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No.29218の一覧
[0] 銀の槍のつらぬく道 (東方Project) [F1チェイサー](2012/05/06 19:25)
[1] 銀の槍、大地に立つ[F1チェイサー](2012/08/06 21:18)
[2] 銀の槍、街に行く[F1チェイサー](2012/08/06 21:22)
[3] 銀の槍、初めて妖怪に会う[F1チェイサー](2012/08/06 21:26)
[4] 番外:槍の主、初めての友達[F1チェイサー](2012/08/06 21:51)
[5] 銀の槍、その日常[F1チェイサー](2012/08/06 21:30)
[6] 銀の槍、別れ話をする[F1チェイサー](2012/08/06 21:38)
[7] 番外:槍の主、テレビを見る[F1チェイサー](2012/08/06 21:56)
[8] 銀の槍、意志を貫く[F1チェイサー](2012/08/06 21:45)
[9] 銀の槍、旅に出る[F1チェイサー](2012/08/06 22:14)
[10] 銀の槍、家族に会う[F1チェイサー](2012/08/06 22:04)
[12] 銀の槍、チャーハンを作る[F1チェイサー](2012/08/06 22:26)
[14] 銀の槍、月を見る[F1チェイサー](2012/08/06 22:31)
[15] 銀の槍、宴会に出る[F1チェイサー](2012/08/06 22:39)
[16] 銀の槍、手合わせをする[F1チェイサー](2012/08/06 22:46)
[18] 銀の槍、迷子になる[F1チェイサー](2012/08/06 23:08)
[20] 銀の槍、奮闘する[F1チェイサー](2012/08/06 23:18)
[21] 銀の槍、家を持つ[F1チェイサー](2012/08/06 23:29)
[22] 銀の槍、弟子を取る[F1チェイサー](2012/08/06 23:36)
[23] 銀の槍、出稼ぎに出る[F1チェイサー](2012/08/06 23:46)
[24] 銀の槍、振り回される[F1チェイサー](2012/08/06 23:58)
[26] 銀の槍、本気を出す[F1チェイサー](2012/08/07 00:14)
[27] 銀の槍、取り合われる[F1チェイサー](2012/08/07 00:21)
[28] 銀の槍、勧誘される[F1チェイサー](2012/08/07 00:28)
[29] 銀の槍、教壇にたつ[F1チェイサー](2012/08/07 00:34)
[30] 銀の槍、遊びに行く[F1チェイサー](2012/08/07 00:43)
[31] 銀の槍、八つ当たりを受ける[F1チェイサー](2012/08/07 00:51)
[32] 銀の槍、大歓迎を受ける[F1チェイサー](2012/08/07 00:59)
[33] 銀の槍、驚愕する[F1チェイサー](2012/08/07 01:04)
[34] 銀の槍、大迷惑をかける[F1チェイサー](2012/08/07 01:13)
[35] 銀の槍、恥を知る[F1チェイサー](2012/08/07 01:20)
[36] 銀の槍、酒を飲む[F1チェイサー](2012/08/07 01:28)
[37] 銀の槍、怨まれる[F1チェイサー](2012/08/07 01:35)
[38] 銀の槍、料理を作る[F1チェイサー](2012/08/07 01:45)
[39] 銀の槍、妖怪退治に行く[F1チェイサー](2012/08/07 02:05)
[40] 銀の槍、手助けをする[F1チェイサー](2012/08/07 02:16)
[41] 銀の槍、説明を受ける[F1チェイサー](2012/08/07 02:19)
[42] 銀の槍、救助する[F1チェイサー](2012/08/07 02:25)
[43] 銀の槍、空気と化す[F1チェイサー](2012/08/07 02:29)
[44] 銀の槍、気合を入れる[F1チェイサー](2012/08/07 02:35)
[45] 銀の槍、頭を抱える[F1チェイサー](2012/08/07 02:47)
[46] 銀の槍、引退する[F1チェイサー](2012/08/07 02:53)
[47] 銀の槍、苛々する[F1チェイサー](2012/08/07 03:00)
[48] 銀の槍、一番を示す[F1チェイサー](2012/08/07 04:42)
[49] 銀の槍、門番を雇う[F1チェイサー](2012/08/07 04:44)
[50] 銀の槍、仕事の話を聴く[F1チェイサー](2012/08/07 04:47)
[51] 銀の槍、招待を受ける[F1チェイサー](2012/08/07 04:51)
[52] 銀の槍、思い悩む[F1チェイサー](2012/08/07 04:59)
[53] 銀の槍、料理を作る (修羅の道編)[F1チェイサー](2012/08/07 05:04)
[54] 銀の槍、呆れられる[F1チェイサー](2012/08/07 05:15)
[55] 銀の槍、心と再会[F1チェイサー](2012/08/07 05:38)
[56] 銀の槍、感知せず[F1チェイサー](2012/08/07 11:38)
[57] 銀の槍、心労を溜める[F1チェイサー](2012/08/07 11:48)
[58] 銀の槍、未来を賭ける[F1チェイサー](2012/08/07 11:53)
[59] 不死鳥、繚乱の花を見る[F1チェイサー](2012/08/07 11:59)
[60] 炎の精、暗闇を照らす[F1チェイサー](2012/08/07 12:06)
[61] 銀の槍、誇りを諭す[F1チェイサー](2012/08/07 12:11)
[62] 銀の槍、事態を収める[F1チェイサー](2012/08/07 12:23)
[63] 番外:演劇・銀槍版桃太郎[F1チェイサー](2012/08/07 12:38)
[64] 銀の槍、人狼の里へ行く[F1チェイサー](2012/08/07 12:52)
[65] 銀の槍、意趣返しをする[F1チェイサー](2012/08/07 13:02)
[66] 銀の槍、人里に下る[F1チェイサー](2012/08/07 14:31)
[67] 銀の槍、宣戦布告を受ける[F1チェイサー](2012/08/07 14:44)
[68] 銀の槍、話し合いに行く[F1チェイサー](2012/08/07 14:54)
[69] 銀の槍、拾い者をする[F1チェイサー](2012/08/07 15:23)
[70] 銀の槍、冥界に寄る[F1チェイサー](2012/08/07 15:05)
[71] 銀の槍、呼び出しを受ける[F1チェイサー](2012/08/07 15:31)
[72] 銀の槍、戦いを挑む[F1チェイサー](2012/08/07 15:38)
[73] 銀の槍、矛を交える[F1チェイサー](2012/08/07 15:46)
[74] 銀の槍、面倒を見る[F1チェイサー](2012/08/07 15:54)
[75] 銀の月、自己紹介をする[F1チェイサー](2012/08/07 16:00)
[76] 銀の月、修行を始める[F1チェイサー](2012/08/07 16:11)
[77] 銀の月、趣味を探す[F1チェイサー](2012/08/07 16:13)
[78] 銀の槍、未だ分からず[F1チェイサー](2012/08/07 16:18)
[79] 銀の月、ついて行く[F1チェイサー](2012/09/15 04:25)
[80] 銀の月、キレる[F1チェイサー](2012/08/07 16:41)
[81] 銀の月、永遠亭へ行く[F1チェイサー](2012/08/07 16:53)
[82] 銀の月、練習する[F1チェイサー](2012/08/07 17:00)
[83] 銀の月、人里に行く[F1チェイサー](2012/08/07 19:53)
[84] 銀の槍、訪問を受ける[F1チェイサー](2012/08/07 19:59)
[85] 銀の月、研修を受ける[F1チェイサー](2012/08/07 20:03)
[86] 銀の月、買出しに行く[F1チェイサー](2012/08/07 20:15)
[87] 銀の槍、蒼褪める[F1チェイサー](2012/08/07 20:21)
[88] 銀の月、止められる[F1チェイサー](2012/08/07 20:29)
[89] 銀の槍、手伝いをする[F1チェイサー](2012/08/07 20:44)
[91] 銀の月、友達を捜す[F1チェイサー](2012/08/07 20:52)
[92] 紅魔郷:銀の月、呼び止められる[F1チェイサー](2012/08/07 20:55)
[93] 紅魔郷:銀の月、因縁をつけられる[F1チェイサー](2012/08/07 21:00)
[94] 紅魔郷:銀の月、首をかしげる[F1チェイサー](2012/08/07 21:07)
[95] 紅魔郷:銀の月、周囲を見回す[F1チェイサー](2012/08/07 21:33)
[96] 紅魔郷:銀の月、引き受ける[F1チェイサー](2012/08/07 21:38)
[97] 紅魔郷:銀の月、鉄槌を下す[F1チェイサー](2012/08/07 21:47)
[98] 銀の月、人を集める[F1チェイサー](2012/08/07 21:52)
[99] 銀の槍、真相を語る[F1チェイサー](2012/08/07 21:57)
[100] 銀の月、宴会を手伝う[F1チェイサー](2012/08/07 22:00)
[101] 銀の槍、己を見直す[F1チェイサー](2012/08/07 22:04)
[102] 銀の月、遊ばれる[F1チェイサー](2012/08/07 22:08)
[103] 銀の月、暴れまわる[F1チェイサー](2012/08/07 22:16)
[104] 銀の月、倒れる[F1チェイサー](2012/08/07 22:24)
[105] 外伝if:清涼感のある香り[F1チェイサー](2012/08/07 22:32)
[106] 銀の槍、検証する[F1チェイサー](2012/08/07 22:56)
[107] 銀の月、迎えに行く[F1チェイサー](2012/08/07 23:04)
[108] 銀の月、脱出する[F1チェイサー](2012/08/07 23:14)
[109] 銀の月、離れる[F1チェイサー](2012/08/07 23:32)
[110] 銀の槍、散歩をする[F1チェイサー](2012/08/07 23:48)
[111] 銀の月、初出勤[F1チェイサー](2012/08/08 00:03)
[112] 銀の月、挑戦する[F1チェイサー](2012/08/08 00:12)
[113] 銀の月、迎え撃つ[F1チェイサー](2012/08/08 00:24)
[114] 銀の槍、力を示す[F1チェイサー](2012/08/08 00:36)
[115] 銀の槍、診療を受けさせる[F1チェイサー](2012/08/08 00:47)
[116] 銀の槍、緩めてやる[F1チェイサー](2012/08/08 00:48)
[117] 銀の槍、買い物をする[F1チェイサー](2012/08/08 00:55)
[118] 銀の月、教育する[F1チェイサー](2012/08/08 01:07)
[120] 番外編:銀槍版長靴を履いた猫[F1チェイサー](2012/08/08 01:09)
[121] 銀の月、見直す[F1チェイサー](2012/08/08 01:37)
[122] 銀の月、調査する[F1チェイサー](2012/09/14 13:28)
[123] 銀の槍、呼び出しを受ける[F1チェイサー](2012/08/08 01:48)
[124] 銀の月、呼びかける[F1チェイサー](2012/08/08 01:49)
[125] 妖々夢:銀の月、数を競う[F1チェイサー](2012/08/08 01:49)
[126] 妖々夢:銀の月、誤解を受ける[F1チェイサー](2012/08/08 01:50)
[127] 妖々夢:銀の月、煽る[F1チェイサー](2012/08/08 01:51)
[128] 妖々夢:銀の月、踊らされる[F1チェイサー](2012/08/08 08:35)
[129] 妖々夢:銀の月、一騎打ちをする[F1チェイサー](2012/08/08 08:47)
[130] 妖々夢:銀の槍、戯れる[F1チェイサー](2012/08/09 13:18)
[131] 銀の槍、感づかれる[F1チェイサー](2012/08/23 07:30)
[132] 銀の月、受難[F1チェイサー](2012/08/29 01:22)
[133] 銀の月、宴会の準備をする[F1チェイサー](2012/09/07 20:41)
[134] 銀の月、宴会を楽しむ[F1チェイサー](2012/09/11 03:31)
[135] 番外編:外来人、心境を語る[F1チェイサー](2012/09/15 04:39)
[136] 銀の月、調べられる[F1チェイサー](2012/09/22 04:21)
[137] 銀の槍、授業参観をする[F1チェイサー](2012/09/28 06:13)
[138] 銀の槍、反転する[F1チェイサー](2012/11/12 03:41)
[139] 番外:演劇・銀槍版三匹のこぶた[F1チェイサー](2012/10/18 21:31)
[140] 銀の槍、報告する[F1チェイサー](2012/10/29 07:14)
[141] 魔の狼、研究する[F1チェイサー](2012/11/12 03:42)
[142] 銀の槍、立会人となる[F1チェイサー](2012/11/24 19:54)
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[29218] 番外編:銀槍版長靴を履いた猫
Name: F1チェイサー◆5beb2184 ID:398d58fa 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/08/08 01:09
注意

