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No.28951の一覧
[0] ドラえもん のび太の聖杯戦争奮闘記 (Fate/stay night×ドラえもん)[青空の木陰](2016/07/16 01:09)
[1] のび太ステータス+α ※ネタバレ注意!![青空の木陰](2016/12/11 16:37)
[2] 第一話[青空の木陰](2014/09/29 01:16)
[3] 第二話[青空の木陰](2014/09/29 01:18)
[4] 第三話[青空の木陰](2014/09/29 01:28)
[5] 第四話[青空の木陰](2014/09/29 01:46)
[6] 第五話[青空の木陰](2014/09/29 01:54)
[7] 第六話[青空の木陰](2014/09/29 14:45)
[8] 第六話 (another ver.)[青空の木陰](2014/09/29 14:45)
[9] 第七話[青空の木陰](2014/09/29 15:02)
[10] 第八話[青空の木陰](2014/09/29 15:29)
[11] 第九話[青空の木陰](2014/09/29 15:19)
[12] 第十話[青空の木陰](2014/09/29 15:43)
[14] 第十一話[青空の木陰](2015/02/13 16:27)
[15] 第十二話[青空の木陰](2015/02/13 16:28)
[16] 第十三話[青空の木陰](2015/02/13 16:30)
[17] 第十四話[青空の木陰](2015/02/13 16:31)
[18] 閑話1[青空の木陰](2015/02/13 16:32)
[19] 第十五話[青空の木陰](2015/02/13 16:33)
[20] 第十六話[青空の木陰](2016/01/31 00:24)
[21] 第十七話[青空の木陰](2016/01/31 00:34)
[22] 第十八話 ※キャラ崩壊があります、注意!![青空の木陰](2016/01/31 00:33)
[23] 第十九話[青空の木陰](2011/10/02 17:07)
[24] 第二十話[青空の木陰](2011/10/11 00:01)
[25] 第二十一話 (Aパート)[青空の木陰](2012/03/31 12:16)
[26] 第二十一話 (Bパート)[青空の木陰](2012/03/31 12:49)
[27] 第二十二話[青空の木陰](2011/11/13 22:34)
[28] 第二十三話[青空の木陰](2011/11/27 00:00)
[29] 第二十四話[青空の木陰](2011/12/31 00:48)
[30] 第二十五話[青空の木陰](2012/01/01 02:02)
[31] 第二十六話[青空の木陰](2012/01/23 01:30)
[32] 第二十七話[青空の木陰](2012/02/20 02:00)
[33] 第二十八話[青空の木陰](2012/03/31 23:51)
[34] 第二十九話[青空の木陰](2012/04/26 01:45)
[35] 第三十話[青空の木陰](2012/05/31 11:51)
[36] 第三十一話[青空の木陰](2012/06/21 21:08)
[37] 第三十二話[青空の木陰](2012/09/02 00:30)
[38] 第三十三話[青空の木陰](2012/09/23 00:46)
[39] 第三十四話[青空の木陰](2012/10/30 12:07)
[40] 第三十五話[青空の木陰](2012/12/10 00:52)
[41] 第三十六話[青空の木陰](2013/01/01 18:56)
[42] 第三十七話[青空の木陰](2013/02/18 17:05)
[43] 第三十八話[青空の木陰](2013/03/01 20:00)
[44] 第三十九話[青空の木陰](2013/04/13 11:48)
[45] 第四十話[青空の木陰](2013/05/22 20:15)
[46] 閑話2[青空の木陰](2013/06/08 00:15)
[47] 第四十一話[青空の木陰](2013/07/12 21:15)
[48] 第四十二話[青空の木陰](2013/08/11 00:05)
[49] 第四十三話[青空の木陰](2013/09/13 18:35)
[50] 第四十四話[青空の木陰](2013/10/18 22:35)
[51] 第四十五話[青空の木陰](2013/11/30 14:02)
[52] 第四十六話[青空の木陰](2014/02/23 13:34)
[53] 第四十七話[青空の木陰](2014/03/21 00:28)
[54] 第四十八話[青空の木陰](2014/04/26 00:37)
[55] 第四十九話[青空の木陰](2014/05/28 00:04)
[56] 第五十話[青空の木陰](2014/06/07 21:21)
[57] 第五十一話[青空の木陰](2016/01/16 19:49)
[58] 第五十二話[青空の木陰](2016/03/13 15:11)
[59] 第五十三話[青空の木陰](2016/06/05 00:01)
[60] 第五十四話[青空の木陰](2016/07/16 01:08)
[61] 第五十五話[青空の木陰](2016/10/01 00:10)
[62] 第五十六話[青空の木陰](2016/12/11 16:33)
[63] 第五十七話[青空の木陰](2017/02/20 00:19)
[64] 第五十八話[青空の木陰](2017/06/04 00:03)
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[28951] 第四十九話
Name: 青空の木陰◆c9254621 ID:90f856d7 前を表示する / 次を表示する
Date: 2014/05/28 00:04





