「……はっ!」
将志の手の内で、料理が宙を舞う。
何種類もの料理を同時に、それも見るものを楽しませるような作り方を観客達は楽しそうにと、あるいは呆然と眺めていた。
初めて見る者にとって、将志のこのパフォーマンスは想像も出来ないものであったのだ。
「……ふっ!」
将志は最後に気合と共に鍋の中の料理を次々と空高く放り投げた。
観客は一斉にその宙に放り投げられた料理の行き先を眼で追っている。
「……五品完成だ。まずはじっくり味わうと良い」
将志がそう言った瞬間、会場に並べられた皿の上に極めて正確に料理が落ちてきた。
付け合せの野菜も計算されて盛り付けられており、周囲に飛び散らないようになっていた。
初めて見たその光景に、霊夢達は呆然としたまま目の前に落ちてきた料理を眺めていた。
「……何これ?」
「流石は父さんだな、的確に料理を投げているね」
霊夢の呟きに、銀月は感心して頷きながらそう答えた。
それを聞いて、ギルバートは渋い表情で銀月に話しかけた。
「そう言う問題じゃねえよ。お前の親父さんはいつどこでこんな芸当を覚えたんだよ?」
「何でも、大昔に愛梨姉さんに仕込まれて、旅芸人として各地を回ってたときに披露して回ってたみたいだよ」
将志達が銀の霊峰に居を構える前、旅芸人の体を取って実際に芸を披露していた。
その時に、将志も手持ちの食材を使ってこの芸を披露していたのだ。
そんな銀月の説明に、妖夢は少し困惑した表情で頬をかいた。
「えっと、これも料理の神様だからってことでしょうか?」
「……これなら芸の神様でも違和感がない気がするぜ」
魔理沙は次々と料理を作り上げる将志を見ながらそう呟いた。
将志は時折料理を一口分弾いて、観客に味見をさせながら料理を作り上げていく。
その芸当は、普通に料理をしている者には真似出来ないものであった。
「……そらっ」
再び大きく鍋を振り上げて料理を飛ばす将志。
観客達は再びその向かう先を眼で追った。
「……え?」
しかし、その行く先をいち早く見たアリスは眼を疑った。
「やっぱり六花のお兄ちゃんの料理は美味しいね」
「当たり前ですわよ。お兄様は料理の神様ですもの」
その先に居たのは美味しそうに料理を食べている橙と六花。
二人とも料理が自分めがけて降ってきているとは夢にも思わず、楽しそうに談笑していた。
誰もがその後の惨事を予期したその時、その料理は二人に当たる直前で音も無く消えうせた。
そして、橙と六花の後ろに白装束の青年が降り立った。
「え?」
「何ですの?」
突然後ろに現れた気配に、橙と六花は呆気に取られた表情で首をかしげた。
銀月は後ろの二人の無事を確認すると、小さく息を吐いた。
「……ふう。父さん! いきなり始めるなんて聞いてないぞ!」
銀月はそう言って将志に抗議した。
銀月の手には先ほど宙を舞っていた料理が乗った皿が握られていて、どうやら料理を皿を使って受け止めたようであった。
以前より将志と共に特訓をしていた一つの成果であった。
その銀月の抗議を聴いて、将志はニヤリと笑った。
「……ふっ、その方がスリルがあって良いだろう? ……次行くぞ」
将志はそう言うと、次々に皿のないところに料理を投げていく。
それを見て、銀月は札から数枚の大皿を取り出した。
「ああもう、いきなりこんな大量に投げないでくれよ!!」
銀月は文句を良いながら、将志が投げた料理を少しもこぼさずに受け止めていく。
その受け止める体制もさまざまで、背中越しに受け止めたり、地面スレスレで受け止めたりと多彩なバリエーションがあった。
「凄いな。将志のこれも久しぶりに見るが、まさか銀月までこれに加わってくるとはな」
「それは銀月も曲芸師の端くれですもの。いつかやるとは思っていたわ。けど、思ったよりも早かったわね」
料理で曲芸を見せる二人を見て、藍と紫は感心した様子でそう呟いた。
そんな中、その二人の眼前に将志が料理を放り投げる。
「よっと!!」
銀月はその手前に滑り込むようにして料理をキャッチする。
ソースの跳ねもほとんど無く、その全てが綺麗に皿の上に乗っている。
その皿を、銀月は紫に手渡した。
「はい、どうぞ」
「ありがとう、銀月。いつの間にこんな芸を覚えたのかしら?」
「この芸の練習自体はもう随分前からやっていたよ。最近になってようやく実践レベルになったって所さ」
紫の言葉に、銀月はそう言って笑った。
その表情は自信に溢れていて、絶対に落とさないという気概が見て取れた。
「……ふっ」
将志は再び皿のないところへと料理を放り投げる。
その先には、一心不乱に料理を食べている幽々子の姿があった。
