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No.2921の一覧
[0] アルスラーン電器(現実→憑依TS)[三行](2008/04/20 23:08)
[1] 言葉銀貨[三行](2008/04/24 22:53)
[2] 王子相談[三行](2008/04/30 00:25)
[3] 神秘無効[三行](2008/05/06 00:08)
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[2921] 神秘無効
Name: 三行◆e7339d32 ID:d7318ab6 前を表示する
Date: 2008/05/06 00:08
 ペシャワール城塞に入城するまえ、パルス王太子軍は、アルスラーンを含め、たった7人だった。
 そのころは、圧倒的多数のルシタニア兵や、アルスラーンとその父親アンドラゴラスを恨んで執拗に命をねらってきた
 銀仮面ことヒルメス王子に追われ、ろくな食料もなく、野宿する日々もあった。
 いま、その7人からひとり抜けて、敵国のはずのルシタニアの人間がひとりはいり、食卓を囲んでいることは
 彼らの行く末が、決して平穏ではなく、しかし、新しいよしみを結んで
 ひとりひとりの人生が織物のように歴史を編んでいくのだと、彼らに思わせるのだった。
 その歴史のなかでも、思いやる心でさまざまな人を集わせ、特に豊かな色彩を描くであろう人物が
 よき友として信頼する仲間への気配りを見せていた。

「エラムは食べなくていいのかい?」
「お気遣いなく。私は先にいただきましたので、給仕に務めさせていただきます」

 応えた少年は、アルスラーンよりもひとつ年下で、ともにナルサスを師とあおぎ、歴史、軍略、様々な知識を学ぶ
 兄弟弟子のエラムである。
 小麦色の肌や黒い髪は、解放奴隷であった両親ゆずりで、このような身分の者でも、分け隔てなく接する親しみやすさが
 アルスラーンの良さであると、ナルサスやダリューンは知っていた。
 この食事の席も、特に上座を設けず、車座になって座ることは、だれとも等しく話したいという
 アルスラーンの意向の現れなのだ。

「ファランギースも今日は御苦労だったね。あなたの医術のおかげで、負傷兵たちに助かる者が多いと聞いている」
「おそれいります。負傷兵といえば、さきほどルシタニアの傷病者たちを診てまいりましたが
エステルのした手当はなかなか理にかなったものでございました」

 ファランギースの言葉の後半部分はエステルに向けられたもので
 当の本人はきょとんと首をかしげて、次の言葉をまっている。

「負傷者の手足や体を清潔にしてやったそうではないか。凡庸なものは傷口ばかりに気を取られるものじゃ」
「私にはそこまでしかできませんから。ところで、傷口を縫いあわせたら、治りが早くなりませんか」

 この言葉に幾人かがぎょっとして身をすくませた。特に男たちが。
 人体を縫うという行為に、人を物におとしめるような、猟奇的なおぞましさを感じたのだ。
 ここにイアルダボート教のボダン大司教がいれば、エステルを邪悪な魔女と断じて拷問にかけ、殺そうとしたに違いない。
 しかし、ミスラ神につかえる女神官のファランギースは顔色も変えず、知識でもって応えた。

「変わったことをいうの。じゃが、傷をぴったりふさいでしまえば、化膿したとき
膿の毒が体にまわって、命にかかわる恐れがあるのじゃ」
「でしたら、銅の細い管などを弓なりに曲げて傷口に差しこみ、傷を縫いあわせて
管から膿が出なくなったら抜き取ればよいのではないでしょうか」
「それは面白い考えだの。しかし、その管を戦場の汚れた手で扱っては、かえって悪かろう。
何千何万もの負傷者に行き渡る数をそろえるのも、たいへんそうじゃ」
「やっぱりしろうと考えでしたね。お耳よごしすみません」

 恐縮してちぢこまるエステルに、興味の色を目にたたえたナルサスが話しかけた。

「しろうと考えというわりに面白いことをいう。国政のしろうとである君は、奴隷制度というものをどう思うかね?」

 それはどんなものかと問い返すエステルに、ナルサスは
 学ぶ機会をあたえず、技能も人生の目的も持たせず、人を、命令に従うだけの家畜におとしめる
 悪しき制度だ、と答えた。
 自分で結論をいってしまうところがいかにも可笑しい。

「では、ひとこと言わせてもらいますと、奴隷は働き手として不完全だと思います。
労働者なら、どの作業が価値を産むか理解したうえで、無駄な工程や危険な作業を改善し
その内容を上司を通して同僚に周知させ、職場全体の効率を上げなきゃ」

