「うわぁ、人一人いませんね」
「廃都だから当然ですよ。でも、おかしいですね。あまりにも綺麗過ぎる」
クラリーベルがこの光景を見た感想を述べ、レイフォンが疑問を口にする。
ここはツェルニではない。ツェルニの進路上にある都市だった。
けれど、この都市には人がいない。建物もいくつか崩壊しており、まるで廃墟のようだった。
それもそのはずだ。ここは廃都。滅びた都市。おそらくは汚染獣に襲われたのだろう。そんな光景を前にしても、クラリーベルとレイフォンは冷静に思考を巡らせる。
「生徒会長の推測では、汚染獣に襲われてここまで逃げてきたらしいですけど……」
「その推測で間違いはないでしょう。けれど、そうだとするのなら、レイフォン様の疑問どおり、汚染獣の食べ残しが見当たらないのはおかしな話ですね」
昨夜のカリアンの用件はこのことであり、今回、レイフォン達はこの都市を調査するために訪れた。
現在、ツェルニは最後の一つとなったセルニウム鉱山に接近している。それはつまり、都市が補給を求めているということだ。
けれど、今回はその補給にイレギュラーが存在した。ツェルニの進路上にあるこの都市だ。
通常、都市は自身の保有するセルニウム鉱山を基点に領域を築いている。故に他所の都市が所有しているセルニウム鉱山には近づかないはずだった。
だが、何事にも例外はつきものであり、今回のこれもその例外だろうというのがカリアンの予測だ。
おそらく、この都市は汚染獣から逃れるために領域、普段進むべきルートを外れてしまった。その上セルニウムが不足し、補給しようとしても領域を外れているためにそれも叶わず、仕方なく近くのセルニウム鉱山に行こうとしたのだろう。それがここ、ツェルニの保有する鉱山だった。
とはいえ途中で力尽き、もし辿り着けたとしても都市は、そこに住む人々は既に滅びてしまっている。この廃都を見詰め、レイフォンは切なく思った。
「幼生体にでも襲われたのでしょうか? もしそうなら、あの数ですから食べ残しも残らないでしょうし」
「それなら、都市の壊れ方がおかしいですよ。見る限り、ほとんどの建物が上から潰される感じで壊されています。これは汚染獣が空からやってきたということで、まず間違いなく雄性体以上の汚染獣だったんでしょう。クララも知っているでしょうが、幼生体の大群なら建物は横から押し倒す感じで壊されているはずです」
「そうですよね。それに、もしそうならこの都市は幼生体相手に滅びるほどに弱い都市ということになります」
更に思考を巡らせる。この都市はおかしかった。何故なら人がいないのだ。
廃都だから当然なのかもしれない。だが、それだけではこの疑問は解決しない。何故なら、死体すら残っていないのだ。
「それにしても、酷い臭いですね」
「腐臭……それと血の臭いもします」
この現状を見れば、この都市が汚染獣に襲われたということは明らかだった。所々に戦いの跡が見られ、その壮絶さを物語っているようだ。
汚染獣が襲来し、武芸者が都市を護るために必死に戦った。そして敗れた。地面には黒く変色した血の染みが残っている。辺りを漂う腐臭からも、この惨劇がつい最近のことだと理解できた。
だが、それならばなぜ死体が残っていない?
この都市の規模を見るに、かなりの大きさだ。使える使えないは別にしても、武芸者の数は十分に揃っていただろう。こうして、戦った跡も見受けられる。なのに骨はおろか、肉片すら落ちていない。
腐敗しきって骨すら残さなくなるほどの時が経った? そんなはずはない。辺りに残る臭いからしてそれはありえない。それに、都市のエアフィルターはまだ生きていた。
「誰かが片付けたのでしょうか?」
「誰かって誰です?」
既に人の気配が絶えた都市。そんな場所で、一体誰が死体を片付けたというのだろうか?