銀月はそれを見て、素早く幽々子の方へと移動する。しかし幽々子の周囲には空の皿が散乱しており、足場がない。
「やあっ!」
そこで、銀月は宙返りをするように跳んだ。
空中で逆立ち状態になり飛んでくる料理を受け取って、それをこぼさないように着地する。
その間、銀月が手にした皿は常に上を向いており、銀月の技術の高さが伺えた。
「……あれ?」
しかし、次の瞬間銀月は首をかしげることになった。
皿の上にあるはずの料理が、ほとんど無くなっていたのだ。
皿の上には山盛りになっているはずの竜田揚げが、たった一つしか残っていない。
その皿を見て銀月が唖然としていると、幽々子は咀嚼していたものを飲み込んで口を開いた。
「……あらあら、一個食べ残しちゃったわね」
「……はい?」
幽々子の言葉に、銀月は愕然とした表情でそのほうを振り返った。
良く見ると、幽々子の口元には竜田揚げの衣の欠片がわずかに付いており、彼女が竜田揚げを食べていたことが分かった。
……つまり、銀月が料理を受け取った刹那、幽々子はその竜田揚げを眼にも留まらぬ速さで食べていたのだ。
最後の一個を箸で取る幽々子に、銀月は思わず手にした空の皿を取り落とした。
「あの、幽々子さん? あの量の竜田揚げ、もう食べたんですか?」
「ええ。とっても美味しかったわよ」
「……貴女の胃袋はどうなってるんですか?」
「美味しいものならいくらでも入るわよ~」
幽々子はホクホク顔で銀月にそう話した。
その常軌を逸した受け答えに、銀月はがっくりと肩を落とした。
「あはは……こりゃ本当にあの量の食材が無くなりそうだね……」
「……はっ」
銀月が乾いた笑みを浮かべていると、再び将志が料理を投げた。
今度はいつもよりも高々と放り投げられており、着地地点が神社の外にまで出てしまいそうであった。
それを見つけると、銀月は飛び上がった。
「おおっと!」
「きゃあ!?」
銀月が空中で料理をキャッチすると、その後ろから少女の悲鳴が聞こえてきた。
それを聞いて、銀月は笑みを浮かべた。
「おや、お怪我はありませんか、レミリア様?」
「い、いきなり何よ!?」
礼をする銀月に、レミリアは少しパニックになりながら銀月に声をかけた。
それを聞いて、銀月は浮かべた笑みを深くした。
「いえ、父が作った料理を私が皿で受け止める芸をしていたものですから。投げる場所に関しては父に一任しておりますので、抗議は父にお願いします」
「で、それは?」
「餃子ですよ、レミリア様。お一ついかがです?」
銀月はそう言いながら、餃子の乗った皿とフォークをレミリアに差し出した。
餃子の表面はパリッと焼きあがっていて、とても香ばしい匂いが漂ってきている。
それを受けて、レミリアは銀月が差し出したフォークを手に取った。
「ええ、それじゃあ頂くわ」
「……あ、いけません、お嬢様!」
餃子に手を伸ばしたレミリアを咲夜は止めようとするが、間に合わない。
レミリアは餃子を口にすると、ゆっくりと咀嚼した。
ニコニコと笑う銀月と、蒼い顔の咲夜。
「……これ、美味しいわね」
そんな中、レミリアは餃子を飲み込むとそう口にした。
それを見て、咲夜は呆気に取られた表情を浮かべた。
「……あら?」
「ふふふ、いくらなんでもレミリア様にニンニク入りの餃子は勧めないって。ちゃんとニンニク抜きの餃子にしてあるよ。びっくりしたかな、咲夜さん?」
銀月は咲夜に笑いながらそう説明をした。
それを聞いて、咲夜は安心して大きくため息をついた。
「……全く、心臓に悪いわね……してやられたわ」
「え、これ本当はニンニク入りなの!?」
餃子が本来ニンニク入りであったことを知らなかったレミリアは、驚いてそう口にした。
それを聞いて、銀月は深い笑みを浮かべた。
「ええ、本来餃子は風味付けのためにニンニクを入れるんですが、吸血鬼に出す料理に関してはニンニクを抜いてあるんです。ですから、ここでは安心してお召し上がりください」
銀月はそう言ってレミリアに深々と礼をした。
そんな銀月を見て、レミリアは困惑した表情を浮かべた。
「え、えっと銀月? その、何か良いことでもあったのかしら?」
「いいえ、特には何もございませんよ? では、宴会をお楽しみください」
銀月はにこやかにそう言うと、再び宴会の会場の中へと戻っていった。
するとレミリアは、少し憔悴した様子で咲夜に話しかけた。
「さ、咲夜? 銀月、どうしちゃったのかしら?」
「どういうことですか?」
「だって、銀月って普段私の前じゃもの凄く無愛想で無表情なのよ? それがあんなにニコニコと……」
レミリアは困惑している理由を咲夜にそう話した。
