霊夢達が白玉楼の中に入ると、そこでは銀髪の青年が桃色の髪の少女に銀の槍を突きつけていた。
足元に先程銀月が戦っていた白い髪の半人半霊の少女が倒れているため、彼が異変に加担しているわけではないことは大体分かる。
しかし、何故彼がここにいるかが一行には良く分からなかった。
「……父さん? 何でここにいるのさ?」
銀月は目の前にいる青年、将志にそう声をかけた。
すると将志は薄く笑みを浮かべたまま小さくため息をついた。
「……なに、少々腰の重い巫女に代わって異変の解決に来たまでのことだ」
「あら、異変の解決には銀の霊峰は手を出さないんじゃなかったの?」
将志の言葉に、槍を突きつけられていた少女、西行寺 幽々子がそう問い返した。
それを聞いて将志は首を横に振った。
「……そう、基本的には俺達は異変に手を貸すことも、解決に回ることもない。俺も最初は傍観に徹するつもりであった」
「それじゃあ、何で今になって動き出したのかしら?」
「……一番の大きな理由は、このままでは幻想郷に食糧問題を招きかねないからだ」
幽々子の質問に将志は簡潔にそう答える。
冬が長く続くということは、その分他の季節が短くなるということである。
特に、農作物が育つために重要な季節である春が短くなってしまうことは、農業に重大な打撃を与えることになってしまいかねないのだ。
そうなってしまえば、幻想郷内で食料が不足してしまう事態になりかねないのだ。
そこで、事態を重く見た将志はこの異変への介入を決定したのであった。
それを聞いて、魔理沙が納得して頷いた。
「……なるほどな。それこそ幻想郷に飢饉をもたらすかもしれなかったわけか」
「……そう言うことだ。そうとあっては、もはや娯楽の範疇を超えている。だからこそ、この長い冬を終わらせるために俺が出向いたわけだ」
「はぁ……つまり、時間切れってことね」
将志の言葉に、幽々子はそう言ってため息をつきながら地面に倒れ伏している妖夢を眺めた。
妖夢は先程将志によって無力化されており、しばらくは起き上がって来そうもない。
そんな彼女をジト眼で見つめる幽々子に、将志は小さくため息をついた。
「……まあ、そう言うことだ。それにどの道いくらなけなしの春を集めたところで、この西行妖が満開になるには遠い。それこそ、幻想郷中から集めねばならんだろう」
「どうしても、無理かしら?」
幽々子は将志を見つめながらそう尋ねた。
それを聞いて、将志は首をかしげた。
「……一つ訊くが、何故そうまでしてこの妖怪桜を満開にしようとするのだ?」
「この西行妖の下にね、誰かいるのよ。それで、この桜が満開になればその人が復活するの。誰だか気にならない?」
幽々子は自分の後ろにある大きな桜の木を見ながらそう話す。
その桜の木は八分咲きになっており、妖しく美しく、そして儚げに咲き誇っていた。
「……成程。そう言うことか……」
幽々子の言葉を聞いて将志はそう呟いた。
幽々子の眼を見る限り、今回の異変は完全に興味本位のものであり、何かの必要性に追われたものではないことが分かる。
それを察して、将志はゆっくりと首を横に振った。
「……残念だが、それをさせるわけにはいかん」
「……それはどうして?」
「……俺の口から言えることは一つ。俺は友の頼みを聞いただけだ」
幽々子の質問に将志は短くそう答えた。
将志は紫に幽々子が西行妖の下に封印されている自らの体の封印を解かないように頼まれていた。
将志が今回動いたのは、その頼みを聞いて動いたという側面もあるのだ。
その将志の言葉を聞いて、幽々子はすっと眼を細めた。
「それは、紫かしら?」
「……そこから先のことは俺には言えん」
「そう……」
口をつぐむ将志を見て、幽々子は将志に依頼したのが紫であることを確信した。
そして、自分がしようとした事の重大性も同時に理解した。
そんな幽々子に、将志はため息混じりにけら首に黒耀石が埋め込まれた銀の槍を突きつけた。
「……さて、そろそろ春を返してもらおうか。これ以上はもう待てないのでな」
「仕方ないわねえ……」
幽々子がそう呟いた瞬間、西行妖から桜の花びらがはらはらと散り始めた。
その様子は、まさに桜吹雪。
まるで命の儚さを伝えるかのように、西行妖は静かに花を散らしていく。
「桜が……」
霊夢達はその様子をジッと見つめる。
