三年後、社員は減ったり増えたりしながら、三百人を数えていた。
最もその中で信頼に足るとされたのは十人程である。もはやこの十人は、外へ出る事すら許されなかった。家族もボディーガード付きである。
この頃には、信頼できる国、起業のリストアップも出来ている。
しかし、惑星開発には莫大な金がいる。とてもではないが今の資金では足りない。
まず一つ目の惑星開拓事業で資金を用意し、本命の惑星開発に本腰を入れるのが得策と言えた。
しかし、全てはゲートを作ってからの話だ。
まずは、地球ゲートの設営を。
その為の作業船がもうすぐできあがるという時だった。
「宇宙飛行士の免許が要求される? 操作方法が従来と全く違う事は伝えたのかね」
「はぁ……」
「いくら宇宙飛行士でも、この作業船に関しては素人同然だ。操作方法が全く違うのだから当然だ。あれは私自らが操縦するぞ。何とかしたまえ」
アメリカ人マネージャーのロビンはため息をついた。
「反重力の特許協力って、出来ませんか? なんなら、共同開発と言う形でも構わない、守秘義務は守るそうです。その情報を寄こすなら、私の母国が免許に関してはどうにかしよう、と」
「そちらの宇宙飛行士を寄こすというオチじゃなかろうな」
「う……ありえますね」
「バリア発生装置に関しては融通したろう? さすがにこの程度の事で反重力の技術を渡すつもりはないぞ。あれは機密レベルAだ」
「監督として、NASA直選の宇宙飛行士が行くという事でどうですか?」
「機密レベル特S級の物を組み立てに行くのだがね」
「向こうも、単なる飛行とは思ってませんよ。惑星開拓するって言っちゃってますし、天文台の協力を得て惑星の座標を得ているわけですし、準備が大規模すぎます。そもそも会社の名前が惑星研究所ですよ? もう惑星移住するものだと思って、興味しんしんなんですよ。何か大きな餌が必要です。宇宙作業ロボはどうですか? 宇宙ステーションの作業がぐっと進みます」
「そしてゲートに仕掛けをする技術力も得るというわけかね」
「ミサイルでも撃ちこまれたらどうにもなりませんよ。それは防備と自爆装置を強化する方向で、としか」
真老は腕組みをして考えた。
「……特許協力と現物供与。02、05、07、08、15、17、79の七台でどうだ」
「十分かと。早速その方向で。それと、信頼できるゲート監視員を」
「あー、いつもの警備会社の者で構わんよ。重力装置はつけてあるのだし、何人ものAIが補佐するから、さほど技術はいらんのだ。大事なのはさぼらずたゆまず裏切らずに仕事を完遂してくれる事。すべてクリア。素晴らしいじゃないか。危険手当は一層支払わねばならんがな」
「はぁ……。そんなものですか。こっちが外国籍ってだけでこれだけ苦労してるってのに、日本人の警備員はあっさり採用ですか。ちょっと腹が立ちますね。私だって宇宙に行きたいのに」
「嫌だと言っても連れて行くに決まっているだろう。まともな折衝が出来るのは君だけなのだから」
ロビンは、口をぱっくり開けて驚いた。
「はい……?」
「早いとこ信頼できる後進を育てたまえ。今のままでは、どう考えても君が二人は必要だ。惑星開発担当と、惑星研究担当と。アビゲイルくんもノーマンくんも、野田くんも、とてもじゃないが君の代わりは務まらん。惑星開発担当の方は外部から探して来てもいいが、星の乗っ取りが怖くてね」
「す、すぐに三人を鍛えます! ですから、私を惑星担当にして下さい!」
「そう願う。ゲートが出来次第、視察に行くから準備をしておいてくれたまえ。レディに聞けば、開発計画を説明してくれるから」
レディとは真老の助手型ロボットである。もちろん、特S級の技術が使われている。
「ミスター真老。まず最初に降り立ったら、アメリカの旗は立てていいですか?」
「ついでに一番最初に降り立ちたいんじゃないかね? それはいいが、アメリカ領と間違えられんようにな」
「わかりました、我が社の旗も立てます!」