普段、銀月はレミリアに接する時は常に無表情で、事務的なことしか話さないのである。
そんな彼が突然自分に向けたことのないような笑顔で接し始めたのだ。
怖がられる覚えさえあれど、ああいう態度を取られる覚えがないので、レミリアは困惑しているのだ。
そんなレミリアに、咲夜は首をかしげた。
「……? 傾向としてはいい傾向だと思いますが?」
「逆に怖いわよ! 絶対何か企んでるに決まってるわ! それに、吸血鬼は常に恐れられてなきゃいけないのよ! あんな表情を浮かべられてたまるもんですか!」
咲夜の言葉に、レミリアはそう言って反発した。
レミリアはあくまで銀月より上に立っていたいようであり、その彼ににこやかに笑われるのは気に食わないようである。
そんなレミリアに、咲夜は苦笑いを浮かべた。
「まあ銀月のことですから、例え仕返しだとしてもそんなに酷いことはしないと思いますよ。それよりもせっかくの宴会ですし、楽しみましょう」
「そ、そうね……あまり気にしすぎても仕方ないわね」
レミリアはそう自分に言い聞かせると、近くにある料理に手をつけた。
将志の手によって作られたそれは、レミリアの舌に芳醇な香りと肉の旨みを伝える。
それを飲み込むと、レミリアは小さくため息をついた。
「美味しいわね、これ。ワインが欲しくなるわ」
「そう言うと思って、銀月に手配してありますよ、お嬢様」
咲夜はそう言うとレミリアの横にワイングラスを置き、そこに赤ワインを注ぐ。
レミリアはそれを口にすると、小さく息をついた。
「ふ~ん、良いワインね。料理人はワインの感覚も確かなのね」
「そういえばお嬢様、何故妹様を連れてこなかったのですか? 銀月を呼び出せば妹様も宴会に参加できたはずなのですが……」
咲夜はふとした疑問をレミリアにぶつけて見た。
すると、レミリアの顔が曇った。
「……それは今の銀月を見れば分かるわよ」
「銀月ですか?」
「見てみなさい」
レミリアの指示を受けて、咲夜は銀月のいる方を見た。
「銀月! 飲み比べで勝負だ!」
「ふふっ、良いよ、チルノ。君に俺を超えられるかな?」
「チ、チルノちゃん、無理はしないでね!」
銀月はチルノを相手に飲み比べを始めていた。
その様子はとても楽しそうで、銀月の顔には先程レミリアに見せていたものとも違う、自然な笑みが浮かんでいた。
それを見て、レミリアは陰鬱なため息をついた。
「……あんな笑顔、銀月は私やフランの前じゃ絶対に見せないわ。もしフランがあれを見たら、銀月が自分に心を閉ざしていることを痛感することになるでしょうね」
「……そうですね」
レミリアの言葉に、咲夜は暗い表情で口をつぐんだ。
銀月が従事しているフランドールは、いつか銀月が自分に心を開いてくれると信じて、必死に銀月に接しているのだ。
しかし、銀月は未だにフランドールに笑顔を見せたことはない。
その心中には、フランドールに一度殺されたという事実がトラウマとして根深く残っているのだ。
「フランは銀月のことを必ず話題に出すくらい気に入ってる。けど、銀月はフランにあの笑顔を見せることは無い。フランの心はとても弱いわ。その事実を知れば、潰れてしまうかもしれない。そうなったら、一番危険なのは銀月よ」
「どういうことですか?」
「思い通りにならなければ壊してしまえ。フランならたぶんそう考えるわ。それが体なのか心なのかは知らないけれど、銀月は無事では済まないでしょうね」
レミリアは悲痛な表情で銀月を眺めた。
このまま銀月がフランドールに心を開かなければ、いつかフランドールの心が耐え切れなくなる。
そして彼女の心が限界を迎えたとき、フランドールが銀月を壊してしまう可能性があるというのだ。
それを聞いて、咲夜は小さく息を呑んだ。
「……何とか出来ませんか?」
「……無理よ。私は運命を操ることは出来ても、他人の心を操ることは出来ない。ましてや、トラウマを癒すなんて完全に門外漢よ。とても歯がゆいことだけど、銀月がフランに心を開くのを待つしかないわ」
レミリアはそう言うと、手にしたワイングラスを一気に傾けた。
そして中のワインを飲み干すと、レミリアは大きく息をついた。
「……まあ、今ここで気にしても仕方が無いわ。今はとりあえずこの宴会を楽しみましょ」
「そうですね」
レミリアはそう言うと、再び銀月のいる方向を見た。
「うっへっへっへ……相変わらず美味しそうね、銀月ぅ……」
「ル、ルーミア姉さん……い、いきなり何するのさ……」
レミリアが銀月を見つけると、銀月は会場の隅の陰になっているところでルーミアに押し倒されていた。
