回の遠征が成功に終われば、給金が弾む事は間違いなし。
願わくば戦果拡大の為に更に敵船を狩り立てたいところである。
マストの上では財宝を探すかのように見張り員が目を光らせている。
そんな水夫たちの期待を一身に背負い、見張員がそれを発見したときは叫び声に歓喜の響きが混じっていた。

「2時の方向に船影!一隻がこっちに向かってくるぞー!!」

「おおぉぉぉ!!!」

歓喜が伝播する。
その歓喜の波はアルドにも伝わり、笑みを浮かべながら指示を飛ばす。

「進路を敵船に向けろ!そして船首バリスタの準備だ!
奴らも海の藻屑に変えてやろうぞ!
僚艦にも伝えろ、最初にバリスタを命中させた船には、一人当たりペニー銀貨10枚だ!」

船員の目の色が変わる。
一般の水兵の約3倍の日当と同じ額である。
彼らの顔から笑顔は消えなかったが、無駄な動きは一切消えた。
全員が一丸となって目の前の船を沈めるべく動き出した。
ある者は船倉から魔力槍を運び、またある者はバリスタの調整と初弾の装填を行う。
中でも皆の期待を一身に受ける魔力槍の誘導を行う魔術師は、目を閉じて精神の集中を行っていた。
このバリスタから発射される魔力槍は只の大威力の矢ではない。
バリスタより発射された魔力槍は、魔術師の目視誘導により目標へ向かう。
放物線を描く矢を目標に向ける事は簡単だが、遠距離で目視誘導するのは、かなりの部分で術師の技量に頼る所が有り熟練を要したが、それでも通常のバリスタ等に比べれば非常に高い命中率を誇っていた。
まぁ 高位の魔術師であればバリスタを用いずに投擲できるのだが、投射を機械にし、術師は魔力消費の少ない誘導だけに徹することで低位の魔術師でも運用が可能だった。
現在では、魔力槍はイグニス教諸国の軍船の標準装備となっている。
そんなバリスタの準備を完了したのとほぼ同時に、それは飛来してきた。
敵船の船首から薄い煙が上がったかに見えた次の瞬間。
光る水飛沫のようなものがこちらに降りかかる。
風切音と木の砕ける音が船上を支配し、その飛沫を受ける度に大量の木片を振りまきながらメインマストが根元から折れる。
甲板には折れたマストに潰された者の内臓や、運悪く直接飛沫を受けバラバラの肉片と化した者。
それに加え、飛び散った木片が刺さった者の絶叫が重なり、甲板上は地獄と化した。
遅れて連続した炸裂音が届く。
遠い雷のような音に全員が恐怖した。

「一体、何が起きた!? 奴らの攻撃だというのか! あんな距離から奴らは撃てるのか?!」

アルドの問いに誰も答えることは出来なかった。
何故ならば、このような攻撃は今までに誰も経験したことが無く、死体や負傷者の絶叫でパニックを起こしかけていた。

「バリスタは撃てるか!? 反撃だ!反撃!」

「無理です!あんな遠距離は届きません!」

「いいからさっさと撃て!命令だ!」

アルドは無理だという船員の尻を蹴り上げ命令する。
何としても一矢報いてやる
アルドはこちらに向かってくる船を睨みバリスタを撃つように再度命令する
距離なんて関係ない、相手の攻撃圏内に入っているのに、射程に入るまで待つなどという事は彼にはできなかった。
ダン!と弦が弾かれる音と共に赤く光る魔力槍が飛んでいく。
当たれ!当たれ!そう叫ぶ彼の願いとは裏腹に、敵船のかなり前に着弾した魔力槍は盛大な水柱を上げた。






巡視船れぶん



船の前方に水柱が上がる。
パニックになり射程外にもかかわらず、手持ちの武器を発射したところだろうか。

「敵の射程は1000mと言ったところか」

船長が水柱と敵船の距離を見て言う。

「ですが、その割には大きな水柱です。しらかみを沈めた事といい。
結構な威力があると思われます。
敵船の船首にある巨大なクロスボウから投射しておりますが、弾頭に爆薬でも取り付けているのでしょう」

