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No.29540の一覧
[0] シンジのシンジによるシンジのための補完【完結済】[dragonfly](2023/06/22 23:47)
[1] シンジのシンジによるシンジのための補完 第壱話[dragonfly](2012/01/17 23:30)
[2] シンジのシンジによるシンジのための補完 第弐話[dragonfly](2012/01/17 23:31)
[3] シンジのシンジによるシンジのための補完 第参話[dragonfly](2012/01/17 23:32)
[4] シンジのシンジによるシンジのための補完 第四話[dragonfly](2012/01/17 23:33)
[5] シンジのシンジによるシンジのための補完 第伍話[dragonfly](2021/12/03 15:41)
[6] シンジのシンジによるシンジのための補完 第六話[dragonfly](2012/01/17 23:35)
[7] シンジのシンジによるシンジのための補完 第七話[dragonfly](2012/01/17 23:36)
[8] シンジのシンジによるシンジのための補完 第八話[dragonfly](2012/01/17 23:37)
[9] シンジのシンジによるシンジのための 補間 #1[dragonfly](2012/01/17 23:38)
[11] シンジのシンジによるシンジのための補完 第九話[dragonfly](2012/01/17 23:40)
[12] シンジのシンジによるシンジのための 補間 #EX2[dragonfly](2012/01/17 23:41)
[13] シンジのシンジによるシンジのための補完 第拾話[dragonfly](2012/01/17 23:42)
[14] シンジのシンジによるシンジのための 補間 #EX1[dragonfly](2012/01/17 23:42)
[15] [IF]シンジのシンジによるシンジのための 補間 #EX9[dragonfly](2011/10/12 09:51)
[16] シンジのシンジによるシンジのための補完 第拾壱話[dragonfly](2021/10/16 19:42)
[17] シンジのシンジによるシンジのための補完 第拾弐話[dragonfly](2012/01/17 23:44)
[18] シンジのシンジによるシンジのための 補間 #2[dragonfly](2021/08/02 22:03)
[19] シンジのシンジによるシンジのための補完 第拾参話[dragonfly](2021/08/03 12:39)
[20] シンジのシンジによるシンジのための 補間 #4[dragonfly](2012/01/17 23:48)
[21] シンジのシンジによるシンジのための補完 第拾四話[dragonfly](2012/01/17 23:48)
[22] シンジのシンジによるシンジのための 補間 #5[dragonfly](2012/01/17 23:49)
[23] シンジのシンジによるシンジのための 補間 #EX4[dragonfly](2012/01/17 23:50)
[24] シンジのシンジによるシンジのための補完 第拾伍話[dragonfly](2012/01/17 23:51)
[25] シンジのシンジによるシンジのための 補間 #6[dragonfly](2012/01/17 23:51)
[26] シンジのシンジによるシンジのための補完 第拾六話[dragonfly](2012/01/17 23:53)
[27] シンジのシンジによるシンジのための 補間 #7[dragonfly](2012/01/17 23:53)
[28] シンジのシンジによるシンジのための 補間 #EX3[dragonfly](2012/01/17 23:54)
[29] シンジのシンジによるシンジのための補完 第拾七話[dragonfly](2012/01/17 23:54)
[30] シンジのシンジによるシンジのための 補間 #8[dragonfly](2012/01/17 23:55)
[31] シンジのシンジによるシンジのための補完 最終話[dragonfly](2012/01/17 23:55)
[32] シンジのシンジによるシンジのための補完 カーテンコール[dragonfly](2021/04/30 01:28)
[33] シンジのシンジによるシンジのための 保管 ライナーノーツ [dragonfly](2021/12/21 20:24)
[34] シンジのシンジによるシンジのための 補間 #EX7[dragonfly](2012/01/18 00:00)
[35] [IF]シンジのシンジによるシンジのための 補間 #EX8[dragonfly](2012/01/18 00:05)
[36] シンジのシンジによるシンジのための補完 オルタナティブ[dragonfly](2012/01/18 00:05)
[37] ミサトのミサトによるミサトのための 補間 #EX10[dragonfly](2012/01/18 00:09)
[40] シンジ×3 テキストコメンタリー1[dragonfly](2020/11/15 22:01)
[41] シンジ×3 テキストコメンタリー2[dragonfly](2021/12/03 15:42)
[42] シンジ×3 テキストコメンタリー3[dragonfly](2021/04/16 23:40)
[43] シンジ×3 テキストコメンタリー4[dragonfly](2022/06/05 05:21)
[44] シンジ×3 テキストコメンタリー5[dragonfly](2021/09/16 17:33)
[45] シンジ×3 テキストコメンタリー6[dragonfly](2022/11/09 14:23)
[46] シンジのシンジによるシンジのための補完 幕間[dragonfly](2022/07/10 00:12)
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[29540] シンジのシンジによるシンジのための補完 第拾伍話
Name: dragonfly◆23bee39b ID:7b9a7441 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/01/17 23:51





