――せっかくの休みの日だというのに。
そう思いながら、ライナはニーナの病室で椅子に座って寝ていた。ニーナは、武芸の教科書を読んでいる。
休日ということで、一日中ベットの中で寝てやるぜ! と意気揚々と自分の部屋で寝ていたら、たたき起こされた。サミラヤだった。
何で今日も、とライナが言うが、サミラヤはライナの意見を黙殺すると、ニーナの病院まで連れてきた。
サミラヤも一緒にニーナを見るのかと思えば、なにやら用事があるらしく、ニーナに挨拶すると、すぐに帰った。
そういえば、今日は武芸大会があることを、ライナは思い出す。関係ないかもしれないが。
そしてサミラヤが帰ると、ライナは椅子に座りこみ、寝はじめた。
ドアがあいた音でライナは眼がさめた。
「よ、ニーナ。元気?」
軽薄な笑みを浮かべるシャーニッドが、ドアのわずかな隙間から顔をのぞかせる。
「病人にたずねる質問ではないと思うが?」
「まったくおっしゃるとおり。ってそれになんでライナまでいるんだ?」
シャーニッドは病室に入ると、すこしおどろいたふうに言った。そのうしろには、どこか浮かない顔をしたハーレイがいる。
「俺も、今日一日ずっとベットの上で熟睡するっていう壮大な計画を立ててたのに、朝、サミラヤが寮に来て、いきなりニーナの看病しろって言われて」
あくびをしながら言うライナを、ニーナは手に持った本を傍らに置くと、怪訝なまなざしをむける。
「おまえはさっきまで、そこでずっと寝てただろうが」
ライナはわかっていないな、と右手の人差し指を左右に振る。
「ぜんぜん違うって。ベットの上で一日中寝てるのと、椅子の上で一日中寝てるのじゃ、眠たって感じが変わってくるし。
そういえば、あんたずっとベットで寝てるよな。一日中寝られるし、食事は三食つくし、いいな~、俺も病人になりたいな~」
「おいおい、病人の前でそんなこと言うなよ」
シャーニッドの軽薄な顔が苦笑に変わっていた。そしてカーテンを閉める。
「それより何読んでんだ? って、教科書かよ。しかも『武芸教本Ⅰ』って……なんでんなもんをいまさら?」
「覚えておさなくてはいけないことがあったからな」
何かを吹っ切ったように晴れやかな顔でニーナは言う。
はは、ぶっ倒れてもまじめだねぇ、とシャーニッドはあきれたふうに肩をすくめた。
「それよりも、今日は試合だろう? 見に行かなくていいのか?」
「気になるんなら、あとでディスクを調達してやるよ。こっちはいきなりの休みで、デートの予定もなくて暇なんだ」
ハーレイがどこか無理のある苦笑を浮かべている。その様子を見たニーナは首を傾げていた。
「しっかし、過労でぶっ倒れるとはね。しかも倒れてなお、まじめさをくずさんときたもんだ。まったくもってわれらの隊長殿には頭が下がる」
「……すまないと思っている」
皮肉めいた口調に、うなだれようとするニーナを、シャーニッドはいやいやと言う。
「いまさら反省なんざしてもらおうとは思ってねぇって。そんなもんはもう、さんざんにしてるだろうしな」
そこまで言って、シャーニッドの雰囲気はどこか冷たいものに変わった。
「それにな、今日は別の話があってきたわけ。悪いけど、見舞いは二の次なのよ」
別の話? とニーナはシャーニッドが何を言いだすのかわからず、戸惑っている。
シャーニッドは腰についている錬金鋼をふたつ抜きだす。
「一度は小隊から追っ払われた俺が言うのもなんなんだけどな……」
手に余るサイズの錬金鋼を両手であそびながら、シャーニッドは続ける。
「隠しごとってのは、誰にでもあるもんだが、どうでもいいと感じる隠しごととそうじゃないってのがあるんだわ。
どうでもいいほうなら本当にどうでもいいんだが、そうでもないほうだと……な」
比較的はやい速度で戦闘状態に復元させた錬金鋼を、二丁の銃の片方をシャーニッドの背後にいるハーレイ、もう片方を椅子に座っているライナにむけた。
「シャーニッド!」
ニーナは叫んだ。シャーニッドに銃を突きつけられたハーレイは突然のことに固まっている。ライナは眠かった。
「そんなもんを持ってる奴が仲間だと、こっちも満足に動けやしない。背中からやられるんじゃないかと思っちまう。
たとえば今だと、こいつらが爆発するんじゃないか……とかな」
シャーニッドの眼はライナのほうにむけられている。
馬鹿な、とニーナははきすてるように言う。
「ハーレイはわたしの幼馴染だ。こいつがわたしを裏切るようなことをするはずがない。ライナは……すくなくても、いきなり裏切るような奴ではない、と思う」
「俺だって、ハーレイの腕を疑ってるわけじゃない。ライナはとにかくな。それはそれとして、だ。たぶん、仲間はずれなのは、俺たちだけなんだぜ」
何? とニーナはハーレイを見た。ハーレイのこわばった顔から、このままだとレイフォンのことを言うだろう、とライナは思った。
「ハーレイ?」
「……ごめん」
「おまえがこの間からセコセコと作ってた武器、あれはレイフォン用なんだろ? あんなばかでかい武器、何のために使う?
