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No.29120の一覧
[0] 今度はきっと二輪の華で【再構成】(北斗の拳 憑依?)[ジャキライ](2012/06/22 17:59)
[1] 【文曲編】第一話『名も無き星の目覚め』[ジャキライ](2011/08/02 20:52)
[2] 【文曲編】第二話『迷い狼と迷い猫』[ジャキライ](2011/08/03 22:03)
[3] 【文曲編】第三話『当惑  約束』[ジャキライ](2011/09/14 18:30)
[4] 【文曲編】第四話『家出 そして出会い』[ジャキライ](2011/09/05 18:31)
[5] 【文曲編】第五話『出会い 因果と死闘』[ジャキライ](2011/08/07 19:29)
[6] 【文曲編】第六話『修行 馴れ初めと理解』[ジャキライ](2012/06/22 18:05)
[7] 【文曲編】第七話『憧れる事 求める事』[ジャキライ](2012/06/22 18:16)
[8] 【文曲編】第八話『南斗の触れあい そして兆し』[ジャキライ](2012/06/22 18:53)
[9] 【文曲編】第九話『忍び寄る冷気 曇天』[ジャキライ](2011/08/14 23:45)
[10] 【文曲編】第十話『初雪の冷たさと哀しさ』[ジャキライ](2011/08/15 14:16)
[11] 【文曲編】第十一話『初冬 そして 眠る子』[ジャキライ](2011/08/17 00:12)
[12] 【文曲編】第十二話『暫しの別れ そして決意』[ジャキライ](2011/08/17 13:18)
[13] 【文曲編】第十三話『それぞれの冬の過ごし方』[ジャキライ](2011/08/19 07:46)
[14] 【文曲編】第十四話『姫君と 哂う天邪鬼(前編)』[ジャキライ](2012/06/22 18:55)
[15] 【文曲編】第十五話『姫君と 哂う天邪鬼(後編)』[ジャキライ](2011/08/20 23:19)
[16] 【文曲編】第十六話『雑談と此処にいる実感』[ジャキライ](2011/08/21 21:14)
[17] 【文曲編】第十七話『リュウガ と 寂寞の村』[ジャキライ](2011/08/23 23:22)
[18] 【文曲編】第十八話『小春日和 そして春影』[ジャキライ](2011/08/28 15:28)
[19] 【文曲編】第十九話『捜査  そして 訪れの日』[ジャキライ](2012/03/29 21:59)
[20] 【文曲編】第二十話『邂逅 境界線 懸念』[ジャキライ](2011/08/29 12:41)
[21] 【文曲編】第二十一話『描かれる悪意』[ジャキライ](2011/08/29 18:30)
[22] 【文曲編】第二十二話『南斗飛龍拳の使い手』[ジャキライ](2011/08/30 13:37)
[23] 【文曲編】第二十三話『動き始めた歯車』[ジャキライ](2011/09/02 11:20)
[24] 【文曲編】第二十四話『酔いどれの龍 ミネルヴァの梟』[ジャキライ](2011/09/02 20:00)
[25] 【文曲編】第二十五話『闇夜の鳥 雛の鳳凰』[ジャキライ](2011/09/05 19:36)
[26] 【文曲編】第二十六話『龍と梟は舞いて 朝露は華に伏す』[ジャキライ](2011/09/06 22:35)
[27] 【文曲編】第二十七話『終わりと言う名の始まりを』[ジャキライ](2011/09/09 00:22)
[28] 【文曲編】第二十八話『欠けた天 その天の下で』[ジャキライ](2011/09/09 16:07)
[29] 【文曲編】第二十九話『南斗総演会』[ジャキライ](2011/09/11 11:44)
[30] 【文曲編】第三十話『彼女の初試合と拾い物』[ジャキライ](2011/09/12 20:08)
[31] 【文曲編】第三十一話『鳳凰とは何ぞや?』[ジャキライ](2011/09/14 23:15)
[32] 【文曲編】第三十二話『聖者になりし彼の想い』[ジャキライ](2011/09/18 11:11)
[33] 【文曲編】第三十三話『拳王になりし彼の想い』[ジャキライ](2011/09/24 20:23)
[34] 【文曲編】第三十四話『北斗七星と華の夢』[ジャキライ](2011/09/25 15:58)
[35] 【文曲編】第三十五話『もう一人のジャギ』[ジャキライ](2011/09/26 20:46)
[36] 【文曲編】第三十六話『惰眠の狭間と星の標』[ジャキライ](2011/09/27 23:24)
[37] 【文曲編】第三十七話『惰眠 境界線 流転』[ジャキライ](2011/09/28 21:01)
[38] 【文曲編】第三十八話『それが世界の望みなら』[ジャキライ](2011/09/29 22:25)
[39] 【文曲編】第三十九話『紅く彩る華の名は……』[ジャキライ](2011/10/01 19:48)
[40] 【文曲編】最終話『極悪の芽』[ジャキライ](2012/02/09 19:34)
[41] おまけ:【文曲編】終了しての後書きと言う名の余談[ジャキライ](2011/10/02 15:33)
[42] 【巨門編】第一話『慈母の星から始まりし物語』[ジャキライ](2012/06/26 22:11)
[43] 【巨門編】第二話『訪れし春光に影は哂う』[ジャキライ](2011/10/04 22:33)
[44] 【巨門編】第三話『光臨すべし 闇から咲く物』[ジャキライ](2011/10/06 15:11)
[45] 【巨門編】第四話『幾重の先鳥の舞い』[ジャキライ](2011/10/06 18:43)
[46] 【巨門編】第五話『星の輝き 巨門への鍵開く』[ジャキライ](2011/10/07 12:06)
[47] 【巨門編】第六話『門開く記章 五車の形と陰星』[ジャキライ](2011/10/08 12:18)
[48] 【巨門編】第七話『意外なる 鍵持ちし人』[ジャキライ](2011/10/08 18:35)
[49] 【巨門編】第八話『巨門開放 未知なる旅路』[ジャキライ](2012/01/22 12:11)
[50] 【巨門編】第九話『門迎えし二羽と 紅鶴』[ジャキライ](2011/10/10 08:07)
[51] 【巨門編】第十話『番外編:ユダ外伝 妖しき紅の鏡』[ジャキライ](2011/10/10 08:42)
[52] 【巨門編】第十一話『鴛鴦は赤狼に首ったけ』[ジャキライ](2012/03/29 22:00)
[53] 【巨門編】第十二話『交喙の咥えし華』[ジャキライ](2011/10/16 19:25)
[54] 【巨門編】第十三話『五番目の北斗の彼』[ジャキライ](2011/10/18 21:44)
[55] 【巨門編】第十四話『秘孔の蟻吸』[ジャキライ](2011/10/21 22:48)
[56] 【巨門編】第十五話『純白の鶴』[ジャキライ](2011/10/28 07:23)
[57] 【巨門編】第十六話『斑鳩』[ジャキライ](2011/10/28 19:59)
[58] 【巨門編】第十七話『悪夢の初夜 彼女の決意』[ジャキライ](2011/11/01 08:23)
[59] 【巨門編】第十八話『雹降る中で 光の華を』[ジャキライ](2011/10/31 14:07)
[60] 【巨門編】第十九話『鳥頭と 天才なる者』[ジャキライ](2012/03/14 19:29)
[61] 【巨門編】第二十話『偏屈者との再会』[ジャキライ](2011/11/05 21:25)
[62] 閑話休題 『孤独なる時間』[ジャキライ](2011/11/08 19:59)
[64] 【巨門編】第二十一話『兄弟の会話 鬼影』[ジャキライ](2012/11/28 13:16)
[65] 【巨門編】第二十二話『鳥の爪は山鬼を砕くか(前編)』[ジャキライ](2012/12/13 22:39)
[66] 【巨門編】第二十三話『鳥の爪は山鬼を砕くか(中編)』[ジャキライ](2013/01/05 20:22)
[67] 【巨門編】第二十四話『鳥の爪は山鬼を砕くか(後編)』[ジャキライ](2013/02/20 10:58)
[68] 【巨門編】第二十五話『嵐は去れど、風は止まず』[ジャキライ](2011/12/03 19:08)
[69] 【巨門編】第二十六話『欺瞞の鳥篭で梟は語り騙る』[ジャキライ](2012/01/31 21:21)
[70] 【巨門編】第二十七話『天狼の毛は何故白いのか』[ジャキライ](2011/12/19 21:05)
[71] 【巨門編】第二十八話『気になるあの娘の心は?』[ジャキライ](2012/03/26 23:01)
[72] 【巨門編】第二十九話『好きと言う気持ちについて』[ジャキライ](2011/12/24 17:18)
[73] 【巨門編】第三十話『知る術なき場所の 旧き悪の華』[ジャキライ](2012/04/29 18:19)
[74] 【巨門編】第三十一話『訪れる一匹の鳥 そして来る流動』[ジャキライ](2012/01/06 23:43)
[75] 【巨門編】第三十二話『空に羽ばたく翡翠と花弁(前編)』[ジャキライ](2012/01/07 21:13)
[76] 【巨門編】第三十三話『空に羽ばたく翡翠と花弁(後編)』[ジャキライ](2012/01/11 22:26)
