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No.29218の一覧
[0] 銀の槍のつらぬく道 (東方Project) [F1チェイサー](2012/05/06 19:25)
[1] 銀の槍、大地に立つ[F1チェイサー](2012/08/06 21:18)
[2] 銀の槍、街に行く[F1チェイサー](2012/08/06 21:22)
[3] 銀の槍、初めて妖怪に会う[F1チェイサー](2012/08/06 21:26)
[4] 番外:槍の主、初めての友達[F1チェイサー](2012/08/06 21:51)
[5] 銀の槍、その日常[F1チェイサー](2012/08/06 21:30)
[6] 銀の槍、別れ話をする[F1チェイサー](2012/08/06 21:38)
[7] 番外:槍の主、テレビを見る[F1チェイサー](2012/08/06 21:56)
[8] 銀の槍、意志を貫く[F1チェイサー](2012/08/06 21:45)
[9] 銀の槍、旅に出る[F1チェイサー](2012/08/06 22:14)
[10] 銀の槍、家族に会う[F1チェイサー](2012/08/06 22:04)
[12] 銀の槍、チャーハンを作る[F1チェイサー](2012/08/06 22:26)
[14] 銀の槍、月を見る[F1チェイサー](2012/08/06 22:31)
[15] 銀の槍、宴会に出る[F1チェイサー](2012/08/06 22:39)
[16] 銀の槍、手合わせをする[F1チェイサー](2012/08/06 22:46)
[18] 銀の槍、迷子になる[F1チェイサー](2012/08/06 23:08)
[20] 銀の槍、奮闘する[F1チェイサー](2012/08/06 23:18)
[21] 銀の槍、家を持つ[F1チェイサー](2012/08/06 23:29)
[22] 銀の槍、弟子を取る[F1チェイサー](2012/08/06 23:36)
[23] 銀の槍、出稼ぎに出る[F1チェイサー](2012/08/06 23:46)
[24] 銀の槍、振り回される[F1チェイサー](2012/08/06 23:58)
[26] 銀の槍、本気を出す[F1チェイサー](2012/08/07 00:14)
[27] 銀の槍、取り合われる[F1チェイサー](2012/08/07 00:21)
[28] 銀の槍、勧誘される[F1チェイサー](2012/08/07 00:28)
[29] 銀の槍、教壇にたつ[F1チェイサー](2012/08/07 00:34)
[30] 銀の槍、遊びに行く[F1チェイサー](2012/08/07 00:43)
[31] 銀の槍、八つ当たりを受ける[F1チェイサー](2012/08/07 00:51)
[32] 銀の槍、大歓迎を受ける[F1チェイサー](2012/08/07 00:59)
[33] 銀の槍、驚愕する[F1チェイサー](2012/08/07 01:04)
[34] 銀の槍、大迷惑をかける[F1チェイサー](2012/08/07 01:13)
[35] 銀の槍、恥を知る[F1チェイサー](2012/08/07 01:20)
[36] 銀の槍、酒を飲む[F1チェイサー](2012/08/07 01:28)
[37] 銀の槍、怨まれる[F1チェイサー](2012/08/07 01:35)
[38] 銀の槍、料理を作る[F1チェイサー](2012/08/07 01:45)
[39] 銀の槍、妖怪退治に行く[F1チェイサー](2012/08/07 02:05)
[40] 銀の槍、手助けをする[F1チェイサー](2012/08/07 02:16)
[41] 銀の槍、説明を受ける[F1チェイサー](2012/08/07 02:19)
[42] 銀の槍、救助する[F1チェイサー](2012/08/07 02:25)
[43] 銀の槍、空気と化す[F1チェイサー](2012/08/07 02:29)
[44] 銀の槍、気合を入れる[F1チェイサー](2012/08/07 02:35)
[45] 銀の槍、頭を抱える[F1チェイサー](2012/08/07 02:47)
[46] 銀の槍、引退する[F1チェイサー](2012/08/07 02:53)
[47] 銀の槍、苛々する[F1チェイサー](2012/08/07 03:00)
[48] 銀の槍、一番を示す[F1チェイサー](2012/08/07 04:42)
[49] 銀の槍、門番を雇う[F1チェイサー](2012/08/07 04:44)
[50] 銀の槍、仕事の話を聴く[F1チェイサー](2012/08/07 04:47)
[51] 銀の槍、招待を受ける[F1チェイサー](2012/08/07 04:51)
[52] 銀の槍、思い悩む[F1チェイサー](2012/08/07 04:59)
[53] 銀の槍、料理を作る (修羅の道編)[F1チェイサー](2012/08/07 05:04)
[54] 銀の槍、呆れられる[F1チェイサー](2012/08/07 05:15)
[55] 銀の槍、心と再会[F1チェイサー](2012/08/07 05:38)
[56] 銀の槍、感知せず[F1チェイサー](2012/08/07 11:38)
[57] 銀の槍、心労を溜める[F1チェイサー](2012/08/07 11:48)
[58] 銀の槍、未来を賭ける[F1チェイサー](2012/08/07 11:53)
[59] 不死鳥、繚乱の花を見る[F1チェイサー](2012/08/07 11:59)
[60] 炎の精、暗闇を照らす[F1チェイサー](2012/08/07 12:06)
[61] 銀の槍、誇りを諭す[F1チェイサー](2012/08/07 12:11)
[62] 銀の槍、事態を収める[F1チェイサー](2012/08/07 12:23)
[63] 番外:演劇・銀槍版桃太郎[F1チェイサー](2012/08/07 12:38)
[64] 銀の槍、人狼の里へ行く[F1チェイサー](2012/08/07 12:52)
[65] 銀の槍、意趣返しをする[F1チェイサー](2012/08/07 13:02)
[66] 銀の槍、人里に下る[F1チェイサー](2012/08/07 14:31)
[67] 銀の槍、宣戦布告を受ける[F1チェイサー](2012/08/07 14:44)
[68] 銀の槍、話し合いに行く[F1チェイサー](2012/08/07 14:54)
[69] 銀の槍、拾い者をする[F1チェイサー](2012/08/07 15:23)
[70] 銀の槍、冥界に寄る[F1チェイサー](2012/08/07 15:05)
[71] 銀の槍、呼び出しを受ける[F1チェイサー](2012/08/07 15:31)
[72] 銀の槍、戦いを挑む[F1チェイサー](2012/08/07 15:38)
[73] 銀の槍、矛を交える[F1チェイサー](2012/08/07 15:46)
[74] 銀の槍、面倒を見る[F1チェイサー](2012/08/07 15:54)
[75] 銀の月、自己紹介をする[F1チェイサー](2012/08/07 16:00)
