「……む……俺は、いったい……」
頭に水を被せられ、将志は眼を覚ます。
辺りを見回すと、真っ赤な壁のバスルームと自分の息子の顔が眼に入った。
「眼は覚めた、父さん?」
「……銀月? はて、見たところここは紅魔館のようだが、何故ここにいる?」
「父さんの帰りが遅いから探しに来たんだよ。そしたらここに着いたってわけさ」
銀月の言葉を聞いて、将志は一つ頷いた。
「……そうか。それで、後ろに居るのは誰だ?」
「博麗霊夢よ。銀月のお父さん」
将志が後ろの人物に声をかけると、霊夢は簡単に自己紹介をした。
それを聞いて、将志は眉をひそめた。
「……博麗の巫女だと? ということは、異変が起きたのだな?」
「そうよ。ここの吸血鬼が幻想郷中に紅い霧を広げてくれたのよ」
霊夢は隣に居るレミリアを見やりながらそう話す。
それを受けて、将志の視線がレミリアの方へと向いた。
「……レミリア、お前そんなことをしたのか?」
「ええ、そうよ。この程度のことじゃ銀の霊峰は動かないでしょう?」
「……確かにその程度のことでは動いてはいけないだろうし、俺も動かす気はないな」
レミリアの物言いに、将志はそう言って言葉を返す。
それを聞いて、霊夢が首をかしげた。
「動いちゃいけないって、どういうことよ?」
「霊夢、銀の霊峰は幻想郷の存続の危機や、大量殺戮が起きるような事態でないと動いちゃいけないことになってるんだ。だから今回みたいに幻想郷が大騒ぎするぐらいの事態じゃ組織立っては動けないんだ」
「何でよ? どうせなら騒ぎが起きないようにすれば面倒がなくていいのに」
「それは妖怪を抑え付けないためだよ。幻想郷のバランスを崩さないためには、妖怪が強くなくてはならない。けど、抑えつけてたら妖怪は何も出来ずにどんどん弱体化してしまう。だから、中で起きる騒動もある程度は黙認しなきゃならないんだ」
妖怪とは、本来人間を襲ったり驚かせたり化かしたりするものが大多数である。
しかし、博麗大結界によって幻想郷内において自由に人間を襲うことが出来なくなってしまった。
これによって妖怪達はやる気を失い、無気力になってどんどん弱体化してしまったのだ。
一部、組織内で競わせて力を持ち続けた銀の霊峰の妖怪等の様な例外も居るが、全体で見ればその弱体化は幻想郷の存在意義を揺るがしかねないものになり始めていた。
そこで妖怪達が動きやすいように、治安維持軍である銀の霊峰は幻想郷が崩壊しかねないような事態にならない限り動いてはいけないという決まりが紫との間になされていたのだ。
「……話を戻そうか。今までの話を要約すると、銀月は俺の帰りが遅いから様子を見に来た。博麗の巫女はレミリアが異変を起こしたから解決をしに来た。これで良いのだな?」
「ええ、そうよ」
「……それで、銀月と巫女が一緒に居るということは……さては銀月、お前異変に首を突っ込んだな?」
「う……で、でも、どうしても放って置けなくて……」
将志の視線に、銀月は怒られることを察知して肩をすくめる。
そんな銀月に、将志は大きくため息をついた。
「……まあ良い。俺の手落ちもあったことだ、今回だけは不問にしておこう。ところで、愛梨達はどうしているのだ?」
「愛梨姉さん達なら、今頃魔法の森辺りを捜してるんじゃないかな? ルーミア姉さんは留守番をしているよ」
将志の言葉を聞いて、銀月はホッと胸を撫で下ろしながら質問に答える。
その回答に、将志が怪訝な表情を浮かべた。
「……何故魔法の森を捜しているのだ?」
「どうせ魔法の森でキノコを拾い食いして中毒を起こしてるんじゃないかって言ってたぞ?」
「……将志、貴方そんなことをしてるの?」
銀月は将志の質問にそう答える。
すると、レミリアが呆れ顔で将志を見た。
「……ところで、何故俺は浴室に居るのだ?」
レミリアの質問に答えず、将志は逃げるように再び銀月に質問をした。
その態度は、何よりも雄弁にレミリアの質問に答えていた。
唖然としているレミリアを尻目に、銀月が将志の質問に答える。
「それは俺もまだ聞いていないんだ。だから、いったん関係者を全員集めて説明してもらおうと思うんだ。父さんも含めてね」
「……成程。確かに事の次第を説明する必要があるな。ではレミリア、関係者全員を集めてくれ」
