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No.29218の一覧
[0] 銀の槍のつらぬく道 (東方Project) [F1チェイサー](2012/05/06 19:25)
[1] 銀の槍、大地に立つ[F1チェイサー](2012/08/06 21:18)
[2] 銀の槍、街に行く[F1チェイサー](2012/08/06 21:22)
[3] 銀の槍、初めて妖怪に会う[F1チェイサー](2012/08/06 21:26)
[4] 番外:槍の主、初めての友達[F1チェイサー](2012/08/06 21:51)
[5] 銀の槍、その日常[F1チェイサー](2012/08/06 21:30)
[6] 銀の槍、別れ話をする[F1チェイサー](2012/08/06 21:38)
[7] 番外:槍の主、テレビを見る[F1チェイサー](2012/08/06 21:56)
[8] 銀の槍、意志を貫く[F1チェイサー](2012/08/06 21:45)
[9] 銀の槍、旅に出る[F1チェイサー](2012/08/06 22:14)
[10] 銀の槍、家族に会う[F1チェイサー](2012/08/06 22:04)
[12] 銀の槍、チャーハンを作る[F1チェイサー](2012/08/06 22:26)
[14] 銀の槍、月を見る[F1チェイサー](2012/08/06 22:31)
[15] 銀の槍、宴会に出る[F1チェイサー](2012/08/06 22:39)
[16] 銀の槍、手合わせをする[F1チェイサー](2012/08/06 22:46)
[18] 銀の槍、迷子になる[F1チェイサー](2012/08/06 23:08)
[20] 銀の槍、奮闘する[F1チェイサー](2012/08/06 23:18)
[21] 銀の槍、家を持つ[F1チェイサー](2012/08/06 23:29)
[22] 銀の槍、弟子を取る[F1チェイサー](2012/08/06 23:36)
[23] 銀の槍、出稼ぎに出る[F1チェイサー](2012/08/06 23:46)
[24] 銀の槍、振り回される[F1チェイサー](2012/08/06 23:58)
[26] 銀の槍、本気を出す[F1チェイサー](2012/08/07 00:14)
[27] 銀の槍、取り合われる[F1チェイサー](2012/08/07 00:21)
[28] 銀の槍、勧誘される[F1チェイサー](2012/08/07 00:28)
[29] 銀の槍、教壇にたつ[F1チェイサー](2012/08/07 00:34)
[30] 銀の槍、遊びに行く[F1チェイサー](2012/08/07 00:43)
[31] 銀の槍、八つ当たりを受ける[F1チェイサー](2012/08/07 00:51)
[32] 銀の槍、大歓迎を受ける[F1チェイサー](2012/08/07 00:59)
[33] 銀の槍、驚愕する[F1チェイサー](2012/08/07 01:04)
[34] 銀の槍、大迷惑をかける[F1チェイサー](2012/08/07 01:13)
[35] 銀の槍、恥を知る[F1チェイサー](2012/08/07 01:20)
[36] 銀の槍、酒を飲む[F1チェイサー](2012/08/07 01:28)
[37] 銀の槍、怨まれる[F1チェイサー](2012/08/07 01:35)
[38] 銀の槍、料理を作る[F1チェイサー](2012/08/07 01:45)
[39] 銀の槍、妖怪退治に行く[F1チェイサー](2012/08/07 02:05)
[40] 銀の槍、手助けをする[F1チェイサー](2012/08/07 02:16)
[41] 銀の槍、説明を受ける[F1チェイサー](2012/08/07 02:19)
[42] 銀の槍、救助する[F1チェイサー](2012/08/07 02:25)
[43] 銀の槍、空気と化す[F1チェイサー](2012/08/07 02:29)
[44] 銀の槍、気合を入れる[F1チェイサー](2012/08/07 02:35)
[45] 銀の槍、頭を抱える[F1チェイサー](2012/08/07 02:47)
[46] 銀の槍、引退する[F1チェイサー](2012/08/07 02:53)
[47] 銀の槍、苛々する[F1チェイサー](2012/08/07 03:00)
[48] 銀の槍、一番を示す[F1チェイサー](2012/08/07 04:42)
[49] 銀の槍、門番を雇う[F1チェイサー](2012/08/07 04:44)
[50] 銀の槍、仕事の話を聴く[F1チェイサー](2012/08/07 04:47)
[51] 銀の槍、招待を受ける[F1チェイサー](2012/08/07 04:51)
