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No.29496の一覧
[0] ドラゴンクエスト(モンスターハンター風の世界観)[シウス](2011/08/28 20:52)
[1]  第2話 甲殻獣襲来[シウス](2012/01/15 17:46)
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[29496] ドラゴンクエスト(モンスターハンター風の世界観)
Name: シウス◆60293ed9 ID:11df283b 次を表示する
Date: 2011/08/28 20:52
 ども、シウスです。
  前に『その後のデメトリオ』で、次回は『レベル1の村人が旅をしたらどうなるか』というのを投稿すると言ってましたが、その前に気が向いて作ってしまった小説があったので、それを投稿します。
 この物語では、様々な異世界が複数あり、それらの異世界がドラクエシリーズの1~9や、他のドラクエ作品などの世界に相当するという設定です。
 同時に住んでいる世界によって、そこに住する人間の戦闘力はかなり差がある設定です。よく『なぜ村人などのエキストラはレベルを上げないのか?』などとネットに書かれているこの見かけたりしますし、かと思えばドラクエ8辺りでは、一見すると強そうな傭兵を従えて洞窟に入った兄妹がいましたし、ドラクエ9ではダーマ神殿に強そうな職業の方々がゴロゴロと転がってました。
 またアイテムも同様で、ドラクエ2の『あまつゆの糸』やドラクエ4の『さえずりの蜜』など、キーアイテム的な、その世界の住人にとっては凄まじいくらい激レアなアイテムでも、ドラクエ9では簡単に錬金で量産できます。
 ……で、この物語の舞台についてですが、どこにも魔法が存在せず、また悪魔系やゾンビ系、スライム系やエレメント系、ゴーレム系などのような『生物としてありえない』モンスターも存在しない世界です。唯一、ドラゴン系だけは登場させようと思ってますがね。
 そして何よりレベルが存在せず、身体能力は筋トレや日常生活の苦労などでしか向上しない設定です。
 また『モンスター』という言い方よりも、どっちかというと『動物』や『猛獣』といった表現が正しいような世界です。
 
 ちなみにこれは短編です。もし気が向けば続編を作るかもしれませんが、今のところその予定はありません。
 
 
 
 
 一角ウサギ。
 体長60センチという、やや大きめのウサギ。
 そこそこ可愛らしい外見をしているが、額にある角で突かれると、人体に刺さりこそしないものの、やはり痛い。
 人間にとっては幸運な事に、自然界で絶対個数が圧倒的に多いこのウサギは、草食ではあるものの人間の畑を荒らすことなどはしない。主食とする植物が違うからだ。
 そして更に幸福なことに―――彼らにとっては不幸なことに―――人間にとって最もポピュラーな“食肉”だった。そもそもこの世界の人間たちに、畜産(ちくさん:家畜などを飼い、食肉や獣乳、卵などを得ること)をする風習が存在しないし、また家畜にできる生物も存在しない。牛や豚、馬や鶏といった生物が存在しない世界なのだ。よって生態系ピラミッドで最下層に位置するこのウサギは、人間にとって最高に都合の良い食料なのだった。
 
 
 
