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No.29266の一覧
[0] クララ一直線・セカンド (レギオス 再構成) 【完結】[武芸者](2013/07/10 16:04)
[1] プロローグ 始まり[武芸者](2012/11/01 08:50)
[2] 第1話 学園生活[武芸者](2011/08/11 09:04)
[3] 第2話 入学式[武芸者](2012/05/22 07:12)
[4] 外伝 とある夜[武芸者](2011/09/30 10:15)
[5] 第3話 第十八小隊[武芸者](2011/08/11 09:17)
[6] 第4話 眩しい日常[武芸者](2011/08/11 09:07)
[7] 第5話 第十八小隊の初陣[武芸者](2011/08/11 09:08)
[8] 第6話 汚染獣[武芸者](2011/08/11 09:16)
[9] 第7話 波乱の後に……[武芸者](2012/05/22 07:10)
[10] 第8話 セカンド[武芸者](2011/08/11 22:19)
[11] 第9話 都市警[武芸者](2011/09/30 13:50)
[12] 第10話 一蹴[武芸者](2011/09/30 13:26)
[13] 第11話 一時の平穏[武芸者](2011/11/06 21:28)
[14] 第12話 廃都[武芸者](2012/02/02 09:21)
[15] 第13話 ガハルド[武芸者](2012/05/23 20:58)
[16] 第14話 けじめ[武芸者](2012/06/12 06:49)
[17] 第十五話 目覚めぬ姫[武芸者](2012/11/01 08:21)
[18] 第十六話 病[武芸者](2013/01/19 00:22)
[19] 第十七話 狂気[武芸者](2013/02/17 08:02)
[20] 第十八話 天剣授受者と姫 (完結)[武芸者](2013/07/11 10:07)
[21] クララ一直線・サード!?[武芸者](2015/08/04 17:25)
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[29266] 第2話 入学式
Name: 武芸者◆8a2ce1c4 ID:d980e6b9 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/05/22 07:12
さて、どうしてこうなったのだろうか?
レイフォンは入学式初日にして生徒会長室へ呼び出され、その原因を考える。
レイフォンの正面にはこの都市の長である生徒会長、カリアン・ロスがいる。
彼は大きな執務机を前に腰掛けており、レイフォンに感謝の言葉を伝えた。
今日は入学式当日。だが、その入学式はある騒ぎによって中止となってしまった。そのことについて、レイフォンは呼び出されたのだ。

「君のおかげで新入生達に怪我人が出ることはなかったよ」

騒ぎを起こしたのは武芸科の新入生達だ。レイフォンも武芸科の生徒ではあるが、彼は別にその騒ぎに関係はしていない。むしろそれを治めたのだ。
どうにも敵対都市同士の生徒達が鉢合わせしたらしく、軽い視線のやり取りが舌戦に替わり、それが更に悪化して乱闘へと替わったのだ。
武芸科とは、超人的な力を持つ武芸者によって構成された学科だ。もし武芸者同士が本気でぶつかり合えば、最悪、一般生徒に死傷者が出たことだろう。
カリアンはそれを止めてくれたレイフォンに、純粋な感謝の気持ちを抱いていた。

「新入生の帯剣許可を入学半年後にしているのは、こういう、自分がどこにいるかをまだ理解できていない生徒がいるためなのだけど……やれやれ、毎年の事ながら苦労させられるよ」

「はぁ……」

苦笑するカリアンだが、その表情はとても爽やかだった。
何を考えているのかわからない笑顔。その顔を見て、レイフォンは気の抜けた相槌を打つ。

「それにしても、新入生とはいえ武芸者2人をああも簡単にあしらうとは、なかなか腕が立つようだね」

「確かに腕にはそこそこ自信がありますが……僕は新入生ですし」

「ふむ……」

カリアンは沈黙し、何かを考え込んでいるようだ。
レイフォンの言葉は謙遜だ。そこそこの腕前で、グレンダン最強の一角になれるはずがない。
だが、ここはグレンダンではなく学園都市ツェルニだ。自分の身分を、そして実力をそうまでしてひけらかすつもりはない。

「それはそうと、レイフォン・ヴォルフシュテイン・アルセイフ君、話は変わるけどいいかな?」

「……………」

だが、カリアンはレイフォンのことを、身分を、実力を知っていたようだ。
その事実に、レイフォンは思わず息を呑む。

「僕のことを……天剣授受者を知っているんですか?」

「君も、当然放浪バスを経由してこの都市に来たんだろう?その時私は、槍殻都市グレンダンに寄る機会があってね。偶然、天剣授受者を決定する試合を観戦したんだよ」

つまり、それがレイフォンの試合だった。
5年前、10歳のころにレイフォンが戦った試合。10歳になるかどうかの子供が、武芸の盛んなグレンダンで他者を、大人達を圧倒する姿をカリアンは目撃したのだ。

「それで、一体僕に何の用なんですか?」

そんなカリアンは、一体レイフォンにどんな話があるのだろう?

