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No.29120の一覧
[0] 今度はきっと二輪の華で【再構成】(北斗の拳 憑依?)[ジャキライ](2012/06/22 17:59)
[1] 【文曲編】第一話『名も無き星の目覚め』[ジャキライ](2011/08/02 20:52)
[2] 【文曲編】第二話『迷い狼と迷い猫』[ジャキライ](2011/08/03 22:03)
[3] 【文曲編】第三話『当惑  約束』[ジャキライ](2011/09/14 18:30)
[4] 【文曲編】第四話『家出 そして出会い』[ジャキライ](2011/09/05 18:31)
[5] 【文曲編】第五話『出会い 因果と死闘』[ジャキライ](2011/08/07 19:29)
[6] 【文曲編】第六話『修行 馴れ初めと理解』[ジャキライ](2012/06/22 18:05)
[7] 【文曲編】第七話『憧れる事 求める事』[ジャキライ](2012/06/22 18:16)
[8] 【文曲編】第八話『南斗の触れあい そして兆し』[ジャキライ](2012/06/22 18:53)
[9] 【文曲編】第九話『忍び寄る冷気 曇天』[ジャキライ](2011/08/14 23:45)
[10] 【文曲編】第十話『初雪の冷たさと哀しさ』[ジャキライ](2011/08/15 14:16)
[11] 【文曲編】第十一話『初冬 そして 眠る子』[ジャキライ](2011/08/17 00:12)
[12] 【文曲編】第十二話『暫しの別れ そして決意』[ジャキライ](2011/08/17 13:18)
[13] 【文曲編】第十三話『それぞれの冬の過ごし方』[ジャキライ](2011/08/19 07:46)
[14] 【文曲編】第十四話『姫君と 哂う天邪鬼(前編)』[ジャキライ](2012/06/22 18:55)
[15] 【文曲編】第十五話『姫君と 哂う天邪鬼(後編)』[ジャキライ](2011/08/20 23:19)
[16] 【文曲編】第十六話『雑談と此処にいる実感』[ジャキライ](2011/08/21 21:14)
[17] 【文曲編】第十七話『リュウガ と 寂寞の村』[ジャキライ](2011/08/23 23:22)
[18] 【文曲編】第十八話『小春日和 そして春影』[ジャキライ](2011/08/28 15:28)
[19] 【文曲編】第十九話『捜査  そして 訪れの日』[ジャキライ](2012/03/29 21:59)
[20] 【文曲編】第二十話『邂逅 境界線 懸念』[ジャキライ](2011/08/29 12:41)
[21] 【文曲編】第二十一話『描かれる悪意』[ジャキライ](2011/08/29 18:30)
[22] 【文曲編】第二十二話『南斗飛龍拳の使い手』[ジャキライ](2011/08/30 13:37)
[23] 【文曲編】第二十三話『動き始めた歯車』[ジャキライ](2011/09/02 11:20)
[24] 【文曲編】第二十四話『酔いどれの龍 ミネルヴァの梟』[ジャキライ](2011/09/02 20:00)
[25] 【文曲編】第二十五話『闇夜の鳥 雛の鳳凰』[ジャキライ](2011/09/05 19:36)
[26] 【文曲編】第二十六話『龍と梟は舞いて 朝露は華に伏す』[ジャキライ](2011/09/06 22:35)
[27] 【文曲編】第二十七話『終わりと言う名の始まりを』[ジャキライ](2011/09/09 00:22)
[28] 【文曲編】第二十八話『欠けた天 その天の下で』[ジャキライ](2011/09/09 16:07)
[29] 【文曲編】第二十九話『南斗総演会』[ジャキライ](2011/09/11 11:44)
[30] 【文曲編】第三十話『彼女の初試合と拾い物』[ジャキライ](2011/09/12 20:08)
[31] 【文曲編】第三十一話『鳳凰とは何ぞや?』[ジャキライ](2011/09/14 23:15)
[32] 【文曲編】第三十二話『聖者になりし彼の想い』[ジャキライ](2011/09/18 11:11)
[33] 【文曲編】第三十三話『拳王になりし彼の想い』[ジャキライ](2011/09/24 20:23)
[34] 【文曲編】第三十四話『北斗七星と華の夢』[ジャキライ](2011/09/25 15:58)
[35] 【文曲編】第三十五話『もう一人のジャギ』[ジャキライ](2011/09/26 20:46)
[36] 【文曲編】第三十六話『惰眠の狭間と星の標』[ジャキライ](2011/09/27 23:24)
[37] 【文曲編】第三十七話『惰眠 境界線 流転』[ジャキライ](2011/09/28 21:01)
[38] 【文曲編】第三十八話『それが世界の望みなら』[ジャキライ](2011/09/29 22:25)
[39] 【文曲編】第三十九話『紅く彩る華の名は……』[ジャキライ](2011/10/01 19:48)
[40] 【文曲編】最終話『極悪の芽』[ジャキライ](2012/02/09 19:34)
[41] おまけ:【文曲編】終了しての後書きと言う名の余談[ジャキライ](2011/10/02 15:33)
[42] 【巨門編】第一話『慈母の星から始まりし物語』[ジャキライ](2012/06/26 22:11)
[43] 【巨門編】第二話『訪れし春光に影は哂う』[ジャキライ](2011/10/04 22:33)
[44] 【巨門編】第三話『光臨すべし 闇から咲く物』[ジャキライ](2011/10/06 15:11)
[45] 【巨門編】第四話『幾重の先鳥の舞い』[ジャキライ](2011/10/06 18:43)
[46] 【巨門編】第五話『星の輝き 巨門への鍵開く』[ジャキライ](2011/10/07 12:06)
[47] 【巨門編】第六話『門開く記章 五車の形と陰星』[ジャキライ](2011/10/08 12:18)
[48] 【巨門編】第七話『意外なる 鍵持ちし人』[ジャキライ](2011/10/08 18:35)
[49] 【巨門編】第八話『巨門開放 未知なる旅路』[ジャキライ](2012/01/22 12:11)
[50] 【巨門編】第九話『門迎えし二羽と 紅鶴』[ジャキライ](2011/10/10 08:07)
[51] 【巨門編】第十話『番外編:ユダ外伝 妖しき紅の鏡』[ジャキライ](2011/10/10 08:42)
[52] 【巨門編】第十一話『鴛鴦は赤狼に首ったけ』[ジャキライ](2012/03/29 22:00)
[53] 【巨門編】第十二話『交喙の咥えし華』[ジャキライ](2011/10/16 19:25)
[54] 【巨門編】第十三話『五番目の北斗の彼』[ジャキライ](2011/10/18 21:44)
[55] 【巨門編】第十四話『秘孔の蟻吸』[ジャキライ](2011/10/21 22:48)
[56] 【巨門編】第十五話『純白の鶴』[ジャキライ](2011/10/28 07:23)
[57] 【巨門編】第十六話『斑鳩』[ジャキライ](2011/10/28 19:59)
[58] 【巨門編】第十七話『悪夢の初夜 彼女の決意』[ジャキライ](2011/11/01 08:23)
[59] 【巨門編】第十八話『雹降る中で 光の華を』[ジャキライ](2011/10/31 14:07)
[60] 【巨門編】第十九話『鳥頭と 天才なる者』[ジャキライ](2012/03/14 19:29)
[61] 【巨門編】第二十話『偏屈者との再会』[ジャキライ](2011/11/05 21:25)
[62] 閑話休題 『孤独なる時間』[ジャキライ](2011/11/08 19:59)
[64] 【巨門編】第二十一話『兄弟の会話 鬼影』[ジャキライ](2012/11/28 13:16)
[65] 【巨門編】第二十二話『鳥の爪は山鬼を砕くか(前編)』[ジャキライ](2012/12/13 22:39)
[66] 【巨門編】第二十三話『鳥の爪は山鬼を砕くか(中編)』[ジャキライ](2013/01/05 20:22)
[67] 【巨門編】第二十四話『鳥の爪は山鬼を砕くか(後編)』[ジャキライ](2013/02/20 10:58)
[68] 【巨門編】第二十五話『嵐は去れど、風は止まず』[ジャキライ](2011/12/03 19:08)
[69] 【巨門編】第二十六話『欺瞞の鳥篭で梟は語り騙る』[ジャキライ](2012/01/31 21:21)
[70] 【巨門編】第二十七話『天狼の毛は何故白いのか』[ジャキライ](2011/12/19 21:05)
[71] 【巨門編】第二十八話『気になるあの娘の心は?』[ジャキライ](2012/03/26 23:01)
[72] 【巨門編】第二十九話『好きと言う気持ちについて』[ジャキライ](2011/12/24 17:18)
[73] 【巨門編】第三十話『知る術なき場所の 旧き悪の華』[ジャキライ](2012/04/29 18:19)
[74] 【巨門編】第三十一話『訪れる一匹の鳥 そして来る流動』[ジャキライ](2012/01/06 23:43)
[75] 【巨門編】第三十二話『空に羽ばたく翡翠と花弁(前編)』[ジャキライ](2012/01/07 21:13)
[76] 【巨門編】第三十三話『空に羽ばたく翡翠と花弁(後編)』[ジャキライ](2012/01/11 22:26)
