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No.29218の一覧
[0] 銀の槍のつらぬく道 (東方Project) [F1チェイサー](2012/05/06 19:25)
[1] 銀の槍、大地に立つ[F1チェイサー](2012/08/06 21:18)
[2] 銀の槍、街に行く[F1チェイサー](2012/08/06 21:22)
[3] 銀の槍、初めて妖怪に会う[F1チェイサー](2012/08/06 21:26)
[4] 番外:槍の主、初めての友達[F1チェイサー](2012/08/06 21:51)
[5] 銀の槍、その日常[F1チェイサー](2012/08/06 21:30)
[6] 銀の槍、別れ話をする[F1チェイサー](2012/08/06 21:38)
[7] 番外:槍の主、テレビを見る[F1チェイサー](2012/08/06 21:56)
[8] 銀の槍、意志を貫く[F1チェイサー](2012/08/06 21:45)
[9] 銀の槍、旅に出る[F1チェイサー](2012/08/06 22:14)
[10] 銀の槍、家族に会う[F1チェイサー](2012/08/06 22:04)
[12] 銀の槍、チャーハンを作る[F1チェイサー](2012/08/06 22:26)
[14] 銀の槍、月を見る[F1チェイサー](2012/08/06 22:31)
[15] 銀の槍、宴会に出る[F1チェイサー](2012/08/06 22:39)
[16] 銀の槍、手合わせをする[F1チェイサー](2012/08/06 22:46)
[18] 銀の槍、迷子になる[F1チェイサー](2012/08/06 23:08)
[20] 銀の槍、奮闘する[F1チェイサー](2012/08/06 23:18)
[21] 銀の槍、家を持つ[F1チェイサー](2012/08/06 23:29)
[22] 銀の槍、弟子を取る[F1チェイサー](2012/08/06 23:36)
[23] 銀の槍、出稼ぎに出る[F1チェイサー](2012/08/06 23:46)
[24] 銀の槍、振り回される[F1チェイサー](2012/08/06 23:58)
[26] 銀の槍、本気を出す[F1チェイサー](2012/08/07 00:14)
[27] 銀の槍、取り合われる[F1チェイサー](2012/08/07 00:21)
[28] 銀の槍、勧誘される[F1チェイサー](2012/08/07 00:28)
[29] 銀の槍、教壇にたつ[F1チェイサー](2012/08/07 00:34)
[30] 銀の槍、遊びに行く[F1チェイサー](2012/08/07 00:43)
[31] 銀の槍、八つ当たりを受ける[F1チェイサー](2012/08/07 00:51)
[32] 銀の槍、大歓迎を受ける[F1チェイサー](2012/08/07 00:59)
[33] 銀の槍、驚愕する[F1チェイサー](2012/08/07 01:04)
[34] 銀の槍、大迷惑をかける[F1チェイサー](2012/08/07 01:13)
[35] 銀の槍、恥を知る[F1チェイサー](2012/08/07 01:20)
[36] 銀の槍、酒を飲む[F1チェイサー](2012/08/07 01:28)
[37] 銀の槍、怨まれる[F1チェイサー](2012/08/07 01:35)
[38] 銀の槍、料理を作る[F1チェイサー](2012/08/07 01:45)
[39] 銀の槍、妖怪退治に行く[F1チェイサー](2012/08/07 02:05)
[40] 銀の槍、手助けをする[F1チェイサー](2012/08/07 02:16)
[41] 銀の槍、説明を受ける[F1チェイサー](2012/08/07 02:19)
[42] 銀の槍、救助する[F1チェイサー](2012/08/07 02:25)
[43] 銀の槍、空気と化す[F1チェイサー](2012/08/07 02:29)
[44] 銀の槍、気合を入れる[F1チェイサー](2012/08/07 02:35)
[45] 銀の槍、頭を抱える[F1チェイサー](2012/08/07 02:47)
[46] 銀の槍、引退する[F1チェイサー](2012/08/07 02:53)
[47] 銀の槍、苛々する[F1チェイサー](2012/08/07 03:00)
[48] 銀の槍、一番を示す[F1チェイサー](2012/08/07 04:42)
[49] 銀の槍、門番を雇う[F1チェイサー](2012/08/07 04:44)
[50] 銀の槍、仕事の話を聴く[F1チェイサー](2012/08/07 04:47)
[51] 銀の槍、招待を受ける[F1チェイサー](2012/08/07 04:51)
[52] 銀の槍、思い悩む[F1チェイサー](2012/08/07 04:59)
[53] 銀の槍、料理を作る (修羅の道編)[F1チェイサー](2012/08/07 05:04)
[54] 銀の槍、呆れられる[F1チェイサー](2012/08/07 05:15)
[55] 銀の槍、心と再会[F1チェイサー](2012/08/07 05:38)
[56] 銀の槍、感知せず[F1チェイサー](2012/08/07 11:38)
[57] 銀の槍、心労を溜める[F1チェイサー](2012/08/07 11:48)
[58] 銀の槍、未来を賭ける[F1チェイサー](2012/08/07 11:53)
[59] 不死鳥、繚乱の花を見る[F1チェイサー](2012/08/07 11:59)
[60] 炎の精、暗闇を照らす[F1チェイサー](2012/08/07 12:06)
[61] 銀の槍、誇りを諭す[F1チェイサー](2012/08/07 12:11)
[62] 銀の槍、事態を収める[F1チェイサー](2012/08/07 12:23)
[63] 番外:演劇・銀槍版桃太郎[F1チェイサー](2012/08/07 12:38)
[64] 銀の槍、人狼の里へ行く[F1チェイサー](2012/08/07 12:52)
[65] 銀の槍、意趣返しをする[F1チェイサー](2012/08/07 13:02)
[66] 銀の槍、人里に下る[F1チェイサー](2012/08/07 14:31)
[67] 銀の槍、宣戦布告を受ける[F1チェイサー](2012/08/07 14:44)
[68] 銀の槍、話し合いに行く[F1チェイサー](2012/08/07 14:54)
[69] 銀の槍、拾い者をする[F1チェイサー](2012/08/07 15:23)
[70] 銀の槍、冥界に寄る[F1チェイサー](2012/08/07 15:05)
[71] 銀の槍、呼び出しを受ける[F1チェイサー](2012/08/07 15:31)
[72] 銀の槍、戦いを挑む[F1チェイサー](2012/08/07 15:38)
[73] 銀の槍、矛を交える[F1チェイサー](2012/08/07 15:46)
[74] 銀の槍、面倒を見る[F1チェイサー](2012/08/07 15:54)
[75] 銀の月、自己紹介をする[F1チェイサー](2012/08/07 16:00)
