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No.29218の一覧
[0] 銀の槍のつらぬく道 (東方Project) [F1チェイサー](2012/05/06 19:25)
[1] 銀の槍、大地に立つ[F1チェイサー](2012/08/06 21:18)
[2] 銀の槍、街に行く[F1チェイサー](2012/08/06 21:22)
[3] 銀の槍、初めて妖怪に会う[F1チェイサー](2012/08/06 21:26)
[4] 番外:槍の主、初めての友達[F1チェイサー](2012/08/06 21:51)
[5] 銀の槍、その日常[F1チェイサー](2012/08/06 21:30)
[6] 銀の槍、別れ話をする[F1チェイサー](2012/08/06 21:38)
[7] 番外:槍の主、テレビを見る[F1チェイサー](2012/08/06 21:56)
[8] 銀の槍、意志を貫く[F1チェイサー](2012/08/06 21:45)
[9] 銀の槍、旅に出る[F1チェイサー](2012/08/06 22:14)
[10] 銀の槍、家族に会う[F1チェイサー](2012/08/06 22:04)
[12] 銀の槍、チャーハンを作る[F1チェイサー](2012/08/06 22:26)
[14] 銀の槍、月を見る[F1チェイサー](2012/08/06 22:31)
[15] 銀の槍、宴会に出る[F1チェイサー](2012/08/06 22:39)
[16] 銀の槍、手合わせをする[F1チェイサー](2012/08/06 22:46)
[18] 銀の槍、迷子になる[F1チェイサー](2012/08/06 23:08)
[20] 銀の槍、奮闘する[F1チェイサー](2012/08/06 23:18)
[21] 銀の槍、家を持つ[F1チェイサー](2012/08/06 23:29)
[22] 銀の槍、弟子を取る[F1チェイサー](2012/08/06 23:36)
[23] 銀の槍、出稼ぎに出る[F1チェイサー](2012/08/06 23:46)
[24] 銀の槍、振り回される[F1チェイサー](2012/08/06 23:58)
[26] 銀の槍、本気を出す[F1チェイサー](2012/08/07 00:14)
[27] 銀の槍、取り合われる[F1チェイサー](2012/08/07 00:21)
[28] 銀の槍、勧誘される[F1チェイサー](2012/08/07 00:28)
[29] 銀の槍、教壇にたつ[F1チェイサー](2012/08/07 00:34)
[30] 銀の槍、遊びに行く[F1チェイサー](2012/08/07 00:43)
[31] 銀の槍、八つ当たりを受ける[F1チェイサー](2012/08/07 00:51)
[32] 銀の槍、大歓迎を受ける[F1チェイサー](2012/08/07 00:59)
[33] 銀の槍、驚愕する[F1チェイサー](2012/08/07 01:04)
[34] 銀の槍、大迷惑をかける[F1チェイサー](2012/08/07 01:13)
[35] 銀の槍、恥を知る[F1チェイサー](2012/08/07 01:20)
[36] 銀の槍、酒を飲む[F1チェイサー](2012/08/07 01:28)
[37] 銀の槍、怨まれる[F1チェイサー](2012/08/07 01:35)
[38] 銀の槍、料理を作る[F1チェイサー](2012/08/07 01:45)
[39] 銀の槍、妖怪退治に行く[F1チェイサー](2012/08/07 02:05)
[40] 銀の槍、手助けをする[F1チェイサー](2012/08/07 02:16)
[41] 銀の槍、説明を受ける[F1チェイサー](2012/08/07 02:19)
[42] 銀の槍、救助する[F1チェイサー](2012/08/07 02:25)
[43] 銀の槍、空気と化す[F1チェイサー](2012/08/07 02:29)
[44] 銀の槍、気合を入れる[F1チェイサー](2012/08/07 02:35)
[45] 銀の槍、頭を抱える[F1チェイサー](2012/08/07 02:47)
[46] 銀の槍、引退する[F1チェイサー](2012/08/07 02:53)
[47] 銀の槍、苛々する[F1チェイサー](2012/08/07 03:00)
[48] 銀の槍、一番を示す[F1チェイサー](2012/08/07 04:42)
[49] 銀の槍、門番を雇う[F1チェイサー](2012/08/07 04:44)
[50] 銀の槍、仕事の話を聴く[F1チェイサー](2012/08/07 04:47)
[51] 銀の槍、招待を受ける[F1チェイサー](2012/08/07 04:51)
[52] 銀の槍、思い悩む[F1チェイサー](2012/08/07 04:59)
[53] 銀の槍、料理を作る (修羅の道編)[F1チェイサー](2012/08/07 05:04)
[54] 銀の槍、呆れられる[F1チェイサー](2012/08/07 05:15)
[55] 銀の槍、心と再会[F1チェイサー](2012/08/07 05:38)
[56] 銀の槍、感知せず[F1チェイサー](2012/08/07 11:38)
[57] 銀の槍、心労を溜める[F1チェイサー](2012/08/07 11:48)
[58] 銀の槍、未来を賭ける[F1チェイサー](2012/08/07 11:53)
[59] 不死鳥、繚乱の花を見る[F1チェイサー](2012/08/07 11:59)
[60] 炎の精、暗闇を照らす[F1チェイサー](2012/08/07 12:06)
[61] 銀の槍、誇りを諭す[F1チェイサー](2012/08/07 12:11)
[62] 銀の槍、事態を収める[F1チェイサー](2012/08/07 12:23)
[63] 番外:演劇・銀槍版桃太郎[F1チェイサー](2012/08/07 12:38)
[64] 銀の槍、人狼の里へ行く[F1チェイサー](2012/08/07 12:52)
[65] 銀の槍、意趣返しをする[F1チェイサー](2012/08/07 13:02)
[66] 銀の槍、人里に下る[F1チェイサー](2012/08/07 14:31)
[67] 銀の槍、宣戦布告を受ける[F1チェイサー](2012/08/07 14:44)
[68] 銀の槍、話し合いに行く[F1チェイサー](2012/08/07 14:54)
[69] 銀の槍、拾い者をする[F1チェイサー](2012/08/07 15:23)
[70] 銀の槍、冥界に寄る[F1チェイサー](2012/08/07 15:05)
[71] 銀の槍、呼び出しを受ける[F1チェイサー](2012/08/07 15:31)
[72] 銀の槍、戦いを挑む[F1チェイサー](2012/08/07 15:38)
[73] 銀の槍、矛を交える[F1チェイサー](2012/08/07 15:46)
[74] 銀の槍、面倒を見る[F1チェイサー](2012/08/07 15:54)