[76] 銀の月、修行を始める[F1チェイサー](2012/08/07 16:11)
[77] 銀の月、趣味を探す[F1チェイサー](2012/08/07 16:13)
[78] 銀の槍、未だ分からず[F1チェイサー](2012/08/07 16:18)
[79] 銀の月、ついて行く[F1チェイサー](2012/09/15 04:25)
[80] 銀の月、キレる[F1チェイサー](2012/08/07 16:41)
[81] 銀の月、永遠亭へ行く[F1チェイサー](2012/08/07 16:53)
[82] 銀の月、練習する[F1チェイサー](2012/08/07 17:00)
[83] 銀の月、人里に行く[F1チェイサー](2012/08/07 19:53)
[84] 銀の槍、訪問を受ける[F1チェイサー](2012/08/07 19:59)
[85] 銀の月、研修を受ける[F1チェイサー](2012/08/07 20:03)
[86] 銀の月、買出しに行く[F1チェイサー](2012/08/07 20:15)
[87] 銀の槍、蒼褪める[F1チェイサー](2012/08/07 20:21)
[88] 銀の月、止められる[F1チェイサー](2012/08/07 20:29)
[89] 銀の槍、手伝いをする[F1チェイサー](2012/08/07 20:44)
[91] 銀の月、友達を捜す[F1チェイサー](2012/08/07 20:52)
[92] 紅魔郷:銀の月、呼び止められる[F1チェイサー](2012/08/07 20:55)
[93] 紅魔郷:銀の月、因縁をつけられる[F1チェイサー](2012/08/07 21:00)
[94] 紅魔郷:銀の月、首をかしげる[F1チェイサー](2012/08/07 21:07)
[95] 紅魔郷:銀の月、周囲を見回す[F1チェイサー](2012/08/07 21:33)
[96] 紅魔郷:銀の月、引き受ける[F1チェイサー](2012/08/07 21:38)
[97] 紅魔郷:銀の月、鉄槌を下す[F1チェイサー](2012/08/07 21:47)
[98] 銀の月、人を集める[F1チェイサー](2012/08/07 21:52)
[99] 銀の槍、真相を語る[F1チェイサー](2012/08/07 21:57)
[100] 銀の月、宴会を手伝う[F1チェイサー](2012/08/07 22:00)
[101] 銀の槍、己を見直す[F1チェイサー](2012/08/07 22:04)
[102] 銀の月、遊ばれる[F1チェイサー](2012/08/07 22:08)
[103] 銀の月、暴れまわる[F1チェイサー](2012/08/07 22:16)
[104] 銀の月、倒れる[F1チェイサー](2012/08/07 22:24)
[105] 外伝if:清涼感のある香り[F1チェイサー](2012/08/07 22:32)
[106] 銀の槍、検証する[F1チェイサー](2012/08/07 22:56)
[107] 銀の月、迎えに行く[F1チェイサー](2012/08/07 23:04)
[108] 銀の月、脱出する[F1チェイサー](2012/08/07 23:14)
[109] 銀の月、離れる[F1チェイサー](2012/08/07 23:32)
[110] 銀の槍、散歩をする[F1チェイサー](2012/08/07 23:48)
[111] 銀の月、初出勤[F1チェイサー](2012/08/08 00:03)
[112] 銀の月、挑戦する[F1チェイサー](2012/08/08 00:12)
[113] 銀の月、迎え撃つ[F1チェイサー](2012/08/08 00:24)
[114] 銀の槍、力を示す[F1チェイサー](2012/08/08 00:36)
[115] 銀の槍、診療を受けさせる[F1チェイサー](2012/08/08 00:47)
[116] 銀の槍、緩めてやる[F1チェイサー](2012/08/08 00:48)
[117] 銀の槍、買い物をする[F1チェイサー](2012/08/08 00:55)
[118] 銀の月、教育する[F1チェイサー](2012/08/08 01:07)
[120] 番外編:銀槍版長靴を履いた猫[F1チェイサー](2012/08/08 01:09)
[121] 銀の月、見直す[F1チェイサー](2012/08/08 01:37)
[122] 銀の月、調査する[F1チェイサー](2012/09/14 13:28)
[123] 銀の槍、呼び出しを受ける[F1チェイサー](2012/08/08 01:48)
[124] 銀の月、呼びかける[F1チェイサー](2012/08/08 01:49)
[125] 妖々夢:銀の月、数を競う[F1チェイサー](2012/08/08 01:49)
[126] 妖々夢:銀の月、誤解を受ける[F1チェイサー](2012/08/08 01:50)
[127] 妖々夢:銀の月、煽る[F1チェイサー](2012/08/08 01:51)
[128] 妖々夢:銀の月、踊らされる[F1チェイサー](2012/08/08 08:35)
[129] 妖々夢:銀の月、一騎打ちをする[F1チェイサー](2012/08/08 08:47)
[130] 妖々夢:銀の槍、戯れる[F1チェイサー](2012/08/09 13:18)
[131] 銀の槍、感づかれる[F1チェイサー](2012/08/23 07:30)
[132] 銀の月、受難[F1チェイサー](2012/08/29 01:22)
[133] 銀の月、宴会の準備をする[F1チェイサー](2012/09/07 20:41)
[134] 銀の月、宴会を楽しむ[F1チェイサー](2012/09/11 03:31)
[135] 番外編:外来人、心境を語る[F1チェイサー](2012/09/15 04:39)
[136] 銀の月、調べられる[F1チェイサー](2012/09/22 04:21)
[137] 銀の槍、授業参観をする[F1チェイサー](2012/09/28 06:13)
[138] 銀の槍、反転する[F1チェイサー](2012/11/12 03:41)
[139] 番外:演劇・銀槍版三匹のこぶた[F1チェイサー](2012/10/18 21:31)
[140] 銀の槍、報告する[F1チェイサー](2012/10/29 07:14)
[141] 魔の狼、研究する[F1チェイサー](2012/11/12 03:42)
[142] 銀の槍、立会人となる[F1チェイサー](2012/11/24 19:54)
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[29218] 銀の月、調査する
Name: F1チェイサー◆5beb2184 ID:398d58fa 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/09/14 13:28
 冬の博麗神社の縁側で、紅白の巫女が何をするでもなくお茶をすすりながらボーっとしている。
 空は晴れ渡っており、寒い冬にささやかな暖かみを提供している。
 境内には雪が積もっており、参道の雪が取り払われている以外には銀月の修行によるたくさんの足跡が残されていた。