「はあ……分かったわよ。それじゃ、みんなを集めるわよ」
レミリアが額に手を当ててそう言うと、一行は関係者に声をかけることにした。
まずは、銀月の案内で中央のホールへと向かう。
そこでは、壁に寄りかかって休んでいるメイドの姿があった。
「咲夜、起きなさい。終わったわよ」
「ん……お嬢様……申し訳ございません……」
レミリアが声をかけると、咲夜は眼を覚ますなり謝罪の言葉を口にした。
それを聞いて、レミリアは微笑みながら咲夜を抱きしめた。
「気にしなくて良いわ。もう過ぎてしまったことだし、これからの事を考えましょう。みんなを集めるから手伝ってくれる?」
「かしこまりました……ですがまだ少々ダメージが残っておりまして、足元がおぼつかないのでお役に立てるかどうか……」
「そう……それなら無理しないで、そこで休んでなさい。後でまた呼びに来るわ」
レミリアはそう言うと次を呼びに歩いていき、将志がそれに続く。
そんな中、銀月は咲夜のところに残っていた。
「……ごめん、やりすぎたみたいだね……」
「気にしないで。もし、私が貴方でお嬢様が貴方のお父さんだったら、もっとひどいことをしていたと思うから」
心底申し訳なさそうに話す銀月に、眼を瞑ったまま咲夜が答えを返す。
そこに、先に進んでいた霊夢が戻ってきた。
「銀月、あんたそんな強烈なの食らわせたの?」
「絶対に勝たなきゃいけなかったから、かなりきついのを……正直、あの戦いは忘れ去りたいよ……男らしくないもの」
霊夢の問いかけに、銀月は両手で顔を覆いながらそう答えた。
その様子から、銀月があの戦いをかなり後悔していることが分かった。
そう話している間に、図書館へとたどり着いた。
「パチェ、居るかしら?」
「ここに居るわよ、レミィ。どうやら終わったみたいね」
レミリアが声をかけると、本を読んでいたパチュリーが顔を上げてそう言った。
その横で、人間の魔法使いも読んでいた本から眼を移した。
「ありゃ、霊夢……と銀月!? 何でお前達が一緒に居るんだ?」
「やっぱり居たのか、魔理沙。途中でチルノから話を聞いてたから、まさかとは思ったけどね」
魔理沙は霊夢と一緒に居る銀月を見て驚いた声を上げて近くに駆け寄る。
異変があると動き出す霊夢はともかく、何の関係も無いと思われる銀月が動いているとは思っていなかったのだ。
それに対して、銀月は軽く手を上げて答えを返した。
そんな銀月の袖を、霊夢が引っ張った。
「……ちょっと銀月。あんた魔理沙と知り合いだったの?」
「ああ、人里に通ってた時に知り合った。そういう霊夢こそ、魔理沙と知り合いだったんだな?」
霊夢の質問に銀月はそう言って頷く。
すると、霊夢は大きくため息をつきながら銀月の質問に答えた。
「知り合いも何も、異変が起きるたびに毎回ちょっかいをかけて来るのよ」
「よく言うぜ。霊夢だって面白そうだからって異変に首突っ込んでたこともあっただろ?」
「私は良いのよ。それが仕事なんだから」
「で、霊夢は銀月とどういう関係なんだ?」
「持ちつ持たれつの関係よ」
「絶対嘘だ……俺、霊夢からお返ししてもらったことないぞ?」
霊夢の言葉に、銀月が白い眼差しを送りながら言葉を継ぐ。
それに対して、霊夢は銀月に食って掛かった。
「何言ってるのよ、味見役とか色々引き受けてあげてるじゃない」
「それは君の方が得じゃないか。俺は朝昼晩三食分料理を作ってお茶汲みして、台所や居間の掃除までしてるんだけど?」
「霊夢……お前酷いな……」
銀月の口から語られる二人の関係に、魔理沙が白い眼差しを霊夢に送る。
霊夢はそれを見て、一歩後ずさった。
「な、何よ、良いじゃないの! お互いに納得してるんだから!」
「本当か、銀月?」
「……もう何年も続いてる関係だからね……習慣になってしまったよ」
必死に自己弁護する霊夢の言葉を受けて魔理沙が銀月に確認すると、銀月は苦笑いを浮かべてため息をつきながらそう答えた。
それを聞いて、魔理沙は哀れむような視線を銀月に向ける。
「なんて悲しい奴だ……お前、早く縁切らないと一生たかられるんじゃないのか?」
「……黙秘させてもらうよ」
魔理沙の言葉に、銀月はそう言って力なく首を横に振った。
