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No.29488の一覧
[0] 【短編】妄想少女[モジカキヤ](2011/09/11 18:59)
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[29488] 【短編】妄想少女
Name: モジカキヤ◆ab916118 ID:99110dde
Date: 2011/09/11 18:59
小説家になろうとピクシブにも同様の物を投稿しております。




 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 異常な暑さに苛立ったあまり、冷たいシャワーで身体を芯まで冷やし、パンツ一枚でタオルケットもかけずに扇風機に当たって昼寝をする、という年頃の乙女らしからぬ暴挙に出た所、ものの見事に風邪を引いた。

 最初は風邪だと気付かなかったが、目を覚ましてみると身体が重くて起き上がるのが億劫だ。無理に身体を起こすと関節が嫌に痛む。頭はくらくらするし、無暗に顔が火照るのを感じる。なのに身体はひんやりと冷たい。これが、恋……ではなく夏風邪だ。

 幸か不幸か、それが起こったのは夏休みの最中だった。せっかくの休みを棒に振る事に無性に腹が立ったが、そもそもの原因が自分にある事を思い出して落ち込んだ。

 最愛の娘が風邪を引いた時に、両親は家にいない。商店街の福引で当たりを引き当て、夫婦水入らずで温泉旅行に行ったのだ。たまには親孝行などと思い、満面の笑みで二人を送り出したあの時の自分にコブラツイストとかかけたい。かけかた知らないけど。
 看病してくれる人がいないのは悲しく辛いものだ。花も恥じらう女子高生が風邪を引いたまま、一人部屋で震えている。パンツ一丁で。うむ、ひとまず服を着よう。

 ふらつく身体でパジャマを着た私は、「そう、こんな時こそ友達よ!」と友達を召喚する事に決めた。
 枕元に放り出してあった携帯電話を手に取り、一番仲の良い友達に電話をかける。
 数度の呼び出し音の後、「はーい」と間の抜けた愛すべき友人の声が聞こえた。

「もしもし、風邪を引いてしまったから助けて」
「え、何あんた風邪なんか引いたの? あははは、ザマ見ろ」

 何があはははだ、友達甲斐の無い奴め。
 わたしの友達は基本的には良い子が多いけれど、モラルのなって無いのが多いのが気になる。しかし、そんな時に私の胸を突くのが、「類は友を呼ぶ」という諺なのであった。悲しい。

「どうせパンツ一丁で昼寝でもしたんでしょ。あんたバカだから」
「そっ、そんな事するわけ無いじゃない!」

 あんたはエスパーか! 魔美か!
 友人の千里眼に恐々としつつも、なんとかお見舞いに来させる算段をつけ、わたしは布団に潜り込んだ。

 女友達もいいけれど、本当は先輩にお見舞いに来てほしい。それで卵粥とかをふうふうしてから、「あーん」てしてほしい。で、わたしはそれを「あーん」てして食べたい。
 食べた後はお布団をかけ直してもらって、額の濡れタオルを取り替えてもらう。
 ずっと額に乗っかってたタオルは、わたしの体温でぬくぬくになっていて、先輩がそれを枕元のタライのお水に浸してぎゅうと絞る。
 それをわたしの額に乗せるのだけど、唐突にやってくるひんやりした感触に、わたしは「ひゃっ」とか小さな声を出しちゃうわけで、それを聞いた先輩は優しく微笑んでくれる。
 それでわたしが寝付くまでずっと手を握ってくれちゃったりなんかして、ああ、もう先輩大好き、結婚して。子供は、男の子が一人に女の子が二人が良いな。わたし、頑張りますから!
 風邪の熱が脳にまで到達したかのような妄想を繰り広げていると、ドアが開いた。凄い勢いで。

「おーっす。来たよー」

 そう言って現れたのは友達だった。
 ノックはおろか、ピンポンまで鳴らさぬ闖入者に、わたしは軽くパニック状態に陥った。妄想の最中に割り込まれた時の人間の反応なんて似たようなものなのだ。

「ちょ、ちょっと、ピンポンくらいしたらどうなのよっ」
「ピンポンしてもあんた出られないでしょうが、風邪なんだから。それにおじさんもおばさんも旅行でしょ」

 友達はさばさばしている。だらだらしているわたしみたいな人の友人とは思えないくらいにさばさばしている。だから色々と頼りになるのだけど、わたしの思考が追いつかない間にどんどん物事を進めて行ってしまうきらいがあるから、そこだけは辟易させられる。

「さーって、パンツ一丁のせいで風邪を引いたあんたの看病ってのもバカらしいけど、一応あんたの友達やってるからね。お粥食べるでしょ?」

 いちいち一言多い奴だ。モラルの無い発言さえ慎めば、彼女は友達として申し分ない筈なのに。類は友を呼ぶ……か。
 わたしの返事も待たずに台所でお粥を作り始める友達。当人の意志を最初から無視する位なら、そもそも聞かない方がマシだろ。なんなのよ、あの子は。