疑問を浮かべるレイフォンに対し、クラリーベルはポツリと自分の予測を述べた。
「電子精霊でしょうか?」
「電子精霊?」
レイフォンは思わず聞き返してしまった。電子精霊とは都市の意思だ。レイフォンはその電子精霊を直接見たことはないが、そんなものがわざわざ死体を片付けるとは考えられなかった。
「えっと、レイフォン様。廃貴族とかご存知ありませんか?」
「廃貴族?」
またも聞き返す。レイフォンは聴いたことのない単語に首をかしげ、クラリーベルはそれを知らないレイフォンに意外そうな顔をした。
「ご存じないんですか? あれ、これって秘密でしたっけ? でも、天剣授受者の中には知ってらっしゃる方もいますし。まぁ、大方陛下が伝え忘れてるだけなのでしょうが」
思考を巡らせ、一人うんうんと頷いて完結するクラリーベル。彼女の言葉にレイフォンは更に首をかしげ、わけがわからないといった表情をした。
「廃貴族とは、壊れた都市が生む狂える力なんですよ」
「はい?」
「元々は電子精霊なんですけどね。汚染獣の襲撃で都市が滅びたりすると、その憎悪を糧に狂う電子精霊がいるんですよ。それが廃貴族です」
クラリーベルの言葉に、レイフォンは『はぁ』と曖昧な返事をすることしか出来なかった。
こんな話、やはりそう簡単には信じられない。クラリーベルが嘘を言っているとは思えないが、それでも疑問を感じずにはいられない。まるで現実味を感じることが出来なかった。
「ひょっとしたら、この都市には廃貴族がいるかもしれません」
「嬉しそうですね、クララ」
「はい! だって廃貴族ですよ。グレンダンがサリンバン教導傭兵団を創設してまでも捜し求めている」
「え?」
「あれ、レイフォン様。これもご存じなかったんですか? サリンバン教導傭兵団の現団長はサイハーデンの武門の者と聞き及びましたが」
「ええっ!?」
満面の笑みで続けられるクラリーベルの言葉に、レイフォンはまたも素っ頓狂な叫びを上げた。これも初耳であり、先ほどから驚いてばかりだ。
これはレイフォンが知る、知らされていない以前に、ただ無知であるだけかもしれない。現在は訳あって刀を使っていないが、それでもレイフォンはサイハーデン刀争術を修めた者だ。同じ武門に属する者を知らなかったでは済まされない。
「まぁ、こう言ってはなんですが……レイフォン様はその、あまり賢明な方ではありませんから」
「放って置いてください」
クラリーベルの遠回しな言い方にレイフォンは少しだけ傷つき、がっくりと肩を落とした。
「それはそうと……なんでグレンダンはそうまでして廃貴族を求めるんですか?」
「それはですね」
サリンバン教導傭兵団。それはグレンダンの名を他の都市まで知らしめ、武芸の本場と称させるほどの最強の傭兵集団。
グレンダンはそんな傭兵団を創設してまで、どうして廃貴族を求めるのだろうか?
「込み入った話はそれくらいにしてください。興味もないですし。それで、これからどうするんですか?」
クラリーベルがレイフォンの問いに答えようとしたところで、フェリの待ったがかかる。
彼女は不機嫌そうな表情で二人を見渡し、めんどくさそうに、いやいやながら指示を仰いだ。
「え、ああ、そうですね。ええっと、僕達の任務はこの都市の安全調査でしたね」
ツェルニの進路上にあるこの廃都。探査機などの調査で周辺に汚染獣の姿はないが、この都市が汚染獣に襲われたのは明らかだった。
だが、汚染獣の生態は未だに解明されておらず、ひょっとしたら次なる獲物を求めて汚染獣が潜んでいるかもしれない。それを確認するために、レイフォンは小隊を率いてここを訪れた。
「都市の半分ぐらいなら一時間ほどで、この都市全てなら二時間ぐらいあれば私の念威で調べられますが」
第十八小隊の念威繰者であるフェリ。彼女は自身の才能を毛嫌いし、念威繰者という生き方に疑問を持っているが、今回ばかりは念威を使うのを拒まなかった。
何故ならめんどくさいからだ。わざわざ歩いて都市を隅々まで調査するより、念威を使った方が手っ取り早く、楽だからだ。
「そうですか。それじゃあ……」
「ちょっと待ってください」
レイフォンはフェリの念威の才を知っている。その能力に疑いはなく、あっさりとフェリの案を受け入れようとした。
だが、そこで今回の調査に同行していたゴルネオから抑止の声がかかる。
「確かにそちらの方が早いでしょうが、それだけでは納得しない者もいますので。どの道、直接見て回る必要があります」
「そうなんですか」
ゴルネオの言葉に、レイフォンは素直に頷いた。武芸者としての能力はレイフォンが遥かに上だが、やはりこういった経験では上級生のゴルネオが勝っている。
この調査にはレイフォン達第十八小隊だけではなく、ゴルネオ達第五小隊までもが参加していた。とはいえ、たった二小隊でこの広い都市を見て回るとなると骨が折れるだろう。
