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No.29737の一覧
[0] 試される大地【北海道→異世界】[石達](2012/11/29 01:19)
[54] 序章[石達](2012/11/29 01:05)
[55] 起業編1[石達](2012/11/29 01:06)
[56] 起業編2[石達](2012/11/29 01:07)
[57] 起業編3[石達](2012/11/29 01:08)
[58] 国後編1[石達](2012/11/29 01:08)
[59] 国後編2[石達](2012/11/29 01:09)
[60] 転移と難民集団就職編1[石達](2012/11/29 01:09)
[61] 転移と難民集団就職編2[石達](2012/11/29 01:10)
[62] 礼文騒乱編1[石達](2012/11/29 01:10)
[63] 礼文騒乱編2[石達](2012/11/29 01:11)
[64] 礼文騒乱編3[石達](2012/11/29 01:11)
[65] 礼文騒乱編4[石達](2012/11/29 01:12)
[66] 戦後処理と接触編1[石達](2012/11/29 01:12)
[67] 戦後処理と接触編2[石達](2012/11/29 01:13)
[68] 嵐の前編[石達](2012/11/29 01:14)
[69] 北海道西方沖航空戦[石達](2012/11/29 01:14)
[70] 大陸と調査隊編1[石達](2012/11/29 01:15)
[71] 大陸と調査隊編2[石達](2012/11/29 01:16)
[72] 大陸と調査隊編3[石達](2012/11/29 01:16)
[73] 魔法と盗賊編1[石達](2012/11/29 01:17)
[74] 魔法と盗賊編2[石達](2012/12/08 01:24)
[75] 決戦[石達](2012/12/08 01:20)
[76] 盗賊と人攫い編1[石達](2012/12/31 22:47)
[77] 盗賊と人攫い編2[石達](2013/01/19 21:24)
[78] 盗賊と人攫い編3[石達](2013/01/19 21:23)
[79] 道内情勢(霧の後)1[石達](2013/02/23 15:45)
[80] 道内情勢(霧の後)2[石達](2013/02/23 15:45)
[81] 外伝1 北海道航空産業の産声[石達](2013/02/23 15:46)
[82] 東方世界1[石達](2013/03/21 07:17)
[83] 東方世界2[石達](2013/06/21 07:25)
[84] 東方世界3[石達](2013/06/21 07:26)
[85] 幕間 蠢動する国後[石達](2013/06/21 07:26)
[86] 東方世界4[石達](2013/06/21 07:27)
[87] 東方世界5[石達](2013/06/21 07:27)
[88] 東方世界6[石達](2013/06/21 07:28)
[89] 東方世界7[石達](2013/06/21 07:28)
[90] 世界観設定[石達](2013/06/23 16:49)
[91] 人物設定[石達](2013/06/23 16:57)
[92] 東方世界8[石達](2013/07/15 01:51)
[94] 帝都ティフリス1[石達](2013/08/09 02:02)
[95] 帝都ティフリス2[石達](2013/08/12 00:21)
[96] 帝都大脱走1[石達](2013/09/23 00:16)
[97] 帝都大脱走2[石達](2013/09/22 22:47)
[100] 帝都大脱走3[石達](2014/02/02 03:03)
[101] 対エルフ1[石達](2014/02/02 03:03)
[102] 対エルフ2[石達](2014/02/05 22:45)
[103] 対エルフ3[石達](2014/02/05 22:45)
[104] 対エルフ4[石達](2014/02/05 22:46)
[105] カノエの素性1[石達](2014/02/05 22:46)
[106] カノエの素性2[石達](2014/02/09 13:13)
[107] 別れ、そして託されたモノ1[石達](2014/02/09 13:14)
[108] 別れ、そして託されたモノ2[石達](2014/02/09 13:16)
[109] 決意[石達](2014/02/09 13:42)
[110] 新しい風[石達](2014/04/13 10:41)
[111] 交流拡大、浸透と変化1[石達](2014/04/13 10:41)
[112] 交流拡大、浸透と変化2[石達](2014/06/04 23:46)
[113] 交流拡大、浸透と変化3[石達](2014/06/04 23:47)
[114] 交流拡大、浸透と変化4[石達](2014/06/15 23:55)
[115] 交流拡大、浸透と変化5[石達](2014/06/15 23:55)
[116] 平田、大陸へ行く1[石達](2014/08/16 04:02)
[117] 平田、大陸へ行く2[石達](2014/08/16 04:02)
[118] 対外進出1[石達](2014/09/14 08:19)
[119] 対外進出2[石達](2014/08/16 04:04)
[120] 対外進出3[石達](2014/10/13 01:58)
[121] 回天1[石達](2014/10/13 01:59)
[122] 回天2[石達](2014/10/14 20:24)
[123] 回天3[石達](2015/01/18 08:20)
[124] 回天4[石達](2015/01/18 08:24)
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[29737] 平田、大陸へ行く1
Name: 石達◆48473f24 ID:a7c7e068 前を表示する / 次を表示する
Date: 2014/08/16 04:02
季節は過ぎ、初夏。

