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No.29737の一覧
[0] 試される大地【北海道→異世界】[石達](2012/11/29 01:19)
[54] 序章[石達](2012/11/29 01:05)
[55] 起業編1[石達](2012/11/29 01:06)
[56] 起業編2[石達](2012/11/29 01:07)
[57] 起業編3[石達](2012/11/29 01:08)
[58] 国後編1[石達](2012/11/29 01:08)
[59] 国後編2[石達](2012/11/29 01:09)
[60] 転移と難民集団就職編1[石達](2012/11/29 01:09)
[61] 転移と難民集団就職編2[石達](2012/11/29 01:10)
[62] 礼文騒乱編1[石達](2012/11/29 01:10)
[63] 礼文騒乱編2[石達](2012/11/29 01:11)
[64] 礼文騒乱編3[石達](2012/11/29 01:11)
[65] 礼文騒乱編4[石達](2012/11/29 01:12)
[66] 戦後処理と接触編1[石達](2012/11/29 01:12)
[67] 戦後処理と接触編2[石達](2012/11/29 01:13)
[68] 嵐の前編[石達](2012/11/29 01:14)
[69] 北海道西方沖航空戦[石達](2012/11/29 01:14)
[70] 大陸と調査隊編1[石達](2012/11/29 01:15)
[71] 大陸と調査隊編2[石達](2012/11/29 01:16)
[72] 大陸と調査隊編3[石達](2012/11/29 01:16)
[73] 魔法と盗賊編1[石達](2012/11/29 01:17)
[74] 魔法と盗賊編2[石達](2012/12/08 01:24)
[75] 決戦[石達](2012/12/08 01:20)
[76] 盗賊と人攫い編1[石達](2012/12/31 22:47)
[77] 盗賊と人攫い編2[石達](2013/01/19 21:24)
[78] 盗賊と人攫い編3[石達](2013/01/19 21:23)
[79] 道内情勢(霧の後)1[石達](2013/02/23 15:45)
[80] 道内情勢(霧の後)2[石達](2013/02/23 15:45)
[81] 外伝1 北海道航空産業の産声[石達](2013/02/23 15:46)
[82] 東方世界1[石達](2013/03/21 07:17)
[83] 東方世界2[石達](2013/06/21 07:25)
[84] 東方世界3[石達](2013/06/21 07:26)
[85] 幕間 蠢動する国後[石達](2013/06/21 07:26)
[86] 東方世界4[石達](2013/06/21 07:27)
[87] 東方世界5[石達](2013/06/21 07:27)
[88] 東方世界6[石達](2013/06/21 07:28)
[89] 東方世界7[石達](2013/06/21 07:28)
[90] 世界観設定[石達](2013/06/23 16:49)
[91] 人物設定[石達](2013/06/23 16:57)
[92] 東方世界8[石達](2013/07/15 01:51)
[94] 帝都ティフリス1[石達](2013/08/09 02:02)
[95] 帝都ティフリス2[石達](2013/08/12 00:21)
[96] 帝都大脱走1[石達](2013/09/23 00:16)
[97] 帝都大脱走2[石達](2013/09/22 22:47)
[100] 帝都大脱走3[石達](2014/02/02 03:03)
[101] 対エルフ1[石達](2014/02/02 03:03)
[102] 対エルフ2[石達](2014/02/05 22:45)
[103] 対エルフ3[石達](2014/02/05 22:45)
[104] 対エルフ4[石達](2014/02/05 22:46)
[105] カノエの素性1[石達](2014/02/05 22:46)
[106] カノエの素性2[石達](2014/02/09 13:13)
[107] 別れ、そして託されたモノ1[石達](2014/02/09 13:14)
[108] 別れ、そして託されたモノ2[石達](2014/02/09 13:16)
[109] 決意[石達](2014/02/09 13:42)
[110] 新しい風[石達](2014/04/13 10:41)
[111] 交流拡大、浸透と変化1[石達](2014/04/13 10:41)
[112] 交流拡大、浸透と変化2[石達](2014/06/04 23:46)
[113] 交流拡大、浸透と変化3[石達](2014/06/04 23:47)
[114] 交流拡大、浸透と変化4[石達](2014/06/15 23:55)
[115] 交流拡大、浸透と変化5[石達](2014/06/15 23:55)
[116] 平田、大陸へ行く1[石達](2014/08/16 04:02)
[117] 平田、大陸へ行く2[石達](2014/08/16 04:02)
[118] 対外進出1[石達](2014/09/14 08:19)
[119] 対外進出2[石達](2014/08/16 04:04)
[120] 対外進出3[石達](2014/10/13 01:58)
[121] 回天1[石達](2014/10/13 01:59)
[122] 回天2[石達](2014/10/14 20:24)
[123] 回天3[石達](2015/01/18 08:20)
[124] 回天4[石達](2015/01/18 08:24)
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[29737] 交流拡大、浸透と変化2
Name: 石達◆48473f24 ID:bd0b9292 前を表示する / 次を表示する
Date: 2014/06/04 23:46
エルヴィス公国主催夕食会