[76] 銀の月、修行を始める[F1チェイサー](2012/08/07 16:11)
[77] 銀の月、趣味を探す[F1チェイサー](2012/08/07 16:13)
[78] 銀の槍、未だ分からず[F1チェイサー](2012/08/07 16:18)
[79] 銀の月、ついて行く[F1チェイサー](2012/09/15 04:25)
[80] 銀の月、キレる[F1チェイサー](2012/08/07 16:41)
[81] 銀の月、永遠亭へ行く[F1チェイサー](2012/08/07 16:53)
[82] 銀の月、練習する[F1チェイサー](2012/08/07 17:00)
[83] 銀の月、人里に行く[F1チェイサー](2012/08/07 19:53)
[84] 銀の槍、訪問を受ける[F1チェイサー](2012/08/07 19:59)
[85] 銀の月、研修を受ける[F1チェイサー](2012/08/07 20:03)
[86] 銀の月、買出しに行く[F1チェイサー](2012/08/07 20:15)
[87] 銀の槍、蒼褪める[F1チェイサー](2012/08/07 20:21)
[88] 銀の月、止められる[F1チェイサー](2012/08/07 20:29)
[89] 銀の槍、手伝いをする[F1チェイサー](2012/08/07 20:44)
[91] 銀の月、友達を捜す[F1チェイサー](2012/08/07 20:52)
[92] 紅魔郷:銀の月、呼び止められる[F1チェイサー](2012/08/07 20:55)
[93] 紅魔郷:銀の月、因縁をつけられる[F1チェイサー](2012/08/07 21:00)
[94] 紅魔郷:銀の月、首をかしげる[F1チェイサー](2012/08/07 21:07)
[95] 紅魔郷:銀の月、周囲を見回す[F1チェイサー](2012/08/07 21:33)
[96] 紅魔郷:銀の月、引き受ける[F1チェイサー](2012/08/07 21:38)
[97] 紅魔郷:銀の月、鉄槌を下す[F1チェイサー](2012/08/07 21:47)
[98] 銀の月、人を集める[F1チェイサー](2012/08/07 21:52)
[99] 銀の槍、真相を語る[F1チェイサー](2012/08/07 21:57)
[100] 銀の月、宴会を手伝う[F1チェイサー](2012/08/07 22:00)
[101] 銀の槍、己を見直す[F1チェイサー](2012/08/07 22:04)
[102] 銀の月、遊ばれる[F1チェイサー](2012/08/07 22:08)
[103] 銀の月、暴れまわる[F1チェイサー](2012/08/07 22:16)
[104] 銀の月、倒れる[F1チェイサー](2012/08/07 22:24)
[105] 外伝if:清涼感のある香り[F1チェイサー](2012/08/07 22:32)
[106] 銀の槍、検証する[F1チェイサー](2012/08/07 22:56)
[107] 銀の月、迎えに行く[F1チェイサー](2012/08/07 23:04)
[108] 銀の月、脱出する[F1チェイサー](2012/08/07 23:14)
[109] 銀の月、離れる[F1チェイサー](2012/08/07 23:32)
[110] 銀の槍、散歩をする[F1チェイサー](2012/08/07 23:48)
[111] 銀の月、初出勤[F1チェイサー](2012/08/08 00:03)
[112] 銀の月、挑戦する[F1チェイサー](2012/08/08 00:12)
[113] 銀の月、迎え撃つ[F1チェイサー](2012/08/08 00:24)
[114] 銀の槍、力を示す[F1チェイサー](2012/08/08 00:36)
[115] 銀の槍、診療を受けさせる[F1チェイサー](2012/08/08 00:47)
[116] 銀の槍、緩めてやる[F1チェイサー](2012/08/08 00:48)
[117] 銀の槍、買い物をする[F1チェイサー](2012/08/08 00:55)
[118] 銀の月、教育する[F1チェイサー](2012/08/08 01:07)
[120] 番外編:銀槍版長靴を履いた猫[F1チェイサー](2012/08/08 01:09)
[121] 銀の月、見直す[F1チェイサー](2012/08/08 01:37)
[122] 銀の月、調査する[F1チェイサー](2012/09/14 13:28)
[123] 銀の槍、呼び出しを受ける[F1チェイサー](2012/08/08 01:48)
[124] 銀の月、呼びかける[F1チェイサー](2012/08/08 01:49)
[125] 妖々夢:銀の月、数を競う[F1チェイサー](2012/08/08 01:49)
[126] 妖々夢:銀の月、誤解を受ける[F1チェイサー](2012/08/08 01:50)
[127] 妖々夢:銀の月、煽る[F1チェイサー](2012/08/08 01:51)
[128] 妖々夢:銀の月、踊らされる[F1チェイサー](2012/08/08 08:35)
[129] 妖々夢:銀の月、一騎打ちをする[F1チェイサー](2012/08/08 08:47)
[130] 妖々夢:銀の槍、戯れる[F1チェイサー](2012/08/09 13:18)
[131] 銀の槍、感づかれる[F1チェイサー](2012/08/23 07:30)
[132] 銀の月、受難[F1チェイサー](2012/08/29 01:22)
[133] 銀の月、宴会の準備をする[F1チェイサー](2012/09/07 20:41)
[134] 銀の月、宴会を楽しむ[F1チェイサー](2012/09/11 03:31)
[135] 番外編:外来人、心境を語る[F1チェイサー](2012/09/15 04:39)
[136] 銀の月、調べられる[F1チェイサー](2012/09/22 04:21)
[137] 銀の槍、授業参観をする[F1チェイサー](2012/09/28 06:13)
[138] 銀の槍、反転する[F1チェイサー](2012/11/12 03:41)
[139] 番外:演劇・銀槍版三匹のこぶた[F1チェイサー](2012/10/18 21:31)
[140] 銀の槍、報告する[F1チェイサー](2012/10/29 07:14)
[141] 魔の狼、研究する[F1チェイサー](2012/11/12 03:42)
[142] 銀の槍、立会人となる[F1チェイサー](2012/11/24 19:54)
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[29218] 銀の槍、力を示す
Name: F1チェイサー◆5beb2184 ID:398d58fa 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/08/08 00:36
「お~い、ギルバート。調子はどうだ?」
「どうだもくそもねえよ。風でぶっ飛ばされた以外は至って無事だ。そう言うお前も見た目ズタボロな割りにやけにピンピンしてるじゃねえか」
「俺も能力で一応治療は出来るからね。ひどい怪我だけ先に治したのさ」