[52] 銀の槍、思い悩む[F1チェイサー](2012/08/07 04:59)
[53] 銀の槍、料理を作る (修羅の道編)[F1チェイサー](2012/08/07 05:04)
[54] 銀の槍、呆れられる[F1チェイサー](2012/08/07 05:15)
[55] 銀の槍、心と再会[F1チェイサー](2012/08/07 05:38)
[56] 銀の槍、感知せず[F1チェイサー](2012/08/07 11:38)
[57] 銀の槍、心労を溜める[F1チェイサー](2012/08/07 11:48)
[58] 銀の槍、未来を賭ける[F1チェイサー](2012/08/07 11:53)
[59] 不死鳥、繚乱の花を見る[F1チェイサー](2012/08/07 11:59)
[60] 炎の精、暗闇を照らす[F1チェイサー](2012/08/07 12:06)
[61] 銀の槍、誇りを諭す[F1チェイサー](2012/08/07 12:11)
[62] 銀の槍、事態を収める[F1チェイサー](2012/08/07 12:23)
[63] 番外:演劇・銀槍版桃太郎[F1チェイサー](2012/08/07 12:38)
[64] 銀の槍、人狼の里へ行く[F1チェイサー](2012/08/07 12:52)
[65] 銀の槍、意趣返しをする[F1チェイサー](2012/08/07 13:02)
[66] 銀の槍、人里に下る[F1チェイサー](2012/08/07 14:31)
[67] 銀の槍、宣戦布告を受ける[F1チェイサー](2012/08/07 14:44)
[68] 銀の槍、話し合いに行く[F1チェイサー](2012/08/07 14:54)
[69] 銀の槍、拾い者をする[F1チェイサー](2012/08/07 15:23)
[70] 銀の槍、冥界に寄る[F1チェイサー](2012/08/07 15:05)
[71] 銀の槍、呼び出しを受ける[F1チェイサー](2012/08/07 15:31)
[72] 銀の槍、戦いを挑む[F1チェイサー](2012/08/07 15:38)
[73] 銀の槍、矛を交える[F1チェイサー](2012/08/07 15:46)
[74] 銀の槍、面倒を見る[F1チェイサー](2012/08/07 15:54)
[75] 銀の月、自己紹介をする[F1チェイサー](2012/08/07 16:00)
[76] 銀の月、修行を始める[F1チェイサー](2012/08/07 16:11)
[77] 銀の月、趣味を探す[F1チェイサー](2012/08/07 16:13)
[78] 銀の槍、未だ分からず[F1チェイサー](2012/08/07 16:18)
[79] 銀の月、ついて行く[F1チェイサー](2012/09/15 04:25)
[80] 銀の月、キレる[F1チェイサー](2012/08/07 16:41)
[81] 銀の月、永遠亭へ行く[F1チェイサー](2012/08/07 16:53)
[82] 銀の月、練習する[F1チェイサー](2012/08/07 17:00)
[83] 銀の月、人里に行く[F1チェイサー](2012/08/07 19:53)
[84] 銀の槍、訪問を受ける[F1チェイサー](2012/08/07 19:59)
[85] 銀の月、研修を受ける[F1チェイサー](2012/08/07 20:03)
[86] 銀の月、買出しに行く[F1チェイサー](2012/08/07 20:15)
[87] 銀の槍、蒼褪める[F1チェイサー](2012/08/07 20:21)
[88] 銀の月、止められる[F1チェイサー](2012/08/07 20:29)
[89] 銀の槍、手伝いをする[F1チェイサー](2012/08/07 20:44)
[91] 銀の月、友達を捜す[F1チェイサー](2012/08/07 20:52)
[92] 紅魔郷:銀の月、呼び止められる[F1チェイサー](2012/08/07 20:55)
[93] 紅魔郷:銀の月、因縁をつけられる[F1チェイサー](2012/08/07 21:00)
[94] 紅魔郷:銀の月、首をかしげる[F1チェイサー](2012/08/07 21:07)
[95] 紅魔郷:銀の月、周囲を見回す[F1チェイサー](2012/08/07 21:33)
[96] 紅魔郷:銀の月、引き受ける[F1チェイサー](2012/08/07 21:38)
[97] 紅魔郷:銀の月、鉄槌を下す[F1チェイサー](2012/08/07 21:47)
[98] 銀の月、人を集める[F1チェイサー](2012/08/07 21:52)
[99] 銀の槍、真相を語る[F1チェイサー](2012/08/07 21:57)
[100] 銀の月、宴会を手伝う[F1チェイサー](2012/08/07 22:00)