 この話は本編のキャラクターを使った作者のやりたい放題の話です。
 以下の点にお気をつけください。

 ・著しいキャラ崩壊
 ・カオス空間
 ・超展開
 ・一部メタ発言

 なお、この話は本編とは一切関係ありません。
 以上の点をご了承しかねると言う方は、ブラウザバックを推奨いたします。

 では、お楽しみください。















「みんな~!! 今日は来てくれてありがと~♪ 今日は演劇『長靴を履いた猫』を披露するよ♪ それじゃあ劇の始まり始まり~♪」
「その前に、ちょっと待った」

 元気よく劇を始めようとする愛梨に、今回も監督を務める輝夜が声をかける。
 その声を聞いて、愛梨は輝夜に向き直った。

「どうしたのかな、輝夜ちゃん♪」
「今回の脚本はまともなんでしょうねぇ?」

 輝夜は苦い表情で愛梨にそう問いかける。
 前回の劇で監督を引き受けたときに舐めた辛酸がまだ響いているようである。
 それを見て、愛梨はにっこり笑って被ったシルクハットを黒いステッキで軽く叩いた。

「それは見てからのお楽しみだよ♪」
「先に答えなさい。今回の脚本家は誰?」
「今回は私だ」

 そう言って出てきたのは、青い垂の道士服を着た、九尾の金の尾を持つ女性であった。
 その姿に見覚えのある輝夜は、いぶかしげな表情で彼女を見た。

「……あんた、確か藍って言ったわね? 今回の台本のコンセプトは?」
「なに、橙が劇に興味を示していたからな。それに参加させてやろうと言う親心だ」
「……そう言うことならまだ信用できそうね。じゃあ、始めるわよ!!」

 輝夜がそう言うと、舞台の幕が上がった。


 * * * * *


『(ナレーター:愛梨)あるところに、粉引き職人の三人兄弟(長男:将志・次男:銀月・三男:ギルバート)が居ました。職人であった父が死に、三人には遺産が分け与えられることになって話し合うことになりました』

「兄さん、遺産の分配どうするのさ?」
「……困ったものだな。粉引き小屋は麦畑があって初めて機能するものだからセットで考えるより他無い。しかし、畑を分けてしまうと三人分の税を納めなければならなくなってしまうぞ。そんなことになっては三人揃って破産だ」
「つまり、粉引き小屋と麦畑は一纏め。すると残りはロバと金貨しかないわけだが……」
「ロバなしでどうやって粉引き小屋を動かすのさ。粉引き小屋の動力はロバに頼るしかないんだぞ?」
「だよなぁ……と言うことは、残るは金貨しかないわけだが……」
「……その金貨の量も高が知れる。最近粉引き小屋を改修したばかりなのだからな」