船長が再度双眼鏡を覗く。
確かに船首に巨大なクロスボウのようなものが有る。
射撃後に打ち返してきたという事は未だ健在なのだろう。

「敵甲板を狙い、投射機を破壊しろ。
射撃後は順次、後続船のマストと投射機を破壊し足と手を抑えるんだ。」

船体射撃を許可されても、やはり海保は海保たらんとしていた。
船長は船を撃沈するより、敵の足と反撃手段を封じる射撃を命令している。
そして巡視船の正確な射撃は、その命令を忠実に守っていた。
第2射の後、先頭艦の投射装置は積み木を崩すかの様に吹き飛んだ。
マストを失ったため先頭艦の船足が鈍る。
その速力の落ちた船の横を後続艦が追い抜き、更にこちらに向けて突撃を仕掛けてくる。
そんな彼らに対して、れぶんの30mm機関砲は此方に向かってくる順位で差別することなく、彼らに平等に降り注いでいった。
木製のマストは折れ、巨大クロスボウは吹き飛んでいく、だが彼らの突進は止まらない。
マストは無くなったが、オールが力強く船に推進力を与えている

「止まらんな…」

「敵は櫂を備えている為、マストを失っても移動が可能な模様です。
ここは船体射撃での撃沈を進言します。」

「そうだな。
オールだけを狙っての射撃は標的が細い上に数が多い。
ここは撃沈にて敵の接近を阻止する。射撃再開せよ!」






辺境伯艦隊 旗艦カサドラ


先ほどの射撃にてマストとバリスタを失った船は、旗艦を追い越して行った僚艦の後を追う様に敵船に向かって突撃を続けていた。
「もっとオールを漕げ!何のためにゴーレムを漕手に使ってると思っているんだ!
魔力が尽きるまで酷使しろ!」

アルドが叫ぶ。
…忌々しい。
なんだあの敵船の攻撃は!
あの長距離で正確にバリスタを破壊してきた。
こうなれば、僚艦のマストとバリスタを犠牲に接近し、直接の魔法攻撃か斬込みしかあるまい。
隻数では此方が上である。それを利用しなければ、まずあの船には勝てない事は感情では認めたくはないが、本能で理解していた。
アルドは僚艦がマストとバリスタを破壊される姿を眺めつつ、その相対距離を詰めることに全てを賭けていた。
速く!速くと部下に怒号を飛ばしながら勝利に向かって掛け金である船団をBETするアルドであったが
その賭けの結果は無情なものだった。
全船のマストとバリスタを奪った敵船から、一番先頭を航行するガレー船に新たな攻撃が降り注ぐ。
それは先ほどまでのマスト等を狙った攻撃とは違い、直接船体を狙った物だった。
敵の弾がガレー船に吸い込まれる。
その瞬間、ガレー船は巨大な火球に包まれ爆炎がキノコのように立ち上る。

!!??

「船倉の魔力槍に当たったか!?」

一撃だった。
船の中でも魔力槍の保管庫は魔法で強化された堅牢なオーク材で作られるのが一般的であるが、それが只の一撃で貫かれた。

「これは… 勝てんな…」

アルドは決断する。
このままではやられる…
撤退しかない。
だが、マストをやられている以上、なにか策を打たなくては、アルドは通信用の水晶玉の所まで駆け戻ると、すぐさま叫ぶ。

「全船に連絡!怯むことなく突撃だ!」

各艦へ向けた突撃命令。
そのあまりに無謀すぎる命令に、それを聞いた部下が正気かとばかりに問いただす。

「突撃でございますか!?アルド様」

「奴らは囮として使う。だが、我らは生き残らねばならぬ。
敵の火力から察するに、船団を組んで撤退していたのでは、この船まで敵に補足される。
ならば、味方に距離を稼がせてその間に逃げるよりほかはあるまい。
撤退だ!僚船が進出次第、船を回頭させろ!
こんな所で死んでたまるか!」




僚艦のガレー船の一隻

旗艦を追い抜き敵船へ向かう戦隊の最後尾に、この遠征の準備をした太った騎士は乗っている。
彼は船上を見渡して激高していた。

「一体何なんだこの敵は!なぜ一方的に叩かれる!」

最初に沈めた敵とは違い、こちらの射程外から一方的に叩かれる。
既に船首のバリスタは奇怪な木製のオブジェに変わり、船体中央にあった大きな三角帆は、折れたマストごと海中に落ちていった
今や船団全てが似た姿に変わっていたが、旗艦は未だに戦意旺盛なのか突撃命令を下してくる。