その桜色の嵐の美しさに心を奪われているようで、瞬きすらしていない。
そして全ての花が散ると、幽々子は大きくため息をついた。
「はぁ……これで春は返したわよ」
「……ああ。幻想郷の春、たしかに返してもらったぞ」
幽々子の言葉に、将志はそう言って頷いた。
その直後、霊夢ががっくりと肩を落とした。
「あ~あ、結局私達無駄足じゃない。どうしてくれるのよ、銀月」
「そんなこと言われてもなぁ……大体、もっと早く動いてれば無駄足にならずに済んだんじゃ……」
理不尽な霊夢の言葉に、銀月は困った表情を浮かべる。
それを聞いて、将志は少し考える仕草をした。
「……ふむ、たしかにここまで来ておいてこれでは、いささか不完全燃焼であろうな」
「将志さん? どうするつもりなんです?」
「……俺が相手になろう。五人まとめて掛かってくるが良い」
咲夜の問いかけに、将志はそう言って槍を霊夢達に向ける。
それを聞いて、魔理沙が首をかしげた。
「五人まとめてって……大丈夫なのか?」
「……なに、先程の愛梨との戦いを見させてもらったのだが、あの程度では俺は捉えられんよ。それに銀の霊峰などという戦闘集団の長が、高々若輩の人妖五人にやられたとあっては笑い種になってしまうな」
「なっ、やってみなきゃ……」
魔理沙の言葉に将志はそう言って不敵に笑った。
その将志の言葉に魔理沙は言い返そうとするが、それをギルバートが制した。
「魔理沙、今までの相手と銀月の親父さんを一緒にするな。妖怪百人が全力で掛かったってさっきの愛梨さんの時の俺達みたいに手玉に取られるんだぞ? 俺達五人程度なら、本気で遊ばれて終わりだ」
「……そう言うことだ。そうだな、あえて言うならば、遊んでやるから全力で掛かって来い、と言う奴だ」
将志はそう言って槍を軽く振るう。
そうやって準備運動を行う将志に、銀月は問いかけた。
「……一つ聞くけど、何でいきなりこんなことをするんだい?」
「……そうだな……強いて言うならば、お前達の強さの確認だ。それに、親が子の友人のことを知ろうとしても何の不思議もあるまい?」
「成程ね……それじゃあお手柔らかに頼むよ、父さん」
「……ああ。手加減はする」
銀月と将志はそう言って頷きあうと、小さく息を吐いた。
「……さあ、来るが良い……この戦神の前に、力を示してみろ!」
将志がそう言った瞬間、銀の弾丸が当たり一面にばら撒かれ始めた。
まずは基本的な放射状の弾幕で、中に相手を狙い打つ黒耀石のような黒い弾丸を混ぜて撃つ。
一方、霊夢達はその攻撃を小さく動いてすり抜けながら将志に向かって集中砲火を掛けた。
「……ふっ」
しかし、将志はその攻撃を難なく躱していく。
「ちっ、全然当たらないぜ!」
「将志さん、全然動いてないのに……」
そんな将志を見て、魔理沙と咲夜は思わずそう漏らした。
小さな動きでスレスレで躱していくその光景は、まるで自分の弾丸が相手の体をすり抜けているようにも見えた。
その光景に少し面食らいながらも、全員将志の攻撃を避けつつ反撃をする。
「……ふむ、やはりこの程度は躱せるか」
そんな様子を見て、将志は小さく頷いた。
そして、懐からスペルカードを取り出した。
「……ではまずはこれだ」
星符「星屑の幻燈」
将志がスペルを宣言した瞬間、霊夢達の頭上を沢山の銀の槍が駆け巡った。
空に銀色に輝く軌跡が残され、それは段々と崩れていく。
そして、銀の光の粒が星屑のように霊夢達の頭上に降り注いだ。
「……まずは一つ目だ。この程度で終わってくれるなよ?」
将志はそう言いながら前後左右上下と、あらゆる方向から揺さぶりをかけていく。
手加減をしているとは言っても、並大抵の相手とは比べ物にならないくらい圧迫感がある弾幕を展開している。
その弾幕を一行は躱していく。ありとあらゆる方向に細かく動きながら、将志に対して反撃する。
「……狙いが甘いな」
その五人分の攻撃を将志は易々と避けていた。
必要最小限の動きで迫ってくる弾幕をすり抜け、余裕の表情で霊夢達に攻撃し続ける。
「流石は父さんだな……この五人でもこれか!」
「銀月が可愛く見えてくるわね、ホントに!!」
銀月と霊夢は将志の攻撃を躱しながらそう叫んだ。
実際、攻撃がほとんど当たらないのは愛梨の時とそう変わりはない。
しかし、将志は愛梨と違ってその場からほぼ動いていないのだ。
「くっ……父さん、完全に遊んでるな……」