ばかっ強いレイフォンにあんな武器を持たせてなにやらかすつもりだ?
だいたいの予想はついてるし、だからこそフェリちゃんやライナもそっち側だって決めつけてんだんだが、できることなら、おまえの口から言ってほしいな」
めんどいから、別にライナは口に出したくなかったが、ばれてしまうと、カリアンに一週間、機関部掃除をさせられそうになりそうな気がする。ライナはため息をついた。
「で、知ってどうすんの?」
「あ?」
シャーニッドの声に苛立ちの色が感じた。
「だから、知ってどうすんの? 別に知ったってあんたらにできることなんて、何もないし、めんどいだけだって。
な、だからこの話はここら辺にして、みんなで昼寝すりゃいいじゃん」
シャーニッドの眼が鋭くなる。さっきまでの軽薄な顔が消え、無表情になった。
「だいたいライナ。てめぇはいったい何者だ?」
ハーレイにむけられていた左手の銃もライナにむけ、ライナのほうに近寄ってくる。ハーレイの顔がすこし安心したように息を吐いた。
「おまえの入隊試験の日、ニーナの一撃を受けても、たいしたダメージを受けてねえのが気になって、おまえの様子を注意して観察してたんだが……」
そして二丁の拳銃をライナの頭に突きつけた。
「さすがにおどろいたぜ。まさか、ニーナの攻撃を避けるどころか、旋剄に対応して打点をずらすなんてな。
その上、注意してなけりゃ、攻撃した本人すら気づかないぐらいの動きまでしやがって」
シャーニッドははきすてるように言う。
「そこで、俺もいろいろさぐってみても、ほとんど何も出てこなかったんだけどな……そこでひとつ思い出したことがあったんだ」
昨日見た医者もそうだが、学園都市といえど、できる奴はいるんだな、とライナは思った。
まあ、レイフォンみたいなのがいる時点で、予想できなかったわけではないが。
「汚染獣が襲ってきたときに、どこからか出てきた黒装束の男。それ、おまえだろう」
「は?」
ライナが紛らせようとする前に、シャーニッドが口を開く。
「おっと、とぼけるのは、なしだぜ。おまえ以外にアリバイがあるのは調査済みだ。
だいたい、鋼鉄錬金鋼に電流を流した時点で、ローランド出身のおまえだって気づくべきだったんだが、おまえのいつもの動きを見るかぎり、そんなわけもねえ、って思わされちまった」
なかなか厄介なのにひっかかったなと、ライナは心底めんどくさくなった。
「まあ、そんなまねができる奴相手に正直、俺がこうやって銃を突きつけてても、あんま意味がないかも知れねえけど。
それに、銃を突きつけても、ぴくりともしねえし。まあ、それでもあえて言わせてもらうが」
一瞬、シャーニッドは間を置く。
「てめぇ、いったいツェルニに何しに来た?」
「シャーニッド!」
「おっと、隊長も今は黙っていてくれ」
ニーナが叫ぶが、シャーニッドはそんなニーナを制すように叫ぶ。
「そんなことより、今はレイフォンのことを聞きたいんじゃないの?」
話をそらそうとするライナを、シャーニッドは鼻で笑った。
「たしかにな。だけどおまえも言ったように、俺たちが聞いたって意味がないかも知れねえ。だから、今はおまえの正体のほうが大切だ」
まさか、ライナの発言を利用してくるとは。ライナが思っていた以上にこの人は厄介なのだと、確信した。
「だいいち別に俺ぐらいの奴なんて、ローランドには掃いて捨てるぐらいいるって」
「そいつもウソ、だな」
ライナは心の中で眉をひそめた。
「俺はわけあって、ローランドの奴と何人か会ってるが、おまえのように自然に打点をずらしたりできる技量を持った奴を見たことがねえ。
前もって言っておくけど、偶然なんかでニーナの旋剄の打点をずらすなんてできねえし、自動機械と闘ったときとか何度も打点をずらしてる時点で、偶然なんかじゃねえ」
「あれぐらい、慣れれば誰でもできるし」