その名前からもわかる様に、これはエルヴィスが主催する晩餐を共にすることで出席者の親睦を深めるためのパーティだ。
ただし、それは表向きの話……
実際の所、料理とポーカーフェイスに隠された駆け引きの場。
外交における戦場の一つである。
そして今日、礼文島に置かれたエルヴィス公国の領事館がその役目を担っていた。

北海道に置かれたエルヴィス公国第一号の領事館。
それは、立地は新たに礼文北部に造成された土地の中でも一等地にあり
外観は北海道の建築基準で建てられた現代的な見た目の建物であったが、その内装は自国から持ってきた煌びやかな調度品が並ぶ絢爛豪華な作りであった。
特に夕食会の会場である大広間は、真っ白な漆喰に金銀の彫金が埋め込まれ、その豪華さが際立っている。
それに加え、注目すべきは中心の大きなテーブルだ。
重厚な作りのテーブルに溢れんばかりの料理が盛られている。
子羊の丸焼きから、手の込んだ魚の煮込み料理等々、見た目重視で作られた料理の数々だ。
それらはコース料理のように次々運ばれてくるのではなく、最初からドンと全てがテーブルに広げられている。
途中で料理が冷めようと関係なく、一度にどれだけ揃えられることが出来るのかがこの世界では重要なのだ。
山と盛られた豪華な料理。
その圧迫感は物凄い。
そして、只でさえ豪華さのてんこ盛りであるテーブルに、今日はその圧迫感に輪をかけているの人間達がテーブルを囲っているのだ。
テーブルの席次は、部屋の入り口側の中心、ホストの席にクラウスが座り、その対面に高木、そしてその横をネウストリア教皇領、セウレコスの使者。
そしてクラウスの両サイドにゴートルムとアーンドラ亡命政権の使者が座っている。
その誰も彼もが自国の最高級の民族衣装に金銀の装飾をゴテゴテと飾っており、料理も含めてテーブル周りは装飾過剰と言っても過言ではない。

「なんだか、見ているだけでお腹一杯になりそうね」

テーブルに着く高木は思わずそう呟く。
眼前の料理だけではなく、参加者一同も含めてそうなのだ。
だが、高木のそんな思いも列席する皆には通じない。
何故なら、彼らにとってみればコレが普通なのだ。
なので、見ているだけでお腹一杯という高木の発言も、彼らは女性には料理の量が多いというそのままの意味で捕えている。

「大統領閣下。
この程度、本国のに比べたらこじんまりした物ですよ?
まぁ でも、この地は食材が素晴らしい。
量を確保できなかった分は、料理の味で補いたいと思いますのでご容赦を……」

「あら、クラウス殿下。
ご心配ありがとうございます。
ちょっと食習慣の違いに戸惑っただけですわ。お気になさらないでください。
わが国では、こういった夕食会の形式の会食となると、一皿づつ出してくる形式が主流な物で少々驚いただけです」

それに、流石にあんた等の格好も装飾過剰だとは言えない。
高木は、あえてクラウスの話に合わせて会話を続ける。

「あぁ コース料理というヤツですね。
私も何度か経験があります。
確かにあの形式は料理が暖かいまま食べれるので素晴らしいですが……
でもやっぱり、個人的な好みでいうと此方の形式が好きですね。
何と言っても見た目が素晴らしい」

「確かに盛り付けにも技巧を凝らした料理ばかり……
目を楽しませると言う意味では、こちらも面白いですね」

「でも、美しさで言えば大統領閣下の前には、このような料理も色を失いますね。
閣下自身の美しさに加え、素晴らしいドレスと宝石に身を包んだ出立は、まるで極上の宝物のようだ」

「まぁ 殿下ったら。
お世辞がお上手ね」

そう言って、料理の話から自然に高木を褒める様に話を持って行くクラウスに高木はニヘっと笑みを返す。
若く、玉無しゆえ中性的な美しさ魅力の漂うイケメンのクラウスに褒められ、高木も嬉しいのだ。
そもそも高木は、今回の夕食会の為に気合を入れて準備したから尚更だ。
何故なら、今回の夕食会は非公式ながら一部の国の代表達が顔を揃える。
下手に質素な格好をしていくと、財力が無いとみなされ舐められるのだ。
しかも、こちらの世界には転移前の地球のファッションセンス等通用しない。
流行のスタイルのドレスだからと言っても、何の役にも立たないのだ。
役に立つのは、目に見えて分かりやすい豪華さ。
今の高木の格好は、それを重視した物となっている。
現代服飾技術の粋を凝らした紺色のイブニングドレスは、高木が大枚を叩き自費で買ったものだが、宝石類は違う
道内宝石店の中で最上級の品々を大統領権限で借り上げてきたものだ。
その煌びやかさは、各国の使節の面々を比べても遜色はない。
むしろ加工技術の差から勝っていると言って良いだろう。

「いや、クラウス殿の言うとおり。
閣下の自前の美しさもさることながら、ドレスも全てが素晴らしい。
貴国で作られるものは、全てが熟練の職人が舌を巻くほどの出来だ。
服、装飾品から日用品に至るまで、我が国での人気はうなぎ登りですよ。
出来れば後日、主要な商会を個人的に紹介して頂けると嬉しいですな。
折角、こうしてこの地まで出向いたのですから、何かしらの土産品も得たいですし」