ロビンは、走ってレディの所へ向かった。
「本当にわかっておるのかね……」
真老は見送った後、その件について忘れた。
その一ヶ月後、航行テストを宇宙飛行士立会いの下でクリアしたら、以後新しい免許システムを認めるという議決が降りた。ロビンの巧みな外交の成果だった。
そして、なんなく航行テストをクリアする。
関係各所のあちこちから贈られる祝辞を軽く交わし、真老の会社はさっさとゲートの建設に移った。
と言っても、人間はほとんど必要なかった。大船団を宇宙に打ち上げ、後はロボットが作業をするのを見守り、要所要所で指示をするだけだ。その要所要所での指示が、非常に難しい作業だった。
真老、武美、そして選ばれた十人のみが宇宙船に乗り、ゲート設営の手順を確認して行く。
そして、先行して超高性能AI「通」を乗せた船がワープする。
「いい? 私はドクターに向こうのゲートの設営をさせるつもりはないわ。絶対によ! となると、貴方達の誰かが命がけで行う事になる。惑星開拓の要、ここが駄目なら全て駄目なのよ。しっかり覚えて」
「了解しました!」
科学者たちは真剣な瞳で真老の作業を見守る。質問には武美が答えた。
高校を卒業するぐらいの年の子が、このような作業をしているのである。科学者たちは畏怖に震えた。
もちろん、ゲート設営の様子は各国が注視していた。
ゲート建設には三カ月ほど掛かった。さらに二ヶ月後。
ゲートランプが点滅して、小型船を通した。
「ゲート開通! ゲート開通!」
AIが高らかに歌い上げ、さすがの真老も歓声をあげる。
小型船のデータを見るに、仮ゲートはまずまずの位置だ。少し惑星から遠いが、許容範囲内だし、周囲に本当に何もないのが良い。着陸に良さそうな平らな土地もある。
「三田くん、後は頼んだよ。こちらは既に監視員を二駅分連れてくるからね。失敗は無いものと考えているよ」
「はい! お任せ下さい!」
科学者の一人が、敬礼をした。遺言は既に書いてある。
家族と一時間の通信を済ませ、彼は旅立った。
帰ると、真老の会社の抱えるたくさんの社員が出迎えた。
期待と不安の入り混じった表情。社員のほとんどは、ゲートの事も、宇宙で何をやっているかも知らなかった。ただ、ロビンがうきうきとどう考えても移民としか思えない準備をしていたり、必死に後輩を教育をしているのを見つめるのみである。
そう、知らされていないだけで、彼らとて知っていた。
後は、成功したか否かである。
真老は、笑った。
「ゲートを開通した。今、三田くんが向こうのゲートを作っている。……誰か、我が社のサイトに星の名前の公募を乗せたまえ。それと、一口十万円の寄付を募るように。報酬は写真にしよう。惑星の写真はこれだ」
真老が、新たなる星、美しい星の写真を掲げる。
轟音。真老はこれほどの歓声を聞いた事が無かった。
真老は、手をあげてそれを黙らせる。
「三田くんがゲートを建設して戻って着次第、視察に向かう。その後、惑星研究所支部を二つ設立する。後で建てる特S級機密を管理する日本人のみの研究惑星と、各国研究所を招致して建てる実験都市惑星だ。どちらかに転勤してくれる者は一週間以内にレディに名乗り出たまえ。その中から視察メンバーを決めて連れて行く。三ヶ月後になるだろう」
またも、轟音。その後すぐに、レディの前には、長蛇の列が並んだ。
三ヶ月後、惑星の名はエデンに決まった。
三田を労うのもそこそこに、警備員と視察メンバーを連れて、真老はエデンへと向かった。
「空気の状態、オッケーです」
「では、降りようか。ああそうだ、ロビンくん、ビデオを取っていてあげるから一番最初に降りたまえ」
「は、はい!」
ロビンはアメリカと惑星研究所の旗を持ち、降り立って旗を立てた。
感激に手を振っていると、宇宙船のAIが警報音を鳴らす。
護衛用ロボットがロビンを取り囲んだ。
馬ぐらいの大きさの獣が、ロビンを見つめていた。
「い、生き物……」
知的生命体かもしれない。自分が初めて、エイリアンに会ったのだ!