銀月の腕はまとめて頭の上の地面に押し付けられており、抵抗が出来ない状態にさせられている。
それを見て、レミリアはニヤリと笑った。
「ふふふ……面白そうなことしてるじゃない。咲夜、私も少し混ざってくるわ。貴女も自由に楽しみなさい」
「……かしこまりました」
咲夜が苦笑いを浮かべてそう言うと、レミリアは銀月のところへと向かっていった。
「ふあぁっ……く、くすぐったいよ……」
「うふふ、相変わらず首が弱いのね……可愛いわ♪」
ルーミアは銀月の首筋を舐めてその反応を楽しんでいるようであった。
そんな彼女にレミリアは声をかけた。
「楽しそうねぇ、貴女。うちの執事に何をしているのかしら?」
「レミリア様……?」
「……何よ、銀月はその前に私の弟分よ。邪魔をするの?」
横から声を掛けられて、ルーミアは敵を見るような目つきでレミリアを睨んだ。
そんなルーミアにレミリアはニヤリと笑みを浮かべて近づいていく。
そして、右側から銀月の左腕を地面に押さえつけるように握った。
「……っ!?」
「……邪魔なんてしないわよ。その代わり、私も混ぜなさい」
レミリアがそう言った瞬間、銀月の表情が一気に硬くなった。
それを見て、ルーミアは楽しそうに笑みを浮かべた。
「あれあれ~? どうしたの、銀月? 何でそんなに硬くなってるのかしら?」
「ふふふ……こいつは私の前ではいつもそうよ。私の思うようにならないように、表情を消してるのよ。強情なのよ、銀月は」
「くっ……」
嗜虐的な笑みを浮かべるレミリアに、銀月は小さく身じろぎをした。
しかしルーミア一人でも逃げ切れないというのに、レミリアにも押さえられていては銀月は全く動けない。
それを確認すると、レミリアはルーミアの方を向いた。
「で、混ぜてもらえるかしら?」
「ええ、良いわよ。無防備な銀月を弄るのも良いけど、こんな強情な銀月を責めるのも面白そうだしね」
レミリアとルーミアはそう言って笑いあうと、銀月を見やった。
「……っ……」
見ると、銀月は奥歯をかみ締めて何とか無表情を保っている様子であった。
どうやらこれから二人が自分にすることを考えて少々身構えているようであるが、内心いっぱいいっぱいなのがかすかに分かる。
それを見て、二人は背中に小さくゾクリとした感覚を感じた。
「うふふふ……銀月、怖いのね……そんなに怖がることないのに……」
「ねえ、貴女銀月のこの顔を見ると無性にいじめたくならない?」
「そりゃあ、こんな強がってる表情見せられるとね。その強がりがいつまで続くか試してみたくなるわ」
「そうよねぇ……私はこの方がいじめ甲斐があって良いと思うわ」
硬い表情を浮かべる銀月の目の前で、二人は楽しそうに談笑する。
その間にも、時折獲物を見つけて舌なめずりをする狩人のような眼で銀月を眺め、少しずつ精神的に追い詰めていく。
銀月はその間にも腕を少しずつ動かし、何とか脱出できないかどうか考えていた。
そんな銀月の頬を、レミリアがそっと撫でた。
「ふふふ……必死ね、銀月。そんなに私達にこうされるのが嫌なのかしら?」
「……っ」
「残念ね。これは私達なりの愛情表現なのに……悲しいからこんなことしちゃうわ」
「ひあっ……」
不意にルーミアが首筋を舐めると、一瞬気が抜けていたのか銀月の口から小さく声が漏れる。
銀月は慌ててその声を噛み殺すが、その声を二人が聞き逃すはずもない。
見ると、二人は銀月を見てくすくす笑っていた。
「弱いわね、銀月。強がる割には堪え性がないのね。……そうねえ、せっかくの機会だし、普段弄らないところを弄ってみようか」
「っっっ!?」
レミリアが懐に手を突っ込もうとした瞬間、銀月はそれに抵抗しようとして体を動かす。
しかし、手は完全に押さえ込まれており、脚は腰を押さえられているのでバタバタと動かすだけである。
そんな彼を他所に、レミリアは銀月の懐に手を差し込んで中をまさぐり始めた。
「……うぅ……」
「ふ~ん、細い見た目の割には引き締まった体をしてるのね、貴方。流石はしょっちゅう修行しているだけあるわ」
「でしょ? 足回りも凄いわよ、何しろあの銀の霊峰を駆け回ってたものだから」
「……っ!?」
ルーミアは白い袴の横から手を突っ込み、銀月の内腿を軽く撫でた。
ぞわぞわとした感触が全身を駆け巡り、銀月はそれに耐えるために歯を食いしばって眼をギュッと閉じた。
それを見て、レミリアは少し考える仕草をした。
「そうねえ……この感触だと、お前が弱そうなところは……ここかしら?」
「うきゃふ!?」
レミリアが脇腹をつついた瞬間、銀月の体が強く跳ねると同時に裏返った声が漏れた。
それを聞いて、レミリアは少し悦の入った表情を浮かべた。