「単刀直入に言うよ。君には小隊に入って欲しい」

「小隊?」

レイフォンは顔を顰め、ゴルネオに聞いた話を思い出す。
確か、小隊とは武芸科のエリート集団だったはずだ。

「僕は新入生ですよ?」

そのエリート集団に、1年生であるレイフォンに入れと言うのだ。

「君の実力なら十分だと思うけど?」

「……………」

別に驕るつもりはないが、レイフォンは自分のことを天才であり、それ相応の実力があると理解している。
そうでなければ天剣授受者になどなれないし、他者の力量以前に、自分の実力を把握することは武芸者にとって大切なことだ。

「名誉はもちろん、小隊員と言うだけでそれ相応の報奨金なども出るし、決して悪い話ではないと思うけどね」

メリットは確かにある。だが、それらはレイフォンにとって興味のないものだった。
名誉や地位が欲しくて天剣授受者になったのではなく、効率よく金を稼ぐ手段として天剣授受者になったのだ。
その金に関しても、孤児院の心配をしなくてもいい現在では大して興味はない。
生活費に関しては、グレンダン王家からの仕送りで十分に足りている。

「どうして、そうまでして僕を小隊に入れたいんですか?」

興味はないが、気にはなる。どうしてそこまで、カリアンがレイフォンを小隊に入れたがっているのか?

「君は、学園都市対抗の武芸大会を知っているかな?」

「……いえ」

問いかけにレイフォンは首を振る。初めて聞いた言葉だ。
そんな返答にカリアンは失望する様子もなく、武芸大会について説明した。

「簡単に言えば、2年ごとに訪れるアレだよ」

つまりはレギオスによる縄張り争いだ。
都市の動力源、セルニウムを懸けた戦争。武芸大会と銘打っているだけあり、学園都市同士の戦争では学生らしく健全な戦いを目指している。
出来るだけ死人が出ないように配慮されているのだ。だが、それでも都市が敗北すれば失うものは同じだ。
失われるのは都市の命。動力源を失ったレギオスには、滅びしか待っていない。

「ツェルニが保有していた鉱山は、私が入学した当初は三つだった。それが今ではたった一つだよ」

そして瀬戸際。ツェルニは現在追い詰められており、滅びの一歩手前だということだ。
三つあった鉱山が一つに……それはツェルニが負け続け、近隣の学園都市と比べてレベルが低いと言うことだ。

「つまり、次で負ければ後はないと?」

「そう言う事だよ。今季の武芸大会で一体何戦することになるのかは都市しだいだが、1戦もしないと言うのはありえない」

「それで僕に……」

つまり、ツェルニが生き残るには勝つしかない。
近隣の学園都市よりレベルが低いと言うのなら、その分のレベルを、戦力を補充すればいい。
武芸者として圧倒的力を持つレイフォンを加入し、この都市を救おうと言うのがカリアンの企みなのだろう。

「……………」

レイフォンは暫し考え込む。
話は分かった。カリアンはレイフォンにこの都市を救って欲しいのだろう。
確かにレイフォンの実力からすれば造作もなく、容易いことだ。
別に戦うことは構わない。この都市、ツェルニを勝利に導くことも簡単だ。
レイフォンが単身で敵地に乗り込み、存分に暴れれば良いのだから。

「分かりました。この都市が生き残れるよう、協力させていただきます」

結論は出た。その旨をレイフォンはカリアンに伝える。
レイフォンの言葉に、カリアンは笑みを零す。

「ですが、小隊入りの件はお断りさせていただきます」

だが、全てが思惑通りには行かず、カリアンの当初の提案である小隊入りを、レイフォンは断った。

「……理由を聞いてもいいかな?」

「はい。別に武芸大会に参加することも、ツェルニを勝利に導くことも構わないんですよ。僕自身も、せっかく学園都市に入学したのに、そこが無くなると困りますから。ですが、僕にはそれと同時に役目がありまして……」

