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No.29266の一覧
[0] クララ一直線・セカンド (レギオス 再構成) 【完結】[武芸者](2013/07/10 16:04)
[1] プロローグ 始まり[武芸者](2012/11/01 08:50)
[2] 第1話 学園生活[武芸者](2011/08/11 09:04)
[3] 第2話 入学式[武芸者](2012/05/22 07:12)
[4] 外伝 とある夜[武芸者](2011/09/30 10:15)
[5] 第3話 第十八小隊[武芸者](2011/08/11 09:17)
[6] 第4話 眩しい日常[武芸者](2011/08/11 09:07)
[7] 第5話 第十八小隊の初陣[武芸者](2011/08/11 09:08)
[8] 第6話 汚染獣[武芸者](2011/08/11 09:16)
[9] 第7話 波乱の後に……[武芸者](2012/05/22 07:10)
[10] 第8話 セカンド[武芸者](2011/08/11 22:19)
[11] 第9話 都市警[武芸者](2011/09/30 13:50)
[12] 第10話 一蹴[武芸者](2011/09/30 13:26)
[13] 第11話 一時の平穏[武芸者](2011/11/06 21:28)
[14] 第12話 廃都[武芸者](2012/02/02 09:21)
[15] 第13話 ガハルド[武芸者](2012/05/23 20:58)
[16] 第14話 けじめ[武芸者](2012/06/12 06:49)
[17] 第十五話 目覚めぬ姫[武芸者](2012/11/01 08:21)
[18] 第十六話 病[武芸者](2013/01/19 00:22)
[19] 第十七話 狂気[武芸者](2013/02/17 08:02)
[20] 第十八話 天剣授受者と姫 (完結)[武芸者](2013/07/11 10:07)
[21] クララ一直線・サード!?[武芸者](2015/08/04 17:25)
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[29266] 第十五話 目覚めぬ姫
Name: 武芸者◆8a2ce1c4 ID:2a03c4f9 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/11/01 08:21
「だぁ~っ!」

ナルキ・ゲルニは唐突に頭を掻き毟る。このところ何をやってもうまくいかずに、また、必要以上に頭を使ったために思考回路がショートしてしまったのだ。
溜まったイライラとストレスを吐き出すように、ナルキは叫んだ。

「ナッキ、うるさい」

そんなナルキに、クラスメイトで親友のミィフィから至極当然の突っ込みが入る。

「う、すまない。だがな……」

「だがなもなにもないって。ここは図書館。ならば静かにする」

「ぐうっ……」

いつもなら騒ぐのはミィフィで、こういった注意はナルキの役目だった。だが、今回ばかりはミィフィの言っていることが正しいので、ナルキは言い返すことが出来ずにそのまま押し黙った。
現在、ツェルニはセルニウム鉱山で燃料となるセルニウムを発掘しているために学校全体が休校となっている。
その間は移動都市(レギオス)の脚が止まり、工業科の生徒と肉体派の有志によって一週間ほどその作業が行われる。
他の科の生徒達も様々な面で作業をする彼らを支援するため、この期間は下級生の授業を行う上級生の数が足りなくなるのだ。なので休校。そして出される、山のような課題。現在ナルキ達は、図書館でその課題と格闘していた。

「あ~……」

「ったく、そんなに昨日のことが気になるの?」

今度は叫びこそしなかったが、それでもナルキは小さく唸り続ける。課題にまったく手がついていない友人を見て、ミィフィは呆れ気味に尋ねた。

「まぁな……自分の力不足で犯人を捕り逃したかと思うと、どうにもやりきれなくてな」

ナルキは都市警に所属している。そのために昨夜は捕り物に参加したのだが、その際に犯人を取り逃がしてしまった。
一端の署員であるナルキに責任があるわけではないが、そこは生真面目な彼女のこと。犯人を捕り逃したのは自分の力不足が原因だと気に病んでいた。
そうでなくとも最近は自身の力不足を痛感する出来事が立て続けに起こっており、正直かなりへこんでいた。