[75] 銀の月、自己紹介をする[F1チェイサー](2012/08/07 16:00)
[76] 銀の月、修行を始める[F1チェイサー](2012/08/07 16:11)
[77] 銀の月、趣味を探す[F1チェイサー](2012/08/07 16:13)
[78] 銀の槍、未だ分からず[F1チェイサー](2012/08/07 16:18)
[79] 銀の月、ついて行く[F1チェイサー](2012/09/15 04:25)
[80] 銀の月、キレる[F1チェイサー](2012/08/07 16:41)
[81] 銀の月、永遠亭へ行く[F1チェイサー](2012/08/07 16:53)
[82] 銀の月、練習する[F1チェイサー](2012/08/07 17:00)
[83] 銀の月、人里に行く[F1チェイサー](2012/08/07 19:53)
[84] 銀の槍、訪問を受ける[F1チェイサー](2012/08/07 19:59)
[85] 銀の月、研修を受ける[F1チェイサー](2012/08/07 20:03)
[86] 銀の月、買出しに行く[F1チェイサー](2012/08/07 20:15)
[87] 銀の槍、蒼褪める[F1チェイサー](2012/08/07 20:21)
[88] 銀の月、止められる[F1チェイサー](2012/08/07 20:29)
[89] 銀の槍、手伝いをする[F1チェイサー](2012/08/07 20:44)
[91] 銀の月、友達を捜す[F1チェイサー](2012/08/07 20:52)
[92] 紅魔郷:銀の月、呼び止められる[F1チェイサー](2012/08/07 20:55)
[93] 紅魔郷:銀の月、因縁をつけられる[F1チェイサー](2012/08/07 21:00)
[94] 紅魔郷:銀の月、首をかしげる[F1チェイサー](2012/08/07 21:07)
[95] 紅魔郷:銀の月、周囲を見回す[F1チェイサー](2012/08/07 21:33)
[96] 紅魔郷:銀の月、引き受ける[F1チェイサー](2012/08/07 21:38)
[97] 紅魔郷:銀の月、鉄槌を下す[F1チェイサー](2012/08/07 21:47)
[98] 銀の月、人を集める[F1チェイサー](2012/08/07 21:52)
[99] 銀の槍、真相を語る[F1チェイサー](2012/08/07 21:57)
[100] 銀の月、宴会を手伝う[F1チェイサー](2012/08/07 22:00)
[101] 銀の槍、己を見直す[F1チェイサー](2012/08/07 22:04)
[102] 銀の月、遊ばれる[F1チェイサー](2012/08/07 22:08)
[103] 銀の月、暴れまわる[F1チェイサー](2012/08/07 22:16)
[104] 銀の月、倒れる[F1チェイサー](2012/08/07 22:24)
[105] 外伝if:清涼感のある香り[F1チェイサー](2012/08/07 22:32)
[106] 銀の槍、検証する[F1チェイサー](2012/08/07 22:56)
[107] 銀の月、迎えに行く[F1チェイサー](2012/08/07 23:04)
[108] 銀の月、脱出する[F1チェイサー](2012/08/07 23:14)
[109] 銀の月、離れる[F1チェイサー](2012/08/07 23:32)
[110] 銀の槍、散歩をする[F1チェイサー](2012/08/07 23:48)
[111] 銀の月、初出勤[F1チェイサー](2012/08/08 00:03)
[112] 銀の月、挑戦する[F1チェイサー](2012/08/08 00:12)
[113] 銀の月、迎え撃つ[F1チェイサー](2012/08/08 00:24)
[114] 銀の槍、力を示す[F1チェイサー](2012/08/08 00:36)
[115] 銀の槍、診療を受けさせる[F1チェイサー](2012/08/08 00:47)
[116] 銀の槍、緩めてやる[F1チェイサー](2012/08/08 00:48)
[117] 銀の槍、買い物をする[F1チェイサー](2012/08/08 00:55)
[118] 銀の月、教育する[F1チェイサー](2012/08/08 01:07)
[120] 番外編:銀槍版長靴を履いた猫[F1チェイサー](2012/08/08 01:09)
[121] 銀の月、見直す[F1チェイサー](2012/08/08 01:37)
[122] 銀の月、調査する[F1チェイサー](2012/09/14 13:28)
[123] 銀の槍、呼び出しを受ける[F1チェイサー](2012/08/08 01:48)
[124] 銀の月、呼びかける[F1チェイサー](2012/08/08 01:49)
[125] 妖々夢:銀の月、数を競う[F1チェイサー](2012/08/08 01:49)
[126] 妖々夢:銀の月、誤解を受ける[F1チェイサー](2012/08/08 01:50)
[127] 妖々夢:銀の月、煽る[F1チェイサー](2012/08/08 01:51)
[128] 妖々夢:銀の月、踊らされる[F1チェイサー](2012/08/08 08:35)
[129] 妖々夢:銀の月、一騎打ちをする[F1チェイサー](2012/08/08 08:47)
[130] 妖々夢:銀の槍、戯れる[F1チェイサー](2012/08/09 13:18)
[131] 銀の槍、感づかれる[F1チェイサー](2012/08/23 07:30)
[132] 銀の月、受難[F1チェイサー](2012/08/29 01:22)
[133] 銀の月、宴会の準備をする[F1チェイサー](2012/09/07 20:41)
[134] 銀の月、宴会を楽しむ[F1チェイサー](2012/09/11 03:31)
[135] 番外編:外来人、心境を語る[F1チェイサー](2012/09/15 04:39)
[136] 銀の月、調べられる[F1チェイサー](2012/09/22 04:21)
[137] 銀の槍、授業参観をする[F1チェイサー](2012/09/28 06:13)
[138] 銀の槍、反転する[F1チェイサー](2012/11/12 03:41)
[139] 番外:演劇・銀槍版三匹のこぶた[F1チェイサー](2012/10/18 21:31)
[140] 銀の槍、報告する[F1チェイサー](2012/10/29 07:14)
[141] 魔の狼、研究する[F1チェイサー](2012/11/12 03:42)
[142] 銀の槍、立会人となる[F1チェイサー](2012/11/24 19:54)
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[29218] 銀の月、呼びかける
Name: F1チェイサー◆5beb2184 ID:398d58fa 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/08/08 01:49
「さっむいわね……今年の冬はいつまで続くのかしら……」