「暇だわ……」
「暇って言うんなら、魔理沙が来るのでも待ったら? それか香霖堂に奉公に行くとか」

 霊夢の呟きに、銀月は帳簿を眺めながらそう答えた。
 帳簿にはこれまでの弁当屋の収支が記されており、少しずつ黒字の額が増えていっていることがわかる。
 帳簿の記載に集中している銀月の投げやりな返事に、霊夢は不満げにため息をついた。

「魔理沙はギルバートのところにでも行ってるのかあまり来ないわよ。それに奉公なんてめんどくさいことしてる場合じゃないわ。私には妖怪退治って言う仕事があるんだから」
「だからって、目に付いた妖怪を片っ端から成敗しなくても……」
「何よ、あんた妖怪の肩を持つつもり?」
「……あのね、俺の育った環境を言ってみな?」

 銀月は帳簿を閉じて収納札にしまい込むと、そう言いながら霊夢の隣に立ち空の湯飲みを拾い上げた。
 その表情は苦々しいものであり、霊夢の発言に対する反感を滲ませていた。
 物心ついたときからずっと妖怪と共に生きてきた銀月からしてみれば、妖怪は恐怖の対象ではなくむしろ人間以上に好意的に見られる相手である。
 そんな彼が霊夢の発言に反感を覚えるのは当然のことであった。
 そのことを思い出して、霊夢は再びため息をついた。

「……そう言えば、あんたは妖怪に育てられたのよね」
「そういうこと。さてと、俺は少し人里に行ってくるかな」

 銀月はそう言いながら台所のある土間へ向かおうとする。
 すると霊夢は不満そうな表情で銀月の袴の裾を掴んだ。

「え~……私の暇つぶしの相手してくれてもいいじゃない……せっかくの休みなんだし……」
「そんなこと言われてもなぁ……俺だって紅魔館での仕事以外にも仕事があるし……」

 銀月は駄々をこねる子供をなだめる親のような困り顔でそう呟く。
 すると、霊夢は出かけようとする銀月を引き止めるように袴の裾をくいくいと引いた。

「いいじゃないの。仕事って言っても精々お弁当屋さんの状況確認でしょ? 心配しすぎよ。先週も行ったばかりじゃない」
「それでも行くんだ。まだ開業して少ししか時間が経ってないからね。売れ行きを調べて量を調節しないと」
「……もう、あんたのお父さんのご主人様への忠誠みたいなものがあんたにもあればいいのに……」

 霊夢は少し拗ねた表情でそう呟いた。
 霊夢は紫から将志の性格について大体聞いており、更に藍が将志の主に対する忠犬っぷりを少し羨ましそうに話すのを聞いていた。
 その上、霊夢にしてみればせっかく幼馴染兼腕の良い食事係を家に置くことが出来たのに、蓋を開けてみれば紅魔館での執事の仕事や弁当屋の仕事、更に銀の霊峰から回ってくる雑務に修行と、銀月は思いのほか多忙でなかなか自分に構ってくれないのである。
 当然、今の状況は霊夢にとって面白いものではない。
 そういう訳で、霊夢は主に何かあれば全てを捨ててそちらに向かうと豪語して止まない将志の忠誠心を銀月に求めるに至ったのである。

「……言っとくけどね、今の状態でそれを言うと俺はフランドールお嬢様にそれを捧げることになるんだけど?」

 そんな霊夢に銀月は呆れ顔でそう言って返した。
 将志の背中をよく見て育っているため、銀月も二君に仕えるなどと言う考えは持っていないのである。
 つまり、現時点で忠誠を誓うとなれば自分の主人であるフランドールとなるのだ。
 もっとも、銀月自身は彼女にトラウマがあるため、完全に受け入れられる状態ではないので暫定的なものであるのだが。
 そんな銀月の物言いに、霊夢は口を尖らせた。