「あんなもん、慣れでできれば、おれたちは苦労しねえよ」
ジュルメ・クレイスロール訓練学校では、他の二人は、もともとそれなりに訓練をつんでいたのでそれなりにやれていたようだ。
しかしライナはまったく武芸の類などしたことがあるどころか、記憶すらほとんどないまっさらな状態でいれられてきたため、ライナは他の二人よりずっと長い時間調練をさせられていたものだ。
ジュルメの攻撃を避けることすらできない中で、ライナにできたのは打点をずらすことだけだった。あの環境で、打点をずらすことができなければ死ぬだけだ。
「それにおまえ、剄すら隠してるだろう。今のおまえの剄でも、ぶっちゃけ隊長クラスはあるんだけどな。
だけど、おまえをうしろから見てるかぎり、もっと剄があるようにしか思えないんだよな。ま、これはあくまで、俺の勘でしかないけどな」
どうやってシャーニッドをかわそうか、ふだん使ってないライナの頭で考える。
「でも俺はその、汚染獣のときに出てきた奴じゃないって言うけど」
「ここまで言っても、おまえは違うって言うのかよ。まあ、そこは正直あんま問題じゃないんだよな。
問題なのは、おまえが何者で、何のためにツェルニに来たのかってことだけだ」
まだ、シャーニッドはライナが怪しい、というだけで何か具体的な証拠の類はないようだ。
それだけなら、なんとかなるだろう。そもそも、ライナは任務をやる気なんか、ツェルニに来る前からない。
ライナはため息をつく。
「俺がここに来たのは、俺がこんな性格だからそれを直させようって来たんだって」
「おまえぐらいの奴が、そんな理由でローランドから離れてるツェルニに来るわけないだろ」
「じゃ、あんたは俺が何のためにツェルニに来たと思ってるの?」
「それがわかんねえから、直接聞いてるんだだけどな」
予想どおり、とライナはあくびしたくなった。
「仮に、俺が何かするために来たんなら、汚染獣が来たときにその任務を済まして、さっさとツェルニを出るだろうし」
「そいつは、そんなときにゃ、監視なんか厳しくなるから無理だろ」
ここで、いつもライナの近くに、念威端子が見張っていることを言わないようにするのに気をつける。
ただ、今は念威端子はカーテンのむこうにいるから、気にする必要はあまりないが。
「まあ、たしかにそうなんだけどさ。でもあんたが言ってるみたいに、俺がすげぇ強かったら、別に監視の眼なんか意味ないんじゃないの?」
シャーニッドの眼に焦りの色は見えない。だがもうひと息、だとライナは思った。
「まあ、たしかにそうだ。ましてや、おまえがあんとき出てきたらな、おまえがここに来た理由がさらに限られてくる」
淡々とシャーニッドは言う。
「だけどだな、おまえが仮にあんとき出てきた奴だと仮定するとだ。なぜおまえは鋼鉄錬金鋼しか持ってこなかった、ということが鍵になるって俺は思うわけよ。
つまり、襲うときにそれほど手間取らない相手、まあ武芸者じゃない一般人」
ライナは、シャーニッドが何を言おうとしているのか、なんとなくわかった。
「つまり、汚染獣の襲来のときに襲いにくくて、さらに暗殺や誘拐する価値がある一般人、つまりライナ、おまえの目的は」
「カリアンの暗殺もしくは誘拐、って言うんじゃないよね」
ライナがシャーニッドの言葉を遮るように言うと、シャーニッドは黙ってうなずく。
ライナは、大きくため息をついた。
「あんたの話はそれで終わりかよ。聞いて損した」
「そりゃ悪い」
シャーニッドはまったく悪びれた様子もない。シャーニッド自身も、この答えはおかしいことに気づいているのであろう。
ということは、これはべつの話につなげるための餌。これ以上、シャーニッドと話すのもめんどいから、餌に食いつくのもいいのかもしれない。
でも、機関部掃除一週間はさすがにめんどいから、あとでハーレイにでも、罪をなすりつけようかと、ライナは思った。