そう言って大仰に笑ったのは、ギリシアとアラブの衣装を混ぜたようなゆったりとした衣装を纏う中年の男。
彼の名は、セウレコスからの使者 ケバヴィ・シシャリクである。
夕食会前に高木が得た事前情報によると、セウレコスは国土の大半が乾燥地帯であり、農業等よりも交易などの通商で国を維持しているそうだ。
通商を重視してるが故、かの国では金の力こそ権力の源であり、言い換えるなら金さえあれば爵位も買える国なのだ。
貴族であろうと何かしらの商人である事が普通であり、中国清朝末期の高官の様に国家間交渉に私情を絡ませる事もあるとの事。
事前説明をした秘書官は、彼を袁世凱か李鴻章だと思って事に臨めと助言していたが、どうやらその言は正しいようだ。
この機会に何らかの商機を見いだそうと高木を目ざとく観察しているのが、彼の態度からよく分かる。

「そうですか。我が国の品々が人気とは嬉しいですね。
後で、何社かご紹介するよう言っておきます」

高木はそう言ってケバヴィに微笑む。
別に紹介程度であれば特に面倒では無いし、政府の管理下で交易している分には何の問題もないのだ。
それに彼が本当にセウレコスの李鴻章のような人物なら、贈賄で此方の利益の為に動いてくれるだろう。

「おぉ!それは嬉しい!
出来れば造船関係を紹介くださってもよろしいかな?」

だが、高木の言葉にケバヴィは両手を広げ大袈裟に喜んだ。
その様は、まるで素晴らしい幸運が舞い降りたかのようである。
あまりの喜び様に一瞬高木は呆気にとられたが、彼の一言に直ぐにその真意を察し、眉を潜ませ残念そうに彼に告げた。

「それは良いですけど、注文の横入れはお受けかねますよ?
我が国は基本的に各国共に機会均等が基本ですので、紹介位までなら出来ますが、引き渡しに関して特別な便宜は図れません。
何せ各国の王族クラスの方々まで順当にお待ちしている状況なので……」

仮に注文の横入れをねじ込んだ場合、割を食う彼より地位の高い顧客に睨まれてしまう。
年単位の納期待ちに加え、納期遅れとなればクレームは物凄いだろう。
それくらい関係者が注目し、ケバヴィがコネの欲しがる北海道の造船業界。
それは今、この世界の海運業界で話題の的となっていた。
従来、この世界の海運における長距離・大量輸送の主流は、キャラック船のような大航海時代を髣髴とさせる木造船であった。
それが近年、それらより遥かに巨大な船が姿を現したのだ。
中でも一番目立つのは、転移後に北海道で建造されたパージキャリア。
SeaBeeシステムという巨大な母船に、多数の輸送用艀を収納した巨大船である。
これは、コンテナ船が普及する以前、近代的な設備の無い湾港でも運用できる事を目的に開発された船種であった。
海運システムの過渡期に作られ、忘れ去られたシステム……
それは、搭載する艀の規格を小型化、より多数搭載できるようシステムを改良した末に、転移後の世界では北海道にとって最も重要な船種になった。
なぜなら、北海道以外にコンテナ設備を使える港が無いのである。
故に、艀の運用に十分な水深が有れば、どんな港でも使えるパージキャリアは、この世界に於いて息を吹き返したのだ。
だが、パージキャリアは北海道以外に運用している国はない。
それらは燃料やメンテナンスの面で道外での運用が難しく、そもそも輸出が規制されていたからだ。
では、各国の注目する船は何か。
ケバヴィを始めとする世界の海運業者が注目するのは別の船であった。
それは、この世界で馴染みの深い帆船。

『ウィンドジャマー』

帆船として大量輸送に携わった最後の船種。
1950年代まで使用された鋼鉄の船体を持つ帆船だ。
鋼鉄の船体は積載量の大幅な増加を可能にし、推進力は帆走で得る為、燃料は要らず、なにより従来の船乗りがそのまま使えたのは重要なセールスポイントだった。
各国の海運事業主は、新たに市場に投入された船に驚き、そして唾を飲んだ。
従来船のどれよりも大きく、頑丈で、大量の積み荷を運べるのだ。
価格こそ高めではあるものの、その性能に比べれば易いものだ。
かくして、各国の名だたる海運業者はこぞって北海道にウィンドジャマーを発注するのだが、それはそれで別の問題を発生させている。
供給を大幅に上回るバックオーダー。
新たな造船所の建設を行ってはいるものの、現在の北海道では、毎日フル操業で建造が行っても納品は何年も先になる状況が生まれてしまった。
最近では、苦肉の策として浸水までの作業は北海道で行い、最終偽装は各国の造船所で行う形態が生れてきたほどだ。
そんなこんなの状況もあり、高木はケバヴィが造船業を紹介してほしいという依頼に、紹介はできてもそれ以上の便宜は図ることは出来ない。
なにせ船が欲しいと言う注文主の中には、ケバヴィより高い地位にいるものもゴロゴロいるのだ。
下手な便宜を図ると、そっちの方面から睨まれかねない。
だが、ケバヴィもそこまで簡単に物事が上手くいくとは思っていないようだ。
彼は、高木に釘を刺されると、太ももを叩きながら大笑いする。