 全てが終わり、銀月とギルバートは地面に降りて話をする。
 二人とも服はボロボロで、銀月に至っては傷だらけであった。
 辺りの草原は落雷で焼け焦げていたり、大雨でぬかるんでいたりと荒れている。
 そんな中、ギルバートは銀月の能力の使い方にため息をついて首を横に振った。

「……お前、やっぱ人間じゃねえな」
「……父さんからはギリギリ人間って言われてるよ?」
「『ギリギリ』が付く時点でアウトだろ……」

 苦し紛れの銀月の弁明に、ギルバートは呆れ果てた表情でそう言った。
 そんな二人の下に、赤い長襦袢に藤色の帯を巻いた銀髪の女性がやってきた。

「大した怪我が無い様で良かったですわ、二人とも」
「ありがとう、六花姉さん。おかげで大怪我しないで済んだよ」
「俺からも礼を言わせてもらうよ。で、いつから見てたんだ?」
「あの妖怪が嵐を起こすところからですわ。二人とも、なかなかに良い連携でしたわ」
「あはは……結局負けたけどね」

 連携を褒める六花に、銀月はそう言って苦笑いを浮かべた。
 その表情に悔いはなく、出せる全力をつぎ込んだことによる清々しさが表れていた。
 その表情を見て、六花も笑みを浮かべる。

「そこは二人ともまだまだ修行と経験が必要ですわね。何だかんだ言っても相手はかなり戦い慣れしているようでしたし」
「ところで銀月、お前途中からいきなり強くなりやがったけど、ありゃ何だ?」
「あれは父さんから力を引き出したんだよ。まあ、神降しの一種さ。そう言うギルバートこそ、突然魔力や力が跳ね上がったけど、あれは何?」
「ああ、あれか? あれは別のところに溜め込んで置いた魔力を取り込んで、一時的にブーストを掛けたんだ。こいつを飲み込んでな」

 ギルバートはそう言うと、ポケットから飴玉ほどの大きさの青い玉を取り出した。
 その中には黄金色の光が湛えられており、強い魔力を感じることが出来た。
 銀月は羨ましそうにそれを眺める。