「こんなところで死ぬなんて冗談じゃないぞ…」

そう呟きながら前方を見ると、3番艦に敵の射撃が集中している。
木片を水飛沫のように飛び散らせ、徐々にその船体が解体される光景が彼の目に映った。

これは無理だ。
敵に到達する前に全艦が沈められてしまう。
旗艦は、こんな状況でもなお突撃を命令してくるのか。
正気を疑うぞ

そんな事を思いながら、いつまでも来ない撤退の命令に彼は焦っていた。

「撤退命令は、まだ無いのか!」

そう叫びながら後続の旗艦に視線をやるが、その光景を見て、信じられないものを見たかのように、彼の開いた口は塞がらなくなった。
我々に突撃を命令した旗艦が、回頭既に終え逃走に入っている。

「旗艦が逃げるだと!?
我々はあの若造に逃走用の囮に使われたのか!」

この瞬間、彼の心にあった領主への忠誠心は露と消えた。
敵前逃亡。彼の主の行いはまさしくそれであった。
見方に殿を任せての撤退ならばまだ理解は出来る。
だが、状況が余りにも悪いと見て味方を囮に逃走に入るなど、彼は許すことは出来なかった。
仮にも聖戦を宣言しておいて、この無様な逃げっぷりは戦いを尊いものとといた神のお言葉にも反する。
逃走する領主の船を見ながら沸々と沸く怒りを抑えて彼は叫ぶ。

「回頭!全速離脱する!」

「ですが、命令は突撃ですが…」

副官の声に彼は、貴様は馬鹿かと怒鳴り散らす。

「あの若造は、我らを見捨てて逃げたのだぞ!
そんな命令に律儀に従えるか!
この無様な有様は教皇庁に報告して断罪されるべきものだぞ」

そんな彼の独断による回頭命令により船は大きく動きだす。
船内では生き残ることに必死な奴隷たちが、突撃の命令時よりも更に力を入れてオールを漕ぐ。
旗艦のように贅沢なゴーレムを積んではいないが、必死に逃げる時の奴隷たちは、ゴーレム以上にいい仕事をしている。
ドラムに合わせて統一した動きで波をかき分けるオールは、船をどんどん加速させた。
そのおかげで、4番艦が敵によって単なる流木の集まりに変えられた時には、彼我の距離を少々稼ぐことができた。

「このまま本国まで逃げるぞ」

安堵の混じった顔で彼は指示を出す。
いくら敵が魔法船といえど、この速度ならば逃げ切れるかと思い。再度確認のため敵艦の方を振り返った時。
彼の表情は絶望に染まった。
敵は船首に大きな白波を作り、想像をはるかに超える加速力で追撃してくる。
4番艦の犠牲で稼いだ距離は、見る見るうちに縮まっていく。

「敵は化物か…・」

武装、速力、すべての面で叶わない。
既に3隻がやられているが、我々は未だ敵に対して一発の命中弾も与えていない。
まさに海の魔物が迫ってくるようだった。
だが、彼の恐怖も長くは続かなかった。
彼が口惜しげに敵船への呪詛を呟いた次の瞬間
その魔物より飛来した30mm機関砲弾によって、彼は物言わぬ肉片と化えられていた。




その様子をアルドは船尾より歯を食いしばって見つめる。
最後の囮がやられた…
このままでは追い付かれる。

「もっと速力を出せ!死にたいのか!」

焦りの表情を浮かべたアルドが絶叫するが、すでに限界を超えてゴーレムを酷使している。
これ以上、速度の上がりようが無かった。

「せめて… せめてクラウスの船団と合流出来れば…」

輸送船の集まりであるクラウスの船団に何ができるかは疑問であったが、使えるものは何でも使う藁にもすがる思いであった。
だが、それもあと一歩のところで叶わない。
クラウスが向かった上陸地点が見えるまで、あと一歩と言う所まで来たとき、見張りが悲痛な絶叫をあげる。

「敵艦発砲!!」

見張員の声を聞きつつ、アルドは恐怖と現実を認めないという思いから、きつく唇をかむ。

辺境伯になったばかりだというのに、こんな所で終わるのか…
嫌だ!絶対に認めん!
死んでたまるか!!

「くそぉぉぉぉ!!!! 」

アルドの叫びがあたりに轟く。

だがそれは、それは30mm機関砲弾の着弾で吹き飛ぶ魔力槍の誘爆により、吹き飛ぶ船の轟音の前には余りに小さいものだった。



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