<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

SS投稿掲示板


[広告]


No.29737の一覧
[0] 試される大地【北海道→異世界】[石達](2012/11/29 01:19)
[54] 序章[石達](2012/11/29 01:05)
[55] 起業編1[石達](2012/11/29 01:06)
[56] 起業編2[石達](2012/11/29 01:07)
[57] 起業編3[石達](2012/11/29 01:08)
[58] 国後編1[石達](2012/11/29 01:08)
[59] 国後編2[石達](2012/11/29 01:09)
[60] 転移と難民集団就職編1[石達](2012/11/29 01:09)
[61] 転移と難民集団就職編2[石達](2012/11/29 01:10)
[62] 礼文騒乱編1[石達](2012/11/29 01:10)
[63] 礼文騒乱編2[石達](2012/11/29 01:11)
[64] 礼文騒乱編3[石達](2012/11/29 01:11)
[65] 礼文騒乱編4[石達](2012/11/29 01:12)
[66] 戦後処理と接触編1[石達](2012/11/29 01:12)
[67] 戦後処理と接触編2[石達](2012/11/29 01:13)
[68] 嵐の前編[石達](2012/11/29 01:14)
[69] 北海道西方沖航空戦[石達](2012/11/29 01:14)
[70] 大陸と調査隊編1[石達](2012/11/29 01:15)
[71] 大陸と調査隊編2[石達](2012/11/29 01:16)
[72] 大陸と調査隊編3[石達](2012/11/29 01:16)
[73] 魔法と盗賊編1[石達](2012/11/29 01:17)
[74] 魔法と盗賊編2[石達](2012/12/08 01:24)
[75] 決戦[石達](2012/12/08 01:20)
[76] 盗賊と人攫い編1[石達](2012/12/31 22:47)
[77] 盗賊と人攫い編2[石達](2013/01/19 21:24)
[78] 盗賊と人攫い編3[石達](2013/01/19 21:23)
[79] 道内情勢(霧の後)1[石達](2013/02/23 15:45)
[80] 道内情勢(霧の後)2[石達](2013/02/23 15:45)
[81] 外伝1 北海道航空産業の産声[石達](2013/02/23 15:46)
[82] 東方世界1[石達](2013/03/21 07:17)
[83] 東方世界2[石達](2013/06/21 07:25)
[84] 東方世界3[石達](2013/06/21 07:26)
[85] 幕間 蠢動する国後[石達](2013/06/21 07:26)
[86] 東方世界4[石達](2013/06/21 07:27)
[87] 東方世界5[石達](2013/06/21 07:27)
[88] 東方世界6[石達](2013/06/21 07:28)
[89] 東方世界7[石達](2013/06/21 07:28)
[90] 世界観設定[石達](2013/06/23 16:49)
[91] 人物設定[石達](2013/06/23 16:57)
[92] 東方世界8[石達](2013/07/15 01:51)
[94] 帝都ティフリス1[石達](2013/08/09 02:02)
[95] 帝都ティフリス2[石達](2013/08/12 00:21)
[96] 帝都大脱走1[石達](2013/09/23 00:16)
[97] 帝都大脱走2[石達](2013/09/22 22:47)
[100] 帝都大脱走3[石達](2014/02/02 03:03)
[101] 対エルフ1[石達](2014/02/02 03:03)
[102] 対エルフ2[石達](2014/02/05 22:45)
[103] 対エルフ3[石達](2014/02/05 22:45)
[104] 対エルフ4[石達](2014/02/05 22:46)
[105] カノエの素性1[石達](2014/02/05 22:46)
[106] カノエの素性2[石達](2014/02/09 13:13)
[107] 別れ、そして託されたモノ1[石達](2014/02/09 13:14)
[108] 別れ、そして託されたモノ2[石達](2014/02/09 13:16)
[109] 決意[石達](2014/02/09 13:42)
[110] 新しい風[石達](2014/04/13 10:41)
[111] 交流拡大、浸透と変化1[石達](2014/04/13 10:41)
[112] 交流拡大、浸透と変化2[石達](2014/06/04 23:46)
[113] 交流拡大、浸透と変化3[石達](2014/06/04 23:47)
[114] 交流拡大、浸透と変化4[石達](2014/06/15 23:55)
[115] 交流拡大、浸透と変化5[石達](2014/06/15 23:55)
[116] 平田、大陸へ行く1[石達](2014/08/16 04:02)
[117] 平田、大陸へ行く2[石達](2014/08/16 04:02)
[118] 対外進出1[石達](2014/09/14 08:19)
[119] 対外進出2[石達](2014/08/16 04:04)
[120] 対外進出3[石達](2014/10/13 01:58)
[121] 回天1[石達](2014/10/13 01:59)
[122] 回天2[石達](2014/10/14 20:24)
[123] 回天3[石達](2015/01/18 08:20)
[124] 回天4[石達](2015/01/18 08:24)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[29737] 起業編2
Name: 石達◆48473f24 ID:a6acac8b 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/11/29 01:07
一夜明け、拓也はパソコンの前で頭を抱えていた。
何やら悩んでいると思いきや、その表情は少しにやけている

「こりゃスゲぇわ…」

拓也は画面を見ながら一人呟いた。
事の発端は昨日の夜に遡る。
家に帰ってきた拓也は、その日の出来事を家族に話すと、さっさと寝てしまいたい衝動に駆られて布団に向かう。
布団では、拓也が家族に説明している間に既に布団に移動していた嫁と子供が寝息を立てている。
拓也も一緒に寝ようかと布団に潜り込むが、寝てしまう前にある事を思い出した拓也は、布団に寝そべりつつポケットから携帯を取り出した。
日課のネット小説の更新チェック。
全く金のかからない趣味として、ネット小説を漁るのは拓也にとって非常に魅力的な趣味だった。
しかし、北海道に起きた異変を考えると何時までも読めるかは分らない。
もし、内地との通信も遮断されれば、追いかけていた全ての作品の続きも永遠に読めなくなってしまうかもしれない。
そんな不安と寂しさを胸に、拓也は携帯のボタンを押すとあることに気がついた。

「あれ?壁紙変わってる?それに、パスが通らない…」

拓也が携帯の画面を覗くと、そこに表示される画面の壁紙は自分の設定したものと違っていた。
何よりロックのパスワードが通らない。

「あれ?これって俺のじゃない…」

不審に思って布団から起き上がると、その視線の先にはある筈がないものがあった。
充電コードに刺さったまま寂しく忘れ去られている拓也の持っている携帯と同型の携帯。
拓也は、コードに刺さったままのそれと自分の手元にあるソレを見比べて顔を青くする。

「やっべ、船から持ってきちゃった…」

恐らくは船内で死んでいた誰かのであろう携帯。
拾った場所的には死んでいた武器商人のものである可能性が高いのだが、それを持ってきてしまった。

「どうしよっかなぁ。警察に届けるとややこしそうだし…」

いらぬ面倒事を持って帰ってきてしまったと拓也は頭を抱えるが、それとは別にある一つの思いも頭によぎる。
エレナに呼ばれ最後までパソコンは漁れなかったが、もしかしたらこの携帯の中にも秘密の情報があるのでは?
まるで映画の中のようであった非日常の情報の数々に、船内ではワクワクが止まらなかった事を思い出し、拓也はしばし考える。