オドロームと凛の指令は、ほぼ同時に下された。

『いでよ、我がしもべ! ジャンボス、スパイドルよ!』
「ライダー! そのままセイバーを抑えていて!」

二者の一喝が、闇を揺るがして反響する。
前者は轟く波濤のように、後者は穂先も鋭いレイピアのように。

「無茶を、言ってくれ……ますね!」

剣士の圧力に呻く騎乗兵を余所に、大帝の両隣りには、いつの間にか二体のモンスターが現れていた。
片方は巨漢の象の剣士。腰に一振りの剣を佩き、幅広の大きな耳を翼のように広げて、象特有の長い鼻がやたらとでかい顔の前でゆらゆら揺れている。
もう片方は、細身の蜘蛛の騎士。両端から二角が生えた兜を蜘蛛そのものの頭部に被り、二足で佇むその胴に、それぞれが細剣を掴んだ六本の腕が蠢いていた。
オドローム旗下の将であり、ユミルメ侵攻の先頭に立った魔軍の幹部。名をジャンボス、スパイドル将軍と言った。

「あ、アイツらまで!?」
「落ち着きなさい、のび太! 無限に湧いてくるロボット軍団よりマシでしょう!」

取り乱しかけるのび太を宥めながら、凛はすぐさま魔術回路を臨界状態にする。
この場において、ライダーを動かす事は叶わない。敵の手に落ちたセイバーを喰い止めて貰わねばならないからだ。
地力の上で、のび太も凛もセイバーに対しては無力に等しい。フー子はまだ希望があるが、元来彼女は戦う者ではない。
曲がりなりにも英霊であるライダーには、セイバーを一手に引き受けて貰う他なく、彼女に過剰な負担を背負わせざるを得なかった。

「アーチャー……は、呼べないわね」

一瞬、凛は令呪に手を掛けたが、すぐに取り止めた。
こちらに召喚して、士郎をひとりにする訳にはいかない。
向こうがどうなっているかも解らない以上、あちらの戦力低下は望むところではなかった。
ラインを通じて、アーチャーと視界を共有すればあちらの状況も解るのだが、試したところリンク出来なかった。
どうやら、オドロームがなにかしているらしい。仮にも魔術師の器で生み出された者、それくらいは可能だろう。
眉間を軽く揉み、改めて凛はオドロームと手下を見やる。
瘴気じみた黒いオーラを漂わせて、身構えもせずに傲然とオドロームは佇んでいる。
まるで、いつでも攻撃して来いと言わんばかりだ。溢れ出る威圧感に関して言えば『妖霊大帝』という肩書きも、名前負けしていない。まさに魔物のカリスマである。
それに対して、両隣の魔物は一切の覇気が感じられない。否、決して無という訳でもないのだが、それにしたところで小さすぎた。
只管に下知を待つかのようなその静の挙動が、甚だ不気味に感じられる。
彫像も同然に突っ立ったまま、光の宿らぬ虚ろな目が存在以上に不吉なものを感じさせた。
のび太も同じ事を思ったようだ。先までの恐怖心が鳴りを潜め、戸惑ったように首を傾げている。