それにしても、シャーニッドもやたらに遠まわりに話を進めたものだ。たぶん、ここでライナのことを知ることができれば、それでいいし、知れなければ、それでもいい。
ライナとの会話で何も証拠が出なかったら、もうシャーニッドにライナの正体を探ることはそうはないだろう。
ただ、ライナを牽制するぐらいにはなる、と考えているはずだ。
「だいたい、もし俺の任務がカリアンの誘拐やら暗殺だったら、正直、入学式の終ったあとに呼び出された時点で、やるはずだし。
そもそも、入学なんかまどろっこしいことなんかしないって。
それにわざわざ遅らせるなんて、ばれる可能性が高まるじゃん。それにカリアンをやる機会をうかがってるんだったら、今日、俺がここにいるわけないし」
そこで、シャーニッドはにんまりと笑みを浮かべる。
「なんで、今日おまえがここにいないんだ?」
「そりゃ、レイフォンが今都市にいないから……ってやべぇ、口が滑っちまった」
ライナは右手で頭を押さえる。すこしわざとらしかったかな、とライナは思ったが、まわりを見るかぎり、ばれなかったと思う。
「それは、どういうことだ!」
さっきまで黙っていたニーナがベットに身を乗り出さん勢いでライナの話に食いつく。ハーレイがそわそわしはじめた。
「まあ、これ以上はここでは話せないって」
「じゃあ、ここじゃなかったら、いいんだな」
シャーニッドがすぐにライナの言葉の裏を拾ってくる。
「ラ、ライナ」
ハーレイがおちつかないように言う。
「さっきも言ったけど、あんたらが知ったところで、意味なんてないと思うし、知らないほうが楽だと思うんだよな。
世の中知らないほうがいいことだって、たくさんあるし、それにこれだって、俺なりの親切心だし。それでも、知りたいの?」
「能書きはいいから、さっさと今レイフォンに何が起きてるのか、教えろ!」
たぶん、ニーナはこれを聞いたら、絶対にレイフォンのところに行くだろうな、とライナは思った。しかし、自分の発言がすごく上から目線なのが、なんともいえない。
でも、ここまできたら、ライナが話すまで聞き続けてくるのはなんとなく予想できる。きっと、レイフォンはこうなることをなんとなく予想していたのではないか、と昨日の言葉から推測した。
ライナは壁にかかっている時計を横目で見た。十一時も半ばをすぎていた。
「そこまで言うんだったら……でも俺が言うのめんどいし」
ライナが言うと、シャーニッドは安心している様子のハーレイに左手の拳銃をむけ、ハーレイのほうにすこし近づいく。ハーレイの弛緩していた身体が、また硬直する。
「つーわけで、ハーレイ、おまえの口から言ってもらおうか」
ハーレイの顔がみるみる青くなっていく。そして肩をおとした。
「ごめん」
とハーレイはつぶやく。
「レイフォンは、ひとりで汚染獣と闘いに行ったんだ」
「なん、だと」
ニーナは驚き、そう口から洩れる。シャーニッドは予想通りなのか、あまり驚いてないのか、相変わらず銃口をライナとハーレイにむけていた。
「それは、どういういことだ! どうしてそんな大切なことをわたしに隠していたのだ!」
ニーナの怒号にハーレイを首を振った。
「彼なら、大丈夫。そう思ってた……新しい錬金鋼の開発に熱中していて考えが足りなかったのは認めるよ。
だけど、大丈夫だって思ってたのも本当なんだ。だけど、あの姿を見て、間違っているのかもしれないと思った。
当たり前だよね、そんなことは。汚染獣と闘うんだ、ひとりで……そんなことは当たり前なんだけど、でも、それだけじゃないような気がした」
ニーナは歯を噛みしめ、ライナのほうをむく。
「こんなところで、ゆっくりしてる場合じゃない。今から、会長のところに行くぞ」
ライナの予想どおりすぎて、めんどくさいことになってきた。