 博麗神社の一室にて、霊夢は炬燵に足を突っ込んだままそう呟いた。
 炬燵の上には木の器に積まれたみかんが置かれており、霊夢はその中から一つ手にとって皮をむく。
 その身を一かけら口に放り込んで噛むと、口の中に甘みと程よい酸味が広がり、そのみかんが当たりであった事を感じさせる。
 それと同時に、霊夢の口はそのみかんに合う飲み物を求め始めた。
 霊夢は辺りをしばらく見回すと、炬燵の上にべたっと延びた。

「あー……炬燵から出たくないわ……」

 霊夢は憂鬱な声でそう呟くと、炬燵から出てきた。
 こういう時にお茶を淹れてくれる銀月は、今日は紅魔館に行っていて不在である。
 よって、霊夢は自分の手でお茶を淹れなければならないのだ。
 かまどに火を起こし、やかんに水を入れて火に掛け、五月の日付けを移しているカレンダーの隣にある棚から急須と湯飲みを取り出す。
 そこまでやって、霊夢は何か引っかかるものを感じた。

「……あれ、今何か違和感が……」
「ようやく気がついたかい、霊夢?」

 首をかしげる霊夢の後ろから、涼やかな少年の声が聞こえてきた。
 それを聞いて、霊夢は少し嬉しそうな笑みを浮かべてその声の主に振り返った。

「あ、銀月。今日はもう上がりなの? ちょうど良いわ、お茶淹れてちょうだい」
「……あのねぇ……もう五月だぞ? 明らかに異変でしょ、この寒さは」

 霊夢の言葉に、銀月は呆れた表情で頭を抱えた。
 銀月の言葉や棚の横のカレンダーが示すように、もう五月……一般的には春を迎え、初夏に差し掛かろうとする時期である。
 しかし外に広がる景色は一面の銀世界の冬景色である。
 これはもう、誰がどう考えても異変以外の何者でもないのであった。
 銀月の物言いに、霊夢はだるそうに憂鬱なため息を吐いた。

「やっぱりそうよね……ところで、一つ質問があるんだけど良いかしら?」
「ん、なに?」
「何であんた執事姿なの?」

 霊夢はそう言いながら目の前に立つ銀月を眺めた。
 その服装はいつもの白い胴衣袴ではなく、血のように赤い執事服に黒いネクタイといった出で立ちであった。
 その服装は、銀月は今も仕事中であることを端的に示していた。
 霊夢の言葉を聞いて、銀月は苦々しい表情を浮かべた。