「何でよ。いくら仕えてる相手だからってそういうことをする必要ないじゃない。銀月が私にそれを向けてくれるだけで十分じゃない」
「だったら、俺にそうしたいと思わせて欲しいな。案外やぶさかじゃないんだぞ、君に仕えるのは」
「それじゃ、何でそうしてくれないのよ?」
「それは内緒。それじゃ、行ってくるね」
「あ、こら待ちなさい!!」

 銀月は適当にはぐらかすと、引き止める霊夢を振り切って空へと飛び上がっていった。







「……まさか売り子を雇ってたとは思わなかったな……」

 人里にて、銀月はそう呟きながら店から出てきた。
 店に並べてある弁当の量を見て売れ行きを確認しようと思っていたのだが、一部を売り子に持たされていたために確認し切れなかったのだ。

「う~ん、と言うことは売り子を捜さなきゃいけないのか。よし」

 銀月はそう言うと、人里中を歩き回り始めた。
 しかし、小一時間歩いても弁当売りの姿は確認できなかった。
 そんな現状に対して、銀月は首をかしげた。

「……おっかしいなぁ……何処に居るんだろ……」
「んあ? そこに居るのは銀月か?」
「へ?」

 突如掛けられた青年の声に、銀月はその方を向いた。
 するとそこには青い特攻服を着て赤いサングラスをかけた黒髪の男が立っていた。
 腰のベルトには愛用の日本刀が挿してあり、首から何やら大きな籠を提げていた。
 銀月はその男の顔に見覚えがあった。

「……君は確か、この前戦った雷獣……」
「おいおいおい、間違っちゃねえが、俺にゃ轟 雷禍っつー名前があんだろうが。忘れたか、舎弟一号」

 雷禍は渋い表情で銀月にそう言った。
 それを聞いて、銀月もまた渋い表情を浮かべた。

「悪かったから舎弟一号はやめてくれ。で、雷禍はいったい何をしてるんだ?」
「何って見りゃわかんだろ。弁当売ってんだよ」

 雷禍はキョトンとした表情でそう言った。
 それを聞いて、銀月もまたキョトンとした表情を浮かべた。

「……君が?」
「おう。人里で暮らすんなら、先立つもんが必要だろ?」
「……君、人里に住んでるの?」
「おうともさ。少々古くせえ町並みだが、住めば都って奴よ」

 銀月の質問に雷禍は笑って答える。
 そんな雷禍に、銀月は質問を重ねる。

「でも、何でまた人里に?」
「だってよ、人間襲うよりもおこぼれに与って生きた方がよっぽど楽だぜ? それに人間の考えることは面白れえからな」
「よく反対されなかったね、君」
「んじゃ訊くけどよ、反対するとしてどうやって俺がここに住むのを阻止すんだ? 軟弱な人間どもに俺が止められっと思ってんのか?」

 実際問題、力の強い妖怪である雷禍を止められる者は人里には常在していない。
 つまり雷禍が強行すれば人里側は折れざるを得ないのである。
 しかし、銀月にはもう一つの疑問が残っていた。

「でも、慧音さんはどうだったのさ?」
「テメェ分かってて訊いてんだろ、ん?」
「もちろん。君が馬鹿じゃなければそれくらいの理由は言えるはずさ」

 銀月はあえて挑発するようにそう言った。
 それを受けて、雷禍の表情が少し引きつったものに変わる。

「ケッ、兄貴分を試すたぁ良い度胸じゃねえか、あぁ?」
「君は俺達のそういうところが気に入ったんじゃないのかい?」

 やや脅すような物言いの雷禍に、銀月は不敵な笑みを浮かべてそう言い返した。
 それに対して、雷禍はニヤリと笑い返した。

「はっ、違いねえ。で、答えだったな。答えは二つ、自分が半獣だってのと銀の霊峰の存在だな。この二つがあるから、特に反対は受けなかったぜ」
「まあ、そんなところだろうね。で、それを言い出すってことは君は銀の霊峰に楯突く気は無いと」
「そうは言ってねえよ。いつか銀の霊峰の連中を全員倒して自分の下に置いてやりてえ」
「……そんなこと言って、本当は六花姉さんを自分のものにしたいだけでしょう?」
「……ブチコロがされてえか、銀月?」

 ニヤニヤと笑う銀月に、雷禍は笑顔のまま額に青筋を浮かべて銀月の頭に手を置いた。
 その行為は銀月の言うことが図星であることを如実に表していた。
 段々と力が篭ってくるそれに対して、銀月はしゃがむことで手からすり抜けた。

「おっと、悪いね。そこまで怒るとは思わなかったよ。で、何で弁当売り?」
「そりゃおめえ、弁当をさっさと売り切っちまえば後は楽できっからな。幸いにして弁当は美味えし、売れるのも早えから楽な仕事だぜ」
「ふ~ん。で、どれが一番早く売れるんだい?」

 銀月はそう言いながら懐から手帳を取り出した。
 その眼はスッと細められ、若いながらも仕事人の表情へと変わっていく。
 そんな銀月に、雷禍は売れ行きを説明し始めた。

「売りに行く場所によるな。ガテン系の野郎共のところに行きゃ肉類が売れるし、糸を紡ぐ姉ちゃん達んとこに行きゃ魚の照り焼きがすぐに売れる。ただ俺から言わせてもらうと、女にはこの弁当のメニューはこってりしすぎだな。もうちっとあっさりしたメニューが受けるんじゃねえか?」
「成程ね。女の人はそういうことを気にするんだ」

