果樹園を抜けると、平野だった。広大な大地に、ライナは感嘆とした声をあげそうになる。
十七小隊の合宿のためにやってきたのだが、思いがけない情景に、ライナはおどろきをかくせない。
平野の中にぽつりと建っている一軒家が見えてくる。あれが合宿所だろう。
そもそも合宿は、セルニウム鉱山を採掘しているときに行なわれるはずだったのだが、第十小隊のこともあり、中止されていたのだ。
それから一月ほど経って、もうすぐ山場となる第一小隊との試合が近づいてきたために、合宿をしようとニーナが提案したのだ。
隊員たちは全員賛成したために、実施されることになった。
ライナとしても、授業をサボれるだけにあまり文句はない。
しかし二泊三日とはいえ、休日を二日はさんでいるので、あまりやる気が出ないのもたしかだ。
「うわっ……」
レイフォンが、声をあげた。その肩からさげられたスポーツバッグは宿泊用の衣類やそのほかの荷物で、いっぱいに膨れている。
ライナもまた、レイフォンと同じようにスポーツバッグを肩にさげていた。
――――しかし……。
そのとなりに並んでいる何も持っていないナルキを、ライナはいまだに驚きをおぼえていた。
第十小隊との戦いのあと、しばらく来なかったナルキだったが、先日、なにを思ったのか、十七小隊に入隊したい、とナルキは訓練場にやってきて言い出したのだ。
ナルキがなにを考えているのかわからないが、結局ニーナが試験をして、認められ入隊した。
「広い、ね……」
メイシェンが言った。
彼女は食事を作れる人がレイフォンしかいないため、ナルキが呼んだそうだ。
授業のほうは、ニーナのほうが話をつけているらしい。
買ってきた食糧は、メイシェンたちと買いに行ったものだ。
ライナとしても、メイシェンの料理はうまいことを知っているので、歓迎している。
「ねえライナ。すっごく広いね。ここ」
そう目を輝かしながら言うサミラヤを、ライナはため息をつきながら見た。
ライナが合宿の話を聞いた二、三日たったあとに、どこからかサミラヤはその話を聞いてきたらしく、自分もたまにはライナの小隊練習を見たい、と言い出したのだ。
いたって、どうしようもないじゃん、とライナが言っても、なら料理する、とサミラヤは言い出し、ついにはニーナに許可を貰ったのである。
料理できるのか、とライナが聞いたら、カツサンドならできる、とサミラヤは言った。
まさか、カリアンがサミラヤならこうするだろうと思ったから、あの仕事を課したのか、とライナは若干戦慄を覚えた。
それはともあれ、ライナたちがしばらく歩いていくと、合宿所が大きくなっていき、目の前に立つと、かなりの大きさだった。
「来たな」
入口で出迎えたニーナが言った。そしてライナたちの食材を受け取ると、サミラヤとメイシェンに料理を担当してくれたことを感謝した。
メイシェンは萎縮しかすかな声で返事をして、サミラヤは胸を張って言う。
「大きいですね」
メイシェンをフォローするためか、レイフォンは建物を見上げて言った。
ニーナも一緒に見上げた。ライナも一緒に見上げる。
「ああ。ここは農業科の人たちが泊りこむときに使う場所だからな、広くもなるさ。こういう施設は生産区のあちこちにある。……こっちだ」
ニーナの案内でキッチンにむかい、そこで買ってきた食材を冷蔵庫に収めていく。
そして、ライナたちは割り当てられた部屋を教えられ、各自荷物を置きに行くことになったり、ライナは、レイフォンと同じ部屋になっていた。
「今日は、もう移動やら準備やらで何もできないだろうから、明日からは覚悟しておけよ」
ニーナはそう言うと、ナルキとメイシェンとサミラヤの三人を案内していく。
「じゃ、いこっか」
そう言って歩き出すレイフォンのあとを、ライナはついていった。
ライナは部屋にはいると、思った以上に広くておどろいた。
ベットが三つあっても、十分に家具の類が置けるスペースがある。
レイフォンは手に持っていた物をじゃまにならない場所に置くと、カーテンを開ける。
その背中は、どこか哀愁を漂わせているような気がした。
「どうした、レイフォン?」
ライナもとりあえず荷物を置くと、レイフォンに言った。