温暖な風が大地を緩やかに撫で、輝く日差しは、大地の緑を青々と茂らせている。
人々の畑では、青々とした麦が太陽に向かって逞しく伸び、地平線まで広がる酪農用の牧草地は、太陽の恵みが大地にしっかりと行き渡っている事を表している。
毎年到来する変わらぬ夏の季節。
そんな夏の日差しの中、平田はバスの窓から外の景色を眺めていた。

彼の視線の先、そこにあるのは見慣れた礼文の景色ではない。
ここは大陸、メリダの町。
流れる季節と同じように、エルヴィス公国のメリダ村は、以前は住んでいる人々の世代が代われど村としては大きな変化はなく年月だけが流れていく筈だった。
……あの日、外から彼らが来るまでは。

後に町となったメリダ村にとっての回天の日。
拓也達がメリダ村に滞在し、盗賊と戦った事の縁は、村にとって凄まじい変化の開始点であった。
サルカヴェロでの騒動の後、拓也達は村民と良好な関係を得ていたメリダ村に大陸での拠点を置いた。
と言っても、最初は倉庫や事務所宿舎などと建てただけだったが、拓也達がエルヴィスの首都プリナスとメリダ村を繋ぐルートを整備した辺りから状況は大きく動き出した。
何せこのメリダ村、住民の目から見れば大陸最強の傭兵団(実際はPMCだが)が拠点を構える地。
他の地域や首都プリナスと比べても格段に治安が良くなった。
強盗や盗賊が出ようものなら、石津製作所の警備事業部が依頼を受けて(時には社員教育で)狩りに行くのである。
その結果、メリダ村付近で仕事をするならず者は絶滅し、新たにこの付近で仕事をする者すら現れなくなった。
治安は最高、そして最低限のインフラもあり、首都プリナスと繋がっている。
大陸としては好条件のメリダ村。
そんな村が、事業用地を探していた道内企業の目に留まれば、彼らが逃す筈もない。
ごちゃごちゃとした首都プリナスと違い、用地買収が簡単で、治安のよいメリダ村に道内企業の事業所が林立するのに時間は要らなかった。
紡績工場等の労働集約型の工場の計画が次々に立ち上がり、そう言った計画を根拠にインフラ整備用の金をエルヴィスからむしり取った後は、後は雪達磨式であった。
エルヴィスからの補助金で発電所が建ち、道路は舗装され、必要とされる労働力は村内だけでは賄いきれず、外から流入した人間用に住宅が建設される。
そうして人口が増えると、住民相手の商売としてコンビニ等の道内小売業社も続々と進出し、北海道から来た人間用に歓楽街も形成された。
今ではもう土着の人種・文化と北海道の技術・文化が融合した、全く新しい都市としてメリダ村は生まれ変わっていた。

そんな新生メリダ村…… いや、今は人口も万を超えメリダ町と言ってもいい位に拡大した市街地の中心部。
日々新しい施設が増え、観光客も増え始めたそんなエリアに平田は来ていた。
彼は先日の港での騒動以降、大陸について色々と思う所が有り、一度自分の目で大陸を見てみたかったのだ。
それが、彼が大陸観光を謳うツアーバスの中から窓の外を眺めている理由であった。