篠突く雨の中、第3新東京市に3体の巨人の姿があった。

レンズカバーにまとわりつく雨滴が、映像内のその姿をけぶらせている。

お陰で、その左肩にそれまでにない文字が書き加えられていることに気付く者は居ないだろう。

零号機は、【 EYE_OF_E.V.E 】

初号機は、【 FIELD_MASTER 】

弐号機は、【 ACE_STRIKER 】

前回の帯刃使徒戦のさなか、ノリでつけた二つ名を子供たちは気に入ったらしい。

リツコさんにも内緒で、勝手に書いたのだ。

戦自パイロットのTACネームみたいで実に格好よろしいが、見ているほうは、いつバレるか気が気でない。

前面ホリゾントスクリーンの映像を統括している日向さんと、リツコさんが注視しているマヤさんのコンソールをさりげなく監視したりして……。


 ≪ 加速器、同調スタート ≫

 ≪ 電圧上昇中、加圧域へ ≫

分割されたスクリーンの映像の中で、腰を落とした初号機が長大な筒を担いでいる。

一見バズーカでも構えているかのように見えるが、あまりにも長すぎる。
エヴァに比してその5倍。200メートル近くあった。


 ≪ 強制収束器、作動 ≫

 ≪ 地球自転および重力誤差修正0.03 ≫

弐号機は、EVA専用ポジトロンライフル。
零号機は実測データ受け渡しを交換条件に戦自研から借り受けた自走式陽電子砲を、スナイパーライフル仕立てにして伏射姿勢だ。


 ≪ 超伝導誘導システム稼動中 ≫

ただ、どちらも銃身に初号機が構えてる筒と同じ物をエクステンドバレルよろしく装着していた。


 ≪ 薬室内、圧力最大 ≫

『ミサト、初弾のデータ諸元、ワタシにも見せて』

「ちょっと待ってね」

日向さんは忙しいので、インターフォンを取って副発令所の次席オペレーターに指示を出す。

『ダンケっ』

アスカがそのデータを見たがったのは、初弾だけ出力が違うからである。

帯刃使徒戦で綾波が見せたトンネリング現象の活用。その有効性を認められ、ポジトロンライフルの正式な運用方法として採用されたのだ。

これによって、大気圏内でポジトロンライフルを連射する場合は、その初弾の出力を調整して目標に届くだけにするようになった。今回は大気圏を突破するだけの出力しか与えられていない。

つまり初弾はパスファインダーとして、目標までの道作りに専念させるわけだ。


 ≪ 最終安全装置、解除 ≫

 ≪ 解除確認 ≫

つくば研究所から一時的に出向してきている技師たちが、自走式陽電子砲の管制を引き受けてくれている。
お陰で、その立ち上がりが早い。


 ≪ すべて、発射位置 ≫

地上の様子を映している画面が、それぞれに鮮明さを取り戻していった。MAGIの手が空いて画像補正がかかりだしたのだろう。これがどれだけ凄いことなのか、専門用語メジロ押しで説明されたけど、よく解からなかった。…ディコンボリューションって何?