[77] 【巨門編】第三十四話『火と風 宙に舞いし淡き想い』[ジャキライ](2012/01/14 13:01)
[78] 【巨門編】第三十五話『吹き上がるは闇色の武曲』[ジャキライ](2012/01/19 08:17)
[79] 【巨門編】第三十六話『駝鳥の羽は運命に流れて』[ジャキライ](2012/01/21 09:15)
[80] 【巨門編】第三十七話『孤独の狼の黄昏の遠吠え』[ジャキライ](2012/01/21 19:12)
[81] 【巨門編】第三十八話『幾多の鳥と花弁と獣は廻り廻り』[ジャキライ](2012/01/24 12:14)
[82] 【巨門編】第三十九話『星々の移りと共に邪狼の声を』[ジャキライ](2012/01/24 20:38)
[83] 【巨門編】第四十話『通り雨と邪狼と華』[ジャキライ](2012/01/27 22:44)
[84] 【巨門編】第四十一話『極めろ! 北斗千手殺!(前編)』[ジャキライ](2013/09/24 14:30)
[85] 【巨門編】第四十二話『極めろ! 北斗千手殺!(後編)』[ジャキライ](2012/01/30 11:08)
[86] 【巨門編】第四十三話『孤鷲の影でほくそ笑む梟』[ジャキライ](2012/01/31 22:18)
[87] 【巨門編】第四十四話『彼女は去り行く星達の夢を見る』[ジャキライ](2012/03/29 22:07)
[88] 【巨門編】第四十五話『鳳凰と南十字 託されし子』[ジャキライ](2012/04/11 22:48)
[89] 【巨門編】第四十六話『鳳凰救出計画と作戦決行』[ジャキライ](2012/02/05 21:03)
[90] 【巨門編】第四十七話『終わりなき未来への空(起)』[ジャキライ](2012/03/22 18:13)
[91] 【巨門編】第四十八話『終わりなき未来への空(承)』[ジャキライ](2012/04/02 23:15)
[92] 【巨門編】第四十九話『終わりなき未来への空(転)』[ジャキライ](2013/12/05 00:05)
[93] 【巨門編】最終話『終わりなき未来への空(結)』[ジャキライ](2012/03/29 22:15)
[94] 【流星編】第一話『終末へ向けて飛び立つ物語の始まり』[ジャキライ](2012/02/12 15:34)
[95] 【貪狼編】第一話『運命の変動を告げる娘と孤』[ジャキライ](2012/02/13 09:44)
[96] 【流星編】第二話『人鳥の惰性と丹頂の届かぬ願い』[ジャキライ](2012/03/29 22:11)
[97] 【貪狼編】第二話『予言の詩 そして女神の一句』[ジャキライ](2012/02/15 21:22)
[98] 【流星編】第三話『死鳥鬼の心の内 それを取り巻く羽』[ジャキライ](2012/02/17 16:30)
[99] 【貪狼編】第三話『双子の鷹の訪れと 渡り鴉』[ジャキライ](2012/12/19 00:17)
[100] 【流星編】第四話『二羽の包容の鷹と 渡り鴉の午後』[ジャキライ](2014/02/15 01:59)
[101] 【貪狼編】第四話『未来に対し宣戦布告を二人はする』[ジャキライ](2012/03/04 22:36)
[102] 【流星編】第五話『砂上の楼閣と 日々を憂う鳥達』[ジャキライ](2012/02/21 22:49)
[103] 【貪狼編】第五話『闇色の風は日の沈む場所から流れ』[ジャキライ](2012/02/23 07:30)
[104] 【流星編】第六話『斑鳩は視る その無情さと邂逅を』[ジャキライ](2013/10/21 21:10)
[105] 【貪狼編】第六話『拳と共に北斗の者 邪霊を祓え(前編)』[ジャキライ](2012/02/26 16:21)
[106] 【流星編】第七話『銀鶏は視る その邂逅と安らぎを』[ジャキライ](2013/04/15 23:43)
[107] 【貪狼編】第七話『拳と共に北斗の者 邪霊を祓え(中編)』[ジャキライ](2012/02/26 15:55)
[108] 【流星編】第八話『空に渡る鳥 通り雨 夢を見る鳥』[ジャキライ](2012/03/01 17:36)
[109] 【貪狼編】第八話『拳と共に北斗の者 邪霊を祓え(後編)』[ジャキライ](2012/03/05 16:19)
[110] 閑話休題:『彼の後悔の日 鶴とコケシ ユダの秘書』[ジャキライ](2012/03/04 21:29)
[111] 【流星編】第九話『ゲーム理論 心の窪み 啄木鳥の嘴』[ジャキライ](2012/03/06 20:03)
[112] 【貪狼編】第九話『雪融けに星は旅出て 彼女は白鷺へと』[ジャキライ](2012/03/08 13:02)
[113] 【流星編】第十話『噛み合わない姉妹鳥 シンの憂鬱』[ジャキライ](2012/03/29 22:20)
[114] 【貪狼編】第十話『元斗に在るは 緑青赤紫 金と白』[ジャキライ](2012/03/15 21:18)
[115] 【流星編】第十一話『白き光の愚者は 離別と共に悪夢を授く』[ジャキライ](2012/03/21 16:52)
[116] 【貪狼編】第十一話『森の戦士と 風を切る走羽の巫女』[ジャキライ](2012/04/02 23:54)
[117] 【流星編】第十二話『儚き戦士達の憂い それは光射さず』[ジャキライ](2012/04/08 10:17)
[118] 【貪狼編】第十二話『桜 桜舞う 仄かな疼きと酔い(前編)』[ジャキライ](2012/04/08 11:56)
[119] 【流星編】第十三話『かつての神の国の 異能の機神達』[ジャキライ](2012/04/12 21:17)
[120] 【貪狼編】第十三話『桜 桜舞う 仄かな疼きと酔い(中編)』[ジャキライ](2012/04/22 12:56)
[121] 【流星編】第十四話『放浪する鳥と 赤い世界を見る村』[ジャキライ](2012/04/26 21:31)
[122] 【貪狼編】第十四話『桜 桜舞う 仄かな疼きと酔い(後編)』[ジャキライ](2012/04/30 23:54)
[123] 【流星編】第十五話『魂の嘆きの声の風 雲雀は強く舞う』[ジャキライ](2014/02/27 22:14)
[124] 【貪狼編】第十五話『夢幻にて産まれん 名は貪狼と邪狼』[ジャキライ](2012/05/17 19:17)
[125] 【流星編】第十六話『紅鶴は天を望み 丹頂の心は憂い』[ジャキライ](2012/07/12 21:45)
[126] 【貪狼編】第十六話『夢幻にて巡り遭わん 名は貪狼と邪狼』[ジャキライ](2012/05/14 22:40)
[127] 【流星編】第十七話『終末の風の中で巫女は何を見るか』[ジャキライ](2012/05/19 09:36)
[128] 【貪狼編】第十七話『小さな小さな飼育箱で交わす約束』[ジャキライ](2014/08/12 20:17)
[129] 【流星編】第十八話『飼育小屋の檻は運命と共に破られて』[ジャキライ](2013/01/01 21:18)
[130] 【貪狼編】第十八話『恋を貫け! 一途と親と鴛鴦と(前編)』[ジャキライ](2012/06/08 21:34)
[131] 【流星編】第十九話『雲雀の告げし声 静かなる波紋』[ジャキライ](2012/06/10 20:28)
[132] 【貪狼編】第十九話『恋を貫け! 一途と親と鴛鴦と(後編)』[ジャキライ](2012/06/17 12:35)
[133] 閑話休題『彼らの日常茶飯事と 来訪されし者の影』[ジャキライ](2012/06/28 18:01)
[134] 【貪狼編】第二十話『極星を望みし流星と涼やかな風の来訪』[ジャキライ](2012/07/07 00:21)
[135] 【流星編】第二十話『流星を担う男 そして海を渡る彼の記録』[ジャキライ](2012/07/14 19:13)
[136] 【貪狼編】第二十一話『途切れる事なき不穏の風』[ジャキライ](2012/09/08 10:20)
[137] 【流星編】第二十一話『近き別れ そして運命の足音』[ジャキライ](2014/02/06 22:54)
[138] 【貪狼編】第二十二話『古龍が住まいし鬼の哭く街(前編)』[ジャキライ](2013/07/25 11:42)
[139] 【流星編】第二十二話『世紀末戦記 龍帝対南斗(前編)』[ジャキライ](2013/04/11 17:41)
[140] 【貪狼編】第二十三話『古龍が住まいし鬼の哭く街(後編)』[ジャキライ](2013/07/15 15:14)
[141] 【流星編】第二十三話『世紀末戦記 龍帝対南斗(後編)』[ジャキライ](2014/08/11 20:12)
[142] 【貪狼編】第二十四話『忘星と影武者は語りきて』[ジャキライ](2013/11/12 01:17)
[143] 【流星編】第二十四話『怪物達の鎮魂歌(前編〉』[ジャキライ](2013/11/26 16:08)
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[29120] 【巨門編】第十話『番外編:ユダ外伝 妖しき紅の鏡』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/10/10 08:42