ロビンは感動に目を潤ませた。そっと手を伸ばす。
ジュッ
馬ぐらいの大きさの生き物はどさっと倒れた。武美がエイリアンを撃ったのだ。
「ドクター、久しぶりに手料理をご馳走します」
「うむ」
同じく感激に目を潤ませていた研究員達が止まる。
目の前で起こった信じられない事態に目を丸くして、何も言えないでいると、大きな影が差した。馬ぐらいの生き物を目の前で食らう。近くにいたロビンの服が血に染まった。
真老が、ビデオを一旦止める。
「あー……そういえばあったね。その美味ゆえに乱獲されて絶滅した恐竜もどき。そういえばこの時代はまだ生き残っているのだったね」
「ドクター。私、一度でいいから恐竜もどきを食べてみたかったんですの」
「食べたまえ食べたまえ。差し当たって、ロビンを助けてくれたまえ」
幸いと言うべきか、この会話を聞いた者は誰もいなかった。衝撃が強すぎて、それどころではなかったのだ。
武美はレーザーで恐竜もどきの首を切り落とし、全員が血濡れになった。ロボットがどどんと倒れた恐竜もどきに潰されないよう、ロビンを運んだ。
「しかし、実験都市を立てるには少し厳しい条件ではないかね」
「猟を許可すればすぐに一掃されますわよ。観光産業にもなりますわ。でも、そうですわね。提携する研究所には予め情報開示しておいた方がいいでしょう」
「狩人を入れたら、狩る相手が科学者にならんかね? 私としては、ここは研究所だけにしたいのだが」
「いけませんわ。採算が取れません。方向性としては、アメリカ第7惑星ラボタウンを目指すとよろしいかと。それでも十分研究は進められますし、科学者たちも同惑星で息抜きが出来ますわ。ここで資金を稼いで、「賢狼」の研究資金にしましょう」
「ふむ。仕方あるまい」
真老と武美はテキパキと恐竜もどきの死体を搬入し、十分に視察をして、我に却って騒ぐ研究員達を宥め、宇宙船は地球に戻った。
地球に戻ると、開口一番、真老は言った。
「食肉業者を呼びたまえ」
呼ばれた食肉業者は、度肝を抜かれた。しかし、仕事は仕事である。
肉はバラバラに解体され、希望した社員に配られた。希望した社員は、真老以外全員だった。
某巨大掲示板では、こんな会話が交わされていた。
『僻地で自爆装置のついた装置の警備と交通整理って事で嫌々行ったら、宇宙船に乗せられた。何を言ってるかわからないと思うが、俺も(ry その後、エイリアンの肉をおすそ分けされた。美味かった。ちなみに今も宇宙にいます』
『何それ。僻地って月とか? 火星?』
『惑星研究所で作ったゲート。惑星エデンまで行く事が出来る』
『惑星見つけたって本当なの?』
『マジ。サイトで研究員がアメリカと惑星研究所の旗を立ててるのが載ってるよ。その後エイリアンをぶっ殺してる』
『見た見たwファーストコンタクト台無しw知的生命体だったらどうするんだよ』
『おい、サイトで狩場の提供を申し出てるぞ。基本料金一千万円で宇宙船二週間貸し切り、スリルあふれる狩へとご招待します。秘密厳守。命の安全は保証しません。ただし獲物の持ち帰りは五トンまで。身元調査あります。荷物の持ち込み不可。猟友会と食肉業者の募集もしてる。秘密厳守。命の保証はしません。報酬高っ』
『さすがに嘘だろw』
『俺食肉業者。解体作業呼ばれたからわかる。マジ。各国の研究所を集めた実験都市が建てらんないから、全滅するまで狩ってほしいって言ってた。これ画像。グロ注意』
『マwジwデwwww』
『おいおい、嘘だろ……』
『恐竜可哀想』
『全滅するまでってw真老様マジ容赦ねぇwww』
『このサイト、建設業者に大型肉食獣がいる環境での都市作りの業者を公募してるぜ……』
『惑星開拓してんのに窓口はこのちっぽけなサイトだけなのかよwww』
『いつの間にか栄登製薬の応援対象が惑星都市に変わってるw』
もちろんこのサイトは監視されていた。
狩の枠は、一瞬で埋まった。
各国が、正規の方法でどういう事か聞こうともした。しかし、後で正式に発表するのでお待ち下さいとしか返されないのである。
当然、猟師の予約はスパイで埋まった。