「ふふふ……脇腹も弱いのね。弱点だらけじゃない、お前。いじめ甲斐があるわ」
「あふっ、くうっ、んんっ!?」
レミリアが脇腹をつつきまわし、銀月がそのくすぐったさに悶えていると、ルーミアが自分の唇で銀月の口を塞いだ。
それと同時に銀月の眼が驚愕に見開かれ、呆然とした様子でルーミアを見ていた。
「うふふ……セカンドキスももらったわよ、銀月♪」
「ね、姉さん……な、何で?」
「そりゃあ、欲しかったからに決まってるじゃない。それに、あんな声出してると気づかれちゃうでしょ?」
ルーミアは少し頬を染め、嬉しそうに笑いながらそう話した。
その横で、レミリアはニヤニヤ笑いながら銀月を眺めていた。
「おやおや、大胆ですこと。それにしても、大の男がキスされただけで呆けていてどうするのよ。ほらほら、ちゃんと眼を覚ましなさい」
「っく……!」
レミリアに首筋を舐められて、銀月は再び歯を食いしばってその感触に耐え始める。
散々弄られたせいか、目じりには小さな涙の粒が見えており、顔は真っ赤になっていた。
そんな銀月を見て、ルーミアは上気した顔で微笑んだ。
「ああ……可愛いなぁ、もう! それじゃあ、次は……」
「……そこでいったい何をしてるんでござるか?」
銀月をもてあそぶ二人の背後から掛かる冷たい声。
その声を聞いて、二人は固まった。
『動くな』
涼が冷酷な声色でそう告げると、ルーミアとレミリアはその場から動けなくなった。
涼の『一騎打ちをさせる程度の能力』によってその場に縫い付けられたのだ。
「あ、あう……」
「くっ、どうなってるのよ、これ!?」
ルーミアとレミリアは突然固まってしまった自分の関節に大いに慌てている。
頑張って動かそうとするが、体は全く言うことを聞かないのだ。
それを確認すると、涼は銀月に微笑んだ。
「さあ、銀月殿。少し拙者と一勝負するでござる」
「え、でも俺この状態じゃ全然動けないんだけど?」
ルーミアとレミリアにしっかり押さえ込まれてしまっている銀月は、自分に槍を向ける涼にそう言った。
それを聞いて、涼は浮かべた笑みを深くした。
「ああ、心配ないでござるよ。拙者の能力で止められている者はそこらの置物と変わらないでござる。それに一騎打ちの相手に銀月殿を指名している以上、その上の置物は何をどうしようと一騎打ちが終わるまでは動けないでござるよ」
「……じゃあ、どうするんだい?」
「くくく……つまり、銀月が動けるようになるためにそこの二人に何が起きても仕方が無いことでござるな?」
涼はそう言うと、冷たい瞳で構えた槍を二人に向けた。
その気配を察知して、ルーミアとレミリアの顔からサッと血の気が引いた。
「ね、ねえ、涼? 貴女から凄く冷たい感覚が漂っているのだけど、気のせいかしら?」
「良い勘をしてるでござるなぁ、ルーミア殿。それでもう少し先の見通しが利けば文句はないのでござるが……」
「……銀の霊峰には乱暴者しかいないのかしら?」
「レミリア殿でござったか……そんなものは人それぞれでござるよ。ただ、この状況に限定するならば、拙者でなくても乱暴ものになるであろうな」
少々上ずった声を上げる二人に、やや軽薄な声で涼は話を続けていく。
そして話が終わると、涼は大きくため息をついた。
「……二人とも、少々おイタが過ぎるでござる。覚悟は宜しいかな?」
涼は絶対零度の低い声でそう言うと、低く腰を落として槍を構えた。
それと同時に、涼から心臓が止まりそうになるほどの怒気と殺気が発せられる。
「ひっ……」
「ひっ……」
二人は小さく悲鳴を上げると同時に、頭の中が真っ白になった。
「「きゅう……」」
数秒後、頭に七段重ねのたんこぶをこさえたルーミアとレミリアが横たわっていた。
銀月は自分の上に伸びる二人を押しのけて立ち上がる。
「……全く、酷い目に遭った」
銀月は服装を直しながらそう呟いた。
目じりには先程の涙の跡があり、顔は真っ赤になっている。
そんな銀月を見て、涼は苦笑いを浮かべた。
「何で銀月殿はあんなに襲われるんでござろうか……」
「それは俺が知りたいよ……ぐすっ」
「とにかく、向こうで妖夢殿が呼んでいたでござるよ。飲んで騒いで、ここで起きたことは忘れると良いでござる」
「……うん」
銀月は鼻をすすりながら頷くと、妖夢達が談笑しているところへと向かっていった。
そこでは、妖夢と霊夢と咲夜が酒を片手に話をしているところであった。
妖夢は銀月を見つけると、彼に向かって手を振った。
「あ、銀月さん……って、何で涙眼になってるんですか?」
「……聞かないで……」