「……レミリア様が長すぎる冬に飽きて、霊夢が動かないなら変わりに咲夜さんと一緒に解決しろって言われたんだよ。だから今の俺は紅魔館の執事の仕事でここに居るんだ」
「それじゃあ、何で真っ先にここに来たの?」
「もし、俺と咲夜さんが何の手がかりもなく解決に向かったとして、恐らく何日か掛かるだろうね。その間、俺は君に食事も何も作ってやれないことになる」
「さあ、さっさと解決に行くわよ!」

 銀月の言葉を聞いて、霊夢はそう言いながら外に出ようとする。
 何しろ日々の食事を銀月に完全に依存している霊夢にとって、銀月の存在は生命線と言っても過言ではないのだ。
 その銀月が何日も不在となる事態は、霊夢にとって正に死活問題であるのだ。
 そうとあっては、霊夢もやる気にならざるを得ないのであった。

「あ、その前にお茶飲んでいかない? せっかく淹れたんだし」

 そんな霊夢に、銀月は先程までの苦々しい表情とは打って変わって穏やかな表情で話しかけた。
 その手に握られた盆には、爽やかな香りを立てる緑茶が入った湯のみが三つ並んでいた。

「それならもらっておくわ」

 それを見て、霊夢は素直に頷いた。
 ちょうどお茶が欲しかったところなので、まずはその欲求に従うことにしたのだ。
 二人が台所から居間に戻ってくると、そこにはメイド服に赤いマフラーを巻いた少女が炬燵に入っていた。

「お邪魔してるわよ」

 咲夜は霊夢に気がつくと、その方を向いてそう言った。
 咲夜の前には皮をむかれたみかんが置かれていて、目の前の山から一つ取ったらしいことがわかった。
 それを見て、霊夢は憮然とした表情を浮かべた。

「あんた人のみかんをなに勝手に食べてるのよ」
「買ってきたのもお金を出したのも俺だけどね」
「お黙り」

 文句を言うなり即座に口を挟んできた銀月に、霊夢は少々棘のある口調で釘を刺した。
 要するに、霊夢の発言の意味に従えばみかんは銀月のものになり、それを食べていた霊夢自身も無断で食べていることになるのである。
 流石にそれでは言った本人の立つ瀬がない。
 恨みがましい視線を送ってくる霊夢を無視して、銀月は咲夜の前に湯飲みを置いた。

「はい、お茶どうぞ。緑茶だけどね」
「ありがとう。それにしても、こっちでも普段通りなの?」
「と言うと?」
「仕事の話よ。炊事洗濯掃除とこなしているのかしら?」

 話をしながら銀月は炬燵の中に入り、霊夢もそれに続く。
 咲夜の隣に銀月が座り、銀月の反対側の隣に霊夢が入る。
 銀月は自分の分のお茶を一口飲むと、咲夜の質問に答えた。

「確かにそれは俺の仕事だけど、掃除は毎日はやっていないね。紅魔館ほど広いわけじゃないからその必要はないし。あと仕事といえば弁当屋の仕事くらいかな?」
「お弁当屋さん?」
「あれ、言ってなかったっけ? 自分の生活費を稼ぐために弁当屋を開業してるんだ。といっても、紅魔館じゃあんまり関係ないけどね」

 銀月はそう言って博麗神社での自分の仕事を簡潔に説明した。
 なお、その生活費の一部は霊夢の手に渡っており、博麗神社の貴重な収入源になっている。
 ……とは言うものの、結局生活費の管理を霊夢の分まで銀月が行っているため、大して意味は無かったりする。
 そんな銀月の仕事内容を聞いて、咲夜は銀月の頭を撫で始めた。

「本当に働き者ね、銀月は」
「そうかな? 俺としては、やりたいことをやってるだけなんだけど」
「やっていることは仕事なのだから、働き者で間違いないわ。それよりも、働きすぎで倒れないようにね」
「うん、わかってるよ」

 咲夜の話を聞きながら、銀月は頭を撫でるその手を甘んじて受け入れる。
 銀月としては褒められて悪い気はしない上に、最近段々と撫でられるのが心地良くなってきた部分があるので止めようともしない。
 そんな二人に、横から霊夢が口を挟んだ。

「そんなこと言うなら銀月を返してよ。そうすれば一気に仕事が減るじゃない」
「それを言うならお嬢様に言ってくれる? 私がどうこう言えることじゃないし。けど、お嬢様が数少ない有能な部下を手放すとは思えないけど」

 咲夜は霊夢にそう言って答えた。
 実際紅魔館のレミリアの下には沢山の部下が居るのだが、その大半を占めるメイド妖精は自分の周囲のことで手一杯であり、役に立つかといえば大いに疑問点が残る。
 と言うわけで、レミリアの部下で優秀といえるのは咲夜と(寝ていなければ)美鈴、そして銀月くらいしか居ないのだ。
 要するに、紅魔館は規模の割に深刻な人材不足なのである。

「……それはそうと、いつまで撫でてるのよ」
「あら、銀月の撫で心地が良いものだからつい」

 咲夜はそう言いながらも、銀月の頭を撫でるのをやめない。
 一方の銀月は気持ちよくなってきて、トロンとした目つきになっていた。
 そんな銀月を見ながら、霊夢は首をかしげた。