[77] 【巨門編】第三十四話『火と風 宙に舞いし淡き想い』[ジャキライ](2012/01/14 13:01)
[78] 【巨門編】第三十五話『吹き上がるは闇色の武曲』[ジャキライ](2012/01/19 08:17)
[79] 【巨門編】第三十六話『駝鳥の羽は運命に流れて』[ジャキライ](2012/01/21 09:15)
[80] 【巨門編】第三十七話『孤独の狼の黄昏の遠吠え』[ジャキライ](2012/01/21 19:12)
[81] 【巨門編】第三十八話『幾多の鳥と花弁と獣は廻り廻り』[ジャキライ](2012/01/24 12:14)
[82] 【巨門編】第三十九話『星々の移りと共に邪狼の声を』[ジャキライ](2012/01/24 20:38)
[83] 【巨門編】第四十話『通り雨と邪狼と華』[ジャキライ](2012/01/27 22:44)
[84] 【巨門編】第四十一話『極めろ! 北斗千手殺!(前編)』[ジャキライ](2013/09/24 14:30)
[85] 【巨門編】第四十二話『極めろ! 北斗千手殺!(後編)』[ジャキライ](2012/01/30 11:08)
[86] 【巨門編】第四十三話『孤鷲の影でほくそ笑む梟』[ジャキライ](2012/01/31 22:18)
[87] 【巨門編】第四十四話『彼女は去り行く星達の夢を見る』[ジャキライ](2012/03/29 22:07)
[88] 【巨門編】第四十五話『鳳凰と南十字 託されし子』[ジャキライ](2012/04/11 22:48)
[89] 【巨門編】第四十六話『鳳凰救出計画と作戦決行』[ジャキライ](2012/02/05 21:03)
[90] 【巨門編】第四十七話『終わりなき未来への空(起)』[ジャキライ](2012/03/22 18:13)
[91] 【巨門編】第四十八話『終わりなき未来への空(承)』[ジャキライ](2012/04/02 23:15)
[92] 【巨門編】第四十九話『終わりなき未来への空(転)』[ジャキライ](2013/12/05 00:05)
[93] 【巨門編】最終話『終わりなき未来への空(結)』[ジャキライ](2012/03/29 22:15)
[94] 【流星編】第一話『終末へ向けて飛び立つ物語の始まり』[ジャキライ](2012/02/12 15:34)
[95] 【貪狼編】第一話『運命の変動を告げる娘と孤』[ジャキライ](2012/02/13 09:44)
[96] 【流星編】第二話『人鳥の惰性と丹頂の届かぬ願い』[ジャキライ](2012/03/29 22:11)
[97] 【貪狼編】第二話『予言の詩 そして女神の一句』[ジャキライ](2012/02/15 21:22)
[98] 【流星編】第三話『死鳥鬼の心の内 それを取り巻く羽』[ジャキライ](2012/02/17 16:30)
[99] 【貪狼編】第三話『双子の鷹の訪れと 渡り鴉』[ジャキライ](2012/12/19 00:17)
[100] 【流星編】第四話『二羽の包容の鷹と 渡り鴉の午後』[ジャキライ](2014/02/15 01:59)
[101] 【貪狼編】第四話『未来に対し宣戦布告を二人はする』[ジャキライ](2012/03/04 22:36)
[102] 【流星編】第五話『砂上の楼閣と 日々を憂う鳥達』[ジャキライ](2012/02/21 22:49)
[103] 【貪狼編】第五話『闇色の風は日の沈む場所から流れ』[ジャキライ](2012/02/23 07:30)
[104] 【流星編】第六話『斑鳩は視る その無情さと邂逅を』[ジャキライ](2013/10/21 21:10)
[105] 【貪狼編】第六話『拳と共に北斗の者 邪霊を祓え(前編)』[ジャキライ](2012/02/26 16:21)
[106] 【流星編】第七話『銀鶏は視る その邂逅と安らぎを』[ジャキライ](2013/04/15 23:43)
[107] 【貪狼編】第七話『拳と共に北斗の者 邪霊を祓え(中編)』[ジャキライ](2012/02/26 15:55)
[108] 【流星編】第八話『空に渡る鳥 通り雨 夢を見る鳥』[ジャキライ](2012/03/01 17:36)
[109] 【貪狼編】第八話『拳と共に北斗の者 邪霊を祓え(後編)』[ジャキライ](2012/03/05 16:19)
[110] 閑話休題:『彼の後悔の日 鶴とコケシ ユダの秘書』[ジャキライ](2012/03/04 21:29)
[111] 【流星編】第九話『ゲーム理論 心の窪み 啄木鳥の嘴』[ジャキライ](2012/03/06 20:03)
[112] 【貪狼編】第九話『雪融けに星は旅出て 彼女は白鷺へと』[ジャキライ](2012/03/08 13:02)
[113] 【流星編】第十話『噛み合わない姉妹鳥 シンの憂鬱』[ジャキライ](2012/03/29 22:20)
[114] 【貪狼編】第十話『元斗に在るは 緑青赤紫 金と白』[ジャキライ](2012/03/15 21:18)
[115] 【流星編】第十一話『白き光の愚者は 離別と共に悪夢を授く』[ジャキライ](2012/03/21 16:52)
[116] 【貪狼編】第十一話『森の戦士と 風を切る走羽の巫女』[ジャキライ](2012/04/02 23:54)
[117] 【流星編】第十二話『儚き戦士達の憂い それは光射さず』[ジャキライ](2012/04/08 10:17)
[118] 【貪狼編】第十二話『桜 桜舞う 仄かな疼きと酔い(前編)』[ジャキライ](2012/04/08 11:56)
[119] 【流星編】第十三話『かつての神の国の 異能の機神達』[ジャキライ](2012/04/12 21:17)
[120] 【貪狼編】第十三話『桜 桜舞う 仄かな疼きと酔い(中編)』[ジャキライ](2012/04/22 12:56)
[121] 【流星編】第十四話『放浪する鳥と 赤い世界を見る村』[ジャキライ](2012/04/26 21:31)
[122] 【貪狼編】第十四話『桜 桜舞う 仄かな疼きと酔い(後編)』[ジャキライ](2012/04/30 23:54)
[123] 【流星編】第十五話『魂の嘆きの声の風 雲雀は強く舞う』[ジャキライ](2014/02/27 22:14)
[124] 【貪狼編】第十五話『夢幻にて産まれん 名は貪狼と邪狼』[ジャキライ](2012/05/17 19:17)
[125] 【流星編】第十六話『紅鶴は天を望み 丹頂の心は憂い』[ジャキライ](2012/07/12 21:45)
[126] 【貪狼編】第十六話『夢幻にて巡り遭わん 名は貪狼と邪狼』[ジャキライ](2012/05/14 22:40)
[127] 【流星編】第十七話『終末の風の中で巫女は何を見るか』[ジャキライ](2012/05/19 09:36)
[128] 【貪狼編】第十七話『小さな小さな飼育箱で交わす約束』[ジャキライ](2014/08/12 20:17)
[129] 【流星編】第十八話『飼育小屋の檻は運命と共に破られて』[ジャキライ](2013/01/01 21:18)
[130] 【貪狼編】第十八話『恋を貫け! 一途と親と鴛鴦と(前編)』[ジャキライ](2012/06/08 21:34)
[131] 【流星編】第十九話『雲雀の告げし声 静かなる波紋』[ジャキライ](2012/06/10 20:28)
[132] 【貪狼編】第十九話『恋を貫け! 一途と親と鴛鴦と(後編)』[ジャキライ](2012/06/17 12:35)
[133] 閑話休題『彼らの日常茶飯事と 来訪されし者の影』[ジャキライ](2012/06/28 18:01)
[134] 【貪狼編】第二十話『極星を望みし流星と涼やかな風の来訪』[ジャキライ](2012/07/07 00:21)
[135] 【流星編】第二十話『流星を担う男 そして海を渡る彼の記録』[ジャキライ](2012/07/14 19:13)
[136] 【貪狼編】第二十一話『途切れる事なき不穏の風』[ジャキライ](2012/09/08 10:20)
[137] 【流星編】第二十一話『近き別れ そして運命の足音』[ジャキライ](2014/02/06 22:54)
[138] 【貪狼編】第二十二話『古龍が住まいし鬼の哭く街(前編)』[ジャキライ](2013/07/25 11:42)
[139] 【流星編】第二十二話『世紀末戦記 龍帝対南斗(前編)』[ジャキライ](2013/04/11 17:41)
[140] 【貪狼編】第二十三話『古龍が住まいし鬼の哭く街(後編)』[ジャキライ](2013/07/15 15:14)
[141] 【流星編】第二十三話『世紀末戦記 龍帝対南斗(後編)』[ジャキライ](2014/08/11 20:12)
[142] 【貪狼編】第二十四話『忘星と影武者は語りきて』[ジャキライ](2013/11/12 01:17)
[143] 【流星編】第二十四話『怪物達の鎮魂歌(前編〉』[ジャキライ](2013/11/26 16:08)
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[29120] 【巨門編】第九話『門迎えし二羽と 紅鶴』
Name: ジャキライ◆adcd8eec ID:9b58f523 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/10/10 08:07