「はぁ……やっぱりあたしに小隊員なんて無理なのかな?」

「ナッキ……」

そんなナルキを心配する、もう一人の友人メイシェン。少々引っ込み思案で弱気なメイシェンだが、それでも思い悩む友人をほっとけない優しさを持ち合わせている。
とはいえ、何か気の利いた言葉をかけれるというわけではなく、なんと言って慰めればいいのかわからずに、あわあわと戸惑っていた。

「うじうじしてナッキらしくない。ナッキはさ、なんにも考えないで思ったように突っ走った方がナッキらしいよ」

「おい、いつあたしがなんにも考えないで突っ走った?」

それに対してミィフィは、遠慮などが一切ない。慰めるどころか刺激するようなことを口にし、ナルキをからかっていた。

「そんだけ元気があれば大丈夫。ナッキはこれまでちゃんと都市警と小隊員を両立してきたんだからさ、これからもがんばってよ」

「ミィフィ……」

それでも、締めるところは締める。ナルキを慰めて話をまとめ、課題の調べ物のために取ってきた本を開く。

「それはそうとさ、レイとんは課題大丈夫なの?」

「ああ、レイとんは生徒会から特別に課題を免除されているからな」

「そっか……」

ちょっとだけずるいと思うミィフィだったが、その言葉は決して口に出さずに飲み込む。
何故なら今のレイフォンは、とても課題を出来る状況ではなかった。そしてナルキも、気丈に振舞ってこそいるがこのことを非常に気にしている。自身の力不足を悔いていたのは、この一件も関係しているからだ。

「クララ、大丈夫かな……?」

「「……………」」

メイシェンの呟きに、二人は何にも答えられない。
先日行われた廃都の調査。その際にクラリーベルは負傷し、今もなお病室で眠り続けている。
レイフォンはその間一時もクラリーベルの側を離れず、病院に住み込みのような形で看病をしていた。メイシェン達も何度かお見舞いに行ったが、クラリーベルの容態が改善する兆しはまったく見えない。
看病を続けるレイフォンもあまり寝ていないようで、日に日にやつれていた。そんな友人達に対し、何も出来ないこの元嬢が非常に悔しい。

「とりあえずさ、この課題が終わったらまたお見舞いに行こう。たぶん、レイとんは満足にご飯食べてないだろうからさ、メイっちが料理を作って持ってたら喜ぶんじゃない?」

「うん……」

「そうだな」

レイフォンを案じ、提案するミィフィ。それをメイシェン達は受け入れ、ならば早く課題を終わらせようと手を進めた。


†††


「ヴォルフシュテイン卿、その話は……」

「ええ、本当です。嘘だと思うなら本国に手紙でも書いて、確かめてみたらどうですか?」

クラリーベルの眠る病室。そこでは看病をするレイフォンと、シャンテを連れずに一人で来たゴルネオの姿があった。
そして、レイフォンはゴルネオに全て話したのだ。グレンダンであった出来事。レイフォンが闇試合に参加し、それをネタにゴルネオの兄弟子であるガハルドが脅迫し、不当に天剣を手に入れようとしたこと。
それにクラリーベルが腹を立て、ガハルドに再起不能の重傷を負わせたこと。その結果クラリーベルは期間限定でグレンダンを追放され、レイフォンはその護衛のためにツェルニに付いて来たこと。
どういった経緯かは知らないが、汚染獣に寄生されたガハルドがここまでやってきて、クラリーベルを襲ったこと。
そのガハルドは、レイフォンが跡形もなく葬り去ったこと。その全てを、一切の偽りや誇張もなくゴルネオに告げた。
その真実を受け、ゴルネオの肩はぶるぶると震えていた。

「それで、どうするんですか?」

「え……」

レイフォンは問う。話を聞き、未だに戸惑いを隠せないゴルネオに対し、威圧を含んだ声で尋ねた。

「事実を知って、どうするんですか? あなたは確か、ガハルド・バレーンの弟弟子でしたね。ならば敵をとりますか?」

レイフォンの視線がゴルネオに向く。その視線を向けられたゴルネオはぞわりと寒気を感じた。

「ガハルド・バレーンを殺したのは僕です。僕が闇試合に出ていたから、彼に付け入る隙を与えてしまいました。それであなたが僕を恨むというのなら、まぁ、殺されるつもりはありませんが、いつでも相手になります。けれどもし……」