 ひとことと言いつつ、2回も息継ぎをいれて語ったエステルに
 ナルサスの杯に葡萄酒を注ぎおえたエラムが、苦笑しながら意見をのべた。

「そんなの自由民(アーザート)階級の職人にだってできないですよ。
技術というのは師匠から弟子に伝えられるもので、そこには永い伝統の積み重ねがあるんです」

 みなは、エラムのいうことも、もっともだと思うのだが、問いを発したナルサスが黙っているので
 かってに会話を続けるわけにもいかず、しばし、沈黙のとばりがおりた。
 どうやら、ナルサスがエステルの言葉を吟味し終えたようで、しごくまじめな顔で、彼女に問いかける。

「大層なことをいうが、君は、完全な労働者を育てられると思うかね?」


――それこそ、○○電機産業(株)で品質マネージャーやってた俺の仕事です。できるできないは別として。
――現場の従業員に問題改善意識を持つよう教育するんだが、派遣社員の入れ替わりが激しくて大変。
――課長相当で管理職待遇だから残業代出なかったんだよチクショー。
――可か不可かでいえば、基礎的な科学教育を受けていないこの世界住人じゃ不可能だろう。
――ボトムアップ型問題解決システムと封建制は相性悪いんだよ。
――やるなら、古い社会秩序を破壊し、国の中枢を掌握し、教育制度を行き渡らせ、インフラも整備して……
――無理。めんどくさい。ひとりで明治維新するくらいたいへん。

――ファランギースが医術の話をふってきたので、原作ルートでエステルを瀕死にした怪我にも対応できる医療システムを
――今から造ってしまおうと思ったけど、もうちょっと時間をかけないとだめみたい。
――傷を縫合するって概念にドン引きされてる。俺もホチキスで縫合する技術を知ったときは引いたからなあ。
――「銃・病原菌・鉄」を知ってる身としては、疫学にも発展していただきたい。
――今はまだ雌伏の時。でもナルサスの王制信仰に言いたいこともある。


 エステルは、右手をにぎって、鼻の頭に触れる。そうするとくちの動きが隠れ、すこし気がおおきくなるのだ。

「わかりません。ですが、人々が意思統一して最善をめざせば、全体としてかぎりなく完全に近づくのでは」

 この答えは予想の範囲だったようで、ナルサスはちいさくうなずくと主君に向きなおり、かたりはじめた。

「民の意志を束ねるものがあるとすれば、それは王です。
王は民に正しき目標と道をしめし、民はその道を広げ、整備し、より易く目標を達せられるよう努力する。
これこそ、われらが目指すべき、よき国にございます」

 これまでなら、ナルサスの語る内容に異をとなえる者はいなかったのだが
 くちもとを隠す少女が、目も閉じて、神官のような雰囲気をまとって、ことばを発した。

「民を束ねるものは王でなくともよいのではないでしょうか。
民を束ねる指導者を、民のなかから、民みずからが選べるまでになれば……
あっ、わたし、飲み物は王太子殿下と同じのがいいです!」

 夜風が、葡萄酒を飲めないアルスラーンに用意された紅茶(チー)の匂いを運び
 パルス随一の知恵者と張りあっていたエステルのことばをさえぎった。
 給仕をしているエラムに矢継ぎ早に質問して、それはなんだ、紅茶とはどういれるのか、茶碗の模様がきれいだとか
 まるで憑き物が落ちたかのように、年頃の娘に早変わりしたのだ。
 これにはナルサスもあっけにとられた。
 差し出ぐちをはさまれたが、相手はさっさと転進してしまい、反論する機をのがしたのだ。
 王制批判ともとれる言葉が主君を惑わせはしないか。ナルサス気にしたのはこの点で
 彼が見たところ、アルスラーンは、自分と同じ飲み物を欲しがった少女に、いろいろ説明してやっているところで
 年相応の少年の顔をしており、自分の生まれや身分に悩む小難しい顔は、なりを潜めている。
 このとき、ダリューンも顔をゆるませていたが、これは緊張がとけたからだった。
 ひとつひとつの単語は理解できるが、全体として認識しがたい未知の概念は、彼の専門外で、手にあまったのだ。
 冗談まじりで、となりに座る女神官に話しかけた。