「まぁ、警察に届ける前に、ちょっとだけ見せてもらうくらい良いよね?」

好奇心の誘惑に負けた拓也は、携帯の裏蓋を開け、内部に差し込まれていたSDカードを取り出す。
携帯自身にロックが掛けられていても、SDカード単体であればその中身が見れるはず。
拓也は嫁と子供を起こさないように他の部屋に移動すると、すぐさま実家まで持ってきていた自分のネットブックを立ち上げて、カードを挿入する。
そして、その結果は驚くべきものだった。

「ここに隠してあったよ… アーカイブ。それに、図面??」

拓也が見つけたのは、船内で探しきれなかったメールのアーカイブと謎の図面ファイル。

「おぉ 株価の不正操作のターゲットから操作の予定株価、それに仲間の名前まで出てくる出てくる…」

拓也は先ほどまでの眠気も忘れ、目を輝かせながらパソコンに向かって中身を漁る。
時間も忘れて大容量のSDカードの中身を一通り目を通した時には、黄色い太陽とご対面という有様だった。
ドタバタの後で徹夜は非常につらかったが、それでも得た情報は非常にエキサイティングだった。
情報を整理してみると、死んでいた武器商人の名はユーリ・オルロフ。世界を股に駆けるユダヤ人商人だった。
彼はアメリカ西海岸で短機関銃と数種類の銃器の図面を仕入れ、北鮮のマフィアと密造銃業者に売りに行く途中だったらしい。
それ自体はいつもの彼の商売だったが、今回はそれ以外の商売にも一枚かんでいた。
粉飾決算をしている東欧の軍需企業相手に相場操縦を仕掛ける不正取引。
ただ告発をするだけでも株価は暴落するだろうが、彼らは不当に株価を吊り上げた上で空売りを仕掛けようとしていた。
実際の株取引は彼の兄弟が行っているようなのだが、この件には彼もあることに協力していた。
粉飾の証拠を彼らに売ってロシアのマダガンまで逃げてきた社員の逃走支援と、証拠の受け取り。
そしてその目論見は非常にスムーズに進んでいるらしい。
既に社員の確保と証拠のデータは送信済み、後は粉飾の情報を各方面にリークするだけという状況であった。
一つ誤算があったとすれば、社員と証拠データを積んだ船が運悪く膜に触れ、乗組員が全員死亡し漂流した後に北海道に流れ着いたということだろう。
それに今となっては膜も変異し物理的な越境は不可能となったことで、船の状況すら謎の膜が外の世界から隠してしまう。
だが、既に準備も完了しているとなれば、予定通りに事は進むだろう。
そんなSDカードに残っていた情報は、ワクワクの域を飛び越え、非常に刺激的なものだった。
拓也はそれらの情報を得ると、一晩かけて考えぬく。
これらの情報を生かすべきかどうするか…
株価操縦の件については拓也には荷が重過ぎるとしても、SDカードに入っていたもう一つのデータが拓也を大いに悩ませる。
密造業者に売るためだろう、SDカード内にはいくつかの銃器の図面が入っていた。
カラシニコフの各種型から、MP7やMG4といったドイツ製短・軽機関銃等といったものまで様々だった。
データ自体はCATIA等の3D図面ではなく2D CADの形であったため、フリーの閲覧ソフトを使えば見ることが出来る。
拓也はマウスを弄りながらそれらの図面を眺めていると、スーっと閉めていた引き戸が開けられ、そこに嫁が立っていた。

「いないと思ったら… 朝っぱらからパソコンしてるの?」

エレナが眉を顰めて拓也に聞く。

「いや、朝っぱらからというか、昨日の晩からというか…」

拓也は若干徹夜ハイになっている事もあってか、ハハハと笑いながらエレナに答える。

「もぅ、そんな一晩中何見てたのよ? …ん、何これ?設計図?」

エレナが呆れる様にしてモニターを覗き込み、そこに映る銃の子部品図面を見ながら首をかしげる。
まぁ子部品を見ただけで銃だとわかる人間は少ない。エレナもそれが何かは分らず首をかしげる。

「これは… 鉄砲の図面だよ。他にも一式が何種類かある」

鉄砲という言葉が拓也の口から出た途端、エレナの表情が怪訝なものになる。
なぜそんな物を持っているのか?そんな言葉が表情からも読み取れた。

「なんで、あなたがそんなの持ってるの?」

「船でデータの入った携帯拾った」

「…えぇ!?」

エレナの問いに密輸船から拾ってきたと淡々と答える拓也に、エレナは一瞬固まりつつも盛大に驚いた。

「駄目よ。何があるか分らないから、さっさと警察に返してきてよ。
そもそも、何でそんなもの盗んできてるのよ馬鹿!」

「いや、拾ってきたこと自体は偶然だったんだ。
同じ携帯が落ちてたから、てっきり自分が落としたのかと思って拾ってきたんだよ。
そんで、昨日の晩に自分のじゃないって気づいて中身の確認をしてたんだ」

拓也は不可抗力だったとエレナに言い訳し、プンスカと怒るエレナを宥める。

「うぅ… わかったわ。拾ってきたのは偶然だったとして…
でも、いつまでもそんなの持ってないで警察に渡してきてよ」

拓也の説明を聞いてその怒りもトーンダウンしてきたエレナは、拓也に早く返してくるように言うが
それに対する拓也の返事は短い一言だった。

「断る」

「は?」

拓也の予想外の一言に、エレナが目をぱちくりする。

「なんでよ!?さっさと戻してきてよ!」

「まぁ ちょっと落ち着いて聞いてくれ。
これは一晩考えた末の結論なんだけどね。
北海道に隔離され、会社のある名古屋に戻れなくなってしまった俺は無職になってしまう。
さて、これからどうしよう?」

拓也はエレナの肩に手を当てて、どうどうと抑えながらゆっくり話す。
それに対してエレナも押さえつけられた暴れ馬のように、だんだん冷静さを取り戻すと拓也の話にも耳を傾けだした。

「そんなのハロワにでも行けばいいでしょ?駄目ならあなたの実家の手伝いでもしてよ」

「んん、ハ、ハロワね… まぁ そういう方向性も無しではないけど、この図面類を見ながら一つの事を思いついたんだ」

「何よ」

「武器工場をつくろう」

「武器工場!?」

エレナは拓也の突拍子も無い提案に声を上ずらせて驚く

「あんたそんなのどうやって、っていうか大丈夫なの?
まぁ 確かに設計図の一部はあるけど、許可とか色々いるんじゃないの?」

「まぁ 平時に武器工場なんてやろうと思っても無理だね。普通に捕まる」

「じゃぁ 一体どうやって?」

「エレナ、今、北海道の状況は普通じゃない。
そして、内地から隔離された状況が改善されるかは誰もわからない上、銃の製造会社は北海道には無い。
これって、チャンスじゃない?」

「チャンスって…」

「例え、世界が北海道だけになっても銃はいるよ。
警察から自衛隊…まぁ 北海道だけの世界で自衛隊が銃を使うようになったら、内乱みたいな事態だと思うけどさ。
それに害獣のエゾシカを狩るにも猟銃がいるよね」

「まぁ そうだけど…」

「ここは一つ、混乱のドサクサに会社を立ち上げ、北海道の市場を独占してやろうと思う。
まぁ仮に、異変が元に戻った場合は、猟銃メーカーにでもなって細々とやろうと思うけどさ。
エレナはこの提案、どう思う?」

「どうって言われても…」

拓也の突然すぎる提案にエレナは言葉に困る。
確かに名古屋に帰れない以上、こっちで働き口を探さねばならないとは思っていたが、それがこんな事になるとは思っても見なかった。

