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No.29737の一覧
[0] 試される大地【北海道→異世界】[石達](2012/11/29 01:19)
[54] 序章[石達](2012/11/29 01:05)
[55] 起業編1[石達](2012/11/29 01:06)
[56] 起業編2[石達](2012/11/29 01:07)
[57] 起業編3[石達](2012/11/29 01:08)
[58] 国後編1[石達](2012/11/29 01:08)
[59] 国後編2[石達](2012/11/29 01:09)
[60] 転移と難民集団就職編1[石達](2012/11/29 01:09)
[61] 転移と難民集団就職編2[石達](2012/11/29 01:10)
[62] 礼文騒乱編1[石達](2012/11/29 01:10)
[63] 礼文騒乱編2[石達](2012/11/29 01:11)
[64] 礼文騒乱編3[石達](2012/11/29 01:11)
[65] 礼文騒乱編4[石達](2012/11/29 01:12)
[66] 戦後処理と接触編1[石達](2012/11/29 01:12)
[67] 戦後処理と接触編2[石達](2012/11/29 01:13)
[68] 嵐の前編[石達](2012/11/29 01:14)
[69] 北海道西方沖航空戦[石達](2012/11/29 01:14)
[70] 大陸と調査隊編1[石達](2012/11/29 01:15)
[71] 大陸と調査隊編2[石達](2012/11/29 01:16)
[72] 大陸と調査隊編3[石達](2012/11/29 01:16)
[73] 魔法と盗賊編1[石達](2012/11/29 01:17)
[74] 魔法と盗賊編2[石達](2012/12/08 01:24)
[75] 決戦[石達](2012/12/08 01:20)
[76] 盗賊と人攫い編1[石達](2012/12/31 22:47)
[77] 盗賊と人攫い編2[石達](2013/01/19 21:24)
[78] 盗賊と人攫い編3[石達](2013/01/19 21:23)
[79] 道内情勢(霧の後)1[石達](2013/02/23 15:45)
[80] 道内情勢(霧の後)2[石達](2013/02/23 15:45)
[81] 外伝1 北海道航空産業の産声[石達](2013/02/23 15:46)
[82] 東方世界1[石達](2013/03/21 07:17)
[83] 東方世界2[石達](2013/06/21 07:25)
[84] 東方世界3[石達](2013/06/21 07:26)
[85] 幕間 蠢動する国後[石達](2013/06/21 07:26)
[86] 東方世界4[石達](2013/06/21 07:27)
[87] 東方世界5[石達](2013/06/21 07:27)
[88] 東方世界6[石達](2013/06/21 07:28)
[89] 東方世界7[石達](2013/06/21 07:28)
[90] 世界観設定[石達](2013/06/23 16:49)
[91] 人物設定[石達](2013/06/23 16:57)
[92] 東方世界8[石達](2013/07/15 01:51)
[94] 帝都ティフリス1[石達](2013/08/09 02:02)
[95] 帝都ティフリス2[石達](2013/08/12 00:21)
[96] 帝都大脱走1[石達](2013/09/23 00:16)
[97] 帝都大脱走2[石達](2013/09/22 22:47)
[100] 帝都大脱走3[石達](2014/02/02 03:03)
[101] 対エルフ1[石達](2014/02/02 03:03)
[102] 対エルフ2[石達](2014/02/05 22:45)
[103] 対エルフ3[石達](2014/02/05 22:45)
[104] 対エルフ4[石達](2014/02/05 22:46)
[105] カノエの素性1[石達](2014/02/05 22:46)
[106] カノエの素性2[石達](2014/02/09 13:13)
[107] 別れ、そして託されたモノ1[石達](2014/02/09 13:14)
[108] 別れ、そして託されたモノ2[石達](2014/02/09 13:16)
[109] 決意[石達](2014/02/09 13:42)
[110] 新しい風[石達](2014/04/13 10:41)
[111] 交流拡大、浸透と変化1[石達](2014/04/13 10:41)
[112] 交流拡大、浸透と変化2[石達](2014/06/04 23:46)
[113] 交流拡大、浸透と変化3[石達](2014/06/04 23:47)
[114] 交流拡大、浸透と変化4[石達](2014/06/15 23:55)
[115] 交流拡大、浸透と変化5[石達](2014/06/15 23:55)
[116] 平田、大陸へ行く1[石達](2014/08/16 04:02)
[117] 平田、大陸へ行く2[石達](2014/08/16 04:02)
[118] 対外進出1[石達](2014/09/14 08:19)
[119] 対外進出2[石達](2014/08/16 04:04)
[120] 対外進出3[石達](2014/10/13 01:58)
[121] 回天1[石達](2014/10/13 01:59)
[122] 回天2[石達](2014/10/14 20:24)
[123] 回天3[石達](2015/01/18 08:20)
[124] 回天4[石達](2015/01/18 08:24)
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[29737] 対外進出2
Name: 石達◆48473f24 ID:a7c7e068 前を表示する / 次を表示する
Date: 2014/08/16 04:04
拓也達の調査開始から一か月。

