「第丗弐話」の、**** #1 **** 部に挿入 - - AD2015 - なぜ飛び出してきちゃったのか、自分でもよく解からない。 シンジとユイの姿を見てたら、急に何もかもがイヤになった。中学生にもなってママにべったりなシンジもイヤ。そのシンジに助けられてるユイもイヤ。なにより、それを見ていて寂しいと感じちゃった自分が一番イヤ。 無意識に駆け込んだコンビニの、飲料棚のガラス戸を開いてしゃがみこむ。這いよる冷気が、今のワタシの気持ちにピッタリね。 自動ドアの開く音と、連動して鳴る電子音のチャイム。何を探してるのか、ためらいがちの足音が徐々にこっちに近づいてくる。 間近に差した影が、小さい。思わず視線を走らせたガラス戸の金属枠に映ってたのは、シンジの妹だった。 確か、レイって云ったっけ。表情が乏しくてナニ考えてるか良く判んないこのコに対して、いい感情は持ってない。もっとも、積極的に嫌う理由もないんだケド。 遊び相手が欲しいなら他を当たんなさい。アンタの相手をしてられるほど、ワタシも暇じゃないのよ。…そう、見えないかも知んないけどね。 視線を、棚に載った飲料缶たちに戻す。ずらりと、無個性に並んだ無機物たち。内包しているモノを、頑なに護って。 … まっすぐに、じっと見つめてる気配。ひしひしと感じるわ。 だけど、何を言うでもなく。 … 誰かと話しをしたいような気分じゃなかったケド、子供相手に意地を張るのもバカらしい。 「なに? アンタも文句言いにきたの?」 ちらり。と見上げた視線は、自分でも意外だったけど、それほど剣呑じゃなかったと思うわ。相手はネルフ高官の家族とはいえ一般人みたいなもんだし、なんてったって子供だモノ。八つ当たりはお門違いよね。 だからかしら? 臆することもなく、ふるふるとかぶりを振った。 「…ありがとう」 … あまりにも淡々と口にするもんだから、その言葉の意味が沁みこむまでに時間がかかったわ。自動ドアとチャイムの音で、我に返る。 「なに?」 感情らしいモノを表さない口元。だけど、それが再び開かれるさまを、いつのまにか食い入るように見つめてた。 「…ありがとう」 なにを? って、問おうとしたのに、口ん中が渇いて声が出ない。 「…ここに来てくれて、 たすけてくれて、 たたかってくれて、 守ってくれて、 …ありがとう」 喋ってるうちにナニを思ったって云うんだろう。不思議な色合いの瞳が潤み始めた。…このコ、感情がないってワケじゃないのね。ただ、表に出すのが苦手ってだけなんだわ。 「僕からも、ありがとう」 レイの向こう側からやってきたシンジが、妹の両肩に手を置いた。 「惣流にはホントに感謝してる。 あんな危険な代物に乗って、戦ってくれて」 その言い方がナンか引っかかったから、立ち上がりながらシンジたちに向き直る。 「あんな危険な代物って、エヴァのこと?」 こくり。と2人揃って頷いてる。…兄妹ねぇ。そういう仕種、そっくりだわ。 それにしても、エヴァが危険。ですって? 確かに多少痛い思いをすることはあるケド、ある意味、最も安全な場所でもあるのよ? それと、さっきのことを…と、口を開いたシンジを身振りで黙らせた。 「どうして、そう思ったの?」 「…」 言いにくそうに口篭もったシンジが、俯く。その気配を感じたらしく振り仰いで、レイがその顔を覗き込んでいる。 そして、力づけるようにシンジの手に、手を重ねた。 … うん。と頷いて持ち上げられたシンジの顔に、もうためらいはない。 「…2回目の戦闘の時、それを見たくてケンスケたちとシェルターを出たんだ」 「アンタ、バカぁ!?」 反省してるよ。と、シンジが眉尻を下げた。 「その時エヴァンゲリオンが受けた傷そのものを、母さんも負ったんだ」 ああ、そう云えば、高シンクロ下では暗示で、エヴァが受けた損傷に影響されるって聞いたことがある。ワタシもあの分裂する使徒にやられた傷、アザになっちゃったものね。 「そのあと葛城さんにさんざん説教されたんだけど、エヴァの受ける損傷はそのままパイロットの負傷になるんだって。 ほぼIII度だったって、リツコ姉さんが言っていたかな。その時は母さんの手のひらが真皮まで灼け爛れて、葛城さんまで驚いてた」 って、えぇ!? 真皮までって、じゃあエヴァはどれほどのダメージを負ったって云うの? …ううん、ちょっと待って、第二次直上会戦で初号機は小破って記録されてたわよ? もしかして、ほぼ100%フィードバックしてんの? じゃあユイのシンクロ率って…ああ、待って待って、確か初号機って制御方法が違うのよね。直接制御って、…そう云うことなの? 「しょせん初号機は、開発過程のテストタイプってことね…」 そんなんで3体も使徒を退けてきたことは評価に値するケド。 「そういうことなら安心なさい。ワタシの弐号機は違うわ。実戦用に造られた、世界初の本物のエヴァンゲリオンなのよ。正式タイプのね」 ワタシの言った意味を掴み損ねたんだろう、シンジが小首をかしげた。 「初号機みたいに、パイロットまでケガするような危なっかしい代物じゃないってコトよ。つまり、ワタシが来た以上、アンタたちのママが危ない目に遭うのもこれっきりよ」 今回ばかりは、作戦上仕方がない。2体しかないエヴァをフル活用するしかないんだもの。だけど、これからは、このワタシが… さぞ喜ぶだろうと思ってたシンジたちは、意に反してなんだか気まずそうだった。 「まぁた、そんな辛気臭い顔してぇ。このワタシがアンタたちのママの分まで戦ってあげるって言ってんのよ、ちったぁ嬉しそうな顔しなさいよ」 指で、シンジの額を弾いてやる。 …う、うん。と煮え切らないシンジの返事を聞き流して、棚からジンジャーエールを取り出した。 「ところでシンジ、おサイフ持ってる?」 終劇2007.10.15 DISTRIBUTED ボツ事由 言明されないアスカの決意を描くも、視点を増やして安易に心の裡を見せることはこのシリーズの主題を否定しかねないため不採用。