「ううん。ちょっとね」
「ふーん」
レイフォンは、窓から外を見ている。
「ただ、ちょっとなつかしくなっていうか。
この部屋の広さって、僕がいた孤児院の寝室と同じぐらいの広さなんだ。だからね」
横目でライナを見ると、レイフォンはすぐに窓のほうを見た。
レイフォンのじゃまをするのも悪いかな、と思ってライナはベットに入った。
寝心地は、最高。いつものベットよりも、ずっと気持ちがいい。
しかし、そんな幸せの時間も、ニーナの呼び出しで終わりを告げた。
今日の訓練は、あっさりと終わった。
そもそも、ここには錬武館のような訓練室などないので、必然的に野外での訓練になる。
日が沈めば、明かりとなるものは建物から零れる電灯のかすかな光と、天にのぼる月ぐらいなものだ。
ライナは、いつものようにニーナにぼこぼこにされて今日の訓練は終わった。
相変わらず、メイシェンの料理はおいしかった。
できれば、レイフォンとの関係を今のまま続けて欲しい、とライナは思う。
そしてしばらく、ライナたちは大広間で思い思い何かやっていた。
ニーナとシャーニッドは指揮官ゲームという、戦術思考の育成のために武芸科が開発したというゲームをしている。
メイシェンとナルキは二人で会話し、フェリは隅のほうで本を読んでいる。
そしてライナはレイフォンと共に、サミラヤとトランプをやっていた。
ライナとしては、さっさと部屋にもどってベットに入りたかったが、サミラヤがそれをゆるさなかった。
そして今、レイフォンひとりが上がり、ライナとサミラヤだけが、手札をかかえていた。
それも、終盤でライナは一枚、サミラヤは二枚。
サミラヤの手にジョーカーがあることだけは確かだった。
ライナの手元にあるのは、ダイヤのキング。
「さあ、勝負よっ!」
そう言って、適当にシャッフルし立て札をライナに見せるサミラヤ。
右のカードだけが、やけに飛び出ていた。
ためしに、ライナは右のほうに手を伸ばしてみる。
すると、サミラヤの口元が大きくゆがんでいく。
途中でやめて左のほうに変えると、サミラヤの顔が青ざめていく。
ライナは心の中でため息をすると、そのまま左のカードに手をかける。
だが、重くてとりづらい。力を入れているらしかった。
「ほらっ、右のほうがいいと思うよ」
サミラヤが何とか右のカードを引き抜かせようと誘導しようとしているのが、あきらかだった。
めんどいから、もう右でもいいかな、と思った。
しかしそれはそれで、あとで何かとうるさいし、でも勝ったら勝ったでめんどいので、どうしようかライナは迷った。
とりあえず、左のカードの手の力を抜く。
すると、サミラヤの左の力が抜けるのがわかった。
その隙をついてライナはカードを引き抜く。
ダイヤのキングだった。
ああもう、と言って頬を膨らましたサミラヤはライナを見た。
「あと、ちょっとだったのに……」
「だいたいさ、サミラヤ。顔に出すぎなんだって」
ライナはため息をしながら言った。
レイフォンは、相変わらず苦笑いしていた。
「もう一回よ、もう一回」
そう言ってライナたちは三回ババ抜きをやったが、結局サミラヤは一度も勝つことはなかった。
もうあきた、と言ってサミラヤはトランプを片づけはじめる。
「でもね、思ったより十七小隊のみんなと馴染んでるんだね、ライナは」
「んん?」
唐突なサミラヤの言葉に、ライナはサミラヤのほうに視線をむけた。
「まあ、そうですね……。みんなも馴れたっていうか、そんな感じですね」
レイフォンは言った。
こうなったのは、レイフォンのおかげだ、とライナは思っていた。
ライナが過去のことを言ったあとで、レイフォンがフォローをしてくれたのは、ニーナから聞いていたのだ。
自分のことはとにかく、部隊の雰囲気が悪くならなかったことには、感謝している。
そうなったら、とてもめんどい。
あとでサミラヤに何を言われるかわからないし、こんなことで雰囲気が悪くなったら、訓練中寝づらいことこの上ないからだ。
「ずっと心配だったけどね、なかなか見に行ける機会もなかったし、それなりに忙しかったりもしたし。
だからね、この合宿に参加できたことね、わたしうれしかったよ」
