「面会希望のお客様がいらっしゃっています」
そんな電話を受けて、博はのそのそと着替えをし、ロビーへと向かった。
ロビーでは、若い男が博を待っていた。
「遠山博さんだと!? すげー勢いで本物じゃん! 嘘だろ!?」
「あ、はい。遠山博です。賢狼の開拓志望の方ですか?」
男は急いで手をズボンにすりつけ、手を伸ばした。
「俺は葛城浩太です。えっと、ハロワに妙な募集があったし、職見つかんないしで掲示板に良いネタあげられないかなって、いや、えと……あ、俺、ブログには自信あります! 科学者の食事、一年レポートやってのけました!」
「す、凄いですね。俺も見てました。で、条件を確認したいんですけど」
博はもそもそと書類を出した。その中のエデン食事券を見て、葛城は声をあげる。
「ええ!? 衣食住ってエデンのですか!?」
「惑星研究所のホテルも利用できる」
「よかったぁ……。しかし、ホテル利用出来るなんて凄いっすね」
そう言いながら、書類を見る。
博は内心ドキドキしていた。仕事の契約なんぞ、博にはわからない。
だから、やるかもしれない事、やる事をあげて、例として実際にやった事を羅列してみたのだ。
「ちょっと待って下さい、賢狼って惑星以外にも行くんすか!?」
「真老様のお使いがあるから……。無人惑星を放浪する事になると思う」
もそもそと博は言う。
葛城は、こんなのんびりした人にも出来るんだから俺だって! と思いかけ、首を振った。
まず、地球とはお別れをしなくてはいけない環境である。葛城はネットが大好きだった。
そして、忘れてはいけない事。
遠山の右足の膝から下は作りものである。左手にも、大きな縫い跡があった。
何の苦労もせずに栄光を得たわけでは決してないのだ。
葛城は、考えさせて下さいと言った。
決してノリ半分で出来る仕事ではないのである。
「えと、二週間後に手続き、三週間後に出発なので、一週間で決めて下さい」
「二週間後!?」
葛城は思わず声を出す。
そして、悩んだ末に、その場で断った。
そんなすぐに地球を出なくてはならない、そう考えてしまうこと自体が適性が無いと考えたのである。
しかし、いいネタを得た。葛城はもちろん、そんな面接の一部始終を、超有名なブログで公開したのである。
翌日、博は驚いた。
ロビーに呼ばれて行ったら人が溢れていたのである。
いきなりカメラのフラッシュが焚かれて、遠山は目を眩ませた。
「賢狼計画とはどういう事ですか!」
「操縦士募集と言う事ですが……」
「面接に来たのですが」
「sdgfhtじlこ;p」
マスコミや面接官、良くわからない外人と、遠山は戸惑った。
「えと、一人ずつお願いします」
博が椅子に座ると、目の前にインタビュアーが陣取り、博は困惑した。
「惑星調査官という仕事に就任されたそうですが、初仕事に対して意気込みを教えてください」
「面接の方以外は、ちょっと」
「今テレビ局で、芸能人から宇宙飛行士を! という企画をですね……」
「専業で出来ない方は、ちょっと。機密に触れる事もあるかもしれませんし」
博は控え目に言うのだが、それでマスコミが下がるはずがない。
最も、賢狼に行くことや惑星調査官と言う職自体が機密とまではいかないものの、出来れば秘密にしたい事だったのだが、暗黙の了解を博が読みとれるはずはなかった。
仕方なく、インタビューから片付ける事にした。
ようやく面接へとこぎつけ博は困惑した。外国人が大挙していたからである。
それはフェーズ5の者達なのだが、博は知る故も無い。
「日本語を喋れる方のみの募集とさせていただきます」
「外国人差別!」
マスコミが騒ぎたてるが、博はぼそぼそと説明する。
「エデンでも賢狼でも公共語は日本語です……。創始者が日本人ですし。エデンにいた皆が、日本語で普通に話せました。とっさの時でも日本語で話せないと、意志疎通が出来なくて危ないです」
ぼそぼそと博が言う。
「私は日本語が話せますが、フェーズ5の人間です。私でも出来るでしょうか」