「へぇ……つくづく便利な能力だな、君のは」
「お前の能力だって大概だろうが」

 物欲しげな銀月の表情に、ギルバートはそう言い返した。
 実際、銀月の技能はギルバートの能力に匹敵するので当然の反応である。

「それで、何で六花姉さんがここに?」
「つい先程、大きな妖力の塊が結界を超えたと言う報告があったんですの。私はその調査に来たんですのよ」
「で、その先にあれが居たと」

 ギルバートはそう言いながら六花の横に座り込んでいる青い特攻服の男を眺めた。
 すると、頭に角が生えたままの男が抗議の声を上げた。

「おいおいおい、あれ扱いたぁあんまりじゃねえか?」
「やかましい。大体一対一の勝負に最初に水を差したのはお前だろうが。何が勝負を邪魔されるのが嫌いだよ」
「ん~、遊べそうな奴が居たから衝動的にやっちまったぜ?」

 冷ややかな視線を送るギルバートに、雷禍はとぼけた表情でそう答えた。
 それを聞いて、銀月は額に手を当てた。

「……つまり、何にも考えてなかったんだな、君は」
「おう、そうとも言うな」

 呆れ顔の銀月に、雷禍は悪びれもせずに笑いながらそう言った。
 そんな雷禍に六花は大きくため息をついた。

「はぁ……考えも何も無しにあんな戦いをされても困りますわ。それの処理に追われるのは私達ですのよ?」
「…………」

 六花はそう言って雷禍に苦情を言う。
 そんな六花の顔を、雷禍は惚けたようにぼーっと眺めていた。
 その様子に、六花は首をかしげた。

「……どうかしましたの?」

 六花はキョトンとした表情で雷禍に話しかける。
 すると雷禍はハッとした表情を浮かべた後、罰が悪そうに首を振った。

「……あー、いや、何でもねえよ。それで、この後どうするつもりだ?」
「そういえば、自己紹介がまだでしたわね。私は銀の霊峰の槍ヶ岳 六花と言うものですわ。貴方のお名前を聞かせてくださる?」
「轟 雷禍だ。見ていたんなら分かんだろうが、雷獣だ」
「あら、見て分かるようなものでもなかったと思うのだけど?」
「ん?」

 雷禍が話していると、突如としてこの場に居ないはずの女性の声が聞こえてきた。
 その直後、空間が避けて中から白いドレスに紫色の垂をつけた金髪の女性が現れた。
 日傘を指したその女性を見て、六花は右手を上げて挨拶をした。

「あら、見てたんですの、紫?」
「ええ。私だって銀の霊峰の幹部が動くような出来事が起きれば動くわよ。それに、下手をすれば爆弾が爆発する可能性もあったし」
「あー……爆弾って俺の事か? 紫さん」
「正解。花丸をあげるわ」

 銀月の言葉に、紫は人差し指をくるくると回して花丸を描く。
 それを見て、銀月は若干不貞腐れたような表情を浮かべた。

「爆弾かぁ……分かっちゃいるけど、やっぱなぁ……」
「仕方ないわよ。銀月にもしものことがあったら、何をしでかすか分かったもんじゃないもの。それが分かっているんなら、もう少し大人しくして欲しいものね」
「でも、今回ばっかりは仕方ないでしょう?」
「どうだか? 将志から聞いたわよ、貴方地底で鬼と、それもよりにもよって萃香と一騎打ちをしたんですってね? おまけにスペルカードも無しに」
「あー……はい……」

 紫に指摘をされて、銀月はその場で縮こまる。
 その様子に、紫は腰に手を当てて戒めるような視線で銀月の眼を覗き込んだ。

「もう、本当に貴方は無茶ばかりするわね。自分が人間であるって言う自覚が足りないんじゃないかしら?」
「に、人間の自覚って……」

 紫の一言に、銀月はがっくりとうな垂れた。
 人間であろうとしているのに、その自覚が足りないと言われればそれはショックであろう。
 その様子に、隣から派手な笑い声が聞こえてきた。

「カッハッハ! 人間の自覚が足りねえって言われる人間初めて見たぜ!」
「ははははは! おい、言われてるぜ、人外さん?」
「ああもう、お前ら黙れ」

 腹を抱えて笑う雷禍とギルバートに、うんざりとした表情で吐き捨てるように銀月はそう言った。
 そんな銀月の様子に、六花が口を開いた。

「紫さん、仕方ないですわよ。銀月は妖怪の中で育っていますから、思考が人間とはずれていても不思議ではありませんわ」
「……六花姉さん、それフォローじゃなくてトドメ……」

 六花の心をえぐる一言に、とうとう銀月は地面に両手と両膝を付いた。
 そんな銀月を尻目に、六花は話を続ける。

「さてと、話が逸れましたわね。雷禍さん、貴方には説明しないといけない事が沢山ありますの」
「説明?」
「そう。この幻想郷の説明よ」

 そう言うと、紫は幻想郷の説明を始めた。
 内容は幻想郷のあり方やルール、そして各勢力の簡単な説明などであった。
 雷禍はその説明を聞き流すように聞いた。

「……お分かり頂けたかしら?」
「成程なぁ……要するに、ここには外で見かけなくなった連中が集まっているっつーこったな? そん代わり、こっから出るのは厳しいと」
「そう言うことになるわね」