キョトンとした表情で首をかしげる妖夢に、銀月は煤けた表情でそう答えた。
そんな銀月を見て、霊夢が怪訝な表情を浮かべる。
「何よ、何があったのか言ってみなさいよ」
「あ、ううん、もう終わったことだから特に気にすることはないんだ。ところでギルバートとかはどうしてるんだい?」
「ああ、彼らなら向こうに居るわよ」
咲夜はそう言うと、とある方向に眼をやった。
そこでは、魔理沙とアリスがギルバートの持ってきた青い背表紙の本を見ながら何かしていた。
良く見てみると、空中に魔法陣を描いているようであった。
「魔理沙、そこ少し違うんじゃない? こうだと思うけど……」
アリスはそう言いながら空中に描かれた魔法陣に手を加える。
それを見て、魔理沙は本と実際に描いている魔法陣を見比べる。
「あ、本当だ。えっと、こうやってこうやって……こうか!」
魔理沙はそう言いながら魔法陣に最後の仕上げをしていく。
すると、魔法陣から強い光が現れ始めた。
しかしその直後、青い弾丸のようなものが飛んで来て魔法陣を掻き消した。
「あーっ!?」
「馬鹿! こんなところで発動させる奴があるか! アリスも何で止めないんだよ!?」
思わず叫び声を上げる魔理沙に、飲み物を持ってきたギルバートがそう言って割り込んできた。
どうやら先程の青い弾丸は彼が撃ち出したものの様である。
少々怒鳴り気味に問い詰めるギルバートに、アリスは涼しい顔で答えを返す。
「いえ、この本の内容に興味があったものだから、つい……ほら、実際に見てみると何か掴めるかもしれないじゃない?」
「だから、今やることじゃないだろうが!」
「そんなことよりギルバート、貴方今どうやってあの魔法を打ち消したのかしら? 凄く気になるんだけれど?」
ギルバートの主張をさらりと受け流し、アリスはギルバートに質問する。
そんな自分の言うことなどどこ吹く風と言った様子の彼女に、ギルバートは大きくため息をついた。
「はぁ……その本のこの術式の次のページを読んでみろ。この術式は少し乱されるだけで簡単に掻き消えるように出来てるって書いてあるはずだから」
ギルバートがそう言うと、魔理沙は手にした本のページをめくって書かれていることを読んだ。
するとそこには、ギルバートが話したとおりのこととその使い道が書かれていた。
「お、本当だ。へえ、これを使って時限装置みたいなものも作れるんだな」
「……おい、今やろうとか考えるなよ?」
「「えー」」
「えー、じゃねえよ!」
不平を言う魔法使い二人に、ギルバートはそう言って叫ぶのであった。
そんな二人を見て、銀月は苦笑いを浮かべた。
「あはは、随分と振り回されてるな。まあ、魔理沙に振り回されるのはいつものことか」
「それよりも銀月さん、ここに座ってください」
妖夢は銀月にそう言って絨毯の敷かれた地面を指差す。
そこはちょうど妖夢達三人が円陣を組んでいるところの真ん中であり、そこに座ると囲まれることになる場所であった。
銀月は妖夢が何をしたいのか分からず、首をかしげた。
「あの、妖夢さん? いったいどうしたんです?」
「いいから座ってください」
「はあ……」
妖夢に促されるまま、銀月は指定された場所に座った。
銀月が周囲を見回すと、霊夢、妖夢、咲夜の三人が取り囲んでおり、彼女達は中心に座った銀月のことをジッと見つめていた。
その距離は近く、正座した彼女達の膝が銀月に触れるくらい近かった。
そんな中、霊夢が銀月に杯を差し出した。
「はいこれ」
「あ、ありがとう」
銀月は霊夢から杯を受け取ると、中に入っていた酒を飲み干した。
すると、横からすかさず霊夢が酒瓶を差し込んで酒を注ぐ。
「はいどうぞ」
「ん、どうも」
銀月は今度はゆっくりと酒を飲み進める。
周りを見ると、やはり三人は銀月のことをジッと眺めている。
そのあまりにも異様な様子に、銀月は少しばかり動揺し始めた。
「ね、ねえ、本当にどうしたのさ?」
「……銀月さん、ちょっと良いですか?」
「う、うん」
「では失礼します」
銀月が困惑気味に頷くと、妖夢は銀月の頭に手を伸ばして撫で始めた。
銀月の髪は妖夢の手によってサラサラと動き、その髪質の良さが見て分かるほどのものであった。
妖夢はしばらくの間、黙って銀月の髪を撫で続ける。
そんな妖夢に、銀月は困った表情を浮かべた。
「あ、あの、本当にどうしたの? さっきも俺の頭を撫でて難しい表情を浮かべてたけど……」
「おかしいですね……いったい何が違うんでしょうか?」
妖夢はそう言うと、銀月の頭から手を離した。
その表情はなにやら納得いかない様子で、口元に手を当ててうなっていた。