それを見て、銀月はそう言って歯噛みした。
何故なら、将志の売りはその機動力なのである。
将志が最も得意とする戦い方は、素早く動いて相手を翻弄しながら追い詰めていくやり方である。
しかし、現時点では将志はほぼ動いておらず、その機動力を活用しているとは到底言えない。
そのことから、銀月は将志がかなり遊んでいることが分かったのであった。
それを知ってか知らずか、将志は笑みを浮かべた。
「……どうした? そのような温い攻撃では俺を捉えられんぞ?」
「なら!!」
幻符「殺人ドール」
咲夜がスペルを発動させた瞬間、沢山のナイフが将志をめがけて飛んでいく。
その速度は通常の弾幕とは比較にならないほど速い。
「……成程、これは当たれば痛そうだ」
しかし将志はそれを素早く動いて回避する。
自身の能力による先読みと残像が残るほどの速度での移動により、咲夜の攻撃が追いつけない。
将志は激しい攻撃を仕掛ける咲夜を翻弄しながら攻撃を返していく。
「くっ、これも避けられるの!?」
「……むしろこれで驚かれるのが心外なのだがな。これでお前の攻撃に当たっていては、お前の主の立場がなくなるのだぞ? だが、よくもこんなにも沢山のナイフをここまで正確に一度に操れるものだ。普通ならこうは行くまい」
苦い表情を浮かべる咲夜に将志はやや感心してそう言い放つ。
そうしている間に、将志のスペルカードの効果が切れた。
降り注ぐ星屑は儚い光を残して消え去り、将志が放った弾丸だけが残った。
「……次行くぞ」
流符「白銀流星群」
将志がスペルカードを取り出すと、その後ろからまるで軍隊のように整列した妖力の槍が現れた。
それと同時に、将志は槍を手にしていない左手を上に向けた。
「……行け」
将志がそう言って手を振り下ろすと、槍の群れが一斉に霊夢達に向けて飛んでいった。
夜空を翔ける流星のように飛んでいくその槍は、船が起こす波の様に弾幕を残していく。
沢山の流星によって起こされたそれは絶妙に重なり合い、複雑な弾幕を形成した。
「ちっ、やりづらいな!」
「下がれ、ギル! まとめて吹っ飛ばしてやるぜ!」
恋符「マスタースパーク」
魔理沙はスペルの使用を宣言してミニ八卦炉を構えると、魔力をそれに集めた。
そして将志の位置を確認すると、その方向に向ける。
「いっけぇーーーーーー!!」
魔理沙の掛け声と共に極太のレーザーが発射される。
レーザーは流星を飲み込み、一直線に将志に向かっていく。
「……当たらなければどうと言うことはない」
将志はそれを冷静に横に避けていく。
レーザーは将志のすぐ横を通り過ぎていき、空高く伸びていく。
「まだまだぁーーーーーーーー!!!」
「……っ!」
しかし魔理沙はそれで終わらなかった。
巨大なレーザーを維持したまま、将志の方へと手を動かしていく。
その動きを察知して、将志は急いで更なる回避行動を取った。
将志が素早くジグザグに動いて逃げれば、魔理沙はそれを薙ぎ払うようにレーザーを動かす。
将志は反撃もするが、その反撃は尽く魔理沙の攻撃にかき消されていった。
そしてしばらくして、レーザーは収束していった。
「はぁ……はぁ……」
魔理沙は行きも絶え絶えに前方を見つめる。
するとそこには、先程と変わらぬ姿の将志が立っていた。
「……凄まじいものだな。お前のような人間が、あのような魔法をああまで操って見せるとはな。正直、肝を冷やしたぞ?」
「はぁ……よく言うぜ、涼しい顔しやがって……」
魔理沙は息を整えながら、楽しそうに笑う将志にそう言い放った。
いつの間にか将志の攻撃は止んでおり、あたりは静けさを取り戻していた。
将志は小さく息を吐くと、天を仰いだ。
「……成程、お前達は思っていた以上に個々の力も強いらしい。てっきり銀月やギルバートの力頼りなのかとも思っていたが、それは間違いだったな」
将志はそう言うと、霊夢達に眼を向けた。
その黒耀石のような瞳には強い光が湛えられており、先程よりも生き生きとしていた。
「……ギアを上げていくぞ。何処までついてこれるか、勝負だ」
将志はそう言うと、三枚目のスペルカードを取り出した。
跳符「星間八艘跳び」
スペルの発動と同時に、辺りに沢山の銀色の光の玉が現れる。
周囲を埋め尽くすかのように現れたそれを見て、銀月は息を呑んだ。
「……はは……父さん、火がついたな……」