一方、各国研究所、および企業に招待状が届けられていた。
研究都市を作らないかという誘いである。珍しい料理をお出しするともあるし、研究の話をしようともあったし、切符も同封してあった。予算が苦しい所は出来るだけどうにかする、とさえある。
少し調べれば、レスキューロボを作った会社だという事もわかる。
科学者たちは、重い腰をあげて日本に向かった。
惑星研究所に着くと、大きな宇宙船が聳え立っていた。
「おお、来たかね。入ってくれたまえ」
真老の言葉に、科学者たちはまさかと思って、恐る恐る宇宙船に入って席に座った。
その後から、屈強な男達が入ってくる。科学者たちが不安に震える中、宇宙船は、発射した。
窓から見える、大きな鉄の輪。光の奔流。変わる景色。目の前に、地球ではない青い星。
科学者たちはもはや呆然とするしかなかった。
船が着地して、モニターに真老が映る。
「私が真老だ。……ふむ、猟友会……? の割には外国人が多いね」
「各国軍人が応募して来て下さってます。全員、身元調査は通ってます」
真老の後ろに控えたロビンが補足する。
「なるほど。まあ、軍人の方が手慣れていて良かろうよ。諸君の任務は、この地の人間以外の大型動物のせん滅と、技術者の護衛だ。ロボットに言えば、当社で作成した武器を貸与する。諸君の健闘を祈る」
そして入口が開く。
猟友会(?)一行は、恐る恐る降り立った。
好奇心の強い科学者は宇宙船から出て見るが、他の者は恐る恐る窓から外を覗く。
真老とロビンと武美がロボットに守られて、降り立った。
「それではみなさん、この地をご案内しよう。アビゲイルがお茶の用意をしてくれているというのでね」
そこに、イギリス首相がやってきた。
「いや、正しくエデン。美しい星だ。心からお祝いを言わせてもらうよ、ミスター真老。君の作った武器もいい具合だ。我が軍の精鋭の狩った獲物を見てくれ。素晴らしいじゃないか」
イギリス首相が指差した先には、大きな恐竜もどきが横たわっていた。
「気にいったかね。君がオプションをたくさん選択してくれたから、無事差し当たっての開発費用が出来た。礼を言おう」
「それとは別に、イギリスの研究所設立の為の資金と惑星研究所への寄付を出させてもらうよ。もちろん、我がイギリスも招待する予定なのだろう? イギリスは全面的なサポートを約束する。猛獣の駆逐を一手に請け負ってもいい。早い所、開発計画の草案を送ってくれたまえ」
「それは助かる。イギリス人が猟を好むのも良かったのだろうね。国の後ろ盾があると心強いよ。ロビンくん、開発計画の草案を。条件については後ほど話そう」
「ここに」
イギリス首相は、草案をざっと見る。
「ここに日用品の特許の開放とあるが、その企業が支社を作るのではいかんかね。守秘義務を全員に守らせるより確実と思うが。それに、研究所の種類が少なすぎる」
「辺境に日用品販売の企業が来るものかね? どう考えても赤字になってしまうぞ」
「来る。その為の援助もしよう」
「そうかね。では、惑星に来る事を希望する企業と研究所をリストアップしてくれたまえ。こちらで選定作業を行おう」
「イギリスに一任させてはもらえんのかね?」
「惑星でテロが起こされたらどうにもできん。ゲート一つ隔てた僻地なのだからね。例外なく、厳しいチェックをさせてもらう」
そこで、猟友会……いや、アメリカ人兵士が言った。
「アメリカを除者にするつもりか? イギリス首相は呼んだのか」
それをイギリス首相は否定する。
「いや、私はアビゲイルから話を聞いていたし、毎日惑星研究所のサイトを見ていたのでね。後は申込フォームが表示されてから正当に競争し、ポケットマネーを払ってここへ来た。後で国から予算が降りると思うがね。除者にされたのはアメリカではなく君らではないかね? NASAが来ているよ。そちらの大臣がNASAの局員と話しているのも見た。彼らもロビンから聞いていたそうだ。ロシアでは高官が大統領に独断で宇宙旅行をプレゼントしたらしくてね。日本からは栄登製薬御一行、ドイツ首相はノーマンのおごりで来ている。これも予算は降りると思うがね。そちらは何かと大変だろうが、頑張ってくれたまえ。私はNASAチームの分も獲物を狩る約束をしていてね。忙しいんだ。では、これで。ミスター真老。今日の晩さん会で会おう」