 雷禍は自分が最低限必要だと思った部分だけ紫に告げ、紫はそれに頷く。
 それを見て、雷禍も頷き返した。

「OK、把握したぜ。まあ舎弟も出来たし、しばらくは退屈しそうもねえからいいか」
「げ、あれ本気だったのかよ……」
「当たり前だろうが。六花の姉御も俺の勝ちっつーのは認めたからな」

 嫌な表情を浮かべるギルバートに雷禍はそう言った。
 それを聞いて、六花は額に手を当てた状態で話を止めた。

「ちょっとお待ちくださいまし……姉御?」
「おう。あんだけ見事にやられたのは初めてだったからな。……正直、惚れたぜ」

 雷禍はど直球に六花にそう告げた。
 それを聴いた瞬間、六花の眼がスッと細められた。
 それと同時に、六花の表情が自信に溢れた、余裕のある笑みに変わる。

「……そうですの。で、貴方はどうしたいんですの?」
「そりゃあ、惚れた女はテメエのものにしてぇに決まってんだろ。けど、当然首を縦には振っちゃくれねえよなぁ?」
「当然ですわ。知り合ったばかりの相手にそう言われて首を縦に振るほど、私は安売りはしませんわよ」
「まあ、そうだろうな。ハッ、これから面白くなりそうだぜ」
「あら、貴方にとって恋は遊びなんですの?」

 不敵な笑みを浮かべる雷禍に、六花は試すような視線を投げかけながら微笑む。
 その一言で、雷禍の表情が一変した。

「おい……見くびってんじゃねえぞ! 本気に決まってんだろうが!! 遊ぶための女に惚れたりなんざしねえ!! 俺が惚れたって言うときはな、その女に命を賭けても良いと思ったときだけだ!!」

 凄まじい勢いで恫喝する雷禍。
 六花は眼を閉じ、その言葉を静かに聞き入れる。
 そして、しばらくしてから小さくため息をついた。 

「……それを聞いて安心しましたわ。貴方がこれから何をしてくれるのか楽しみですわ」
「ま、楽しみに待っていてくれや。色々と考えておくからよ」

 二人はそう言うと、小さく笑いあった。
 そんな六花に、紫が近づいてくる。

「……六花、貴女随分手馴れてるわね?」
「こういう手合いはそれなりに相手していますの。男所帯の宴会なんかで結構居るんですのよ」
「その割には少し穏やかではないようだけど?」

 紫は扇を口に当て、意味ありげな微笑を浮かべて六花を眺める。
 よく見ると、六花の額には薄っすらと汗が滲んでいるのであった。
 それを指摘されて、六花はゆっくりと深呼吸をした。

「……慣れているとはいえ、ここまで本気で告白されたのは久しぶりですわよ。酒の勢いとは訳が違いますわ。それに今しがた振ったというのに、あの表情。彼とは長い我慢比べになりそうですわ」
「我慢比べね……彼が折れるのと貴女が惚れるのと、どちらが先かしら?」
「分かりませんわよ、そんな事。ただ、彼はそう簡単に折れたりはしないと思いますわよ」

 六花は涼しい表情で紫にそう答える。
 それを聞いて、紫は興味深げな視線を六花に向けた。

「へえ、その根拠は?」
「彼、楽しそうですもの」

 六花はそう言うと、薄っすらと笑みを浮かべた。
 それはどことなく楽しげなものであった。



 その一方で、男達も集まって話をしていた。
 三人で円陣を組み、こそこそと話をしている。

「おい、銀月、ギルバート。姉御の好みって分かるか?」
「……あのさぁ。何で本人の目の前で俺達に訊くのさ?」

 雷禍の質問に銀月が呆れ果てた表情でそう返した。
 すると、雷禍は居心地の悪そうな表情を浮かべた。

「そりゃあ、あれだ。ちょっとした意地っつーかなんつーか……」
「あんだけ堂々と告白しといてここでへたれるなよ……」
「うるせぇ! リア充の空気漂わせてる奴らが口を出すんじゃねえ!」