 


                            ユダ    私の可愛いユダ






                            貴方に教えてあげる 空に輝く一つの星






                            それは貴方の星よ  貴方だけの











                                 ……母上









  
    
     ・

             ・

        ・


          ・


           . ・


                ・

 

 (老眼鏡はかく語りき)



 ……何処から話し始めれば宜しいでしょうか。

 私は、元軍人です。このように平和になる以前は軍で数十年は兵役を務めておりました。

 最も、この体格ですので主に工作・偵察兵として活躍しか出来なかった訳ですが……そのお陰で永らえたのでしょう。

 ……戦争が終結すると、私めのような人間はお払い箱となりました。

 定年まで後少しと言うところでの解雇。今の貯めた金銭でも暫くは大丈夫ですが将来的には少し金銭が足りません。

 そう言う理由から、私は職を探し……そして、とある屋敷の求人募集に目を止めました。

 その募集の内容は年齢問わず。子供の世話役を任せると言うもの。

 別に子供が嫌いでもないし、職を食わず嫌いする訳にもいかなかったですので私はその職へ飛びつきました。

 ……そして。

 あの方……人を何とも思わぬ冷酷な目つき。そして意地悪そうな口元。……そう、その方は私を見下ろし、こう言った。

 「……コマク、と言ったな。……ククッ! 奇形か! 気に入ったぞ! 此処で私の傑作である、ユダの世話を任せよう!」

 ……私は、御当主の目に適いました。

 ……最初、それはもうある意味地獄だったと言って良いでしょう。

 御当主は、自分と対等でない身分の者を人間扱いしない部分が有りました。

 私以外の男性の使用人が粗相あれば、鞭を振り上げ何を言おうとも痛めつけ、そのまま野に捨てるようなお人です。

 女性でしたら、美しい顔ですと別の居室に連れ込まれ……それから先は言わなくても貴方方ならご想像出来るでしょう。

 普通、そのように酷い環境なら抜け出しても可笑しくないものを、私が残る訳が有りました。

 この屋敷には、御当主の他に二人家族が居ました。

 一人は奥方。その方は、こんな私に対しても優しく接してくれる慈母のようなお方でした。

 『コマク、何か辛い事があったら私に言って? あの人、他の人には厳しいけど、私には優しいからね』

 ……何度、奥方様のご好意に助けられたでしょう。

 時折り気に入らぬ事があり私に鞭を振り上げる事が、御当主にはありました。ですが、その度に奥方様が現われ制止してくれました。

 御当主は、外交的な場所では人当たり良く貴人と言った様子を見せますが、屋敷の中では酷く暴力的な面も有りました。

 それは、当主自身も抑えれぬ病気だったのかも知れません。そう言う時は奥方様を抱く事で己を鎮める事も有りましたし、
 ……そして、これは私の一存で言う事では有りませぬが、多分メイドにもあの方は手を掛けていたと思います。

 ……仕事は優秀でも、人間的な部分では酷い欠如がある……そう言うお方だったのです。

 私は、時折止めたくも思いましたが、それを押し止めたのは奥方様の存在に……ユダ様の存在でした。

 『……コマク! 見てみて!! コマクの姿を描いて見たんだ!!』

 『おぉユダ様! これは有難う御座います。ユダ様は将来絵描きになれますよ』

 ……何時も、純粋で天使のような方でした。

 私は、このような性格のお方の息子と聞いて、最初どのような子供なのかと不安一杯でしたが……杞憂でした。

 母親に似たとても愛嬌一杯の方。自分の事よりも、他人を思いやるとても優しい優しい、私の自慢の小さき主人です。

 世話をする、と言ってもユダ様自身が聡明ゆえに、私が困るような事は何一つしません。私が、不安に思うほどに完璧に
 良い子でした。そして、ユダ様は大変に、私の色眼鏡でなく知恵者であり、それでいてとても人を労われる人間でした。

 私以外にも、他の世話人はユダ様に奥方様を崇拝しておりました。

 ……なのに、何故あのような事に。

 この、ある種異常とも言える環境。

 御当主は、ユダ様を何時か自分と同じく立派な者にさせる為に、物心付いてからずっと帝王学、法学、あらゆる英才教育
 を習わせ、友人など到底作れぬ程にユダ様を屋敷の中と言う鳥篭の中でずっと教わらせる毎日だったと奥方様から聞いてます。

 因みに大した事では有りませんが、私が来る以前はユダ様の事を御当主は『フィッツ』と呼んでおりました。

 御当主はアイルランド系の方らしく、興奮した時に母国語の『フィッツ(息子)』でユダ様の名を呼びます。

 そう言う時は、ユダ様を大抵折檻するのです。

 最初、それを聞いて私の中に芽生えた怒り。貴方とでそれを十分理解しえましょう。

 私は、それなのに歪まないユダ様に尊敬の念を抱いた程です。ですが、一度ユダ様からこのように聞いた事があります。

 「僕ね、此処に来る前にね、友達が居たんだよ」

 「一週間しか遊べなかったけど。……でもね、僕が一生懸命勉強して、立派な人になったら、もう一度その友達に会えるって
 信じているんだ! 母上も、『ユダならきっと願いが適う』って言ってくれたんだもの!」

 ……何といじらしい方だ。

 ユダ様は、その一週間だけのお友達の事を大事な大事な宝物として心の中に満たされ、それがユダ様の強さの秘訣のようでした。

 私が来る前の、そのお友達に出会い何時しか感謝の言葉を贈りたい程です。もし、そのお友達が居なければ
 きっとユダ様の心は、私が出会った時よりも脆く、何か一つの衝撃的な出来事で完全に崩壊したでしょうから。

 ……色々、事件は御座いました。



  
    
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 「……ねぇ、コマク。如何して、外の皆は僕を避けるんだろうねぇ」

 ……ある日、そう言う風に寂しそうな顔で私に相談した事があります。

 「うん、知ってるんだ。お父上が、僕の事を考えて、今は友達なんかと遊ばせれば僕が駄目になると思って、周囲の人に
 僕と遊んじゃいけないって言っているのは。……けど、近づいたら黴菌見たいに逃げられるのって、傷つくよね……」