人という存在を超越したもの、天剣授受者の殺意を浴び、ゴルネオの膝はがくがくと笑っていた。
怖い、寒い。レイフォンを前にし、既にガハルドのことなど頭から吹き飛んでいた。

「クララに危害を加えるというのなら、その時は容赦しませんよ」

確かにクラリーベルはガハルドを再起不能にした。武芸者としてのガハルドを殺したと言ってもいいだろう。
だが、その原因はレイフォンが作った。最終的にガハルドを殺したのもレイフォンだ。そのことでゴルネオがレイフォンを恨むことは許容できる。だが、クラリーベルは駄目だ。クラリーベルは何も悪くない。
それなのにもし、ゴルネオがクラリーベルに危害を加えると言うのなら、その時はゴルネオは死ぬ。レイフォンの手によって完膚なきまでに叩かれ、ガハルドの後を追うことになるだろう。

「い、いえ……そんなつもりはありません」

だが、ゴルネオにはクラリーベルに危害を加えるつもりなど毛頭なかった。
未だに現状を整理できてはいないが、それでもガハルドのやったことが正しいことではないとわかる。
再起不能にされたり、殺されたりと同情的な部分はあるが、それでもわざわざ敵を討とうとは思えない。
相手は天剣授受者とグレンダンの王家。如何にゴルネオがグレンダンの名家、ルッケンスの子息だとしてもうかつに手を出せる相手ではない。
そもそも実力が違いすぎる。天剣授受者に喧嘩を売るなど、自殺志願のなにものでもない。

「そうですか。ならいいんです」

「……………」

レイフォンからの殺気が抜ける。それと共にゴルネオからは安堵の息が吐かれたが、すぐに顔を引き締めて直立不動で立ち続けた。
天剣授受者を前にし、情けない姿は見せられない。如何にレイフォンがガハルドの死に係わっているとはいえ、天剣授受者はゴルネオにとって遥か高みの存在だった。

「話は終わりです。それとも、まだ僕に聞きたいことがありますか?」

「いえ……」

「それなら、申し訳ありませんけど、今日は帰っていただけますか? クララと二人だけでいたいので」

「わかりました」

ゴルネオは頷き、深々と頭を下げて病室を後にした。
去っていくゴルネオには目をくれず、レイフォンは眠り続けるクラリーベルに視線を移す。

「クララ、いつまで寝ているつもりなんですか? 早く、目を覚ましてください」

語りかけつつ、今度は過敏へと視線を向けた。レイフォンの脇にはお見舞いの花束があり、それに手をかける。

「この花、良い匂いですよ。生徒会長が譲ってくれたんです。僕も気に入りました。だから、飾っておきますね」

花瓶を取り、流しに行って水と花を替える。その際に僅か数十秒ほど病室から出ていた。その数十秒後、レイフォンが病室に戻ると見ない少年が中にいた。

「やあ、邪魔するさ~」

「お前は……」

少年の歳はレイフォンとそんなに変わらないだろう。如何にも生意気そうな表情。その顔には左半面を覆うほどの刺青がしてあり、その刺青が初対面の少年を誰なのか教えていた。
グレンダンの者なら、いや、どこの都市だろうと知らない者はいないほどの有名人だ。

「サリンバン教導傭兵団か?」

「そうさ。三代目さ~」

サリンバン教導傭兵団。
グレンダン出身の武芸者によって構成された傭兵集団。専用の放浪バスで都市間を移動する彼らは、行く先々の都市で雇われ汚染獣と戦い、また都市同士の戦争に参加する。時にはその都市の武芸者達を鍛える役目、教導なども行ったりする。
天剣授受者と言うグレンダンで最上位の名声、それはあくまでも都市内でのものだ。その力は、噂は、隔絶されたレギオスでは外に流れては行かない。故に、槍殻都市グレンダンの名をもっとも有名にしたのが、都市間を放浪するサリンバン教導傭兵団だ。