 その一角ウサギが草を食んでいるのを、森の中から見つめる人影が四つ。
 ちょうど森と草原の境界線が真っ直ぐに続いている地形で、四人は額を突き合せて言葉を交わす。
 茶髪にブラウンの瞳で、どこかワイルド系を思わせる少年―――グレッドが、
「まずはこの中で唯一、弓を持ってるエッタが、あのウサギのどてっ腹に一発お見舞いする。……で、動きが遅くなったところを、残りの皆で槍で刺す。これでいいよな?」
 グレッドと同じく茶髪にブラウンの瞳の童顔で、どこか純朴そうな可愛らしい少女―――エッタが、
「狙い撃ちなら任せて。絶対に外さないし」
 軽い口調で言う。一見すると真剣味が足りないように聞こえるが、彼女の言葉がデマカセでないことを、仲間たちは知っている。
 続いて銀髪に紅の瞳、それでいて恐ろしく整った顔立ちの少年―――どこかの貴族のような容姿のヒースが、いつでも絶やすことのない爽やかな笑みを浮かべたまま、
「僕もグレッドと同じ意見だね。じゃ、さっさと狩って、次に行こう。今日は村のお祭りなんだ。儀式に必要なごちそうは、あんなウサギ一匹じゃ全然足りないんだからね」
 祭り―――と彼は言った。
 もともと『祭り』とは神に捧ぐ儀式のようなもので、出店などが並んだり金魚すくいなどをやったりするのはただの『祭り騒ぎ』という。彼らの場合は前者を指すのだが、その過程でごちそうを食べたり酒を飲んだりする『祭り騒ぎ』のような部分も多少はあったりする。
 最後に長い金髪・空のような青い瞳を持つ、ヒースに負けないくらい貴族令嬢のような少女―――セラが、
「あたしもヒースに賛成だね。食い慣れた肉とはいえ、普段と祭りとじゃ、食ったと時の感動が違う。……あと酒飲む時もな」
 ―――上品な見た目とは180度ほどずれた口調で、自らの本音を言う。
 彼ら四人は今年で16歳を迎える、村の青年たちである。
 別に他にも年齢が2~3歳くらい離れた若者も多いが、彼らは幼少の頃から特に仲が良かった間柄だ。
 今日は村の祭りで使う食材を狩りに来たのだ。
 別にこの『狩り』という役目は彼らでなくても良かったのだが、彼ら四人といういつものメンバーで祭りの準備に当たる事を考えると、この役割が最適だったので立候補しただけである。
 ちなみにリーダー(昔はガキ大将)はセラである。
 エッタが大弓を構え狙いを定める。
 この程度の小動物なら小弓でも充分なのだが、村一番の弓使いとしては、矢が当たって『小動物』を『弱らせるだけ』というのは好まない。やはり一撃必殺を狙いたいところだった。
 グレッドにはウサギの腹を狙うように言われたが、頭を狙う事にする。彼女ほどの腕があれば楽勝である。
 特に緊張は無く、それが返って退屈だった。よほどの大物を狙うなら多少は緊張を楽しめたかもしれないが、こんな小物を相手に緊張しろというほうが酷であった。前にグレッドに釣りを教えてもらう際、構え方を教えるために、彼が背中から抱きしめるように竿の握り方や投げ方を、文字通り手取り足取り教授してくれた時の方がよっぽど緊張し。―――そして楽しかった。
 そして一角ウサギが頭を上げた。
 遠くで何かの音を聞きつけたかのようなリアクションだ。遠くを見つめている。
 次の瞬間には、一角ウサギは文字通り脱兎のごとく走り去ってしまった。
 エッタのすぐ近くの茂みに身を潜めていたセラが声を上げる。
「なんだ……?」
 答えは直後に現れた。
 