「ファランギース殿、精霊(ジン)とやらに、あの娘の正体を問うてみてはどうかな?」
「うむ、わたしも最初から試してみるつもりで、精霊の目覚める夜を待っておったのだ。
風に乗る精霊どもは機嫌よく舞っておる。あの娘、少なくとも邪気や悪意はなさそうじゃ」

 ファランギースはエステルに女神官の身分を明かすと、精霊と会話できることを話し
 少女の霊体がどのようになっているか調べてみたいと伝えた。
 とたんにエステルは落ち着きをなくすが、ほかの者たちの顔を順に見まわし
 彼らが期待の目で見ていることを知ると、観念して、霊視に同意した。
 ファランギースは水晶の笛を取り出し、人には聞こえぬ旋律で精霊に語りかけるが
 無音の旋律は、そう長くは続かなかった。
 いささか気落ちしたようすで水晶の笛をおろしたファランギースに、ことを言いだしたダリューンが首尾を問うと
 彼女にしてはめずらしく困惑顔で答えた。

「ひとことで言うと、何もわからなんだ。精霊にはあの娘の霊も、姿も、声も、知覚できぬそうじゃ。
地下の者だろうが、天上の者だろうが、精霊に視えぬはずはないのじゃが……」


――ナルサス相手に調子こいたけど、まともに舌戦するのはめんどいからさっさと逃げた。
――アルスラーンの好感度上げを優先。なんでも知ってるかっこい人あつかいして、気持ち良くしゃべってもらう。
――そしたらファランギースが精霊で霊視するとか言い出すんです。
――嘘を嘘と見抜ける人来ちゃった! やばいよ、みんなの期待に満ちた視線が怖い!
――ここは精神的両性具有とか言うか? なんか両性具有って天使や神っぽいよね。

――結論として、俺は精霊には視えないそうです。
――理屈はわからないが、俺はこの世界の法則の外側にいるってこと?
――実験で確かめる方法はある。
――ナルサスは不揮発性のナツメ油をガソリンみたいに炎上させていたが、現実にそんな現象は起こりえない。
――もしも、俺が引火点以下の植物油に引火させられないとしたら、俺は現実世界で起こりえることしかできないことになる。
――逆に、現実にはありえないファンタジーな現象が俺に作用しないなら、無敵の耐魔力があるわけか。
――でも身体能力は永遠に人並みだし、転んで頭打つだけで死ねるけどね。たぶん。


 いずれにせよ、精霊の声はファランギースにしか聞こえないので、ほかの者にとっては、事態がどう変わったわけでもない。
 配膳が終わり、まずアルスラーンが神に感謝の言葉を捧げてから食事が始まったが
 エステルの皿によそわれたシチューはちゃんと減っていくし、手も触れられる。血肉の通った存在には違いない。
 ファランギースにしても、ひととなりを判断するのに、ことさら神秘にたよろうとは思わないのだ。
 食事が終わり、エステルが「ごちそうさまでした」と謝辞をのべるしぐさに、ナルサスは注目した。

「それは合掌だね。シンドゥラの風習だが、ルシタニアにもあったとは興味深い」

 エステルは「どうでしょう」と首をかしげるばかりで、それ以上なにかわかることはなかったが。

 ここで、年若い王太子は、みずからが救命したルシタニア人傷病者の処遇について語ることになった。
 彼らは自分の世話もできない状態で、放っておけば衰弱するか、盗賊や猛獣に襲われるかして死んでしまうと思われ
 彼らの同胞がいるエクバターナまで、自分たちに同行させるというのである。
 いまやルシタニア人の代表格ともいえるエステルに、アルスラーンがたずねた。

「君はどうしたい?」

 いまの彼女にとってパルス人にもルシタニア人にも顔見知りはいない。だったらどこへ行こうと条件は同じなのだが。

「私は、自分の身元を確かめるためにも、ルシタニアという国に渡りたいと思います。
おなじルシタニア人だという傷病者たちを送りとどけることも、きっと私がしなければならないことなんでしょう。
ルシタニアにいるかもしれない身内を探して、気持ちにけじめをつけたら、できれば、こちらに戻って
あなたがたへの恩返しがしたいです」

 そのためにも、と前置きをつけて、エステルはことばを続けた。

「馬術や弓の引き方を、一から教えてほしいのですけど」

 意外なことばにあっけにとられる一同だった。
 記憶を失うまえのエステルと戦場で打ちあったダリューンの証言では、馬術、剣術、弓、どれもそこそこ使えたという。
 最低限の生きる術すら失ってしまったとしたら、エステルひとりを放すことは、無力な街娘を野に捨てるに等しい。
 かといって、ひとりの娘につきあえるほど時間に余裕のある者は……