[101] 銀の槍、己を見直す[F1チェイサー](2012/08/07 22:04)
[102] 銀の月、遊ばれる[F1チェイサー](2012/08/07 22:08)
[103] 銀の月、暴れまわる[F1チェイサー](2012/08/07 22:16)
[104] 銀の月、倒れる[F1チェイサー](2012/08/07 22:24)
[105] 外伝if:清涼感のある香り[F1チェイサー](2012/08/07 22:32)
[106] 銀の槍、検証する[F1チェイサー](2012/08/07 22:56)
[107] 銀の月、迎えに行く[F1チェイサー](2012/08/07 23:04)
[108] 銀の月、脱出する[F1チェイサー](2012/08/07 23:14)
[109] 銀の月、離れる[F1チェイサー](2012/08/07 23:32)
[110] 銀の槍、散歩をする[F1チェイサー](2012/08/07 23:48)
[111] 銀の月、初出勤[F1チェイサー](2012/08/08 00:03)
[112] 銀の月、挑戦する[F1チェイサー](2012/08/08 00:12)
[113] 銀の月、迎え撃つ[F1チェイサー](2012/08/08 00:24)
[114] 銀の槍、力を示す[F1チェイサー](2012/08/08 00:36)
[115] 銀の槍、診療を受けさせる[F1チェイサー](2012/08/08 00:47)
[116] 銀の槍、緩めてやる[F1チェイサー](2012/08/08 00:48)
[117] 銀の槍、買い物をする[F1チェイサー](2012/08/08 00:55)
[118] 銀の月、教育する[F1チェイサー](2012/08/08 01:07)
[120] 番外編:銀槍版長靴を履いた猫[F1チェイサー](2012/08/08 01:09)
[121] 銀の月、見直す[F1チェイサー](2012/08/08 01:37)
[122] 銀の月、調査する[F1チェイサー](2012/09/14 13:28)
[123] 銀の槍、呼び出しを受ける[F1チェイサー](2012/08/08 01:48)
[124] 銀の月、呼びかける[F1チェイサー](2012/08/08 01:49)
[125] 妖々夢:銀の月、数を競う[F1チェイサー](2012/08/08 01:49)
[126] 妖々夢:銀の月、誤解を受ける[F1チェイサー](2012/08/08 01:50)
[127] 妖々夢:銀の月、煽る[F1チェイサー](2012/08/08 01:51)
[128] 妖々夢:銀の月、踊らされる[F1チェイサー](2012/08/08 08:35)
[129] 妖々夢:銀の月、一騎打ちをする[F1チェイサー](2012/08/08 08:47)
[130] 妖々夢:銀の槍、戯れる[F1チェイサー](2012/08/09 13:18)
[131] 銀の槍、感づかれる[F1チェイサー](2012/08/23 07:30)
[132] 銀の月、受難[F1チェイサー](2012/08/29 01:22)
[133] 銀の月、宴会の準備をする[F1チェイサー](2012/09/07 20:41)
[134] 銀の月、宴会を楽しむ[F1チェイサー](2012/09/11 03:31)
[135] 番外編:外来人、心境を語る[F1チェイサー](2012/09/15 04:39)
[136] 銀の月、調べられる[F1チェイサー](2012/09/22 04:21)
[137] 銀の槍、授業参観をする[F1チェイサー](2012/09/28 06:13)
[138] 銀の槍、反転する[F1チェイサー](2012/11/12 03:41)
[139] 番外:演劇・銀槍版三匹のこぶた[F1チェイサー](2012/10/18 21:31)
[140] 銀の槍、報告する[F1チェイサー](2012/10/29 07:14)
[141] 魔の狼、研究する[F1チェイサー](2012/11/12 03:42)
[142] 銀の槍、立会人となる[F1チェイサー](2012/11/24 19:54)
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[29218] 銀の槍、教壇にたつ
Name: F1チェイサー◆5beb2184 ID:398d58fa 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/08/07 00:34
 槍ヶ岳 将志は守護神であり、戦いの神である。
 この神を祭った社は数多くあり、様々な場所に見受けられる。
 人々は家内安全などの願いを込め、礼拝をする。