「え、何それどゆこと?」
「これが出たって事は、父さんが本領発揮するってことさ」
銀月の呟きに霊夢が反応し、更にそれに銀月が答えを返す。
その間に、将志は動き出した。
「……疾」
将志は宙に浮かんだ銀の足場を次々に蹴って周囲を飛び回る。
その速度は相対する五人が眼で追えないような速度で、彼らの眼には突然消えうせたように映った。
「消えた?」
「魔理沙、後ろだ!」
「うわっ!?」
ギルバートの声にとっさに身をかがめると、その上を銀の弾丸が唸りを上げて通り過ぎていく。
それは将志が高速移動をしながら打ち込んだものであった。
「みんな気をつけて! 何処から攻撃が来るか分からないぞ!」
この攻撃の内容を知っている銀月が周囲にそう呼びかける。
その言葉通り、彼らの周りではあちらこちらから弾丸が飛んできており、いつどの方向からやられてもおかしくない状態であった。
「……そろそろ落としに行くか」
将志はそう言うと、移動速度を上げた。
めまぐるしく景色が動き出すなか、標的を逃さずに視界に捉える。
まず最初に狙うのは、時を止めるメイド。時を止めてこちらにナイフを投げつけてくる咲夜に、将志はゼロ距離で弾丸を発射した。
「あうっ!?」
時を止めた上での弾幕を掻い潜られて反応できず、咲夜はその場に沈んだ。
味方の一人が崩れ、相手方に軽く動揺が走る。
「うわぁ!?」
次に狙われたのは、先程の攻撃で疲弊していた魔法使い。
目の前の弾丸に気を取られたところを、真横から弾丸を撃ち込んで落とす。
「ぐあっ!?」
「あうっ!?」
続いて狙うのは息子と人狼。
警戒しているところの虚を突き、妖力の槍で一息でしとめて行く。
「銀月!?」
自分の背中を守っていた者が倒れて、霊夢が声を上げる。
そんな霊夢に、将志は真上から襲い掛かった。
「……っ!?」
「……む?」
霊夢は真上から嫌な予感を感じてとっさに前方に移動した。
すると、霊夢がそれまで居たところに将志の妖力の槍が突き刺さった。
「……ほう、避けたか」
将志はそう言いながら次々に霊夢に仕掛けていく。
ありとあらゆる方向から攻撃して、揺さぶっていく。
その攻撃は嵐のようであり、霊夢に一息もつかせぬ勢いであった。
「くっ、このぉ……っ!」
霊夢はそれを自分の勘を頼りに次々と避けていく。
激しく動き回って攻撃する将志と、将志の攻撃を避け続ける霊夢。
もし一歩読み違えれば、霊夢も一撃で銀月達の後を追うことになるだろう。
「……そこね!」
霊夢は自分の感覚を信じ、誰もいない空間に攻撃を仕掛けた。
「……っ!?」
すると、ちょうどそこに将志がやってきていた。
霊夢の無心の攻撃は将志の能力でも捉えることが難しく、直前でのギリギリで気づくのがやっとであった。
将志は即座に足場を作り出し、素早くその攻撃を避ける。
霊夢の投げた針は将志の髪をかすめ、その一部をはらりと散らした。
その瞬間、将志はフッと笑った。
「……ふっ……見事!」
将志がそう言った瞬間、銀の球体が一斉に弾けて光の粒となって消えていった。
どうやらスペルカードの効果が切れたようであった。
霊夢はその様子を呆然と眺める。
「……え?」
「……レミリアに勝利したのは伊達では無いな。この勝負、お前達の勝ちだ。なかなかに楽しめたぞ」
将志はにこやかに笑いながら霊夢にそう話しかけた。
負けたというのにとても満足そうで、負けたことに対する悔しさは無いようであった。
それに対して、霊夢は訳が分からないといった様子で首をかしげた。
「あ、あれ?」
「……何を不思議がっている。スペルカードを使い切った時点で俺の負けだろう。今回は三枚しか使う予定は無かったのだから、お前の勝ちであっているだろう?」
将志はやや呆れながらも、少し楽しそうに霊夢にそう言った。
このような真正面からの勝負で負けることなどほとんど無いため、負けることが新鮮なのだ。
「えっと、銀月のお父さん? これで終わりで良いのよね?」
「……ああ、そうだ」
霊夢の質問に、将志はそう言って答えた。
「つ、つかれたぁ~……」
その瞬間、霊夢は体から全身の力が抜けてへたり込んだ。
ずっと気を張り続け、避けることに集中していたのだから無理も無い話であった。
そんな中、地面に倒れ伏していた男二人が立ち上がってきた。
「……やい、父さんやい……」