 ……私は、それを聞いた瞬間息できなくなる苦しみだったと思います。

 ……もし、これが二人の友人による強さを身につけないユダ様だったらどうなのでしょう? 多分、こう叫んでたでしょう。

 『ねぇコマク! 如何して町の皆は僕を避けるの!? 何で僕と遊んでくれないの!? 僕……僕訳が解らないよ!』

 ……きっと、そのように私に相談し、私はその言葉に怒りを満たし御当主へと敵対し……手酷い折檻を受けたでしょう。

 そして、奥方様に治療して貰いながら、屈辱に唸り嘆いていた事だと思います。

 ……ですが、全てはユダ様が悪い意味で大人びているがゆえに、それは起きず、ユダ様の心に少しの翳りが生まれるだけで
 それは何とか事なきを得ました。……いえ、ユダ様の心を考えれば、私の傷など構わず苦悩を開放した方が良かったのかも知れない。

 ……次に、このような事件もありました。


  
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 「コマク、ちょっと忘れ物しちゃったよ。だから一緒に取りに来てもらって良い?」

 ……珍しく、ユダ様の外出を御当主が許可し、そして私はユダ様と共に出かけました。

 ですが、ユダ様には珍しく忘れ物をして、それゆえに私と共に屋敷へと戻りました。

 ……そして、……アレを見てしまったのです。……忌まわしき、アレを。

 


 ……ァアン   ……アァン




 ……ギシギシと、何やら寝台が揺れる音。

 女の嬌声。そして荒い男特有の息遣いが聞こえました。

 ……そして、私はこの時嫌な予感は生まれていたのです。何故ならば、その日奥方様は病院へと赴き、ご自宅は空の筈なのですから。

 ……そして、私が制止するより早く……隙間からユダ様は部屋の様子を覗いていました。

 「……ユダ様っ」

 ……気付かれたら、どうなる事か。折檻などでは済まされない。もしかすれば私達二人とも殺される危険性がありました。

 私は、この時ばかり借りられた猫のように、戦時での俊敏さで固まっているユダ様を聞こえるか解らぬほどの声で引っ張りました。

 私は、中で行われている出来事……『裸体の御当主とメイド』の組み敷いている所を見て硬直しているユダ様を急いで
 何とか屋敷の外まで連れる事は出来ました。南斗拳士と言えども蜜月の途中は人の視線には疎くなるのでしょうか?
 ……失礼。ですが、お解かりでしょう? このように冗談でも言わないと、あの時の私達の苦しみは壮絶だったのですよ。

 『……コマク、父上は何をしてたのかな?』

 ……その時の、ユダ様の声は……恐ろしいほどに平坦な声でした。

 『父上、母上以外の人と一緒に何かしてたよね? ……父上、如何したんだろうなぁ……ねぇ、コマク、如何したんだろう』

 ……そう、何度か私に尋ねるように言葉を繰り返し、そして何事も無かったかのように私の手を引いて町へ赴きました。

 私は、何も言えませんでした。……怖かったのです。一言でも何か言えば、ユダ様の何かが壊れてしまう気がして。

 ……暗い話ばかりでは、貴方方も陰鬱でしょう。

 少しだけ、明るい話をしましょう。ユダ様と、奥方様の話を。

 ユダ様は、奥方様に溺愛されていました。

 本来7~8歳程度なら一人で寝るのかも知れませんが、ユダ様の場合奥方様とは体調良ければ共に寝ておりました。

 何時も、ユダ様相手に奥方様は色々物語を語っていたようです。

 たまに庭園へ赴きユダ様は奥方様と共に花を見て周るのが好きでした。

 特に、シラン・アケビがあの方のお気に入りでした。何でも、その二人の思い出の友人の名がそうだったとか。

 私は、それを聞いて花屋へ赴けばユダ様の部屋に飾る事に決めました。何時か、遠い未来で夢適うようにと。

 ……今は、御当主も厳しいがユダ様が大人になって自立すれば奥方様を連れて離れて幸せに暮らす事も出来る。

 私は、正直奥方様が御当主と一緒に暮らして幸せだと思えませんでした。

 御当主は、美しい物に者が好きだからこそ奥方を愛したのでしょう。

 奥方様の気性の良さや、舞踊が上手な所など……私にとって魅力的な部分で包まれていた奥方様の容貌に、御当主が
 一番気に入ってたのだと思います。……私に、もっと力が有るならば御当主と命を賭しても張り合えたのに……。

 ……話を戻しましょう。

 ユダ様の奥方様は……これは口外するなと言われた内容ですが、ユダ様は南斗六聖拳の『妖星』なのだと、後に知ります。

 御当主は、酒に酔うと自慢そうに私に、奥方様に話しました。そして、最後にこの事を話すなと釘を刺すのです。

  話せば死より重い罰を……私は、その時はすっかり御当主の罰が体に染みて、それゆえに素直に従っていました。

 そして、奥方様も少なからず御当主の性癖を知りつつも愛は持っていたのでしょう。

 ユダ様へと眠る前に当主の言葉をそっくりそのまま聞かせていたと思います。まるで、子守唄のように。

 ……今でも後悔しております。

 ……もし、それを話せれば。南斗の長老方にも秘匿にしていた事が漏れれば、南斗伝承者達が駆けつけてユダ様と
 奥方様を保護して貰えたかも知れない。……あの、忌まわしい血で覆われた事件が起こらなかったかも知れない。

 ……あぁ、私は話したくない。

 ……けど、話さなくてはいけないのでしょう。……あの、紅い鏡となった、今のユダ様が生まれた話を……。



  
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 ……それは、何の変哲もない、ある日の出来事だった。

 小鳥が囀る、そして朝が訪れる。

 木漏れ日照らす一つの屋敷で、一人の子供と母親が夢から覚めて目を覚ます。

 「お早う、私の可愛いユダ」

 そう、とても柔らかい声で母親は、自分の子供を揺り動かし目を覚まさせる。

 頭を撫でられ幸せに目を覚ます子供は、天使のような微笑でこう言うのだ。

 「お早う母上」

 ……着替えが終わり、何時もこのようにやり取りが行われる。

 鏡の前に、美しい母親が着替えを終わって立ち、そして息子へ問いかける。

 「……ねぇ、ユダ。今日も私、美しい?」

 「うんっ、今日の母上も一段と美しいよ!」

 「ふふっ、有難う。ユダも今日は一段とハンサムよ」

 ……何処でも有る幸せな母親と息子の光景。

 「お早う御座います、奥方様、ユダ様。朝食の用意が出来ております。奥方様、馬車の用意は、もう出来ておりますので」

 着替えが終わると、一人の小柄な執事の格好した者……コマクが参上して彼等を豪華なテーブルクロスへ案内する。

 少しだけ食器の音立てても構わずユダは食べる。

 そんなに慌てず食べても良いと母親が笑い、そして照れるユダをコマクや世話人は優しい目で見守る。

 ……それは、当主が居ない朝には見受けられる光景だった。

 母親は体調崩し易い体質ゆえに、朝から病院へと馬車で赴く。

 それを見送ってからユダは勉強を始める、コマクはその家庭教師だ。

 ……数時間後。

 「ねぇ、コマク。終わったよ」

 「おぉ、出来ましたか。……ふむっ! ユダ様素晴らしいですぞ! 満点です!」

 「本当!? やったぁ!!」

 拳を高高と上げてユダは喜びの声を上げる。そのユダを微笑みつつコマクは老眼鏡を拭きつつ言うのだった。

 「ユダ様も、今年で九歳でございますね。そして来年には十歳。あと五年もすれば成人になります」

 「うん! 僕、僕ね。十五歳になったらコマクが叩かれたり、母様が悲しまないぐらいに強くなるんだ!」

 「嬉しゅう御座いますユダ様。その言葉、奥方様にも聞かせればさぞ喜ぶでしょう……」

 ……ユダは九歳を迎えようとしていた。

 物心ついてから、南斗聖拳も父親から仕込まれ、そしてあらゆる勉学を体の中へと詰め込まれていたユダ。

 彼は、本来パンクしかねない状況を自らの聡明さと、そして、短くも宝物に近い思い出に、母親の愛で健やかに育っていた。

 何時も、彼は母上に言われていた。強く育ちなさいと。

 そして、それは奇しくも父親からも言われていた。強くなれ、と。

 彼は、その希望に応えて常に父親が望む要望に応えていた。最近では、昔のように折檻は少ない。

 「……ねぇ、コマク。最近、父上は外出する事多くなったね」

 「お仕事がお忙しいのでしょう。もしかして、ユダ様はお父上が家に長く居ないのが寂しいのですか?」

 「ううん! 父上が長く居るとコマクや他の人達に厳しく当たる事が多いもの! だから、良い事だと思うんだけど」

 ……ユダは、不安があった。

 ……九歳を迎えようとして、最近になって姿を度々消す父親の行動。

 自宅に帰らず次の日の夜に帰る事も珍しくない最近。その事は最近続いており、世話人達も、心の中では諸手をあげて
 当主の留守を喜んでいた。それは、コマクや小さなユダに関してもそうなのだが、ユダだけは不安あった。