「なんだろ、あのふたり? なんか、ヘンだ」
「……同感」

しかめっ面で凛が口にした時、その回答が魔王から齎された。
さらなる猛威をスパイスとして。

『――――さあ、存分に『狂え』! 我がしもべ達よ! そして行けぃ!!』

杖を掲げたオドロームの叫びと共に、両隣の瞳にかっ、と鮮烈な紅い光が宿った。
血のように赤く、どろついたオーラがその背中から滲み出し、そして狂ったような咆哮が闇を盛大に揺さぶった。

『B――Buoooooooooooo!!』
『Gyuaaaaaaaaaaaaaaa!!』
「うわっ!? な、な、なんだ!?」
「ちょっと、これ……まさか『狂化』なの!?」

鼓膜がイカれそうなほどの盛大な雄叫び。
両耳を押さえて目を白黒させるのび太の横で、凛は愕然となっていた。
そんな事などお構いなしに、気炎そのままジャンボス、スパイドルが動き出す。
本能を剥き出しにした、獣さながらの凶悪なぎらつきを宿して、競うように神殿から駆け降りてくる。
まさに競走ならぬ狂走とも呼ぶべき、深謀も遠慮も何もない無節操な吶喊であった。

「きき、き、来た!」
「フー子、アイツらに風をぶつけて!」
「ふ、フゥ!」

のび太の頭上に取っ付いていたフー子。凛の指令に慌てて手を伸ばし、掌から一陣の竜巻を作り出して魔物にぶつける。
大砲にも勝る勢いと風圧に、発射台にされたのび太の頭部はもみくちゃとなっていた。
だが。

「げ!?」

その竜巻が仕事を果たす事はなかった。
牽制代わりの竜巻の大砲に対し、両者はそれぞれの特性を完璧に生かし、これを凌いでいた。

『Buooooooooo!』

ジャンボスは踏み出した足をバネのように弾ませ、宙に飛び上がると耳の翼をはためかせ、飛翔する。

『Gyuaaaaaaaa!』

スパイドルは見た目よろしく、手足八本を地面にへばりつかせ、腹這いの姿勢でこれをやり過ごした。
しかも、お互い吶喊の勢いを一切衰えさせずである。
イカれたようでいて、危険はきちんと察知する。脅威度が倍増した。

「うわあ! くっ、来るなっ!?」
「ちぃ、この!」

凛は咄嗟に魔術回路を起動させ、ガンドを雨あられと撃ち出した。
狂奔する魔物相手に、どれだけ通用するかは解らないが、多少の目晦ましにはなるかもと思っての行動であった。
マシンガンの乱射と同等の速射性と威力、そして弾幕の厚さを誇る凛のガンドは、並の者ではあっという間にボロ雑巾である。

『Bugaaaaa!』
『Syagiiii!』

だが、流石は幹部級。敵は並ではなかった。
ボロ雑巾どころか、ガンドを身体に受けてなお、怯みすらせずに魔物二体は突撃してくる。
ジャンボスは上から、スパイドルは下から。それぞれが狙いを定めた者に、只管真っ直ぐ。愚直なまでに。