「仮に会社を立ち上げるとして、お金はどうするの?
私達そんなに貯金もないじゃない。むしろ名古屋のマンションのローンがあるのに」

エレナの疑問は至極全うだった。
ただの会社ではない工場を作るのだ。
設備投資は並々ならぬ金額がいるはずである。
今の二人の貯金額はどう考えても十分とはお世辞にも思えなかった。

「あぁ それについては不動産屋にマンション売却のメール送った」

「売却?」

エレナが信じられないという顔で聞き返す。

「うん、だって、もう帰れないなら要らないでしょ?
あと、家財道具はこっちに送る手段が本当に無いなら売却して処分してもらう事にした」

「まぁ 確かに帰れないなら持っていても仕方ないけど、それにしたって私に一言あってもいいじゃない?」

「いやぁ、愛着があるから売りたくないとかゴネられて、売る機会を逃したら丸まる損だなぁと思ってさ
それならいっそ既に決めたよって言うほうが決心つくかなって思って」

「うぅぅ…」

どこか釈然といない表情でエレナは拓也を睨むが、その拓也の言にも一理あると思ったエレナは何やら丸め込まれた?と思いつつも抗議の声を閉ざす。

「まぁ それを種銭として色々揃えつつ、銀行から金を借りようと思う。
ところでエレナ。実家のあるバルナウルって大規模な兵器工場があったよね?」

「え?まぁ… 鉄砲の工場があったような気がするけど…」

「あるんだよ。
既にネットで取扱商品まで調べた。ちゃんとISO認証も取ってるところだったよ。
そこでさ。どうにか治具図面や作業手順書を手に入れれない?」

「治具?作業手順?なにそれ」

拓也の言う聞きなれない言葉にエレナが首を捻る。

「治具ってのはモノを作る時に使う道具で、例えばものに穴を開けるときに一々穴位置を測っていたら面倒でしょ?
そんな時に穴位置を決める為の道具を予め作っておいて、後は毎回穴位置を測らなくても治具にセットするだけで穴が開けられるようにするんだ。
言うなれば、モノを作るサポートをする道具だよ。
作業手順書は簡単に言うと取説だね。
製品の作り方が書かれている書類だよ。
あ、それと、せっかくゲットして貰うんだからQC工程表と検査手順書もお願いね」

北海道に封鎖される前、一応拓也は名古屋で製造業で品質保証に従事していた。
拓也は製造に必要な書類は何かと考え、最低限必要そうな書類を思い浮かべる。
適当にえいやぁでモノを作る会社と違いバルナウルの工場は国際認証も取った大工場である。
拓也は当然、それらの書類は作られているだろうと予想しエレナに注文した。

「…うーん。よく分んないけど、それって簡単に手に入りそうじゃないわよね?」

エレナが不信感の積もった視線で拓也を見つめる。

「当たり前だよ。何処の馬の骨とも分らない奴にハイと見せる会社は無いよ」

「じゃぁ どうするの?」

「うむ。それにはマンションを売ったマネーを使う。
まぁ ローン差し引いても、だいたい売却額は1300万くらいになるから、そのうちの500万くらいをコスチャに託す」

「コスチャに?」

思いもしなかった名前が出てきたことにエレナは困惑する。
コスチャことコンスタンティン君はエレナの実の弟にして拓也のネトゲ仲間。
エレナは弟も巻き込むの?と信じられないような表情で訴える。

「うん。実はこれも昨晩それとなく聞いてみたら一発okだったよ。
昨晩も何時もの如くディ○ブロⅤにログインしてたから、500万で書類集めてくれないってお願いしたら即決だったよ。
集める方法も金に困った奴を探していくらか渡せば一発だろうって言ってたね。
まぁ 図面の管理は厳重そうだけど、そこらへんの書類なら普通はそこまで管理は厳重じゃないからね。
多分、奴は仕事をこなしてくれるよ」

既に根回しは済んでるぜとドヤ顔で語る拓也にエレナも最初は呆れたといった様子であったが
ふーむ、と落ち着いて考えてみるとエレナは拓也に対して呆れを通り越して怒りを感じてきた。

「なんで、そんな犯罪に加担するようなことに人の弟を勝手に使ってるの!?」

エレナが静かな怒気を含めて拓也に言う。

「え? いや、何というか、駄目元で話てみたら予想以上に向こうもノリノリだったというか…」

「これから人の実家を使うときには私にも一言言ってよね!!」

ギロリと睨むエレナ。
そのドギツイ視線に拓也も気圧されて目を泳がす。

「あぁ、ハイ。スイマセン…」

エレナもタジタジとなった拓也の姿を見て満足したのか、一つ大きな溜息を吐くと両手を腰に当てて諦めたように言う。

「ふぅ… まぁいいわ
あんた時々暴走するけど、私が右も左も知らないこの国に来た時からずっと手をひっぱて来てくれたじゃない。
今までも色々と馬鹿なこともして失敗もあったけど、最終的には、全部あんたの言うとおりにしてきて大丈夫だったんだから、これからも信頼してるわ。
わたしは、鉄砲の作り方なんてサッパリわからないし、あなたの考えが理解できないこともあると思う。
でもね、わたしはあなたを信じてるから。
あなたが道を示してくれれば、私も全力でお手伝いするわ。」

嫁の意外な言葉にドキドキする。
おそらく、顔も真っ赤だろう。
だがしかし、嫁にここまで言わせた以上、最早失敗は出来なくなった事も事実であり
拓也は輝ける家族の未来のために、決意を新たにするのだった。



「…一つ思ったんだけど」

「ん?」

「武器製造って許可とかどうするの?」

エレナの率直な疑問。
なにせ製造を予定しているのは銃器であり、一般工業製品とは違う。
当然それなりの許可なりが必要となるだろう。
だが、拓也はその言葉を予想してたかのようにニヤリと笑う。

「まぁ そこらへんは持てるコネを全部使うよ。任せとけ!」

拓也はそう言ってフフフーンと自信ありげに笑うのであった。






異変から7日後

在札幌ロシア領事館


その中の特別に用意された一室にニコライ・ステパーシンはいた。
というのも、膜が変異してから本国との衛星回線が使用不能になり、外部との連絡はまだ使用可能な北海道-本州間の海底ケーブル経由のみとなっていたからだ。
択捉にいたのでは、本国との連絡は取れない。
その為、札幌にあるロシア領事館に臨時の対策室を移していた。
そんな彼に今日は来客があった。


武田勤と鈴谷宗明。
会談の内容は「完全に本国と切り離された場合の想定」
これについては、答えは決まっていた。
なにせ国後と択捉には合わせて5万人しか人口がなく、石油はあるが他の産業は水産加工業と観光業だ
これでは、今ある資材が底をついたら中世に戻ってしまう。
そんな危機的状況下では北海道と共同歩調を取るより仕方ない。
だが、問題はその度合いだ
今日は、その事について三者協議に入っていた。

「北海道と南千島側の双方が本国より切り離されるのであるから、別個の国家として協力するよりいっそ統一国家になるべきでは?」

会議のしょっぱなから最終的な結論はこれしかないと武田が言う。
おそらく、最終的にはそれが一番なのでろうが、現状ではそれに同意できない理由があった。
そのため、武田の意見にステパーシンが反論する。