「役目?」

レイフォンの役目。それは王命である。
天剣授受者として、レイフォンは女王直々にある役割を与えられた。
それはクラリーベルの、ロンスマイア家の跡取りである少女の護衛。そのために天剣の所持を許され、わざわざこの学園都市までやってきたのだ。
その使命を忘れ、小隊などに所属する余裕はレイフォンにない。

「なるほど……君ほどの実力者が何で学園都市に来ているのか疑問ではあったが、そういう理由があったのか」

カリアンはこくりと頷く。いくらグレンダンとはいえ、レイフォンほどの武芸者を手放したのには疑問があった。
何か訳ありならともかく、入学前に少しだけレイフォンのことを調べたが、そんなことはまったくなかった。
だが、王家の護衛ならば納得も行く。建て前上留学となっている少女を護衛するため、レイフォンは学園都市に付いて来たのだ。
その事実に、幸運に、カリアンは思わず感謝した。

「そういう事情なら仕方がないね」

「すいません……」

「なに、君が気にすることではないよ」

感謝はしたが、そういう事情ならば小隊に所属してもらうのは諦めるしかない。
レイフォンはツェルニの学生ではあるが、それ以前に天剣授受者でグレンダンの臣下だ。
女王直々に与えられた命に逆らえるはずがなく、カリアンにしてもこれ以上無理を言うつもりはない。
武芸大会に、レイフォンと言う心強い戦力を補強できただけでよしとしよう。

「それから、このことはくれぐれも内密に」

「わかっているよ。このことは君と私だけの秘密だ」

最後にレイフォンは釘をさす。クラリーベルが王家の娘、つまりは王女であることを隠すためにだ。
都市の最高権力者であるカリアンには小隊入りを断るために事実を伝えたが、その事実を広められるのはあまりよろしくない。
カリアンもそのことを承知してか、素直に頷いてくれた。

「さて、手を貸してくれると言うのなら鍛錬のためにも錬金鋼はあった方がいいだろう。さっきも言ったけど、新入生の帯剣は入学して半年後になっていてね……特別な処置となるが、君には錬金鋼の所持を許可しよう」

「ありがとうございます」

「何、これくらい気にしないでくれ」

言いながら、カリアンはなにやら許可証の様なものを書いている。
それをレイフォンへと手渡し、それなりに有意義な対談が出来たようで、カリアンはにこやかにレイフォンを生徒会室から送り出すのだった。







































レイフォンが生徒会長室に呼ばれたため、その間クラリーベルには教室で待っていてもらっていた。
今日は入学式だけで、その入学式も中止になってしまったために校舎に人影はない。そんな場所に、護衛である自分が彼女を1人で待たせてしまっているのだ。
仕方がないとはいえ、クラリーベルを待たせたことを申し訳なく思いつつ、レイフォンは教室へと急いだ。

「あ、レイフォン様!」

「お、噂のナイト君がやっと来たね、待ちくたびれたよ」

レイフォンが教室に入ると、クラリーベルがどこか嬉しそうに出迎えてくれた。
だが、その続けられた声に、その言葉を発した人物にレイフォンは首をかしげる。
教室にはクラリーベルのほかに、3人の少女達がいた。レイフォンに声をかけてきたのはその中の1人で、明るい栗色の髪をした、ツインテールの少女だ。

「えっと……これは一体どういうことですか?」

いきなりの展開にレイフォンは戸惑う。
面識のない人物にいきなり声をかけられれば、驚くのも無理はない。

「先ほど知り合って、少しお話をしていました。ミィことミィフィ、ナッキことナルキ、メイっちことメイシェンですね」

呆気に取られているレイフォンに対し、クラリーベルは彼女達を紹介する。
先ほど、レイフォンのことをナイトと呼んだのがミィフィであり、赤毛で長身の少女がナルキ、その後ろに隠れている小柄な黒髪の少女がメイシェンなのだろう。
ミィフィとメイシェンは一般教養科の制服を着ており、ナルキはレイフォンやクラリーベルと同じ武芸科の制服を着ていた。

「ども、ご紹介に与ったミィちゃんことミィフィです!よろしくねレイとん」

「ちょっと待って、話に付いていけない。ってか、レイとんって何!?」

この状況にレイフォンは付いていけなかった。
ここにクラリーベル以外の少女達がいることもそうだが、その少女が何故自分に話しかけてくる?
それ以前に、レイとんとなんのことだろうか?