本当にうれしそうに言うサミラヤを、ライナは目を細めてみた。
「あっ」
そう思い出すよう言ってサミラヤはまたトランプを取り出す。
「ねえ、スピードやって見せてよ。前から、武芸者同士がスピードやったら、どうなるか見てみたかったのよね」
スピードってなに? とレイフォンがライナに聞いてきたので、ライナも知らなかったので、サミラヤが説明する。
とりあえず、ルールを聞いて何回かすると、なんとなくやりかたがわかってくる。
すると、レイフォンは手の残像が残るほどの速さでカードを重ねていく。
ライナは、適当にやっているうちに、レイフォンの手札はなくなっている。
その姿に、サミラヤは興奮したように感嘆の声をあげた。
「や、やっぱりすごいね。でもね、ライナもちゃんとやらないと、おもしろくないじゃない」
「ていっても眠いし」
「ちゃんとやりなさいっ! ほら」
サミラヤがせかしてくるので、しぶしぶライナはある程度本気を出す。
ニーナが風呂の話を話題に出すまで、ライナはずっとスピードをやっていた。
次の日、朝食を終えると、訓練になった。
二泊三日の内、初日はほとんど訓練できなかった。明日も、それほど訓練に割ける時間はすくないだろう。
そうなると、今日一日でどれほど成果をあげるかが重要になってくる。
入念にストレッチをすることで、身体をほぐしたあと、ニーナが集合をかけた。
「今日は、試合形式で行なう」
ニーナの手に、二つのフラッグがにぎられている。
「つうことは、三対三でやるのか?
でもほんとのところ二対二になるけど、それでいいんか?」
シャーニッドが何気なく言うと、ニーナは首を振った。
「いや、ちがう。レイフォン」
「はい?」
「おまえひとりと、そして残りだ」
「はぁ……」
「ちょっと待ってください」
ナルキが声をあげた。
「そんなので本当にいいんですか?」
とても、五対一では話にならない、というのだろうか。
ライナはやる気がないからまともに戦わないとして、正直、ほかの四人がかりでは勝てるはずがない、とレイフォンと闘ったことのあるライナは思う。
「まぁ、やってみればわかるさ」
わかっているだろうニーナがナルキに言うと、レイフォンに左手のほうにフラッグを投げよこす。
各個人が黙々準備を始める中、ナルキは不満がありげな顔をしながら、剣帯から錬金鋼を取り出した。
最初は、レイフォンが防御側になった。
ニーナが指定した位置にフラッグを差し、こちらの準備が終わるのを待っている。
レイフォンが移動しようとしたとき、ニーナは呼び止め、何か耳打ちした。
レイフォンは、かすかに顔をしかめたが、すぐにうなずく。
そのあと、ライナたちは集められた。
「さて、どう攻める?」
ニーナはたのしそうに言った。
「ねえ、俺寝てていい?」
「いいわけないだろうっ!」
「ああ、いいぞ」
ニーナが普通に言うと、ナルキはおどろいた顔をした。
「いいんですか?」
「まあ、条件はあるがな」
そう言うと、ニーナはポケットから、いつも訓練に使っているボールを取り出した。
「これの上に乗ったままなら、寝ててもいいぞ」
ニーナはボールをライナに投げよこす。ライナは受け取ると、適当に移動して、ボールを地面に転がすとその上に乗った。
そして眼を閉じた。
――――結局、一度も勝てなかった。
ナルキは、メイシェンから貰ったスポーツドリンクをかかえて夕日に浴びながら、地面に横たわっていた。
日が暮れるまでずっと同じ訓練をしていたが、結局レイフォンには手も足も出なかった。
いまだにライナ以外の部員は、何かしらの自己訓練をしていて、ナルキひとりが地面に寝そべっている状態だ。
まさか、これほどまでに力の差があるなどとは、思っていなかった。
たしかにレイフォンは、あのサリンバン教導傭兵団の団長にすら勝ってしまうほどだが、四人相手に錬金鋼すら抜かずに子供のようにあしらわれてしまうとは。
「よし、ライナ起きろ」
そう言って、ニーナはライナを起こすと、ライナをつれてレイフォンの元にむかった。
なにをするのだろう、と思って、すこし身体を起こし、レイフォンのほうに顔をむける。
「さあ、レイフォン。あのときのリベンジを果たすときがきたぞ」