「でも、折角来たのに、こんな仕事じゃあなぁ……」

そう言って溜息を吐く平田。
彼は目だけを動かして隣に座る少女を見る。

「どうしたの?平田さん」

平田に見られているのに気が付いた、少女は不思議そうに平田を見つめ返した。

「いや、なんでもないよ。
それより、この後はツアーの自由行動だろ?
あんまり離れないよう注意してね」

「分かってるわ」

平田が愚痴を溢す仕事の内容。
それは、平田の横に座る女の子。
かの高木大統領閣下の姪御様、高木真紀の護衛であった。
歳は小学校中学年。
聞く所によると交通事故で両親を亡く、一人だけ義体化して助かったのを大統領閣下が引き取っているそうな。
そんな彼女が見聞を広める為に大陸ツアーに行きたいと言うのである。
高木は大事な姪御の頼みを聞き入れ、彼女の世話役を探そうと各方面に連絡を入れたのだ。
そして、それは偶然にも平田が上長に大陸を見に行きたいと休暇申請を出した時に重なり、モノはついでという事で半ば強制的に護衛として抜擢された。
なにせ平田の全身義体は見た目愛らしい少女型。
ゴツイSPを付けるより、彼女に無駄な警戒を指せずに済む。
それでいてサイボーグで有る為、多少の荒事にも十分対応できることが、平田がこの仕事を押し付けられた理由でもあった。
だが、それはあくまでも仕事であって、平田がしたかった休暇の旅行ではない。
自由が奪われ、子守を押し付けられた事に平田のストレスは蓄積する。

「平田さん。
連邦英雄ならもうちょっと表情を隠した方が良いよ?
もう一目見ただけで不満たらたらなのが分かっちゃうし」

「え、いやそんな事は無いよ?」

いつの間にやら表情に出ていたようだ。
平田は少々挙動不審になりながらも笑顔を作って否定する。

「本当ですか?
その割には舌打ちが聞こえて来そうな顔でしたけど……」

「そ、そんなこと無いよ?!
それより、ホラ見てマキちゃん!目的地に着いたよ。
自由時間にお土産いっぱい買って帰ろうか!」

ジト目で見つめてくる真紀。
そんな少女の視線にいたたまれなくなったのか、平田はバスが目的地に到着すると急かすようにしてバスを降りた。


「うわ、これは凄いですねぇ」

バスを降り、ツアー指定の屋根付き市場に付いた後、真紀の第一声はそれであった。
メリダが近代的な発展を続ける中で、現地文化と融合した市場がそこにある。
元の地球で例えるならイスタンブールのグランドバザールがそれに近いだろうか。
所狭しと並ぶ商店の数々、様々な小物や日用品が並び、物珍しさに道内からの観光客が次々に目当ての物を買っていく。
そして、それは二人とて例外ではない。

「あ、これ可愛い。
それにこのスカーフも!」

真紀は所狭しと並べられた様々な刺繍の施されたスカーフや小物を見てきゃっきゃと満喫している。
だが、そんな喜ぶ真紀の隣に平田の姿はない。

「ねぇねぇ!平田さんも見て見て!
……って何してるんです?」

真紀は自分の見つけた小物類を見てもらおうと平田を探す。
見れば、平田は通路の向かいの商店で何かを見つめているようだった。

「え?
あ、ごめん。
ちょっとカラスミがすごく安くてさ。
見てよ!一枚1000円だって!買いじゃない?!」

そう言って平田は目を輝かせるが、珍味に全く興味も無い真紀は白い目線でカラスミを見る。

「なんですかそれ?
タラコですか?
……ぜんぜん可愛くない。
ていうか平田さんって全身義体ですよね?食べ物なんて意味ないんじゃ……」

「消化は出来ないが味は分かる!
それに、カラスミはタラコとは違うんだ!
道内でもタラコ原料の偽カラスミは売ってるが、本物は転移後は手に入らないから貴重なんだよ?
そんな高級珍味、嫁に持って帰れば喜ぶこと間違いなしだ!
さとみ……待ってろよ」