「ねーっ、卵入れるでしょー」
「お願いしまーす」

 友達の呼びかけに大声で答える。卵の入っていないお粥なんてお粥じゃないやい。

 そういえば先輩の実家は卵屋さんだとか言ってた。毎日新鮮な卵を消費者の皆様にお届けする崇高なお仕事だ。数千羽の鶏たちが鶏舎の中でもそもそうごめく様は中々に見事な光景なのだろう。
 もし、わたしが先輩と結婚したら、わたしは卵屋のお嫁に行く事になる。
 
 お嫁に行ったらば、毎日朝早くに鶏舎に入って、こっこ、こっこと歩き回る鶏たちの産み落とした卵を拾うのだ。産まれたばかりだからまだ温かかったりして、なんとなくわたしはほっこりするのである。

 それからお家に戻って、先輩の――いや旦那様の為に美味しい美味しい朝ごはんを作る。
 わたしはまだ料理が苦手だけど、それまでにはきっと上手になっている筈。そして旦那様はわたしの作った朝ごはんを食べる。美味しい美味しいと言って食べるのだ。

 ああ、もう堪りません。もうこれは先輩と結婚するしか無いかも分からんね。でも女の子からプロポーズするのは無粋だと思うので、先輩がプロポーズしてくれると嬉しい。

「おれの為に、毎日卵を拾ってくれ」

 とか言われるの。想像しただけで顔が熱くなる。別に風邪のせいではない。

「でも、そのプロポーズの仕方じゃ、アルバイトの勧誘じゃん」
「きゃーっ!」

 びっくりした。いつの間にか友達がわたしの布団の傍らに座っていた。手には卵粥が入っているであろう小さな土鍋がある。というか、人の妄想にナチュラルに入ってこないでちょうだい。まったく、デリカシーの無い人! プンプン!

「なに膨れてんのさ。あんたの妄想癖は今に始まった事じゃないでしょ。もう慣れっこだよ。はい、お粥。あーんてしてあげようか?」
「いい、お断りします。べっ、別に恥ずかしいとかそういうのじゃないんだからね! ふんだ、ふんだ、だっふんだ!」
「……可哀想に、脳までバイ菌にやられちゃったのね」

 心底、気の毒そうな目でわたしを見る友達。冗談の通じない人である。……その目で見るのをやめろっ。
 兎にも角にも、友達が作ってくれた卵粥をはふはふ食べる。美味しいじゃないか、ちくしょう。友達の意外な料理スキルに軽く嫉妬しつつも、お腹がすいていたのかぺろりと平らげてしまった。

 どんなに体調が悪くなっても、食欲だけは衰えないのはわたしの美点であるが、乙女としてそれはどうなのか。いや、きっと先輩はそういう元気な子の方が好みの筈。
 この前だって、細身で静かなの女の子よりは、少しふくふくとして元気な女の子の方が好みだと話しているのを聞いた。

 誠に遺憾なのだが、わたしは生来の怠け者であるから、この夏の暑さにやられて日がな一日ごろごろする生活を送っていた。それゆえになんだかお腹周り辺りがもちゃっとしてきたような気がする。でもそれは多分先輩の好む所だから気にしない事にした。
 大体、怠け癖だってわたしの家の先祖代々の血のしからしむる所であるらしいから、全部わたしが悪いとは一概に言えないのである。お父さんもお母さんも暇さえあればごろごろしてるし。

「いやいや、あんたの怠け癖はあんたのせいでしょ。もう少し女の子らしくしたらどうなのさ」
「うっ、うるさいやい! それにあんたにだけは言われたくないもん!」

 またしてもナチュラルに妄想に侵入してきた友達に言い返す。こいつは千里眼だけでなく、読心術まで心得ているのだろうか。
 こいつだって、学校では男勝りの女傑として名の知られている女だ。身長は高いし、さばさばしているし、運動だって男子に引けを取らない。腕相撲でも勝つとかおかしいにも程がある。これは乙女とは言わん。

 ただ、不必要なくらいに女を主張している胸の双丘はなんだ。男女(おとこおんな)の癖して、自前の肉まんを二つもたゆんとさせているなど許し難い暴挙である。
 妙に腹が立ったので、わたしは友達に躍りかかった。そして胸の双丘を揉んだ。揉みしだいてやった。うむ、柔らかい。おいこら、「んっ」とか言うな。

 友達と違って、わたしはちんちくりんだ。胸どころか腰も尻も薄い。不自然なくらいに薄い。
 わたしはよく食べる方なので、栄養が足りないという事はまずない。むしろ栄養過多と言ってもいいくらいだ。それなのに、出るべき所に行く筈だった栄養素は何処へ行ったというのか。
 論文にすればノーベル賞間違いなしの議題だと思うが、それはおそらく人類が永遠に到達できない謎であるだろうから、わたしにはちょっと荷が重い。