『決して裕福ではない三兄弟は頭を抱えてしまいました。何しろ、分配しようとしても出来るものがないのです』


 * * * * *


「カット」

 輝夜はそう言うと、頭を抱えてしまった。
 その横では、助監督の妹紅が苦笑いを浮かべている。

「……なあ、この話、こんな世知辛い始まり方だっけ?」
「遺産が粉引き小屋とロバと猫なんていう馬鹿な話は無いだろう? そもそも、粉引き小屋の労働力として貴重なロバを手放すこともおかしい。こういった場合は長男が全て相続して、次男三男はゼロから独立するべきだ」

 妹紅の問いかけに、藍はすっぱりとそう言い切った。
 それを聞いて、輝夜が少しあせりを覚える。

「ちょ、ちょっと藍、それは幾らなんでも厳しすぎるんじゃ……」
「何を言う。かつては一農民が三国の一角を担うほどの強国を築き上げたり、一百姓が日ノ本の国を統一することもあったんだぞ? 男ならこの程度の独り立ちが出来てもらわないと困る」
「な、何というスパルタ方式……」

 三国時代や戦国時代を実際に見てきた藍の言い分に、輝夜と妹紅は沈黙した。
 早くも不穏な空気を漂わせながら、舞台は再開される。


 * * * * *


『話し合いの結果、粉引き屋は長男が継ぐことになり、次男と三男は仕事を探しに街に行くことにしました』

「なあ、兄貴は何か仕事の当てあるのか?」
「俺はちょっと伝があってね。うちの粉を卸している会社から声が掛かってるんだ。君はどうするんだ?」
「俺は何も考えてねえな。まあ、今後の人生がどうなるか決まるわけだし、じっくり考えるさ」
「そっか。それじゃ、俺はこっちだから……」
「……ああ。元気でやれよ、兄貴」

『三男は次男と別れて道を歩きます。大通りの店を覗きながら、雇ってくれる店を探します』

「……そう上手くはいかないか……」

『でも、なかなか雇ってくれるところはありません。不況の波はかなり広がっているみたいです』

「暴れ馬だぁー!」

『そんな時、一頭の暴れ馬が前から走ってくるのが見えました。三男はそれを避けようと道の脇に行こうとしました』

「きゃあっ!?」

『すると、自分の後ろで一匹の猫(演者:橙)が転ぶのが見えました。そこはちょうど暴れ馬の通り道で、そのまま居れば轢かれてしまう位置でした』

「あぶねえ!」
「きゃっ!?」

『勇敢な三男は轢かれそうになった猫を抱えて道路脇に飛びました。間一髪、猫も三男も暴れ馬に轢かれることはありませんでした』

「怪我はないか?」
「う、うん、無いよ。お兄さんは?」
「俺は大丈夫だ。それじゃ、今度は転ぶなよ」
「あ、ちょっと待って!」

『立ち去ろうとする三男を、猫は引き止めます。それを聞いて、三男は立ち止まりました』

「どうした?」
「ねえ、私貴方の役に立てると思うんだ。お礼させてよ!」
「ははっ、そんなにかしこまる必要は無いぞ。それに、礼なんて「お嬢!」……ん?」

『三男と猫が話していると、刀を持った猫(演者:妖夢)がやってきました。その声を聞いて、猫は彼のほうを向きました』

「お嬢! お怪我はありませんか!」
「うん、大丈夫だよ、妖夢。それより、助けてくれたこの人にお礼がしたいんだ」
「はい、お嬢の頼みとあれば……そこのお方。お嬢を助けてくれてありがとうございました。どうかお礼をさせてください」
「いや、俺は礼が欲しくてやったわけじゃねえよ。だから気にしないように行ってくれ」
「そうは行きません。八雲組の組長の一人娘であるお嬢を助けた恩人に礼の一つもないのでは、八雲組の名折れです。意地でも受けて貰いますよ?」

『刀猫は、手にした日本刀をちらつかせながら三男にそう言って詰め寄りました』


 * * * * *


「カット!! カットカット!!」

 輝夜はそう言うと脚本を地面に叩き付け、脚本家である藍に詰め寄った。

「ねえ、八雲組って何? 長靴を履いた猫に何で任侠者が出てくるわけ?」
「い、いや、私じゃないぞ!?」

 詰め寄る輝夜に、藍はあせった表情でそれを否定する。
 その横で、妹紅は輝夜が投げ捨てた脚本を開いてみた。

「おい、これ途中で差し替えられてるぞ? 紙の質が変わってる」

 妹紅は脚本の中身を見て、そう指摘する。
 見てみると、紙の色と質感が途中から微妙に異なっていた。
 藍はそう言うことが出来る人物の心当たりがあった様で、その人物の方を向いた。

「……紫様?」
「……てへっ♪」
「てへっ、じゃないですよ! せっかく橙が楽しみにしていた舞台なのに!」
「まあまあ、橙も楽しそうだし良いじゃないの」
「それはそうですが……」

 笑って誤魔化す紫に、藍は白い眼を向けながらそう呟いた。
 その横で、将志が妖夢に話しかけていた。

「……妖夢。お前は自分の役に疑問を持たなかったのか?」
「え、お嬢に尽くす任侠の武士って格好良くないですか?」
「……いや、そう言う問題では……」

 物語よりも役のキャラ付けにしか眼が行っていない妖夢に、将志は沈黙するしかなかった。

 色々と問題を孕んだまま、舞台は再開される。


 * * * * *


『刀猫の真摯な頼み込みを聞いて、三男は猫のお嬢の御礼を受けることになりました』

「ところで、礼って何をしてくれるんだ?」
「その前に、お兄さんの名前は何て言うの? 私は橙」
「ギルバートだ。それで、お礼って何だ?」
「ギルバートを王子様にしてあげる」
「……はぁ?」

『三男は猫のお嬢の言葉を聴いて首を傾げました。そんな言葉が出るとは思ってもいなかったからです』

「いや、俺王子なんて柄じゃ……おわっ!?」
「……お嬢の申し出を断るんですか?」

『三男が断ろうとすると、刀猫は手にした日本刀をひたひたと三男の首筋につけました。三男は顔面蒼白です』

「わ、わかった、申し出は受ける。だが、本当にそんなことが出来るのぉ!?」
「……お兄さん。お嬢の言うことが信じられないんですか?」

『刀猫は三男の腰に手を回し、目の前に刀の切っ先を持ってきました。三男はもうたじたじです』


 * * * * *


「カーーーーーーーーット!!」

 輝夜はそう言うと、メガホンを宙に放り投げた。
 そしてそのまま、舞台の上の妖夢に詰め寄った。

「ちょっとそこのあんた!! 完璧にヤクザになってるじゃない!!」

 輝夜は妖夢の演技について、そうまくし立てる。
 すると妖夢はキョトンとした表情で首をかしげた。

「任侠ってそんなものじゃないんですか?」
「任侠って言葉が出てくる時点でおかしいわよ! 大体童話で恐喝なんてやってんじゃないわよ!」

 何がおかしいのか分かっていないそぶりを見せる妖夢に、輝夜はそう怒鳴りつけた。
 その横では、幽々子が妖夢の演技を見て微笑んでいた。

「なんか生き生きとしてるわね~、妖夢」
「本当にねぇ。幽々子、少しストレスを掛けすぎなんじゃないの?」
「そんなことないわよぉ。でも、新しいお手伝いさんが増えたら変わるかもよ?」

 紫の問いかけに、幽々子はそう答えて銀髪の青年に眼をやった。

「……そこで俺を見るな」

 将志はその視線に額に手を当ててため息をつくのだった。

 妖夢に対して輝夜が全力で匙をぶん投げると同時に、舞台は再開される。


 * * * * *


『三男達が話をしている頃、お城ではパーティーが行われていました。それはお姫様(演者:アリス)の誕生日を祝うために王様(演者:アルバート)が催したものでした』

「姫、お前も今年で齢十六になる。そろそろ結婚相手を探す時期ではないのか?」
「……そうね。でも、お父様のおめがねにかなう相手が居るのかしら?」
「……すまない。お前が王家の娘でなければ、自由にさせられたというのに……」
「気にしても始まらないわ。せっかくのパーティーなんだし、今日のところは楽しみましょう?」
「……そうだな。娘の誕生日に暗い顔をする父親が居てはいかんな……ん?」