 どすんっ、どすんっ、どすんっ。
 
 遠目には、もしも地球という異世界の住人から見れば“牛”に見えたかもしれない。実際、良く似たDNAを持っている。特に下半身は牛そのものだろう。
 では上半身は?
 前足が無く、代わりに体毛と同じダーク・ブラウンの毛に覆われた“それ”は、鶏の羽に似ていた。決して飛ぶことのできない鳥の翼。むしろその羽を前足代わりに使っているようにも見える。どすんっという音は、歩き方下半身の跳躍力で飛び跳ね、羽のような前足で着地する際の音だ。
 そして頭には、牛らしき角や顔立ちはあるのに、大きな角張ったクチバシがあった。
 決して長いクチバシではない。横に広く、縦に短くといったクチバシである。
 そして体長は3.5メートルはありそうだった。
 思わずグレッドが、小さな声で叫ぶ。
「あ……あばれうしどりだと!?」
 続いてヒースが落ち着いた声音で、
「どうやら変異種みたいだね。あんな大きさのなんて、見たことないし。でも儀式に使うには―――この上ない大物だね。なにせ美味しいし……」
 たまに自然界には変異種と呼ばれる、突然変異を起こした生物が存在する。あるものは毛や鱗の色が変わり、またあるものは巨大化する。目の前の“あばれうしどり”も、本来なら体長1.8メートルくらいが最大のはずだった。
 セラが口を開いた。
「作戦変更だ。まず罠を仕掛ける。あの踏んだら足を挟まれるヤツだ。持ってきてるよな?」
 するとグレッドが、
「ああ。狩りに必要な道具は、肉解体用ナイフも近接戦用ダガーも、何でも揃ってる。抜かりはねぇ……」
「よし、でかした」
 セラは満足げに頷き、そして続けた。
「罠を鉄杭で硬い地面に固定して、ヤツをそこに誘き寄せる。それにはまずエッタがヤツの頭を狙って―――そのゴツいので頭を撃てば即死か? まぁ、とにかく……ヤツが混乱している隙に、グレッドが槍でヤツを刺す。もちろんヤツは、この程度ではくたばらないどころか、むしろ興奮して追いかけてくるだろうな。そこからグレッドは走って罠までヤツを誘導しろ。あとは罠に掛かったところを、全員で槍で刺す。これでいくぞ……」
 全員が声も上げずに頷き、音も無く散開する。ヒースは罠を仕掛けに行き、グレッドは標的の一番近くの茂みに隠れる。それぞれが定位置に着いたのだ。
 そしてエッタの矢が放たれた。
 
 
 
 
 
 あばれうしどりの左側頭部に矢が刺さった瞬間、ブモォッ! と絶叫する。しかしエッタが無慈悲にも、悲鳴を現在進行形で上げている標的の首に、三本も矢を命中させる。
 ようやくあばれうしどりは、自分にとっての敵の姿が見えずとも、矢が飛んできた方角を理解した。うっそうとした茂みに顔を向けた次の瞬間、
「う……るぁあッ!!」
 グレッドが全体重と全力疾走の勢いを槍に乗せ、矢が刺さったのとは反対側の首筋に、深々と突き刺さる。
 ブモォッ!
 あばれうしどりは雄叫びを上げながら、身体を半回転させた。その時にその巨体の体重に遠心力が加わった頭がグレッドの胴体に当たり、彼は糸の切れた人形のように宙を舞った。
「……っ!? グレッドぉっ!!」
 エッタが悲鳴のような声を上げると、彼は立ち上がった。草原の草と土がクッションの代わりを果たしたのだ。それに背中から地面に落ちたのも良かった。彼はしっかりと受け身をとっていたのだ。
 ふらふらと立ち上がる彼の手に槍は無い。あばれうしどりの首筋に刺さったままだ。
 あばれうしどりはグレッドに向き直り、頭を上下に何度も動かしながら接近した。こういう攻撃なのだ。体重の乗ったこの一撃は、下手に当たれば骨が折れるだろう。
 少し目を回しながらも、グレッドはとっさに真横に飛ぶように転がって避け、起き上がってすぐに逃げ出した。
 あばれうしどりは身体の構造上、後足だけで意外なほど速く走るのだが、方向転換とブレーキだけは苦手なのである。
 ゆっくりとした動作で、逃げ行くグレッドの背中に向き直り、『ブモッ、ブモッ』と嘶(いなな)きながら左後足で地面を数回掻いた。けっこうな距離があったが、あばれうしどりにしてみればさほどではない。たやすく追いつく距離だった。
 
 ブモオオォォッ!!
 