めんどくさい。そう思って、フェリはゴルネオに不機嫌そうな視線を向ける。
「しゃーっ!」
その視線にはゴルネオではなくシャンテが反応した。フェリに視線を向け、威嚇するような叫びを上げる。
「……なんですか、この猿は」
「こら、やめろシャンテ!」
フェリの冷ややかな視線と、ゴルネオの抑止の声。シャンテは未だにいきり立っていたが、それでひとまずは大人しくなる。
「それでは、二手に別れて調査を始めたいと思います。いないとは思いますが、汚染獣には気をつけて。もし現れたら即逃げてください。僕とクララが倒しますので」
「はい」
レイフォンの提案に今度はゴルネオが素直に頷いた。こんなに広い都市なのだ。隅から隅まで調べるのなら二手に分かれた方が効率がいい。
戦闘に関しても、この場でレイフォンとクララの右に出るものはいない。第十八小隊と第五小隊はこの場で別れ、それぞれ調査へと向かった。
†††
「成果はなし、ですか……」
「はい」
時刻は現在夕刻。暗くなってきたので本日の調査は打ち切り、続きは明日ということになった。
レイフォンはゴルネオとこれまでの調査について話し合っていたが、成果はまったくなかった。
「まぁ、何も問題がない方が安全ってことですけどね」
「そうですね。明日にはツェルニがこちらに来ますので、それまで何事もないのが一番です」
何もないのが一番いい。そう結論付け、レイフォンとゴルネオは互いに頷き合った。
「しかし、廃貴族ですか。確かにその可能性もありますね。てっきり与太話の類だと思っていたのですが」
「あ、ゴルネオ先輩は廃貴族についてご存知だったんですか」
「はい、一応は」
「うぅ……僕って勉強が足りないのかな?」
レイフォンは落ち込んだ。彼に唯一弱点があるとすればそれは勉強だ。
他を寄せ付けぬほどの武芸の才があり、家事万能、おまけにルックスもよし。そんなレイフォンでもこればかりは大の苦手だった。
がっくりと肩を落とすレイフォンに対し、ゴルネオは慌ててフォローを入れる。
「し、しかし、先ほども言いましたがこれは真偽が定かではない話ですので。自分も与太話と思っていましたし、そうそう知れ渡っている話でもありません。むしろ知らない者の方が多いかと。ですからヴォルフシュテイン卿が気にする必要はありません」
「そう、ですか……」
「ええ、ですから……」
「ゴル、見て見て~!」
ゴルネオが更に言葉を続けようとする。だが、そこで陽気なシャンテの声が響いてきた。
「ん?」
ゴルネオは声のした方に視線を向ける。
「獲ってきた!」
「ぶっ!?」
そこでは槍の錬金鋼を復元したシャンテが、獲物を前にしてにかっと笑っていた。獲物とはシャンテの足元に転がっている豚である。
この都市には生存者はいなかった。そのほとんどが汚染獣に襲われてしまったのだろう。
けれど、いくつかの生体反応はあった。それは養殖湖の中の魚だったり、生き残った家畜だったり。シャンテが獲ってきたのはその生き残りの家畜だった。
「凄いですね。そろそろ夕食時ですし、今夜は豪華な食事になりそうです」
「あたしは丸焼きがいい!」
「確かにそれが手軽かな? 香辛料とかがあればいいけど」
ゴルネオの話では、シャンテの育ちは少々特殊で、獣みたいな奴らしい。
森海都市エルパ出身で、なんでも獣に育てられたとか。その影響か、シャンテは狩猟本能を持っている。
家畜の生き残りを見つけたシャンテはその狩猟本能を刺激され、豚を狩ってきてしまったのだ。
だが、それは別に悪いことではない。頭を痛めるゴルネオを他所に、レイフォンは今日のおかずが一品増えたと喜んでいた。
「やっぱり、携帯食料よりもあったかいものを食べたいですよね」
「おう!」
意気投合するレイフォンとシャンテ。任務の話はこれで終わり、夕食の準備に取り掛かることにした。
「うまそうだが……なんつう豪快な料理だ」
シャーニッドは引き攣った表情で食卓に並んだ料理を見る。別に料理自体に不満はないのだが、この光景には目を見張ってしまう。
食卓の中央にでんと載ったメインディッシュ、豚の丸焼き。シャンテは瞳を輝かせ、ゴルネオは頭痛を耐えるように頭を押さえていた。
「実際に美味しいと思いますよ。味付けもバッチリです」
レイフォンは食料品店の廃墟から香辛料を見つけ出し、それをふんだんに使用した。
こんな料理など滅多に食べられないだろうから、味には拘ったのだ。
「ちなみに私が焼きました。こう、化錬剄で一気に」
「武芸の才の無駄遣いだな」
誇らしげに言うクラリーベルに、シャーニッドは呆れたように呟く。
習得が難しく、その分使いこなせれば強力な化錬剄だが、それを料理に使うだなんてどれほど技術の無駄遣いなのだろうか?
