お久しぶりです。
約二年更新を止めていたこの小説を書き始めた康頼です。
ある程度考えてはいたのですが、もう一つの小説にかかりきりとなり、更新ができませんでした。
ですが、久しぶりに感想を見てみると、待っている読者の方がいることに気付き、再び書こうと思いました。
幸いにももう一つの小説は、キリの良いところまで言ったので、その修正をしつつ、この小説を書いていこうと思います。
改訂版にしましたのは、新しい話を書く前に小説を読み直してみると、流石にマズイかなと思ったので少し修正をすることになり、加えたい話などもありますので新しく分けることにしました。
そのため、改訂版が元の方に追いついたら、向こうの方を削除させていただきます。
長々と書いてしましましたが、今後ともよろしくお願いします。
康頼。
それは懐かしく、暖かった日々の記憶だった。
「貴方がアシュレイ? 初めまして」
「アシュレイってすごいのね。 お父様も貴方の事を褒めてたわ。 凄い施術師になれるって」
故郷での彼女との大切な思い出。
「もう、ネルに何言ったの? ネルったら私の顔見たら笑うのよ」
「アシュレイ……やっぱり行くの? ……ううん……元気でね…」
そして手放してしまった未来。
「夢か……」
夢を見ていたのだろう。
目が覚めると一気に現実に引き戻された気分になる。
「寒いな……」
身体を起こし、明かりのない薄暗い室内見渡してみると、部屋に備えられた暖炉の火が消えていることに気付く。
この国で、暖炉の火を消して寝るということは、翌日には凍死体ができあがるということである。
ベットの脇のランプに火を灯し、暖炉の元へ向かうと傍に置かれている薪と一緒にランプのオイルと火種を暖炉の中に放り込む。
程なくして 暖炉から煙が溢れ、共に小さな赤い炎が現れると、暖炉に手を翳し、冷え切った指先を温める。
ふと暖炉の横の窓の外を眺めてみると、そこにガラスに薄く反射した見慣れた顔ととその向こうに広がる真っ白の雪の世界。
一見、それは美しい世界にも見えるかもしれないが、実際は地獄のような環境である。
厳しい寒気と痩せた大地のせいで農作物は育たず、凍えるような雪の世界は、防寒具無しで歩くことは困難である。
そのため、冬の凍死者と餓死者の対策がこの国の長年の議題である。
故に本日、私はその会議のためにアーリグリフ城へと登城しなければならない。
厳密には、会議に呼ばれたのは、アーリグリフが誇る三軍『漆黒』『疾風』『風雷』の団長だけなのだが、我が師であり、義父でもあるウォルター風雷団長の命により、副団長である私も同伴しなければならないことになった。
私自身、この国の危機に頭を悩ませ、憂いでいるのだが、議題とされる方法には賛同できない。
隣国のシーハーツへの侵略。
隣国シーハーツは、アーリグリフと違い、温暖な気候のせいか、農作物が豊富である。
その他にも川や海などの水源、サンマイトなど他国の貿易拠点と、山々に囲まれた苛酷な環境のアーリグリフよりも人が住みやすい環境である。
それらを奪うためにアーリグリフは、鍛えに鍛えた三軍を用いてシーハーツを飲み込もうとしているのだ。
タカの派のヴォックス疾風団長を筆頭に騎士団の者達は、このシーハーツへの侵略行為には大いに賛成している。
勝てば、大半の問題が解決するのだから。
「全面戦争ですか……」
窓の外を眺めていると部屋の扉の向こうから呼びかけが掛かる。
「アシュレイ副団長、ウォルター伯爵がお呼びです。」
「わかりました。 すぐに行きます」
ウォルター団長の使いの兵士に返事を返すと、私は自前の白銀仕様の鎧を体に纏い、腰に使い古された剣を携え、部屋の扉を開く。
廊下から下のロビーを眺めてみると、そこには既にウォルター団長と護衛の騎士達が待っており、私は早足で階段を下りていく。
「遅くなりました。 団長」
「ふう、構わんよ。 ……さてそれでは行くとしよう。向こうでは既に待ちくたびれた男もいるかもしれんしな」
頭を下げる私に対しウォルター団長は何でもないように答えると、ゆっくりと歩き出す。
その後を護衛の騎士二人とともに追いながら宿を出ると、目的地であるアーリグリフ城に向かう。
時には前が見えないほどの吹雪が吹き乱れることもあるが、今日は運がいいのか、頭上から雪が降り注ぐ程度だった。
しかし、それでも肌をさすような寒さで、宿の中とは比べられないほどである。
足元も昨夜の雪が積もったせいで足を取られることもあり、先程護衛の騎士のひとりが足を滑らせて転倒していた。
呆れ顔のウォルター団長の視線を受けて、何とも言えない顔の騎士に左手を差しだし引き起こすと、再びアーリグリフ城へと歩き始める。
その間、数人の住民とすれ違ったが、皆やはり身体は痩せ細り、顔色も暗かった。
やはり、食糧難の影響かと考えていたら、前方から二人の兵が担架に何かを乗せて、こちらに向かっていた。
兵はこちらに気付いたのか敬礼をすると、私達の進行に邪魔にならないように道脇に逸れる。
兵士達とすれ違う際に担架に乗せたものを覗いてみると、それは痩せ細った老人の亡骸だった。
「その方の死因は、餓死ですか?凍死ですか?」
気になった私は遺体を乗せた担架を運んでいた一人の兵士に尋ねてみる。
「はい……多分、凍死だと思います。昨日はここ一番の寒さでしたから」
「そうですか、仕事中すみません。その方を手厚く葬ってあげてください」
「はい、では」
兵士達は再び亡骸を乗せた担架を握りこの場を立ち去っていた。
それを私が眺めていると
「これがこの国の現状じゃよ……」
とポツリとウォルターが団長が呟いた。
そう、これが今のこの国の現状。
もう手段を選ぶ時間は残されていないのかもしれない。
そして……私が生まれ故郷に刃を向ける覚悟を決めるときかもしれない。
私は思わず拳を握りしめた。