 常に、父親の教育と言う洗脳を受けながら、それでも健やかに育った彼。

 そんな彼の小さな棘ある心と知能は小さな警報を鳴らしていた。この、最近の父親の不在に関して。

 「……コマク」
 
 コマクに相談しようか? ……いや、余計な心配はしなくて良い。

 もうすぐ自分の誕生日。それが過ぎても不安が消えぬならコマクに相談すれば良い。それまでは何も無いさ。

 ……何も。







 (もうすぐユダ様の誕生日。誕生日には一杯の花を贈ろう)

 コマクも、最近の当主の不在に機嫌良く、そして意気揚々と余計な緊張ない開放的な気分で外に繰り出していた。

 「……うん?」

 ……その時、彼は気が付く。……当主に似た人影が、どうも似ていると。

 (……気の所為か? いや、だが良く似ていた……)

 コマクは、気に掛かりその後を付ける。……そして、その瞬間彼は鳥肌立つのだった。

 (御当主……!? ……あの、女性は……!?)

 ……見ず知らずの女性。……それに接吻する当主の姿。

 (何と恥知らずな……! 愛する奥方様が居ながら何と言う事を……!)

 ……コマクは、気付かれぬ事なく屋敷へ戻っても苛立ちが抑え切れなかった。

 そして、彼は意を決するように自身に用意されていた居室に隠している、一つの小瓶を掲げて呟く。

 「……使うか?」

 ……それは毒薬。

 少量だけで例えどんな拳法家だろうと殺せる毒。あのように、奥方様やユダ様を放置し、別の何処の馬の骨とも知れぬ
 女と肉欲を発散していた時から、コマクは無意識の内に近くの露店でそれを買っていたのだ。

 「……そうだ、ユダ様や奥方様の為に……私が全ての罪を被ってあの男を殺せば……」

 ……当主が死ねば、自動的にユダがこの屋敷の主人となる。

 ……そうすれば、少なくも今の御当主による恐怖統治も終わりる。ユダ様は幼くも聡明。社交関係は別の者に 
 引き受けさせれば、少なくとも六年は持つ。成人に達した時にはユダ様の力ならば屋敷を自由に行使出来るであろう。
 幸い、自分にも信頼足りえる知人は居る。その者達に任せよう。そうだ、私が計画を成功すれば万事上手くいくのだ。


 「……そうだ、二人の幸せの為」

 準備は出来ているのだ。

 朝食に小瓶の毒を一匙……この無色の毒ならば口に達するまで気付かれぬ筈。

 もし、万が一口に違和感を感じるようならば、自分には……拳法が有る。未熟ながら戦時を生き延びたこの拳法が。
 それを奇襲で使用すれば、御当主が毒で苦しむ隙に……私の小さな牙が当主の首を刈り取る事は可能なのだ。
 
 この毒薬と我が鉱支猫牙拳あれば……未来に光を。

 ……どちらになろうとも私は捕まり処刑されるだろう。何せ御当主は紅鶴拳の伝承者。その殺害の罪は常人より重い。

 私は、その固い決意とともに、実行した時に永遠の別離となるであろうユダ様と奥方様の姿を頭に思い浮かべる。

 そして、悲しそうなユダ様と奥方様の顔に胸が締め付けられるも私は自分に言い聞かせるのだ。

 (そうだ、これが私のユダ様の誕生日の贈り物になる。ユダ様が幸福となる為の……)

 


                                 「コマク?」




 ……危うく、瓶をコマクは落としそうになった。

 当主? ……いや、私の小瓶の掲げた姿を見れば、あの方なら瞬時に全てを見抜き私を殺すだろう。

 慌てて振り返り、そして彼は自分の居室に現われた人物の名を呼ぶ。一抹の安心感と共に。

 「……ユダ様。如何しました? こんな夜更けに……」

 それは、ユダ。既に寝巻きに着替えたユダは、心配そうな表情で口を開く。

 「コマクが、帰った時に凄い難しい顔してたから……それ、毒薬?」

 ……あぁ、私の愚かな計画を、この方は簡単に見破ってしまうのですね。

 コマクは、寂しげな微笑と共に口を開く。

 「ユダ様、今までお世話になりました。……あの方は、この屋敷の……いえ、ユダ様自身の毒です。私のような老兵が
 死ぬ事で少しでもユダ様と奥方様の苦しみが減るのならば、このコマク御当主と刺し違える覚悟で御座います」

 「駄目だよっ!」

 ユダは……自分より少しだけ小さなコマクの体へ飛びつき優しく抱きしめる。

 「駄目……駄目だよ。コマクは居なくなっちゃ駄目。コマクは、僕の大切な……大切な人なんだよ」

 ……私を抱きしめるユダ様の体は……震えている。

 「……ユダ様」

 「ね? だから父上を殺すなんて言わないで? 僕が、僕が大きくなって父上を止めれば良いだけなんだから」

 ね? と穏やかな笑みを浮かべるユダに……コマクは瓶を脇へ力なく置くと顔を伏せて泣いた。

 大きくなった……心も体も……既に自分よりも、と想いつつ。

 




 ……後に彼はこう語る。

 何故、あの時ユダに止められようとも構わず当主を殺せなかったのか、と。

 何故あの時、命令を破ってまでユダの傍に居なかったのか、と。

 彼は、永久にその事で悩む。そして、狂信的に未来の彼の命令に応じるのだ。例え、それが倫理を崩壊した命令でさえ。




 
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 ……ユダ、九歳を迎える前日。その日コマクに当主は言った。

 「……コマク、ちょっと遠出してこの品物を買いに行ってくれ。何分、明日はユダの誕生日だし、な……」

 そう、妖しい目で彼は命じた。

 コマクに命じたのは一枚の絵画。主人の命令に、彼は素直に応じる事にした。明日はユダの誕生日だし、彼の
 命令に反抗し明日を台無しにするなど彼には出来ない。ユダの為に、明日を当主には機嫌良く過ごさなくてはいけない。

 「ふんっ、ならとっとと行け! 距離が遠いからな。急げよ」

 背中を蹴られても、コマクは苦痛で叫ぶ事も言い返す事もしない。そのような事で当主の機嫌を損なわせる訳にはいかない。

 蹴られるように飛び出したコマクは。ユダと奥方が居る屋敷を一度だけ一瞥し目的地まで行く。

 ……その、場所はどんなに彼が急いでも翌日まで帰れぬ場所だった。

 

 
    
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 コンコン。

 ……ノックの音。それと共に一人の人影が入る。

 ……それは、この家の当主。入る部屋は妻の自室。

 「あら、ノックなんて珍しいわね。貴方がそんな事するなんて」

 妻は、夫のそんな珍しい動作に気付き柔らかく微笑みかける。

 ……当主は、無言でそんな妻の顔と、そしてつま先までの全体像を見ていた。

 「……? 貴方……」

 「なぁ、お前。……少し、話しをしよう」

 ……その当主の言葉と共に……雨が降り始めた。




  
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 「……うわぁ、嫌だな、この雨」

 しとしとと、降ってくる雨。そして、ゴロゴロと嫌な音を出す黒雲

 ユダは、父親に命じられとある装飾品類の買出しを命じられた。

 彼としては、父親のそんな言動を何も自身の誕生日の前にしなくてもと思いつつも、父親のそんな身勝手な言動を
 何時も通りだと思う安心感もあった。最近の何か変な静けさは、彼にとって不気味で何か起こりそうな気がしてたから。

 「……うん、何も起こる筈ないよ」

 彼は、急いで屋敷へと戻る。傘は持っているが、雨に万が一父親の命じた品物に汚れでもついたら恐ろしい光景が待っている。

 彼は、もう少し自分が大きければ父親の威圧にだって負けないのにと思う。

 出来るならば父親にも負けぬ強さを……彼は、昨日はキラキラと輝いていた自分の星に願う。

 『ユダ……貴方の星はね。妖星って言うのよ』

 『愛に全てを捧げる殉星に、人の為に尽くす義星に、拳士を纏める将星に、人々を命を懸けて守る仁星』

 『貴方の星は、貴方自身の力を輝かせる星よ。私は、貴方がそう言う星の下で生まれた事を誇りに思うわ』
 
 ……僕自身の力。

 それって時々何なんだろうって考える。

 コマクは、僕は頭が良いって言ってくれる。……なら、それが僕の強さなのだろうか?