「それでは本国からの独立となってしまい、本国からの支援が受けられない。
仮にもし膜が消えすべてが元通りになった場合、私は間違いなく死刑台を登るだろう。」

そうなのだ、仮に最終的に何も起こらなかった場合、本国から分離独立を求める運動をしてると捉えられてしまい、チェチェンと本質的には同じになってしまう。
そうなった時の予想は簡単だ。現大統領が私を殺しに来るだろう。
かつてチェチェンの武装組織に対し「たとえ便所に隠れていても、息の根を止めてやる」と言い放った大統領だ。
もしかしたら、ショットガン片手に自ら殺しに来るかもしれない。

「では、非公式の準備委員会を設立し、双方の本国に悟られぬよう全ては水面下で進めるとしようか」

ステパーシンの回答も予測していたという態度で、鈴谷が自分の顎を触りながら言う。
だがこれはステパーシンにとっても同じである。
協議をする上での暗黙の了解であった前提条件を双方が確認したという意味合いに過ぎない。
双方がこれについて了解していると確認すると、ステパーシンは話を続ける。

「そうだな。
とりあえずは水面下で協議を進めよう。
中央には感づかれてはいけないので参加者は最小限に留める必要があるが…」

ロシア側にとって、これが中央にバレれば即ご破算になるのだ慎重に事を進める必要がある。
そのための人材の選定は細心の注意が必要だ。

「まぁ準備委員会の詳細については後程詰めよう。
だが、情報漏洩についてはご心配なく、国内で泳がせておいたスパイはこの異変を機に拘束済みだ。
道庁内においても厳しい情報統制が敷かれたし、記録上、我々は貴方のオフィスには来ていない。
まぁ 不安があるようでしたら、そちらの浸透工作員のリストでも頂ければ確実性は高まりますが…」

武田が情報統制に余程の自信があるのか、ニヤリと笑いながらステパーシンに言う。
だが、ステパーシンが苦い顔をすると思っていた武田は、予想に反してステパーシンが笑い出したことに戸惑う。

「はっはっは。あぁ その件は知ってます。対外情報庁の職員の一部が捕まったのでしょう?
私もね、過去に連邦保安庁の長官など色々な仕事をさせてもらった事から、色々な耳がありましてね。
彼らの拘束は問題ない。本国の命令のみを忠実に守っている職員だ。異変の終了までは休暇という事にしときましょう。
あぁ あと、リストについては駄目ですね。何があろうと渡すわけには行かない。
仮に渡した場合、明日の朝までに私は変死してるだろうから」

死ぬならば青酸ガス等よりも銃でポックリ逝きたい等とステパーシンは笑うが、相手をしている武田と鈴谷は笑えなかった。
ドヤ顔で工作員は拘束し、こちらが優位な立場にいると暗に示したかったのだが、どうやら完全ではなかったらしい。
彼の口ぶりからすると、ステパーシンの息のかかった工作員がまだ道内にいて、活動していと言っている様なものだ。
対外情報活動は、NKVDやKGBの頃より伝統のあるロシア側のほうが何枚も上手であった。
ステパーシンを揺さぶるはずが、逆にしてやられてしまった苦笑いを浮かべる武田だが、いつまでも相手のペースに呑まれる訳には行かない。
今この場で確認する必要のある事があるのだ。

「ま、まぁ では情報の管理についてはそちら側からの助言も取り入れて進めることにしよう。
話を戻すが、今回、我々が協議を持つにあたる大前提として確認したい事がある。
それは最悪の場合、両者が統合する意思があるかということだ。」

武田が真摯にステパーシンを見つめ、それに対してステパーシンは笑って答えた。

「本国からの支援が無くなった後、それ以外に道はあるのかね?」

もったいぶったように言うその答えに、武田が満面の笑みでステパーシンの手を握った。

「では決まりだな!これ以後の話は準備委員会でするとしよう。委員会は私が長として取りまとめる。
鈴谷君とステパーシン氏はそれぞれロシア側および日ロ間の窓口を取りまとめてくれ。道内は私が委員長となる以上、責任を持って事に当たらせてもらう」

かつての政権与党幹事長の経験もある武田が、道内は俺が纏めると息巻いて見せた。

「いいでしょう。では後程、道庁の方に実務者をお送りしますので、詳細はそちらでお願いします」

ステパーシンの返事により、話は纏まる。
今後の大方針は決まった。
あとは担当が詰めるので現段階での自分たちの仕事はここまでだ。
会談が終わると、鈴谷は急ぎ道庁に戻るといってステパーシンの部屋を後にする。
統合後について道庁の中で水面下の作業部会を開くのだろう。
実に精力的に仕事をしている。
下野していた時期もあっただけに、日ロ間の交渉に参加できることを非常に喜んでいるのだろうか。
一方、鈴谷が帰った後、武田はまだ領事館にいた。

「私事で済まんが、ちょっとあって欲しい人物がいるんだ。」

「あって欲しい人物?」

この状況で日本側から私的に接触してくるとは何事だろうか、それについて武田が苦笑いを浮かべながら説明する。

「実は、私の選挙区の後援会長の息子なんだが、南千島と北海道を結ぶビジネスについて是非とも話たいといってるんだよ。
内容はともかく、私の顔を立てる意味でも一度会ってくれないか?」

ステパーシンは理解した。
なるほど、民主主義の宿命というやつだな。
いくら、国政で勢いがあっても地元を蔑にするようなら選挙には勝てない。
比例で勝つという手もあるが、小選挙区で勝てるならそれに越したことはない。

「いいでしょう。それで何時ですか?」

「いや。じつは外で待っているんだ。
それに今日、私がココを訪れた目的は、秘密協議の為ではなく、支持者のお願いによってロシア側との間を取り持つためとなっている。
まぁ そういうことで一つ頼むよ」

武田は、すまんねと苦笑いを浮かべる。
だが、お願いされた方としてステパーシンは考える。
それほどにまで私に会いたいという人物はどういった人物であろうか。

「なるほど… まぁ 会談が予想以上にスムーズに終わったのでスケジュールには余裕がありますから別に構わないでしょう。
その方に来てもらえるように言ってもらえますか?」

「恩に着るよ」




領事館の廊下



うっは…
ドキドキする。

領事館の職員に先導され、建物のなかを移動中、拓也の緊張はMAXとなっていた。

親の脛を齧りまくってコネは使った。
先日、コスチャから作業手順書の一部を入手した。
(流石に一部だろうとここまで早く手に入るとは拓也も予想していなかったが)
それに数日かけてステパーシン氏の身辺も調べた。
ハッタリ用には大丈夫だろう。
多分…
でも、根がチキン野郎なもんだから、VIPと会うとなると緊張する…

拓也は、強張った表情のまま廊下を歩いている途中、そんな事を考えていた。

「あんた。大丈夫なの?」

拓也の今まで見たことが無いような緊張した面持ちを見て、通訳として連れてきたエレナが心配している。
おそらく死にそうなほど青い顔でもしているのであろう。

「大丈夫。大丈夫。こんくらい楽勝だよ?」

無理にでも頑張らないとね。一世一代のハッタリの張時だからね。
拓也はそうエレナに息巻いて見せるが、その挙動は明らかにぎこちない。
そして建屋内を歩き回り、案内された一室に入ると、デスク越しにステパーシン氏が此方を向いて座っていた。

「ようこそ。石津さん。お待ちしておりましたよ。」

入室してきた拓也を確認すると、ステパーシン氏は立ち上がりこちらに近づいてきた。
にこやかに手を差し出すステパーシンに拓也も握手で返す。

「ありがとうございます。Mr.ステパーシン。」

「いえいえ、なんでも両島間のビジネスがおありとか。さぁ どうぞ腰かけてください」

ステパーシン氏に勧められソファーに座ると、平静を装って鼻で静かに深呼吸すると
エレナの通訳を挟み会談が始まった。

「いやー それにしても、今回の騒動は大変ですね。どうですか、そちら側の様子は?」

いきなり本題に入る前に取りあえずは普通の話でもと、拓也はステパーシンに話かける。

「こちらとおなじですよ。ですが、北海道側と違い、本国との直接の連絡が遮断されたために内心は穏やかじゃないですがね。
でも、軍が警戒にあたってますので静かなもんですよ。」

「ロシア軍が警備を?」

そういえば、海外では自然災害等が発生すると、よく暴動が起きるとかつてニュースで見た記憶がある
戒厳令でも出しているのだろうか?