ナルキもシャーニッドと同じ気持ちらしく、うんうんと頷いていた。
「養殖湖には魚がいたので、そちらも獲ってきました。鋼糸を編んで網みたいにして。大量ですよ」
「焼き魚ですか。そっちも美味しそうですね」
だから技術の無駄遣いだと突っ込みたかったシャーニッドだが、食卓に漂う匂いに胃袋を刺激された。腹が鳴り、空腹を訴える。
「ゴル、もう食べていい? 食べていい!?」
「まだ待て」
それはシャンテも同じようで、むしろ今までよく耐えていたと言うべきか。よだれをダラダラと垂らし、ゴルネオに窘められている。
「もういいですよ。たくさんあるので、いっぱい食べてくださいね」
「やったー!」
「……すいません」
レイフォンは苦笑しながら許可を出す。
シャンテは料理に飛びつき、ゴルネオは申し訳なさそうに謝罪した。
「構いませんよ。それよりお腹も空きましたし、早く食べちゃいましょう。おかわりもありますから」
皆で食卓を囲む。一部の者がわいわいと騒いだ。
シャンテは食べまくり、シャーニッドはなんだかんだで順応する。クラリーベルは始終笑顔で、レイフォンやナルキに話題を振っていた。
レイフォンとナルキはクラリーベルの話に相槌を打ち、ゴルネオはシャンテが暴走をしないように見張っている。他の第五小隊の面々も楽しそうで、ただ一人だけ、この空気についていけないフェリが不機嫌そうな表情を浮かべていた。
それに気づいたクラリーベルが今度はフェリに話題を振るも、フェリはめんどくさそうに、迷惑そうに表情を歪めていた。
こうして夜は更けていく。今日一日ではこの都市の調査はなんの成果も上げられず、明日に持ち越されることとなった。
†††
「まったく、ツェルニじゃ見なかったのに、まさかこんなところで出てきましたか」
都市の調査では何の成果も出なかった。だから、続きは明日になるはずだった。
「久しぶりですね。ここ最近会えなかったので、少しだけ寂しかったんですよ」
それなのにクラリーベルはここにいた。たった一人で、誰もいない空間に佇んでいた。
いや、その言葉には御幣が合った。誰もいないわけがない。誰かがいる。人ではない、何かがここにいた。
「狼面衆」
それは集団だった。人ではない。だけどいくつもの人の姿をした存在がクラリーベルを囲んでいる。
それぞれが武器を手にし、クラリーベルを打倒しようとしていた。
「それじゃあ、遊びましょうか」
それをクラリーベルは正面から迎え撃つ。けれど、これは戦いではない。遊びだ。そう感じられるほどまでにクラリーベルと狼面衆と呼ばれた集団には実力差があった。
まるで大人と子供の喧嘩。たとえ狼面衆がどれだけいようと、彼らではクラリーベルに傷一つ負わせることすら叶わない。
「少しは抵抗してくださいね。じゃないと、遊びにもなりませんから」
胡蝶炎翅剣が振るわれる。一薙ぎごとに狼面衆が切り裂かれ、倒れていく。倒れた狼面衆は飛散し、まるで霧のように消えていった。
振るう、薙ぎ払う、斬る。その動作はまるで舞のようであり、クラリーベルは誰もいない戦場で優雅に舞っていた。
「弱い、本当に弱いですね、あなた達は。一体何のために現れたんですか?」
クラリーベルの問いかけに、狼面衆達は答えない。無言で、ただクラリーベルに切り裂かれて還っていくだけ。
既にほとんどの狼面衆が還され、いつの間にか残りは一人だけとなっていた。
「はい、これでお終いです」