「ムハハ、いやまいった。
何とも手厳しい。
では、造船ではなく他の業種を「ケバヴィ殿。商いはその辺で控えたらどうかな?」……」

なおも自身の商売に繋がる話を続けようとしたケバヴィの声を。ネウストリア教皇領からの使者 ロベスピ・エール枢機卿が遮る。
彼は、自身の商売の話ばかりするケバヴィを諌めると、言い聞かせるようにケバヴィに言った。

「今日は別にあなたの商売の為に集まった訳ではない。
高木閣下と親睦を深める為にここに来たのだ」

「そうとも、折角こうして会食出来る機会にまでそんな話をする事は無いではないですか」

そう言ってロベスピに同調するのは、ゴートルムからの使者 ミゲル・バカリャウ。
伯爵位を頂いてはいるが、列席している中でも最年少の青年貴族である。
外交の場に登場するには些か歳が若すぎる様に思えるがそれには理由があった。
サルカヴェロとの戦乱で、エルヴィスとの敗戦の汚名を返上しようと奮い立っていたゴートルム貴族たち。
だが、そんな彼等へのサルカヴェロの対応は、余りに無情な鉄の雨であった。
貴賤の区別なく命が消費され、銃弾と砲撃により参加した貴族もかなりの数が戦死した。
その結果、当主が死に世代交代が起った家が多数発生し、中には摘子全員戦死により断絶する家も有ったほどである。
そんな情勢の中、彼は若くしてその地位を得たのだ。
歳は若けれど伯爵位。
序列は高く、周囲も世代交代した貴族の若殿が増える中にあって、彼が使者として願い出たのに止めれる人間は少なかった。
熱意溢れる目でゴートルムの女王に懇願し、あれよあれよと言う間に承諾を取り付け、彼は北海道に乗り込んできていた。
そんな彼は、商魂逞しいケバヴィと不機嫌なロベスピの話に割って入ると、キラキラと輝く目で高木を見つめて語りだした。

「私としては、閣下ともっと崇高な会話をするために時間を使いたい。
何せ北海道には、実に興味深い変わった思想が溢れています。
最近は、我がゴートルムにも北海道の訳書が出回って来まして、青年貴族のサロンではその話で持ちきりです。
無知な人民を啓蒙し導くのは、上に立つ貴族の役目だという思いに皆目覚めさせられましたから。
私もかつては恥ずかしながら、私は領民の暮らしなど気にも留めていませんでしたが、サロンで話題になる色々な訳書を読むうち己の使命に気付きました。
領民と言えど同じ人間。
人間として幸福を追求し、社会の質を高めれば、おのずと国も豊かになる。
そして、盲いた民を導くことが民衆の上に立つ貴族の使命です!
最近では、我が国のうら若き女王陛下も異界のマリア・テレジアなる人物の伝記を熱心に読んでるようですし、過去に不幸な出来事があったにせよ我がゴートルムは北海道との友好と知的交流を何より望んでいるのですよ。
なので、今日は閣下の素晴らしき政治哲学について是非とも聞かせて頂きたいのですが、いかがでしょう?」

そう言って、期待に満ちた目で高木を見つめるミゲル。
若さ故なのか、その様子は天下国家を語る事に至上の喜びを見つけた青年そのものであった。
誰しも政治に興味を持つとそう言った事を語りたくなるもの……
だが、今はそのような時ではない。
高木は、面倒くさがる内心を表情に出さぬよう、丁重に断りを入れる事にした。

「あ~……
伯爵に興味を持たれるのは嬉しいのですが、それを話すには今日は時間が足りません。
なので、また後日に致しませんか?」

やんわりと断る高木。
だが、言葉がやんわりに過ぎたのか、その拒絶の言葉もミゲルはポジティブに受け取った。

「おぉ!
ありがたい!
後日、時間と取ってくれるのですね!
是非ともお願いします!!
で、いつ頃にしましょうか?」

予想外の事に高木は言葉に詰まる。
同時に、拒否されてる空気も読めない若造を使者として送り込んだゴートルムに苛立ちを覚え
さて、どうしようかと考えていると、思わぬところから声が上がった。

「バカリャウ殿もいい加減にしないか!!
閣下が困っているだろう」

ロベスピの怒りの声が辺りに響き、その声に静まり返る一同。
彼は全員が黙った事を確認すると、呼吸を落ち着けて静かに話し出した。

「閣下、お騒がせして申し訳ありません。
何せ北海道の出現は、二千年以上にわたり大陸を支配してきた我々にとって、実に興味深い出来事なのです。
歴史を紐解けば、過去に小規模な蛮人の集団が転移してきた事は有りました。
ですが、それは人間だけ。
そして、そのいずれも滅ぶか吸収されるかしました。
我々の知る限り、国土ごとというのは初めてであり、しかも北海道は蛮人と違い素晴らしい技術、文化、知識をお持ちだ。
我々の思いとしては、今後、この世界で共に暮らす仲間として共に歩んでいきたい」