 ……以前、アケビやシランと一緒に遊んだ時も、僕は参謀とか、そう言うのに向いていると言ってくれた気がする。

 ……僕の強さ……辞書で調べた知略だろうか? う~ん、何なんだろう。

 彼は、暫く悩みその問題について放置する。

 大人顔負けの知性を持ちしも、未だ心は子供な彼は大好きな母親が待っている屋敷に帰る事の方が大事だったから。







                                  ……ピカァ! ゴロゴロ……!!




 「うわ……! 雷だ……っ」

 ……落ちてきた雷、そして天光る空。

 彼は、それに身を縮こまらせ屋敷へ入る。呼び鈴を押す事もなく、持っている合い鍵を使いそのまま……。

 ……それは、最後のチャンスだったのかも知れない。

 ……彼が、呼び鈴を鳴らせば。

 ……もし、雷に彼が怯え何処かに避難すれば。

 ……そんな、もしもの可能性を切望する……真っ赤な悲劇は訪れなかったのかも知れないのだ。






  
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 ……ユダは、屋敷に入ってその物静かさに違和感を覚えた。

 何時もなら使用人の誰かは居る屋敷。そして……本来母親が居る筈だった。

 「……誰かっ?」

 ……吸い込まれる、ユダの声。

 ……外からの雷の音と光はユダの不安を一層膨らませる。

 彼は、その異様な雰囲気と無人の屋敷に心臓は激しく揺れていた。

 早く、早く母上に会わないといけない。早く……。

 そう、彼は足早に母が居るであろう寝室へと向かう。

 そして……彼は扉を勢い良く開く。そうすれば、何時もの大好きな母上が笑顔で出迎え……。








                                  ……鮮血






  ……え?






 ……ユダは見る。            ……体から血を噴出させ倒れる母親を。


 ……ユダは見る。            ……血を流して倒れる母親と、血を浴びる父親の姿を


 ……ユダは見る。            ……鮮血によって、飛び散った血に染まる一室を。







 「……何だ、随分早く帰ったな。ユダ」

 ……低音で、ユダの父親は顔を上げる。

 ……その顔は……微笑んでいた。

 「父、上?」

 「こいつはな……私がお前がどんなに教育しても思ったように育たないから捨てようって言ったら怒ってな」

 



 何を言ってるのだろう? 父上は何を言ってるのだろう? 母上は何で血を流して倒れているのだろう?

 何で母上は髪の毛を真っ赤に染まって倒れているのだろう? 母上、母上母上母上母上母上母上母上……。


 未だ、何かを言ってる父親をすり抜けて母親の傍に跪く。

 「母上、母上……」

 「……ユダ?」

 「! 母上っ!!」

 未だ、生きてる!

 「母上、今、お医者さん呼んでくるからね。ねぇ、だから大丈夫だから……」

 「呼ば……なくて良いわ」

 「……母上?」

 ……ユダの母親は、笑顔だった。

 髪の毛を血で紅色に染めて、唇は血で濡れながらも……その瞳は優しくユダを映していた。


 「……私、ね。貴方を今まで育てられて、幸せだったわ」

 「……だから、もう役目は終わったの。……貴方は、強く生きるのよユダ。強く、逞しく生きてね」

 「……私、は……貴方を空で……貴方の星と共に……見守る、から」

 そこで、彼女は言葉を途切れ血を吐く。

 「母上っ!」

 叫び、彼女の血で濡れた体を抱きしめるユダ。

 「駄目、よ……ユダ。汚い……わ」

 そう言って、彼女は口では抵抗するも……我が子に抱きしめられている、最後の抱擁を体は拒絶はしない。










 「……汚く、ないよ」

 ユダは、だんだん自分の腕の中で冷たくなる体温を感じながら涙を浮かべて母親へ言う。

 「……とっても、とっても今の母上綺麗だよ。……その、紅い髪も……紅い唇も……全部、全部綺麗だよ」

 ……血に濡れた、髪を優しく指が汚れるのも構わず梳いて。

 ……血の指で、最愛の人の唇を……紅で染める。

 彼は、冷たくなっていくその体を強く強く抱擁しつつ、母親に言い募る。

 「……だか、ら母上……綺麗、だから……ね? 綺麗……だから」





                                 ……死なないで






 壊れたように、『綺麗』と言う単語を繰り返すユダに……振るえる手で母親はユダの頭に手を乗せる。

 そして、引き寄せてユダの耳元で何かを囁き……呆然とするユダに……恐いほど美しい微笑みで言い切った。









                             「愛してる     ユダ」








   

 ……雨は降り続ける。

 




 「……母上、如何したの?」

 「……眠ったの? ……ねぇ、もう時計は、僕の誕生日を指したよ?」

 ……無情に十二時を告げて、そして過ぎた時計の長針。

 「……起きて、ねっ……何時も、見たいに……『私の可愛いユダ』って言って……そして、僕にキス……して」

 「……そして、鏡の前に立って僕に美しいか聞いて……僕は、とっても綺麗だよって言って……朝が……来て」

 そう、物言わぬ母親へ、彼は優しく語りかける。

 だが、彼の母親は微笑みを浮べたまま動かない。

 母親は、微笑を浮べたまま動かない。

 ……動かない。











 「……ふん、壊れたか」

 ……ユダの体は止まる。

 「お前の女も、お前も所詮は出来損ないだったな。紅鶴拳を未だ身に付けられぬようなお前も、そしてお前を完璧に
 育てる事が出来ない、其処に転がっている醜い虫けら風情もまた完璧ではなかったと言う訳だ」

 ……黙れ。

 「お前の女はピエロだったな。お前を精一杯楽しめようと無様に良い母親を演じていピエロだ」

 ……黙れ……っ。

 「……絶望して、声も出んか。なら、お前も一緒にあいつの元へ連れてやろう。それがお前に相応しい死に方だろう」

 当主は指を背中を向けたユダへと向ける。

 それは紅鶴拳を扱うならば基礎である指先を瞬時に高速で動かす事により相手を切断する拳。

 せめて、痛みはないようにと当主は力を込める。

 そして……彼は指を振った。







                                 ……ズバッ!!




 
 「……ぁ」

 ……肉が裂ける音。

 ……そして、地面に『指が転がる』。

 「ば……私より早き拳だと……っ?」

 呆然と、人差し指を切り落とされた片手を押さえつつ目を見張り当主はユダを見る。

 ユダは……涙を流しながら彼に対し立っていた。母親を守るように立ちながら彼は片手を人差し指を出したまま立つ。

 その涙も、母親を抱擁した時に血が付着したのか、目元に付着した血と涙が混ざり紅い涙が頬から伝う。

 「……お前、お前は……父上なんかじゃ……ない」

 喉から搾り出すように、彼は美しさを感じる程に紅の涙を流し呟く。

 「要らない、要らない……」
 
 うわ言のように、自分に言い聞かせるように。彼の母親の血が付着した紅い唇は呪文のように同じ言葉を繰り返す。

 「……お前は……要らない。……お前こそ、虫ケラだ。……母上を、『俺』の母上を侮辱するな……」

 その……瞳に浮かんでいるのはまさしく『妖星』であり。

 ユダの言葉に、父親は壮絶な笑みで貼り叫ぶ。

 「は、はははははははは! 遂に覚醒したと言うのかユダ! だが、だがなぁお前にこの私が倒せるか!? 実の親の私を!
 紅鶴拳伝承者の私を倒せると思うのかユダ!? お前の未熟な力で私を倒したいのなら奥義を……」

 ……途端、ユダの気配が揺れた。

 その黒く艶のある髪の毛は不気味に重力に逆らい上向きに波立つ。

 そして、彼が光る目で構える拳……それは紛れも無く紅鶴拳の奥義。

 
 その、紅鶴拳の奥義を放とうとするユダと。それを視認しつつ残った片手の一指し指を掲げ裂けるような笑み浮かぶ当主。

 




                               ……稲光が  屋敷を包んだ。







  
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 「……っはぁ! はぁ! すっかり遅くなってしまった……!!」

 両手に品物を抱え、急いで屋敷へ走る小さな人影……コマク。

 彼は、どうにも嫌な胸騒ぎが目的の品物を買い終えてから感じていた。

 既に時計の針は翌日を指しており、今から屋敷へ行っても閉じてる可能性は大。だが、それでも彼は屋敷の門を叩く。

 「……開いてる、だと」

 ……叩く前に、その扉が施錠されてない事に彼は気付く。

 膨らむ不安。コマクは急いで屋敷に入り込み……そして何やら異臭が漂っている事に気が付く。

 (……まさか!!?)