 雷禍の言葉を銀月は手帳に書き込んでいく。
 それもただ書き込むだけではなく、その場で考え付いたことも少し書き込んでアイデアを膨らませていく。

「……て、よく考えたらテメェに言っても意味ねえな」
「いや、効果絶大さ。その弁当作ってるの、俺だもの」

 ふと思いついたような雷禍の呟きに、銀月は手帳をしまいながらそう答えた。
 その瞬間、雷禍の目が点になった。

「……マジ?」
「大マジ。嘘だと思うんなら店主に聞いてみてよ」

 眼を見開いて固まる雷禍に対して、悪戯が成功したような表情でそう言う銀月。
 外での生活が長かった雷禍にとって、銀月の年齢と言うのはちょうど中学三年生から高校一年生になっているのが常識であった。
 そんな年齢の少年が、周囲に認められるような品物を作り出すのは驚くに値するものであった。
 雷禍の口から感嘆の吐息がこぼれる。

「……ったく、テメェは何処のチート野郎だよ……」
「チート野郎って何さ……ん?」

 銀月はそう呟くと同時に、誰かが駆け寄ってくるのを察知した。
 その人影は近くに来ると、雷禍に話しかけた。

「お~い、雷禍! あんた何サボってるんだよ! 俺もう終ったぞ!」
「あぁ? 別にいいだろうがよ、まだ昼時には早えぜ? それに、ここに居わすのはこの弁当の料理人だぜ?」

 黒髪に黒縁眼鏡、白いワイシャツに紺色のチノパンと言った出で立ちの青年は雷禍とそう話し合う。
 年齢にして二十代半ばから後半で、成熟して知的な雰囲気の男であった。
 彼は雷禍の言葉に銀月のほうを見る。

「何だって? って、まさか俺より年下の……っ!?」

 青年はそう言い掛けて言葉を失った。
 体が震え冷や汗が流れ出し、顔面はどんどん蒼白になっていく。
 その表情は紛れもなく恐怖に染まっており、彼は後ずさるようにして座り込んでしまった。

「……あの、どうかしましたか?」

 突然の青年の変化に、銀月は首をかしげた。
 すると、青年は震える手でゆっくりと銀月を指差した。

「……ば、化け物……」
「え?」

 その言葉に、銀月は呆然とした表情を浮かべた。
 乱れる呼吸の中、やっとの思いで搾り出した、震えた声の一言。
 その一言には耐え難いような恐怖が滲み出していた。
 その様子を見て、雷禍は苦い表情で頬をかいた。

「あ~……さては視ちまったな? こいつのこと」
「雷禍、こいつはやばい。下手な妖怪よりもずっと危険だぜ……」
「OK、落ち着きな善治。何を見たかは知らねえが、銀月はそう簡単に暴れだしたりするような奴じゃねえ。第一、今のこいつになら俺は勝てる」

 おびえる青年を強引に立たせ、肩に手を置いて言い聞かせる雷禍。
 脚は相変わらず震えており、雷禍が手を離すと崩れ落ちてしまいそうである。
 青年は雷禍の言葉を聞いて、何度も深呼吸をしてから銀月のほうを見た。

「そ、そうなのか?」
「……ええ、事実ですよ。今の私では雷禍さんには勝てません」
「そ、そうか……」

 表情を失くした銀月の言葉を聞いて、青年は大きく息を吐いた。
 当面は安全であると言うことが分かって、かなり安堵しているようである。
 そんな青年の顔を、銀月は下から覗き込んだ。

「……ところで、お名前をお伺いしても宜しいですか?」
「うっ!? あ、ああ。俺の名前は遠江 善治とおとうみ よしはるだ」

 善治と名乗る青年は銀月の行為に大きく仰け反るが、何とか持ちこたえて答えを返した。
 そんな彼に対して、銀月は恭しく礼とした。

「始めまして、私は銀月と申します……雷禍、彼はいったい何者なんだい?」
「こいつか? そこらをうろうろしてたから拉致った。慧音曰く、外来人なんだとさ」

 雷禍は人里に居ついて間もないころ、少し散歩がてら人里の周囲を見て回っていたことがあった。
 そんな時、幻想郷に迷い込んで間もない善治を発見し、人里まで連れて来ていたのだった。
 もっとも、善治からしてみればいきなり訳の分からない所で訳の分からない男に誘拐されたようなものだったので大いに混乱していたのだが。
 その話を聞いて、銀月は大きくため息をついた。

「拉致したって……それじゃ、彼は何故俺を見るだけで怯え始めたんだい? 人間の枠を外れた行動は取っていないはずなんだけど」
「それはこいつの能力、『あらゆる生物の正体が分かる程度の能力』だ。これが厄介でな、その相手の人柄や肩書きはもちろん、過去の所業まで見えちまうって代物だ」

 善治の能力、『あらゆる生物の正体が分かる程度の能力』。
 この能力は目の前に居る生物の全てが分かる能力である。
 この能力の前では隠し事は全く通用せず、また本人が気がついていないことですら分かってしまう。
 善治はこの能力で銀月の過去と現在を知ったのであった。

「……成程ね。それなら納得だよ。俺の所業はたぶん一般人には受け入れられるもんじゃないだろうからね」

 雷禍の言葉を聞いて、銀月は自嘲気味にそう呟いた。
 銀月は過去に妖怪を狩り、それを食していた時期があった。
 銀月は過去に妖怪の群れに相対し、それを全滅させたことがあった。
 銀月は過去に暴走し、吸血鬼達をギリギリまで追い詰めたことがあった。
 妖怪達は人間の恐怖の対象であり、吸血鬼はその中でも上位の存在である。
 そんな連中を追い詰め、殺し、食するような者など、普通の人間にはとんでもない怪物にしか見えないであろう。
 それを理解しているが故の呟きであった。
 銀月の呟きを聞いて、雷禍は意外そうな表情を浮かべていた。