『王様とお姫様が話していると、突然城の中に強い風が吹き始めました。会場に集まっていた人たちは突然の事態に慌てています』

「落ち着け皆の衆! 騒ぐでない!」
「そうだ。この程度で騒いで貰っては煩くて仕方が無い」
「っ、何者だ!」

『王様はそう言うと、声のした方向を向きました。するとそこには、大きな黒い羽を生やした魔王(演者:天魔)がいました』

「なに、私はこの近くに住む魔王だ。ご機嫌麗しゅう、国王陛下」
「……御託はいい。要件を話せ」
「用件は簡単だ。そこの姫を引き取りたい」
「馬鹿な! 貴様、何を言っているのかわかっておるのか!?」
「そう悪いようにはせん。王女など所詮は政略結婚の駒。ならば私が引き取ってそちらに援助をする形でも構わないのだろう? なに、お前が望む財も民も私は持っている。駒一つと交換するには申し分ないと思うがね?」
「……貴様……っ」
「おっと、私に喧嘩を売るのは良く考えてからにしたまえよ。私が何故魔王と呼ばれているか、その意味を良く考えるのだな。では、一ヶ月後に答えをもらおうか」

『魔王はそういうと、虚空に消えていきました。王様は彼女が立ち去ったあとを忌まわしげに見つめていました』


 * * * * *


「……カット」

 輝夜は脚本を握り締めてそう言うと、天魔のところへ向かった。

「……あんた、童話の意味分かってる?」
「その名の通り、児童が読む話だな」
「それが分かってるなら、何でお姫様が政略結婚の駒だなんていう子供の夢をぶっ壊すようなことを言うのよ!」
「現実を知らせるのも一興かと思ってな。それに何より悪役っぽくて良いだろう?」

 輝夜の指摘にも天魔は涼しい顔でそう返した。
 その返答を聞いて、妹紅は頷いた。

「確かに、これ以上なく悪役をやっているな」
「悪けりゃいいってもんでもないわよ!」

 妹紅の呟きに、輝夜はすかさずそう叫んだ。
 その一方で、舞台を見て面白くなさそうな表情を浮かべる者がいた。

「アリスがお姫様役か……」
「何よ、魔理沙。不満なの?」
「だって劇だぜ? さらわれたお姫様が魔王を倒すって言う話をやりたかったんだよ」

 霊夢の問いかけに、魔理沙はとても残念そうにそう呟いた。
 それを聞いて、霊夢は呆れ顔でため息をついた。

「どんな話よ……でもまあ、魔理沙はお姫様には向かないわね」
「む、酷いぜ霊夢。霊夢だってお姫様って柄じゃないじゃないか」
「私はいいのよ。お茶飲んでゆっくりできる役が貰えれば。この劇なら、銀月が勤める会社の社長の娘ね」
「……お前、ホントぶれないよな……」

 霊夢の発言に、今度は魔理沙が盛大に呆れ顔を浮かべるのだった。

 輝夜がひとしきり叫ぶと、舞台が再開された。


 * * * * *


『王様が魔王の登場に頭を抱えている頃、猫達と三男は今後どうするかを話し合っていました』

「それで、具体的にどうやって俺を王子にするんだ?」
「えっと……私がギルバートの飼い猫になって、王様に貢物を送ります。ギルバートはその間決して働いたりしちゃダメです」
「……あ~……その説明じゃ俺にはわからないぃ!?」
「分かってください。お嬢の説明なんですよ?」
「この……事あるたびに刀を振り回すのはやめろ!」
「これが私の仕事ですので」
「どんな仕事だよ!」

『刀を突きつけてくる刀猫に三男は抗議しますが、刀猫は涼しい顔です。そんな刀猫にお嬢はぷりぷりと怒りました』

「ちょっと妖夢! 話が進まないから少し静かにして!」
「……失礼しました」
「……それで、働くなってどういうことなんだ?」
「ギルバートにはカラバ公爵と言う人物に扮装してもらうよ。それで、しばらく身を隠して欲しいんだ」
「公爵って……俺、ほとんど無一文だぞ? ばれたりしたら俺処刑されるぞ?」
「大丈夫だよ、当てはあるから」

『計画の内容を聞いて、三男は冷や汗を流します。でも、猫のお嬢は自信満々です』

「妖夢、若人衆に連絡して情報を集めて。それから、人間にとって価値のありそうな奴を梱包して私のところへ持ってきて」
「承知しました」
「それじゃあギルバート。しばらくうちの組が用意した山小屋にでも入っててね」
「あ、ああ……」

『お嬢がそう言うと、三男は計画書に記されていた山小屋へと向かうことになりました。その姿を見て、刀猫は小さくため息をつきました』

「……お嬢。本当に良いのですか? 人間にそこまで加担する道理はないのですよ?」
「唯のお礼じゃないよ。ギルバートが王子様になったら、その飼い猫の私はどうなると思う?」
「……なるほど。流石はお嬢、全ては組のためと言うわけですね」
「でしょ? さあ、分かったなら早く始めよう?」
「承知しました」

『猫達はそう言い合うと、意気揚々と準備を始めました』


 * * * * *


「カットカットカット!!」

 輝夜はそう言ってメガホンを地面に叩き付けた。
 向かう先は橙のところであった。

「ねえ、どうして童話にそんな真っ黒な考え方が出てくるわけ? 三男と猫の友情物語は何処に行ったの?」
「え……だって台本にはこういう風に……」

 橙は困惑した表情で輝夜に自分の台本を差し出した。
 すると確かに台本には先程の台詞が書かれているのだった。

「だれだ! 橙にこんなことを言わせる奴は!!」
「私だ」

 藍の問いかけに、天魔がすっと手を上げた。
 それを受けて、藍は掴みかからんばかりに天魔に詰め寄った。

「お前かぁ! 何でお前は劇の空気をぶち壊すようなことを言わせるんだ!?」
「いつの時代も観客に求められるのはリアリズムだ。何の打算もない善意など毒に過ぎん」
「これ童話ぁ! あんた前回も似たようなことやったでしょうが! もう少し自重しなさい!」
「だが断る」

 喉が切れんばかりに叫ぶ輝夜の言葉を、天魔はたった一言で斬り捨てるのであった。

 早くも息切れを起こし始めた輝夜の指示で、舞台は再開される。


 * * * * *


『猫のお嬢は王様への献上品を探しに行きました。でも、なかなか納得のいくものが見つかりません』

「う~ん、なかなか人間の王様が喜びそうなものがないなぁ……」
「いっそ、美術館とかから持ち出してみますか?」
「泥棒はダメ。そんなことをするとすぐにばれちゃうから」
「あ、それなら動物の剥製を持っていきましょう。鹿の剥製なんか良さそうですよ」
「そうしようか。それじゃ、早速捕りにいかないとね」

『猫達は相談して、王様に献上する鹿の剥製を作るために鹿狩りに行きました』

「なんでしょう、あれは馬でしょうか? やけに青白いですが」
「わかんない。あ、こっち来る!」
「な!? この馬、頭に角が生えてます!」
「きゃあ!? なんで雷が落ちてくるの!?」
「お嬢、下がってください! 私が相手します!」
「私もこのライトボウガンで援護するよ!」
「くっ、堅い!? 太刀が弾かれる!」
「柔らかい部分があるはずだからそこを狙うよ!」
「そうですね、お嬢! 来なさいド○ケルビ! 妖怪が鍛えたこの楼観剣に、斬れぬものなど、あんまり無い!!」
「ひるんだ! 妖夢、行って!」
「やああああああ!!」