「そうなの?」
「銀月の髪ってすごく丁寧に手入れされてて、触るととても気持ち良いのよ。あまり目立たないけど、下手をすれば女の子よりも綺麗な髪をしているわよ」

 咲夜は優しく、時折髪を梳くように手を動かして銀月の頭を撫で続ける。
 銀月の髪は見た目にも滑らかなつやがあり、綺麗な黒髪になっていた。
 霊夢は銀月の頭に手を伸ばし、咲夜の手の当たっていない部分に触れてみた。
 すると見た目どおりの滑らかさとしっとりとした潤いが感じられ、心地よい肌触りを得ることが出来た。

「うわ、すごいさらさらじゃない。て言うか本当に気持ちいいわね」
「でしょう? 男の子は滅多に見ないけど、たぶん銀月ほど撫で心地の良い子は居ないと思うわよ」
「……まあ、男で椿油を使って髪を整えている人はあんまり居ないんじゃないかな」

 銀月は二人に撫でられながら、まったりとした表情でそう答えた。
 それは見るからに気持ちよさそうな表情で、例えるのならば顎の下をくすぐられている猫のような表情であった。
 そんな銀月の言葉に、霊夢は思い出した様に言葉を返した。

「そう言えばお風呂場に椿油が置いてあったけど、やっぱりあれ銀月のだったのね」
「そうさ。と言うか、今まで何だと思ってたのさ?」
「銀月の心遣いだと思ってありがたく使わせてもらってたわ」
「……道理で減るのが早かったわけだよ。別にいいけどさ」

 傍若無人な霊夢の態度に、銀月は思わずため息を吐く。
 しかしとても緩んだ表情をしているため、撫でられるのが気持ちよくてため息を吐いたようにしか見えない。
 それでも今までの文脈からそのため息の意味を察して、咲夜は苦笑いを浮かべた。

「なんと言うか……銀月の精神年齢が高い理由が良く分かる気がするわ」
「ちょっと、それどういう意味よ」
「お~い、霊夢! いるか?」

 霊夢が咲夜の言葉にむっとした表情を浮かべたその時、外から元気の良い少女の声が聞こえてきた。
 その声を聞いて、銀月は応対するために立ち上がった。
 ……その表情に後ろ髪を引かれるようなものが少々見受けられる。

「この声は魔理沙だね。ちょっと待って、出てくるから」
「いいわよ。どうせだし、もう外に出ましょ? どうせこのあとのことを言ったら魔理沙もついてくるんでしょうし」
「そう言うことなら私も出るわ」

 銀月に続いて、霊夢と咲夜も立ち上がった。
 二人とも外に出る用意は万端であり、そのまま異変の解決に乗り出すつもりのようである。
 それを見て、銀月は頷いた。

「そう。それじゃ、全員で出ようか」

 銀月はそう言うと、二人と一緒に外に出た。
 するとそこには、モノトーンの服装に赤いマフラーを巻いた普通の魔法使いが立っていた。
 銀月は彼女に対して軽く手を上げて挨拶をした。

「やあ、魔理沙。今日はどうしたんだい?」
「ありゃ、銀月? 今日は仕事だったはずだよな?」

 銀月の姿を見て、魔理沙は首をかしげた。
 それもそのはず、魔理沙はギルバートと共に銀月から仕事の予定を事あるごとに聞いているため、銀月の予定もしっかりと把握しているのだ。
 それ故に、銀月が今の時間に博麗神社に居るということが不思議だったのだ。
 そんな魔理沙に、銀月は笑顔で頷いた。

「ああ、そうさ。だから今この格好なのさ」

 銀月はそう言いながら自分が着ている真っ赤な執事服を指し示した。
 それに対して、魔理沙はもう一つの疑問をぶつけることにした。

「んじゃ、何でここに居るんだ?」
「今日はその仕事の関係でここに居るんだよ。霊夢や咲夜さんと一緒に異変を解決しに行くのさ」
「そう言うこと。それで、魔理沙は何をしにきたの?」

 銀月の後ろから、霊夢がそう言いながら顔を出した。
 すると、魔理沙は苦い表情を浮かべた。

「いや、世間話をかねて遊びに来たんだけど……こういうことならギルも呼んでくれば良かったな」

 魔理沙は銀月の予定を知っていたため、博麗神社には霊夢しかいないと思っていた。
 そのため、必要以上の人間との接触を嫌うギルバートを呼んでいなかったのだ。
 しかし、それを聞いた銀月から思いもよらぬ言葉が聞こえてきた。

「ギルバート? ああ、あいつなら今すぐにでも呼べるぞ?」
「ん? どうやって呼ぶんだ?」

 魔理沙は銀月の言葉に怪訝な表情を浮かべる。
 幻想郷に携帯電話のような便利なものは無い上に、その代替品も出回っていない。
 狼煙のようなものを使ったとしても、事前に何の合図か理解していなければならないので全く使い物にならない。
 魔理沙にはどうやってギルバートと連絡を取るのか全く分からなかった。