このころの北海道は表面的には非常に平和であった。
高木大統領は国内の政治動向に気を配りつつも、意気揚々と最初の訪問先であるエルヴィスへ旅立ち(今回の歴訪の目的は国際機関設置のための説明とコンセンサスを得ることであるが、エルヴィスは事実上属国であるため説明以外にやることは無い。最初から北海道の意に賛同以外の選択氏は無かった)、今頃は次の目的地へのゴートルムヘ向かう船旅の途中だろう。
そして、拓也達の新天地の調査はも順調に進んでいる。
拠点を整備し、事前に政府が観測飛行船のデータを分析した情報から、有望そうな地形にヘリで乗り付け、片っ端から調べていくのだ。
細かいものについては見逃しも多いが、密林を徒歩で移動するより遥かに効率的な手法だ。
そんな各種調査の結果、この大地について様々なことが分かってきた。
まず第一に大森林が成長するだけあり、大地は栄養豊富で水資源も余り有る。
木々を除去し、地質改造すればいい農地になりそうである。
そして、鉱物資源もそれなりに豊富だ。
将来的に露天掘りの鉱山がいくつも誕生しそうである。
ただ、ガスや石油については確認できていない。
これは地表に露出している鉱脈が発見できていない為、さらなる調査が必要であるらしい。
そんな訳で満点とは行かないまでも、調査は順調に進んでいる。
この他にも、ようやっと開発の遅れていたヘリや民間ターボプロップ用に搭載されていた小型ジェットエンジンのコピーモデルが量産を開始したり
教化の終えた移民希望者が、移民の特区に指定された道東各所の新設工場群や過疎地の農場に順調に配置され、労働力も右肩上がりに増えていったりと特段の問題は無いかと思われた。


だが、そんな全てが順調に思える北海道でも、一枚皮をめくればそこには色々なモノが蠢いている。
この激動の時代、この変革チャンスに、野心を抱えるものは多くいたのだ。
そして、そんな者たちに対し、偶然か必然か動きを感じ取るものも少なからずいる。



礼文北
警察という組織にいながら、英雄称号保持者として高い自由度を持つ平田も、動きに気付いたその一人であった。

「やぱりこれは……」

そう言って、平田は椅子に踏ん反り返りながら手に持つ資料をパラパラとめくる。
その仕草は、少女型の義体であっても自然とオッサン臭を醸し出していた。

「平田さん。まだ石津製作所について調べてるんですか?」

資料と睨めっこする平田の前に、部下が二人分のコーヒーを持って現れた。
彼は組織内自由人である平田のお目付役として付けられた人間である。
名前は喪部君とか何とかだったが、あまり名前は憶えられていない。
現状、彼は平田の雑用係だ。