 かつて、その先に光があると信じていた者が居た。

 その者は、余りにも不器用で、そして耐え難い程に愚直に生きていた。

 自分自身すら偽り、そして憧憬へと憧憬を宿し彼は羽ばたくのだろう。

 ただ ただ その光を振りまけば 全てが 幸福に満たされると祈願し。

 それは きっとまたIFの可能性。 今は最早失われた過去の記録



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 ……鳥影山。

 それは闇闘崖と言う奈落に近き崖が付近に有り、そして針穴の轢かれた穴の上にある人一人分の立てる岩ある場所も有る。

 言えば、自然による拳士達の修行場の宝庫。其処では、数々の伝承者達が修行をしていた。

 フウゲン、ロフウ・リンレイもまたその内の一人。此処は、数々の拳士達を生み出した、もう一人の親なのだ。


 ……其処へ、脚を踏み入れる三人の人影。

 「……此処か、鳥影山か。……近づけば近づくほど何やら普通の山と違う圧迫感が有るな。……成る程、修行場に成る訳だ」

 ……金色の長髪。笑えば柔らかな顔つき、だが今は多少の影が彼の顔を異色の意味で美しく際正せている。

 彼の名はシン。孤鷲拳伝承者候補であり世紀末はKINGの名を併せ持つ人物。

 彼は、その実力から肌で鳥影山から放たれる何やら普通の山と異なる気配を肌で感じていた。突き刺すような……気配。

 「まぁ、それでもやるしかねぇだろ。お前は孤鷲拳伝承者を、俺は……未だ全然決めてねぇけど」

 「ジャギ……お前は本当に頼むから一つでも何の伝承者候補を選ぶか決めろ。そろそろやばいぞ」

 ……その彼に発破をかけようとして、自分の言葉に少しばかり悩むのは……ジャギ。

 黒の髪の毛を逆立てて、三白眼ながらも雰囲気は別段普通の人と変わらない。だが、未来では死ぬ可能性を定めている。

 世紀末では破壊者となり救世主の名を騙る男。今は何の因果が別の人間の精神が彼に住まっている。

 そして、彼は漫画として今の世界を知るが故に変えようとして動いている。今は、その変える努力の真っ最中である。

 二人とも未だ十歳程ながらも、大の大人には平気で勝てる実力を優に備えている。

 ……そして、そんな二人に付き従う……同じく金色の髪ながらバンダナでそれを縛り、黒い皮のジャケットを羽織る少女。

 「まぁ、今から気にしたって仕方が無いよジャギ。シンも、そんな難しい顔しないでスマイルスマイル! 折角今日から
 新しい生活が始るんだからさ! ……まぁ、私も正直二人と別々で大丈夫か心配なんだけどね」

 最後の泣き言は聞こえぬように。

 ……彼女も、また南斗の拳士の卵。だが、その経緯は普通の人には知らない。

 彼女が強くなろうとする理由は、言わば自分が世紀末直後に迎える悲劇に打ち勝ちたいが為の理由。
 ……その、彼女が抱える闇を、未だジャギやシンは推し量れない。……ゆえに、彼等はアンナの笑みを素直に受け入れる。

 「……まぁ、今から先の事なんて気にしても仕方が無い……か」

 「だな。……アンナ、絶対に俺は南斗聖拳極めて、お前もシンも守るから見とけよ」

 「はんっ、貴様に守って貰う? 俺がお前を守るんだろうが、ジャギ」

 「何だとこの野郎」

 守るのは俺だ、いや、この俺だと言い合う二人。それを、アンナは遠巻きに穏やかに見守りつつ、その瞳は何処か寂しそうに輝いていた。



      
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 ……木々が周囲を包み、ある程度の建造物が申し訳程度に建てられている。

 建物の中心には人工的に造られた床がり、その床の上に佇むのは一人の男性。

 「……こんちは、オウガイ様」

 「……ふむ、ジャギ、シン、アンナ来たか……息災なく何より……」

 「サウザーは?」

 「今は、山奥にて修行だな。……しかし、アンナお前も修行するのか?」

 そう、まじまじとオウガイ……鳳凰拳伝承者はアンナを見た。
 
 彼は、ジャギとシンが伝承者を目指すのは知っている。だが、アンナの実力に関しては余り知りえない。

 以前は南斗聖拳の基礎も余り身につけてなかった気がしたが……。

 「うん、オウガイ様。ほらっ、これ位は出来るようになりました」

 ……そう言って、一つの石を放り投げて手刀を当てる。

 ……すると、両断……とは言わずも深い切れ込みが走る。それに、オウガイは頷くと言った。

 「……成る程。……だが、お主は女子、余り無茶はするな。……拳士の道は、お主が想像する以上に過酷じゃろうからな」

 「解っています」

 アンナは、オウガイの立場を理解し丁寧に応じる。

 ジャギとシンはオウガイとアンナの会話を聞きつつ、アンナが切断しかけた石を拾い上げて話す。

 「……未だ雑だが、ちゃんと切れ込みが走っている。……アンナの奴、俺達に隠れて修行をちゃんとしてたらしいな」

 「う~ん、一緒に走ったりした事あるけど、あいつのちゃんとした修行してる所を俺は見た事ねぇしな。……だから何とも」

 「二人とも何こそこそ話してるの?」

 ヒソヒソ話している所をアンナに見咎められ、二人は何でもないと首を振る。

 「もう……それじゃあ、私先に行ってるからね?」

 「……へ? あ、あぁ」

 ……男性と女性拳士の居住場所は異なる。ゆえに、居住区も、今オウガイが立っている場所から左右に分かれる事となる。

 オウガイが今この場所に居るのも、その場所が一番確実な目印となる場所ゆえに。此処が、ジャギとアンナが
 別々に修行する分かれ道なのである。……安心させる笑顔で、ジャギの心配そうな顔へとアンナは口を開く。