「各機、照準よし」

報告する日向さんに頷きかえし、前面ホリゾントスクリーンを見やる。

分割された表示の中、最も大きく映し出されるのは、羽を広げた光の鳥。

第17監視衛星から最大望遠で送られてきた精神汚染使徒の姿だった。

「よろしい、コンバットオープン。
 UN空軍機の高々度到達と同時に各自のタイミングで攻撃開始。
 エヴァ各機、ユー ハブ トリガー」

『『『 アイ ハブ トリガー 』』』

既存の兵器体系に当て嵌まらないエヴァの運用は、暗中模索といってよい。

人型兵器である以上、ある程度は陸軍のセオリーが通用するが、それ以外は臨機応変に対応する必要があった。


 ≪ UN空軍機、作戦高度まで、あと10 ≫

UN空軍は、この作戦のために2個飛行中隊を投入してくれている。

前世紀にはF-15で編成していたらしいその部隊は、スウェーデンから持ち込まれたグリペンで再編成されたそうだが。

「装薬用N2爆雷、点火用意」

……

 ≪ UN空軍より入電、ステージオン ≫

『点火っ!』

途端に、初号機の構える筒の先から円筒形の物体が複数、すさまじい勢いで射出された。

N2爆雷である。

初号機が構えている筒。その正体は、第3新東京市などで使われている直径5メートル程の下水管だ。

それをATフィールドで補強・連結、内部を真空・無重力化して即席のカタパルトに仕立て上げた。

N2爆雷一発を装薬にすることで、計算上では衛星軌道を射程に収めた迫撃砲となるはずだ。

――分裂使徒戦で行った、筒状に展開したATフィールド内でのN2爆雷点火。天をつらぬく光の柱と化したそれをヒントに思いついた戦法だった――


 ≪ UN空軍飛行中隊、N2航空爆雷射出確認。こちらの触雷予定との誤差、マイナスコンマ02秒 ≫

そして、国連軍に要請したN2航空爆雷が、使徒を背後から狙う。

もとは軍事衛星破壊用に開発されたASATを転用したというN2航空爆雷は、戦闘機から発射される大型のミサイルにしか見えない。
最後の瞬間にクラスター爆弾のように弾頭をぶちまけるから、あくまで爆雷なんだそうだが。

SDI構想の立案者も、ASATの開発者も、使徒などという未曾有の目標に使用されるとは思いもしなかったことだろう。

……

「N2爆雷群、使徒接触まで、5・4・3・2」

弐号機がポジトロンライフルを連射、零号機が半拍遅くポジトロンスナイパーライフルを撃った。

それぞれが銃身の先に装着している筒には不活性ガスを封入して、威力の減衰を抑えている。

「・1・起爆!」

第08監視衛星から送られてくる熱処理画像の中で、光の鳥が球雷のごとき爆光に彩られた。

だが、その輝きは揃って半球を削り取られている。ATフィールドだろう。

物質が希薄な上にほとんどがプラズマ化している宇宙空間では、核もN2もさほど効果的な兵器ではない。これは露払いで、本命は次だと言いたいところなのだが……

爆圧に揺らぐ相転移空間に1条の光線、複数の光弾が襲いかかる。

……

しかし、スクリーンに映る光の鳥はこゆるぎもしなかった。

「ダメです。この遠距離でATフィールドを貫くには、エネルギーがまるで足りません」

大気という障害物のない宇宙空間では、荷電粒子は自身の保有する電荷のために反発しあって急速に拡散する。この距離では、エネルギーがいくらあっても難しいだろう。


衛星軌道上の使徒に対する効果的な攻撃手段を、エヴァはまだ保有していない。
これが現状で考え得るかぎりの布陣だったのだが、ダメだったようだ。

こうなると残された手段は、重力遮断を使ってエヴァごと出向くか、……槍とやらを使うかだが……


「全機、ATフィールドを防御で展開して」

了解。と子供たちが応じると、それぞれが保持していた下水管がばらけて落ちる。

鉄筋コンクリートの円筒がぶちまけられて発生したであろう轟音は、発令所までは届かない。せいぜい、空き缶をばら撒いた程度といったところだろう。
MAGIが先読みして選択減衰処理を行ってるのだ。……こっちは素直にすごいと思う。


前面ホリゾントスクリーンの中、雨雲を吹き飛ばされた空の画像に注視する。何もないように見えるが、その先に使徒が居るのだ。

精神汚染使徒がどのエヴァを標的にするか、この時点では見当もつかなかった。

まずは相手の攻撃をしのげないことには始まらない。3機がかりのATフィールドで防げればいいのだが。


なんの前兆もなく、画像の中心が輝く。たちまち押し寄せる光の奔流に画面がホワイトアウトした。

別の画像。外輪山から望む第3新東京市に注がれる、衛星軌道からのピンスポット。

「敵の指向性兵器なの?」

「いえ。熱エネルギー反応無し」

監視カメラが追う映像の先、照らされたのはエヴァも何もない、第3新東京市を貫く大通りの一角だった。

……

狙いを外したのか……? 使徒が……?

違う!

突如、発令所を照らした光の筋は、迷うことなく自分に殺到した。

使徒の狙いは、……まさか、自分?

「ぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

この身を照らした光は体の表面で解けると、細い針金のようになって侵入してくる。

痛みはない。痛みはないが、自分の殻をむりやり剥がされるような不快感は、心が直接感じているとでもいうのか。

体中の毛穴という毛穴から侵入した針金は体内をまさぐりながら中心部を目指している。あらゆる感覚が薄れつつある今、それは肉体的な意味合いではない。

ココロと呼ばれるヒトの中枢に、……たどり着かれた?

「……心の裡に入ってくるつもり?」


……暗闇の中、差し込む光芒。圧迫と開放。まだ開かないまぶたの上から襲いかかる暴力的な光の渦。周囲から失われた温もり。……奪われた安寧。

いきなり思い出させられたのは、この世に生まれたときの苦痛だった。楽園から放逐されたことへの絶望。リア王の言葉を実感しそうなほどに。

憶えているはずもない経験に、むりやり搾り取られた涙が眼窩に溜まる。

……

「……こんな記憶がっ!? ……心を覗く気…」

まずい。このまま記憶を掘り返されては、何を口走るか解からない。


 『 ……使徒が心理攻撃? まさか使徒に人の心が理解できるの? …… 』

 『 ……光線の分析はどうですか!? …… 』

 『 ……可視波長のエネルギー波です。ATフィールドに近いものですが、詳細は不明です…… 』


周囲の声が遠い。

懸命に過去の映像から視線をはがし、現実の視界をまさぐる。

なにか。なにか。

手の届く範囲には何もない。

いや、ポケットの中にハンカチがあったはず。

思い通りにならない手を叱咤して掴み出し、朱華色のそれを口に押し込む。

アンタは泣き虫だから、いくらあっても困らないでしょ。とアスカが選んだという昇進祝い。

その思い出とともにきつく噛みしめると、右奥の義歯が軋んだ。

再びかすみだした視界の中、近寄ろうとする日向さんを身振りで押しとどめた。



……

次に掘り出されたのは案の定、母さんがエヴァに取り込まれたときの記憶。

自分を置き去りにする、父さんの背中。

妻殺しの子だと、なじる声。

蹴り崩した、砂のピラミッド。

3年前の墓参り。逃げ出したあとの、後ろめたさ。

初めて第3新東京市に来た時の思い出は、飴玉をしゃぶるように丹念に再現された。もし体の感覚があったなら、そして自分の意志で体を動かせたなら、舞い戻ったのかと錯覚したことだろう。

トウジに殴られた、痛み。

エントリープラグに二人を乗せた時の、不快感。

黒服に引き立てていかれる時の、無力感。

綾波と話す、父さんの姿。

ミサトさんのカレーの、味。

綾波に叩かれた、驚き。

荷電粒子砲の、熱。

アスカに張り飛ばされた頬の、腫れ。

「冴えないわね」

いまさら 今更 こんなものを見せられたからって 何だというんだ

世界を滅ぼした自分が この程度のことで怖気づくものか

ガラクタを掘り分けるように人の記憶を食い散らかした光の針が、奥底に沈んでいた獲物に手をつける。

思い通りにならない、エヴァ。

握りつぶされる、エントリープラグ。

担ぎ出される、トウジ。

ちくしょう ちくしょう! 何がしたい 何が見たい 何が望みだ


綾波の群れを見た、衝撃。

カヲル君を握りつぶした、感触。

アスカを汚したあとの、罪悪感。


綾波の群れを見た、衝撃。

カヲル君を握りつぶした、感触。

アスカを汚したあとの、罪悪感。


綾波の群れを見た、衝撃。カヲル君を握りつぶした、感触。アスカを汚したあとの、罪悪感。


それか! お前の欲しているのはそれか! 見たければ見ればいい! 欲しければ持っていけばいい!

そんなのは罪のうちにも入らない 何度も後悔して擦り切れた記憶だ 好きにすればいい

……

  ……なのに、涙が流れるのはなぜだろう?

涙の流れる感触だけが鮮明なのはどうしてだろう?


綾波の群れを見た、衝撃。カヲル君を握りつぶした、感触。アスカを汚したあとの、罪悪感。


気に入ったか? 愉しいか? その記憶が面白いか?


飽きたのか、ふっと、うち捨てられる感触。

どうせなら持ち去ってくれればいいのに、掘り起こしておいて目の前に放り出すとは……


……

赤い海。

「気持ち悪い」

拒絶の言葉。別れの言葉。最後の言葉。

赤い海。白い砂浜。赤い海。

そうだ 世界を滅ぼした罪人ならここに居る

赤い海。白い砂浜。赤い海。黒い空。赤い海。

断罪しろ 断罪しろ 断罪しろよ!