「調べれば調べる程、色々出てくる。
大陸にクロコダイルの薬物汚染が判明した箇所について調べたら、色々面白い事が分かったよ。
あの薬物によるゾンビみたいな中毒者が出ると、大体が現地宗教の教会が悪魔だといって駆除を依頼するんだが、あの会社は独占的にそれを請け負ってる。
どこからともなく湧いて出るジャンキーとそれの駆除を独占する企業……
アンチウイルスソフト会社のマッチポンプと似た関係だとは思わないか?
そして石津が依頼を受ける&ジャンキーが発生するのは、不思議と現地宗教の統制派と呼ばれる司教のいる教区だけ…
すごく人為的に薬物汚染が広がってるように見えない?」

平田はトントンと朱書きした地図を指で叩きながら部下に見せる。

「はぁ… でも、仮にその対立がトリガーだったとして、石津製作所が片方に入れ込む理由って何ですかね?
これだけ見れば、宗派間対立で統制派とやらが、相手の陣営から毒まかれているだけのようにも思えるのですが……
それだと石津製作所には関係ないですよね?」

「どうだろうな。
事実として大陸で密造する設備と輸送路の全てを満足に持ってるのは奴らだけ……
それに、奴らは大陸で堂々とケシ栽培やってる連中だよ?
何かしらの関係はあっても不思議じゃない。
性善説は通じないと俺は思う」

「……だとしても、目的はなんです?
金だとしたら、あの会社、そんなやばい事しなくても結構稼いでいるように見えますけど」

「そこが問題なんだよ。
今考えているのは、片方の宗派の有力者の意向が働いているのかと思うんだ。
調べてみたらあの宗教は、現教皇が病気らしく、教皇選挙の準備が行われていると町の教会では言っていたよ。
そんな中、片方の陣営の管理領域のみで悪魔発生とかネガティブキャンペーンそのままだろ。
だが、仮に例の教会の意向が働いていても、カネだけで彼らがここまで手を染めるかは謎だ。」

平田は考え込む。
あの会社は何かやってそうだが、それを結びつけるのには直接的な証拠がない以上、推論以外に頼るしかない。
エルヴィス、石津……
その二つを結ぶものは何か……

顎に手を当て、悩む平田。

だが、その考えを収束させるには材料がたりない。

「うーん……
しかし、こうやって考えてみてもコレだっていう根拠が無いんだよなぁ」

「だから考え過ぎですって。
いくら連邦英雄称号保持者で自由に動けるったって
一介の民間企業相手に粘着し過ぎですよ。
ストーカーですか?」

「でも、何て言うかな……
何かある気がするんだよね。
勘というか第六感っていうの?本能がそう告げるんだ」

「またまた……
平田さんって元々田舎の駐在所勤務なのに、何を生粋の刑事みたいなこと言ってるんです?
それにもう生身は脳だけでしょ?
第六感なんて言っても、義体のセンサーが感知した以外の事は感じれませんよ」

「なにぃ!?」

平田は机を叩いて部下を睨む。
サイボーグをバカにしてんのかと平田の鋭い視線は部下を突き刺す。
が、それに対した効果は無い。
少女型義体では圧倒的に迫力が足りないのだ。
部下は、そんな平田をみても何とも思っていなかった。

「はいはい。
とりあえずお昼でも食べに行って、それから続きにしましょうね」

「お前、さらりと義体差別しといて流したな……
まぁ良い。丁度時間もお昼だし、飯でも行くか」

視線を壁掛け時計に向ければ、時刻は丁度お昼だった。
平田はスクッと席を立つと、部下を引き連れて署の外へと向かった。
そんな彼らの向かった先は、最近話題のレストラン。
特に大陸産食用芋虫を混ぜたオムライスが人気を呼んでいる。
まぁ 平田にとっては脳の栄養以外は要らないので、専用食以外の食事は栄養的な問題ではなく気分の問題であった。
そして、今日の昼食は部下と一緒だ。
純粋な人間である部下は、遠慮なくオムライスを注文し、それを待っている。