「私が考えた呼び名。呼びやすいでしょ?」

ミィフィは楽しそうに言う。
ナルキは呆れたようにため息を吐き、レイフォンをフォローするように声をかけた。

「すまないな、ミィは人の呼び名を考えるのが趣味なんだ。さっき、クララが言った呼び名も、全部ミィが考えた」

「はぁ……」

レイフォンは返答に困ったように頷く。
実際に困っており、なんと言えばいいのかわからないのだ。
それにいい加減、この状況を説明して欲しい。クラリーベルと仲良くなった少女達のようだが、一体レイフォンに何の用なのだろうか?

「それはそうと、メイ、ほら」

ナルキに促され、おずおずと小柄な黒髪の少女、メイシェンが出てくる。
先ほどからおとなしく、今にでも泣きそうな瞳をしていた。上目遣いで、頬をかすかに赤めながら口を開く。

「あの、ありがとう……ございました」

その開かれた口も、たったこれだけの言葉を発することしか出来なかった。
メイシェンは顔を真っ赤にして、ナルキの背中へと隠れてしまった。

「悪いね、こいつは昔から人見知りが激しいんだ」

「それでも、入学式で助けてくれたからお礼をしたいって。ねぇ」

ナルキとミィフィの言葉に、メイシェンは小さく縮こまる。
レイフォンにはまったく覚えがないが、入学式のあの騒ぎが原因で周囲はざわついていた。
並んでいた列になだれ込もうとした人の波を掻き分けて騒ぎの中心へと行ったので、たぶんその時に助けたのだろう。その程度のことしか思い出せない。

「別にそんなつもりで助けたわけじゃないし……そもそも、ああしなかったらクララが暴走してたから」

「レイフォン様、私のことを戦闘狂かなにかだと思ってません?」

「違うんですか?」

実は、入学式で起こった武芸科新入生達の乱闘は、他の科の新入生達にも伝播しようとしていた。
ツェルニには様々な都市から生徒達がやってくる。乱闘の中心となっていた生徒達以外にも、気に入らない都市出身の人達がいたのだろう。
険悪な空気が武芸科を中心に広がり、それは他の科の生徒達にも移ろうとしていたのだ。
逃げ出そうとした人達がぶつかり合い、それが血の気の多い男子生徒達に火を点けようとしていた。
武芸科の新入生の誰もが乱闘の空気に呑まれており、自分達も暴れたそうにしていたのだ。そうなれば最悪だ、誰にも止めることは出来ない。
それを治めたのがレイフォンである。あっと言う間に騒ぎを起こした原因の2人を押さえつけ、混乱の中心を鎮圧することでこれ以上の伝播を防ぐ。
それと同時に、あえて派手に演出したことによって既に伝播していた者達を威嚇したのだ。
血の気が多く、暴れだしそうだったクラリーベルに釘を刺すついでに。