赤い海。 赤い海。 赤い海。 崩れ落ちる巨大な綾波。

アスカの首を絞める、この両手。

最大の罪の記憶すらあっという間にうち捨てられて、さらに奥底を探られる気配。不快感。




……


白い部屋。抱えた膝。目の前に立っているのは……

ミサトさん……?

心を閉ざしていた頃の彼女が、虚ろな瞳で見下ろしていた。

『アンタ誰よ』

……僕は…… 碇シンジ……

『その碇シンジが、アタシの体で何やってるのよ』

これは わざとじゃ

『わざとじゃなければ何やってもいいってんの!?』

でも……

『でもじゃないわよ』

……

『なに黙り込んでんのよ』

胸倉を掴まれる。射るような視線。

この激しさ 確かにこのヒトはミサトさんだ

『ヒトの体を勝手に使って、何やってんのか訊いてんのよ!』

……罪滅ぼしを

『罪滅ぼしぃ? ふん、なるほどね。人類を滅ぼすなんて、この上ない極悪人ね』

突き放された。

『で? その極悪人は行きがけの駄賃にアタシの体を奪い取ったわけね』

ちがう

『何が違うのよ。罪、償うんなら自分の体でやんなさいよ』

そんなこといわれたって

『返す気もないのね。罪の意識なんてないじゃない。罪滅ぼしなんて嘘ね』

嘘じゃない

『アタシの体を乗っ取るための口実でしょ』

違う

『若い盛りを13年も横取りして! さぞ楽しかったでしょ』

だってミサトさんが

『人のせいにする気! 空き巣ふぜいが家主をなじろうっての?』

そんなつもりじゃ!

『盗人猛々しいってのはアンタのことね』

やめてよ

『なぜ私がやめなきゃならないのよ』

僕だけが悪いわけじゃない! 僕だって被害者だ!

悪いのはセカンドインパクトを起こした連中だろ! サードインパクトを画策したヤツらだろ!

『そうやって、すぐ人のせいにして! アンタの心が毅ければ何の問題もなかったんじゃないのよ』

やめてよ やめてよ お願いだから僕に優しくしてよ

『なに甘ったれたこと言ってんのよ』

僕に優しくしてよ 傷つけないでよ

『そっちこそ、傷ついた振りはやめなさい』

振りじゃない

『「世界を滅ぼした自分がこの程度のことで怖気づくものか」ですって?
 
 本当に傷ついた人間はこんなこと言わないわ 』

だって そんな……

『「そんなのは罪のうちにも入らない」んじゃないの?』

……

『口篭もった。ほら、やっぱり嘘じゃないの』

嘘じゃない

『いいえ、アンタは嘘つきよ。ほら!』


「私は葛城ミサト。あなたを迎えに来たの」

『嘘つき』

嘘じゃない いま僕が葛城ミサトであることは嘘じゃない


「ごめん……なさい」

『嘘つき』

嘘じゃない 確かに僕の性格を逆手に取ろうとした でも嘘じゃない


「子供たちを戦わせずに済む可能性が1%でもあるなら」

『嘘つき』

嘘じゃない 本当に適格性検査を受けたんだ


「出来るわけないわ。私だって怖いもの……」

『嘘つき』

嘘じゃない 怖さは知っていたんだ


「だから……私に出来るのはお願いすることだけ……戦って欲しいと「お願い」することだけ」

『嘘つき』

嘘じゃない 僕が欲しい言葉だったんだ


「もしもの時、ナツミちゃんに何て言えばよかったの?」

『嘘つき』

嘘じゃない ナツミちゃんの顔が浮かんだのは本当だ


「私はリツコのこと好きよ。尊敬してる」

『嘘つき』

嘘じゃない リツコさんには本当に感謝している 今なんとかやっていけてるのはあの人が気にかけてくれたからなんだ


「ありがとう。感謝の言葉よ」

『嘘つき』

嘘じゃない! 嘘じゃない! 嘘じゃない! 感謝の気持ちに嘘はない!!


『嘘つきは言い逃れも上手いわね。じゃあ、これならどう?』


「セカンドインパクト直後の話、してあげたわよね? こういうの見過ごせないって、知ってるでしょ?」

『アンタの経験じゃないわよね。嘘つき』

……っ!