「ばっ、バリヤー!?」
「ああ、もう! やっぱり効果ナシ!」

のび太の冷や汗に塗れた手がポケットの“バリヤーポイント”を掴み、凛の指がスカートに忍ばせた宝石を掴み出した。

『Oooooooo!』

腰から剣を抜きざまジャンボスが繰り出した、空中唐竹割りがのび太を襲う。

『Syiiiiii!』

腹這いから滑らかに屹立し、凛の懐に飛び込んだスパイドルが、その六本の細剣を一斉に突き出してくる。

「うひゃっ!」
「それなら、これよ!」

二者の凶悪な一撃は、しかしのび太と凛には届かなかった。
接触の一瞬前に起動した“バリヤーポイント”のバリアに阻まれ、ジャンボスののび太への一撃はあえなく弾き返され。
スパイドルの『三対突き』は、刹那に跳び退る凛の指が弾き出した宝石の至近爆発によって、目標を捉えきれなかった。
逆ベクトルの勢いに押され後退するジャンボス、スパイドル。だがぎらぎらとした剥き出しの敵意と狂気は、逆に増して燃え盛っていた。
赤の色に猛る闘牛以上に鼻息荒く、敵を瞳に映しては際限なくボルテージを上げていく。

「た、助かったぁ……」
「おバカ、ホッとしてない! 防いだだけで、倒した訳じゃないんだから!」
「わ、解ってます」

凛に叱られながら、のび太は“ショックガン”をポケットから抜く。
効くかはともかく、ないよりはマシだ。よしんば効かなくとも、“バリヤーポイント”が作動している限り、とりあえず最悪は避けられる。
“空気砲”は、腕に填める仕様上“ショックガン”よりも手が塞がって自由度がなくなってしまうため、止めておいた。
かたや凛はというと、チョコでも齧るように宝石を一粒、口へ放り込むとごくりと咽喉を鳴らして飲み込んでいた。
見てぎょっとするのび太であったが、次に目にした光景に、きちんとした理由があっての事だと気づく。

「あ、身体から光が」
「『強化』魔術よ。蜘蛛の方は喰い止めてあげるから、アンタとフー子はあのマンモスをなんとかしなさい。出来るなら、あっちの親玉もだけど。あと“電光丸”を貸して」
「え、あ、はい!」

バリアの内から転がした抜身の“名刀・電光丸”を受け取った凛は、それを左の逆手へと持ち替えてぶんぶんと二、三度宙を斬る。
そして、手応えに満足すると不敵な笑みを浮かべ、挑発するようにちょい、ちょいと平を天に向けた右の人差し指で空を引っ掻いた。
その様は、まるで『かかってこいや!』と言わんばかりである。
どれほど狂気に塗れようと、挑発の空気は察せられるらしい。押し戻されて小康状態だった挙動が、再度レッドレベルのアクティブへと切り替わった。

『Syaaaaaaaa!』
『Baoooooooo!』

足音も荒く、スパイドルが凛目掛けて駆け出す。
ジャンボスも、耳の翼を大きく羽ばたかせ、宙に浮くとのび太へ向かって突撃を開始した。

「ええいっ、この! これでも喰らえ!」

ジャンボスに対し、のび太は“ショックガン”を放つ。
巨躯がための単調な突撃など、銃を構えたのび太にとっては徐行する車も同然であった。
稲妻状の閃光は、狙い違わずジャンボスの眉間にヒットする。
ガンドと“ショックガン”。作用する性質の違いゆえか、ガンドを弾き返したジャンボスの肉体に対して、意外にも“ショックガン”の光線は通用した。
一瞬、痺れたようにジャンボスの動きが止まる。赤く爛々としていた瞳の輝きが、身体動作と比例するように鈍くなった。

「フー子! お願い!」
「うん!」

合図と共に、フー子がのび太の肩口から小さな手を突き出し、前と同じように竜巻を発射する。
今度はジャンボスも避ける事が出来なかった。

『Buooooooo!?』
「や、やった!」

大気の渦に呑み込まれ、ジャンボスは錐揉みしながら凄まじい勢いで吹き飛ばされていった。
上出来の成果に、のび太とフー子は片手でぱしっとハイタッチを交わした。

『Syigiiiiii!』
「ふんっ!」

一方、目まぐるしく光芒が閃き、火花を散らすのはスパイドルと凛の殺陣。
三対、占めて六本のレイピアを縦横無尽に、凛に叩き付けようとするスパイドルだが、その悉くが届いていない。
凛がのび太から借り受けた刀が、それらをすべて捌ききっているからだ。