「そういや平田さん。
最近奥さんとはどうですか?」

「あ?」

注文した品を待ち、テーブルの水を飲む手を止めて固まった。
急な質問に、一体どう答えていいか答えに困ったのだ。

「そりゃぁ。
結婚早々こんな義体になっちゃったし……
愛想つかされる前に早く男の義体か何かを支給してもらわんとなぁ……」

一応義体への乗り換えの際に、精子を冷凍保存してもらっているから子供は作れる。
だが、夜の営みが無いのでは夫婦生活をこの先続けられるのか平田は不安に思っていた。

「政府は支給してくれないんですか?」

「まぁな。
義体や電脳化の需要は多いけど、供給が追い付いていないから……
一人に何体も支給するのは、もう少し普及してからだそうだ。
……と、そんな事より今は昼飯だ。
ここの芋虫オムライスは絶品だそうだ」

「芋虫って……
これから食べる人にそんな良い方しなくても」

「気にするなよ。
それに丁度運ばれてきたし、テレビでも見ながらさっさと食おうか」

そう言うと、平田は褐色肌のウエイトレスが運んできた料理にスプーンを突き刺した。
消化こそしないものの、味覚センサにより9割方の味は分かる。
平田はもぐもぐと食を進め、半分ほど食べた所でテレビのあるニュースに注意が止まった。


『……政府は、調査団を派遣した地域にノヴァヤシベリア(新シベリア)と命名し、大規模な資源開発を進めると宣言しました。
これは、現在、ゴートルム滞在中の高木大統領が明らかにしたもので、コンビナート方式で開発を進めるとのことです。
なお、詳しい事は未だ明らかにはなっていませんが――』

どうやらキャスターは新しい開拓地について命名されたことを報じているらしい。
どうにもその開拓地は、その名前から察するにシベリア開発並に広大かつ人跡未踏の地だろうことは想像に易かった。

「ついに資源確保のために動き出すんですかね。
しっかし、入植者はどうやって確保するんでしょう?
道内の人間なら、そんな辺境に誰も行きたがりませんよ」

「そりゃぁ、そうだろ。
だが、それを何とかするのが政府の役目だ」

「そうですけど……
願わくば、そのノヴァヤシベリアが左遷の地にならないことを祈りましょうか。
仮に何かヘマして『同志。君はシベリア送りだ』とか言われたらお先真っ暗ですからね」

「まぁ、あの大統領なら、そこまで酷くなることは無いと思うけど。
むしろ大統領の親族であることを最大限に利用してる真紀のほうがやりそう……」

平田は冗談のつもりで特権を使うことに躊躇のなかった少女の事を思い出した。
微妙な立ち位置の親族であることを最大限に使って好き放題やっていたが、今になって思うとアレは事故で親を失った彼女が保護者になった高木を試しているのだろう。
以前、テレビで里親に迎えられた孤児が、そのような里親を試す言動をするというのを見たことがある。
となれば、彼女に必要なのは我儘にハイハイ言うことではなく、叱る事なのではないかとも思ったが
そうして真紀と大統領の関係について考えていると、平田は何かに気が付いたのかスプーンを持ったまま固まった。

「真紀、石津…… そうか、間にいるのは大統領か……」

「え?」

ふと口から洩れた平田の小さい呟きに、聞き取れなかった部下が聞き返す。

「そう言えば、前に大統領の姪の護衛に大陸へ行ったときに知ったんだが
現地で大統領が石津製作所とは懇意と聞いたんだ」

平田は以前、大陸に真紀と行ったとき、石津製作所の社長が大統領と何かしらの関係があるという話を聞いたのを思い出した。

「もし、大統領と石津がズブズブなら汚れ仕事だって断れまい。
そして、代わりに何かしらの便宜を図っていてもおかしくない」

そう閃いた平田は持ち前の電脳化した能力をフルに使い、即座にそれらのニュースや情報の収集を始める。
それは現実時間にして10秒ほどであるが、あれよあれよという間に目当ての情報が平田の電脳に集まってきた。