「それはそうと立ち話もなんですし、お腹が空きましたから何か食べに行きませんか?」

「無視ですか?都合の悪い記憶を忘却ですか?」

話題をコロッと変えたクラリーベルに、レイフォンは深いため息を付く。

「まぁ、腹が減ったのは確かだしな。レイとんもそれでいいか?」

「いや……食べに行くのは別に構わないんだけど、その呼び名って決定なんだ?」

「まぁな」

呼び名をレイとんと不本意なものに決められて、レイフォンはもう一度ため息を付く。

「あ、でもいいの?彼女、メイシェンって人見知りするって言ってたし」

「……大丈夫です」

人見知りする少女がいるのに、自分のような他人がいてもよいのかと思うレイフォンだったが、当の本人がそう言うのなら大丈夫なのだろう。

「はい、決まり」

レイフォンはミィフィ達に連れられ、少し遅めの昼食を摂ることになった。





場所は変わり、喫茶店。ぎりぎりランチタイムに間に合うことは出来たが、それももう終わりだったために客は少ない。
既に注文は終え、今は料理が来るのを待っている。

「レイとんにクララもグレンダンの出身なんだよね。なるほど、だからレイとんはあんなに強かったんだ」

「別にグレンダン出身だとか、そんなことは関係ないと思いますよ。確かにグレンダンは武芸のレベルは全体的に高いですが、レイフォン様はその中でも別格でしたから」

「へぇ、そうなんだ?」

その間に交わされる会話は、やはりレイフォンのこと。
あの騒動を一瞬で治めたレイフォンの実力がかなりのものだと知られ、それに誇らしげに同意するクラリーベル。

「ひょっとしてクララもそんなに強いの?」

「そうですね……一応グレンダンでも上位の実力だと自負はしていますが、まだまだレイフォン様の足元にも及びません」

「そんなことはないと思うけど……」

ミィフィの問いかけに、クラリーベルは謙遜して答える。
だが、レイフォンとしては彼女の実力を認めていた。
確かに剄量ならばレイフォンの足元にも及ばないだろう。だが、その技、技量に関してはレイフォンにも匹敵するはずだ。
経験などを総合するとまだレイフォンの方が高みにいるだろうが、クラリーベルならばいつかその高みに、領域に登ってくると思っている。

「そんなに強いなら、どうして都市を出たんだ? わざわざ学園都市に来なくても勉強は出来るだろう?」

ナルキが不意に、そんな質問を投げかけてきた。だが、もっともな疑問だろう。
あらゆるものから都市を護るのが武芸者なのだ。それ故に、都市は実力のある武芸者を外に出したがらない。
それは武芸の本場と呼ばれているグレンダンでも同じはずだ。なのに、レイフォンとクラリーベルは都市の外に出ている。

「う~ん……なんて言えばいいのかわからないけど、グレンダンはレベルが高いから僕達がいなくても大丈夫なんだよね」

レイフォン達が都市の外に出れた理由だが、都市の防衛のための戦力は何の問題もなかった。
武芸者のレベルが全体的に高いのはもちろん、レイフォンを除いても11人の天剣授受者がいる。
更にその上には、最強無敵の女王が存在している。レイフォンやクラリーベルが抜けたからと言って、グレンダンの戦力が薄くなると言うことはありえないのだ。
狂った都市と呼ばれ、なのにどこよりも安全な都市と言われるグレンダンは健在なのである。

「なんかよくわかんないけど、やっぱり凄いんだね、グレンダンって」

「そうだな」

料理も来たので、とりあえずこの話題はこれで打ち切る。
ミィフィとナルキが相槌を打ちながら、運ばれてきた料理を受け取っていた。
ここは学園都市であり、この喫茶店を経営するのも学生だ。なのに予想よりもしっかりとした料理が出てきて、レイフォン達は驚く。

「学園都市って言うぐらいだから、来るまで学生食堂しかないかもって心配してたけど、そんなことなくてよかった」

味も満足のいくものであり、ミィフィは美味しそうに頬張っている。
レイフォン達も料理を平らげて行き、今はデザートを食していた。

「マップの作り甲斐がありそう」

「お前はここでもマップを作るつもりか?」

「当たり前じゃない。美味しいものマップ、オシャレマップ、勢力マップ……作れるものは何でも作るわよ。6年もあるんだから、作らなきゃ損じゃないの。あ、情報集めが私の趣味だから。なんか知らないことがあったら私に聞いてね。わかんなくても、絶対に調べてきてあげるから」

ミィフィの言葉に適当な返答を返しつつ、レイフォンはジュースを口に含む。
その隣では、クラリーベルが美味しそうにケーキを食べていた。そんな彼女は、ミィフィの話を聞いて興味深げに尋ねる。

「それでは、武芸科について聞きたいですね。ツェルニで一番強いのはどなたなんですか?」

「お、クララは武芸者なだけあって、やっぱり気になるんだ。オーケー、しっかり調べておくよ」

好戦的な性格のためクラリーベルが暴走しないか心配するレイフォンだが、そんな時は自分がフォローすればいいだろうと自己完結する。
そもそも自分がうまく立ち回れるのかと言う不安もあるが、レイフォンの使命はクラリーベルの護衛だ。
王命云々以前に自分のために汚名を被ってくれ、自分のことを好きだと言ってくれたクラリーベル。そんな彼女を護るためだったら、レイフォンはどんな苦労でもしよう。
それがせめてもの恩返し、罪滅ぼしになるはずだから。