『猫達は頑張って鹿(?)を狩りました。雷を落とす鹿はとても強かったですが、何とかしとめることが出来ました』


 * * * * *


「Cut、CutCut!!」

 輝夜はそう言いながらメガホンを放り投げた。
 そして舞台の上に駆け寄ってきた。

「ちょっと、この劇はいつ童話からハンティングアクションに切り替わったわけ!?」
「と言われても、突然乱入してきたので対処しただけなんですが……」

 倒された鹿のようなものを指差しながらの輝夜の指摘に、妖夢は困った表情を浮かべた。
 すると、一同の視線は再び一人の人物に集まった。

「……紫様、素直に白状してください」
「……ちょっとモンハンにはまってて、つい……」
「うんうん、あれ楽しいもんね♪」

 乾いた笑みを浮かべる紫と、楽しそうに笑う愛梨。
 その様子を見て、六花が大きくため息をついた。

「……愛梨も共犯ですのね」
「ううん、ちがうよ♪ 僕がやったのはみんなを呼び出したところまでだよ♪」
「……みんな?」

 愛梨のその一言に、その場の全員が凍りついた。
 後日、様々な竜種が幻想郷に溢れ、ハンターと化した妖怪達が暴れまわったのは余談である。

 輝夜が胃薬を飲んできたところで、舞台は再開される。


 * * * * * 


『猫のお嬢は用意させていた長靴を履いて服装を整えると、剥製を持って王様のところへとやってきました』

「失礼します。カラバ公爵からの献上の品をお持ちしました」
「カラバ公爵? はて、聞いたことのない名前だが……」
「最近になって代替わりした方ですので、こちらに名前が届いていないのでしょう」
「なるほど……確かに受け取ったぞ。時に、貴殿の名前は何と言うのかな?」
「橙と申します」
「ふむ……分かった、その名を覚えておこう」
「ありがとうございます。では、これにて失礼致します」

『お嬢はそれから王様に何度も贈り物を贈りました。品物が偏らないように、剥製を売って作ったお金で高い美術品を贈ったりもしました。そんなことをしている間に、王様とお嬢はどんどん仲良くなっていきました。そんなある日、お嬢は刀猫と一緒に三男が閉じこもっている山小屋へと向かいました』

「ギルバート、そろそろ出番だよ」
「出番か……って、俺は何をすればいいんだ?」
「川で水浴びをしてて。その後はこっちに任してくれればいいよ」
「ああ、わかった、うぉわっ!?」
「……くれぐれも、余計なことをしないように」
「だから、事あるたびに刀を突きつけるんじゃねえ!!」

『三男はお嬢の指示通り、川に行って水浴びをすることにしました』

「……川に来て水浴びするのはいいものの、このあとどうするんだ……ん?」

『三男が水浴びをしていると、荷物がなくなっていることに気がつきました』

「やられた……まあ、大したもんは入ってないけど、服がないな……」

『三男が困っていると、そこに王様とお姫様が通りかかりました。その前に、猫のお嬢が飛び出してきました』

「王様、大変です! ご主人様が水浴びをしてる最中に、服を盗まれてしまいました!」
「なに? 何故こんなところで水浴びをしていたのだ?」
「ご主人様は自分の眼で民衆がどんな暮らしをしているかを調べるために、平民と同じことをすることがあるんです」
「……ふむ。分かった、ほかならぬ貴殿の頼みだ。助けてやるとしよう」

『王様はそう言うと、服を無くした三男を助けてやることにしました』

「ありがとうございます、国王陛下」
「ふむ、貴殿がカラバ公爵だな。橙から話を聞いている。……ふむ」

『王様は三男を見て、何やら考え事のようです』

「……ふん!」
「ふっ!」
「デッド○ーレイヴ!」
「レイジン○ストーム!」
「ちょ、お父様!?」
「ご主人様!?」

『突然激しい殴り合いを始めた王様と三男に、お姫様とお嬢はびっくりしました』


 * * * * *

「はいカーーーーット!」

 輝夜はイライラした表情で、脚本で肩を叩きながら舞台上で激しい戦闘を繰り広げる親子に声をかけた。

「あんたら……舞台の最中に何やっているわけ?」
「む? 護衛もつけずに一人で無防備な姿を晒すと言うことは、自身の腕に余程自信があると言うことであろう。俺は王としてそれを確かめただけだ」
「俺はただそれに反応しただけだぞ?」
「国王直々に殴りに行くのはおかしいでしょ!? それに家臣の猫がその場に居たでしょうが! それも護衛が出来そうな奴が!!」

 キョトンとした表情を浮かべるアルバートとギルバートに、輝夜は叫ぶように指摘する。
 それを聞いて、二人は何とも言えない気まずい表情を浮かべた。

「……まあ、その、なんだ……」
「……いつもの癖でついやっちまったぜ?」
「つい、じゃなーーーーーい!!」

 二人の言い訳に、輝夜は天に向かって思い切り吼えるのだった。

 肩で息をする輝夜の合図で、舞台は再開される。


 * * * * *


『互いの拳を認め合った王様と三男は意気投合し、三男はお城に招かれることになりました。三男はちょうどサイズが同じだった使用人の服を借りて、中庭に居ます』

「はぁ……まさか本当に公爵になっているとはな……」
「……全くだな」
「本当に驚きだね」

『すると、いつの間にか長男と次男が三男の隣に立っていました。三男は突然のお兄さんの登場に大いに驚きます』

「兄貴達!? 何でここに居るんだ!?」
「……なに、お前の飼い猫を名乗る猫からお前の現状を聞かされてな」
「少しばかり手伝ってやろうってことになっただけさ」
「……と言うわけで、俺達はしばらくの間お前の使用人と言うことになる」
「御用の際はお気軽にお申し付けください。では」

『お兄さん達はそう言って笑うと、三男から離れていきます。それと入れ替わりに、お姫様が三男に近づいてきました』

「さっきはごめんなさいね。お父様がいきなり殴りかかったりして」
「気にすることはありませんよ。ああ言うのは慣れていますから」
「慣れている?」
「ああっと……使用人からいざと言うときの備えということで、ちょっとした戦闘指南を受けていたのです」
「そう……それじゃあ……」
「……いかが致しましたか?」
「いいえ、何でもないわ。それより、少しお話をしましょう? 貴方とは話がしたいと思っていたのよ」

『お姫様は三男と話をして、楽しい時間を過ごしました。そしてそれ以来、三男はカラバ公爵としてお城に招かれるようになりました。そんなある日のこと、王様が領地の巡回に行くと言う話を猫のお嬢の部下が聞きつけました』

「お嬢、国王は魔王の領地を視察するようです。作戦実行のチャンスですよ」
「そうだね。それじゃあ宜しく頼んだよ、妖夢」
「はい。命に代えても成功させてきます」
「……そこまで言わなくても……」

『刀猫は部下(演者:雷禍)をつれて王様に先駆けて魔王の領地に行くと、そこの農家の人達(演者:人里の方々)を集めました』

「魔王様からの伝令です。これから某国の国王がここを通りますので、誰の土地かと聞かれたらカラバ公爵の土地だと言って下さい」
「言わなかったら、どうなるのかね?」
「……雷禍さん」
「おう」