「おいおいおい、テメェそんな波乱万丈な人生送ってきたってのか?」
「……君さ、銀の霊峰に人間が居ることが異常っていう事実を認識してる?」
「ん? そういやそうだな。お前なんであの親父に拾われたんだ?」

 呆れ顔の銀月に指摘され、雷禍はキョトンとした表情を浮かべた。
 それを見て、銀月は額に手を当てながらため息をついた。

「……あとで彼に聞けばいいと思うよ。ただ、言いふらすのは勘弁して欲しいかな」
「OK、そういうことならそうするわ」

 善治を見ながらの銀月の言葉に、雷禍はそう言って頷いた。
 それを聞くと、銀月は善治に話しかけることにした。

「それで、貴方は……」
「……くっ、そんなに畏まる必要ない。何ていうか、あんたのその態度は寒気がする」

 あからさまに警戒し、距離を取りながら受け答えをする善治。
 自分よりも圧倒的に強い力を持つ銀月の敬語は、彼にとって慇懃なものにしか聞こえず、恐怖を煽るものでしかなかったのである。
 そんな心境を察して、銀月は一歩引いて頭を下げた。

「っと、それは失礼。それじゃ、善治と呼ばせて貰うけど構わないかい?」
「あ、ああ。一応確認するけど、あんた人間なんだよな? 妖怪に片足突っ込んでるけど」

 恐る恐る放たれたその言葉は、鋭いナイフとなって銀月の心に突き刺さった。
 人間であることを肯定されてはいるが、妖怪になりかかっていると言う現実を突きつけるような言葉。
 それは人間であろうとする銀月には、厳しい一言であった。
 その言葉に、銀月はがっくりと肩を落とした。

「……随分的確だね。的確すぎて涙が出てくるよ」
「……俺のこと食ったりしない?」
「……しないって」

 善治の問いかけに、沈んだ声で回答する銀月。
 すると、横から雷禍が唖然とした表情で銀月に声をかけてきた。

「……銀月。テメェ、カニバリズム的な趣味があんのか?」
「ないってば! ああもう、君達の頭の中じゃ俺はどんな化け物になってるのさ!?」

 雷禍の言葉に、ついに銀月の堪忍袋の緒が切れた。
 怒鳴り散らすような銀月の言葉に、雷禍と善治は目を見合わせた。

「だってなぁ……」
「テメェの所業を見て聞いて人間だと思う奴はそうそういねえだろうよ」

「早く人間になりたーーーーーーーーーーーい!!!!」

 雷禍の言葉を聞いて、銀月はあらん限りの声で空に向かって叫んだ。
 その様子を、善治は毒気を抜かれたような表情で眺めていた。
 どうやら銀月に対する恐怖が今のやり取りで若干薄れたようであった。

「……おわぁ、人間がこの台詞叫ぶの初めて聞いた」
「まあな……実際こいつは妖怪人間みてえなもんだからな」

 善治の呟きに、雷禍はそう言って同意した。
 それと同時に、銀月はしゃがみこんでメソメソと泣きながら地面にのの字を書き始めた。

「……ぐすん、どいつもこいつも俺のこと人外扱いしやがって……俺は人間なんだぞぉ……」
「あ、いじけた」
「ったく、面倒くせえ奴だなぁ、オイ。オラ、帰ってきやがれ」
「あうっ!?」

 いじける銀月の尻を、雷禍は思いっきり蹴り上げた。
 丸くなっていた銀月はボールの様に地面を転がり、べしゃっと仰向けに倒れこんだ。

「痛いなぁ……蹴り飛ばすことはないじゃないか」
「うっせえ。そんなちっせえことでうだうだ言うんじゃねえ」
「小さくないと思うけどな……善治はもし人間をやめるような事態になったらどうする? 困るでしょ?」

 銀月は起き上がり、服に付いた砂を払いながら善治に同意を求める。
 しかし、帰ってきたのは盛大な呆れ顔であった。

「どんな事態だよ……あんたならいざ知らず、俺がどうやって人間をやめるって言うんだ? 石仮面でもあるってのか?」
「どう考えたって人間やめるような事態になるのはテメェだけだっつーの。ま、吸血鬼にでも襲われりゃ話は別だがな」
「……世の中不公平だぁ……」

 冷たすぎる二人の反応に、銀月は再び泣きながら体育座りを決め込んだ。
 二人の言葉の刃は、見事に銀月のガラスの心を木っ端微塵に粉砕したのである。
 そんな銀月の肩を、雷禍がそっと叩く。

「ま、人間には強すぎる力を手にした代償だと思って諦めな」

 雷禍の言葉を聞いて、銀月の頭ががくっと前に落ちた。
 そしてひとしきり落ち込むと、銀月は顔を上げた。

「はぁ……ところで、善治はちゃんと生活できてるのかい? 君は雷禍みたいな力技は出来ないだろう?」
「俺は雷禍とルームシェアしてるから、一応暮らしには困ってないぞ」

 銀月の言葉に、善治はそう言って答えた。
 先程からの寸劇によって、最初に感じた恐怖はかなり薄れているようである。
 しかし二人の距離は依然として離れており、恐怖が消えていないことも見て取れた。
 そんな善治の言葉に、銀月はキョトンとした表情を浮かべた。