(まぁ……正直、必要ないかもしれないけどね)

そう決意はしたが、内心で苦々しい笑みを浮かべる。
すぐにナルキ達と仲良くなった順応力、そしてレイフォン達天剣授受者に及ばなくとも、グレンダンでも上位の実力を持つクラリーベルが、何らかの事柄でレイフォンを頼る機会はないかもしれない。
それを少しだけ、寂しく思う。

「それはそうと、学生のみの都市運営ってどんなものかと思ってたが、しっかりとしてるんだな」

レイフォンの心境はさておき、ナルキが感心したようにつぶやいた。
彼女の言うとおり、学生により成り立つ都市、学園都市だが、都市の運営などはしっかりしていた。
都市は都市でも学園と言うだけあり、授業時間中には開店していない店が殆どのようだが、それでも店はたくさん並んでおり、授業時間を過ぎれば活気に満ち溢れる。
商業科の生徒達が各店舗を統括し、そこに他の学生達が店員として働く形で成り立っているようだ。
学園都市とはいえ自給自足が出来なければ都市は成り立たないので、それも当然だろう。この料理にしたって、調理関係に進路を定めた上級生がコックを務め、作ったらしい。

要するに学園都市と言うのは学習するための都市だ。
学費や生活費を稼ぐために就労する場合もあるが、将来の予行練習として実際にその仕事を体験してみたり、企業を立ち上げることも出来るのだ。
あらゆる可能性を秘めた若者達の都市、それが学園都市である。

「警察機関も、裁判所もあるみたいだしな。そうだな、警察に就労届けを出してみようかな?」

「ナッキは警官になるのが夢だもんねぇ」

「ああ」

ナルキもまた、夢を追いかける若者である。
いや、それは彼女達もだろう。

「私は、新聞社かなぁ。出版関係もあるみたいだから、情報系の雑誌作ってるところ探してみようかな?メイっちはどうする?」

「……お菓子、作ってるとこ」

ミィフィやメイシェンだって夢を持っている。
自分の目標へ向け少しずつ歩み、前に進もうとしている。

「やっぱり?じゃあ、美味しいところ探さないとねぇ。あ~、でもお菓子食べ歩き……太らないように気をつけないと」

「お前は体温高いから大丈夫だろ」

「え、そうなんですか?どれどれ?うわ、本当に温かいです」

「ちょ、クララ!?」

ナルキの言葉に、悪乗りしたクラリーベルがミィフィをぎゅっと抱きしめ、体温を確認していた。
あの短い時間でよくここまで順応したと思いながら、レイフォンはその様子を眺めている。
ミィフィは僅かに顔を赤くしながらも、この原因を作ったナルキに向けて嫌味を含んで言い返した。

「なによそれ。ナッキだっていっつも運動しまくってるから汗かきまくりじゃん。汗くさ~」

「ふん、これが青春の匂いだ」

「うわ、わけわかんない」

開き直るナルキに向け、ミィフィは呆れたようにため息を吐く。
女子4人の会話に疎外感を感じるレイフォンだったが、その様子は見ているだけで楽しい。
ちびちびとジュースを飲みながら眺めていると、今度はレイフォンへと主旨が向いたようだ。

「レイとんは就労するの?」

「レイとん……」

先ほど決定した呼び名に戸惑いつつ、レイフォンは言いにくそうに返答する。

「いや……就労はしないんだ」

「え、そうなの?」

「そんなのでやっていけるのか?」

学園都市には奨学金と言う制度があるが、それは学費がある程度免除されるくらいのものだ。
レイフォンの奨学金はAランク。レイフォンの実力からすれば当然である。
だが、それでも学費が全額免除になる程度であり、必要最低限の生活費を稼ぐ必要がある。
その他にも趣味や娯楽などでお金は必要なので、仕送りがあったとしてもやはりある程度の就労は必要だ。

「特に趣味とかないし、仕送りもあるから十分にやっていけるよ」

だが、レイフォンの場合はグレンダンの天剣授受者と言う地位にあり、クラリーベルと一緒に住んでいる。
王家からの仕送りは十分すぎる額であり、就労してお金を稼ぐ必要がない。
もともとレイフォンの仕事、使命がクラリーベルの護衛なのだから、就労をしてそちらをおろそかにするわけには行かないのだ。

(まぁ……必要ないかもしれないけど)