その一人もクラリーベルの手によってあっさりと還された。未だ誰もいない、気配すら感じられない不思議な空間。そこでクラリーベルは、短いため息を吐いた。
「まぁ、こんなものでしょう。それにしてもレイフォン様はこちら側の存在ではなかったということでしょうか? いや、これに係わるのは血筋的なものですからね。私の王家としての血がこの存在を教えてくれる。だから、そう決め付けるのはいささか早計かもしれません。しかし、廃貴族の存在を今までご存知なかったみたいですし……」
ぶつぶつと呟く。思考を巡らし、憶測を立て、想像する。そんなクラリーベルの元に、今度は狼面衆ではない別の存在が現れた。
「あら?」
「汝がそうか?」
それは山羊だった。黄金の牡山羊。幻想的で、見るものを圧倒する威圧感を持った存在。牡山羊は大きく、あまりにも立派な角は無数に枝分かれし、夜の闇を黄金色の光が照らしていた。足から角までの高さでクラリーベルの身長を超えている。その存在を前にし、クラリーベルは驚いたように口を開いた。
「初めて見ました……これが、廃貴族なんですね」
「汝、炎を望む者か? 資格を持つ者か? 我が身は既に朽ち果て、もはやその用を成さず。魂である我は狂おしき憎悪により変革し炎とならん。新たなる我は新たなる用を為さしめんがための主を求める。汝、我の主となれ。さすれば我、イグナシスの塵を払う剣となりて、主が敵の悉くを灰に変えん」
牡山羊の声。事情を知らない者が聞けば混乱しそうだが、幸いにもクラリーベルは事情を知っている。
事情を知り、その上でクラリーベルは廃貴族に興味を持った。
「いいでしょう、その話乗りました」
廃貴族とは、壊れた都市が生む狂える力。
電子精霊だったそれは、本来なら都市を動かすために使う力を宿主となった者に使う。その御礼を受けた者は強大な力を持つとか。クラリーベルはそう聞き及んでいた。
だから興味があった。廃貴族の御礼、強大な力に。その力があれば天剣授受者にも匹敵するのではないか?
武芸者なら誰もが力を求める。強くなろうとするのが武芸者の本質であり、クラリーベルもまた例外ではない。だから求めた。廃貴族という存在を。
「汝、我を受け入れよ!」
「はい」
互いに互いを受け入れる。双方の利のために、目的のために。
レイフォンの知らないところで、事態は大きく変化していった。
†††
「れいふぉ……あるせい……くら……る・ろんすまいあ……」
夜、廃都で怪しい人影がうろついていた。襤褸切れのような服を身に纏い、空ろな瞳でさ迷う怪しい人影。
ぶつぶつと、ぼそぼそと人影は呟き続ける。
「てんけ……んけん……」
それはまるで亡霊。過去に囚われ、自由を奪われ、野望を奪われた抜け殻。
人を捨てた、または捨てざるを得なかった存在は、放心したように廃都をさ迷い続けていた。
あとがき
大変お待たせしました。クララ一直線更新です。
しかし、今回はレイフォンとクララの絡みが少ない……そこはまぁ、次回辺りやりたいと思っていますが。
かなり良好な関係のゴルネオとレイフォン。まぁ、ガハルドの件に関しては隠蔽されてますんで、当然といえば当然かな?
ちなみに原作読んでて思ったんですが、狼面衆って汚染獣を操れる、または操れなくとも誘導などはできる存在なのではと思ってます。原作9巻ではそんな感じでサヴァリスに取引を持ちかけてましたしね。
そんなわけで次回は……
最近バイトとかが忙しくってSSの更新が進みません。ですががんばりますよ。
次回は史上最強の弟子イチカだ。更新がんばります。