「え? ああ、なるほど」
そうレイフォンはうなずく。
「え~マジでやるの? 前とかすげえめんどかったし、終わったあととか、大変だったんだぞ」
「だが、おまえもなにもしないわけにはいかないだろう。
サミラヤ先輩には、あとで訓練をさせる、ということで見逃してくれたのだからな」
「う……」
昼食のときにメイシェンと一緒にやってきたサミラヤは、ライナがひとり訓練に参加していないことに腹を立てていた。
ニーナが仲裁に入り、あとで訓練させることを条件にその場は見逃してくれたのだ。
「ここでやらなければ、一週間ずっと機関部掃除を命じられるかもしれないな」
どこか楽しそうに言うニーナに対してライナは難しそうな顔で唸っている。
「……レイフォンはどうなんだよ」
「僕? 僕もやっぱり負けっぱなしはいやだしね」
うれしそうなレイフォンをライナは絶望した顔で見た。
「第一さ、ここでやってもいいのかよ」
そう言って、一瞬ライナがナルキを見て、すぐにニーナのほうに顔をむける。
「同じ隊にいるのだ。いつまでもかくし続けるの難しいだろう」
いい機会だ、とニーナは言葉を続けた。
「お、またやるのか」
「飽きないものですね」
自主訓練していたメンバーが続々集まってくる。
「今回はどうなるかな。フェリちゃんはどう思う?」
「そんなの、レイフォンの勝利に決まっています。
あのとき負けたのは、単なる偶然です」
「いやいやわかんないぜ。なんだかんだいって、またライナが勝つかもしれないだろ」
「そんなの見てればわかります。
ライナが勝利する要素はありません」
――――みんなは何を言っているのだろう。
そうナルキは思った。
みんな透明な壁があるのような錯覚を覚える。
しかしそここそ、ナルキがずっと知りたかったライナのことの入口になるような気がした。
同時に今になって若干の不安が芽生えてくるのも感じる。
「今日勝ったら、この合宿でずっと寝てていいぞ」
「え、マジで」
「ああ、ほんとうだ」
嘘は言わない、とニーナは言った。
「で、でもだまされちゃだめだ、だまされちゃだめだ、だまされちゃだめだ」
「だますつもりなどない。
ここには会長もいないうえに、会長から、今度は別の人にさせるという言質もとってある」
だから安心しろ、とニーナが言うと、ライナは何か考えるように唸った。
「うぅ……ずっと寝られるのは魅力的……でも、また修繕費の見積もりなんかやったらくそ大変だし……でもやらないと、一週間の機関部掃除……」
いろいろ呟くとライナはため息をついた。
「しかたないな~やればいいんだろ、やれば」
「ああ。だが、手を抜くなよ。それにレイフォンもあまり衝剄を使いすぎるなよ」
そしてニーナは、ライナとレイフォンに注意の言葉をかけると、ナルキのほうに歩いてきた。
「これから見るものは、できればほかの人には知られたくはないのだが、ナルキ、君には黙って見ていて欲しい」
「……レイフォンがライナに負けたってのは、ほんとうなんですか?」
ニーナは黙ってうなずく。
「まあ、見ていればわかる」
そう言うとニーナはライナたちのほうをむいた。
ナルキも黙って同じほうをむくと、すでに二人は錬金鋼を復元させてにらみ合っていた。二十歩ほどの距離。
互いに動かない。なぜだか、ナルキのほうまでその緊張感が覆ってきているような錯覚を覚える。
誰もが口を閉じたまま、二人を見ていた。
レイフォンはすぐに距離を詰めて、青石錬金鋼の剣を振り下ろす。
そのとんでもない速さにナルキは、レイフォンの勝利を確信した。
しかし、斬られたはずのライナがいない。
まわりを見渡すが、どこにもライナらしき人影は見当たらなかった。
「あれは、化錬剄で作った残像だな。
ライナ本体は、殺剄で身を隠して、機をうかがっているのだ」
ニーナが説明してくる。
「でもレイフォンなら、ライナの殺剄ぐらい、見破れるんじゃないですか?」
「レイフォンが言うには、ライナの殺剄は、すぐそばまで近づかないとわからないそうだ」
ナルキは、ニーナの言葉に衝撃を受ける。
ナルキたちが会話している間も、状況は動いていく。
レイフォンはライナの残像を斬ったあと、すぐに移動する。