 「大丈夫。私だって危ない真似はしないよ。女の子同士で住むなら、そこまでジャギも心配しなくて良いでしょ?」

 「……まぁ、そうだが……本当に気をつけろよ?」

 「ジャギこそ、初日から躓くような真似しないでね。じゃっ……」

 また、後でね? と、アンナは笑顔で手を振り別の道へと進む。

 「……何と言うか、ちょっと変わったなアンナ」

 ……シンは、アンナの今までの行動と態度を少しばかり疑問に感じる。

 アンナにとって……ジャギとはある種依存している人物だったとシンは過去からの付き合いゆえに考えている。

 だが、最近になってジャギに余りベタベタと接触する事も無かった。それは、単なる成長と考えるべきなのか……。

 「シン、ぼうっとせず行こうぜ」

 「……うん、ああ」

 (ジャギ、お前は平気そうだがアンナの違和感に気付かぬのか? ……お前が、一番彼女の近くに居ると言うのに)

 
 ……絶望を経験し、それゆえに負に敏感なシンの不安。それはジャギの生き様に……多少翳りを今から見抜き。

 ……彼らは、それを今は押し隠しつつも歩く。



     
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 ……鳥影山、男性拳士居住区付近。

 二人は歩く。山林が周囲を生い茂りつつも、また人工的な建物が幾つか建てられている場所を。

 だが、徒歩で前進する二人の居心地は余り良くない。

 「……見られてるな」

 「あぁ……しかも、かなり多数だ」

 ……体中に何やら張り付く視線。

 それは木の上からだったり、または木の陰だったり。

 居住の建物の影から、そして前進した後の背後からも感じる。

 「……新入りは余り歓迎しないって事かねぇ?」

 「解らん。……だが、快くパーティーをして出迎えてくれる雰囲気ではないだろう?」

 そう、冗談めかしつつもシンの気配は何時でも迎撃出来るように気を張り詰めている。ジャギも同様だ。

 「血の宴なら仕出かしそうだけどな」

 「かも知れんな……少し奥へ進むか。視線が少ない場所へ……」

 ……二人は、見えぬ視線の少ない場所へと足を進める。

 正体不明の視線に関しては後を付いてくる意思は無いらしく、徐々に二人が前進していけば視線の数も減っていく。

 ……そして、随分歩いてから彼らは視線が一つだけになると立ち止まった。

 「……一人だけ付いてきてるな」

 ジャギも、今では北斗神拳候補者である身。視線の数程度ならば感覚で知れる程には鍛えてはいる。

 シンもまたフウゲンの元で修行してる身。彼もまた視線の思惑は知らぬものの、その方向へ向けて体の向きを変えた。

 「あぁ。随分と俺達にご執心な事だな。……出て来いっ」

 ……カサカサと、木の葉が揺れる音。

 暫くの無言、そして中々出てこない謎の視線に二人は一応の警戒を以って臨戦態勢へと入る。

 ……フウゲンからも、こう聞かされた。

 『良いか? 鳥影山での修行。単なる今までの修行と同じと考えるな』

 『あそこでは、日々同じ伝承者候補ならば蹴落とそうと考えておる。何せ、南斗聖拳拳士に正式になれば社会的な恩恵は
 普通の者ならば喉から欲しいところじゃからな。ゆえに、お前達を目の敵にする輩もおるじゃろう。心せよ』

 ……南斗聖拳拳士。その力は普通の武装した人間すら一騎両断出来る力も魅力的だが、一番は社会的な地位であろう。
 
 警察官のような力も行使出来るし、今の不安定な世間では南斗聖拳の拳士を優遇している。

 それに、伝承者なれば弟子を育てると言う事で国家から直々に費用を出すとも言われている。つまり、生活に保証が生まれるのだ。

 このように色々なメリットがあるのに多数の門下が居ないのか? いや、居るには居るが才能に恵まれた人数が圧倒的に少ない。

 しかも、その地位を固執し同じ門下生を蹴落とそうと考える人間だって少なからず居るのだ。

 鳥影山。其処は修険の地なれど、様々な危険な思惑も巣食う場所なのである。

 (……俺達で先に仕掛けるか?)

 (いや、もう少し待て……俺とお前で挟み撃ちにする方が良い)

 構えるジャギと、不動の姿勢ですぐにでも動けるようにしているシン。

 ジャギの構えは腰を屈ませ、そしてすぐに邪狼撃を撃てる態勢……今の彼には一番の構えである。

 シンもまたフウゲン師父から承れた最高の姿勢がそれである。どちらも己の最も信ずる構えで未知なる相手を迎えようとする。

 ……そして。







                                ……パッ……。







                              「……キヒヒ、ようこそ鳥影山へ」





 ……現われたのは、どうも奇妙な格好した少年。

 ゴーグルを被り、そして破れたジーンズに普通のジャケットと言った格好の少年が歯を見せつつ笑い目の前に現れる。

 木の上から飛び降りたと言うのに関わらず平然と直立していると言う事は……彼もまた伝承者候補。

 「……何者だ?」

 シンは、警戒して構えを崩さず彼へと問いかける。敵か味方が知れぬ者に彼は隙を見せる気はない。

 正体不明の少年は、まぁまぁと手を上げてシンへと口を開く。

 「とりあえず、その殺気だった拳抑えてくれよ。俺は、言っとくが案内……サポーターだと思って構わないからよ」

 「サポーターだぁ? 別に必要ねぇぞ、そんなの俺達」

 ジャギの言葉に、彼は表情解らぬゴーグルをジャギへ向けて言う。

 「キヒヒ……忠告は素直に聞いた方が良いぜ? 何だって鳥影山に一応一年程過ごす俺が言うんだ。伝承者を目指して
 この場所で何人もリタイアしてる。何故かって言えば他の門下生に洗礼……苛められてだな。此処では他所から入ってきた
 人間は馴染むのが難しい。適当にグループ作るのが利口さね。俺は、新人君が上手くやっていけるようにしてるだけさ」

 説明し出す少年。それは理に適っているものの格好が説得力に欠けていた。

 「……胡散臭いな。それで、お前が何を得する? 単なる善意な訳では無いだろう」

 孤鷲拳に気に入られようとする思惑か、それとも別の罠なのか?

 判断付かずもシンは未知の少年に対し素直に言葉を受け入れられない。……だが、少年は意外な事を言う。

 「……う~ん、言うなら俺がヒーローに成りたいからかな」

 「……はぁ?」

 シンの怪訝な声に構わず、彼は出した歯茎を引っ込めて独り言のように呟く。

 「南斗拳士に半人前とは言えなったからには、英雄行為には憧れるだろ? 俺は、俺の手で誰からもヒーローだって
 言われたい訳よ。だから、これも俺の目標の為の活動って訳。……これで、俺の理由は解っただろ?」

 そう言って、ニヤリと笑う少年に……ジャギは考えてから言った。

 「……ヒーローって、バットマンとかスパイダーマンとか、そう言う?」

 その、ジャギの言葉に少年は笑み浮かべて言う。

 「そうそう! 特撮やアメコミのヒーローって憧れだろ!? 南斗聖拳伝承者になればそう言うのも可能だからさ」

 ……成る程……この少年は害は無い。

 むしろ、小さい頃からの夢を追い縋る……はっきり言えばこの世界では普通の夢を追う子供だ。

 シンも、そんな無邪気な言葉に毒気が抜かれたのが、今はもう構えていない。

 「……ふぅ、とりあえずお前が俺達の敵で無いとは理解した。……俺は」

 「孤鷲拳伝承者候補のシンだろ? あんた意外と有名だぜ」

 「……そうか」
 
 名乗る前に正体が知られていると言うのは余り良い気分ではない。

 シンは、この少年に対し少しばかり今から苦手意識を持つ。

 「……俺は、ジャギだ」

 「……ジャギ。知らない名前だな……普通にただの新参者か。特に誰かのコネで入った感じでも無いな。……何で
 孤鷲拳のシンと居るのか解らないけど、この鳥影山に入ったって事は自信は有るんだろ? まぁ、仲良くしようやお二人さん」