そんな三人の会話を、横で聞いていた人物が居た。
「ねえ将志、お前の息子軽く調教されかかってない?」
レミリアは銀月を見ながらそう口にする。
すると、将志は腕を組んで唸りだした。
「……執事の研修に出したのは失敗だったか?」
「あら、執事の心得があるのかしら?」
「……人狼の長のところの執事長に免許皆伝を受けたらしいぞ?」
レミリアの質問に将志はそう言って答える。
それを聞いて、レミリアは興味深そうな視線を銀月に送った。
「へぇ……それじゃ、うちで雇おうかしら? ちょうど使える執事がもう一人欲しかったのよ」
「……お前にはやらん」
「ちぇ、残念」
将志の言葉を聞いて、レミリアは残念そうにそう呟いた。
将志とレミリアが話をする一方で、魔理沙がふと思い出したように話を切り出した。
「そういや、結局ギルの奴来なかったな……何やってんだろ?」
「あ、やっぱりギルバートも来てたんだ。で、どうしたのさ?」
「なんか門番と勝負してくるって言ってたぜ。それで、私は先に行ったのさ」
魔理沙は少し不満げな表情で銀月に説明する。
それを聞いて、銀月は少し考え込むと突然ニヤリと笑った。
「……ははあ。さてはその門番に負けたな?」
「え、そんな馬鹿な!? 私が楽に勝てた相手だぜ!?」
銀月の言葉に、魔理沙は声を張り上げてその可能性を否定する。
それに対して、銀月は薄く笑みを浮かべたまま話を続ける。
「一つ確認するけど、君はその門番に弾幕ごっこで勝ったんだよね?」
「ああ、そうだぜ」
「たぶん、その門番の本分は近接格闘じゃないのかな? 大方負けて悔しそうな門番に殴り合いで勝負を仕掛けて、苦戦して負けたってところだと思うけど? 今頃門の横で塀に寄りかかって寝てるんじゃないかな?」
銀月はギルバートが今どんな状況なのか想像しながらそう言った。
それを聞いて、魔理沙は首をかしげた。
「何でそう思うんだ?」
「だって、ギルバートだし。あいつなら大体そうするよ」
魔理沙の問いかけに、銀月は自身を持ってそう答えた。
その一方で、パチュリーがレミリアに近寄って話を始めた。
「レミィ、話はどこでするの?」
「そうね……この図書館を使わせてもらって良いかしら、パチェ?」
「良いわよ。そのほうが移動の手間も省けるしね」
「ありがとう。それじゃあ、美鈴を呼んでくるわね」
レミリアはそう言うと部屋を出て行こうとし、パチュリーは再び本を読み始める。
ちょうどその時、図書館のドアが開いて人が入ってきた。
「お嬢様」
「あら、咲夜。もう大丈夫なのかしら?」
レミリアは声をかけてきた咲夜に言葉を返す。
「はい、十分に休みましたので。何か仕事はございますか?」
すると咲夜はそう答えて主人に指示を仰いだ。
咲夜の足取りはしっかりしていて、もう動き回っても大丈夫そうである。
それを確認すると、レミリアは一つ頷いて指示を出した。
「それじゃあ、美鈴を呼んできてくれるかしら?」
「かしこまりました」
咲夜はレミリアに頭を下げると、図書館から出て行こうとする。
「あ、待ってくれ! 私も行く!」
「俺もついて行くよ」
咲夜の後に続いて魔理沙と銀月が図書館を出る。
道中ではメイド妖精達が後片付けに追われており、かなり騒がしい状態であった。
メイド妖精は仕事をしているのはずなのだが、バケツをひっくり返したりボーっとしていたりで作業は一行に進まない。
「……これ、いつになったら作業が終わるんだろうか……」
「……徹夜で作業することになりそうね」
銀月の呟きに咲夜が憂鬱な表情でそう答える。
それを聞いて、魔理沙が横から口を挟んだ。
「手伝ってやれよ、銀月。お前、執事の経験あるんだろ?」
「そうなの? そういうことなら是非とも手伝ってもらいたいんだけど」
魔理沙と咲夜は揃って銀月の方を見る。
それを見て、銀月はしばらく悩んでから大きくため息をついた。
「……はぁ……君には負い目があるからね、今回は手伝うよ……」
そう話している間に門の前にやってきた。
「す~……す~……」
「ZZZ……ZZZ……」
門の脇では金髪の少年と赤髪の女性が寄り添うようにして気持ち良さそうに寝息を立てていた。
肩を寄せ合いお互いの頭を預けるその姿は、まるで仲の良い恋人同士のようにも見える。