「そうだな……それじゃあ、まずは全員俺から離れて耳を塞いでいて欲しい。すごい大声を出すからね」
「ああ、分かった」

 銀月の言葉に頷くと、魔理沙は霊夢や咲夜と共に銀月から離れた。
 そして三人が大幅に離れたところで、銀月は頷いた。

「うん、そこまで離れれば大丈夫かな。それじゃあ耳塞いで!」

 銀月は三人に聞こえるようにそう叫ぶと、大きく息を吸い込んだ。

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!」

 次の瞬間、銀月の口から地面を震わせるような大きな声が飛び出した。

「ひゃっ!?」
「うわっ!?」
「きゃっ!?」

 その声は大気を激しく震わせ、耳を塞ぎ損ねた三人は思わず耳を塞いでその場にしゃがみこんだ。
 大きすぎる銀月の遠吠えは耳ではなく骨に響き、一瞬目の前が真っ暗になるほどであった。
 その声はしばらくの間残響として響き、その後周囲は静寂に包まれた。

「…………」

 銀月は眼を閉じ、辺りの音に耳を澄ませた。

「オオオオオオオオオオオオオオオン……」

 するとしばらくして、遠くからやや高めの遠吠えが返ってきた。
 銀月はそれを聞いて、少し考えてから頷いた。

「お待たせ。ギルバート、すぐに来るってさ」

 銀月はそう言いながら三人のところへと戻ってきた。
 どうやら先程の遠吠えはギルバートのもので、無事に連絡がついたようである。
 そんな銀月に咲夜が頭を押さえながら話しかけた。

「銀月、今のは?」
「人狼の遠吠え。執事の修行をしたのが人狼の里だったし、便利そうだったからついでに覚えたのさ。人狼にしか通じないけどね」

 銀月は咲夜の質問にあっさりとそう答えた。
 それを聞いて、三人は唖然とした表情を浮かべた。
 色々と言いたい事が多すぎて何を言えばいいのか分からなくなったが、霊夢がその気持ちをまとめて言葉に表した。

「……何度も繰り返してきた質問だけど、あんた本当に人間?」
「……何度も言うけど、ちゃんと能力持ちの人間だよ」
「お嬢様は銀月のことを人間とは認めていないけどね。私も銀月を人間だと思うなって言われてるし」

 咲夜の口から強烈な追い討ちが放たれる。
 事実、レミリアは以前銀月が暴走したときの一件のせいで、銀月のことを人間だと本気で考えていない。
 レミリアに紅魔館の住人及び部下の種族と数を聞くと、吸血鬼二名に人間一名に魔法使い一名に妖怪二名に小悪魔一名、それから妖精大勢と、銀月は見事に妖怪扱いされているのであった。

「……ぐすん、みんな酷いや……」

 その非情な現実を知らされて、銀月はその場にしゃがみこんだ。
 すっかりいじけてしまっていて、地面にのの字を書いている。
 やはり銀月にとって、この手の話題は心に負う傷が大きいもののようである。

「あー……まあ、元気だしな? 私みたいな魔法使いだって普通の人間とは違うんだからさ、それと似たようなもんだって」

 いじける銀月を見かねて、魔理沙がそう言ってフォローする。
 すると銀月は少し顔を上げて、泣きそうな表情で魔理沙を見た。

「……そう言ってくれるのは君だけだよ、魔理沙……」
「けど、半分くらい妖怪化してるんだけどね」
「霊夢うううううう! 君には血も涙もないのかい!?」

 情け容赦なくとどめを刺しに来る霊夢に、銀月はそう飛び上がって叫んだ。
 霊夢はと言えば、魔理沙を見て少々気まずい表情を浮かべていた。
 暴走した銀月を見たことがあると将志から聞かされている咲夜はともかく、魔理沙は銀月が妖怪になりかかっていることを知らないはずなのである。
 口を滑らせた、それが霊夢の心境であった。

「ねえ、一つ思ったんだけど……何でそこまで人間に執着するの?」
「はい?」
「だって、別に妖怪になったからって生活に影響が出るわけじゃないじゃない。貴方のお父さんも妖怪だけど、人里の中を平然と歩いてるわよ?」

 唐突な質問に呆けた表情を浮かべる銀月に、咲夜は思ったことを率直に告げた。
 確かに、幻想郷で暮らすに際して人間である必要性は薄い。
 何しろ、人里の中ですら妖怪を見かけることがあるのだ。
 それどころか、人里に暮らしている妖怪すらいる状況である。
 よって、妖怪に変わったとしてもそれほど大きなリスクはないのだ。

「……そりゃ、普通ならそうだろうさ。けど、俺が妖怪化したら間違いなくあれになるんだぞ?」

 しかし、銀月の場合状況は変わってくる。
 銀月の場合、妖怪に化けた場合には妖怪を食らう妖怪、悪名高き翠眼の悪魔になる可能性が極めて高いのだ。

「……ああ、そう言うこと。確かにあれはね……」
「……ええ、私もあれはちょっと思い出したくないわ」

 暴走時の姿を思い出して、嫌な表情を浮かべる霊夢と咲夜。
 美しく輝く翠色の眼と言う視覚に残る特徴を持っており、威圧感もあるため強烈な印象が残っているようである。
 特に咲夜に至ってはその力をその身をもって思い知っているため、若干蒼褪めた表情をしていた。

「だろう? そんなことになったら人間どころか、妖怪にすら怖がられるぞ」

 それを確認して、銀月はそう言った。
 人間に対してはこの威圧感のせいで、妖怪に対しては妖怪を食うという行為のせいで恐れられてしまう。
 つまり妖怪に落ちた場合、銀月は孤独になってしまう可能性があるのだ。