 そう言って両手で彼は二人の手を掴み握手する。

 あからさまな友好的態度に、少年二人は辟易しつつも、彼が最初の質問に答えてない事をここでようやく思い出す。

 「で? お前は誰なんだよ、名前は?」

 「うん、俺が誰か? ……俺は」

 そこで、彼は自分を指して自慢気に言い切る。








                       「俺は、南斗鶺鴒拳伝承者候補。名前は背黒鶺鴒のセグロだぜ」










      
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 ……日が少しだけ更ける。そして、その山中で驚きの声が一つ。

 「へっ!? それじゃあお前が一緒に木兎拳伝承者ぶっ倒したって奴か! ……はぁ~、お前が……」

 「つっても、俺は居合わせただけだっつうの、銃弾浴びただけで何もしてねぇ」

 「あ、何だ大した事してねぇのか。てっきり主人公属性有ると思ってたんだけど」

 「……何だ、主人公属性って」

 この少年、セグロと名乗る少年と話してジャギが感じた事。

 どうも子供の頃から漫画や映画に毒されているようで、話しの中に度々『主人公』と言う言葉が上げられている。

 南斗の拳士に憧れるのも、本当に漫画のヒーローのように成りたいからなのだろう。……そして、彼が担う拳。

 南斗鶺鴒拳……正統108派の上位の拳の一つ。

 彼曰くこう言う拳らしい。

 「鶺鴒は空を自由に舞う事が出来る! 鶺鴒拳極めれば制空権を自在に得るも同然! 飛びかかる敵を嘲笑う如く
 空駆け抜けて翻弄しつつ敵に一太刀を浴びせる事が出来る! 主人公を目指す俺としては、ぴったりの拳だろ?」

 そう、得意げに指を振って自慢する彼。

 「主人公になれれば女の子にも『きゃーセグロさん素敵~! 抱いて~!』って言われるようになるし、何よりも
 ハーレ……ゲフンゲフン! うん、女の子達の味方として有名になるからな。伝承者には命懸けで成らして貰う」

 「今、お前ハーレムって言おうとしただろう」

 「と言うか、不純な動機だな」

 ジャギ、シンに突っ込まれつつも気にせず笑うセグロ。ジュビジュビッと妄想が頂点に達して変な笑い声まで出す始末だ。

 「……ヒーローねぇ。まぁ、なれたら凄いだろうな」

 「あぁ。なるさ……」

 ……そう、僅かな呟きの中で覗かせた顔は何やら深い憂いも秘めており。

 今話した不純な動機だけが、彼の英雄思想の理由ではないのだろう。

 「……あぁ、そうそう。俺の今住んでいる寮。そっちの方だろ、お前等も?」

 気を取り直すような感じで、セグロは彼等へ問いかける。

 「寮……まぁ、多分俺はそっちに住むな」

 「まぁ、俺も金を出して一室借りるよりはジャギと共に住む方が退屈せんだろうしな」

 ジャギは主に金の問題で。シンは一人で住むよりはジャギと一緒の方が今の精神的には良くて。

 二人の答えにセグロは言う。

 「だったら、俺の親友二人明日にでも紹介するよ」

 「その二人も、伝承者候補か?」

 「あぁ。一人は交喙拳伝承者候補。俺の突っ込み担当、ちょっと口下手だけど気の良い奴。それと蟻吸拳伝承者候補。
 あいつとは俺ちょっとした朋友だからな。まぁ、時折趣味の食い違いで論争するけど……」

 その趣味とは何なのか少し興味あったが、ジャギは何か嫌な予感がするのでその時は聞かなかった。

 「とりあえず、今居る奴だけでも紹介するよ。……あそこの大樹で一緒に居る二人組み……あいつらも伝承者候補さ」

 そう言って、セグロは白と言うか銀髪の少年と、その少年に寄り添うように居る黒い長髪の物静かな雰囲気の少女を指す。

 「あっちの野郎が斑鳩拳伝承者候補のシンラ。そしてあっちの大和撫子系美女の女の子は銀鶏拳伝承者候補のカガリちゃん」

 そこで、セグロは口を噤み……そして近くの木を殴った。

 「如何した?」

 「……シンラの野郎~、あいつ何時の間にカガリちゃんと仲良くなってんだよ? 銀髪でクールな熱血漢って何処ぞの
 駄作ゲームの主人公だっつうの。モゲろぉ、モゲろぉシンラめ……この前カガリちゃんにアタックしようとしたら
 指弾打ち込んで来やがってぇ……一週間背中の痣が消えなかった恨み……何時か食事の時に下剤を流し込んでやる……!」

 「……欲望ただ漏れか」

 「醜すぎる嫉妬だな」

 ジャギとシンから厭きられても構わず木へと殴っていたセグロだが、落ち着きを取り戻すと二人を従い歩く。

 ……その三人を、話題に上った銀色の髪の少年と、黒い長髪の少女はじっとその背を見送った。

 「シンラの奴は指弾使いで、カガリちゃんは投擲武器を主に使う拳士なんだよな。何ていうか主人公っぽいシンラと
 ヒロインっぽいカガリちゃん。俺……俺の将来のハーレム候補をイの一番に潰しやがってあの野郎……!」

 血の涙が幻覚でなければ流している。ハーレムと言う言葉さへ先程控えた筈なのに、もはや言い切ってしまった。

 欲望に忠実だと(良い意味で)思いつつ、ジャギはそろそろ正気に戻す為に声を掛ける。

 「さっさと紹介続けてくんねぇか?」

 「……うん。それじゃあ阿比拳のハシジロ。ほれ、あそこで座禅してる奴」

 そう言って半ば興味無さそうに指した人物。それは黒人の少年だった。

 「……外人も居るんだな」

 「シン、お前が言うか、お前が? あいつ、水鳥拳の派生らしいぜ」

 金色の長髪のシンの言葉に、セグロは突っ込む。

 「水鳥拳! ……そういや、レイって何処に居るんだ?」

 水鳥拳の名にジャギは飛びつく。セグロは意外そうな声で言った。

 「何だ、レイを知ってるのか? ……あいつなら山奥で今修行中だな。明日にでも帰るだろうけど」

 その言葉に少しだけがっかりしつつも、明日になればレイと出会えると思うとジャギは安堵した。

 何せ、主要キャラの鬱フラグを破壊出来なければ、世紀末の悲劇を食い止められない。

 セグロは、ジャギから飛び出したレイの言葉を聞くと複雑そうな顔で呟く。

 「レイねぇ……あいつモテるから正直嫌いだわ。うん、本人にそう言ったら微妙な顔されたけどな」

 ……どうも、彼は美形の男は全員嫌いらしい。

 「シン、言っとくけどお前も俺嫌い。ジャギは良いぜ」

 「……これは、殴った方が良いのか?」

 「シン、どう考えても俺が殴るべきだろJK」

 ……タンコプを一つ作ったセグロは、気にせず紹介を続ける。

 「後は……丹頂拳の使い手のあいつは今外出してるし……千鳥拳のダイゼン様はシュウさんと一緒に墓参りだろうしな」

 「シュウ……白鷺拳伝承者だろ」

 ジャギの半ば確信めいた問いかけ。セグロは不思議そうな顔で口開く。

 「……お前、本当に鳥影山初めて? ……あぁ、先代のカラシラ様は事故で亡くなってから直になったよ。元々実力者
 だったし当たり前なんだけど、未だ自分の拳は未熟だって伝承者になっても此処ら辺で修行してるよ」

 「……カラシラってのは?」

 「カラシラ様、な。シュウさんの師父。昨年ぐらいに自然災害の事故に巻き込まれたって言うけど……俺達全員疑ってる。
 何せ南斗聖拳伝承者がそんな簡単に死ぬ訳ないしな。この事故には何か裏があると思うんだよな……」

 セグロの言葉に、ジャギは苦しそうな表情を浮べる。

 (……デビルリバースの影響は、シュウにまで及んだのか)