「“電光丸”がなかったら、アウトだったかもねっ! やあっ!」

凛の左の逆手に握られた“名刀・電光丸”が、目にも止まらぬ速さで繰り出され、剣撃の嵐をいなし、受け止め、切り払う。
十三代目の泥棒剣豪のように、ライフルの弾丸すら斬って落としそうな勢いである。
勿論、凛の手並みなどではない。“名刀・電光丸”の恩恵によるものに他ならなかった。
いかなる攻撃にも即座に対応するその自動迎撃機能が、本能を剥き出しにしたスパイドルの一撃一撃を捕捉し、最善の対処法を丁寧かつ的確に施している。
しかし、それだけではきっと防ぎきれなかったであろう。なぜと言えば、凛とスパイドルには身長、体重、筋力に開きがありすぎるからだ。
“名刀・電光丸”といえども、恩恵はあくまで剣の技量のみである。体重差や筋力差といった物理法則は覆されず、忠実に適用されてしまう。

「だああああっ!」
『Sigyaaaaaaa!?』

凛が宝石を飲んだのは、そのためであった。
『強化』魔術。士郎のものよりも遥かに高度で洗練されたそれが、不利な諸条件を五分にする。
斜め上から来る連撃に怯む事もなく、掴んだ刀が弾かれもせず、重い一撃にも吹き飛ばされず。
膂力の上では、スパイドルに及ばずとも後れを取るまではいかないところまで引き上げられている。
であれば、あとは純粋に技量の勝負。しかし、剣の技量は“名刀・電光丸”の力もあっておおよそ五分である。
勝敗を分けるものは、それ以外の技量の要素。その一点に集約される。

『Gyiiiiiiii!』

押されないまでも攻めあぐねるスパイドルが奇声を上げる。繰り出す剣の一切を捌ききられれば、いかに薄れた理性といえど苛立ちは拭えない。
スパイドルは一旦、レイピアを大きく振って凛から僅かに距離を離すとがちり、と顎を開いた。
蜘蛛の魔物であるスパイドルのもうひとつの武器、蜘蛛糸を放とうというのだ。この蜘蛛糸の粘着力と頑丈さは折り紙付きで、人間ひとり吊り下げても切れない強度を誇る。目標の動きを奪うなど、これにかかれば造作もない。

「――――今ッ!」

しかし、それは悪手であった。凛はこの瞬間を待っていたのだ。敵が距離を取ろうとして斬撃の雨が止む、この時を。
凛は、今までずっと刀を持った左腕しか使っていなかった。使えるはずの、使った方が有利なはずの右腕を使っていなかったのだ。
それはつまり、切り札は右手にある事を示唆している。敵が蜘蛛糸を使う事は、のび太の話から聞き知っている。次の敵の行動は、凛にとって初見ではあるが未知のものではない。
彼女は躊躇なく、僅か一足でスパイドルの懐に踏み込んだ。

「せいっ!」
『Gyhiii!?』

そこから瞬きの間も置かず、顔面目がけ繰り出される右の掌底。彼女の修める拳法の技量と『強化』魔術も相まって、猛烈な拳速を以て放たれたそれはスパイドルの下顎に見事クリーンヒットする。
浸透勁による、内部から脳髄を揺さぶる強烈な一撃。外面の威力も相当なもので、スパイドルの顔面が陥没する。
人間であれば、歯が折れるどころでは済まない。顎の骨を粉末にしてお釣りが来るほどの威力がある。
そして、凛の真骨頂はここからだった。

「――――光栄に思いなさい、とっておきよ!!」

叫んだ次の瞬間、スパイドルに突き刺さったままの凛の右手が、凄まじい光を放ったかと思うと強烈な爆炎と共に衝撃波を撒き散らした。

『Uryyyyyyyyy!?』

向かう先がスパイドルのみという、指向性を持った掌からの大爆発。ゼロ距離で浴びた方はたまったものではない。
全身、余すところなく紅い炎に舐めつくされ、火達磨になったスパイドルは彼方へと、砲弾のように吹き飛ばされた。