ロベスピの落ち着いた言葉は、高木の胸を打つ。
キナ臭いこの世界で、共に歩んでいきたいと言う言葉は非常に重く感じるのだ。

「……枢機卿。
その気持ちは我々も同じです。
平和と共存こそ、繁栄の道ですから」

高木の言葉に一同は静かに頷く。
誰しもその言葉に異論はない。
各々が言葉を噛みしめる中、ケバヴィが盃を持って皆を見渡す。

「……平和と共存。
実に良い言葉だ。
皆さん。今宵の乾杯の言葉はいつもの神への賛辞ではなく、これにしませんか?
北海道もイグニスの教えを広めるのを受け入れてくれたといっても、日が浅いですし」

「それは良いですね」

「ええ、私も構いません。
ですが、いつの日か閣下が一緒に神への賛辞を唱えられる日を心待ちにしてますよ」

そう言って、にっこりと笑うミゲルとロベスピ。
その表情は、北海道がいずれイグニス教に教化されると信じて止まないものであった。
そもそも、北海道がイグニス教に門戸を開いていなければ、ここまで平和的な待遇もなかったであろう。
彼らは将来的に北海道もイグニス教の庇護下に入ると期待しているのだ。
だが、いくら浸透しようと国教化なんてする気の無い高木には、その笑顔は痛い。

「え、えぇ」

やんわり返事をするものの、国教にする気などさらさら無いのだ。
だが、そんな高木の内心を無視して皆は各々の手にグラスを持つ。

「それでは……
我らの平和と共存に、乾杯!」

「「乾杯」」

ホストであるクラウスの声に続いて、一堂が唱和する。
こうして今宵の夕食会は始まりを告げた。







食と酒も進み、夕食会も予定の時間の中程まで来た頃だった。
和気あいあいとした雰囲気の中、ロベスピは笑顔のまま高木に声をかけた。

「ところで閣下……
現在の所、北海道とサルカヴェロに繋がりが有るのは知ってますが、手を切る……というお考えはございませんか?」

「サルカヴェロとですか?
……残念ながらそういった考えは無いですね」

「ですが、我々は同じ人族の国同士……
亜人の統べる国とは手を切って、同族同士で仲良くというのは自然ではないですか?」

「ですが、我々は彼の国から輸入する資源に頼っている所も有りますので……
特に鉄鉱石は国内でも取れますが、十分な量とは言えず、大量に採掘しているサルカヴェロに頼っている部分が有るのですよ。
もし、鉄鉱石の供給が止まれば、諸国に輸出している船舶などの生産も滞りますよ?」

「では、我々から鉄鉱石を輸入すれば……」

「残念ながら、ツルハシで掘る鉱山と初歩的ながらも機械化された鉱山では産出量が違います。
現状では、各国から輸出されても我々の満足な量は確保できないでしょう」

イグニス教諸国の伝統的な手掘りVSサルカヴェロの初歩的な蒸気機関と爆薬を用いた鉱山。
その生産量は桁違いであった。
量、コスト共にイグニス教諸国の鉱山がサルカヴェロに勝る点は無い……

「……」

「歯がゆいですな。
敵の交易を止めると我が方に入ってくる物資まで止まるとは……」

「その為には、北海道から機械や規格を導入し国内生産量を増大させれば宜しいではありませんか。
皆様が原料を生産し、北海道が機械を作る。
やがて双方の生産量は雪だるま式に拡大し、富が溢れるようになる素晴らしい分業制度だと思いますけど」

そう言って高木はニッコリと笑う。
彼女の言う原料と機械製造の分業体制……
それは転移前の日本とオーストラリアの様な関係を指していた。
双方WIN-WINな関係で交易量を増やし、資源と市場を獲得する。
高木の目的はソレだった。
文明維持に資源が必要なのは分かり切った事だが、経済を維持するには資源だけではなく市場も要る。
一般に、国が内需のみで現代経済を維持するには1億の人口が必要とされているが、北海道にそこまでの人口は無い。
資本主義経済を維持するには、外需に頼るしかないのだ。
ドンドン輸出し、国が潤えばその分の富を新たな投資に使える。
北海道としても早く統制経済を脱し、正常な市場経済に戻る為には有望な市場が必要なのだった。
だが、北海道が産する鉱物資源は、最低限の文明維持は出来てもバンバン輸出できるほどには量は無い。
仮に市場を確保した所で、経済の拡大にはどうあっても資源の輸入が不可欠であるのだ。
だが、そんな輸入と外需が必要とされる中でも、交易品の統制は依然厳しい。
特に生産設備に繋がる様な品目は特に顕著だ。
無分別な輸出の末、この世界に経済が急拡大した荒ぶる中国のような存在を作る事は避けねばならない。
どれだけ先端機器を生産していても、所詮北海道は小国。
各国が育ち、中国の様な存在が台頭してくれば。駆逐されるのは時間の問題である。
よって各国の成長もコントロールできるよう、現在、生産に関わる設備の輸出は、原材料の生産用か北海道の産業と競合しないもの、または北海道で生産するには非効率なものに限っていた。
と、そんな訳で、北海道としてはサルカヴェロは原料供給の生命線と言ってもよく、手を切るわけにはいかなかった。