 盛大にため息をつくギルバートに、雷禍はそう怒鳴り散らす。
 すると、銀月とギルバートは眼を見合わせた。

「……リア充?」
「……俺達がか?」
「テメエら以外に誰がいるっつーんだよ! 何だか知らねえが、テメエらからは女の気配がしやがんだよ!」

 根拠の無い事を叫ぶ雷禍。
 しかし、それに対して二人は少々考え込んだ。
 そして、再びお互いに眼を見合わせた。

「……心当たりあるだろ、色男」
「……お前だけには言われたくねえよ、色男」

 二人とも相手側に心当たりがあったようで、そう言い合う。

「…………」
「…………」

 無言で見つめあう二人。

「てやっ!」
「おらっ!」

 そしてしばらくすると、二人は同時に相手に向かって飛び蹴りを放った。
 お互いの蹴り足がまっすぐ伸び、空中で交差する。

「おー、漫画で見たな、この対決。北斗飛○拳と南斗獄○拳だったか」

 その様子を、雷禍は楽しそうに眺めるのだった。
 そしていつものように始まる乱闘。

「二人とも、そこまでですわ」
「全く、貴方達は眼を離すとすぐに喧嘩するわね」

 そこに、六花と紫が割って入った。
 六花がギルバートを押さえつけ、紫がスキマで銀月を逆さ吊りにする。

「あ、これはその場のノリって奴で……」
「言い訳しないの。本人にその気が無くても、周りから見れば立派な喧嘩よ」

 紫はそう言いながら銀月のわき腹を指で突きだした。
 すると銀月はそのくすぐったさにびくりと仰け反った。

「はうあっ!? ちょっと紫さん、やめ、うわあっ!?」
「あら、いい反応。貴方、わき腹弱いのね」

 銀月のわき腹を、紫は楽しそうに突きまわす。
 その度に、銀月はそれから逃れようと活きの良い魚の様に暴れまわった。
 そしてしばらく遊ばれた後、銀月は開放された。

「はあ……もう、いきなり何をおうわっ!?」

 今度は搦め手を取られてうつ伏せに押し倒された。
 そしてその上からわき腹をくすぐられる。

「おお、面白れえ。うりゃうりゃ」

 その下手人であるギルバートは、日ごろの恨みを晴らさんばかりに弄り倒す。
 銀月は逃れようともがくが、腕を完全に取られているため身動きが取れない。

「あうっ、うあっ、この、いい加減にしないと!」
「いてぇ!?」

 次の瞬間、ギルバートは横に弾き飛ばされた。
 銀月の札による一撃を横から加えられたのだ。
 そうして自由になると、銀月は素早く立ち上がった。

「全く……そういえば、何で六花姉さんが? 父さんはどうしたのさ?」
「お兄様なら、今人里の巡回に出てますわよ。だから私がお兄様の代理で来たんですの」
「へえ、姉御に兄貴が居んのか?」

 六花の話に興味を持ち、雷禍が話しかけてくる。
 それに対して、六花は頷いて答える。

「ええ、居ますわよ。銀の霊峰の首領を務めるお兄様ですわ」
「銀の霊峰っつーと、幻想郷の軍隊の頭ってか。姉御より強えのか?」
「強いなんてもんじゃないですわよ。私だって一回も勝ったことありませんわ」

 六花は自分の兄の強さを楽しそうに語る。
 すると、雷禍の眼が丸く見開かれた。

「姉御でも勝てねえのか? 俺をあっさり負かしたってのに?」
「そりゃあねえ。ただの付喪神が強さを認められて戦神にまでなった、って言う逸話付きだものねえ」
「……なりたくてなった訳ではないがな」

 紫が逸話を語っていると、銀の髪の青年がやってきた。
 手には黒い漆塗りの柄の槍が握られており、背中には赤い布に巻かれた長物が背負われていた。
 件の戦神になった付喪神である。

「あら、お兄様? 人里の警邏に出ていたのではありませんの?」
「……つい先程報告を受けてな。問題がないと判断してこちらに急行した。……もっとも、来る最中に別の用事が出来たがな」
「別の用事?」
「……ああ。銀月を捜して博麗の巫女が徘徊をしていた。それと、箒に乗った魔法使いがギルバートを捜していた。声をかける義理も無かった故素通りしたが、見つけたら伝えておこうと思ってな」
「その二人ならそこに居るわよ。ついでに貴方のお目当てもね」

 紫の一言を受けて、将志は雷禍のほうを向く。
 そして黒耀の瞳が彼を捉えると、小さく息を吐いた。

「……お前が新参者か」
「おう。テメエが槍ヶ岳 将志か?」
「……如何にも、俺が槍ヶ岳 将志だ。さて、俺の名前を出したという事は俺に何か用か?」
「ハッ、分かってやがるくせによく言うぜ。テメエの眼を見りゃ分かる」

 雷禍は不敵に笑いながら、将志の眼を見てそう言った。
 それを聞いて、将志も楽しそうな微笑を浮かべた。

「……ほう。成程、勘違いであったならば申し訳ないと思って尋ねさせてもらったが、余計な世話だったか」

 将志をそう言うと漆塗りの槍を地面に置き、背負った長物の布を取り払った。
 中からはけら首に銀の蔦に巻かれた真球の黒耀石を埋め込まれた、全身が銀色に輝く直槍が表れた。
 将志はそれを軽く振ると、目の前の挑戦者に笹葉型の穂先を向けた。

「……一撃。これがお前を仕留める為に必要なものだ」

 将志は雷禍の眼を見て、ただ一言そう言った。
 それを聞いて、雷禍は面白そうに笑った。

「言うじゃねえか……後で吠え面掻くんじゃねえぞ!」

 雷禍はそう言うと、刀を抜いて将志に向かっていった。
 相手をかく乱するように動き回りながら将志へと攻め込む。
 そして、将志に切りかかろうとした。

「うっ!?」

 しかし、その自分の真正面に添えられている槍から強烈な威圧感を感じて攻撃を取りやめた。
 雷禍は素早く間合いを取り直して、目の前の相手を見据える。

「……どうした? 俺はただ構えているだけだが?」

 動かない相手に、将志はニヤリと笑いながらそう言った。
 将志は雷禍を正面に据えてただ構えているだけであり、槍は微動だにしていない。
 しかし、雷禍は相手を睨む事しかしていない。