それを見て、銀月は笑みを浮かべた。
「お、やっぱり寝てたか。隣に居るのは門番かな? 随分と仲良く……っ!?」
銀月はふと背筋に薄ら寒いものを感じて後ろを見て、思わず後ずさった。
そこには、怒りのオーラを纏った大魔神が二人立っていた。
「この非常事態に……」
「あれだけ待ったのに……」
二人はそれぞれの得物を大きく振りかぶった。
「何寝てるのよ、貴女は!!」
「何寝てんだよ、お前は!!」
「いったあああああああい!?」
「ぐああああああああああ!?」
そう叫ぶと同時に、美鈴の額にナイフが投げられギルバートの眉間に箒が振り下ろされた。
美鈴の額には角が生え、ギルバートの眉間が真っ赤に腫れる。
銀月は殴られた箇所をさするギルバートに声をかけることにした。
「やあ、兄弟。派手にやられたみたいだな?」
「いてて……って銀月か? お前なんでここに居るんだ?」
「おい、ギル!! 私を待たせておいて何でこんなところで寝てんだよ!?」
銀月が質問に答える前に、猛烈な剣幕で魔理沙がギルバートに掴みかかる。
それに対して、ギルバートはため息交じりに答えた。
「何でって、勝負に負けたのに中に入るわけには行かないだろ」
「なっ、私が勝てたのに何でギルが……」
「そりゃ、俺が挑んだのは弾幕ごっこじゃなくて殴り合いだったからな。あの門番、弾幕勝負と殴り合いじゃ全然違ったぞ」
驚く魔理沙にギルバートは咲夜に追いかけられている美鈴を見やりながらそう言った。
それを聞いて、魔理沙は呆然とした。
「マジかよ……」
「ね、言ったとおりだろ? ギルバートならそうするって」
「……何だ、兄弟にはお見通しだったってか? まあ、分からなくもねえけど」
魔理沙の肩を叩きながら銀月が話せば、ギルバートが苦笑いを浮かべてそう返す。
そんな二人に、魔理沙は言葉を失う。
「こ、これが男の友情って奴か?」
「さあ、どうだろうね?」
「さあ、どうだか」
魔理沙の言葉に、銀月とギルバートは薄く笑みを浮かべてそう言って返した。
一方、その隣では美鈴が壁際に追い詰められて咲夜の折檻を受けていた。
壁や地面に退路を塞ぐようにナイフが刺さっており、美鈴が逃げる余地はなかった。
「ねえ、美鈴。貴女門番よね? それなのに何で寝てるのかしら? おまけに男の子を引っ掛けて仲良く添い寝とか、貴女仕事舐めてるの?」
「ふぇ~ん、そんなつもりじゃ……ひぃ!」
ナイフを美鈴の恐怖を煽る様に当たるギリギリのところに投げながら、咲夜は話しかける。
美鈴が答えようとすると、咲夜はそれを遮るようにナイフを投げる。
「じゃあ、何で侵入者が三人も居たのかしら? それも、ほぼ無傷の人が二人も」
「そ、それは……」
「それは俺と相打ちになったからだ」
美鈴がしどろもどろになっていると、横から声が聞こえてきた。
「え?」
「どういうこと?」
その声を聞いて、美鈴と咲夜はその声の主であるギルバートの方を向いた。
すると、ギルバートは事情を説明し始めた。
「お互いに最後の一撃を喰らって伸びてたんだよ。それで、俺が先に眼を覚ましたからここまで連れてきて肩を貸したんだ。そのまま寝ちまったけどな」
「美鈴、それ本当?」
「え、あ、はい……」
咲夜の問いかけに、美鈴はやや困惑気味に頷いた。
咲夜はしばらく美鈴の事を見た後、ナイフを回収した。
「……そう。お嬢様が呼んでるわ、早く図書館に来なさい」
「あ、はい、分かりました」
美鈴が返事をすると、咲夜は紅魔館の中へと戻っていく。
「さて、俺達も行こう」
「ああ、そうすっか」
ギルバートと銀月はそう言い合うと、咲夜に続いて中に入ろうとする。
そんなギルバートに、美鈴は声を掛けた。
「あの、ギルバートさん」
「ん、何だ?」
「庇ってくれてありがとうございます。お陰で助かっちゃいました♪」
美鈴はそう言いながら笑顔を見せる。
それに対して、ギルバートは小さく息を吐いた。
「そう思うんなら、今度また相手してくれ。次は俺が勝つからな」
「良いですよ。でも、そう簡単に負けたりはしませんよ?」
仏頂面で話すギルバートに、美鈴は楽しそうに笑いながら答えを返す。
そこに、魔理沙が割り込んできた。
「……随分仲良くなったな、ギル?」