「なあ、何のことだ? 銀月が妖怪になるってどういうこった?」
「……まあ、色々あるのさ。これまた一筋縄では行かない様な事情なんだけどね」

 銀月達の話について来れず首をかしげる魔理沙に対して、銀月は小さく笑って誤魔化した。
 それを見て、魔理沙は少し淋しそうに笑った。

「……そっか。なら深くは聞かないで置くぜ。それにしても、ギルの奴何処に居るんだろうな?」
「人狼の里に居たみたいだから、まっすぐに向かったとしても結構かかるよ。人狼の里って幻想郷の北西部にあるわけだし」
「そんなことまで分かるのか? あの遠吠えで?」
「ああ。微妙に音程を変えたりすれば、今どこで何をしているのかとか、今後の予定とかも結構細かく伝えられるよ」

 人狼の遠吠えは単純な様でいて、複雑に暗号化された信号を遠くに送る繊細な技術である。
 人間の耳にはただの遠吠えに聞こえても、人狼にのみ聞こえる音域の音で詳細な内容を送ることが出来るのだ。
 当然ながら、本来人間に扱えるような技術ではない。

「随分器用なんだな。私にはただ吠えている様にしか聞こえなかったぜ」
「まあそうだろうね。俺も理解するまでは苦労したもの」

 唖然としたような感心したようなといった表情で答える魔理沙に、銀月はそう言って笑う。
 その一方で、やはり理解できないといった表情を咲夜が浮かべている。

「……と言うか、何で理解できたの?」
「ちょっと能力を使いまして、自分の能力の限界を超えてみました」

 咲夜の質問に、銀月は少し得意げにそう答えた。
 要するに、銀月は聴力、発声、理解力などの能力の限界を超えて人狼並みの能力を得ていたのだ。

「……便利な能力ですこと」

 銀月の能力の使い方を聞いて、咲夜はやや呆れ気味にそうもらした。

「おっし、到着だ!」

 そう話していると、猛烈な勢いで境内を滑っていく影が一つ。
 その人影は、金髪で黒いジャケットにジーンズと言う姿であった。
 その人物に銀月は右手を軽く上げて挨拶した。

「やあ兄弟。随分と早い到着じゃないか。人狼の里に居たんじゃなかったのかい?」
「ああ。お前が急いで来いとか言ったおかげで、能力使って全速力の三倍の速度でかっ飛んで来る羽目になったぜ」

 ギルバートは荒い息を整えながら銀月にそう答えた。
 ギルバートの能力は『あらゆるものを貯める程度の能力』である。
 その能力を使って体に力を溜め込み、強力な力を発揮することが出来るのだ。
 ただし、その分の疲れは相応に来るようである。
 その能力の使い方に、銀月は感心して頷く。

「本当に便利な能力だな。と言うか、そんなことも出来るのか」
「便利って言うんならお前の能力のほうが便利だろうが。何処の世界に狼の言葉を理解してしゃべる人間が居るんだよ?」
「ここに居るじゃないか」
「黙れ人外」

 必死に人間アピールをする銀月を一言で黙らせるギルバート。
 心に楔を打ち込まれ、銀月はその場に沈む。
 ギルバートはそれを一瞥すると、若干表情の消えた顔で魔理沙のほうを見た。

「……で、人間が一人増えているみたいだが、何の用だ?」
「今から異変を解決しに行くんだ。ギルも一緒に来いよ」
「はぁ……まあ良いけどな……」

 魔理沙の誘いに、ためらいがちにそう言いながらギルバートは霊夢と咲夜を見る。
 かなり改善されたとはいえ、人間嫌いのギルバートにとってやはり慣れない人間である霊夢や咲夜と一緒と言うのはまだ抵抗があるのだろう。
 そんなギルバートの様子に、魔理沙が呆れ顔を浮かべた。

「なんだよ、霊夢達と一緒なのが嫌なのか?」
「いや、そこまでじゃないが……やっぱ、どうも人間が好きになれないな」
「お前いい加減に慣れろよ。何年私達と付き合ってるんだよ」
「まあ、そうなんだが……」

 呆れ口調の魔理沙の言葉に煮え切らない言葉を返すギルバート。
 そんなギルバートの様子に、霊夢が疑問を持って口を挟んだ。

「人間嫌いねぇ……それじゃあ、魔理沙はどうして大丈夫なのよ?」
「……魔理沙に関しちゃもう早い段階で諦めたからな。ま、付き合って見りゃ悪い奴じゃなかったから良いけどな」

 霊夢の問いかけに、ギルバートは眼をそらしながらもしっかりと答える。
 一応ギルバートも慣れる努力はしているようである。

「……ちょっと、霊夢。今の質問に何で俺が入っていないのさ?」
「何言ってやがる、テメェは論外だ。初めて会って負けてから、俺はお前を一般的な人間の範疇から外してるんだよ」

 その横から銀月が霊夢の質問に対して不満を持って横槍を入れるも、ギルバートによって即座に辛辣な切り返しを受ける。
 それを聞いて、霊夢は心底納得したような表情で頷いた。