 また、彼を語る上で忘れてはいけないのが、彼は料理の神でもあるという事実だ。
 つまり、将志は食材さえ用意すればその腕をふるう。
 人も妖怪も果ては神さえも将志の作る料理を求めて、食材を差し出すのだ。
 将志の料理の味に惹かれて頼みに来るものは後を絶たない。
 
 だが、将志としては自分の作る料理をそう簡単に食べさせるわけには行かないのだ。
 何故ならそれはただの施しであって、ご利益を参拝者にもたらしているわけではないからである。
 本当にご利益を得ようとするならば、自分で料理をしなければならないのだ。
 しかしながら、主に人間を主食としている妖怪達はもちろん、そうでない者も料理など普通に生活していればあまりしない。

「……では、始めるとしようか」

 そういう訳で、将志は定期的に本社の本殿で料理教室を開いているのだ。
 内容は幅広く、包丁の使い方、食材の知識、調理の際の注意事項、さらには飾り切り等の高等な技術まで教えている。
 しかしここで最も重要としていることは、食料を無駄にしないことである。
 ありふれた食材を無駄なくどこまでいい物に出来るか、それが将志の料理教室の目指すところである。
 その料理教室に配下の妖怪はもちろんのこと、暇をもてあました外部の妖怪や神が料理教室に参加するのだ。

「……ところで、一つ訊きたいのだが良いだろうか?」

 将志の一言に、生徒である妖怪達は一斉に将志の居る教壇に眼を向けた。
 目の前にズラッと並んだ妖怪達を将志は眺める。

「……食材で人間を連れてきたものは居ないか? 俺も神としての体裁がある、この場で人間を殺すのは控えたいのだが……」

 将志がそういった瞬間、妖怪達の一部から不満の声が上がる。
 この妖怪達はどうやら外部聴講生らしく、人間を連れてきていた。
 騒がしくなった本殿に、将志は手を叩いて黙らせる。

「……まあ、少し落ち着いて欲しい。確かに、妖怪の中には人間を食す事が存在意義の者も居るだろう。だが、ここではそれは少し置いておこう。どうしても人間で実践したいものはここで技術を盗み、その上で自分で試してみるのがいいだろう。それから、人間の諸君にはこの場での命の保障をさせてもらう。だが、外に出てからどうするかは自分で考えろ。助けを求めるばかりのものに手を差し伸べるほど神も甘くは無い。生き延びたくば考えるべきだ」

 将志の言葉に、妖怪達は再び静まった。
 それを確認すると、将志は話を続けた。

「……さて、全員常日頃様々なものを様々な形で食しているとは思うが、ここに居るということは全員少なからず自分の食生活に不満があるのだろう。普段の味に飽きたり、味を改善したり、何らかの解決策を探しにここに来た者も居るだろう。また、自らの腕に磨きをかけたいものも居るはずだ……そういう者は、この場では全て俺が面倒を見る。分からないことがあれば訊いてくれ」

 将志はそういうと、調理場に立つ。
 将志が調理場に立つと、妖怪達は将志の手元が見えるような位置までつめて行った。
 調理台のまな板の上には、大きなスイカが置かれていた。

「……今日の包丁技は少し面白いものを見せるとしよう」

 将志はそう言うと、包丁でスイカを切っていく。
 するとまな板の上には厚めの輪切りにされたスイカが並んだ。
 将志はそのうちの一つを手に取った。

「……ふっ」

 将志はスイカの皮と身の間に包丁を入れ、転がすように素早く輪切りのスイカを動かした。
 皮を沿うように包丁が滑り、スイカの身と皮が分断された。
 その後将志は切り出したスイカの身を一口大に切り分け、円形に残ったスイカの皮の中に放り込む。
 これで、見た目も綺麗なスイカの器が出来上がった。

「……これは大車輪切りと言う技で、円または球形の食材に使える技だ。このように皮の硬いスイカなどの食材で行えば、残った皮を器にも使えて見た目も良くなることがある。覚えておくと面白いかもしれないな」
「へえ、そういう使い方もあるのね」

 将志が包丁を握っているすぐ隣の空間が裂け、興味津々と言った表情を浮かべた少女が現われる。
 少女は紫を基調としたドレスを身にまとい、一風変わった帽子をかぶっていた。