「まあ、悪い奴じゃなさそうだしな。拳で語ってみれば大体は分かるもんだ」
「ふ~ん……そんなもんか?」
「そんなもんだ」
魔理沙に対して、ギルバートはそう言って微笑を浮かべる。
そんなギルバートを、銀月が感心したように見やる。
「にしても、手が早いな。いきなり女の人とあんなに仲良くなるなんて……」
「……お前にだけは言われたくねえよ」
銀月の言葉に、ギルバートは額に手を当ててそうぼやいた。
「あ、どこ行ってたのよ! ちょっと銀月、お茶を淹れてちょうだい!」
一行が図書館に戻ると、霊夢がいきなりそう言って詰め寄ってきた。
「……はあ?」
あまりに突拍子もない一言に銀月がぽかーんとした表情を浮かべる。
「喉が渇いちゃったのよ。だからお茶ちょうだい」
それにもかかわらず、霊夢は銀月に要求を突きつけた。
霊夢の発言を聞いて、銀月は頭を抱える。
「あのねえ……ここ、人の家。俺達他所の子。そこのところは……」
「知ったこっちゃないわよ」
「デスヨネー」
銀月の抗議を一言で斬り捨てる霊夢。
それを聞いて、銀月はがっくりと肩を落とした。
「お茶だったら私が淹れてくるけど?」
「ダメよ、私は銀月が私好みに淹れたお茶が飲みたいのよ。そういう訳だから宜しくー」
咲夜が提案するも、霊夢は飽くまで銀月が淹れる茶を所望する。
それを受けて、銀月は大きくため息をついた。
「はあ……しょうがないなぁ……ちょっと台所借りるけど、いいかな?」
「私も行くわよ。どうせなら、全員分用意した方がいいでしょ」
「それもそうか。それじゃ、みんなに何が飲みたいか訊いてくるよ」
銀月は咲夜と話をすると、全員に何が言いかを訊いて回り始めた。
そんな銀月を見て、レミリアが楽しそうな笑みを浮かべて将志に話しかけた。
「ねえ、これはお前の息子が調教されてるのか、あの巫女が餌付けされてるのかどっちだと思う?」
「……銀月……お前、それで良いのか……」
レミリアの発言に、将志は額に手を当てながら天を仰ぐ。
自分の息子の現状は、思ったよりも酷かったようである。
その一方で、レミリアは面白そうに銀月を見続ける。
「それにしても、まるで巫女の専属執事みたいね。執事服とか着せたら良く似合いそうだわ」
「……どうしてこうなった」
将志はそう言うと、大きくため息をつきながら力なく首を横に振った。
しばらくして、銀月と咲夜が全員分の飲み物を用意して戻ってきた。
「お飲み物をお持ちしました」
二人は手分けして飲み物を配っていく。
「はい、どうぞ」
「ありがと……ふ~っ、これこれ。仕事上がりのこの一杯が最高なのよね~♪」
霊夢は銀月から自分のお茶を受け取ると、至福の表情でそれを飲み始めた。
「そりゃどうも」
それを見て、銀月は笑みを浮かべた。
「霊夢、発言が親父くさいぜ?」
「ふっ、そんなことはこの一杯の前では些細なことよ」
魔理沙の発言もどこ吹く風とばかりに、霊夢は銀月のお茶を楽しむ。
その横で、ギルバートが銀月の淹れたお茶を飲んで苦い表情を浮かべていた。
「しっかし……相変わらずこの関連じゃ銀月に勝てねえな……」
「お? ギルのより美味いのか、銀月のお茶は?」
「お茶に限らず料理関係は銀月のほうが完全に上だよ。何せ、父親が料理の神だからな」
「そっか。でも、ギルもそのままにしておくつもりはないんだろ?」
「当然だ。銀月に負けるのだけは御免だからな」
魔理沙の言葉に、ギルバートはそう言って笑う。
「俺だって、君に負けるのは嫌だね」
その横から、銀月もそう言って不敵に笑った。
「…………」
「…………」
無言で見つめあう二人。
その間には、どこか張り詰めた空気が漂い始めている。
「表出ようか」
「表出ろ」
二人はそう言いながら立ち上がると、図書館の出口に向かって歩き始めた。
そんな二人に、将志が後ろから声を掛けた。
「……お前達。張り合うのも良いが、集まった目的を忘れていないだろうな?」
その言葉を聞いて、二人は立ち止まった。
「っと、そうだったね、父さん。それじゃ、みんな集まったことだし、説明してもらえるかな? まず、父さんに何があったのさ?」
「……そうだな。まず、俺が覚えている限りのことを話すとしよう」
そう言うと、将志の口から事の真相が語られ始めた。