「なにがおきるかわかりませんからね」

ただの万が一の備えですよと笑いながらステパーシンは語る。
ステパーシンにとっては既に報道もされている何でもない事だったので、さらりと話ていたが、拓也の目の色は変わっていた。
軍の話題が出た。
会談が始まって殆ど時間がたっていないのに本題を切り出すのは流石にどうかと思ったが、会談の残り時間には限りがある。
ここは、単刀直入に本題を切り出そう。

「ところで、ロシア軍の方々は本国と切り離され、補給はどうなっておりますか?」

急に拓也が軍の実情について質問してきたため、ステパーシンの顔色が変わった。
まぁ 軍の問題に切り込んでいったのだから当然か。

「詳細は機密につきお教えできませんが、本土と切り離されたということで大体は察してください。」

なかなか頭の痛い問題ですな。と、ステパーシンは苦笑いを浮かべた。


…やっぱり。
国後にも択捉にも軍需工場なんてないから、今ある物資が底をついたら終わりだろう。
拓也がそんな事を考えていると、話題を変えようとステパーシンの方から切り出してきた。

「それよりも、新しいビジネスの話を伺いたいのですが?」

拓也は内心でニヤリとすると、テーブル上に一枚の資料を差し出した。

「!? これは?」

ステパーシンは驚く。その驚き様をみて拓也は説明を始めた。

「AK74の技術資料です。」

そこにはAK74の作業手順書があった。
これは拓也自身もコスチャの仕事の速さには驚く。
酒と女でこさえた借金で首が回らなくなったアホを見つけたら余裕だったとコスチャは言っていたが
まさか数日で、一部であるが本当に作業手順書の一部の入手に成功してしまうとは…

「これをどこで入手しましたか?」

さすがに警戒するステパーシン。
まぁ 当然である。自国の兵器の技術資料を他国の人間が持ってきたのだから。

「それについては回答できかねますが、これが私共の提案するビジネスです。
単刀直入に申しますと、国後に製造工場を建てる認可を特別にいただきたい。
それに、もし本国からの支援が完全に途絶えても、これによってロシア軍も補給の問題が解決するのでは?
もちろん弾薬についても製造を予定してます。」

ステパーシンが予想外の提案をされ一瞬驚きの表情を見せたが、その重要性を理解したのか食いついてくる。

「なるほど、それはこちら側にとっては願ってもないですな。しかし、なぜ国後で?北海道側ではいけないのですかな?」

こちら側に利があるが、いまいち怪しいヤポンスキーの話だと思ってるのだろう。
疑いの視線の中、拓也は答える。

「ご存じのとおり、日本側は厳しい銃規制があり、なによりも北海道は左派の平和運動が盛んな地でしてね。
死の商人の真似事をしたら、即座にデモ隊が会社を潰しにくるでしょう。」

少々誇張されていたが、左派の市民団体に知れたら確実に似たようなことが起きるだろう。
なにせ北海道の"赤い大地"という異名は伊達ではない

「なるほど、それで国後にですか。」

ステパーシンも納得がいったようだ。
ソ連時代から日本の社会党などに資金を渡して反戦運動を煽っていたのは他でもない彼らである。
彼としても日本の特殊事情については良く理解していた。

「はい。ただし、問題が一つありまして、妻はロシア人ですが、何分ロシアでの商売は初めてでお国事情には明るくありません。
そこで提案なのですが、これから設立する新会社に相応のポストを用意しますので、もし、北海道に滞在中のご子息がよろしければ
役員として我が社に来ていただきたいのですが、どうでしょうか?」

ステパーシン氏が目を丸くする。
許可を求めてくるのに袖の下を用意してくることは想像できた。
だが、息子を役員として迎え入れる?
たしかに、不運にもこちらに来ていた息子共々膜に隔離されてしまったが、しかし何故、息子の事を知っている?
どこまでこちらの事を知っているんだ?

その彼の疑問はもっともだった。
彼の息子もこちら側に隔離されている。
そして、彼はいい年をしているのだが、定職についていない。
かつてはロシア国内の大企業にコネで何度か入社しているようだったが長続きしなかった。
そして、それにまつわる詳細な情報は、あるところからエレナが入手してきたのだった。

某世界的SNS

日本と違い、海外では実名登録が主であり、ネットで調べたステパーシン氏の家族を検索してみると、一発で出た。
そして、仕事が長続きしない理由も日記に全部怨念と共に記されており、
親の脛を齧りに齧って豪華客船で太平洋クルーズに出たところ、小樽に寄港したところで運悪くこの騒動に巻き込まれていたことも書いてあった。
なんでも、このステパーシン氏の息子アレクサンドル・ステパーシンは
一言でいうならばオタクであった。
仕事が長続きしない理由も、会社でアニメ談義と布教を繰り返していたら女性社員に白い目で見られ、鬱になり辞めたそうだ。
北海道に隔離されるきっかけとなったクルーズも、小樽寄港時にもらえる"豪華客船で行く太平洋クルーズver雪ミク"のフィギュア目当てだと
日記に記されたのを見たときは、フィギュア目当てで太平洋クルーズか…とエレナと夫婦そろって呆れ果てた。
しかし、頭は良いようで機械工学の博士号をもっているらしい。
それらを嫁から聞いた瞬間、拓也は決めた。

「彼を取ろう」

向こうで白い目で見られていたとしても、もう日本じゃアニオタは普通に社会に浸透している。
相手を無視して自分の好きなアニメの布教する度を越したのオタも前の会社でも普通にいたから
その対応法はすでに習得済み。
なにより拓也自身も軍オタを隠れ蓑にした隠れアニオタであるので問題はない。
むしろ価値観は共有できる…ハズ。
それに工学博士号を持っているなら頭は良い筈でこれは意外な掘り出し物かもしれないと拓也は思った。
そして、この決断には他にも理由があった。


サハリン2事件。
日本と欧米の石油メジャーがサハリンで開発したガス田。
ロシア側は開発に対して資金は出していなかったがある一つの不満があった。
自国の資源開発なのに利益の6%しか入ってこないのだ、そして資源は外資にもっていかれる。
この件に対する対応は実にロシア的であった。
環境問題をちらつかせ開発を中止させると、最終的に国営ガス起業のガスブランが採掘会社の株式のうち50%+1株を強引に取っていったのだ。
つまり、ロシアで商売するにはロシア人の利益も考えないと痛い目を見るということである。

