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No.2931の一覧
[0] 「満員」[次の人](2008/04/24 03:35)
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[2931] 「満員」
Name: 次の人◆ceed90d4 ID:af9515ec
Date: 2008/04/24 03:35
僕は順番を待っている。

噂には聞いていたが一度も来たことがなかった。

まぁ、僕がここに来たのもたまたまの事だった。

それにしても随分と行列が長い。

こんなことなら誰か知り合いを連れて来ればよかった。

そんなことを後悔しながら僕はただ静かに順番を待っていた。

すると、僕の前に並んでいた人が話しかけてきた。

「この調子じゃ、ここも駄目かもしれませんねぇ」

感じのよさそうな初老くらいの男だった。

「そうですか、けど僕、ここ以外の場所知らないんですよね」

「私も何箇所か回ったけどねぇ、何処も満員で入れてくれないんですよ」

「あっちも大変なんでしょうね・・・」

「まぁ、受付をしてみないと分からないですけどね」

僕はここ以外の場所を知らないが、男の話からすると他の場所はどうも満員が続い
ているらしい。

普通に受付を済ませてすんなり通してもらえる物だとばかり思っていた。

どうやら御役所仕事も楽じゃないみたいだ。

もし、ここが満員なら僕はどうしようか。

――なんとなく察しはついている。

各々、好きなところで自分の番が来るまで適当に暇を潰していればいいだけだろう。

ここに来る途中にそんな人たちを何人か見た。

来るときには何をしているのか分からなかったが今となっては納得ができる。

前に並んでいる男が言っていた様に、この調子じゃ僕もあの人たちと同じ区分になるのだろう。

まさか此処に来ても失業者の様な扱いを受ける人が居るとは思いもしなかったが。

結果を聞かない内に勝手に結論を出してしまっても仕方が無い。

僕はまた前の男と話をしながら順番を待つことにした。

「私はねぇ、これで通らなかったら、もう諦めようと思ってるんですよ」

「どうしてです?」

「娘も結婚して、孫も出来るみたいなんでねぇ・・・」

「それはおめでたい話ですね」

「やっぱり、孫の成長は見たい物ですからねぇ」

「なら、お孫さんの側に居てあげるべきですよ」

男は幸せそうな顔を浮かべた。

そんな話をしながら時間を潰しているとようやく、受付へとたどり着いた。

「お待たせしました」

「随分と人が多いんですね」

「最近は特に多いですね・・・」

「そうなんですか」

「ええ。で、今日はどのようなご用件でこちらに?」

「ああ、実は交通事故にあってしまって・・・」

「交通事故ですね、では6番の窓口でお待ちください」

「わかりました」

僕は受付を離れると6番の窓口へと向かった。

ここも人で溢れかえっている。

また結構な時間を待たされて、ようやく順番が僕へと回ってきた。

「ええと、交通事故でしたね?」

「ええ、そうです」

「大変申し訳ないのですが、現在満員になっておりまして・・・」

「そうですか・・・」

「一応、予約ができますが、2年から、3年先になりますね・・・。予約なさいます
か?」

予約で2、3年先か・・・。

一体どれくらいの人が控えているんだろうか。

「一応お願いしておきます」

「では、この用紙に記入してください」

「わかりました」

最低限の必要事項しか無い様な用紙だった。

僕はさっさと記入を終え、用紙を手渡した。

「では、こちらが整理券になりますので順番が来たら係りの者にお渡しください」

「順番を待っている間、僕は何をしていればいいですかね?」

「そうですね・・・何もせずただ歩き回っていたり、家族のところへ戻ったり、皆さ
ん好きなようにしているみたいですね」

「そうですか、わかりました」

「ご利用ありがとうございました。次の方、こちらへどうぞ」

外へ出ると行列はさらに増えているように見えた。

皆、満員と知っていても、とりあえずは此処に来る他ないのだろう。

さて、僕はこれからどうしようか。

友達のところに上がりこむのも悪いし、僕には家族も居ない。

それこそ歩き回るしかないのだろうか。

そんな事を考えている内に雨が降り出してきた。

そういえば僕が交通事故にあった日もこんな風に雨が降っていた。

――僕は一昨日、交通事故で死んでしまった。

死んでからすべき事は何故かすぐに理解できた。

赤ん坊が母親の乳を欲しがるような事なのかもしれない。

今まで世話になった人の夢に出て行くのだ。

いろんな人の所を一晩で回る訳だから、夢に出られるのはわずかな時間だけ。

もともと夢なんてすぐに忘れてしまう物なのに、夢に出られるのは少しの時間。

だから殆どの人は目が覚めると同時に僕が夢に出ていた事なんて忘れてしまってい
る。

それを済ませてから、僕は「あの世」の受付に向かったわけだ。

まさか、丸1日も順番を待つことになるとは思わなかったけど。

核兵器や大量虐殺兵器、戦争にテロ、大勢が一気に押し寄せてあの世側が捌き切れる
わけが無い。

今や、地上も、天国も、地獄ですら人が溢れかえっている。

これからも何処にも行けない人が増え続ければ一体どうなるやら・・・

~終わり~


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