「私ね、セカンドインパクトの時に南極に居たの」

『これもそうよね。嘘つき』

……


「その後も色々と苦労してね。そのころの私はレイちゃんみたいだったんじゃないかしら」

『ほら、嘘つき』

……


「父親を殺した使徒に復讐したかった、セカンドインパクトに奪われたものを取り戻したかった」

『やっぱり、嘘つき』

……


「ごめんなさい。私が出来なかったことをシンジ君がしてくれてるようで、嬉しかったの」

『嘘つき』

……


「彼女は、エヴァに乗せられるために拾われた存在。綾波レイと名付けられる前に、番号を付けられた娘」

『嘘つき』

……


「まあ、たしかにトウジ…君の言うとおり。定期的に時間を作るのはちょっと難しいの」

『嘘つき』

……


「誰を選んでも変わらないなら、やる気があって、私と面識のある者がいいだろうって」

『嘘つき』

……や


「作戦中に発令所に居なかったのは、私の責任なの」

『嘘つき』

……やめ


「『!…………』…


……


あれ? 今なにか 違和感が…


『考え事? 余裕ね』

なんだか さっきまでと…… 違うような?


『どうしたの? 弁解は終わり? しっかり言い訳しなさい。嘘つきじゃないんでしょう?』

責め方を変えただけ? ……なのか?


『それとも、もう嘘つくのにも疲れた?』



……仕方なかったんだ 本当のことを言えば世界が救えるわけじゃないだろ!


『あら、逆ギレ?』

嘘をついて世界を救えるなら いくらでもついてやる


『今度は開き直り?』

そうだよ! 開き直ったとも 世界を滅ぼした張本人なんだから

ぐじぐじ後悔したって 何にもならないんだ

出来ることは何でもやって 使えるものは何でも使って 今度こそ世界を護るんだ


『大層なご覚悟だこと』

人を傷つけたくないからって背を向けたら それがまた人を傷つけることになるんだ

逃げ出したら何も解決しない

それが嘘でも まず傍に居てあげることが大切なんだ

ヒトには 傍に居てくれる者が要るんだよ!


『そのために、アタシの体を奪ったわけね』

わざとじゃない! わざとじゃないけど この機会を最大限に使わせてもらう


『結構な決意ね』

まだ体は返さない 今 この体は僕のものだ!


『どうしても?』

どうしても! 全てを終えるまで 今返したら取り返しがつかない


『謝る気もないのね』

謝らないよ まだ謝らない 今謝っても それは欺瞞だ


『いい覚悟だわ』

ミサトさんが悪いんだ 心を閉ざしっぱなしで この体をほしいままにさせたミサトさんが!


『私のせいだっての!? 責任転嫁するにもほどがあるわよ』

ミサトさんが逃げなければ こんなに辛くなかったのに

あなたが力を貸してくれれば こんなに悩まなかったのに

……

せめて一緒に居てくれたら こんなに心細くなかったのに


『泣きごと言うんじゃないわよ!』

言うもんか!

いまさら そんなこと 言うもんか!

頼りにならないミサトさんに文句言っただけだ!

僕が 僕が葛城ミサトを演じるためにどれだけ苦労したか

ちょっとしたことで全て台無しにしてしまうんじゃないかと 薄氷を踏む思いをしてきたのを 少しくらい知ってくれたってバチはあたらないだろ!

 
『言うじゃない』

今 この世界を救えるのは 僕だけなんだ

だから 僕はこの体を使って世界を護る それまで返さない それまで謝らない!


『……そう。終わったら返すのね?』

もちろん


『終わったら謝るのね?』

あたりまえだよ


『……なら、しばらく貸しといてあげるわ』


えぇ!?

……

 ……いいの? ミサトさん…

『良いも悪いもないんでしょ』

……でも、

『ああもう! しゃっきりしなさい、碇シンジ!』

はっ はい!

『アナタの罪滅ぼしに較べたらたいした罪じゃないでしょ』

そういわれても

『アナタのことは全て見たわ。胸を張って世界を護りなさい』

ミサトさん……

『逃げちゃダメよ』

……はい


銀のロザリオを手渡された。

あらためて直に受け取ると、銀色のギリシャ十字架はことさら重く感じる。


……

ミサトさん あなたって人はやはり……

いや 今はそんなことはどうでもいいか

彼女がどうであれ 自分がやっていこうとしていることには関係ない



どこかで扉の閉じる音が聞こえたような。そんな気が、……した。

……




****




精神汚染使徒は、零号機の投じた赤い槍で殲滅されたそうだ。


                                                         つづく

2006.10.16 PUBLISHED
2006.10.20 REVISED


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