アレキサンドルを取るメインの理由がこれだった。
ロシア側トップの親族を縁故採用。
まぁ、まだ事業がはじまってないので資金の余裕がない拓也らにとっては、袖の下を渡すほど余裕が無いので、ポストを与えて将来に期待してもらうしかないというのが実情なのだが…
だが、ステパーシンは予想以上に食いついてきた。

「…良いでしょう。認可を与えましょう。」

「え?」

更にプレゼンに入ろうとしていた拓也は、予想外の認可の速さに驚いた。
さすがに、縁故採用だけでは弱いと思っていたからだ。

「ですから、認可が欲しいのでしょう? いいでしょう。書面は後日郵送します。
ですが、息子には相応のポストをお願いしますよ。」

にこやかにステパーシン氏は言う。
実をいうと、彼も息子の扱いに困っていた。
三十路目前なのに、いまだに定職につかずブラブラしている。それもヤポンスキーのアニメが原因で…
せっかくコネで入れた企業も辞めてしまう始末。
そこにヤポンスキーの会社から息子をくれと言ってきたのだ。
まだ、会社を立ち上げていないというが北海道にもクリルにも軍需工場はない
適切な支援をすれば急成長するだろうという思惑があったのだ。

「「ありがとうございます!」」

ステパーシンの言葉を聞いた拓也とエレナは、座っていたソファーから飛び上がって喜んだ。
まさか、ここまでうまくいくとは思ってもみなかった。
最悪、借金してでも袖の下を用意しなければならないかとも思っていた。
ひとしきり喜ぶと拓也は話を続ける。

「認可を頂きありがとうございます。そして、図々しい話ですが、もう一つお願いがあるのです」

「なんですか?」

拓也達は、すまなそうな笑顔を浮かべてお願いに入る。

「現在、バルナウル市で妻の弟が技術資料を集めているのですが、それに便宜を図っていただけないでしょうか?
正直なところ、我々もいくつかの図面と技術資料は持っていますが、残された時間で全てを集めるのは難しい。
隔離の時間までに必要な書類を集めきることが出来れば、我々の提供できる製品の幅も広がり、軍の補給にも一役買うことが出来ると思うのです」

ステパーシンは拓也の話を聞くと軽く頷いて話を進める。

「そのくらいなら、別に構わんよ。ただし、こちらもお願いがあるのですが」

「なんでしょうか?」

ステパーシン氏からお願い?流石にギブアンドテイクということで息子の雇用は保証したが、それだけでは弱かっただろうか。
色々お願いして認可を貰えるといった手前、断るわけにもいかない、拓也は面倒なお願いだと嫌だなぁと思いつつも笑顔で応対する。

「今、小樽に寄港しているアルカディアオブザシーズという客船に私の息子がいるのだが、全く持って連絡がつかない。
一体何をしているのか見てきて欲しいのと、新しい仕事を見つけたと伝えて連れ帰ってくれないか?」

聞けば、息子の願いで客船に乗せてやったのに、連絡の一つもよこさないそうだ。
拓也達は憤るステパーシンを見て、良い年した息子相手に過保護すぎやしないかと思いつつ、申し出自体は快諾すると、すぐさま領事館を飛び出していった。
目指すは、未だ見ぬロシア人アニオタが滞在しているという小樽へ。
自分たちの目標に向け、彼を社会復帰させるために…





小樽港埠頭

ステパーシンの依頼により彼の息子を社会復帰させに来た拓也たちは、埠頭に係留された一隻の船を見て呆然としている。
大きい…
事前にネットで調べたところによると、海外のクルーズ会社インペリアル・カリビアン・インターナショナル所有の船では比較的小さいほうだというが
実際に自分の目で見てみると、総排水量9万トン越えの純白の船体は、圧巻であった。

「凄い…」

エレナが思わず息を呑む。
パナマ運河を通行できるギリギリのサイズで建造された船ではあるが、岸壁から望むその船体はまさに壁。
その上、デザイン性も重視されているその造りは、見るもの誰しもが美しいと感じる外観だった。

「成り行きでココまで来ちゃったけど、普通に働いていたら一生乗る事は無かったね」

「うん」

恐らくは、短期ツアーの一番安い部屋でも一人20万はするだろう。
金額的には少々無理をすれば申し込めないことも無いが、なんというか客船の持つ気迫に押されてしまいそうである。

「ま、まぁ惚けるのはこの位にしておいて、中に入ってみようか。
せっかくステパーシンさんが乗船の手回しをしてくれたんだし、色々見て回ろう」

「…そうね」

そう言って拓也が踵を返してボーディングブリッチに向かって歩を進めると、エレナもポケーっと開けた口を閉じ拓也の後ろを付いて歩く。
そして入口ゲートまでやってきた拓也たちは、係員に身元を証明する。
普通であれば、豪華客船は例え乗船客の知り合いであっても乗客以外の乗船は認めない。
だがしかし、今回は既にステパーシン氏の手回しが会ったため、スルリと船内に入ることが出来た。

「しっかし、中身も凄いね」

拓也はその内装の素晴らしさに自然に足が止まってしまう。
洗練されたデザインの電飾や内装が施された吹き抜けのレセプションエリアにアーケードショップ。
さらには劇場から小規模ながらゴルフコースもあり言うなれば海上のリゾート都市といった感じであった。
そんな純粋に驚いている拓也の横で、エレナも驚きの表情はするものの何所か冷めた言葉で拓也に話かける。

「確かに素晴らしいけど、私たちの目当ての人物はバカンスじゃなく特典のフィギュア目当てでこの船に乗ったんでしょ?
ある意味、素晴らしいクルーズに対する冒涜よね」

エレナの言葉に拓也も黙って頷く。

「まぁ そんな事言っていても始まらない。とにかく、アレクサンドルを探そう」

「ええ」

拓也達は船内を歩き回る。
最初は受付で教えられた彼の部屋を訪れるも、留守のようであったので困った拓也達は船内を虱潰しに歩き回る。
映画館からラウンジ、バーと歩き回り、途中プールサイドでアレクサンドルを探し回りつつ、ビキニのねーちゃんを凝視してたら
エレナに滅茶苦茶睨まれたりもしたが、船内にあるインターネットカフェに来たところで目当ての人物を見つけることが出来た。

「ホシを見つけた」

ターゲットは、せっかくの客船内でも一日中ネットに嵌ってるようだ。
デスクの横に積み重ねられた飲食物のゴミの山が、その滞在時間の長さを物語る。

「見つけたはいいけど、どうやって話を切り出すの?あなた」

エレナの疑問に拓也は悩む。
いきなりお前を雇いに来たと言っても、そんな怪しい人間には誰しも警戒するだろう。
フレンドリーに打ち解けてから、迎えに来たという方向に話を持って行きたい。
拓也は、さてどうするかと考えるが、ふと視界にあるものが止まった。
アレクサンドルの机に置いてある読みっぱなしでページが開かれたまま置いてある雑誌。
拓也はその中身を見てアレクサンドルとのコンタクト法を思いついた。

「良いアイデアを思いついた。
ちょっとここで待っててくれる?」

そういうと拓也はアレクサンドルの傍らまで歩いていく、対してアレクサンドルは自らの至近まで接近してくる存在を気にも留めない。
まぁ 人が寄っただけで気にするような性格なら、公衆の面前でMEG○MIマガジンを開けっぴろげに置いておく事は無い。
それに、閲覧しているページはロシアふたば… 恐らく彼には羞恥心という心が欠如しているのではないかと拓也は疑うが、
拓也は気を取り直してアレクサンドルに向かって呟く。