「……むぅ」

ロベスピは低く唸る。
北海道を自陣営に引き込みたいが、普通に勧誘しても無駄だと踏んだのだ。
かれは自分の顎を人撫ですると、今度は違ったアプローチから高木に願い出ることにした。

「ここまで語った以上、普通に依頼しても無理なのは分かっているが、
それでも今回の戦争に是非とも対サルカヴェロで北海道の協力を頂きたいと言ったら……ご協力頂けるか?」

「何度も言っているように無理な話です。
そもそも我々にはサルカヴェロと敵対する理由が無い」

「無論タダとは言いません。
王族の滅んだアーンドラで、現時点でサルカヴェロに占領されている地域の領有権が手土産です」

キリッと見つめながらそう告げるロベスピに高木は愕然と驚く。
一瞬、タチの悪い冗談かとも思ったが、彼の目を見てそれが本気であると悟る。

「それは……
あなた方の国土では無いでしょう?
そんな勝手な事が…」

「まぁ 無条件の領有ではありません。
未だかの地で戦っているアーンドラ貴族の所領安堵が条件です。
もし、北海道がアーンドラからサルカヴェロを追い出すなら、閣下は北海道とアーンドラの二重王国の女王となるのを各国は承認します」

その言葉を聞いて、高木はくるっと首を回してある人物を見た。
浅黒い肌をした男、ナン・カレーシャ。今日の夕食会でアーンドラからの人間も参加しているのである。
参加者の中では一番身分が低いため、乾杯と夕食会前の自己紹介以外一言も話しては居ないが、彼は国が崩壊したアーンドラの抵抗軍から代表として派遣されてきている。
そんな彼を前にして、何を言っているのかと高木はロベスピの言葉を疑った。
だが、事前にそんなロベスピの言葉を知っていたのか、彼は微動だにしない。

「あなたはアーンドラの方でしょ?
それでも良いんですか?」

自国を売り渡す。
そんな提案が他国からされている。
それについて何とも思わないのかと高木は問う。

「……」

だが、高木の質問にもナンは微動だにしなかった。
暫くの沈黙の後、彼はポツリポツリと喋り出した。

「既に忠節を誓うべき王家の血統は絶え、残された守るべきモノは自領のみ……
閣下が義挙に応じてくれるなら、永久の忠節を誓いましょう」

未だ貴族制が色濃く残るこの世界では、ナショナリズムは然程濃くない。
国家と言えば主君であり、それが滅亡したとなっては国が消滅したも同義なのだろう。
あとは自分の領地を守らねばならないが、今のアーンドラ、しいてはイグニス教各国にその力はない……

「……想いは分かりましたが、なぜ我が国なんです?
このような小さな国に期待しすぎでは無いですか?」

直接的な戦闘に巻き込まれるのは迷惑極まり無い。
そもそもミサイルの量産が始まっていない為、弾薬備蓄量的に北海道の継戦能力は著しく低下しているままだ。
そんな実情を言えはしないが、変に期待されるのも困るというもの。
それに枢機卿は、北海道に与えられるのは現在のサルカヴェロ占領地と言った。
現時点で各国が進駐しているアーンドラ領は含まれない。
自国の取り分は確保しておき、敵の取り分を揉め事ごと放り出そうという都合の良い魂胆が感じ取れる。
高木はそんな申し出を受けるわけにはいかない。
彼女は申し出を断りにかかるが、そんな高木に真剣な眼差しをしたミゲルがしかと見つめて言う。

「閣下、国の強さは国土の大きさだけでは決まりません。
良い忘れてましたが、私は見たんですよ。
ゴートルム王家の箱舟が炎に包まれる様を。
……あの日、あの海上から。
あれだけの力が有ればサルカヴェロを退けるのも容易いでしょう」

「それは……」

これには高木も答えに窮した。
何故なら、各国ともに北海道の弾薬備蓄状況など知りはしない。
最初のゴートルムの侵攻でミサイルは払底し、再侵攻があれば危ういなどと知る者はいないのだ。
彼等が知っているのは、北海道がゴートルムの箱舟を退けた事実のみ。
彼らは北海道が未だ強大な軍事力を温存していると思っているのだ。
サルカヴェロの侵攻を覆すには、北海道の力が決め手になると彼らは信じて疑わない。

「閣下、今のところ、戦況をひっくり返すには他に頼れる手は無いのですよ。
我がセウレコスを始め各国の財政は戦費でギリギリの状態。
それに、一番国力の大きいキィーフは何故か戦役に本腰を入れない…」