「え、何で雷禍と一緒に? 人間と雷獣じゃ色々と違うし、何より雷禍が怖くはないのかい?」
「……いきなり刀突きつけられて拉致られて、そのままだ。怖くないわけないだろ?」

 善治はそう言って雷禍にジト眼を送った。
 それを見て、銀月も同様に雷禍にジト眼を送る。

「……雷禍?」
「だってよ~、話合う奴全然居ないんだぜ? 外の漫画とかゲームの話しても誰もわかんねえし」

 雷禍は軽い口調で善治を拉致した理由を述べた。
 要するに、雷禍は話の合う相手が欲しかっただけである。
 それを聞いて、善治は更に白い目を雷禍に向けた。

「……おい、そんなことのために俺を拉致ったのか?」
「おう。ついでに家賃の折半で金も浮くし、一石二鳥って奴だ」

 責めるような善治の言葉にも、雷禍は悪びれることなく笑顔でそう答えた。
 そんな雷禍に、銀月は呆れ顔でため息をついた。

「君と言う奴は……それで、善治は外に帰るつもりはないのかい?」
「俺は……分からない」
「分からない?」
「ああ。そりゃ、俺にだって帰りたい気持ちが無いわけじゃない。でも、何と言うか……こっちに来てから気が軽いと言うか、何か体の調子が良いんだ。同居人は怖いけどな」

 善治は少し疲れ気味にそう話した。
 どうやら彼は幻想郷に来る前に何か色々とあったようである。

「つーか、帰りてえっつっても俺が帰さねえ」

 そんな善治の肩に雷禍がそう言って手を回す。
 人間である善治と違い幻想郷の外に出られない雷禍にとって、善治は外の話が分かる貴重な存在なのだ。
 そんな彼を、雷禍は痛く気に入っているようである。

「……本当に、君と言う奴は……」

 銀月はそんな雷禍を見て、小さくそう呟いた。

「引ったくりだー!」

 突如として、辺りに怒号が飛び交い始めた。
 三人はそれを聞いて顔を見合わせた。

「引ったくりだってよ」
「命知らずな奴が居たもんだなぁ、オイ」
「何のんきなこと言ってるのさ。俺は追うぞ」

 人事のようにそう話す善治と雷禍を他所に、銀月は飛び出していった。
 一回の跳躍で民家の屋根に上り、風のように屋根の上を走り出した。
 その様子を、二人はジッと見つめていた。

「……やっぱ、あいつのことを人間だと思いたくない」
「そいつぁ同感だな。んじゃま、俺達も追うぜ」
「ん? 何でだ?」
「こういう捕り物には野次馬が付きもんだ。そいつら狙って弁当売るぜ」

 善治の疑問に雷禍がそう言って笑う。
 それを聞いて、善治は小さくため息をついた。

「……俺もう売り切ってんだけど」
「うるせえ。オラ、とっとと行くぜ!」
「あ、こら!?」

 雷禍は肩に善治を担ぐと、銀月が走っていった方向へと急いだ。

 一方その頃、銀月は屋根の上を走って引ったくり犯を追跡していた。
 人通りの多い大通りを、犯人は人ごみを縫うように走り抜けていく。

「……結構素早いな……」

 銀月はそれを見て静かにそう呟いた。
 人ごみの中に居るため、一度捕まえることに失敗すると通行人が邪魔をして逃げられてしまう可能性があるのだ。
 銀月は少し考えて、収納札からに鋼の槍を取り出した。

「よし、これで……」

 銀月はそう言うと、屋根の上から大きくジャンプした。
 体を大きく弓なりに反らし、力を溜める。

「てやぁ!」

 そして、銀月は全身の力をフルに使って手にした槍を投擲した。
 重たい鋼の槍は鈍い風切り音と共に犯人をめがけて飛んで行き、その目の前の地面に突き刺さった。

「のわっ!?」

 目の前にいきなり降ってきた槍に、犯人は思わず腰を抜かす。
 銀月はそこを逃さず接近し、あっという間に組み伏せて搦め手を取り、首筋に手を当てた。

「そこまでだ。抵抗しなければ危害は加えない」
「ひぃ……」

 首筋に当たる冷たい金属の感触に、犯人は恐れおののいた。
 突然の大捕り物に周囲は騒然となり、あっという間に野次馬の人だかりが出来た。
 その中心に、空からふわりと弁当売りが降りてきた。

「お~お~、銀ちゃん過激~♪ 弁当いかがっすか~♪」
「その前に俺を降ろせ!」

 心底楽しそうに弁当を売り始める雷禍に、善治はそう言って抗議した。

「っと、悪い悪い」

 善治の抗議を受けて、雷禍は彼を肩から下ろして商売を再開した。
 その間に銀月は収納札から縄を取り出し、逃げられないように縛り上げる。
 すると、人垣が割れて袿袴姿のお姫様のような姿の人影が現れた。

「はいはい、御用ですよ。そこの人も、犯人を引き渡してね」

 一見警官には見えない警察官に、銀月は縛り上げた犯人を引き渡す。

「はい、ご協力感謝しますね。それじゃあ」

 警察官はそう言って軽く礼をすると、犯人を引きずって帰っていった。
 それを見届けると、銀月は大きく息を吐いた。

「さてと……これで良しと」
「おい、あんたいくらなんでもああまでしなくても……」
「最後の脅しかい? これで脅せるかい?」

 善治の声に、銀月は手にしたスプーンを見せながら、微笑を浮かべてそう言った。
 どうやら最後に犯人を脅すために使ったのはそのスプーンのようであった。
 しかしそれを聞いて、雷禍は手を横に振って否定した。