「……来ていたのか、紫」
「ええ、来てたわよ。結構盛況してるわね、これ」

 紫はそこに集まっている聴講生を見ながら、切り分けられたスイカに手を伸ばした。
 将志はそれを見て、紫に楊枝を手渡す。

「……手が汚れると後が面倒だ。これを使え」
「あら、気が利くわね」

 紫はそれを笑顔で受け取ると、一口大に切られたスイカを口に運んだ。
 その様子を、将志はジッと眺めていた。
 それに気付き、紫は将志に笑いかけた。

「どうかしたの? 私の顔に何かついてるのかしら?」
「……せっかくだ、お前も挑戦してみるか?」
「え?」

 突然の将志の一言に、紫は思わず呆けた表情を浮かべた。
 それに構わず、将志は紫に包丁を手渡す。

「ちょっと待って……挑戦って、何に?」
「……大車輪切りだ。紫もさっき見ていただろう?」
「私、包丁なんて今まで持ったこと無いのだけど?」
「……今持っているだろう?」

 困惑する紫に、将志は真顔でそう言った。
 そのあまりに見当違いの発言に、紫は思わずこめかみを押さえた。

「……いえ、手にしたことがあるかどうかではなくて、使ったことが無いってことよ?」
「……心配しなくても、ここに居る者のほとんどが今の技を初めて見る者で、更にその中には料理自体初めてという者も少なくない。失敗して当たり前だ。……だが、やってみないことには何も始まらん。物は試しだ、やってみるがいい」

 将志はそう言って紫の肩を叩いた。
 紫の手には先ほど将志が使っていた包丁が握られていて、目の前には輪切りにされたスイカがある。
 自らの置かれている状況に、紫は頭を抱えたくなった。

「ねえ、せめてもっと簡単なことを覚えてからの方が良いと思うのだけど……」
「……そうか……確かにただやれと言われても難しいか……では、一回で成功させたものには俺が直々に腕をふるって注文の品を作ろう。……これならどうだ?」

 将志の発言に、それを聞いた聴講生達は色めき立った。
 身内以外の者にとって、将志の料理は滅多に食べられないご馳走なのだ。
 しかも注文されたとおりのものを作るとなれば、やる気も出るというものであった。
 聴講生達から上がる熱気に、紫は思わず感心した。

「流石ねえ。貴方が腕を振るうってだけで、ここまで反響があるのね」
「……一応料理の神でもあるからな。腕にはそれなりに自信がある」
「それで、本当に出来たら一品作ってもらえるのかしら?」
「……ああ、約束しよう」

 将志の言葉を聞いて、紫は輪切りのスイカに眼を向けた。
 そのうちの一つを手に取り、包丁を皮と身の間に差し込む。
 そして、ゆっくりと包丁を動かし始めた。

「……他にも挑戦したい奴は手を上げろ。用意した食材に限りがある、選ばれなくても恨まない事だぞ?」

 将志は手を上げた聴講生の中から数人を選び、前で大車輪切りに挑戦させた。
 やはり初めてでは勝手が分からないのか、上手くできたものはほぼ居なかった。

「……出来なくても気を落とすことは無い。俺も最初から出来たわけではないからな。この手のものは何度も練習し、失敗して初めて身につくものだ」

 将志はそう言って出来なかった聴講生達を励ました。
 そしてそう言いおわると、将志は隣を見た。

「……ところで、紫はいつまでそれをやっているのだ?」
「あら、貴方はこれを終わらせるのに制限時間なんて設けなかったでしょう?」

 将志の横では、紫が未だに大車輪切りに挑戦していた。
 軽口を叩いてはいるものの、その表情は真剣そのものだった。
 手つきは拙く、極端なまでに慎重に包丁を動かしていた。

「……確かに設けてはいないが、一応講習の終了時間があるのだが……」
「……ちょっと待ちなさい、あと少しなんだから……出来たわ」

 紫はそういうと、将志の前に切り分けたスイカを置いた。
 時間は多分に費やしたが、確かに大車輪切りは出来ていた。

「……若干時間が掛かりすぎではあるが、及第点としよう」

 将志が若干ため息混じりでそういうと、紫はほっとため息をついた後、笑みを浮かべた。

「……ふふふ、約束は覚えてるわね?」
「……ああ、覚えている。……何を所望だ?」

 将志がそう問うと、紫は笑みを深くして言った。

「幻想郷を一つ」
「……注文は料理に限らせてもらおう」
「あら残念」

 額に手を当ててため息をつく将志を見て、紫は楽しそうに笑った。
 そんな紫に、将志は冷ややかな視線を向ける。

「……そういえば、何故紫がここに居る? まさか聴講にきたわけではあるまい?」
「ええ、もちろん。少し妖怪観察に来たのよ」
「……まだ協力者を探しているのか?」
「いいえ、今募集は休止中よ。私は貴方を観察しに来たの」