『刀猫の部下が頷くと、晴れていた空が一気に雲に覆われ、強い雨と風が出て、雷が鳴り始めました。それを見て、部下はニヤリと笑いました』

「オラオラ、言うこときかねえと嵐でみんなぶっ飛んじまうぜ? 返事はどうしたぁ!?」
「は、はいぃぃぃ!!」

『刀猫の部下の力を前に、農家の人達は刀猫の言うことを聞くことを約束しました』


 * * * * *


「ちょっとカット」

 輝夜はそう言って舞台を一度止めた。
 そして、額に手を当ててうつむいた。

「……刀猫の部下のほうがよっぽど魔王らしい件について」
「まあ、見た目派手だし、魔法みたいなことしてるからな……」

 輝夜の発言に妹紅がそう言って同意する。
 それを聞いて、輝夜は小さくため息をついた。

「でも、彼の出番これで終わりなのよね」
「なぁ!? おい、俺の出番これだけかよ!?」
「うん、終わり。お疲れ様~」

 輝夜は雷禍に対してそう言って手をひらひらと振った。
 その行為に対して、雷禍は猛抗議を始めた。

「待てやぁ! 何だそのぞんざいな扱いは!? 嵐起こすぞテメェら!」
「……話が進まないから引っ込んでくださいまし」
「……へい」

 六花の手によって首に包丁が突きつけられると、雷禍は一瞬で大人しくなった。

 雷禍が体育座りをして自らの扱いについて考え始めた頃、舞台が再開される。


 * * * * *


『領地の視察に来た王様は農家の人達の話を聞いて、カラバ公爵の持つ広大な領地に感心しました。一方、三男はお姫様に呼ばれてお城に居ました』

「こんにちは、公爵様。呼びつけてごめんなさいね」
「いえ、特に気にすることはございませんよ。ところで、今日はどんなお話をしましょうか?」
「そんなに堅苦しい言葉遣いをする必要は無いわよ。ただの話し相手なんだから」

『お姫様は三男のことが気に入ったらしく、時間を見つけては呼び出すようになりました。そんなある日のこと、王様はそのカラバ公爵を城に呼びました』

「良くぞ来たな、カラバ公爵。この度は貴殿に話があって呼びつけた」
「話、ですか?」
「うむ。実は、貴殿に……」

『王様が話をしようとすると、突如として強い風が吹き荒れました。それが止むと、王様の前には気絶したお姫様を抱いた黒い翼の魔王が立っていました』

「返答の期限だ、国王陛下。姫君は頂いて行く」
「何!? 私は何も答えては居ないぞ!」
「お前は私の質問に沈黙を持って答えた。その沈黙、是と取らせてもらった。首を横に振らなかった自分を呪うがいい」

『魔王はそう言うと、お姫様と一緒にすうっと消えていきました。王様はそれを見て、がっくりと膝を突きました』

「……何と言うことだ……」
「……陛下。魔王の城は何処にあるかご存知ですか?」
「知っているが……貴殿はまさか……」
「ご主人様! 魔王を追いかけますよ!」
「ああ、わかった! ……そう言うわけですので、失礼します!」

『三男は猫やお兄さん達と一緒に魔王が飛んでいった先に向かいます。そして城に着くと、早速作戦会議を行いました』

「……ギルバート、お前は姫を助けに行け。残りの連中で魔王を片付けるぞ」
「ねえ、魔王とは先に私にお話させて?」
「良いけど、何か考えがあるのかいぃ!?」
「……あるに決まってるでしょう。お嬢が考え無しにそんなことを言うと思ってるんですか?」

『刀猫は次男の首に刀の刃を押し当てます。そう言って黙らされている間に、猫のお嬢は魔王のところへと向かいました』

「……何だお前は?」
「貴女が魔王ね?」
「そうだが、何か用か?」
「魔王がどんなものか見に来たのよ。お前が本当に魔王なら、私の挑戦を受けてみろ!」
「良いだろう。受けて立とうじゃないか」
「それじゃあ、虎に化けてみろ!」
「何だ、そんなことで良いのか? そらっ」

『魔王はそう言うと、いとも簡単に虎の姿になりました。それを見て、猫のお嬢は少し怖がりながら次の課題を言いました』

「どうだ?」
「……ふふん、今のはお前が化けられるか確かめただけだ! いくらお前でも龍には化けられないだろ!」
「その程度が出来ぬと思ったか? それっ」

『魔王はそう言うと、あっさり龍の姿になりました。大きな龍の姿に、猫のお嬢はかなり怖がりながらも次の課題を口にします』

「何か文句はあるか?」
「へ、へ~んだ、どうせでかいのしか化けられないんだろ! 悔しかったらネズミに化けてみろ!」
「断る」
「……え? 何でよ?」
「何で猫であるお前を前にして、その獲物であるネズミに化けねばならんのだ? 生憎とその手に乗るほど私は馬鹿ではない。早々に帰るが良い」


 * * * * *


「カット……カットカットカットカットカットカットカットカットカットカットカットカットカットカットカットカットォ!!」

 輝夜はそう叫びながら、電話帳を真っ二つに手で引き裂いた。
 そしてそれを放り投げると、天魔の元に走り襟首を掴んで詰め寄った。

「ねえ、あんたやる気あんの? あんたがネズミに化けないと話が続かないんだけど?」
「だからと言って、相手の口車に乗るような愚行を犯せと? 冗談ではない。私はそんなことはせん」
「だから! これは! 童話の! 劇だって! 言ってんでしょうが!!」

 輝夜は天魔をがくがくと揺さぶりながらそう怒鳴り散らす。
 それを聞いて、天魔は肩をすくめて深々とため息をついた。

「……やれやれ、相変わらず注文の多い監督だ……そんなに叫んでいてはそのうち喉が潰れるぞ?」
「その原因を作ってるのはあんた等でしょうがぁーーーーーーーーーー!!!!」

 天魔の指摘に、輝夜は天まで届かんばかりの咆哮をあげた。

 ボンベからの酸素吸入を行う輝夜の合図で、舞台は再開される。


 * * * * *


「……どうやら、話しても聞かん相手のようだな……」
「お嬢、ここは下がりましょう」

『途方にくれている猫のお嬢の前に、長男がやってきて魔王の前に立ちました。それと同時に、刀猫が猫のお嬢の手を引いて後ろに下がります』

「ほう? なら、貴様はどうするというのだ?」
「……知れたこと。口で言って聞かぬのなら、腕ずくで聞かせるまでのことだ」
「くくっ、面白い。やれるものならやって見せろ!」

『そ、そう言い合うと、長男と魔王は激しく戦い、うわぁ!?』


 * * * * *

「カット! ちょっと、誰かこの戦い止めて!」
「とは言ってもどうするんだよ!? 下手に手を出しても近づく前にやられるぞ!?」

 槍や弾丸が激しく飛び交う舞台から逃げながらの輝夜の言葉に、妹紅がそう答える。
 将志と天魔の激しい戦いは周囲にたくさんの流れ弾を生み出し、その戦いの余波は演劇を続行不可能なものにしていた。
 そんな二人を見て、銀月は額に手を当ててため息をついた。

「……はあ……咲夜さん、少し手伝ってくれる?」
「いいけど、何をすればいいの?」
「まずは時間を止めて。俺も能力使って中で動くから」
「ええ、分かったわ」

 咲夜はそう言うと、時間を止めた。
 周囲の景色が色を失い、セピア色に染まっていく。
 そんな中、一人色を失わなかった人物に対して咲夜は話しかけた。

「それで、どうするの?」
「父さんの頭を一発軽く叩けばいいよ。天魔様は俺に任せて」
「え、ええ」

 眼を翠色に光らせる銀月に頷くと、咲夜は将志の頭を軽く叩いた。

「やっ!」

 その一方で、銀月は天魔の頭を神珍鉄の黒い槍で叩いていた。
 鈍い音が当たりに響き渡り、かなりの衝撃が伝わっていることであろうことが分かる。

「もう大丈夫だよ。時間を元に戻して」
「了解」

 銀月の指示で咲夜は時間を再び動かす。

「がっ!?」
「うっ!?」

 すると、争っていた二人は地面に落ちて伸びてしまった。
 二人とも気絶しており、動く気配は無い。
 咲夜は二人の様子を恐る恐る確認する。

「……収まった?」
「よし、これで大丈夫だね。ありがとう、咲夜さん」
「どう致しまして」

 咲夜は礼を言う銀月の頭をそう言いながら撫でる。
 しばらくその状態が続いた後、銀月は口を開いた。

「……あの、劇に戻りたいんだけど」
「……あら、撫で心地が良いものだからつい」

 咲夜はそう言うと、ようやく撫でるのをやめた。

 輝夜が胃の辺りに重たいものを感じ始めるが、舞台は再開する。


 * * * * * 


『魔王と長男の激しい戦いは二人の相打ちで終わりました。長男はその場に倒れ、魔王は煙となって消えてしまいました。そこに、姫を連れた三男が戻ってきました』

「……これはいったい何が起きたんだ?」
「えっと、魔王と将志が相打ちになったの」
「……兄貴」
「お兄さん? あの使用人、貴方のお兄さんだったの?」
「……詳しいことは後で話します。とにかく、今は陛下の元へ帰りましょう」