 彼は、本能に導かれるままに一つの室内……奥方の部屋を開ける。

 そして、見る。……想定していた……最悪の光景を。

 







                          「……あぁ……ユダ様……奥方様……!!!」

 






 ……それは、まさに惨状だった。

 部屋中がペンキが飛び散ったかの如く紅く覆われ、目立つ人間大の鏡も紅く染まっている。

 そして、倒れこんでいる三人の人影……三人!!?

 「御当主!? では……誰が、こんな事を」

 コマクは、このようにユダと奥方へ犯したのを当主だと最初に思った。

 それは、常日頃の彼の暴力性を目の当たりにしている彼ならばの想定。そして、彼は倒れた当主を見て自分の想像が
 違うと気付くと、この現状は外部の何者かの犯行かと考える。だが……コマクの思考を一つの声が打ち破った。

 「……コマ……クか? ……クッ、貴様は……常に俺の気に入らん時に現われるな」

 「御当主! ご無事で……今、警察と医者を呼びに」

 「必要ない、俺はもう死ぬ。そして……俺が殺したあいつもな……」

 「!? ……では、やはりこの惨状は貴方が……何で、何で奥方様を! ユダ様も殺しになった!!」

 近くに居たユダを抱きしめて泣き暮れるコマク。

 こんな幼い命を平気で奪うとは……それでも父親か、この男は!!

 そう、ユダに別れの抱擁をしつつ目の前で致命傷を負う男に止めを刺そうと考えるコマクを……一つの鼓動が思考を止める。

 「……ぇ? ……い、生きている。ユダ様は未だ生きている……!」

 いや……生きているところか、これは無傷だ。……落ち着いて観察すればユダの体を濡らしているのは全て返り血。

 気絶しているだけで、ユダ様の体は何も損なわれていなかった。

 「……これは、一体」

 「愚図だな、貴様は。ユダが……俺の息子がやったんだよ」

 「……! ユダ様が……そんな」

 コマクは信じられない。あのように愛くるしい存在であるユダが、このような惨状を犯したのを。

 ……そして、当主は語る。狂気的な笑みを貼り付けて、今際の最後とばかりに。

 「……成功、したのさ」

 「成功? ……一体、如何言う」

 「解らぬのか? コマク、教えてやろう。紅鶴拳とは、ある拳法の派生……その拳は天すら打ち破る最強の拳だった。
 そして、その拳の最強たる所以は血に染まりそれにより強さを得る事に繋がった。我が拳はそのような拳なのだよ」

 当主の語る紅鶴拳の特性……その恐ろしい正体を、コマクはユダを抱きしめながら聞き続けていた。

 「そして、俺は気付いた。自分ではその最強の拳に近づけぬと。だからこそ俺は幾人もの優秀だと思える女達に
 自身の子を生ませた。そして……ユダ、俺の最高傑作! 俺の夢を適える可能性が生まれたのだ! こいつが生まれた
 時から理解していた! こいつは『妖星』を備えていると! 六星の力有る者ならば世界を支配出来ると!」

 「……狂っている」

 コマクの呟きに、喉から笑う当主は気分を害さずに言い返す。

 「いいや、私は狂ってなどいないさ。もっとも、計算外なのはこいつが母親に似て余りにも拳情が低すぎた事だ。
 俺は、必死でこいつに教育を施し非情にさせようとした。そうすれば紅鶴拳を身に付けれると確信したからだ……が」

 そこで言葉を区切り、一度吐血してから当主は続ける。

 「が、こいつは何時まで経っても甘いままだった! 俺は苛立ち、そして考えた。……そして、思いついたのさ……!」

 そして、彼は見ていた……もはや屍である奥方を。

 「! ……まさ、か」

 この時点で、コマクは当主の考えを悟る。

 「あぁ、そのまさかさ! あいつを、俺が気に入った奴を殺せば俺は拳を昇華できるのでないかと! そして、それは
 駄目だったがユダがそうだった! ユダこそこいつの血によって覚醒した紅鶴だったんだよ! 母の血に染まりし紅鶴だ!!
 素晴らしいぞユダは! 母親が死んだ瞬間に一瞬にして紅鶴拳を! いや奥義まで駆使し俺をこんな風に壊した!!
 こいつは天才、否、天に選ばれたんだよ! クハハハッガハッ! ……ハハは、俺の、俺の知略は成功したぞ、コマク!!」

 そう、狂気的な笑みで宣言する当主に、彼は絶句した。

 「貴方……貴方はそんな事の為に奥方を殺したと言うのか……?」

 コマクは震え上がる。自身の拳の昇華の為に殺したと成れば、今までの奥方のこの男に対する愛は何だったのかと。

 「……愛してたさ」

 「愛していたからこそ殺すのだ。ユダも、何時か理解しえる。何せ、そいつは俺の息子だ解る! 目を覚ませば、コマク。
 お前も知れよう紅鶴の悲しき性と言うものをな。……そして、最後に俺からの命令だ。この……俺の言葉を決してユダに話すなよ。
 そして、貴様はこれからユダがどう育とうと、お前の意思でユダを変えようと介入するな。それが……俺の命令だ」

 ……? 言われずともコマクは話す気など無い。幼きユダに、そのような過酷な事実を話す勇気など、とても。

 そして、最後にユダに介入するなとは如何いう事か? だが、コマクはこの時は死に行くものの願いを聞く事にした。

 既に失血死しかけ、青白い当主。……その、憐れな最後に同情などせぬが、最後にコマクは聞きたかった。

 「最後に! 当主、貴方はユダ様を愛していたのか!? それが貴方の愛だったとでも言うのか!?」

 ……何故、そんな事を尋ねようと思ったが自分でも解らない。

 だが、聞かなければ後に後悔しそうな気がして……彼は尋ねる。

 「……ユダ……か」

 「俺は……ユダを……愛……し……」

 ……そこで、言葉は途切れ当主は顔を伏せる。

 愛し『てた』のか。愛し『てない』と言おうとしたのか解らぬまま。

 そして、コマクは彼に恐る恐る近づき……その脈が止まっているのを確認すると口惜しそうな顔でユダを強く抱きしめるのだった。


 ……そして、凄惨なる夜は終わる。






  
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 ……葬式が終わった後、ある意味大変な日々でした。

 何せ、当主は資産家ゆえに、その遺産を狙う者達で沢山でした。

 私は、何とかその手の者を追い払い……そしてユダ様を守る決意をしていました。

 ……あぁ、ですが。

 「……コマク、か?」

 「!? ユダ様、起きられましたか!? もう、大丈夫なのですね!!?」

 「あぁ……」

 あの事件から数日後、ようやく目を覚ましたユダ様。

 ショックでどうにかなるかと懸念したが、その微笑に一安心……。






                            「『俺』なら大丈夫だ、コマク」





 

                                  ……俺?