「……どうなってやがる……攻め込めねえだと?」

 雷禍は目の前の男に困惑していた。
 相手はただこちらに槍を向けているだけである。
 しかし、何処にどう攻め込んでも自分が返り討ちにあう未来しか見えないのだ。
 その呟きを聞いて、将志は不敵な笑みと共に口を開いた。

「……それが構えというものだ。構えの一つで場を制する事が出来る。今、この場においては俺は完全にお前の動きを支配しているというわけだ」
「んなら、俺はそれごとねじ切ってやるぜ!」

 雷禍はそう言うと、大きく後ろに跳んで間合いを取ろうとする。
 すると、それと全く同じ速度で将志は間合いを詰めてきた。

「なあっ!?」

 雷禍が驚きの声を上げた瞬間、将志は動きを止めた。
 両者共にその場で立ち止まる。
 将志の槍の切っ先は、雷禍の心臓の前でぴったり止められていた。

「……宣言どおり、一撃だ。これを通していれば、お前は落命していたであろう」

 将志はそう言うと、槍を収めた。
 もはや将志は雷禍を相手にしておらず、全てに決着がついているかのようである。
 そんな将志に、雷禍の口から思わず乾いた笑みが漏れる。
 何故なら、将志は自分と全く同じ速度とタイミングで動いてきたのだ。
 その行動から、雷禍は思いっきり手加減されていたことに気がついたのであった。
 その事実は雷禍の心中に大きな動揺をもたらした。

「……は、はは、いつでもやれたってか?」
「……俺がお前を本気で殺すつもりならば、最初の時点でお前は死んでいる。力が強い故にそれに驕り、技が未熟なままだ。それ故、力量の高い相手にはなす術も無くなるのだ」

 将志は雷禍の敗因を淡々と告げる。
 それを聞いて、雷禍はその場に座り込んだ。

「……化け物が」
「……お前が力でねじ伏せてきた相手も、お前のことをそう思ったことだろうな」

 雷禍の口からもれ出た言葉に、将志はそう言って答える。
 その横から、六花が将志に話しかけた。

「容赦ないですわね、お兄様。何もそこまでしなくとも良いでしょうに」
「……新参者、特にこういう力の強いものに力関係をはっきりと示しておくことは重要なことだ。そのためにも、相手の心を折るような戦い方をせねばならん。それだけのことだ」

 将志は六花に雷禍を叩きのめした理由を淡々と語った。
 するとそこに、新たにやってきた二つの人影が降り立った。
 一人はモノトーンの服装に黒いとんがり帽子を被り、箒を持った魔法使いの少女。
 もう一人は脇の開いた紅白の巫女服を着た黒髪の少女であった。

「お、何だか色々集まってんな。さっきの嵐はこの辺だったと思うんだが……」

 魔理沙は集まっている面々を見てそう話す。
 その横で、霊夢が見知った人影を見つけて話しかけた。

「あれ、紫? それに銀月のお父さん? 何であんた達がここに居るの?」
「……異変の解決なら終わっているぞ? 今回は外部からの侵攻だったが故、そちらではなく我々の管轄だからな」

 将志は霊夢に今回の出来事に関する説明を簡潔に行う。
 するとそこに霊夢達の到着に気がついた銀月とギルバートがやってきた。
 二人はそれぞれに話しかけた。

「あれ、霊夢? どうしてここに居るのさ?」
「いきなり局地的に嵐が起きれば異変を疑うわよ。たまたま外に出てたから、ついでに見ておこうと思ったのよ。そんなことよりここに居たのね、銀月。さあ、早く帰りましょ。あんたの淹れたお茶が飲みたいわ」

 霊夢はそう言うと銀月の手首を掴む。
 その言葉に、銀月は白い眼を霊夢に向けた。

「……まさか外に出た理由ってそれじゃないだろうね?」
「何だって良いじゃない、理由なんて。さあ、早く行きましょ」

 霊夢は笑顔でそう言いながら、銀月の手首をくいくいと軽く引っ張って帰宅を促す。
 それは銀月の質問に対する言外の回答であった。
 そんな霊夢に、銀月は苦笑いを浮かべてため息をついた。

「やれやれ、しょうがないな。まあ、俺も用件は済んだことだし帰るとするか」
「ああ、働いたら何か喉が乾いちゃったわ。ついでだから私も飲んでいこうかしら?」

 博麗神社に帰ろうとする銀月に、紫がそう告げる。
 それを聞いて銀月は考え出した。

「んじゃ、三人分か。えっと、今三人分あるお茶請けは……」
「帰ってから直接見れば良いじゃない。ほらほら、さっさと帰るわよ!」
「うわっ、引っ張るなって!」

 考え込む銀月を、霊夢が強引に手を引っ張って帰る。
 銀月は慌てて思考を中断してそれについて行き、紫もその後に続いて飛んでいった。

 一方、ギルバートは魔理沙に声をかけていた。

「で、何で魔理沙がここに居るんだ?」
「私は霊夢の付き添いだぜ。そんなことよりギル、新しい魔法の術式を組んでみたんだけど、一緒に見てくれるか?」

 魔理沙がそう言うと、ギルバートは額に手を当ててため息をついた。

「おい、お前の師匠はどうしたんだよ。そっちに見せるのが先だろうが」
「ん~、魅魔様よりもギルの方が話しやすいから先に見てもらおうと思ったんだ。お礼にお茶くらい出すから頼むぜ」