「すみません、無理です。でも、エデンではこれからフェーズ5も受け入れていくって話でした。俺なんかのクルーになるより、エデンの募集を待った方が良いと思います」
「それは本当ですか! ありがとうございます!」
男が笑顔になる。
「あ、アビゲイルさんは、テロにあって怖い思いをしたけど、それでもフェーズ5でも受け入れて行こうって頑張ってくれたんです。台無しにしないよう、頑張ってください」
「祖国が自棄を起こさない事を祈ります。こればかりはどうにも出来ませんからね」
「テロの勝利だ!」
ある外国人が腕を振りあげた。
「………………」
「…………」
「でも、警備はしっかりするように真老様に進言しておきます。後、今回のクルーでも調査でフェーズ5は落とされると思います」
ぼそぼそと遠山は言う。正直に言って、フェーズ5というのを甘く見ていた。
腕を振りあげた人が、同じ国の者らしい外国人に連れていかれた。
国には、様々な人間がいる。たまたまトップの一握りの人間が真老を重視出来なかったが為に、フェーズ5になってしまい、実力があるのにエデンに行けなかった誠実な人間も、沢山いるのだ。
その最たる例が日本と言えよう。最も、日本は真老の出身国だから助かったのだが。
しかし、博は困ってしまった。
面接の対象者があまりにも沢山いるのだ。
そこで、惑星研究所のロビンに手助けを乞い、試験を行う事とした。
「多すぎて決められないので、明後日、惑星研究所をお借りして、テストを行いたいと思います。明後日の朝十時に、惑星研究所本社の受付に履歴書を持ってサード乗組員のテストに来ましたと告げてください」
博はハローワークの募集事項もそのように変えた。
二日後、今度は惑星研究所に人が大挙して押し寄せた。
レディがそれを検索し、ちゃっかり他の研究者がそれを着服する。もちろん、博に許可を取ってだし、彼らも博の為にテストの準備をしたがゆえに人材の存在を知っていたのだが。
公に公開して人員募集する事に躊躇していた宇宙船を貰った研究者には、渡りに船だったのだ! しかも条件が破格であり、この程度なら一発で予算が降りる。
ちなみにロビンは、NASAに直接ロビン号の乗組員を手配してもらっていた。
そして、履歴書でこれはと思う者は研究者に順に配分されていき、彼らは他の研究者の面接場に連れていかれ、最後の余りの人間が遠山の試験会場に通された。
「で、では、これから言う事を良く聞いて下さい」
遠山は、頑張って複雑な指示をした。ロボットの操作が入っているから、間違いなく複雑な指示である。
また、必要な道具を初めだけ選ばせてやった。
質問にも、その時限りと言う事で受け付けた。
内容は、難しい所はロボットや道具を操りつつ、怪我をしないように上手に植物採集する事である。
ベアラズベリーもあるから、非常に難しい試験だ。
怪我人が出たが、即座に治療された。
その後、持ってきた植物に対して、博は言った。
「では、それを、直感に従って食べられそうな物と食べられそうに無い物に分けて下さい」
異星の植物である。それこそ判断が難しい。
それらを採点して、博は上位十名を……。
「おお、面白い事をやっているね。ちょうど捨て石にする人数が足りなかった所でね。ふむ。初見で植物の毒のあるなしを百発百中で的中とは凄いな。知識にしろ、直感にしろ有能と言える。遠山君、人材を少し譲ってもらえるかね? ああ、フェーズ5の人間の流入に即した対応はアビゲイル君にお願いしておいたから安心したまえ」
真老が通りかかり、上位十二名を浚って言ったので、その次の十名を採用した。
何かを得れば何かを失う、世知辛い世の中なのである。
最も、遠山は最初、やってきた十名をよほど問題が無ければ最初の十人だけ取るつもりでいたので、全く問題なかったのだが。
ちなみに、エデンの交易船にフェーズ5の国家の搭乗枠が出来、彼らは喜びに沸いた。
しかし、同時にアビゲイル主導でエデンに法律が制定され、内容自体は緩やかな代わりに、かなり厳しい罰則が課せられたので、国民の手綱を取る事に躍起になったのだった。