「あ、やっぱり人狼から見ても銀月は人の枠から外れるのね」
「……まあな。むしろいつまで人間の皮を被っているのか聞きたいくらいだ」

 霊夢の言葉に、ギルバートは一瞬人間嫌いを忘れて思わず軽口を叩いた。
 その瞬間、銀月の堪忍袋の緒が音を立てて切れた。

「よし兄弟、裏に行こうか」
「良いぜ。今日と言う今日は決着をつけてやる」

 二人はそう言うなり空に飛び上がり、激しい殴り合いを始めた。
 スピードと手数で攻める銀月に対して、力で押してくるギルバート。
 二人の戦いは限界を超えた人間の力と溜め込まれた人狼の力で、段々とエスカレートしていった。


 霊符「夢想封印 集」
 恋符「マスタースパーク」
 幻符「殺人ドール」


 そんな無駄にレベルの高い喧嘩に、残された三人は全力で攻撃を叩き込むことにした。

「ひでぶ!!」
「あべし!!」

 三人の攻撃をまともに喰らい、喧嘩していた二人はきりもみ回転しながら地面に落下した。
 雪の上に倒れて伸びている銀月達に、霊夢達は呆れ顔で近づいてきた。

「全く……あんたらこんなときに何をやってるのよ」
「異変の解決に行く前にここで喧嘩してどうすんだよ!」
「前もそうだったけど、貴方達二人は揃うとすぐに喧嘩になるわね。どうしてかしら?」

 三者三様の言葉を投げかける霊夢達。
 それを聞いて、銀月とギルバートは気まずそうに顔を見合わせた。

「何でと言われても……」
「こいつと一緒に居ると何でかこうなるんだよな……」
「と言うか、喧嘩を止めるのにスペルカード三連発って……」
「どう考えてもやりすぎだろ……」

 二人は先程自分達をフルボッコにした三人に抗議の視線を送る。

「あんたら人外、私達人間よ」
「お前達の喧嘩はこれくらいやらないと止められないんだぜ?」
「それに人狼と銀月なら別にこのくらいやっても平気でしょう?」

 しかしその抗議は取り付く島もなく退けられてしまった。

「ねえ、俺って人狼と同レベルの扱いなの? ちょっとどうなってるの?」

 更に三人の言葉を聞いて、ごく自然に人外扱いされた銀月は周囲にそう訴えた。

「……諦めろ、それがお前の認識だ」

 その銀月に、ギルバートは言葉のナイフで銀月のガラスのハートに非情なる一撃を笑顔で加えるのだった。

「ちくしょー、みんな俺をいじめて楽しいか、こんちくしょー」

 結果、哀れ銀月の心は粉々に砕け散ってしまった。
 膝を抱えて座り込み、涙で自分の両膝を静かに濡らしていく。
 そんな銀月に、咲夜がゆっくりと近づいていった。

「銀月。裏を返せば貴方にはそれほどのことが出来るという期待が掛かっているのよ。誰も貴方を貶しているわけではないわよ」

 咲夜は銀月に優しく声をかけ、そっと頭を撫で始める。
 すると銀月はしばらく黙って撫でられていたが、その内落ち着いたのかゆっくりと顔を上げた。

「……本当に?」
「そうよ。だから落ち込んだりしないの」
「……うん」

 咲夜は宥める様に銀月の頭を撫で、銀月は膝を抱えたまま咲夜の手を静かに受け入れる。
 その様子を、他の三人がジッと眺めていた。

「なあ、なんだかあの二人姉弟みたいに見えないか?」

 魔理沙は咲夜と銀月を見てそう感想を漏らす。
 銀月を撫でる咲夜の様子は、正にいじけている弟を元気付けようとする姉のような姿であった。
 それを聞いて、霊夢は素直に頷いた。

「そうね。どこぞの姉を名乗る妖怪よりもよっぽど姉弟らしいわね」
「……そんなこと言ってるとルーミアさん殴りこんできそうだな」

 霊夢の発言に、ギルバートはそう言って苦笑いを浮かべた。
 普段銀月の姉を公言して止まない宵闇の妖怪が霊夢の発言聞いたら、きっと黙っては居ないだろう。
 そんなことを考えながらしばらく二人の様子を眺めているが、一向に終る気配がない。
 咲夜はただひたすらに銀月の頭を撫で、銀月はそれを黙って受け続けている。

「それはそうと、いつまで続けてるんだ、あれ?」
「止めないといつまでも続きそうだな」
「……止めてくるわ」

 霊夢が止めに入って、ようやく咲夜は撫でることをやめるのであった。




「さてと、そろそろ行くとしましょうか」

 ようやく全員が纏まったところで、霊夢が周りにそう声をかける。

「そうだね。もう出るって言ってから随分時間経ってるし」
「早く終らせないとお嬢様に迷惑が掛かるものね」

 すると銀月が腕時計を確認しながらそう言い、咲夜も時間を気にしながらそう口にした。 

「まあ、さっさと終らせるに限るな。いい加減雪景色も飽きたことだしな」
「そうだな。んじゃ、行くぜ!」

 ギルバートに同意した魔理沙の言葉を皮切りにして、一向はとりあえず出発することにしたのだった。


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