『三男はお姫様を連れてお城に戻ろうとします。ところが、次男が付いてきません。そんな次男に、刀猫が声をかけます』

「何をしてるんですか? 早く戻りますよ?」
「……くくく、茶番だな。実に無意味な犠牲だ」
「……兄貴?」
「ははははははは! いや、面白い! 良くぞ我が影武者を倒してくれた! 最高の茶番だ! ははははははは!」

『次男は突然狂ったように笑い始めました。その言葉を聴いて、三男は次男の前に立ちました』

「……お前……まさか魔王か?」
「いかにも。今まで暇つぶしに人間の生活を送っていたがな。しかし、その果てにこのようなものが見られるとは思ってもいなかったぞ!!」
「……兄貴はどうした」
「お前の兄? ああ、この姿の本来の持ち主か。それなら食ったぞ? お前の兄はなかなかに美味であったな」
「……テメェ……」
「……さあ、今度はお前達の番だ。お前達はどんな味がするのかな?」

『次男はそう言うと眼を翠色に光らせました。それを見た瞬間、全員身構えます』


 * * * * *


「Cut, ……life led break down, beckon for the fiction! ……駄作!!!」


 輝夜は胃の辺りを押さえながらそう言うと、銀月の元へと駆け寄った。

「ねえ、あんた何のつもり? 魔王は倒れたのにそんなことしてどうするの?」
「えっと、ちょっと良いかな? 提案があるんだけど……」
「……何よ?」
「橙ちゃんに花を持たせてあげたいんだ。ほら、これ元々橙ちゃんのための劇だったし……」

 銀月はそう言って輝夜の表情を伺う。
 すると、輝夜はほろりと涙をこぼした。

「……あんたが初めてよ……そういうこと言うの……」
「それは良いとして、どうするんだ? そう都合よく行くのか?」
「そのために……レミリア様?」

 妹紅の質問に対して、銀月はそう言って小さな吸血鬼の方を見た。
 するとレミリアは、むすっとした表情で銀月を見返した。

「何よ、何か用?」
「お手数ですが、少し運命を操って頂きたいのですが……構いませんか?」
「……何で私がそんなことしなきゃなんないのよ」
「ここで寛大なところを示しておけば、後で良い事があるかもしれませんよ? 例えば、次の劇で良い役を貰えたりとか。それに、私も貴女様の言うことを一つ可能な限り聞きますよ?」
「……分かったわよ。その言葉、よく覚えておきなさいよ」

 レミリアは不機嫌さを隠そうともせずにそう言った。
 その様子を見て、妹紅はキョトンとした表情で首をかしげた。

「なあ、あいつ何であんな不機嫌なんだ?」
「劇で役を貰えなかったのが不満だったみたいです。まあ、次に期待させるとしましょう」

 そんな妹紅の質問に、銀月は苦笑しながらそう答えるのであった。

 輝夜が八意印の胃潰瘍の特効薬を飲んだあとで、舞台は再開される。


 * * * * *


『三男と猫達はを魔王となった次男相手に戦い始めました。しかし魔王の力は強く、三男は苦しい戦いを強いられます』

「ははは、どうした! その程度か!?」
「やあああああ!」
「遅い!」
「うわあっ!」

『刀猫は魔王に斬りかかりますが、魔王が振るう槍に弾き飛ばされてしまいました』

「妖夢!?」
「余所見をしてる場合か?」
「きゃあ!?」

『猫のお嬢も魔王に弾き飛ばされ、刀猫のところに転がります』

「はああああ!」
「ふっ、その剣では私には届かんぞ?」
「このぉ!」

『三男は剣を取って果敢に魔王に攻め込みます。でも、魔王は強くて、なかなか攻撃を当てることが出来ません。そんな中、猫のお嬢はゆっくりと立ち上がります』

「……ううっ……まだ……」

『猫のお嬢は横に落ちていた刀猫の刀を手に取りました。そしてそれを持って魔王に向かって走っていきました』

「わああああああ!」
「むっ?」
「そこだ!」

『魔王が猫のお嬢に気をとられたところを、三男は思いっきり剣を振るいます。すると槍は弾き飛ばされ、魔王は体勢を崩しました』

「しまった!」
「えーーーーーーい!」
「ぎゃああああああああ!」

『そして、その魔王の胸を猫のお嬢の刀が深々と貫きました。それを受けて、魔王はその場に膝をつきます』

「……くっ……見事……ふふっ、良いだろう……私の全て、持って行くがいい……がはっ……」

『魔王はそう言うと地面に倒れ、強い光と一緒に消えてなくなりました。三男はそれを確認すると、避難していたお姫様のところへ向かいます』

「……お怪我はございませんか、姫様?」
「え、ええ……それよりも、お兄さんは……」
「……もう、良いんです」
「……そんな……」

『悲しそうな表情の三男に、お姫様は何て声をかけたら良いのか分かりません。そんな時、後ろでドアが開く音が聞こえました』

「あ、あれ、ギルバート? 何でここに居るんだ? て言うか、ここ何処だ?」

『扉を開けてでてきたのは、死んだはずの次男でした。その姿を見て、三男は思わず身構えます』

「魔王!? まだ生きていたのか!?」
「魔王? 何で俺が魔王になるのさ? というか本当にここ何処? 気がついたらここに居て訳が分からないんだけど……」
「……本当に兄貴なのか?」
「え? それ以外の誰に見えるんだい?」

『三男の質問に、次男はキョトンとした表情でそう答えます。それを聞いて、三男はホッとした表情を浮かべました』

「……何だ……生きてたのか……心配させやがって」
「えっと……なんだか分からないけど、ごめん」
「……っ……俺は……」
「うおわっ!? 何だ、そっちも生きてたのか!?」
「……勝手に殺すな」

『次男と話している脇で、長男もむくりと起き上がります。それを見て、三男は驚くと同時に嬉しそうに笑いました』

「っと、橙、妖夢、無事か?」
「う、うん。私は大丈夫」
「……はい。私も何とか無事です」

『三男の問いかけに、猫のお嬢と刀猫は答えます。その横で、お姫様は困り顔です』

「えっと……全員無事ってことで良いのかしら?」
「はい。では、お城に戻りましょう!」

『こうして一行はお姫様を取り戻し、ついでに魔王の城と土地と財産を手に入れてお城に戻ります。そして帰ってきたお姫様を見て、王様は立ち上がって喜びました』

「おお! 良くぞ帰ってきてくれた! 怪我は無いか?」
「ええ、彼らのおかげで無事よ」
「そうか……公爵殿。貴殿等の働きによって姫が無事に帰ってきた。礼を言うぞ」
「……いえ、当然のことをしたまでです」
「……ところで一つ提案なのだが、公爵殿……娘の婿になってはくれぬか?」

『国王の突然の提案に、三男とお姫様は目をぱちくりとさせました』

「お父様?」
「私を婿にですか?」
「そうだ。二人とも、不満か?」
「いいえ、私は不満なんか無いわよ」
「……こちらも不満などございません」
「よし! では、早速婚礼の準備に取り掛かろう! さあ、これから忙しくなるぞ!」