 前足を翼のように広げて風を切る形にし、その猛烈な脚力で地面を蹴った。土煙を上げながら、あばれうしどりは爆走する。
 だんだんと人間の小さな背中が近づいてくるにつれ、勝利を確信するあばれうしどり。
 しかし、ふと視界の左に、大きな布をヒラヒラと振っている銀髪の青年が見えた瞬間、あばれうしどりの本能が刺激された。
 元来、牛と言う生物は赤いものを見ると興奮するというが、それは迷信だ。牛の視界は白黒なのだから。彼らは布状の物体がヒラヒラとしていると怖くなり、その物体に突進したくなる性質をもっている。
 そしていまヒースが布を振っていたことにより、あばれうしどりの注意がそちらに削がれた。そして気付く。前方を走っていた青年の姿は無く、同時に目の前には巨大な岩があった。あげく、彼には急ブレーキなどできない。
 大音響が響き渡り、あばれうしどりは意識を失った。
 この時点で、岩の前に罠が仕掛けてあって、しかもそれに掛かったことなど、もはや気づいてはいなかった。
 そして彼が目を覚ます事はなかった。気を失っている間に、セラ達に滅多刺しにされ、息絶えたのだから。
 
 
 
 
 
 血抜きをし、その間にあばれうしどりをその場に置いて、一旦村に帰って応援を呼んだ。ここまで大きな獲物となると、たったの四人では運べないからだ。
 村の若い者、あるいは力自慢な者はこぞって集まり、血抜きされている巨体を見て唖然とした。
 儀式の後の食事では、動物を丸焼きにするのが普通だが、さすがにこのサイズの獲物で丸焼きは不可能なため、その場で解体して持ち運ぶ。
 脚や手羽先(……という部位名で良かったのだろうか?)、頭は切り落して持ち運び、腹部は切り開いて内臓などを出してしまう。
 取り出した内臓は、食せる部分は巨大な葉に包み込んで持ち運び、食べれない部分は地面に深く穴を掘って、血抜きしたときの血と同じように埋める。
 大勢の人々が解体した肉を持ち、列を成してその場を後にする。
 やがて村に着いた。
 木造家屋が立ち並び、村と隣り合うように畑が広がっている。
 湿度の高い地域なので、その環境に合った文化をしている。代表的なのになると食器などに、南国特有の巨大な葉を使ったりなどだ。一応は金属・瀬戸物を問わず、食器も存在しているが、特定の宗教行事などでは未だに葉を皿の代わりに使っている。
 村ではすでに祭りの準備が終わっているらしく、あとは食肉の到着を待つ状態だった。
 届いたあばれうしどりの頭部を見た村人たちが『おおおっ……!』と驚きと歓喜の入り混じった声を上げる。一角ウサギが日用食品とすれば、あばれうしどりは間違いなく『ご馳走』なのだ。
 肉を持って戻ってきた村人たち以外は、すでに祭りの正装―――巨大な葉を編んで作った腰ミノと、後頭部に複数の葉を繋いで作った、まるでロングヘアーのカツラを思わせるような装飾品だけを身に付けていた。……まぁ女性は胸の乳房の部分に手の平サイズの葉を当て、それをツタで押さえて背中で括っているが、それも胸がある程度にまで膨らんだら付け始めるものである。女性達の間では、それを儀式で着けるか着けないかで、大人になったかどうかを判断するらしい。
 正装姿の村人たちに肉を渡して調理を任せ、彼らも正装に着替えるべく、それぞれの家へと向かう。
 その途中で狩りに成功したセラ達は、正装姿の初老の男に声をかけられた。
「おお、お前たちだったな、あれを仕留めたのは。これで今月の祭りはいつも以上に盛り上がるだろう。感謝するぞ」