 ……予知も何も出来ず、止められなかった。

 それは、決してジャギの原因でないにしろ。責任感の強い『彼』は、原作の人物の起こす悲劇を食い止められず気にする。

 「……平気か、ジャギ? 顔色悪いぜ。……って、ちょい待ったお二人さん」

 ジャギの顔色を心配するセグロ。だが、直に慌てた様子で二人を立ち止まらせ……そして木陰に飛び込む。

 「何だ、一体?」

 「大声出すな、気配を消せ。……なぁ、最初に鳥影山で洗礼される危険性があるって言ったろ? ……あいつもそう」

 ……セグロの指す方向、その方向から歩く一人の少年。

 木の枝を指揮棒のように振りつつ口笛を吹いて歩く少年は、精神的に幼い様子を感じると共に、何か違和感があった。

 ……まるで、何か別の生き物が兎やら無害な動物の皮を被ってるような。

 その、少年より大柄な拳士が歩いてくる。その拳士は、前から歩いてくる少年へと気付き一瞥する。

 ……一瞥、ただそれだけ、それだけだったのに。

 「おい、待ちなよ、あんた」

 「あん? 何だ一体……ガフッ!?」

 ……呼びかけられる大柄な拳士。そして、気が付けばその拳士を押し倒し組み伏せてマウントポジションを取る少年。

 その少年の瞳はオッドアイで、片目の色違いの瞳は不気味に大柄な拳士を映している。

 「お前、今俺の事睨んだだろ?」

 「は? ち、ちが」

 「いけないよな~、そう言う悪い事するなって親父に言われなかったのか?」

 「違う! はな、離せ……!」

 「離さないに決まってる……だろぉ!!」

 ドシュウウウウウゥ……!!

 ……一瞬にして起きた惨状。

 大柄な拳士は、地面に縫い付けられた片腕に気付き絶叫する。

 それを見て笑う少年。その手には既に指揮棒代わりの木の枝は無かった。

 持っていた木の枝を使い大柄な拳士を縫いつけた少年は金属音のような笑い声を出して彼を見下ろす。

 「キィッ! キィッ! ……ハヤニエ完了だなぁ……南斗聖拳もまともに使えねぇ野郎が生意気に歩くなよ」

 






 「……何だ、あいつ」

 「あいつがこの鳥影山で南斗の門下生潰してる問題児……百舌拳候補者のチゴ。可愛げのある名前に騙されるなよ。
 あいつ、名前と違ってサディストで危ないから……あいつに潰された拳士、何人目だろ?」

 ひい、ふう、みいと指折りで数えるセグロを尻目に、シンは立ち上がり、そのチゴへ歩き出そうとしている。
 それに気付き、慌ててセグロはシンの体を両腕で回しこみ動きを封じる。その行動に睨みつけるシンへと、慌てて彼は言った。

 「止せって! ……あいつの周りの奴等が今の事無視してるの何でだと思う? 厄介事に巻き込まれるのが嫌なのも 
 あるけど……一番は鳥影山であぁ言う風な事が起きても大抵は黙認してるからなんだよっ!」

 「何? ……あんな暴挙をか?」

 動きを止め、話を聞く態勢になったシンへセグロはホッとすると説明する。

 「そうそう。鳥影山は基本的に強い人間の修行を望んでいる。あいつのハヤニエ趣味は最悪だけど、それでも弱い拳士
 を蹴落とすって意味では役割り果たしてるんだよ。あいつの洗礼逃れられない位じゃ、此処じゃ生活出来ないって訳」

 「……気にいらねぇ。それじゃあ女性の拳士とか、勝手も解らない新人は餌食じゃねぇか」

 青筋立てて、先程のチゴの行動に唸るジャギ。セグロは首をすくめて言い返す。

 「あいつ、基本的に女性拳士は狙わないよ。それに、この鳥影山に来るんなら最低限の力を所有して当然だろ?」

 セグロの言葉には一理ある。勝負の世界に踏み込んだからには、その世界のルールーが存在する。この鳥影山は基本的に
 弱肉強食が法律。その法律に負ける人間はそもそもこの場所へ踏み込む資格はないのだ。

 チゴが、散々その大柄な拳士を嬲り満足して去った後。頃合を見て三人は徒歩を再会する。

 「……まぁ、基本的に洗礼は女性拳士は女性拳士に。男性拳士は男性拳士で行われる。チゴは未だ襲い掛かっても相手が
 ちゃんと実力あれば引き下がる程に弁えているからマシだな。……まぁ、結構愉しんで洗礼をやってるけど」

 「……アンナの奴は大丈夫かな?」

 小さく、ジャギはアンナへと懸想する。

 あのような洗礼が日常茶飯事ならば……そう思うだけで、アンナの安否を考えジャギは不安になるのだ。

 「……まっ! 基本的な紹介はこれで終わり! ただいまから俺の将来の嫁候補にあたる女性拳士『誰が嫁だ!』」

 女性拳士を自分の嫁と謳いテンションを上げて紹介しようとするセグロ。

 ……その瞬間、セグロは一人の飛び出してきた拳士に殴り吹き飛ばされた。

 華麗な程に錐揉みで吹き飛ばされるセグロ。その余りの出来事に呆然とするシンとジャギ。

 気が付くと、茶髪で何処にでも居そうな普通の少女が、吹き飛ばされたセグロの背中を何度も踏みつけていた。

 「誰が嫁だ、誰が! あんたまた根も葉もない噂流そうと……ったく!」

 「あのぉ……どちら『ジャギ! 此処に居たんだ!』……ってアンナ?」

 ジャギが彼女が誰なのか聞こうとした瞬間……手を振り、満面の笑顔で短い再会を喜ぶアンナ。

 ……この少女は何者なのか? そう考えていたら相手がその解答をくれた。

 「紹介するね! 私がさっき出来た友達……名前は」

 「良いわよ、私からするから。……馬鹿の相手してくれ有難う、私の名は」

 馬鹿、と呼称する倒れたセグロを止めとばかりに強く踏みつけ、彼女は勝気そうな顔で、二人へと名乗った。







                          「私は、南斗雲雀拳伝承者……候補のハマ」





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 その日、南斗雲雀拳を担い手とするハマは空を仰ぎつつ呟いていた。

 「すこし雲行きが怪しいわね。……降らないと良いんだけど」

 降ると気分悪いのよね、と呟く彼女を拳士だと理解出来る人間は何人居るだろうか?
 彼女が拳士となった出生。その出生に別に何も異常はない。

 復讐する相手とか、そのような重い過去もなく、普通に南斗の拳士になれば将来社会的地位が良いと思ったから希望した。

 南斗聖拳が相性良いと解ったのも、護身武術を習っていた時に偶々今の師匠の目に止まっただけであり、別に彼女は
 世間一般の少女と何も違わなかった。……そして、彼女は今日も南斗の拳士として修行をする。鳥影山で。

 「ハマ~、マニキュア無くなったから買ってきてくれない?」

 「はぁ? あんた一人で行って来なさいよ」

 着替え終わり、彼女は今日はどのように過ごすか考える。別段今日は修行に専念しなくても良いし、かと言って
 暇潰しに外へ出るには雲行きも少し怪しい。ならば寝て過ごすかと思っていた時にルームメイトからの言葉。