淡々と語るロベスピ。
その表情には、焦りと諦めの混ざった様な色があった。
どうやら戦況が好転しないのは、純粋に軍事的な側面以外にも理由があるらしい。

「もしかしたら、キィーフとサルカヴェロの間に密約があるのかもしれない。
かの国が防衛を担当すると言い出した領域は、アーンドラでも有数の茶の産地だ。
進駐の迅速さと、その後の停滞ぶりを見れば、誰だってそう考えるさ。
それに、サルカヴェロがアーンドラの箱舟を落とした手際の良さ…… 奇襲だったにせよ、誰かが内部構造を漏らしたとしか思えないな」

苦々しい顔つきでそう補足するのはケバヴィ。
どうやら彼もこの場にいないキィーフに対し不信感を持っているようだ。

「最早、援軍として期待できるのは閣下だけなのです」

ケバヴィの苦々しい表情を背に、ロベスピは高木の手を取り説得する。

「……」

返答のしようの無い説得に、口を噤んで黙り込んでしまう高木。
そんな彼女を見て、それまで口を閉じていたミゲルが高木に決断を迫った。

「閣下!」

訴えかける様にジッと高木を見つめるミゲルの目。
他の面々も同じように高木を見つめる。
一体何秒そうしていただろうか。
ほんの十数秒の事ではあるが、高木には流れ出る冷や汗が全身、下着に至るまで全てを濡らしてまだ余りあるくらい長く感じた。
どのような条件を出されようと、これを受けるわけにはいかない。
そして、現時点ではどちらかに完全に肩入れするわけにもいかない。
いまは全ての陣営に良い顔をしつつ、最大限の資源援助を貪りたいのだ。
高木は現時点では参戦は無理だと断りつつ、未来に於いて可能性を含ませて答えた。

「……大変申し訳ありませんがその申し出はお受けする訳には行きません。
あと、理由をお話しする前に、一つお言葉を訂正させて頂きます。
枢機卿は私に二重王国の女王になれとおっしゃりましたが、この北海道は人民に選ばれた大統領の治める国です。
女王ではありません。
平和を愛する北海道の人民の代表です。
どんな大義を掲げても、現時点では人民は戦争参加を許さないでしょう。
まぁ 人民が戦争による領土拡大を望めば別ですが……」

最後に可能性を滲ませた高木の答えであったが、それは彼らの望む答えではない。
彼等は自陣営に付く言質が欲しいのだ。
高木ののらりくらりとした回答に、ミゲルは声を荒げる。

「ですが!」

「それに、戦争に参加出来ない根本的な理由として
小国故にサルカヴェロを陸戦で追い出す兵力が充分でないのと、遠隔地へ遠征出来るほどの兵站が持ちません。
我々の軍事力は本土防衛に関しては絶対の自信がありますが、必要最小限の規模しかありませんので」

遠征にかかる兵站の負荷。
これは今回の戦役で各国ともに嫌になるほど思い知っただろう。
高木のその言葉に、誰もそれ以上の無理強いは出来ない。
只一人、アーンドラから来たナンを除いて……

「……それは、どうあっても協力していただけないと?」

参戦を渋る高木にナンは尚も尋ねる。
だが、そんな彼に対して高木は諭すように言う。

「戦争以外でなら協力出来ることもあるでしょう。
例えば、エルヴィスに北海道の技術を使った繊維・衣類工場を次々建設中です。
これが全て稼働すれば、エルヴィスの国力増加の手助けになりますわ。
何せ受注頂いた建設計画の20%しか工場は完成していませんが、それだけで従来のエルヴィス領内の繊維生産量を遥かに超える生産力の増強になりましたもの。
そんな訳で、我々には参戦は無理ですが、各国に技術的な援助は出来ます。
折角の停戦で時間が稼げたのです。
今は将来に向けて力を蓄えるべき時ではありませんか?」

ナンを見つめ、そう返答した高木にナンはそれ以上食って掛かる事は無かった。
暫しの沈黙の後、ナンは頭を下げて高木に詫びる。

「…………そうですか。
いやはや閣下にはご無理を言って申し訳ありません。
我々は停戦交渉の為にこの地に集まったとは言うものの、よしんば閣下の協力が獲られればという欲も有りましてね。
この停戦……5年10年続くか分かりませんが、アーンドラ解放の為に力を蓄える雌伏の時としましょう。
閣下の言うとり、今の我々に力が足りない。
再戦に向けて力を蓄えなければならないのは事実です」

「ご期待に添えなくてごめんなさい。
でも、ご協力出来そうな事が有ればさせて頂くわ」

「……なれば閣下。
恥を忍んでお願いします。
我々に船を頂けませんか?」

「船、ですか?」

ナンの申し出に高木は首を傾げた。

「元々アーンドラの民は、中小の船を使った荷運びを生業とするものが多っかたのですが、此度の戦争で船を失った物も多くいます。
海運ならば、国土無くとも力を蓄える事が可能……
そして今、各国の港を北海道の巨大船が周り始めたと聞いています。
何でも巨大な船体から小さな船をいくつも繰り出して、水深の浅い港でも荷降ろしが出来るとか。
出来ることなら、そんな素晴らしい船を我々に頂けませんか?
今、各国に難民として散らばったアーンドラの民は、全てを失った故、まともな職にも付けずにいますが、船さえあれば必ずや富を稼いで見せます。
船の代価は、アーンドラから逃げて来た民から黄金をかき集めて払いますので、どうか……」