「――――っく、ぅうう~っ! き、キいたぁああ……っ、はあっ。これがホントの『ヒート・エンド』ってね」

煙の立ち上る右手をぷるぷると振り、凛は涙で視界を滲ませながら笑った。
タネを明かせば、単純な事だ。
スパイドルに叩き込んだ掌底、握り締められていた上四本の指の中には、魔力のたっぷりと込められた彼女手製の真っ赤なルビーが仕込まれていた。
彼女は、それを炸裂させたのだ。
『強化』魔術の恩恵で、掌中で起爆しても凛への被害は最小限で済む。なおかつ、解放された力に指向性を持たせてやれば、更にリスクを減らせる上に威力は倍加する。
だが、やはり反動のすべてを抑え込むのは無理であった。火傷や裂傷こそないものの、凛の右手は圧力と衝撃で痺れており、しばらく使い物にならないだろう。
汗に塗れた顔を拭い、彼女はのび太に対して、不敵な笑顔で左の親指を立てて見せた。

「ぎ……ぅう、が……!」
「あぅ……っく、貴女は、どうやら……『狂化』しないようです、ね」
「抵抗、っくぅ……しなけれ、っば! もはや戻れ……ません、からっ! ぐ、ぅうう!」

残る最後の戦場。
敵に屈服させられた剣士と、それを阻む騎乗兵は、いまだ決着の見えない鍔迫り合いを続けていた。
大上段から繰り出された不可視の剣を、釘の双剣で膝立ちに受け続けるライダー。のび太を庇ったあの時から、その状況は推移することなく、ただ徒に一進一退の停滞模様を見せていた。
普通であれば、弱体化したライダーがとうに圧し負けているはずだ。児童化した彼女の筋力・耐久・敏捷は元の状態からワンランクダウンしており、おまけに『怪力』のスキルもなくなっている。
こと近接戦闘能力においては、セイバーの足元にも及ばない。マスターが変わったところで、セイバーの戦闘能力にはなんらの瑕疵もなく、どころか以前よりもワンランク上の位階に至っているように見受けられた。
マスターが半熟卵の魔術使いから、魔の首魁へ移行した事による能力の上昇変動である。
『竜の因子』も健在で、今もセイバーの身体には淡い燐光が取り巻いている。
これだけ、セイバーにとって有利になる条件が揃っていてなお、ライダーを地に伏しきれない。

「成る程。こちらと、しては……助かり、ますがね!」
「くぅ……しかし、ライダー。貴女の『眼』は、やはり強力だ、っぐぅ!」
「褒め言葉と、受け取っておきます……!」

理由は明白。セイバーが『狂化』、ひいてはオドロームからの支配に今も抗っているからだ。
キャスターの支配力など及びもつかない最凶の呪縛。彼女自身の強力な自我と『対魔力】、そして『竜の因子』からくる抵抗力が、彼女を完全なる支配から辛うじて脱却させている。
彼女の動きが鈍く、十全の実力を発揮出来ないのはその代償であった。
また、抵抗から来る彼女自身の消耗も大きい。身体は震え、額から頬へ、大粒の汗を流しては頭痛を堪えるように眉間に皺を寄せている。
今の彼女は、高圧電流が流れ続ける全身鎧を被せられ、その上脳髄を全神経ごと直に鷲掴みされるに等しい状態であった。
そこにかけて、眼帯から解放されたライダーの『眼』が、セイバーに更なる重石を乗せていた。
魔眼『キュベレイ』。宝具である眼帯の下に隠されていたそれは、内包する潤沢な魔力と高い『対魔力』ゆえに『石化』を免れるセイバーに対して『重圧』を掛ける。
穂群原学園での戦闘においても解放され、セイバーの動作を鈍らせた実績を持つその瞳の助けもあり、結果として相対戦闘力はおおよそ五分(イーブン)となっていた。