 時期長老とは思えないほど若々しい肉体の持ち主だ。背中は曲がっておらず、かなり高い。それでいて相当マッチョなのだ。
 そして老人の言葉の中に『今月の祭り』という言葉があったが、これは村人たちが毎月祭りをしていることを意味している。基本的に常夏(―――夏というにはやや気温は低いが)なので、気候の変動から『今が何月なのか』が分からなくなる故、祭りを通して“時”という概念を数えるのだ。
 続けて老人の背後から二人の若者が正装で姿を現した。
 一人は長老よりも更にマッチョで背が高く、グレッドよりも更にワイルド感がある青年で、名をルーディという。目の前の老人の息子だ。そしてもう一人は長い茶髪に、慈愛に満ちた優しげな瞳の女性―――となりの青年の妻であり、同時に―――
「あ、お姉ちゃん、よく似合ってるじゃん!」
 エッタが率直な感想を言う。そう、彼女の姉なのだ。
「アイリ姐さん、綺麗……」
 セラも思わず見惚れながら呟く。
 アイリは優しく微笑んで、
「ありがとう。……ほら、あなた達も速く着替えてきなさい。祭りに遅れるわよ?」
 彼女はこの村の巫女でもある。ゆえに葉っぱだけを繋いだこの露出の激しい衣装にも、他の村人とは異なる。後頭部に付けられたロングヘアーを思わせる装飾品が、葉ではなく、赤い花で出来ている。
 ……ちなみにこの村での巫女は、家柄とは何の関係も無く、単純に『若くて、村で一番美しい娘』が行うことになっている。次に巫女の役割が回ってくると目されているのは、一番にセラ、二番にエッタだったりする。
 アイリ達と別れ、仲間内でも解散して家を目指しながら、エッタは隣を歩くグレッドに話し掛ける。
「うーん……そろそろ祭りじゃ、胸に葉っぱ当てた方がいいのかな?」
 それほど貧乳ではないが、周りが巨乳なのが多いため、彼女は自分のが小さいと思っている。
 大抵の男性なら興奮する場面に思えなくもないが、この村の男にとって、女性の胸―――いや裸にさえ、基本的に関心は無い。手足と同じく、“そこに付いてるもの”という程度の認識だ。
 グレッドは少しだけ考え、
「まぁ、そろそろ……なのか?」
 とだけ答える。
 だが決して興味が無いわけではない。思春期―――という概念はこの世界には存在しないが、最近のグレッドにとっては、何となく祭りで見かけるエッタの白い胸が揺れるたび、水浴びで目にする白い尻が揺れるたび、ついつい目が行ってしまう。それが異世界では、決して男に見られたくない体の一部だということに、この世界では誰も気付いていない。
 だからこそグレッドとしては、そろそろ人目に付かないよう、胸を隠してもらいたいと思うようになっている。
 個人的には不思議なくらい“見たい”と思ってはいるが、誰かに見られるよりはマシなのだ。……何となくではあるが。
 彼女はグレッドの言葉に従うことにしたようだ。
「ま……これであたしも大人の女なのかな……?」
 祭りの際に胸に葉を当てて隠すようになれば大人だと言われてはいるが、だからといって早く大人になりたい少女が背伸びして胸を隠すことはない。誰もそのようなことを気にしてないからだ。
 グレッドは少し残念な気持ちになりながらも、これで良かったのだと自分を納得させる。……と、そのときエッタが振り返り、
「じゃあグレッド、手伝ってくれない? 葉を両手で胸に当てたままじゃ、ツタで押さえながら背中でくくれないの。いまはお父さんもお母さんも家にいないし、グレッドがくくってくれない?」
 前言撤回。ちっとも残念ではなかった。
 