 しかし、胸は愛する人に揉まれると大きくなるという。
 わたしの貧相極まりないおっぱいだって、先輩がもみもみしてくれればボインボインになる事請け合いだろう。
 ボインボイン。ああ、なんて甘美な響きだろう。
 先輩はふくふくした女の子が好きだから、当然、おっぱいだって大きい方が良いに決まっている。肩がこる事くらい幸せの代償だと思わなくては。

「僕が揉んで大きくしてあげるよ」

 とか耳元で言われちゃったら、わたしはもうどうしていいかわからない。先輩のなすがままに、無い胸を蹂躙されるであろう。
 いや、先輩は蹂躙なんて無粋な事はしない筈だ。きっと優しく優しくふにふにしてくれる筈である。いかん、頭がぼーっとしてきた。

「……あのさ、なんでそんなに恍惚としてあたしの胸揉んでんの」
「ちっ、違うわよ。別に、あんたの胸の柔らかさに溺れていたわけじゃ無いんだから! ふんだ!」

 それはまごう事なき事実なのだが、友達には何故か頭をよしよしされた。可哀想な人を慰めるが如きよしよしだった。くそう。

 友達のふくよかな胸と、乙女の純然たる妄想を堪能したわたしは、再び布団に潜り込んだ。風邪を治すには寝るのが一番だ。
 ふかふかのお布団に潜り込めば、睡魔さんがてくてくとやって来る筈だったのだが、一向に眠くならない。
 寒気はするから布団には潜り込むのだけど、気温は高いから汗が出てくる。寒いのに暑い。なんだかすごく気持ち悪い。気持ち悪くて寝ているどころでは無い。「うがーっ」と言って布団をはねのけると、壁に寄り掛かってマンガ本を読んでいた友達がびっくりしてこちらを見た。

「何、どうしたの」
「暑くて寝てられないです! 汗かきすぎて気持ち悪いし!」
「あっそう。じゃあ拭いたげるよ。脱ぎな」
「なっ、何をする気なの! このケダモノ!」
「へっへっへ、何、大人しくしてれば乱暴はしねぇぜ」
「きゃー、いやー、先輩、助けてー!」
「……やめようか」
「うん、ごめん」

 変にテンションを高くしてみたりすると、ふと自分を客観視した時に、どうしようもない気分に覆われる。わたしも友達もなんだかどうしようもない気分で向かい合った。
 わたしはおとなしく服をはだけて、友達はタオルを水に浸してぎゅうと絞った。

「あんた阿呆だけど、肌はすべすべだよね」
「阿呆は関係ないだろ」

 わたしの汗を濡れタオルで拭きながら、相も変わらず減らず口を叩き続ける友達。タオルはひんやりしていて気持ちいい。本当はお風呂に入りたいけど、風邪の時にお風呂は厳禁だからそれは叶わない。
 友達は武骨者らしく、ちょっと乱暴にごしごしとわたしを拭く。もう少し優しく拭くべきだと思う。
 先輩だったら、きっと凄く優しく拭いてくれるに違いない。鶏の羽毛みたいにふかふかと拭いてくれるのだ。

「まっ、前は大丈夫ですから!」

 とか私が言っても、

「いや、きちんとしないと風邪が悪化する」

 と、下心のない純粋な優しさで、全身くまなくタオルが行き来する。
わたしは恥ずかしくて堪らないのだけど、先輩はあくまでわたしの事を考えてくれているから、どうしても「やめて」と言えない。そのうち敏感なとこにタオルが当たっちゃったりなんかして、熱で火照る顔がもっと赤くなっちゃったり。うふふふふふ。

「……それは引くわ」
「ちょっ、人の心を読むなー!」
「いやいや、あんた結構口に出てるからね? 気を付けた方がいいよ」
「うそっ?」
「ホント」

 なんて事だ……。乙女の純然たる妄想が白日のもとに晒され続けていたとは、なんたる屈辱であろうか。わたしは不甲斐なさに俯き、歯噛みした。ああ、先輩、助けて。

「てかさー」友達はタオルを水に浸しながら言った。
「さっきから出てくる先輩だって、あんたの妄想の産物でしょ? あたしら三年じゃん。先輩居ないじゃん」
「うるせーっ! 夢くらい見させろってんだよーっ!」

 わたしは咆哮した。と同時に頭に血が上ったのか、くらくらーっと来て、布団に仰向けに倒れこんだ。
 暗転する意識の中、先輩が私を呼ぶ声が聞こえる。
 声の方に走って行くと、先輩が優しい微笑みを顔に張り付け、両手を広げてわたしを待っていた。
 わたしは迷う事無く先輩の腕の中へ飛び込んだ。
 ああ先輩、ついに会えましたね。そんな思いを込めて先輩の顔を見上げると、その顔は見まごう事なき鶏であった。

 夢くらい見させろってんだよーっ!


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