 呆れ顔のギルバートに、魔理沙はそう言って食い下がる。
 その様子を見て、ギルバートは苦い表情を浮かべた。

「……その様子じゃお前の家に行くのか。また散らかしたりしてねえよな? この前みたいに俺が入った瞬間雪崩とか勘弁だぞ?」
「お、おう、大丈夫だぜ」

 ギルバートの言葉に、魔理沙はしどろもどろになりながらそう答えた。
 その眼は泳いでおり、明らかに挙動不審である。
 そんな魔理沙を見て、ギルバートは力なく首を横に振った。

「……OK、わかった。今日もまた片づけからだな」
「あ、おい! 大丈夫だって言ってるだろ!」

 諦めたようなギルバートの言葉に、魔理沙が心外だと言った様子で抗議する。
 しかし、ギルバートはそれを一笑に付した。

「この場合のお前の大丈夫は1μたりとも当てにならねえよ。おら、さっさと行くぞ。片づけしてから魔法を見るんじゃ時間が掛かるからな」
「あ、待てよギル~!」

 魔法の森に向かって飛んでいくギルバートを、魔理沙は慌てて追いかけて行った。

 そんな一行を見送ると、六花が将志に声をかけた。

「お兄様、この後どうするんですの?」

 六花が声をかけると、将志は懐から懐中時計を取り出して時間を見た。
 すると、将志の表情が見る見るうちに蒼くなっていった。

「……しまった、藍に戦闘訓練をつける時間を過ぎてしまっている。急がねば……」
「ああ、その必要は無いよ将志」

 急ごうとする将志の隣に、唐突に黄金の九尾を持つ女性が現れた。
 どうやら妖術で姿を隠して近くで見ていたようであった。
 彼女は現れると、将志に正面からそっと抱きついた。

「……藍」

 将志は蒼い顔のまま藍が抱きつくのを受け入れる。
 自分に落ち度があるため、将志は文句の一つも言わない。

「いけないな……待っていたのに何の音沙汰もなし……そして捜しに来てみれば忘れていたとは……全く、涙が出てくるな。私はお前に忘れられるほど小さな存在なのか?」

 藍は妖艶な笑みを浮かべて、少し拗ねたような、それでいて色っぽい声色で将志の耳に囁く。
 そして、将志の耳を甘噛みした。

「ぐあっ!? うっ……?」

 将志の体がびくりと跳ねた瞬間、藍はその眼で将志の黒耀の瞳を覗き込んだ。
 すると将志の瞳が段々と虚ろなものになり、その場に立ち尽くした。
 心ここにあらずといった状態の将志と見て、藍は満足そうにその胸に頬を寄せた。

「……さて、少々お仕置きしないとな。ふふふ……この胸の寂しさ、しっかりと埋めさせてもらうぞ」
「……」

 妖しく笑う藍の言葉にも将志は答えない。
 そんな将志の様子を見て、六花が藍に問いかけた。

「……藍さん、貴方何をしたんですの?」
「心の空白を狙って妖術をかけたのさ。『あらゆるものを貫く程度の能力』も、貫く意思がなければ意味がないからな。驚いて出来た心の隙間を狙えばこの通りさ」
「恐ろしいことをしますわね……」

 藍の所業に六花は思わず後ずさる。
 それを見て、藍は苦笑いを浮かべた。

「ああ、流石にこのまま最後の一線を越えるなんていうことはしないぞ? 私はやはり反応が返ってくるほうが好みだから、ある程度満足したら妖術は解くさ」
「いえ、そう言う問題でも……」

 六花は論点のずれている藍に反論しようとするも、何だか無駄っぽい気がしてやめる。
 すると、藍が思い出したように頷いて口を開いた。 

「ああ、そうだ。橙が六花に会いたいと言っていたぞ。ちょうど今家に来ているんだが、来てもらえないか? 私は少々手が離せないのでね」
「……まあ、仕事自体は愛梨に任せてあるから大丈夫ですわよ。それじゃあ、行かせて頂きますわ」
「よし。では、先に行っているぞ」

 藍はそう言うと、将志に姫抱きにしてもらって空を飛ぶ。
 将志の体を操ってやりたい放題している藍に、六花は思わず苦笑した。

「了解ですわ。と言うわけで雷禍さん、私達はこれで失礼しますわ。私に用があるときは銀の霊峰まで来てくださいまし。では、ごきげんよう」

 六花は笑顔でそう言うと、藍が向かった方向へと飛んでいった。
 後には雷禍が一人で取り残された。
 そして彼は、握りこぶしを作りながら肩を震わせ、大きく息を吸い込んで力の限り叫んだ。





「……リア充共爆発しやがれええええええええ!!!!!!」





 彼の魂の大絶叫は、草原に空しく響き渡った。




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