「初めまして、ヴォルフシュテイン。俺っちがサリンバン教導傭兵団の団長、ハイア・サリンバン・ライアさ」

「そういった前置きはいい。一体、サリンバン教導傭兵団が、団長自らなんの用だ?」

何故、サリンバン教導傭兵団がここにおり、レイフォンを尋ねてきたのか?
そこまで考え、レイフォンは廃都でクラリーベルの話していた言葉を思い出した。廃貴族。あれが目的だとすれば、ここに彼らがいるのも納得できる。

「用も何も、俺っちがやることと言ったら商売(教導や傭兵)の他にひとつしかないさ。廃貴族さ~」

「やはりか……」

結果は予想通りであり、レイフォンから漏れた言葉にハイアはおっと瞳を輝かせる。

「その反応はひょっとしなくっても知ってる?」

「ああ、廃貴族は確かに存在したよ。隣の都市で実際に会った」

「そかそか、やっぱり間違いなかったさ~」

隣の都市とは例の廃都のことだ。元々がツェルニのセルニウム鉱山付近にあったため、セルニウム補給中の現在はツェルニの隣にある。
そこを探索していた傭兵団だが、見つからず、おそらくはこちらに来たのではないかと踏んでいる。

「そんなわけでヴォルフシュテイン、あんたには廃貴族の探索の協力をして欲しいさ~」

「断る」

「あり?」

協力を求めたハイアだが、レイフォンの即答に首をかしげる。
確かに廃貴族の探索は傭兵団が請け負った任務だ。だが、これはグレンダンの前王からの王命であり、しいてはグレンダンの現女王、アルシェイラの命令。
天剣授受者とはいえ、いや、天剣授受者だからこそこの申し出は受け入れてくれるだろうと踏んでいたのだが、予想外の答えにハイアは戸惑う。

「それはお前の仕事だろ」

「そうだけど、こっちはなんでもいいから情報が欲しいさ~。この都市の情報はこの都市に住んでいる者が詳しい。当然のことさ~」

「なら、僕じゃなくってゴルネオさんに聞け。グレンダンの者ならルッケンスを知っているだろ? ゴルネオさんはそこのご子息だ。まだこの都市に住んで日の浅い僕よりは詳しいし、この間の廃都の調査の時にも同行した」

「ルッケンスねぇ……まぁ、そんな良いとこの坊ちゃんなら廃貴族のことも知ってるだろ」

ボリボリと頭を掻き、ハイアはめんどくさそうに呟いた。

「それはそうとヴォルフシュテイン、そこで寝ているのが、かのクラリーベル・ロンスマイア嬢かい?」

「……そうだ」

頭を掻きながら、ハイアがレイフォンに尋ねる。その問いにレイフォンは重々しくだが、しかと頷いた。

「確かあんた、彼女の護衛のためにグレンダンを出たんだろ? なのにこのざまはなんさ?」

「……………」

何も言い返せない。ハイアの言っていることはもっともであり、現にレイフォンはクラリーベルを守ることは出来なかった。
どんなに悔いて、後悔しようとこの事実は変わらない

「まったく、これで同じサイハーデン刀争術の使い手と思うと情けなくなるさ~。あ、知ってるか? あんたにサイハーデンを教えたデルクと、俺っちの師であるリュホウは兄弟弟子なのさ~」

このことも廃都でクラリーベルが言っていた気がした。だが、そんなことなどどうでもいい。挑発的なハイアの発言に、次第にレイフォンは苛立ってきた。
明らかな挑発。けれど、今回の件で心身的に参ったレイフォンにとって、その挑発を受け流せるような心の余裕は存在しなかった。

「俺っちならこんな失態はまずしないだろーな。ヴォルフシュテイン、どうやらあんたは噂ほどではないようさ」

「なら、試してみるか?」

「うおっ!?」

レイフォンは窓を開け、ハイアの襟首をつかんでから外に放り投げる。
いきなりの事態に驚きの声を上げるハイアだったが、空中で体勢を立て直し、外の建物の屋根の上に着地する。