さっきも思ったが、本当にそこまでしてクラリーベルを護る必要があるのかと思わなくもない。
入学式のように暴走しそうになったら止める必要はあるだろうが、そんなことは滅多にないだろう。

「なんか駄目人間っぽいね。そんなんで大丈夫なの?」

「レイとんに夢とかはないのか?」

ミィフィの容赦のない言葉と、ナルキのどこか心配したような言葉。
単にレイフォンの将来を思ってのことなのだろうが、その視線が痛々しい。
このままでは親の脛を齧る駄目人間になるのではないかと心配されているようで、レイフォンは居た堪れない気持ちだった。
もっとも、レイフォンに脛を齧るような本当の親はいないし、孤児院の園長である養父相手にそんなことをするつもりもない。
そもそも天剣授受者という地位に、職に就いているのだから、将来の心配をする必要はまるでないのだ。

「夢も何も、グレンダンに戻ればすぐに職場復帰だし……今更進路を決める必要はないんだよね……」

「レイとんって何をしてるんだ?と言うか、何で学園都市に来た?」

クラリーベルの護衛云々のことを明かすことが出来ない以上、要領の得ない説明になってしまう。
それにナルキはため息を吐き、今度はクラリーベルへと視線が集まる。

「で、クララは就労するの?将来の夢とかは?」

「私は就労しますよ。ウェイトレスとかやってみたいですね。夢は……」

この先をレイフォンは予想する。
やはり、天剣授受者だろう。これは彼女の憧れであり、目標だ。まさに夢。だが、夢では終わらない。必ず成し遂げようという野心でもある。
それを口にするだろうと思っていたレイフォンは、残りのジュースをすべて口に含み……

「レイフォン様の妻です」

「ぶっ……!?」

盛大に噴出した。

「うわっ、汚い……って、クララ。それって本気!?」

飛んでくるジュースの飛沫に表情を歪めるミィフィだったが、クラリーベルの言葉を理解して問い質してくる。
メイシェンは今にも泣き出してしまいそうな表情を浮かべ、ナルキは意外そうな顔をしていた。

「はい、本気ですよ。レイフォン様にちゃんと好きだって告白もしました。なのに、未だに返事ももらってないんです」

クラリーベルのそっけない言葉に、ミィフィとナルキの視線がレイフォンへと向く。
ジロリと、どこか軽蔑したような視線だ。

「ちょ、ちょっと待ってください!いきなり何を言ってるんですか!?」

「あら、私は何時でも本気ですよ、レイフォン様」

「あのですね……」

「不満があるとしたらそうですね……私は、私を押し倒せる器量のある人が好みなんですけど、昨夜はわざわざ潜り込んだのに、まったくレイフォン様が相手にしてくださなかったことかしら?レイフォン様、私って魅力ありませんか?」

「わざとだったんですね?やっぱりあれってわざとだったんですね!?確信犯だったんですね!?」

「話を逸らさないでください」

「嘘、僕が悪いの!?」

レイフォンは思わず声を荒らげ、顔を真っ赤に染める。
クラリーベルはどこか責めるように言っているが、そんな彼女の顔は絶えず笑顔だ。
レイフォンを玩具にして楽しんでいるのだろう。

「あ~、なんだ、元気を出せメイ」

「そうだよ、傷は浅いって。男なんて他にいくらでもいるし、メイっちならきっといい人が見つかるよ」

言い合う2人を眺めながら、ナルキとミィフィはメイシェンを慰める。
いうならば一目惚れなのだろう。レイフォンに助けられたことによって、メイシェンは彼に好意を抱いた。
だが、レイフォンには既にクラリーベルと言う存在がいる。まだ恋人ではないようだが、そのような関係になるのは時間の問題のようにも見えた。
それほどまでに2人の距離は近く、付け入る隙がまったくない。
幸いだったのが、まだ会って間もないと言うことだ。確かに一目惚れではあった。
だが、メイシェンはレイフォンのことをまだよく知らない。どんな人物か分かっていない。
そこまで深く関わらなかったために、少しだけ悲しくはあるけどすんなりと諦めることが出来る。
残念ではあるが、失恋で傷つかないだけマシだろう。

「ふふ、大好きですよ、レイフォン様」

悪戯っぽく笑うクラリーベル。
そんな彼女の笑顔を前にし、レイフォンは深いため息を吐くのだった。


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