 ……後は、語る程の事でも有りません。

 ユダ様は、人が変わったかのように機敏に以前の当主のような手腕で仕事を継続しました。

 私は、こう予測します。あの時に母上の血と、父上の血を浴びたユダ様の心は紅く濡れ……そして心を変えたのだと。

 今のユダ様は、殆ど当主の真似事のようにも見えます。

 使えぬ人間は捨て、有能な人間には報酬を与え。

 ……以前の優しいユダ様は……消えました。何処かへ消え去ったのです。

 あの後に、世話人達の一人……その一人が粗相を犯した際に……ユダ様は南斗聖拳を扱いその者の頬を裂きました。

 「貴様は要らぬ。俺の屋敷に、傷ついた者は要らないのだ」

 もし、昔のユダ様なら一つの失敗など微笑んで許し、その者を労う慈悲を持っていたのに……今は冷徹なる支配者。

 「俺は……『妖星』を宿すユダ。俺は美と知略を備えし最も強い男になる者! そうだ、『妖星』が、そう告げている!」

 そう宣言し、ユダ様は自分の黒い髪を真紅に染め上げて顔に化粧を塗り、まるで奥方を真似するかのような衣装で指揮します。

 そして、血に呪われたあの方は時折暴虐を振るい、そして鏡の前で私へと問うのです。『美しいか』……と。

 ……まるで、以前の当主のように。まるで、以前の奥方様のように。

 ……そして、悲しい事は、未だ有ります。




 





 ……事件から暫く経ったある日。

 「……ユダ様、この写真ですかどうしますか?」

 屋敷の整理をして、見つけた昔の写真。それはユダ様と奥方様が映る幸せそうな写真。

 「うん? 何だ母上と俺の昔の写真か? ……とりあえず破損せぬように何処かへ閉まっておけ」

 その言葉に、人が変わったような性格になったユダと暫く接していたコマクはほっとした顔つきで口を開く。

 以前と様変わりしても、心の底では奥方を愛してるのだと安心しつつだ。

 「そうで御座いますよね。何せ、ユダ様と奥方様の幸せな頃の写真ですから」

 「……何を言ってるんだコマク? 幸せも何も、母上がついこの前死ぬまでは幸せだったろうに」

 「え」

 ……何だ? 一体何をユダ様は言っているのだ?

 嫌な予感と共に、コマクは掠れた声で言葉を続ける。

 「……で、ですが御当主が居た時は……」








 「……当主?」

 私の、その言葉に、まるで能面のような顔つきでユダ様はこうおっしゃいました。

 「当主とは、母上の事だろうコマク? この屋敷で住んでいたのは母上と俺の二人だけだろう」

 「……え?」

 私は、事の異常さにその時やっと気付き……そして掠れるように尋ねました。

 「……ユダ、様。ユダ様に、南斗紅鶴拳を教えた方は……誰でした、か?」

 「何言ってるんだ、コマク」

 その言葉にユダ様は……とても綺麗な笑顔で言いました。

 「当然、母上だろ? 俺が幼い頃から紅鶴拳を教えてくれた。俺に勉強を教えてくれた時もあったな。厳しい時も
 有ったが、優しい時はとても優しい人だった。……如何した、コマク。そんな悲しそうな顔をして?」

 「……いえ」

 コマクの不自然な態度。それに若干今のユダは可笑しな奴だと思いつつ鏡へ立つ。

 何を言ってるのだろうコマクは? 私は生まれた時から母上だけに愛され、そして母上は今も天から見守ってくださる、星となり。

 ……そうだ。俺は『妖星』のユダ。……母に……神に選ばれた男だぞ。

 ユダは、鏡の前に立つ。そして、彼は優雅に自分を映す鏡を見て……硬直する。

 ……その、彼の目に見間違いでなければ……かつて『フィッツ』と呼ばれていた頃の小さな無力な自分が……。


 「……っ消えろ!!」

 ……鏡が、割れる。

 一筋の線を一瞬にして人差し指が虚空をなぞり、等身大以上の鏡を血相を変えてユダは割る。

 息を切らして割れた破片を見つめるユダ。その顔には壮絶な様々な負の感情が満ちていた。

 (何だ……今の姿は?)

 (……違う、違う。あれは俺ではない。俺ではない!)

 (俺は、無力でないのだ! あのように泣きそうな醜い顔ではないのだ!)

 (俺は……俺はこの世でもっとも強く美しい男!!!)

 それを……何も言えずただコマクは眼鏡の奥で悲しい目でユダを見つめるしかなかった。


 
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 ……ユダ様は、母上殿を想う余り記憶まで捏造してしまいました。

 御当主の事を記憶から追放し……その事は、傷心のユダ様にとって良い事か、悪いのか知りえませぬ。

 ですが、たった二人の肉親の内の一人……それが如何言った人間であれ記憶からも、屋敷からも存在ごと消すユダ様の
 心は……どれ程までに苦しく、どれ程までにこれからもその心に、はち切れそうな痛みを抱えるか私には知りえません。

 あの方は、自分で自分の弱いと考えた部分を封じ込めてしまったのです。きっと……元々備えていた優しさも含め。

 紅色の鏡へ昔の自分を封じ込め……そして自分自身は何者にも傷つけられぬ者なのだと言い聞かせなければ成らない程に
 今のユダ様の心はきっと……。私は、そう思うたびに……この無能めな副官の髪は白色へと変わり行きます。


 願うならば……ユダ様が以前おっしゃった友人が現われる事があれば……そんな奇跡を私は願うのです。







 
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 ……時は長く経ちました。

 その間も、ユダ様に取り入れようと数々の人々が屋敷へ訪れました。

 それらに接する度に、ユダ様の心はますます恐ろしいほどに妖しく輝きつつ……人々を拒絶するようになります。

 今では、あの時のユダ様の優しさは終ぞ見えません。私を除き、他の者には本心を語る事は無くなりました。



 ……半年程経ったでしょうか?




 ……南斗聖拳修行場。そこでもユダ様の苦しみは消えません。

 ユダ様は、常に母上の形見である緑色のマフラーを巻きつけています。そして、宿命たる『妖星』を奥方に重ね崇拝します。

 そして、自身の星が最強だと謳い、それを馬鹿にする者を容赦なくユダ様は傷つけるのです。……母上を侮辱されたかのように。

 それにより、既に後は奥義を会得するだけであるユダ様は南斗の拳士達に畏れられながらも、関知せず己の道を進む。

 そして、私に何時も言うのです。『何時か、自分は王となる。そうすれば『妖星』の強さを世界が認めるだろう』と。

 ……今、今もユダ様の心は紅色に傷の鎧で覆われているのです。







 ……あぁ、ですが、今日私は希望に見えるかも知れぬ人と出会いました。

 以前……遥か昔にユダ様がお話してくれた七日間だけの友人……ユダ様を侮辱した者は憐れに痛めつけられた後に
 ユダ様は幽霊でも見たかのように近づいた二人組み……ユダ様は名前を聞いて人違いだと思ったらしいですが、私の
 考えが正しければ、恐らくあの二人組みが以前ユダ様の心に強い光りを宿してくれた方たちなのだと思います。

 いや、私は違ってもそう希望したいのです。以前の……暖かな微笑みのユダ様を取り戻したくて。


 (……お願いします)




 (どうか……貴方がユダ様の話した思い出の友ならば……ユダ様をお救い下さい)




 彼は、老眼鏡の従者は深く一礼してジャギとアンナに背を向けてユダの後へと付いて行く。

 彼には、当主の最後の願いゆえに、彼へと自分の意思で介入出来ない。

 ならば……紅鶴の従者はただその老眼鏡の奥で祈るのみなのだ。

 「コマク、何をもたもたしてる? 俺は、こっちで生活するとなると色々準備が居るんだ。お前も手伝え」

 「……えぇ、おっしゃる通りに」

 「あぁ、これから忙しくなるぞ。伝承者……まぁ、俺がなるのは決まっている」

 「何故なら、俺は……」









                         「何故なら……俺は『妖星』のユダ! 美と知略の星だ!!」












             後書き






  ようやく、描きたかったもの書き終えた感じ。




  ユダのナルシストっ振りは母親の亡き憧憬。そして父親の虐待によりあぁ言う性格と言う事に。


  目の前で母親が父親に殺害された事が美しいものに無力になる原因。



  まぁ、何でここまでユダを美談にするのが自分でも解らないんだけどね。『妖星』が原因だったりして




 






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