「サリンバン教導傭兵団の団長なら、多少なりとも腕に覚えがあるんだろ? それを僕に見せてみろ」

ハイアの後を追って窓から飛び出してきたレイフォンに対し、ハイアは口元を吊り上がらせた笑みを浮かべる。

「上等。ヴォルフシュテイン、あんたに俺っちの力を見せてやるさ」

それを待っていたとばかりにハイアが錬金鋼を復元させ、サイハーデンの証である刀を手に飛び掛る。左右、正面、攻撃的な気配のみがレイフォンに襲い掛かった。

「疾影か」

内力系活剄の変化 疾影

サイハーデンの基本とも呼べる足技。気配のみを飛ばし、相手にどこから攻撃が来るのかを錯覚させる。
だが、この剄技を知っているレイフォンは何も戸惑うことはなく、天剣を復元させて右から来る気配に向けて剣を振るった。

「さすが、読まれる」

ハイアの刀とレイフォンの剣が激突する。耳を劈くような金属音が辺りに響き、ハイアは感心と共にさらに表情を歪めた。
そして攻める。手数でレイフォンを圧倒し、次々と攻撃を仕掛ける。レイフォンはレイフォンでそれを冷静にかわし、または剣で受け止めた。そして合間を縫って、反撃の一撃を入れる。

「ぐっ!?」

レイフォンの足がハイアの腹に食い込む。蹴りを放ったのだ。だが、流石は傭兵団の団長といったところか。ハイアは蹴りに合わせて後ろに飛び、ダメージを最小限に抑える。
ハイアはすぐに体勢を立て直そうとするが、それまでレイフォンがのんきに待っているわけがなかった。
先ほどハイアが使った剄技、疾影を使って攻める。

「このっ!」

ハイアもレイフォンと同等、攻撃が来る方向を読んで刀を振り切る。
その時、ハイアの笑みがさらに深くなった。

外力系衝剄の変化 蝕壊

武器破壊の剄技だ。自身の剄を相手の錬金鋼に送り込み、破壊する。
これはサイハーデンのみではなく、多くの武門に取り入れられている剄技。そのために防御法や対処法は数多く存在するが、それでも隙を突けばこれほど相手を無力化するのに有効な技はない。
そしてハイアは、見事レイフォンの隙を突いた。蝕壊は見事に炸裂した。

「へ?」

だが、レイフォンの錬金鋼は壊れなかった。天剣は未だ健在で、ハイアに襲い掛かる。

「ぐほおっ!?」

天剣はハイアの刀をへし折り、そのままハイアを吹き飛ばす。ハイアはゴロゴロと屋根の上を転がり、そのまま地面まで落ちた。

「はぶっ、ごふっ……い、いったい、何が……」

「蝕壊か。ひょっとして壊そうとしたの? 天剣を。壊れるわけないじゃないか」

「て、天剣……それがか?」

レイフォンは地に落ちたハイアの後を追い、こつこつと歩み寄ってくる。
状況を理解できなかったハイアはレイフォンの使っている錬金鋼が天剣だと聞かされ、苦々しい表情を浮かべた。

天剣。それは言わずと知れた槍殻都市グレンダン王家の秘奥の錬金鋼で、天剣授受者に与えられる至高の錬金鋼。
どのような形状、重量も再現できる破格の性能を持ち、通常の錬金鋼ならば耐えられない天剣授受者の剄も存分に受け止めることが出来る。また、耐久力も通常の錬金鋼とは比べ物にならない。少なくとも蝕壊などで破壊されるなどありえない。

「勝ったからっていい気になるなよ、ヴォルフシュテイン。俺っちが負けたのは、要するに武器の差さ」

「言い訳? 男らしくないね」

負け惜しみを言うハイアに、レイフォンは冷ややかな視線を向ける。
武器の差というが、天剣を存分に扱えるのは天剣授受者だけだ。並みの剄量しか持たないのなら、いくら天剣を持っても宝の持ち腐れ。ハイアには天剣を満足に使えるほどの剄がない。
もしレイフォンとハイアが天剣を持って対峙したとしても、この勝敗は動かなかっただろう。
互いに通常の錬金鋼だった場合は、レイフォンに制限がかかるために、万が一ハイアに勝敗が傾いたかもしれないが。
そんなものは所詮仮定。もしかしたらの結果論。戦いの場で口に出すのは馬鹿げている。