……「死の商人、戦闘ヘリを入手。道外でタカ派企業の活動活発化。軍用ヘリの譲渡に政府と謎の関係」 2029年5月1日 NPO法人 北海道平和連帯運動ニュース

……「大統領。エルヴィスからの接待攻勢に陥落か?! アンチエイジ魔法薬で若返り疑惑」2030年4月1日 週間近代 ナックルズ

少々ニュースソースが偏ってはいたが、それらの情報は平田の推論を補強する。

「大統領がクラウス殿下を支援するために石津を使ってる?
色々と荒も多いけど、絶対に違うって証拠も無い。
……よし!ちょっとその線で調べてみるか!
愛する礼文が、怪しげな奴らに大陸みたいに好き放題される前にちょっとその尻尾をつかんでやる!」

平田は、そう一人で納得すると、勢いをつけて椅子から立ち上がる。

「ちょ!?平田さんどこに行くんですか!」

「聞き込みだ!
プロパガンダ仕事以外はめちゃくちゃ自由度の高い特権職なんだから、心置きなく礼文の平和の為に生かすぞ!」

平田はそう部下に告げると外へ駈け出そうとするが、その腕を即座に部下に掴まれた。

「駄目ですよ。
支払いは誰がするんです?
それに今日は午後から、そのプロパガンダ仕事じゃないですか。
勝手に行かれても困ります」

「でも、礼文の平和を……」

「それはちゃんと予定を消化してからです。
野党系の団体からとは言え、講演依頼が来てるんですから武勇伝を語ってニッコリ写真写真を撮るまで今日の自由は無いです」

「武勇伝って言っても、政府が美化200%で脚本書いた奴だろ。
あれって嘘ついてるみたいで嫌なんだけど……」

「嫌なことも黙ってやるのが仕事です」

「うぅ……」

平田は部下にそう諭され、渋々と席に戻された。
今の自由な行動権は、求められてる仕事をこなした対価として与えられているもの。
いくら英雄称号保持者とはいえ、仕事のノルマは常に与えられているのだ。
今の平田にとって、その事実は実に重いものだった。





昼食も終わって午後になり、平田は車で講演会会場へと移動していた。
ここは、礼文に作られた野党系団体の施設であり、政治資金パーティも開けるホールを持つ立派なビルであった。
そんなビルの裏に作られた駐車場で整然と止められた車の一つに平田はいた。

「はぁ…… 気が乗らないな」

「さっきまでとはテンションが大違いですね。
さぁ、着きましたから車を降りてください」

部下に急かされ、やれやれと車を降りる平田の表情は実に浮かないものである。

「よっこいしょっと。
それにしても、講演会場が野党の拠点か……
ここって駐車場から玄関が遠くて面倒なんだよな。
一番近い裏口は施錠されてるし……前は普通に通れたんだけど。
もうちょっと利用者の利便性を考えてほしいよな」

そう恨めしそうに見つめる視線の先には、建物の裏玄関ともいえるガラス戸があった。
だが、その戸にはセキュリティを意識したためか、常時締切の札がかかっている。
その為、中に入るには建物を大きく回り込んで正面から入らねばならないのだが、乗り気じゃない仕事に向かう平田には、それが面倒に感じて仕方なかった。
だが、締められていると分かってはいても、平田はそのドアへと向かい、一か八かと取っ手に手をかけ開けようとしている。

「グタグタ言わないで行きますよ。
ほら、どうせ開かないんだからドアをガチャガチャしないで下さいよ」

「でも、こっから入れたら凄い近道だよな~……って、カギ開いてる?」

モノは試しにと回したドアノブは、カギに邪魔されることなくクルリと回る。
平田はあれ?っと驚きつつもドアを開けると、ドアが施錠されていない理由がそこにはあった。

「え?あ、本当ですね。
それもドアのロックに目張りしてオートロックがかからないようにしてる」

見れば、ドアのロックの部分にダクトテープが張られており、オートロックが作動しないように仕掛けがしてある。
これにより、このドアは事実上の無施錠ドアと変わりなくなっていた。