そう言って平田は財布からカードを取り出すと、そそくさと数枚のカラスミを買い求める。

「いやぁ、こっちでも電子マネーが使えるのは便利だね。
銀貨やら何やらをジャラジャラ持たなくていいからホント楽だわ」

そう言ってホクホク顔の平田は、カードを真紀に見せびらかしながら、ビニール袋に入れられたカラスミを抱きしめた。
ネットワーク環境下なら単独で使えるカード型電子マネー端末は、既にエルヴィスでは末端の国民にまで浸透し始めている。
最初は貴金属でない通貨の使用に及び腰だった彼らも、余りの利便性の高さに魅了され切っていたのだ。
例え盗まれてもアンロックしなければ使用できないし、何より軽い、充電は太陽光で十分。
そして決済に必要なネットワーク環境は成層圏プラットフォームのお蔭で、既に場所を問わなくなっている。
正に彼等からしてみたら夢の決済手段なのだ。
だが、そんな感動する平田に対して、真紀は「そーですねー」と、そっけない返事して可愛い小物選びに意識を集中している。
興味のない事には心底どうでもいいようだ。

「それにしても、ここまで北海道の物品や制度が浸透してると、なんだか普通の海外旅行みたいだな。
ココが本当に魔法の世界かどうか怪しくなるよ。
治安も凄くいいし」

辺りを見渡してみても、人の多い市場だと言うのにトラブルどころかガラの悪そうな奴らさえいない。
皆が皆、安心しきって生活している様子が伺えた。

「平田さん、治安についてはガイドさんが言ってたじゃないですか。
ここは道内企業の警備部が本拠を置いてるから、安心して良いって。
だから女の子二人で市場をうろつけるんですよ?」

「いや、こっちの中身は女の子じゃ……」

「中身なんてどうでもいいんです。
見た目が女の子なら、他の人もそう扱います。
あと、手が空いているならコレ持ってください」

そう言って真紀は平田に大きな袋をヒョイと渡す。
大きなビニール袋に、中には色々なスカーフや小物類が詰まっている。

「こんなに一杯買って……
近頃の小学生は一体どんだけ金持ってんだよ……」

「別に金額的には大したこと無いよ?
安いからいっぱい買えるだけだし」

「そんなもんかなぁ」

「平田さん、いちいち五月蠅い。
これもお仕事なんだから、我慢してエスコートしてください。
あと、ちょっとお手洗いに行きますからこの店の前で待っててくださいね」

「はいはい」

真紀はそう言って平田を残し、市場のトイレへと向かう。
目的のトイレは、現地人が多く集う市場とは言え、インフラ整備は北海道の監修。
入る前に係員に金を払う有料式のトイレではあるが、その分、実に綺麗な設備だった。
だが、余りに綺麗な設備でリラックスが出来たのか、出てきた時には大切な事まで尿と一緒に抜け落ちていた。

「あれ、どっちから来たんだっけ?」

迷路のような市場の中、こっちかなと?戻って来た所に平田の姿は無かった。
見れば通路の配置は似ているものの、並んでいる店は微妙に違う。

「やば…… 一回戻ろうか」

真紀はそう考え、記憶を頼りに来た道を戻る。
迷っても、あのトイレの位置まで戻れば何とかなる。

……筈だった


「どうしよう…… 迷った」

もと来た道を戻ったはずが、曖昧な記憶を頼りに進んで見ても
一向に先ほど行ったトイレに辿り着かない。
キョロキョロと辺りを見渡し、不安な気持ちを抱いたまま平田を探すが、それらしい影も見つからない。

「どうしよう…… 平田さんが見つから――きゃ!」

不意感じたドンという衝撃に後ずさりする真紀。
一瞬、自分でも何が起きたか分からなかったが、前を見れば、頭を抱えた少年が真紀を睨んでいた。

「痛いなー
お姉ちゃん、前向いて歩かなきゃ危ないよ!」

少年は栗色の頭を摩りながら真紀に抗議する。

「あ、ごめんね。
ちょっとお姉ちゃん道に迷っちゃって」

確かにキョロキョロ辺りを見渡して歩いていたのは自分の不注意だ。
真紀は申し訳なさそうに少年に謝る。

「迷ったの?
お姉ちゃん大きいのに情けないね」

自分より二つか三つくらい年下の少年に情けないと言われカチンとする真紀。
だが、彼女はその言葉に反論は出来ない。
何故なら現在進行形で迷子であるからだ。
だが、言われっぱなしも癪に障る。
真紀は何とか言葉を返そうと考えてると、その隙にワラワラと他の子供が集まってきた。

「タケルくーん。
どうしたの~?」

そう言って声をかけてきたのは、年の頃はタケルと呼ばれた少年と大差無さそうな獣耳の可愛い獣人の少女。
その後ろには、彼女に隠れる感じで獣耳の少年もいる。
恐らくはこの少年の友達なのだろう。