「なあ、ヴォルフシュテイン。ひとつ聞いていいか?」

「質問によるけどね」

地面にねっころがったまま、ハイアハレイフォンに問いかけた。

「なんで、刀を使わない?」

「答える義務はない」

「それはないだろ……」

レイフォンはハイアと同じサイハーデンの出身だ。だというのに何故本来の武器である刀を使わない?
そのことを尋ねたハイアだったが、レイフォンにあっさりと拒否されてしまう。

「話は以上だね? なら、とっとと帰ってくれないかな? いや、もう僕が去るから付いて来ないでくれる」

「おい、待てよヴォルフ……どふっ!?」

レイフォンはそう言って、そのまま立ち去ろうとした。その後を追おうとするハイア。
だが、ハイアの体は爆発によって吹き飛んだ。

『この大馬鹿者がァァ!!』

いつの間にか周囲には念威端子が漂っていた。その端子が爆発し、いわゆる念威爆雷が使われたのだ。
爆発力を抑え、限界まで殺傷力を削ってはいたようだが、既にレイフォンにボコられてボロボロだったハイアはさらにボロボロになる。

「ふぇ、フェルマウス……」

『この馬鹿者が。大馬鹿者が! お前は何を考えている!? よりによってヴォルフシュテイン卿に喧嘩を売るとは何事だ!?』

念威端子から聞こえてくる機械的な音声が捲くし立てるようにハイアを責める。
ハイアハ悪戯の発覚した子供のように居心地の悪そうな表情を浮かべ、気まずそうに項垂れていた。

『本来なら協力を仰ぐべき相手だろ。それなのに刺激するようなことを言って、どういうつもりなんだ!?』

「け、けど、協力は断られたし……」

『だからと言って喧嘩を売る必要がどこにある!?』

なにやら向こうは取り込み中のようだ。ならばこちらは帰ろうと背を向ける。が、そんなレイフォンの背に、先ほどまでハイアを責め立てていた機械的な音声がかけられる。

『お待ちください、ヴォルフシュテイン卿。此度はうちの団長が多大な迷惑をかけたことを、ここにお詫びいたします』

「あなたは?」

『私はフェルマウスと申します。僭越ながら、サリンバン教導傭兵団の参謀を勤めさせていただいている者です』

「そうですか。それで、一体なんの用なんです?」

『まずは謝罪を。そして今一度協力を仰げないか、お聞きしてもよろしいでしょうか?』

フェルマウスと名乗った念威繰者は、ハイアとは違い礼儀は持ち合わせているようだ。
それでも協力という言葉に、レイフォンはあまり良い顔をしない。

「すいませんが、お断りさせていただきます」

『そうですか。ヴォルフシュテイン卿がそうおっしゃるなら、こちらも無理強いはしません。誠に申し訳ありませんでした』

機械的な音声で感情は読み取れないが、それでも声音にはどこか残念そうな想いが宿っていた。
念威端子は謝罪と共にもう一度ハイアを叱りつけ、その後はハイアを引き連れて去っていく。
あとに残されたレイフォンはこれまでのやり取りと心労に疲れを見せ、ため息を吐きながらクラリーベルの病室へと戻っていった。
だがこの数日後、レイフォンは生徒会長に呼び出され、ハイア達と再会することとなる。




















あとがき
久しぶりのクララ一直線更新です。話が思ったように進まなかった(汗
構成は出来ているんですが、ヒロインが床に伏せってますので動かせない、無駄に重くなってしまう……
次回は第十正体の面々を出して対抗試合をやる予定ですので、シリアス気味になってしまうんですよね。
作者の自分が言うのもおかしいですが、早くクララには目覚めて欲しいです。じゃないと、レイフォンが変な方向に行っちゃいそうで……
なんにせよ、次回も更新がんばります。


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