銀月がそんな彼女にキョトンとした表情を浮かべていると、今度は後ろから声が掛かった。
「さ、今度は私の番よ」
咲夜はそう言うと銀月の頭に手を伸ばし、優しく撫で始めた。
「……はうぅ……」
その瞬間、銀月の口から何やら気の抜けた声が漏れ出した。
銀月の手からは杯が滑り落ち、体全体からだらりと力が抜けていく。
「ふふっ……本当に何度撫でても気持ち良いわ……」
咲夜は自分の手のひらに伝わる心地よい感触に、少しうっとりした表情で微笑んだ。
「……うにぃ~……」
一方、銀月も余程気持ち良いのか、気持ち良さそうに眼を細めている。
途中、何とかだらしないところを見せないように抵抗しようとするが、その力はか弱く咲夜の手に届く前に再び地面に落ちる。
どうやら気持ちが良すぎて、力が殆ど入らないようである。
「それっ」
「うみゅっ」
咲夜が銀月の首についている赤い首輪を自分の方へ軽く引くと、銀月は咲夜の膝の上にぽすんと軽く倒れこんだ。
そんな銀月を見て、咲夜は浮かべた笑みを深めた。
「とても気持ち良さそうね、銀月……何だか可愛く見えるわ」
「……ふみゃぁ……」
銀月は見るからに上機嫌なとろけた表情で咲夜の手を受け入れる。
もう完全に咲夜の成すがままになっており、まるでくっついて甘える猫のようになっていた。
ふと喉が渇いて、咲夜は撫でる手を止めてコップに注がれたお茶を飲む。
すると、咲夜は下から送られてくる視線に気がついた。
「……あら?」
「(じっ……)」
見てみると、銀月は頬を少し赤く染め、少し潤んだ子犬のような瞳で咲夜の顔をじっと眺めていた。
「何でやめるの?」と言わんばかりのその表情を見て、咲夜は再び銀月の頭を撫で始めた。
「あらあら、そんなに気に入ったの? ふふふ、気に入ってもらえて嬉しいわ」
「……ん……」
咲夜が撫で始めると、銀月は再び安心したように頬を緩めた。
それを見て、妖夢が不満げな表情を浮かべた。
「……むぅ、何で咲夜さんのときだけ……撫で方の問題でしょうか……」
「……むにゅ」
妖夢はそう言いながらとろけた表情の銀月の頬をつつく。
どうやら妖夢は銀月のこの表情が見たくて頭を撫でていた様である。
現在の妖夢の心境は、友人に懐いている猫が自分に懐いてくれない時のものに良く似ていた。
そんな妖夢に、霊夢は呆れたような視線を向けた。
「……あんた、こんな銀月が見たかったわけ?」
「ええ。だって、とても気持ち良さそうですし。見てるこっちまで気持ちよくなってきます」
「むに~……」
妖夢は霊夢の質問に答えながら銀月の頬をぷにぷにとつついていた。
銀月は妖夢のそれにも抵抗する力はないらしく、これまた成すがままになっている。
見た目を気にする銀月はどうやら肌の手入れも欠かしていないらしく、しっとりとした肌触りと適度な弾力を妖夢の指に伝える。
そんな中、妖夢がふとした疑問を呟いた。
「そう言えば、銀月さんって随分と髪やお肌のお手入れを細かくしているみたいですけど、どうしてですか?」
「確かに、男の子でこんなに丁寧に手入れするなんて珍しいわよね。何か理由があるのかしら?」
「ああ、銀月は元々役者志望なのよ。一度練習で女の子に変装した事があったんだけど、見ただけじゃちっとも分からなかったわ」
「味噌汁一口でばれたけどね~」
咲夜の手に撫でられながら、銀月は間延びした声でそう答えた。
それを聞いて、咲夜は興味深げな視線を銀月に送った。
「そう……本当に頑張り屋なのね」
咲夜はそう言いながら、優しく銀月の髪を梳くように撫でる。
その表情は何やら思案顔で、どこか上の空であった。
「そんなに見事な変装なら、一度見てみたいですね。銀月さんの女装って凄く似合いそうですし」
その一方で、妖夢は銀月の頬を相変わらずぷにぷにとつつきながらそう話した。
こちらは単純に興味があるだけのようである。
そんな二人に、霊夢は小さくため息をついた。
「もの好きねぇ、二人とも」
「妖夢~、そっちにお料理余ってないかしら~?」
「咲夜ぁ~! ちょっと助けなさい!」
霊夢がそう呟いた瞬間、妖夢と咲夜にそれぞれの主人から呼び出しが掛かった。
幽々子は自分の周りに大皿をいくつも重ねており、レミリアはルーミアと共に涼の手によって木に逆さ吊りにされていた。
それを見て、従者二人は大きくため息をついた。
「幽々子様……どれだけ食べれば気が済むんですか……」
「お嬢様も程々にしないから……」
妖夢は近くにあったげそ天の皿を持って席を立ち、咲夜はロープを切るためのナイフを取り出しながら立ち上がった。
それと同時に、頭を撫でられなくなった銀月は小さく首を横に振ると、むくりと起き上がった。