そこへ、アメリカの外務大臣が駆けてくる。
「来ましたか。いや、猟師募集の経由で来ると聞いていましたし、席が無かったのでね。食事の時間にでも話しましょう。代表者は誰ですか? ああ、ミスター真老。イギリス首相に渡した資料を私にもくれますか。これから少し話す時間を貰っても?」
「悪いが、これからお茶会だ。そちらも軍部と話し合いが必要だろうし、晩さん会で話さんかね」
「それは残念だ。晩さん会が待ち遠しいですよ。ああ、もちろんアメリカを入れないという選択肢は許しませんよ?」
「これから作るのは研究都市だ。NASAは入れんとはじまらんだろう」
その言葉に、外務大臣は満足そうに頷いて、去っていく。
「待たせたね。では、来たまえ」
向こうの方で、イギリス首相が自ら指揮をして、兵士達が光学兵器を振るっていた。狙う獲物は十メートルを超していた。
珈琲と、机の上には大きな地図。全員が席に着くと、真老は笑った。
「ここに、私は大きな研究都市を作ろうと思っている。研究費は恐竜もどきを売ったお金で稼ぐ。猛獣のいる地域なのは申し訳ないが、直、一掃しよう。協力をしてはくれないかね? ああ、危険のある研究所は十分に離れた位置に設立して欲しい。セキュリティについては、自己責任で頼む。出来る限り変なのは入れないつもりだがね」
「ちょ、ちょっと待ってくれ、ここは地球以外の惑星なのか?」
「あの鉄の輪が移動装置なのか?」
「研究の話とは、あの鉄の輪なのか?」
「イエス・イエス・ノーだ。ゲートの研究については我が研究所で独占させてもらう。しかし、いくつか研究を解放しようと思う。例えば、この惑星では新しいエネルギー発電所を設立しようと思っている。それに、身を守る為の武器も提供しよう。ロビン」
「それでは、それぞれの研究所の希望場所とこの惑星に対する希望をそれぞれ述べて下さい。出来るだけご希望に沿うようにします」
「じゃあ、私の企業の工場はこの河の近くで……。生産に綺麗な水が必要なのでね」
上がりかけた抗議と困惑の声を制すような形で、栄登製薬が言った。
そうなると、皆よさそうな場所をとりあえず確保しようとする。
そのまま流れるように研究の話に飛び火し、喧々囂々と議論を交わした。
その後、昼には果物を食べ、色々視察した。
NASAは調査班が来ており、植物の採取など、惑星探査らしい事をやっていた。
栄登製薬は、製薬会社の重役達を連れて、完全な観光である。
イギリスとロシアは植物採集よりむしろ狩りに夢中になっており、まだ狩りに慣れていない猟友会(?)に指導してやったりしていた。
ドイツはその中間で、狩りをしたり植物採集をしたり、立地条件を確認したり、観光をしていた。
そして晩さん会である。
晩さん会には、恐竜もどきの肉が並べられた。
早速、ロシア大統領が口火を切った。
「猛獣の排除に関しては、我が国に任せてほしい。恐竜もどきを全滅させないよう保護しつつ、研究都市を守って見せよう」
「それはありがたいが、後で科学者まで排除されそうなのだがね」
「場合によってはあるかもしれんな」
「イギリスも軍を駐留させてもらう。複数の軍が駐留すればパワーバランスも保たれよう。この際、軍の武器はミズ・武美の作った光学兵器で統一しないかね? あれだと対光学兵器用のスーツを着ていれば誤射も問題ない事だし」
「もちろん、アメリカも軍を駐留させましょう」
「ドイツは軍事方面より、都市の建設方面で援助をしよう。都市の工事の全ては、ドイツに任せてほしい」
「いやいやいやいや、それはないでしょう。大量の働き口が生まれる仕事ですよ? 一番うまみのある仕事ではないですか」