ナルキたちと戦っていたときよりもはるかに速い速度で移動しつづけるレイフォンを見逃さないようにするのが、ナルキの限界だった。
突然レイフォンが四つに分裂したかの錯覚を覚えると、もうナルキにはレイフォンの居場所がわからなくなった。
あとに聞こえてくるのは、何かがぶつかった衝撃音や、刃がぶつかり合う音。
ときどきレイフォンやライナの姿を見ることができても、すぐに見えなくなった。
夕闇がほんとうの暗闇になったころ、レイフォンとライナはニーナたちのもとに帰ってきた。
「あ~もうほんとに疲れた。はやくベットに入って寝たい」
「僕も、疲れたよ」
ライナとレイフォンは口々に言った。
「やっぱ、何度見てもすげえな」
「……そうですね。ですが、レイフォンは鋼糸さえ使えれば、ライナには簡単に勝てます」
フェリとシャーニッドも賞賛の声を二人にかける。
ナルキは、呆気にとられていた。
確かに、ライナはサリンバン教導傭兵団の狙撃主をあっさり無効化できるのだ。
ある程度強いだろうとは思っていたが、ライナの強さはそんなものではなかったことにナルキはおどろく。
あの、サリンバン教導傭兵団の団長と闘って勝利したレイフォンと、互角に闘えているのだ。
何度も自分の眼を疑った。しかし、事実が変わることはない。
ライナは何者なのだ、という思いがさらに強くなっていくのをナルキは感じていた。
「よし、これで今日の訓練は終わりだ」
ニーナの一声で、この日の訓練は終わった。
ライナたちがキッチンに入ったとき、おいしそうなにおいがあたりに充満していた。
そのにおいに釣られて腹も鳴った。
「たまんねぇな、こりゃ」
シャーニッドはのどを鳴らしながら言った。
「……た、たくさん作りましたから」
「お、そりゃありがたいね。たくさんいただくことにしよう」
シャーニッドはすぐさま席に座った。
そのあとをおうようにニーナたちも座った。
ライナも座ろうとしたが、レイフォンにとめられ、ナルキたちと一緒に配膳を手伝うことになった。
手伝おうとしたニーナをやんわりとレイフォンがとめた。
「わたしもちゃんとがんばったんだよ、ライナ」
そう言って、サミラヤはライナの隣に並んだ。
肉と野菜をじっくり煮こんだシチューに、サラダと鶏肉の香草蒸し。それに、カツサンド。
メイシェンたちの料理は、文句なしにうまかった。
メイシェンたちの料理に舌鼓を打ったあと、昨日と同じようにライナはサミラヤとレイフォンと共にトランプをしていると、ナルキがやってきた。
「レイとん、ちょっといいか?」
そうナルキは言うと、サミラヤにも確認を取った。
そのときに、ナルキはすこしライナを横目で見ると、すぐにサミラヤに視線をもどした。
いいわよ、とサミラヤの許可を得ると、レイフォンはナルキのあとについていって広間のほうに行った。
「なんなのかしらね」
サミラヤが首を傾げて言うと、ライナも適当にあいづちをうった。
ついに、ナルキたちにレイフォンの過去を言うときが来た、ということなのだろう。
ニーナからはレイフォンの過去を言う気はないらしい、というのは感じ取っていた。
ということは、今度はライナの過去を言わなければならないのだろうか。すごくめんどい。
それはともかく、レイフォンは大丈夫だろうか。
メイシェンはとにかく、ナルキはかなり正義感が強い。もしかすると、レイフォンからはなれてしまう可能性だってあるのだ。
そうなると、あとでめんどくなりそうだ。
だが、たぶん大丈夫だろう、と思って、ベットにいこうとして、サミラヤにとめられた。
しばらくライナはサミラヤと一緒にトランプをしていた。
しかし二人でできるトランプなどほとんどないことに気づいて、結局ニーナたちの指揮官ゲームを見ていることになった。
しばらくして、ライナたちをはげしい揺れが襲ってきたあと、すぐにナルキが帰ってきた。
――――地面に大きな穴ができてレイフォンと、メイシェンが落ちた。
と顔を青ざめさせながら言った。
すぐにフェリがレイフォンたちの居場所を見つけて小隊員全員でむかった。
そこにいたのは、泣き喚いているメイシェンと血で赤く染まったレイフォンだった。