「……巨大な船とは、ラッシュ船の事ですか?
でも、あれは我が国でも支援出来るほど数が多くは無く、運用も難しいので、いくらお金を積まれても……」

「駄目ですか……」

申し訳なさそうに言う高木を見て、ナンはがっくりと肩を落とす。

「でも、母船の方は無理でも艀の方は売れますよ。
何せ艀専用の造船所が出来た為、母船の建造が間に合わずに余らせていた位です。
そこでどうでしょう?
アーンドラの方々は各地の港で集荷をなさっては?
我々は母船で世界中の港へと艀を運び、そこから先の細かい取引はアーンドラが担当する。
我々としても、人員の都合上、最も人手が必要な業務へ人を回すのに苦心してたので、双方に益があると思いますが?」

北海道側としても、海運に船を出しても艀を運用する人員と荷役人夫をどうするかで悩んでいたのだ。
それが解消されるなら渡りに船である。

「なんと!それはありがたい!
人足でしたら、我々はいくらでも供給できますよ」

「では、後日、調整の為に部下を向かわせます。
子細はそこで詰めましょう」

大いに喜ぶナンをみて高木は微笑みを返す。

そんな二人の様子を見て、笑顔のケバヴィが拍手をしながら高木を讃えた。

「いやはや、閣下の懐の深さには感服します。
アーンドラの民も閣下の御助力により新たな生業が得られそうですし
これで来るべきサルカヴェロとの再戦の日に備えられますな」

ケバヴィの言葉に他の面子もウンウンと頷く。
もともと北海道参戦による早期戦争決着は、うまく行けばいいな程度にしか思われていなかった。
参戦を断られても、北海道の進んだ技術を学んで再戦に備えるのは既定路線であったため、高木が具体的な援助を口にした事で皆はそれで満足であった。
それに、各国も苦慮し始めたアーンドラの民を北海道が一部面倒を見ると言うのである。
各国にしてみれば、余計な面倒事が少し減ったという思いもあるだろう。
そんな各国の思惑が絡み合う中、一時は重苦しい空気が漂った夕食会にも和やかな空気が戻りだす。
だが、そんな気が抜けていく面々を見て、一人、ロベスピは皆の注意を引き留めた。

「ですが、各々方。
閣下の助けを喜ぶのも良いですが、再戦の日までいつ如何なる時もサルカヴェロには注意が必要ですぞ。
なぜなら、卑劣な邪教徒は内部からも侵略してきます。
戦争が始まって以降、我が領内に妙な邪教と呪いが出回り始めました。
聞くところによると、その邪教は妙な呪文を唱えて邪神にすがれば天国に行けるとか言っているそうです。
これもサルカヴェロの工作とみて良いでしょう」

眉を顰めながらサルカヴェロの邪教とやらを語りだすロベスピ。
和やかな空気に戻り始めていたのが一転、またも不穏な空気が辺りに漂う。

「なんですかな?
その邪教とは。
天国とは日々の鍛練と聖戦の先にあるもの…
祈り縋るだけとは怠け者をたぶらかす邪神なのか?
それと…呪い?」

ロベスピの言葉にケバヴィが問う。

「詳しくは分かりませんが、サルカヴェロ支配下の狐共に似た邪教が崇拝されていると言う噂です。
呪いの方は、恐ろしいもので人が生ける死体と化すものです。
行商人が村を訪れると、村人全員が腐乱死体のように呪われてたこともあったようですが、恐らく邪教徒の呪いでしょう」

「邪神に呪いですか……
その様なモノが実在するなんて、怖いですね」

「閣下も気を付ける事です。
あのサルカヴェロ…… どんな手を隠し持っているか判ったモノではありませんから」

「へぇ……そうですか。ご忠告ありがとうございます。
そうですね。
こちらでも調査してみる事にしましょう」

調べるとは言ったものの、高木にとって邪教などというものは反社会的なカルトでもない限りはどうでも良かった。
北海道には信教の自由が保障されてる。呪いというのが気になるが、どうにも先入観で邪教とやらの関連性を決めつけているような言い回しだ。
調べてみる価値はありそうだが、教義を聞く限り危険な感じはあまりしない。
真剣に悩む彼らを尻目に、高木は止まっていた両手を動かし、フォークで料理を口へと運ぶ。
既に料理は冷め始めていたが、不味くはない。
その味はまるで、今日の夕食会での内容のようだった。
戦争の話題に宗教etc...、北海道にとって実害は無いが迷惑な話題。
しかも、片方の陣営に深く入れ込む気は無いため、どこか冷めた感じで見てしまう。
だが、相手が此方への依存を強めるのであれば、此方の地位が向上するので不味くは無い。
今日の夕食会は、そんな内容の話題ばかりが夜遅くまで続くのだが、高木にとって残念なのは、夕食会まだ中ほどを過ぎたばかりという事だった。


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