 「良いじゃない。あんた最近太ったって気にしてたから」

 「……言うじゃない」

 暫く、睨みあう少女二人。

 先に仕掛けるハマ。突き出した手刀が相手の髪の毛一房を狙う。

 その手刀をだらしなく露出した服装のまま少女は手刀を片手でいなし、同じくハマの髪の毛を狙い打つ。

 このように日常でも彼女達は小競り合いで南斗聖拳を使う。……まぁ、これはある程度の南斗拳士なら日常的な風景だ。

 ……ピッ。

 暫くの手刀の応戦の後に、一本だけハマの髪の毛が落ちる。

 「それじゃあお願いねぇ」

 してやったりと、髪の毛を落とした少女。布団にくるまり睡眠を再会する少女を恨めしげに睨み彼女は外に出る。

 「降って濡れたら……あいつのベットに放り投げてやる」

 そう決意を言葉にしつつ彼女は歩いていた。……そして、道中に彼女は一人の人影と鉢合わせになる。

 「うん?」

 「……えっと、此処は違うか……となると、目的地は」

 ……何やら一枚の紙片を片手に首をキョロキョロと回している少女が居る。

 その少女の格好は、男者っぽい黒の皮ジャケット(しかも赤い狼が貼られた悪趣味な奴)に、スカートと言う出で立ち。

 ハマは、この時は彼女が拳士だとは見えなかった。そのような感じの服装で歩く南斗拳士はまず居ない。

 「ねぇ、何を捜してるの?」

 彼女は、別段困ってる人を放っておく程に冷情ではない。その少女へ近づき声を掛けたのだった。

 「あっ、こんにちは。ちょっと、場所が解らなくて」

 そう、助けて貰える事を理解して、少女は笑う。

 (明るそうな子ね)

 ハマは、単純にその少女の笑顔が女性の自分でも素敵だなと感じた。

 だが、それまで。その時は少女が誰か別の拳士の知人か何かと思っていた。だが……。次の瞬間だった。

 突然吹いた風。それは結構な強風で彼女の背中から一枚の大きな新聞紙だろうか? それが向かってきた。

 ぶつかっても危険性はないだろうが、それでも反射的にハマは後ろ! と彼女へ向かって叫ぶ。

 振り返る少女。避けるか何なりしてくれれば、自分の拳でその紙片を破り……。

 パシュッ!!

 「……何?」

 ……そう思った直後。その大きめの紙は少女の目の前で二つに裂かれた。

 その光景に沈黙するハマ。そして、何事も無かったように、彼女は自己紹介した。

 「私、アンナ。これからこっちで住むんだけど、良かったぁ、貴方見たいに親切な人に出会えて」

 「……はぁ?」

 ……そして、ハマは理解する。この少女が、自分と同じ南斗聖拳の拳士なのだと。





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 「……成る程、あんたフウゲン様の弟子ね。それじゃあ孤鷲拳候補者?」

 「ううん。私、あんまり才能ないって言われてるし、だから此処で自分の出来る事探すつもり」

 「そう。まぁ、此処には108派の伝承者達が集まる場所だからね。じっくり考えてみると良いよ」

 ……暫く会話をして、ハマは理解する。

 この少女は一見は普通の女の子だが、その南斗の拳の力は本物だと。

 そして、女の子ならではの話題や趣味も自分に近い。俗世間から南斗聖拳拳士を目指してた彼女には、そんなアンナの
 世間に馴染んだ自分と同じ気配がすぐに好んだ。そして、暫くして彼女もまた、誰かさんと同じく鳥影山を案内する。

 「運が良いよアンナは。女性拳士には、新人の子を苛めて洗礼する奴等も居るしね。まっ、雲雀拳の私が一緒に居る
 時は私が何かと助けるよ。此処でのルールーを一年理解している私が居れば、大抵は何とかなるから」

 「それじゃあちょっと言うけど、私、ちょっと男性恐怖症なんだよね。それでも、大丈夫?」

 「そうなの? ……あぁ、でも大丈夫。私の知っている仲間にも、男性は駄目って子居るから。闘いは別としてプライベートね」

 「……私以外にも居るんだ。そう言う人」

 南斗聖拳拳士には居ないと思っていた。と意外そうに言うアンナに。ハマは微笑みつつ言う。

 「結構、色々抱えている子って一杯居るよ。でも、此処では力があればそう言う事は気にしないからね。だから、私達は
 鳥影山をもう一つの親と思って修行している。アンナも、自分の両親の事は此処では一旦忘れて、鳥影山で鍛えな」

 「……私、両親は物心つくまえに死んだから」

 「あっ……御免」

 ハマは、失言したとばかりに頭を垂れる。

 アンナは、そんなハマへと逆に励ますように言い切るのだった。

 「大丈夫! 私の事を大切に思ってくれる人一杯居るから。フウゲン様に、オウガイ様に、ジャギに、シンに……」

 「え、ちょっと待って。今、シンって言った? あの、孤鷲拳伝承者候補のシン様の事?」

 「え? そうだけど」

 その言葉に、ハマは興奮する。

 「ちょ……孤鷲拳の候補者のシンって言えば女性拳士の間ではかなりの美形って事で有名じゃないの! アンナ、シン様と
 友達なの!? 今度紹介して! ううん、今からでも良いわ。レイ様も良いけど競争率高いから私半ば諦めてたけど……」

 「お、落ち着いてよ、ハマ……」

 どんな時でも、その時代にはアイドルのように崇拝されている者は居る。南斗六聖の中でかなり男前な顔だったレイに
 そして女性達を従わせていたシンが若かりし頃に女性拳士達から熱い視線の的だったとしても可笑しくは無い。

 ……そして、アンナの案内で彼女は同行し……そしてジャギとシン。そしてセグロと出会うのだ……。


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 「感激! 本物のシン様に会えるなんて夢見たいね……!」

 「いや……その、そこまで俺は有名だと知らなかったな」

 今、ハマはシンの手を握り興奮している。それに若干引きつつシンは彼女の相手をしている。

 そして、復活を果たしたセグロはと言うと、ジャギの傍に居るアンナに気付くと絶望と怨恨の表情でジャギに掴みかかった。

 「てめぇえええええジャギいいいいいい!!! お前リア充だったのか! リア充だったんだな、そうなんだな!!?
 くそっ、てめぇの顔だったら俺と同じ童貞同盟だと思ったのに!! この……この裏切り者がああああああぁ!!」

 「うっせぇ! 黙れや嫉妬団が!!」

 「ジャギ……この人なんなの?」

 尋ねるアンナ。接近したアンナにセグロはジャギへ詰め寄るのを瞬時に変えると、良いスマイルでアンナにアピールする。

 「金髪でバンダナがキュートな君! アンナちゃんだっけ? 可愛い名前だね。今から自分が鳥影山案内するからデーぐはぁ!!」

 『黙ってろ(邪魔するな)、てめぇ(お前)は!!』

 ハマ、ジャギの両方からの鉄拳を受けて沈黙するセグロ。

 アンナと言えば、行き成り接近されたが、ほぼパフォーマンスに近いセグロのアタック&撃墜に空笑いするに留まった。

 「……あぁ、二人は友達か?」

 『いいえ、単なる腐れ縁です』

 ……シンの問いかけにセグロとハマは同時に答える。

 「こいつはハマ、俺の鶺鴒計画を悉く破壊しようとする悪魔だよ……ててっ」

 セグロの耳を引っ張る、ハマ。

 「あんたのようなエロエロ大魔王を野放しにたら貞操が危ないのよ、こっちの!」

 そう、仲の良い光景を目の当たりにする主要人物三人は、どう反応して良いのか微妙な空気を醸し出していた。

 少し混沌としつつも、和やかな雰囲気。

 だが……。







              
 
                         ギャアア嗚呼アア嗚呼アアアアアアアアァァ!!!!!!???!!!