「なんでもいいが、研究都市だという事を覚えておいてくれんかね。ロビンくん、これだけ協賛国家・企業・研究所が集まれば十分だろう。サイトで応募を掛けたまえ。一週間で締め切って、一ヶ月後に皆で集まって都市計画を練ろう。フェーズ3までの国家に手紙を出すように。采配は任せる。予算が予想以上に集まったから、私は違うプロジェクトの方に着手するのでね」
「フェーズとは?」
「惑星研究所の5段階の国家評価ですよ。ようするに研究を盗もうとしないか、一緒に研究できるかどうかです。フェーズ5になったら取引完全停止で復帰できません」
「ああ、そういえば、特許制度を無視するなら惑星開拓に参加させないと言っていたな。4も駄目なのかね。イギリスはフェーズいくつかな?」
「1だ。この中でフェーズ0なのはドイツだけになるかな? 惑星研究所は、君達と末長く仲良くやっていきたいと思っている。外国人科学者も何人か働いているしね。君達がフェーズ5にならない事を祈っている」
「気をつけよう」
そして、晩さん会を終えると、科学者達は小型艇で送られ、病気に感染していない事が確認されてから地球へと降ろされた。
その後、惑星研究所では新しく食品部門にも展開するようになった。
商品は、無論恐竜もどきの肉である。
それと同時に、惑星研究所は職業斡旋所にいくつもの募集を掛けた。
三ヶ月後、某掲示板には、こんなスレが立つ事になるのだった。
『いきなり僻地(エデン)に飛ばされた奴3人目』
『と言う事でこちら建築業。僻地としか言われないから不安に思いながら移動したら、移動した先が惑星研究所で宇宙船が。心の準備も無く宇宙旅行しちまったぜ。毎日恐竜に食われないか怯えながら作業してる。恐竜も怖いが軍人マジこえーよ。何よりネットできるのがゲート解放されてる一時間ってのが耐えられない』
『もう三スレ目かよwww被害者多すぎ』
『こちら清掃サービス業者。惑星研究所が仕事先だなんて聞いてねーよ! エイリアンの肉なんて食いたくねーんだよ! 飛び散ったエイリアンの血を掃除する仕事なんざもううんざりだ』
『お前ら宇宙飛行士志望の奴に呪い殺されるぞw』
『技術者として皆来てるから問題ないよ。エデン開拓事業を知ってる人に限定されるけど』
『未だに告知がちっぽけなサイトだけだもんなぁ……真老様のマスコミ嫌いもいい加減にしてほしいもんだ』
『海外じゃ凄い報道されてるよ。マスコミはエデンに入れなくても、エデン入りが許された人がビデオを撮影するのはいいわけだし。真老様、魔王様扱いされてるw ゲート機能作ったのは凄いけど、真老様の許可が無いとエデンに入れないもんな。まさに魔王様』
『お前らいいな。俺、宇宙飛行士希望だったけど、ママンがフェーズ5だから一生行けないorz』
『元気出せ。惑星都市が大きくなったら入管も緩む……はず?』
『そうそう。いずれは一万人単位で出入りするようになるはずだし、そうしたらフェーズ5でも行けるようになるって』
『無理。ママンの国、よりによって懐柔の為に、栄登製薬の人を買収して、特産品を真老様のお食事に黙って混ぜて出したのな。せめて事前にこんな物がありますって紹介するだけなら良かったのに……』
『げ。もしかして科学者の食事に手を加えちゃったの? 真老様が研究以外に唯一拘ってる食事に?』
『手引きした栄登製薬の奴、首になってさあ。真老様が怒るわ怒るわ。危うく栄登製薬まで切られかけたらしくてさ。フェーズ4がフェーズ5になった瞬間でした』
『えー! フェーズ4なら特許料払えば3まで戻して貰えたかもしれないのに!』
『ちょっと可哀想だな……。担当者は良かれと思ってしたんだろうが、食い物の恨みは怖いぞ』
『アメリカやロシアが物凄い勢いで惑星探索しているのを見ていると、日本はのんびり建物建ててる場合なのかと疑問に思う』
『自衛隊も来てないしな―。協賛国家で日本だけだぜ。自衛隊来てないの』
『ほら、日本はフェーズ3だから……仕方ないんじゃね?』
『お前ら、真老様は次の惑星に着手なさってるぞ。建築業者だけど、エデンじゃない惑星に連れてかれた』
『マジで?』
掲示板内では、様々な噂が飛び交っていた。しかし、未だ日本のニュースではやらず、日本の多くの者は惑星が見つかった事さえ知らないのだった。