「……少し物申したいことがあるんだが、良いか?」
二人はなにやら恨めしげな眼で将志を見つめている。
それを見て、将志は首をかしげた。
「……どうかしたのか?」
「あのねぇ……霊夢達と俺達で全然攻撃の密度とか違った気がするんだけど?」
「そうそう、俺達にはスペルを使う暇さえくれないほど封殺してたよな?」
実は先程の戦いにおいて、銀月とギルバートは将志に徹底的にマークされていたのだ。
霊夢達女性陣と比べてはるかに苛烈な攻撃に晒されて、全く反撃できなかったのだ。
その件に関して、将志は一つ頷いて口を開いた。
「……あの三人の力量を測るのに、お前達が介入してきたら邪魔になるだろう?」
その言葉に、銀月とギルバートは沈黙するしかなかった。
すると、将志がとあることに気づいて二人に質問した。
「……ところで、お前達の首についているそれは何だ?」
将志の視線の先には、銀月の首の赤い首輪と、ギルバートの首の青い首輪があった。
それを指摘されて、二人は苦い表情を浮かべた。
「あ~……これは何て言うか……」
「ちょっとした事情があってだな……」
乾いた笑みを浮かべる二人。
そんな二人を見て、将志は納得したようにポンと手を叩いた。
「……そうか、趣味か」
「んな訳無いだろう!!」
「んな訳ねえだろう!!」
将志の暴言に、銀月とギルバートは揃って力強く否定した。
「何で俺達が好き好んで首輪なんてつけると思うのさ!? いくらなんでもおかしいでしょう!?」
「俺達は喧嘩できねえようにってことで首輪を無理矢理つけられたんだよ!!」
「父さんだって、つけろって言われたら嫌でしょう!?」
二人は激しい剣幕で将志にそうまくし立てた。
すると、将志は複雑な表情で俯いて口を開いた。
「……あ、主が望むのならば……その……」
「いや、そこは断ってよ!?」
「いや、そこは断れよ!?」
将志のトンデモ発言に再び盛大にツッコミを入れる二人。
槍ヶ岳 将志、主を大事にしすぎるがためにたまに考えが大変なことになる男であった。
そんな彼を尻目に、二人揃って大きくため息をついた。
「……はあ……それよりも、咲夜さんが無事かどうか確かめないと……」
「……そうだな。俺も魔理沙の無事を確認しに行かないと……」
二人はそう言うと、それぞれの様子を見に行った。
すると、二人と入れ替わるようにして将志に話しかける者が一名。
「将志、ちょっと話があるんだけど良いかしら?」
「……幽々子か。どうした?」
「あの銀月って子、何者なの? 貴方と魂がそっくりなのだけど……」
幽々子はその眼に強い興味の色を乗せて将志に問いかける。
それを聞いて、将志は小さくため息をついて答えた。
「……魂が似通っている理由は知らんが、銀月は俺の息子だ」
「……私、それ初耳なんだけど?」
「……言っていなかったからな」
幽々子の質問に将志はしれっとした態度で答えた。
すると、幽々子の視線がジトッとしたものに変わる。
「……なんで黙ってたの?」
「……お前が俺と初めて会ったときにしたことを思い出してみろ」
「あら、何したんだったかしら?」
「……これだからお前は……」
答えをはぐらかす幽々子に、将志は大きくため息をついた。
そんな将志に、幽々子は話の転換をすることにした。
「さてと、これから話すこともあるでしょうし、まずは妖夢を起こして中に入りましょう」
「……そうだな」
そうして、一行は白玉楼の中へと入ることになるのであった。
* * * * *
あとがき
銀の霊峰出動。
春が来ないというのは、口で言うよりもずっと大変な異変だと思います。
本文に書いてあるようなことが予想できたので、将志の動く口実にさせてもらいました。
紫の頼みもあったので、元より将志の出動は確実でしたが……
将志VS主人公ズ+α。
正確さがウリの咲夜、破壊力の魔理沙、直感の霊夢といった感じでそれぞれの長所をあらわした……つもり。
弾幕ごっこにおいては霊夢達は将志と充分渡り合うことが出来ます。
……ただし、将志が全スペル耐久スペルとなることは間違いないですが。
それにしても……難しいなぁ……やっぱりこういう描写って言うのは。
あと、将志を久々にボケさせられた気がする。
基本的に永琳の言うことは何でも聞いてしまいます。
ゆゆ様の出番はこの次で。
弾幕で暴れなかった分、言葉で暴れてもらいましょう。
では、また次回に。