「What lies in the furthest reaches of sky?(空の彼方にあるものは?)」

耳元で呟くある物語の一節にアレクサンドルはビクンと反応し、一瞬の呼吸の後にモニターに向かったままの姿勢で次に続く言葉を口にする。

「That which wi guide the lost child back to her mother's arms…」

かかった!
拓也はにやりと笑うと後に続く言葉を紡ぐ。
淡々と紡ぐ物語の一節に、知っているものだけしか答えれない対になる言葉をアレクサンドルは拓也の言葉に淡々と答えを返す
椅子をくるりと回転させてこちらに向き直るアレクサンドル。
拓也はアレクサンドルの視線を真正面から受け止め、更に言葉を続ける。

「What lies in furthest depths of memory?」

物語から引用した最後の言葉、其れに対し、アレクサンドルはスクッと立ち上がると笑顔に言葉を返した。

「The place where all are born and where all will return: a blue star.(全てが生まれ、全てが帰る場所。青い星)」

アレクサンドルのやりきったぞという満足そうなドヤ顔。
拓也はその表情をみて右手を出す。

「何処の誰かは知らないけど、あんたが良い奴だって事は分る」

アレクサンドルは拓也の握手に答えると、ニカっと笑ってそう答える。

「俺の名前は石津拓也。君を迎えに来た」

「何の用かは知らないが、話は聞こう。まぁ座ってくれ」

拓也は近くにあった椅子を持ってくると、アレクサンドルの隣に座り、エレナを呼び寄せるように手招きする。
其れに対して、手招きされたエレナは、何かをやりきったドヤ顔で堂々としている二人の様子を尻目に若干引いていた。
なぜなら、彼女もまた彼らが何を言っていたか理解できてしまったのだ。
数週間前、拓也と一緒に見ていた日本のアニメ。
その台詞を大の大人二人が諳んじてドヤ顔を決めている。
正直な所、余り一緒にいたくはないとエレナは思った。
そんなエレナとは対照的に、ドヤ顔で椅子に腰掛ける拓也は良いヒントがあったもんだと机に置かれた雑誌に目をやる。
そこに開かれていたのは、数年ぶりに続編が作られたラ○トエグザイル第三期のキャラたちの水着イラスト。
外人って、大抵このアニメ大好きだよなぁと再確認しつつ、拓也はファーストコンタクトが成功したことに安堵した。


「…という事で、君のお父さんに話を付けて君を雇いに来た訳さ」

第一期の素晴らしさや第二期の糞っぷり、そして第三期の今後の期待についてエレナの通訳を介して語っているうちに
すっかり打ち解けた拓也は、忘れられていた拓也たちがココに来た目的をアレクサンドルに話す。
そして、それに対する彼の回答は非常に明瞭なものだった。

「うむ。断る」

即答だった。
にべもない。
まぁ本人の承諾抜きで話を進めてるのは悪いと思ったが、もうちょっと話を聞こうぜ?と拓也は思う。

「何か嫌な理由でも?」

せめて理由は知りたい
その拓也の問いかけに対し、彼はさも当然のように語りだした。

「何を言ってるんだ。君は日本人だろ。日本には素晴らしい格言があるじゃないか
『働いたら負けかな』僕は、日本でこの言葉を知った後、座右の銘にしたよ」

その返事を聞いた拓也は頭が痛くなる。
…駄目だ。
いろんな意味で終わってる。

「でも、何時までも無収入というわけにもいかないだろ。
この後この世界がどうなるか未知数だし、それに日本にはもっと良い格言もある。
『いつまでも、あるとおもうな、親の金』
これは親の脛がいつまで持つか分らないので、有る内に搾り取っとけって意味だったかな?
まぁ 細かいことはどうでもいいけど、将来的に自分で稼がないと机の上においてある雪ミクみたいなグッツも買えなくなる」

その言葉を聞いたアレクサンドルは唸りながら机の上に置かれた雪ミクフィギュアを見る。
彼も理解しているのだ。
だが、前職のトラウマから未だに社会復帰が出来ない。

「それに自分たちが立ち上げる銃器製造会社は、ほぼ独占企業。
軌道に乗った後の給料は安心してもらっていいよ」

アレクサンドルに拓也はにっこり笑って右手を伸ばす。
一瞬、アレクサンドルも戸惑いはしたが、その胸にある不安感からか、ちらりと視線を泳がせた先に置いてあった雪ミクから
『ミクダヨー。金稼いで来いよー。グッツ買えよー』と言っている様なオーラを感じてしまう。
まぁ すべては気のせいなのだが、それでもアレクサンドルにとってはここらが年貢の納め時のようだった。

「作るのは銃器製造といったよね?」

アレクサンドルは諦めたように俯きながら拓也に質問する。

「そうだけど」

「…新型の開発はする?」

「将来的には」

「趣味に走っていいか?」

「……実用性と予算の範囲内でなら」

拓也も一瞬アレクサンドルの言葉に返答に困ったが、まぁココは相手の機嫌を損ねないことを重要視した。
アレクサンドルも拓也の返事を肯定と受け取ると、顔を上げ拓也の顔を見据えながら話を続けた。

「それと、もう一つ」

「…今度は何?」

「部下の人事権は俺にくれ。俺の好きなように部下を集めたい」

ふむ。
特殊な人材だけに、其れを受け入れるだけの素質を持った部下が欲しいということか。
その位であれば、部下の人事権を譲って多少人員過剰になったとしても問題ないだろう。
何せ、彼を採らなければ操業許可が出ないのだから。
拓也はアレクサンドルの要求をそのように解釈した。

「わかった。部下は好きに集めていいよ。
但し、人数枠だけは此方で決めさせてもらうけどね」

拓也のokという言葉にアレクサンドルは満面の笑みで拓也と握手する。

「よし、じゃぁよろしく頼む。
それと、俺のことはアレクサンドルじゃなく、愛称のサーシャでいい」

「あぁ 此方からもよろしく。サーシャ」

そうして話合いは実を結ぶにいたると、サーシャは気持ちを切り替えるようにパンと手を打つ。

「じゃぁもう、何時までもネットサーフィンしている場合じゃないな」

サーシャは机の上に散乱していた私物をまとめると、スクッと立ち上がった。

「じゃぁ 俺はこれから前々から気になっていた貧乳さんに仲間にならないかと声を掛けてくる。
この船内だけでも何名か良いなぁと思ってた人材はいるんだ」

「え? 何、そんな仕事デキそうな人がいたの?」

拓也は急なことにキョトンとしながら、サーシャに聞くが、其れに対してのサーシャは何を言っているんだとばかりに首をかしげた。

「何言ってるんだ?
話たことも無いのにそんな事分るわけないだろ」

「じゃぁ 何が気になってたんだよ?」

「さっきも言っただろ。良い感じの貧乳さんがいたんだ。
流石にロリを雇うのは子供の権利ウンヌンで駄目だろ?
時代は合法ロリなのだよ」

そこまで聞いて拓也は理解した。
このお方、真面目に人集める気がないなと
拓也は片手を振って颯爽と走り去るサーシャを見送ると、これはポストだけ与えた名誉職にしてやろうか本気で悩む。
そんな悩みに頭を抱えだした拓也に、今まで通訳に徹していたエレナが拓也に声を掛ける。