「やっぱり、利用者から駐車場から入口が遠いと苦情が来たから解放したんだな。
まぁいいよ。ここから入ろう」

「本当ですかね?」

「実際、解放してあるんだ。
ここから入っても問題ないよ」

開け広げられた入口は、確かに大きく回って正面玄関へ行くよりも近道だ。
平田は部下の手を引き、堂々と中に入っていく。
何せ平田にとって、野党での講演会も既に何回か行っている。
彼は与党の代弁者ではなく、道民全てにとっての英雄とされているのだ。
よって、この建物についても、裏口から控室までのルートは良く知っていた。
彼らはスイスイと建物の中を歩き、あっという間に目的に到着する。

「こんにちはー」

ガチャリと開かれる控室のドア。
愛想よく、元気よく、平田は室内へと入っていった。
控室には講演の準備をしていると思われる数人のスタッフと一人の男が、突然現れた平田らに驚いていた。

「あれ?
平田さん。来られてたんですか?
すいません。来られたら受付から連絡がくる筈だったんですけど、ちょっと連絡ミスがあったようですね。
今、テーブルを片付けますので、少々待って頂けますか?」

見れば、控室の机の上には事務仕事の紙が散らばっており、来客を座らせるには少々汚い。
男は急に現れた平田達のために、スタッフ達に指示して急いでそれらを片付けた。
その指示を出す男の名は近衛洋祐。
急激な変化を望まず、あえて旧来の日本の維持を目指す野党 社会自由党 党首。
それも転移後の野党再編後、旧来型の野党党首でポピュリストだった鳩沢を追い落とし、実力で党内を固めたヤリ手であった。
与党と高木大統領が強権を発動する中、若手の中から急激に頭角を現して今では党の看板を務めている。
何せ彼は電脳化の施術者。
持ち前の頭の回転の良さと、常時ネットで資料や法律を確認できることから、与野党の討論の際も常に与党を圧倒している。
正に野党の切り札と一定もいい男だった。
そんな彼は講演等を通して平田とは知乙が有り、フレンドリーに会話が出来る間柄でもあった。

「あ、受付あったの?
ごめん裏の玄関が開いてたから、そっちから入ってきちゃった」

平田は悪い悪いと軽く謝るが、そんな平田の言葉に近衛は眉をゆがめる。

「え?
裏玄関はオートロックで施錠されてるはずですが?
最近は、うちもセキュリティには気を配ってるので……」

「?
いや、普通に開いてたよ。
ロックの部分がテープで目張りされてたけど……」

普通に開いたという平田と、施錠されているという近衛。
二人の頭に?マークが浮かぶ。

「……一応、保安に連絡しておきましょうか」

そう言って近衛はスタッフの一人を呼び止めた。
どうやら、この建物の警備員に屋内を点検させるようだ。
平田はそんな様子を見て、マズかったかなと今更になって思い、部下を呼び寄せるとヒソヒソと耳打ちした。

「大事になっちゃったな」

「でもまぁ、我々が開けっ放しにした訳では無いですしね。
先に誰かが開けて、施錠し忘れてたんですよ。
まぁ取り敢えず、今は講演の事だけ考えてましょうか」

勝手に裏口から入ったのは悪かったが、それでも自分たちにヤマシイ所は何もない。
部下は講演の事だけを考えましょうと平田に耳打ちして返すと、平田もそれにコクンと頷いた。
何にせよ。今の自分たちに出来ることなど限られているのだから。




そうこうしている内に講演も終わった。
後は参加者だけでのパーティのようだが、平田の仕事はここまでである。
それ以上はオーバーワークとなる為、これ以上ここに留まろうとは彼は考えていなかった。
平田はそそくさと会場を後にしようと、挨拶もそこそこに外に出ようとする。
だが、丁度建物のエントランスホールまで出た時、偶然にも保安室と書かれた一室から近衛が出てくるのと鉢合わせしてしまった。