「何かこのお姉ちゃん迷子になったんだって」

「何それー?お姉ちゃん大きいのに変なのー」

少年は事実を何のためらいも無く彼女らに話す。
迷子になり、年下の子供たちにまで笑われる。
真紀は恥ずかしくて逃げたい気持ちでいっぱいになった。

「ちょっと助けてあげようよ」

「えー、そんな事より一緒に遊ぼうよ」

目の前で繰り広げられるタケルと呼ばれる少年と少女のやり取り
見ず知らずの真紀に対して、助けてあげようと提案する彼に、少女は露骨に難色を示している。

「待ってよ、ソフィアちゃん。
ちゃんと後で遊ぶって。
でも今は、このお姉ちゃん送ってからね」

そう言って少年は渋々ソフィアと呼ばれた獣耳少女を納得させる。
まぁ、頬を膨らませているあたり、内心では納得していないようだが……

「……お名前、タケル君っていうの?
ありがとう。お姉ちゃん助かるわ」

真紀はタケル少年の頭を撫でながら、お礼を言う。
そんな彼女に対して、少年は笑顔でそれに応えた。

「お父さんから皆に優しくしなさいって言われているし
それにこの町なら、どこにいてもお父さんの会社の人が助けてくれるから別にいいよ」

「へー。
君のお父さんって、社長か何かなの?」

恐らくタケルと言う和風な名前からして、大陸に進出してきた道内企業関係者の家族なのだろう。
見た目は余り日本人には見えないが、ハーフという線もある。
真紀はそこが気になって少年に聞いてみた。
だが、その質問に答えたのは、先ほどまで頬を膨らませていた少女だった。

「ふふん!聞いて驚きなさい!
タケルくんのお父さんは、メリダで一番有名な石津製作所の社長なんだから!
言っとくけど、この町でタケル君に何かしたら命は無いわよ!」

「なんでお前が威張るんだよ」

まるで自分の事の様に誇らしく自慢する少女に、横にいた獣耳の少年が即座にツッコミを入れる。
だが、それでも彼女の勢いは止まらなかった。

「黙ってて!
そして私はお母さんがソコの社員で、学校も同じ!
これはもう一緒にいるのが当然な幼馴染なんだからね!」

フンと鼻息をならし、勝ち誇ったように真紀を見上げる少女。
その表情は自身に満ち溢れていた物だったが、隣で聞いていたタケル少年は困った表情でそれを見ていた。

「もうー
ソフィアちゃんは何時も変な事ばっかり言ってる……
お姉ちゃん気にしないでね。
それより、どこに送ってけばいいかな?」

ソフィアを無視して会話を進める二人。
真紀にとってはタケルが何者にせよ、平田と合流することが最重要であるからだ。

「あぁ それなんだけどね。
人と逸れちゃって…… 見た目は黒髪の女の子なんだけど、仕草がオッサン臭くて何か珍味を大事そうに抱えてる人なんだ」

「そうかー
人探しなら、ここは迷路みたいな市場だし大変かもね。
待ってて、カノエさんに聞いてみる」

そう言って少年は懐からネックストラップで繋がれた小型タブレットを取り出すと
ソレに向かって話しかけた。

「カノエさん聞いてるー?」

真紀が端末を覗いてみると、画面には一人の女性が映っていた。

「話は聞いてましたよ坊ちゃん」

「この市場の中でさっきの特徴の人探せる?」

「えぇ、その位すぐ出来ます。
ちょっと待っててくださいね」

端末の女性はそう言うと一時的に画面から消える。
だが、そんな遣り取りを見て、真紀は一つ思った事があった。

「……それってAI?
それにしては会話が滑らかと言うか……」

端末の中の彼女は、話は聞いていたと言った。
普通の人間であるなら、ずっと監視でもしていない限りそんなことは出来ない。
ならばタブレットに内蔵された人工知能か何かだと真紀は思ったのだ。