 紫の言葉に、将志は首をかしげる。

「……俺を観察して何になるというのだ?」
「この霊峰を統括していて、将来協力者になってくれそうな妖怪なら観察するには十分よ」

 紫はそう言いながら将志に近寄っていく。
 そして妖艶な笑みを浮かべて将志の耳元に口を置いた。

「それに……私、貴方のことが気に入っているの。気に入った相手なら、その相手のことを知りたくなるものでしょう?」

 囁くような紫の声に、将志は眼を閉じてため息をついた。

「……どうでも良いが、講習の途中だ。話は後にしてもらおう」
「つれないわね……ええ、それじゃあ後ろで待たせてもらうわ」

 紫は笑みを浮かべたままそういうと、後ろに引っ込んだ。
 それを確認すると、将志は講習を再開した。




「……では、今日の講習を終了する」

 将志がそういうと、本殿から妖怪達がぞろぞろと出て行く。
 それと同時に、後ろで見ていた紫が将志に近づいていく。

「お疲れ様。なかなかに堂に入った教え方をするのね」
「……もう幾度と無く講習を開いているからな。流石に慣れる」

 将志は本殿の掃除をしながら紫に答える。
 紫はその様子をジッと眺める。
 ふと、雑巾掛けをしていた将志がその手を止め、紫の方を向いた。

「……ふと思ったのだが、俺を観察してどうするつもりだ? どうにも目的が見えんのだが……」
「観察する理由はあるけど、目的なんて無いわ。しいて言うなら、ちょっとした趣味の範疇かしら?」
「……そうか」

 紫の返答を聞くと、将志は興味をなくしたように掃除に戻った。

「あら? てっきり皮肉の一つや二つでも出ると思ったのだけど?」
「……別に見られて困るようなことをしている訳でもないし、紫が襲い掛かってくるわけでもない。気にする必要は全く無い」
「気にも留められないことを嘆くべきか、信頼されてることを喜ぶべきか分からないわね。でも、私が貴方を襲わない保障なんてどこも無いわよ?」

 紫のその言葉を聞いて、将志はピクリと眉を動かした。
 次の瞬間には、将志から僅かながらピリピリとした空気が流れ出した。

「……仮にお前が俺を襲う気だったとしても、今の紫には俺を殺すことなど出来ん」

 将志は普段より少し低い声を出し、軽く牽制する。
 紫はそれを涼しい表情で受け流した。

「ええそうね。確かに今の私に貴方を殺せる力は無いわ。もっとも、殺すつもりもないけど」

 紫のその言葉を聞いて、将志はため息と共に額を手で押さえた。

「……分からない奴だ。ならば、何故俺に疑念を抱かせるようなことを言う?」
「貴方と話をするのが楽しいから、では駄目かしら?」

 将志の疑問に紫は妖しげな笑みを浮かべてそう答える。
 その回答を聞いて、将志はゆっくりと首を横に振った。

「……本当にお前はよく分からん奴だ」
「私も貴方がよく分からないんだから、お互い様でしょう?」

 ため息交じりの将志の言葉に、紫は表情を変えずにそう返す。
 その間に将志は掃除を終え、掃除用具を片付けた。

「……それで、まだ何か用か?」
「そうね……ずっと話をしていたいのはやまやまだけど、そろそろお暇させてもらうわ」

 紫はそういってスキマを開く。
 が、何かを思い出したかのように立ち止まり、将志に詰め寄った。

「ああ、そうそう。私に付き合ってくれる時は遠慮なく言って頂戴。喜んで歓迎するわ」
「……そのためにも、さっさと俺が認めるほど成長するのだな」

 紫が耳元でそう囁くと、将志は表情を崩さずに淡々と言葉を返した。
 紫はそれに苦笑すると、将志から離れた。

「ええ、分かってるわ。それじゃ、また逢いましょう、将志」

 紫はそういうとスキマの中へ入っていった。
 それと入れ違うように、広間に赤い髪の小さな少女が入ってくる。

「お~い、兄ちゃん! そろそろ飯の時間だぞ!!」
「……おっと」

 アグナは将志を目掛けて駆け出し、胸に飛び込んだ。
 将志はその勢いを上手く殺しながらアグナを受け止める。

「……今日は何を食いたい?」
「久々にチャーハンが食いたい!!」
「……了解した。ではいつもどおり頼むぞ、アグナ」
「おう! 任せろってんだ!!」

 二人は手をつなぎながら、仲良く広間から出て行った。


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