「あたしが教えてあげるよ。どうやらこのなかじゃ、あたしがいちばん暇で、優しいらしいからね」 
「ありがとう、アルフリード。このお礼はかならずいたします」
「いいって。一族の掟でさ、助けた相手からお礼なんて受け取れないよ。それになにをくれるっていうんだい?」
「それは、恋のお手伝いとか」

 意表をつかれ、ナルサスは飲んでいた葡萄酒を噴きだした。そのまま咳き込んで、エラムに背中をさすってもらっている。
 ダリューンはおおいにうけて爆笑し、アルスラーンもほころぶ顔をかくしきれない。
 ファランギースはふだんの顔を崩さないが、まじめくさってエステルに同調しそうな雰囲気がある。
 いわれた当のアルフリードは大喜びで、笑いながらエステルの背中を叩いていた。

「忠誠の代償に宮廷画家の地位をくれる御方は知っているが、習い事の礼に恋路を助ける、などということもあるのだな。
なあ、宮廷画家どの。ははは」
「ふん、女っ気のないおぬしにはうらやましかろう」

 ナルサスは親友に憎まれぐちをきくが、内心、おれの手に負えない相手が二倍になってしまった、と愚痴ったかもしれない。
 これから各部隊の指揮官たちが集まって、本格的な軍議が始まるということで、エステルは席を辞することとなった。
 アルフリードが先に立ってエステルをうながす。警備の兵に敗残兵と間違われて討たれないよう、部屋まで同行するのだ。
 エステルはいちどアルスラーンに向きなおり、深々と頭を下げて礼をのべ、アルフリードの後を追った。
 そのまま行かせてもよかったのだが、アルスラーンの楽しかった子供時代、友人を見送った記憶がよみがえった。
 残される、ということは、さびしいのだ。思わず腰をあげて少女らを追い、声をかける。

「また、明日、会えるよね」
「はい、また明日」

 エステルは名残惜しげなアルスラーンを押しとどめるように手のひらを向けた。
 そのしぐさは、主君が向けた好意を拒むようにも見えて、背後から見ていた忠臣たちを鼻白ませた。 
 扉が閉まってしばらく、アルスラーンが振り向かず立ちつくしていたことも、主君の落胆をあらわしているように思えて
 ことばをかけることをためらわせたのだった。
 もし、アルスラーンが耳まで真っ赤にし、恥ずかしさで顔を見せられないということに気づいていたら
 それはそれで、なにも言えなかったに違いないが。


――ようやくお食事です。匂いから察するに原作と同じ羊肉(ラム)のシチューですが、狩猟祭の獲物は出ないの?
――シチューといっても小麦粉のルーを使わない、 脂ぎった茶色の肉煮込み料理で、具に入ってる根菜は、たぶんカブ。
――ボルシチに似ているかな。でもごめんなさい、まずいです。臭いがきついし、植物由来のグルタミン酸が足りない。
――干イチジクとかドライフルーツの類はふつうだったけど、パンも保存性優先のせいか、ちょい酸っぱかったね。
――現代日本の飽食がどれだけ偉大だったか理解した。
――合掌につっこまれたときはどうしようかと思った。日本の常識をどこまで捨てるべきか、線引きしないといけないな。
――結局、エクバターナ行きは原作と変わらないが、俺、馬に乗れないんだ。どうしよう。
――アルフリードが指導を引き受けてくれたけど、どこまでやれるか不安です
――お礼に恋路を助ける宣言。これで落馬しても馬に蹴られないはず。死なないはず。

――用事も済んだし、別れの挨拶に、指2本でアルスラーンのくちびるに擬似キッスをぷにっと。
――向こう側の大人連中からは見えないはずだけど、大胆だったかな?
――チューリングテストじゃないが、ここまでいろんな感情を見せてくれたら、彼らを人と認めざるをえない。
――対等の相手としてつきあう覚悟を決めるんだ。
――明日はアルフリードが早朝から起こしにくるそうで、寝て覚めてまだパルスにいたら、そこから本当の苦労が始まる。
――この先の話は死体量産するんだよなあ。人は人、死体は物、のダブルスタンダードで自己暗示かけていこう。
――死にそうな人は……一部をのぞいて助けるべきだよね?


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