「えーあい?
いや、これはカノエさんだよ。
会社の人で、体が無いからこんな感じでしかお喋りできないけど、物知りな凄い人だよ」

「体が無い?じゃぁAIなんじゃ――」

そこまで真紀が言いかけたその時、端末にパッと女性の姿が再び映しだされた。

「坊ちゃん、見つけました。
市場の反対側の辺りで必死に何かを探しているようです」

「ありがとうカノエさん。
じゃぁ案内して」

タケル少年は満足げにそう言うと、カノエと呼ばれた女性の言葉に従って歩き出す。
真紀はそれを追いかける様に、彼の後に続いて歩いた。
迷路のような市場。
そして目的の平田は移動を続けているのか、カノエからの指示も時々変わる。
そんなせいもあってか、歩いている途中、真紀は彼等と色々な話をする事が出来た。


「へぇ~……
じゃぁ、ここやプラナスに感化された人たちが、更に礼文に向かって押しかけるんですか」

「ええ。
ココやプラナスは北海道の文明の一部が浸透してるし
進出してきた企業の給与は、他で奉公するより遥かに良いから。
そんな中、近代的な文明に魅了されたり、募集定員をオーバーした人達は礼文を目指すわ
より良い環境と職を求めてね」

真紀の質問に、端末越しに話すカノエは的確に答えを返している。
どうやら彼女はタケル少年が言っていたように、凄く物知りな人間のようだ。

「そうなんだ。
なんか、道内で聞いた情報より、現地の人たちって北海道に憧れがあるんですね」

「それはそうよ。
でも、それも良い面だけじゃないわ。
プラナスなんかじゃ、素行の悪い奴らも集まっちゃって大変らしいし。
そして、そんな奴らは礼文に上陸すらできないから、増える一方で減らないらしいの」

困ったモノねとカノエは画面越しに溜息を吐くが、彼女の言葉を聞いて真紀は一つの疑問が浮かんだ。

「え、でも、そうだとすると、悪い人たちが集まるのはココも同じなんじゃ?
だって、北海道への憧れと仕事を求めて集まってくるんでしょう?
ココってむしろプラナスより近代的だし……」

むしろ街路灯に集まる虫の様にワラワラと集まってきそうだと真紀は思った。
だが、その質問に対し、答えたのはカノエでは無くタケルであった。

「それわねー
お父さんが悪い奴からメリダを守ってるからだよ~」

凄いでしょーと言わんばかりの満面の笑みで彼は真紀に自慢する。
えへへーと笑うその顔は可愛さに溢れていた。

「坊ちゃんのいう事は間違ってないわ。
というか、石津製作所が拠点を構える時にやった付近一帯の盗賊狩りや、アーンドラでの働きぶりで
小悪党どもはビビってこの町に近寄らないの。
何せ当時は、社員教育の一環で盗賊狩りやってたし、この付近の悪党は文字どうり絶滅したのよ」

「正義の味方だよねー」

カノエの言っている事は少々物騒であったが
それを自慢するタケルは天真爛漫な笑顔である。
ハーフの男の子、顔立ちも整っている為、その笑顔は異性にとって心惹かせるものだった。

「……かわいい」

真紀の口から思わず言葉が漏れる。

「え?」

「たける君…… ちょっと撫でても良い?」

「ええ!?」

彼にしてみたら、何の脈略も無くハグされ撫でまわされ驚きを隠せない。
だが、そんな真紀にとって幸せな時間は、数秒と続くことは無かった。

「ちょっと、たけるくんに近すぎるわ
もうちょっと離れてよ」

苛立ちを隠そうともせず、タケルと真紀の間に入ったソフィアは強引に二人を引き離す。

「え、あぁゴメンね」

「ふん!」

怒れる少女に真紀も謝るが、ソフィアはぷいっとそっぽを向いた。
だが、少女のその態度を見て、先ほどまで大人しかった獣耳の少年の方が少女に食って掛かる。

「ソフィア。
お前さっきから態度悪いな」

「ヴォロージャは黙ってて!」

空気を悪くする言動を続けるソフィアに遂に怒ったヴォロージャと呼ばれる獣耳の少年。
二人は一触即発な感じでにらみ合うが、今度はそんな二人を見て、タケルが二人の間に入っていく。