 
 
 
 
 夕日が辺りを染める頃を見計らって、祭りは始まる。
 森の中の広場の中央で大きな焚き火が燃え盛り、それを村人たちが大きく円形に囲み、中央には長老と、巨大な葉に乗ったあばれうしどりの料理、アイリの義父、そしてアイリが立っている。
 アイリの義父が、青々とした小さな葉がいくつも付いた枝を、片膝をつきながら長老に差し出すと、長老は無造作に枝葉を掴み、それを焚き火に向かって振り回しながら大きな声で叫ぶ。
「ああ、神よ。今日、また一ヶ月という時が過ぎた。明日から8月だ。つつがなく平穏に時を過ごせたことを、貴方に深く感謝いたしまする……」
 続けて全ての村人たちが、『感謝いたしまする……』と大声で言う。
 長老は続けて、
「今宵は神である貴方のお陰で、いつも以上に美味なる糧を得ることができました。深き恵みに感謝すると共に、まずは貴方から食事に口を付けて頂きたい」
『口を付けて頂きたい……』と村人たち。
 そこでアイリが、あばれうしどりの前であぐらをかく。これも儀式の一環だ。長老が続ける。
「実体無き神である貴方に、この巫女に憑依(ひょうい)して頂きたい。それによって、貴方に供え物を食していただくことができる」
 言いながら、アイリの義父がマンモスの牙のような物体(実際に何かの動物の角か牙である)の内側をくり抜いて作った杯(さかずき)をアイリに手渡し、長老が手に持った瓶から酒を注ぎ込む。
 義父が、今度は肉を小さく切り分け、巨大な葉の皿に載せて、アイリの目の前に置く。
 その間のアイリはずっと目を閉じていたが、全てのお膳立てが終わった瞬間、目を開き、左手に杯を持ったまま、右手で肉を手掴みし、口へと運んで、酒で喉の奥に流し込む。
 そして口を開く。
「皆のもの! 今宵のわしのための宴、心より感謝する! 皆も味わって喰らうが良い!!」
 もちろんこの台詞は、本物の神が憑依しているのではなく、そういう形式であり―――そうと分かっていながらも、村人たちもアイリ自身も、本当に神が憑依していると信じている。
 それまで円形に囲っていた村人たちが一斉にあばれうしどりの料理に群がり、大きな肉は神官がナイフで切り分けてやりながら、各自で持参した巨大な葉の皿に乗せていく。しかしすぐに食べてはいけない。順序的に、神が憑依した巫女が一番、そして長老が二番に食べてからだ。
 肉を分け終えたら、ここから先は食べて飲んで踊るだけだ。
 やがて自分が食べる分の肉を皿に載せたセラ達四人は、いつものように円を描くかのようにあぐらをかき、語り合う。
「いやー、ほんと今日はラッキーだったな!」
 グレッドがアイリと同じ動物の牙から作った杯を片手に、今日の獲物について語る。
 続いて、今月から胸に葉を当ててツタで押さえながら背中でくくるようにしたエッタが、やや怒った口調で、
「ラッキーだったのはグレッドじゃない! 死んだかもって、思ったんだからね!!」
 あばれうしどりに身体を吹っ飛ばされた時のことを言っているのだ。
 すると今度は、半年くらい前から今のエッタと同じ物を上半身に纏いはじめたセラが、酒が入って少し赤い顔になりながら笑い、
「あっはっは! こいつがそんなに簡単にくたばるタマかよ!」
「んもう! セラは悪乗りしすぎだよっ!」
 頬を膨らませて言うエッタに続き、今度はヒースが言う。
「そうだね。今回は運が良かったけど、普通は骨が折れてたよ。特に頭から落ちてたら、首の骨が折れて死んでたね」
 やや調子に乗っていたグレッドは軽く頭を下げ、
「……すまん」
 少し拗ねた口調で言った。すぐにエッタが笑顔になって、
「分かればいいんだよ」
 と子供を叱った後の母親みたいに言うと、四人は声を上げて笑った。
 食事の間はしばらく談笑したりして過ごすが、しばらくすると今度は踊りが始まる。食べきれなかった肉は一旦家へと持ち帰り、戻ってきた者から、再び焚き火を大きく円形に囲むのだ。
 そして全員で肩を組む。
 肩を組む左右の人は、同性か、もしくは親しい異性が来るようになっているが、基本的に適当にやっているため、即席の男女が肩を組むこともある。
 ……で、いつもの四人はというと、左からヒース、セラ、エッタ、グレッドの順に並んで肩を組みながら踊っていた。儀式の初めでは円の中心にいたアイリも、今は夫のルーディと一緒に踊りの輪に加わっている。
 
 
 
 
 
 誰もが笑顔で踊り、歌っていた。
 季節の変化がほとんど無いこの世界で、彼らは月に一度の祭りを『時の経過の目印』とし、それを延々と繰り返していく。
 踊りながら。
 歌いながら。
 魔王も悪魔も存在しないこの世界で、いつまでも平和に―――


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