「…本当にあの人取るの?」

「まぁ操業許可のためだよ。しかし、頭は良い筈なんで仕事は出来そうだと思ったけど、これはどうか分らんね…」

拓也は疲れた表情でサーシャの走り去っていった方向を見つめている。

「まぁ これで目的は達成したし、これからどうしようか
船内を散策する?それとも、もう帰る?」

そう言いながら拓也はエレナのほうに振り返ると、何時の間にやらエレナの後ろに一人の白人の老人が立っていた。
見た目は白い髭を蓄え、ポロシャツにハーフパンツという、いかにもバカンスの外人さんらしい、ラフであるが小奇麗な身なりをしたおじいさん。
最初は自分たちが通行の邪魔になっているものかと拓也は考えたが、その老人は拓也に向かって話かけてきた。

「すまないが、ちょっといいかね。
先ほどまで近くの机に座っていたんだが、色々と話は聞こえていたよ。
盗み聞きは余り褒められた趣味では無いと自覚しているが、何分面白そうな話をしていたので、ちょっと話てみたくなってしまってね。
時間は取れるかい?」

非常に丁寧かつ優しげに話す謎の老人。
だが、拓也は身構える。相手の正体が分らないのだ。
特に秘密にするようなことはサーシャとは話さなかったが、無関係な人にまでペラペラと「これから銃器を作ります!」等と話す必要は無い。
老人は身構える拓也の姿勢を見て、「あぁ済まなかった」と言いながらポロシャツのポケットから名詞を一枚取り出した。

「私はショーン・リコネ。
とある証券会社の役員をしている。
現在は妻と一緒にバカンス中でね。まぁこんな状況になってはしまっているが長い休暇の真っ最中だよ」

そう言って差し出された名刺を拓也は「はぁ」と言って受け取る。

「まぁ 時間があるなら少し座りたまえ。
ちょっと、先ほどの君たちがしていた話に興味があってね。何でも起業するとか?」

そう言って、ショーンは店員を呼び3人分のコーヒーを注文する。
拓也達は自分たちの分まで注文し、自然かつ強引に話を聞こうとする彼に、少々あっけに取られもしたが、
拓也たちも、まぁいいかと諦めて椅子に座り、受け取った名刺を見る。

「…投資ファンド。の方ですか…
初めまして。私は石津拓也といいます。そして此方が妻のエレナ。
まぁ 別に合法的に武器メーカーを立ち上げようって事なので、お話するくらいは良いですよ」

そうして拓也は彼に大まかな事業概要を説明する。
もちろん図面などの入手経路は秘匿してあるが、技術資料は持っているのと国後での操業許可の内示を受けていること
今は立ち上げの準備中であることなどを彼に語る。

「なるほど、今は一から準備をしている所といった所だね」

ショーンは中々面白い話を聞いたという表情でうんうんと頷く。

「そうなんです。
このまま膜の閉鎖が続けば成長することは間違いなしだと思うんですが、まぁちょっとした賭けでもありますね」

「いや、だからこそ面白い。
世の中、一寸先は闇だ。だが、危機にあってもそれをチャンスに変えようと行動するのは非常に素晴らしい」

ショーンは大げさな身振りを交えつつ拓也に持論を展開する。

「だが、起業するにあたり資金のほうはどうなっているのかね?
銀行には既に相談したのかい?」

ショーンは拓也に尋ねる。
資金の問題。
正直な所、拓也は事業許可の内示を貰ってから銀行に行こうと思っていたため、未だ融資の相談はしていない。
資金の問題は未だにクリアしていないという痛いところを突かれたと拓也は思ったが、どうせ隠してもしょうがないと拓也は話すことにした。

「いえ、まだ融資が受けられると決まったわけではないです。
まだ、その段階まで計画が進んでおりませんので…」

「そうか、では何か資金で困ったことがあれば、私のところに相談しに来るといい。
これでも人生経験だけは豊富でね。何かとアドバイス出来る事があるかもしれない。
それに、この船の中にいる私の友人たちの中には、既に現役はリタイアしたものの、マーケティング、経理、法務とその道で企業経営に尽力していた者達も結構いるんだ。
まぁ そういったジジババの力が欲しいときも私に一言言ってくれれば紹介するよ」

そう言ってショーンは楽しそうに笑う。

「あ、ありがとうございます。
でも、ショーンさんは何故そこまで自分たちに良くしてくれるんです?」

ショーンの援助の気持ちは嬉しい、だがしかし、拓也は一つの疑念を感じる。
見ず知らずの、それもさっきそこで会ったばかりの自分たちに何故そこまで便宜を図ってくれるのか?
拓也のショーンに対する疑問に、彼はまるで悪戯小僧のような笑みを浮かべて答える。

「まぁ なんというか此れでも嗅覚は鋭いほうでね」

「嗅覚?」

拓也とエレナは首をかしげる。
それに対して、ショーンは自らの鼻を呼び差してニヤリと笑った。

「そうだ嗅覚だ。これでもお金の匂いには敏感なんだよ。
まぁ 時々外れることもあるが、頼れるものだと自負しているよ」

「つまり、お金の匂いに寄ってきたと言うことですね」

ショーンが笑いながら自身の嗅覚を自慢していると、今まで余りしゃべらなかったエレナが何を思ったのかあけすけに言い放つ。

「ちょ、おまっ、  す、すいません。妻が失礼な事を言ってしまって」

エレナの言葉に拓也はあわてて謝るが、その言葉を聞いてショーンは大きく噴出して笑いだした。

「ハッハハ。
いや、謝ることはない。全くそのとおりだよ。チャンスに抜け目が無いことが成功の鉄則だからな。
まぁでも、実は理由はそれだけじゃないんだ」

ショーンがさして気にしていない様子を見て拓也は安堵している横で、エレナが更にショーンに問う。

「他の理由…、ですか?」

「あぁ 何というか、君たちの姿を見ていたら何だが自分の若い頃を思い出してね。
成功に向かって賭けに出た貪欲な姿勢は評価に値するよ。
そんな姿を見ていたら、ちょっと手助けをしてみるのも一興かなと思ったわけだ」

「ショーンさんの若い頃ですか…」

「そうだとも。
まぁ そんな訳で、何か相談があったらいつでも来るといい。
それと、若者を何時までも老人の長話に付き合せるのも気が引けるから、私はこれにて退散するよ」

そう言ってショーンは店員を呼んで支払いの為に部屋番号を告げると一人席を立つ。

「ショーンさん!」

拓也は去ろうとするショーンを呼び止めようとするが、彼の足は店の外に向かったまま止まらない。

「色々と有難うございます。近いうちにまた挨拶に伺います!」

拓也の声にショーンは一度だけこちらを振り向いて手を振るが、彼はそのまま去ってしまった。
後には拓也とエレナの二人が残される。

「なんだか凄いことになってきたわね」

エレナがショーンが去っていったほうを見つめながら拓也に話す。

「あぁ なんというか、お金もチャンスも勢いの有る所に自然と集まるんだなって実感したよ。
最初はちょっと親父のコネを使っただけだったけど、色んな人脈が藁しべ長者みたいに増えていくな…」

拓也はそう言うと視線をショーンのいた方向からエレナに戻して彼女の手を握る。

「まぁ何にせよ、これで事業許可までの準備は整った!
まだまだやる事は多いけど、なんとかなりそうだって気がしてきたよ」

「うふふ。そうね。
まだまだ色々と大変そうだけど、一緒に頑張りましょ」」

拓也の言葉にエレナも笑顔で答える。
二人の栄華への道のりは、一歩一歩確実に進んでいるのだった。


前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.035733938217163