『それから、あっという間に準備が進み、二人は結婚式の日を迎えました。三男は白いスーツを着て、お姫様は綺麗なウェディングドレスを着ています』

「それにしても、本当に王子様になるなんてな……」
「えっと……緊張してる?」
「当たり前だ。こちとら一月半前は文無しの平民だったんだぞ?」
「そ、そうだったわね……で、でも、これからは一国の王子としてちゃんとしてもらうわよ!」
「……それはいいけどな、そっちが俺より緊張してどうするんだよ……」
「う、うるさい! さあ、さっさと終わらせるわよ!」
「はいはい。それじゃあ、行きますか!」

『こうして二人は結婚し、三男は王子様になって幸せに暮らしました。そして、三男を陰で支えてきた猫達はと言うと、』

「……平和ですね、お嬢」
「うん……他のみんなは?」
「縄張りの警備に向かってますよ」
「……今日は何しようかなぁ」
「久しぶりにネズミでも捕まえますか?」
「……そうだね」

『……貴族の生活を心行くまで楽しんだのでした。めでたしめでたし♪』


 * * * * *


「はい、これでお話は終わりだよ♪ みんな、聞いてくれてありがとー♪」

 愛梨はそう言って劇の終わりを宣言する。
 その瞬間、輝夜はその場に崩れ落ちた。

「……な、何とか無事に終わったわね……」
「……声が掠れているぞ、輝夜」
「……もう舞台監督なんてしたくないわ……大声出すのいやぁ……」

 妹紅の言葉に、輝夜は泣きそうな声でそう返した。
 そんな二人のところに、銀月がお茶を運んできた。

「あはは……二人とも、お疲れ様。お茶どうぞ」
「……もらうわ」
「お、悪いな銀月。それにしても、お前あんな悪役も出来るんだな」
「そりゃあ、役者志望だもの。あれくらい出来ないとね」

 妹紅の言葉に、銀月は笑みを浮かべてそう答えた。
 そんな銀月の服の袖を、霊夢が引っ張った。

「銀月、私にもお茶ちょうだい」
「そう言うと思って持ってきてあるよ」

 銀月はそう言うと霊夢にお茶を渡すのだった。
 
 その横では、妖夢が幽々子と話をしていた。

「お疲れさま、妖夢。なかなか良かったわよ」
「ありがとうございます、幽々子様。私も結構楽しめました」
「それは良かったわ。それじゃ、次やるとしたらどんな役がやりたい?」
「あ、私殺陣がやりたいです。悪人達をばっさばっさと斬り捨てる役がいいです」

 妖夢は眼を輝かせて幽々子にそう言った。
 それを聞いて、幽々子は少し引きつった笑みを浮かべた。

「……えっと、ストレス溜まってる?」
「……? いいえ、そんなことはありませんよ?」
「そ、そう……」

 首をかしげる妖夢に、幽々子は乾いた笑みを浮かべるのだった。



「橙、劇をやってみてどうだった?」
「楽しかったよ、藍さま!」

 藍の問いかけに、橙は満足そうな表情でそう答えた。
 それを聞いて、藍も満足げに微笑む。

「そうか、それは良かった。見せ場があってよかったな」
「うん! でも、劇って台本通りに進まないものなんだね」
「……橙、それは違うぞ……」

 藍は橙の言葉にガクッと肩を落とした。
 それと同時に、何か思い出したように辺りを見回し、目的の人物に声をかけた。

「……ところで将志。ひとつ話があるのだが」
「……どうした?」
「……お前、あと少しで橙が楽しみにしていた劇そのものを潰しかねなかったって、分かってるな?」

 藍がにこやかな笑みを浮かべてそう問いかける。
 すると、将志の顔からサッと血の気が引いていった。

「…………それに関しては申し訳なく思っている」
「殊勝だな。でも、それじゃあダメだ。あとでちゃんとお仕置きしないとなぁ?」

 藍は妖艶な笑みを浮かべて将志の頬を撫でた。
 すると将志の背筋にぞくりとしたものが走った。

「っ……藍、それはお前がそうしたいだけでは……」
「だとしても、そうするだけの被害はあったんだ。絶対に受けて貰うからな、将志?」
「…………」

 藍の一言に、将志は完全に沈黙した。
 そんな二人に、橙が話しかけた。

「藍さま? どうかしたの?」
「ああ、私は少し彼と話があるからな。橙はその間六花のところにでも行っててくれるか?」
「うん、分かったよ、藍さま!」

 橙はそう言うと、元気良く赤い長襦袢の女性の元へと走って行った。
 それを見送ると、藍は将志に眼を向けた。

「それじゃあ行こうか、将志」
「……どうしてこうなった……」

 将志は藍に腕を取られ、ずるずると引きずられていくのだった。




「おい、魔理沙。何でそんなに不機嫌なんだ?」

 ギルバートは見るからに不機嫌そうに腕を組むモノトーンの服を着た金髪の少女に声をかける。
 すると、魔理沙は小さく鼻を鳴らしてそれに答えた。

「……お前、アリスと私じゃ全然態度違うんだな」
「そりゃそうだ。お前とアリスは違うからな。たぶん、お姫様がお前だったらああいう風にはならなかっただろうよ。そもそも助けに言ったかどうかも怪しいもんだ」
「はあ!? 何だよそれ!?」
「だってよ、お前の場合さらわれたって絶対自力で抜け出してくるだろうが。そんな奴をわざわざ助けに行くなんて無駄だ。第一、お前にああいう役は似合わないにも程がある」

 心外そうに声を上げる魔理沙に、ギルバートは理由を述べる。
 すると魔理沙は、悔しそうに地団太を踏んだ。

「く~っ! 言いたい放題言いやがって! 分かったよ! そうまで言うならやってやろうじゃないか! お~い! この劇お姫様を私に代えてもう一回やろうぜ!」
「おい、魔理沙落ち着け! 今日はもう無理だっての!」
「うるさい! こうなったら意地でもやってやるぜ! ギル、お前は三男固定だからな! お~い! みんな~!」

 魔理沙はそう言いながら人ごみの中へと走っていった。
 ギルバートはそれを止めようとするが、間に合わない。
 その結果、彼の手は行き場をなくしたように宙にとどまるのだった。

「あ、おい……行っちまったか……」
「苦労してるのね、貴方」

 そんなギルバートに声をかける人物がいた。
 それは、先程劇の中では夫婦の仲となった人物であった。

「ん、アリスか。まあ、いつものことだ。それよりも、今日はお疲れ」
「貴方ほど出番は無かったから、疲れては無いわよ。それに、お姫様役はそれなりに楽しかったしね」
「そうかい。で、ウェディングドレスを着た感想は?」

 ギルバートは何とはなしにアリスにそう尋ねる。
 するとアリスは、少し顔を赤くして言葉を返した。

「な、何でそれを聞くのよ?」
「そりゃあ、女の子なら誰だってあこがれるものじゃないのか? 劇とはいえ着る事になったんだから、何か感想はあるかなって思ってな」

 明らかに動揺しているアリスに、ギルバートは特に何とはなしにそう答えを返した。
 それを聞いて、アリスは肩透かしを食らったような表情を浮かべたあと、大きく咳払いをした。

「ま、まあ、悪くは無かったわ。ウェディングドレスを着た人形を作ってみるくらいは考えたわよ。そういう貴方はどうなのよ?」
「どうって……男は白いスーツなんて着ようと思えばいつでも着られるからな……流石に全身真っ白って言うのはほとんどねえけど」

 ギルバートは白いスーツの感想を簡単に述べる。
 それを聞いて、アリスはつまらなさそうにため息をついた。

「……はぁ……つまらないわね」
「そいつは悪いな。んじゃま、この後打ち上げをやるみたいだし、行こうぜ」
「そうね」

 二人はそう言い合うと、宴会の準備を始めている中へと入っていった。


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