 だが、それは木霊する程の絶叫で終わりを告げる。

 「!!? 何だ!!?」

 シンは目敏く悲鳴に反応する。一件により、人の事故に敏感な彼は大きな不安を膨らませ。

 「これは、ちょっとただ事じゃない悲鳴だぞ」

 「えぇ。ただの洗礼にしちゃあ異常ね」

 セグロ、ハマも崩れた雰囲気を正し真剣な顔へ浮かべる。それは、災厄に直面した南斗の拳士の顔つきだ。

 「行くぞ、アンナ!」

 「うんっ、ジャギ!」

 そして、最後にジャギとアンナはお互いに手を繋ぎつつ悲鳴の方向へと走る。

 ……あぁ、そして。






   ・
     ・

             ・

        ・


          ・


           . ・


                ・



 





                               ……嗚呼   気持ち悪い







 「み、耳ぃ! 俺の耳がぁ!! 耳がぁああああぁ!!!」









                 不快な声 不快な感触 不快な血 不快な顔 不快な風 不快な周囲のざわめき

                 醜い目 醜い血 醜い体 醜い音 醜い手 醜い足 醜き声






                          醜い      全てが……醜い








 ひでぇ……あいつ耳を削ぎ落とした     見えなかったわよ今の    あれが紅鶴拳かよ  ……イカレテルな

 うわっ……本気かよあれ    あんた助けなさいよ友達でしょ    は? 嫌だよ 巻き込まれるのは

 鳥影山も荒れるなぁ あんな奴来て……      うわっ最悪……     あの手捌き……天才的だ





 醜い声が、周囲を満たしている。

 醜い音が、俺の美しい耳を汚していく。

 今、目の前で耳を押さえのた打ち回るゲテモノは、俺の首に巻かれてる美しき神聖なる聖遺物へと手を触れた。

 『貴様ガ紅鶴拳伝承者ガ? フザケタ格好シヤガッテ……』

 そんな単語の後に、こいつは美しき俺へと不愉快で穢れた醜い手で触れようとしてきた。

 貴様などが俺に手を触れる資格はない。

 貴様などが俺に声を掛ける資格はない。

 貴様などが……例え一山の金塊を積もうとも、この俺の首に巻かれた『母上』へと触れる資格はない。

 ……もし、触れる資格あるならば……それは……何時か遠い昔に俺と泥だらけになりつつ遊んだ……。

 ……誰だ? 今のハ?

 ……この鳥影山は気に食わない。

 この場所には花が少ない。

 そうだ、花が少ない。特に……シランと、アケビが……。

 あぁ、そうだ……血だ。もっと血を咲かそう。

 そうすれば、きっと『母上』も喜んで下さる。『妖星』が笑って下さる。

 そう思い、俺は血を染めさす魔法の指揮棒(人指し指)を掲げて……。



 ……え?



 ……あの、二人組み。




 ……あれ       は。








   ・
     ・

             ・

        ・


          ・


           . ・


                ・




 ……彼等五人が到着した時。そこで見たのは一瞬絶句する光景。

 一人の拳士……結構ガダイの良い拳士が、片耳を押さえて絶叫を上げながら転がっている光景。

 そして……それを引き起こした一人の……少年。

 ……真っ赤な……血のように紅い長い髪。

 そして、緑色のマフラーに、紫色のルージュを口に引いた少年。

 その少年は、愉悦の笑みで自分が起こした結果に満面の笑みで拳士を見下ろしていた。

 その光景は先程のチゴの洗礼すら温く感じるもの。ジャギと、アンナは硬直してその少年を見つめる。


 ……ユダ。

 南斗六聖拳の一人。南斗紅鶴拳伝承者。

 その拳は凄まじい拳速であり、それゆえに余りの速さから斬られた敵は裏側から裂ける現象すら起こる一撃必殺の拳。

 拳速から放たれる斬撃波も侮り難く。その拳の担い手は、美しくないものを認めぬ異常者でもあった。

 彼は、今まさに一人の拳士を殺す事すら躊躇せず、その指を振り下ろそうとしていた。

 その指が上から下へと降られれば、一瞬にして彼の拳士は血の湖に寝る事になるだろう。

 「……だ……め」

 それは、誰の呟きだったか?

 ……ジャギ、アンナの佇む場所で石が一つだけ転がる。

 そして、指を振り下ろそうとしていた当人……ユダは二人へ気付いた。

 ……二人は、ユダが自分達を見た事に一瞬身を硬くするが……それは奇しくも相手も同じ。

 まるで、亡霊を見たかのようにユダの顔は目を見開き、そして振り上げた指を下ろして彼等を見つめる。

 そして、未だ転がっている男を邪魔だとばかりに蹴飛ばし……ジャギとアンナへと近寄った。

 「……お前、達は」

 ……その、声に。一瞬、ジャギは記憶の何かが刺激された。

 そして、ユダのその化粧で覆われた瞳に。今にも泣き出しそうな悲哀が包まれてるように感じて。

 (なん……だ?)

 「ユダ、だな? 貴様、俺の友へと何をする気だ?」

 ……近寄ってきたユダから、守るように両手を広げて立つシン。

 「そ、そうだぜユダ……様よぉ! ジャギとアンナに何かする気なら、この鶺鴒拳のセグロが相手に……うん、やっぱ御免、無理」

 「あんたの勇気は五秒も保たないのか!」

 そして、気丈に声を張り上げさっき出来た知人をハマの背中から守ろうと声を張り上げるセグロ。それにハマは怒鳴る。

 だが……そのセグロの言葉にユダの顔つきは変わる。

 「……ジャギ、アンナ? ……それが、お前達の名前か?」

 「……あぁ、そうだ」

 ……その言葉に彫刻のように固まるユダの顔。

 だが、次第にその顔には怒りのような、後悔のような表情が段々浮かび上がり……そして吐き捨てるように彼は言った。

 「……ふんっ! この美しい俺様に……貴様のような不細工面が目の前に立つな!!」

 「あぁ……!?」

 いきなりの暴言。それには流石にジャギも黙っておられず、口を開きかけ。

 「す、ストップストップ。ねぇ、ジャギは今日来たばっかりなんだから止めようよ! ユダ……だっけ? 貴方もさぁ」

 そう言って、笑みを浮かべてユダを宥めようとアンナはする。

 その、無謀ともとれる行動に対し無表情でユダはアンナを見る。……そして。

 「……アンナ、と言ったな?」

 「う……うん」

 覗きこまれるようにしてユダはアンナを見る。そして答えるアンナを暫く見て……。

 「……俺の物になれ」

 『はぁ!!??』

 そして、彼は彼女に対し変化せぬ顔で要望する。それに、周囲の各人は叫び拒絶の意を示す。

 「正気かユダ! 初対面の女子に対しそのような要求……恥を知れ恥を!」

 「そうよ! あんた王様か何かのつもりなの!? 紅鶴拳がどれだけ偉いか知らないけど、あんた最悪過ぎるわよ!」

 「その言葉、まず俺が最初に言う言葉だろJK!」

 一人、何か間違った発言があるが、アンナへとじっと答えを待つユダは真剣な表情だ。

 病的とも言える真剣な顔つきに……アンナはこう言った。

 「……あの、私、未だ『貴方』の事は何も知らない。……だから、友達になろうよ、ユダ」

 「……友、達」

 ……その言葉にユダは目を瞑り……そして次の瞬間には人を平伏させる不遜な笑みでこう宣言した。

 「……良かろう、アンナ、貴様を特別に俺の友にしてやる。おい、そこの不細工面……ジャギとか言ったな。貴様も
 俺の友人二号だ。そこの奴は孤鷲拳のシンだな? 折角だから貴様も友人三号にしてやろう。そこの愚民共もな」

 その言葉に、一気に三人からブーイングが放たれる。ジャギだけは、ユダの思惑を知りたくて苦々しい顔で沈黙したままだ。

 「……ククッ、鳥影山などさっさと去るつもりだったが、中々面白そうな奴も居るみたいだな。気に入ったぞ、
 精々俺を愉しませろよアンナにジャギよ。この、『妖星』のユダ様がお前達の友になってやるのだからな!!」

 フハハハハッ!! と笑い優雅に去る彼へ、誰も言葉を発せれない。

 (……うん? あいつ、は)

 ……その時、ジャギは気付く。ユダの後ろにぴったりとくっつくような一人の小柄な男性。年老いた白髪交じりの髪と
 老眼鏡てきな眼鏡をかけた子供程の身長の男性は、一度アンナとジャギの方向へ向けて深く一礼して去るのを。

 (……今のは、コマク? ……けど、何で俺とアンナに一礼を?)

 ……ユダの副官であるコマク。

 ……一体何故、彼が自分とアンナに何かを懇願するように礼をするのか。








                           それは 妖しく光る『妖星』だけが知る










             後書き



   くそっ、パソコンの野郎生意気にも華山鋼鎧呼法(フリーズ)なんぞしたお陰で更新遅れた!!





    次回! ようやくユダの過去編!!



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