「ん~……さてと、充分休んだことだし、少しやることないか見て回ろうかな?」
「そんなの今わざわざ探すことじゃないでしょうが。そんなことより私の相手しなさいよ」
霊夢は立ち上がろうとする銀月の手首を掴み、無理やり自分の横に座らせて膝の上に座る。
そんな突拍子もない霊夢の行為に、銀月は苦笑いを浮かべた。
「そりゃそうだね。霊夢がそう言うんならそうさせてもらうよ」
「そうしなさい。大体あんたは普段から働きすぎなのよ。おまけに仕事が終わったかと思えば修行とか言って飛び回って……」
霊夢は銀月の膝の上で、逃げられない彼に対して愚痴を言い始めた。
その愚痴を、銀月は霊夢に酒を注がれながら聞き流すのであった。
その一方で、愚痴を言う者がもう一名。
「うう……なんで将志くんは分かってくれないんだろう……」
「まあ、気持ちは分かるがな……焦ってはダメだぞ」
愛梨は泣きそうになりながら藍にそう質問する。
愛梨は相当酔っているようであり、左眼の下の赤い涙のペイントが見えなくなるほど顔が赤くなっていた。
一方の藍は愛梨に合わせて飲んでいたが、まだまだ平静を保っているようである。
「う~、それに最近は主様だけじゃなくて銀月くんにもずっと構ってるし、お仕事の時間も会わないからあんまりお話も合わないし……ちっくしょー!!」
愛梨はそう言うと手にした杯を思いっきりあおった。その飲み方はまさに自棄飲みといったものであった。
それを見て、藍は少し慌てた表情を浮かべた。
「あ、おいおい、そんな飲み方をすると胃を壊すぞ?」
「……うきゅ~……」
大して酒に強くない愛梨は、眼を回して藍の胸へと倒れこんだ。
藍はその体をしっかりと抱きとめる。
すると、藍は何か硬いものが当たるのを感じた。
「ん?」
藍はそう呟くと、硬いものが当たっている場所を眺めた。
見ると当たっているものは愛梨のオレンジ色のジャケットの内ポケットに入っているようであった。
藍は愛梨の体を少し起こすと、硬い何かが入っているジャケットの内ポケットを覗き込んだ
見ると、何かがその中で光っていた。
「何だ、いったい?」
藍は愛梨のジャケットの内ポケットに手を差し込み、それを取り出した。
すると、そこには銀の蔦が黒耀石の中に閉じ込められているブローチがあった。
藍はそれを見て意外そうな表情を浮かべた。
「ほう、愛梨はこんなものも持っていたのか。せっかくならつければ……」
「……っ!!」
藍が話していると、愛梨は突然飛び起きて藍の手からブローチを奪い取り、元の場所にしまった。
普段の愛梨らしからぬその乱暴な行為に、藍は眼を白黒させた。
「あ、愛梨、いったい何を……」
「『君は何も見なかった』。そうだよね、藍ちゃん?」
困惑した藍の頬を両手で掴み、眼を覗き込みながら愛梨は感情の篭らない平坦な声でそう語りかけた。
愛梨の瑠璃色の眼は青い光を放っており、それが映りこんだ藍の眼は段々と虚ろなものになっていった。
「……あ……」
藍は愛梨の言葉に虚ろな表情で頷いた。
それを確認すると、愛梨は眼から放っていた光を消してにっこり微笑んだ。
「うん、なら良いよ♪」
「……ん? 私はいったい……」
愛梨が声をかけると同時に、藍はハッとした表情を浮かべた。
何が起こったのか理解できず、周囲をキョロキョロと見回していた。
「キャハハ☆ 藍ちゃんちょっとボーっとしてたよ♪ 疲れてるんじゃないかな?」
「そうなのか? ……む、最近まで紫様が冬眠していて休めなかったから、疲れが溜まっているのか?」
藍はそう言いながらこめかみを押さえる。
そんな藍に、愛梨は酒の瓶を取り出した。
「そうだと思うよ♪ だから、今日ぐらいみんな忘れて飲んじゃえ♪」
「……ああ、そうだな」
藍は自分の感じる違和感に疑問を覚えながらも、愛梨の注いだ酒を飲む。
結局、彼女はその正体に気づくことはなかった。
* * * * *
あとがき
色々と詰め込んだ回でした。
まず一つ目、おぜう様の憂鬱。
フランちゃんに心を開かない銀月がおぜう様は心配な様子。
二つ目、もはや周囲のおもちゃと化している感のある銀月。
……だからお前は(ry
三つ目、ギルバートの魔法の本で意気投合するアリスと魔理沙。
蒐集癖のある二人は、自分の持っていない人のものの前では似たもの同士のようです。
四つ目、愛梨のブローチ。
まあ、見て分かるとおりの伏線です。
さて、いったい何の伏線でしょう?
次回からは新章に移ります。
次からは、段々とこの「銀の槍のつらぬく道」自体のお話も進んでいきます。
では、ご意見ご感想をお待ちしております。
少しでも感想が欲しい今日この頃。