「……っ、ふ」

珠の汗を浮かべ、上段からの死の圧力に懸命に抗いながらも、ライダーは薄く笑う。
五分では勝負は決しない。どちらにも天秤は傾かない。普通であれば、決め手なしのまま消耗戦にもつれ込み、泥沼の様相となるだろう。
しかし、この二者の盤面だけを切り取って考えると、戦術上、均衡状態に持ち込んだ時点でライダーの『勝ち』なのだ。
ライダーに課された命題は、セイバーを打倒する事ではない。セイバーをこの場に、釘付けにしておく事である。
滅する訳にもいかず、かといって放置してもおけない。であるならば、足を止める以外に選択肢はない。
セイバーも、その思惑を見抜いているようで、自ら進んでそれに乗っていた。強迫観念のように襲い来るオドロームからのコマンドを、ライダーにすべて振り向ける。
そうする事で、彼女が与える望まぬ損害を最小限に喰い止めていた。

「もう少し、手加減してくれても……いいん、ですよ?」
「それこそ、無茶な相談です……ぅく!」

ちりちり、ぎりぎりと忙しなく、双方の得物が擦れる音だけを背景に。
互いが綱渡りの、限界すれすれの拮抗劇。
局面は、動きそうもなかった。



『――――ふん、成る程。予想よりもやる』



だが、その時。
何度も耳にした大音声が、びりびりと大気を揺らした。
声の主は言わずもがな、オドローム。
手駒のうち、二名がノックアウト。一名が支配に抵抗している。
オドロームにとっては、劣勢。傍若無人な性格を考慮すれば、不甲斐ない手駒に罵声のひとつ飛んだところでまったく不思議ではなかった。
しかし、オドロームの声には、そんな苛立ちや蔑みの響きはない。
むしろ、この有様も予想の内だと言わんばかりの落ち着き払った述懐であった。

『“剣”なしとはいえ……伊達にこの戦争を生き抜いてはいないという事か』
「な、なんだよ。こっちは、ジャンボスも、スパイドルもやっつけたんだぞ」

撃退の余韻が醒めたのび太の声は、いささか以上に震えの混じったものだった。
余裕ありきの態度が崩れない、その不気味さが示すものを本能的に感じ取っているようだ。

『やっつけた、だと? ふん!』

のび太の強がりをオドロームは鼻で笑う。
同時に、ゆっくりと手に持った杖を天に翳した。

『カアッ!!』

虚空へ向けて一喝。炸薬の破裂音にも勝る大きさの音が、虚空を突き抜けていく。
たったそれだけで、状況は劇的に変化した。



『――――B、Buoooooooo……!』
『――――S、Syiiigiiii……!』



地の底から這いずり出すような唸り声が、闇を叩く。
それは、今まさにのび太達によって退けられた者の怨嗟の雄叫びであった。

「え……!?」
「フゥ!?」
「ちっ、予想はしてたけど……!」

フー子の竜巻に吹き飛ばされ、神殿の壁にめり込んでいたジャンボスが壁を砕き、這いずり出す。
凛の神の指によって火達磨にされたスパイドルが、纏わりついていた炎を吹き飛ばし、起き上がる。
両者とも、傷ついていたはずの身体は召喚当初と変わりなく。
ぎらつく瞳の紅は、先程以上に渦巻く怒りと怨嗟と狂気に塗りたくられていた。

『Bugoooooooooooo!!』
『Syigyaaaaaaaaaa!!』

完全復活、ではない。
立ちのぼる禍々しいオーラも増し、より力をつけてジャンボス、スパイドルは甦った。
そして魔の首魁の視線は、二体以外にも向けられる。

『セイバー! 支配に屈せぬ、その気概は見上げたものだが……さて、いつまで粘れるか。ぬん!!』
「う、ぐぅうううああああっ! ああ、がっ!?」

今度は杖を振り下ろしたオドローム。
途端、セイバーの身体から紫電が幾筋も噴き出すように取り巻き、セイバーの苦悶が大きくなった。
支配コマンドを強めたのだ。
体内に千本単位で唸るチェーンソーの刃を突き込まれるような、おぞましいまでの激痛が襲う。
それでも抵抗を諦めぬセイバーの身体は、その実内部からぼろぼろにされていた。