「いやいや銀ちゃん、そうじゃなくて」
「銀月うううううう!」

 突如として辺りに響く女性の声。
 その声のほうに眼をやると、風変わりな帽子を被った女性が走ってくるのが見えた。

「あ、慧音さん。こんにち」
「破ぁ!!」

 みっしん。

 慧音は走る勢いもそのままに、全体重を乗せて銀月の額に頭突きをかました。
 その瞬間、辺りに鈍い打撃音が鳴り響いた。
 その破壊力を端的に表すのであれば、「SMAAAAAAAAAAASH!!」と言ったところであろう。

「あ、すげえ音」

 そのあまりの光景に、雷禍は呆然とそう呟いた。
 銀月は音もなく崩れ落ち、ばったりと地面に倒れこむ。
 そしてしばらく遅れてから、強烈な痛みが頭に走り出した。

「うぎゃあああああ!!」
「天下の往来で槍を投げる奴があるか! ええい、そこに正座しろ! 今日と言う今日はお前に一般常識と言うものを叩き込んでやる!!」

 慧音は痛みに転げまわる銀月を無理やり正座させ、説教を始めた。
 説教の最中に銀月が余計なことを言うたびに頭突きの音があたりに響き、そのあまりの様子に再びギャラリーが集まる。

「弁当いかがっすか~♪」

 そんな中、雷禍は笑顔で野次馬たちに弁当を売るのであった。




「……えらい目に遭った……」

 小一時間説教を受けた後、銀月は額をさすりながらそう呟いた。
 それを聞いて、雷禍は呆れ顔で銀月に声をかけた。

「いやいや、町のど真ん中で槍ぶん投げりゃ当然だろうがよ……」
「……銀の霊峰の集落じゃ普通なんだけどなぁ……」

 雷禍の言葉に銀月は不満げにそう呟いた。
 すると善治の顔から血の気が引き、唖然とした表情になった。

「なんつー物騒な集落だ……と言うか、妖怪ってそんなのばっかか?」
「ナチュラルに妖怪扱いされた!? はあ……なんかもう良いや。今日はもう帰ろう……ぐすん」

 銀月は善治の言葉に酷くショックを受けた様子でそう言うと、しくしくと泣きながらフラフラと飛び去っていった。
 その様子を見て、雷禍は苦笑いを浮かべて頬をかいた。

「ちっとばかし虐め過ぎたか?」
「いや、けど言ってることは事実だろ。て言うか、ここは人間すらまともじゃないのが居るのかよ……」

 銀月の所業を思い出して、善治はうんざりした表情を浮かべた。
 まだ外の世界と幻想郷の違いに馴染めていない様である。

「……意外と辛辣だな、テメェは」
「あいつの所業を知ったらそんなこと言えなくなるぞ。あいつは……」
「待ちな、それ以上は家に帰ってからだ。ここじゃ誰に聞かれっか分かんねえからな」

 二人はそう話しながら、店へと戻っていった。






「ただいま……」
「あら、今日は早かったわね、銀月……って、どうしたの? そんなに落ち込んで」

 銀月の涼やかで中性的な声を聞いて霊夢は少し嬉しそうな表情を浮かべるが、トボトボと歩いてくる様子を見て怪訝な表情を浮かべる。
 銀月は縁側にたどり着くと、霊夢の隣に腰を下ろした。
 その姿は真っ白に燃え尽きたボクサーの様であり、見るからにしょんぼりとしていた。

「霊夢……人間になれる札ってないかなぁ……?」
「はあ? あんた何言ってんの?」
「俺、人間なのに……」

 銀月はメソメソと涙を流す。
 体が妖怪に近づいているがために、彼は人間であることに執着を持っている。
 それは自分が変わってしまうことに対する不安感と、人間から向けられる仲間意識を失うことに対する恐怖によるものである。
 それだけに、初めて会った人間に面と向かって化け物と言われたことは、かなり心に来るものがあったようである。
 そんな銀月に、霊夢は呆れた表情を浮かべた。

「何よ、またそんなことで落ち込んでるわけ? そんなの今更じゃない。気にするだけ無駄よ」
「無駄って……酷い……」

 霊夢の言葉を聞いて、余計に深く凹む銀月。
 銀月の精神は完全にネガティブな方向に傾いており、霊夢の言葉も逆効果になってしまったようである。
 その様子を見て、霊夢は苛立たしげに頭をかいた。

「ああもう、面倒くさいわね! あんたのお父さんや紫が人間だって認めてるんでしょ? だったら素直にそれを信じりゃ良いじゃない」
「……分かってはいるんだけどね……」
「じゃあ良いじゃない。そんなこと考えても時間の無駄よ。ほら、そんなことしてる暇があったらお茶を淹れてちょうだい」
「……はあ……分かったよ……」

 銀月は深く陰鬱なため息を吐くと、ゆっくりと立ち上がった。
 そんな銀月に霊夢は続けて声をかける。

「それから、今日は私に付き合いなさい。退屈でしょうがないわ」
「退屈なら「修行は却下よ」……くっ、なら岩砕きでどうだ!?」

 銀月は苦し紛れにそう提案する。
 それは自身の能力の制御の練習になるもので、かつて検証のときに行ったものであった。
 それを聞いた瞬間、霊夢の表情がパッと輝いた。

「それならやるわ! さあ、さっさと行くわよ銀月!」
「わ、ちょっと待って、引っ張るなって!」

 嬉しそうな表情で銀月の手をぐいぐいと引っ張っていく霊夢。
 そしてそのまま、銀月は霊夢に引っ張られるようにして空を飛ぶのであった。

 その日、幻想郷の一角では岩が砕ける音が日暮れまで鳴り響いていた。



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