「もうー
ソフィアちゃん、今日は一体どうしたんだよ。
もっと仲良くしようよ」

「うぅ…… たける君がそう言うなら……」

タケルの言葉にしゅんと項垂れるソフィア。
彼等を見ていると、ソフィアはタケルに全く頭が上がら無いようだ。

「じゃぁ、マキお姉ちゃんと仲良くね」

「……うん」

「ヴォロージャとも仲直りね」

「…………うん」



こうしてタケルの取り成しにより、ようやく仲直り出来た皆は、思い出したかのように平田のいるところに向かって歩を進める。
途中、先ほどまで真紀が質問ばっかりしていたのとは打って変わって、今度はタケルが真紀に色々な質問をした。

「マキお姉ちゃんは何でこっちに来たの?
お父さんの仕事とか?」

「ううん。
魔法が使える世界ってどんなのかなーって思ってね。
ちょっとお願いして観光ツアーに参加したの」

「何?お姉ちゃん魔法が見たいの?」

「うん。
でも、やっぱり街中で使ってる人は居ないよね」

残念残念と真紀は肩を落とすが、そんな様子を見てタケルは暫し考えた後、真紀に一つの提案をした。

「じゃぁお父さんの会社に見にくる?
魔法の練習してる人とかもいるよ?」

「え、本当?」

「僕達はまだ小さいから教えてもらってないけど
お父さんの会社なら普通に使ってる人いるし」

「……すっごく見たい。
でも、勝手にツアーから離れちゃ駄目だよね
ちょっと聞いてみるかなぁ」

行ってみたい。
好奇心に駆られるが、同時にあまり勝手な行動は出来ないと自制心が働く
真紀はどうした物かと真剣に悩んでいると、そんな悩みなど忘れさせるような大声が市場に響いた。

「あ!いたいた!
こらぁ!どこ行ってたんだよ!!」

ギョッとして声の方向を見ると、平田が大慌てで此方に走ってきた所だった。

「ごめんなさい。
ちょっとトイレの出口間違ったら迷っちゃって」

「全く、本気で心配したよ。
……で、その子たちは?」

ふぅっと平田は安堵のため息を吐くと、同時に真紀と一緒にいる子供たちを見た。

「ここまで送ってくれたの。
何でも石津製作所の子達なんだって」

「……石津?」

その会社名を聞いて、平田の頭に礼文での一件が頭によぎる。

「こんにちは
僕、タケルっていいます。
お姉ちゃんが真紀お姉ちゃんの探してた人?」

平田はお姉ちゃんと言われ、否定したくもなるが、ここはあえて黙っていた。
なにせ、見た目はその通りなのだから。

「え、ああ……そうだよ」

「マキお姉ちゃんが魔法を見たいって言ってるんですけど
一緒にお父さんの会社に来ますか?」

平田はタケルの言葉に、はぁ?!っと口を開けたまま真紀を見た。

「魔法ぅ?それに会社に行くって何だよ?」

「お願い。ちょっと見てみたいの」

真紀は両手を合わせてお願いのポーズをとる。

「いや、自由時間は半日くらいあるけど、勝手にココを離れたらダメだろ。ツアーだし」

そんな勝手に離れる事なんか出来はしない。
平田はそう言って諦めさせようとするが、横で聞いてた子供らは、平田達の話に口を挟む。

「でも、お父さんの会社はそんな遠くないよ?」

「歩いて10分くらいだよね」

タケルとヴォロージャは二人そろって市場の外を指差す。
そしてそんな二人の言葉にタイミングを合わせて、真紀は平田に胸の前で手を組みながら懇願の視線を送る。

「……お願い。平田さん」

女の子のお願い攻撃、そして目的地は然程離れていないという事実と、実は平田も見てみたいと言う興味。
それらが平田の脳裏を駆け巡り、うーんと数分唸った後、遂に平田は折れたのだった。

「……仕方ない。
待ってろ、ちょっとガイドさんに聞いてくる。
だけど、あんまり期待するなよ?」

「やったぁ!」

「けどガイドさんが駄目だって言ったら、駄目だからな。
そこは忘れるなよ?」

「はーい!」

平田はそう真紀に話すと、ガイドを探しにバスの所まで駆けて行く。
護衛対象をイレギュラーな事態に巻き込むのは得策ではないが、未だ葛藤する感情の中
平田は色々と悩むことを諦めることにした。

「まぁ、もともと大陸で一番見てみたい物だったし……
丁度良かった……のかな?」

市場の喧騒の中、誰も聞くことのない独り言を呟き、平田はバスへと走るのだった。


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