「でも、今のあんたは全身筋肉痛で、何もできないかもしんないのに、どうしてレイフォンのところに行こうと思うんだ。めんどいだけなのに」
「おまえは、レイフォンのことが気にならないのか。たったひとりで汚染獣と闘うんだぞ」
「ぜんぜん」
間を置かずライナは言う。ニーナは愕然とした表情を浮かべていた。
「だって俺は、落ちこぼれコースを万進してるのに、レイフォンは今じゃツェルニ最強のアタッカー……なんて言われてるぐらいなんだぜ。俺が心配したって無駄じゃん」
「同じ部屋で暮らしている奴が生きるか死ぬかの中にいるのだぞ。おまえはそれでも、それでも気にならないのか!」
「それよりあんたを無茶させるな、って、レイフォンから言われてるし。ここであんたを通すと、あいつに毎朝はやく起こされそうだしな」
ライナはそう言うと、ライナにむけられていたシャーニッドの右手の関節を極め、音を立てないように投げ倒す。そして、両手の銃を叩き落とした。
おそらくシャーニッドには、何が起こったのか、把握できなかったにちがいない。
「ってなわけで、ものすごくめんどくさいけど、あんたをここから出させるわけにはいかないよ」
ニーナの顔が一瞬おどろいたようになったが、すぐに真剣な顔になり、ベットの近くにあったかばんの中から、錬金鋼を取り出した。
「おい、やめろニーナ。今のおまえじゃ、絶対勝てねえ。いや、万全のおまえと俺のふたりがかりでかやったって、どうやっても絶対勝てねえ」
ライナに床に押さえこまれ、顔を青ざめたシャーニッドが言う。今のやり取りの中で、実力差は感じたはずだ。
「それでも、わたしは行くぞ。おまえと戦ってぼろぼろになっても、腕がなくなろうとも、足がなくなろうとも、わたしの命がある限り、必ず、レイフォンの元にむかっていって見せる」
ニーナの体が、輝く剄の光に包まれる。まだ筋肉痛の影響が残ってるのか、ニーナは顔をゆがめる。それでも、個人練習をしていたときより、ずっとまばゆく輝いていた。
「何で、あんたはそこまで、レイフォンのことが気になるんだ?」
――恐れというものをしらないのだろうか、ニーナは。
そうライナが思うほどに、ニーナの顔には恐怖の色が見えなかった。ライナとニーナの力の差は、明らかにあることなんて、わかっているはずなのに。
「レイフォンは、このツェルニで暮らし、武芸科の生徒で、十七小隊の仲間で、何よりわたしの部下だっ!
なのに隊長のわたしが、ここにいていいわけないだろうっ! 闘うことはできなくとも、むかいに行くことぐらいはできるはずだ!」
やっぱり、この人はめんどくさい。何で俺は、こんな人とこんなところでやりあっているのだろうか、とライナは自分自身にあきれた。
シャーニッドから離れると、さっきまで座っていた椅子に戻る。
シャーニッドは、拳銃を拾うと、ニーナの傍に行き、両手の拳銃をライナのほうにむけた。
「あ~やめやめ。てか、なにマジになってんの俺。すげぇはずかしいんだけど」
テレを隠すように、あくびをしながら、ライナは口に手をあてた。
「それじゃ、行きたければ行けばいいし、好きにすればいいよ。ってかそれは俺が言うことじゃないしな」
ライナの急激な態度の変化に対応できないのか、ニーナは呆然としていたが、うなずくとベットから体を起こし、ベットから出た。
そしてかばんの中に入っている制服を取り出すと、病院着の上から羽織った。そして病室を出て行く。シャーニッドも続く。
今日はこのまま帰ってベットに入って、昼寝でもしようとライナは思った。
しかしもしこのままニーナがレイフォンの元にむかい、何かニーナの身に危険なことが起きたら、寝心地が悪くなりそうだな、と思う。
それにレイフォンに徹底的に朝はやく起こされそうだし。
ライナはため息をついて、ハーレイをのこして病室を出て行った。