「平田さん
今日はお疲れ様でした。
それと、もう一つお礼が言いたいのですが、平田さんが早々に気付いてくれたお蔭で侵入者が捕まりました。
ありがとうございます」

近衛はニコニコと平田に頭を下げ、謝意を述べる。

「そうですか。それは良かった。
でも、捕まったとなると、既に署に連絡しました?
不法侵入も立派な犯罪ですので、連絡がまだであれば我々から連絡しますが?」

犯罪者をしょっぴくなら手伝いますよと善意から平田は申し出る。
プロパガンダ仕事中とはいえ、所属は警察。
署からパトカーが来るまで付き添っていてもいい。

「いや、そんなお手を煩わせることも無いですよ。
子供の悪戯でしたので今回は厳重注意と言うことにしました」

近衛はそこまでお手数はかけないと笑いながら手を横に振る。

「そうですか。
まぁ悪ガキ相手なら、ちょっとお灸を据えてやればいいでしょうね」

大したことが無いならば、それに越したことは無い。
平田もそれなら良いかと帰ろうと思ったのだが、丁度その時、どこからともなく現れた二人組が近衛後ろをすり抜けて保安室に入っていた。
警備の服を着たガタイの良い白人と褐色の肌の人間。
近衛も彼らを見て動じないという事は野党関係者らしいのだが、それでも平田の脳裏には一つの疑問がわいた。

「失礼ですがあの方たちは?」

関係者の人間っぽい立ち振る舞いではあったが、その目つきはどこか厳しい。
それに、転移前の日本だった頃の文化・社会の復興と純潔主義を暗に掲げる野党が、外国人を雇用している事が疑問だった。
だが、平田のその質問に対しても、近衛は笑顔を崩さない。
彼は、さも当然の如く答えて見せた。

「あぁ。
あれは警備員ですよ」

「大陸の方なんですね。
党是に日本人の雇用を守るとあるんで、外人を使ってるのに少々驚きました」

「国際色豊かな礼文島ですから。
道内ならまだしも、ここでは彼らを使うのも普通ですよ」

笑顔を崩さぬ近衛。
平田はしばらく彼を見つめたが、特におかしい様子も無かったので彼の説明をそのまま受け止める。

「そうですか」

確かに礼文北側は人口比では日本人は圧倒的な少数だ。
何せ教化中の移民が大量にいるのである。
野党の党是的には矛盾はあっても、今の近衛の説明に矛盾は無い。

「っと…… 忙しい党首をこんな無駄話に突き合せちゃ悪いですね。
我々も帰るとします」

時計を見れば既に良い時間である。
平田と部下は、不躾な質問で時間を取らせたことを詫び、近衛に頭を下げた。
これ以上グダグダ言って相手を拘束するのも逆に悪い。
そうして、いい加減に帰ることにした二人は、近衛らに見送られながら、その場を後にしたのだった。





平田達も帰り、パーティも終わった夜。
既に大半の室内の明かりは消えているものの、保安室のドアの隙間からは明かりが見えていた。

「吐いたか?」

「はい。
魔術により自白させました。
やはり内務省の犬です。
しかし、捕まり方が何とも間抜けですね。
北海道は工作員の育成が間に合ってないんでしょうか」

近衛の言葉に丁寧に答える外人の男。
その胸にはイグニスのシンボルといえるマークが彫られている。
彼は、大陸から来た魔術師だった。
魔導による洗脳と自白。
一時的な気分高揚とは違う魔導を使った洗脳は、教会では禁忌とされている。
だが彼らは、それ用の修練を専門に詰んでいた。
そして、工作員としての教育も当然の如く習得している。
彼らは、何者かから野党の工作員として働くよう命じられている者たちであった。

「まぁ 一番気を付けるのはステパーシン直属の奴らだけだ。
政権交代まで隙を見せないよう注意しなければな」

「それはもう。
既に我々の仲間も何人か行方が分からなくなっています。
気を緩めることはしませんよ」

そう言うと男は近衛に向かってニヤリと笑う。
その顔は、まるで謀略という暗いオーラを纏った蛇のような表情であった。


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