「ぐ!? ぬ、ぅ……く!?」

剣の圧迫が強まるのを感じ、ライダーの顔が歪む。
セイバーの意思がすり減るのと反比例して、セイバーの膂力が上がっていっている。
剣を受け止める釘が半ばからたわみ始め、ライダーの腕も少しずつ押され、ずり下がっていく。

「まず、い……これでは!」

あと十秒も保たず、釘のバリケードは突破され真っ向唐竹割りを喰らう。
勢いよく噴き出す血飛沫と脳漿。鍔迫り合いの拮抗状態に拘るならば、そこに帰結するのはほぼ確定であった。
しかし、次に放たれたオドロームの言葉によって、そのビジョンは幻と化す。
その代償として、今よりも更に辛い事態に陥る事となった。

『まだ終わりではないぞ! 妖霊大帝と呼ばれたワシの力を見るがいい! カァアアアアアッ!!』

杖を振り上げ、地面にかつん、と突き立てる。
たったそれだけで、この空間の大地が鳴動を始めた。

「う、うわ!? 地震!?」
「く!」

地の底から怒涛の如く地鳴りが押し寄せ、地表がうねりを伴ってその身を震わせる。
均整取れた白磁の大地に深い亀裂が走り出すと、ぼこぼこと地面のところどころが隆起し、また至る所が陥没し始めた。
これでは立ってもいられない。
のび太と凛はバランスを崩して尻餅をつき、ライダーとセイバーは競り合いを中断し、距離を開けて態勢を整えざるを得なかった。

「はっ、はっ、はあっ」
「ぜっ、ぜっ……っぐ、ぐぅううっ、く、ぎ……っ!」

お互いに膝立ちで息を荒げながら、一方でセイバーの身体からはまるで大破寸前のロボットのように、異常な数の火花と紫電が噴き出していた。
悲惨にすら見えるそれが、オドロームからの更なるコマンドの熾烈さを如実に表している。やはりその圧力はキャスターなどの比ではないのだろう。
それでもまだ立ち上がって曲がりなりにも耐えきれているのは、流石と言える。

『ヌゥン!!』

しかし、オドロームのターンはまだ終わりではない。
突き立てていた杖を、今度は顔の前へと持ち上げて掲げる。
すると、杖の頭頂部の髑髏が、ばちばちという異音と共に怪しげな光を放ち始めた。

『ハッ!』

それを勢いよく、天目掛け突き出す。
髑髏に込められた輝きが、一条の光の帯となって闇を切り裂き、天井へ突き刺さった。
次の瞬間、地震や地割れなど目ではない現象を、凛達は見る事になる。
空から、『星が落ちてきた』。

「う、嘘ッ!?」

文字通り、五芒星を象った人ほどの大きさもある星が落ちてきたのだ。
しかも、数は十や二十ではきかない。六十も七十も超えていそうだ。それが猛烈なスピードで、限界まで蛇口を捻ったシャワーのように降り注いでくる。
非現実に浸る魔術師をしても非現実的な光景に、凛は一瞬己が目を疑った。

「あ、あわわわわわっ!?」

降り注ぐ光景がシャワーなら、威力は巨人のショットガンだ。
クラスター弾をも凌ぐ爆風と衝撃波によって、星が着弾した地面には見事に月面さながらのクレーターが作られていた。
万一直撃でもしようものなら、ただの人間の身体しか持たないのび太と凛は、間違いなく蒸発する。
“バリヤーポイント”の中で、フー子を懐に抱え込んだのび太は必死に揺れる地面にへばりつき、頭を抱えていた。
セイバー、ライダーは防御を選択せず、必要最小限のステップでキラリ流星群を躱していく。
このふたりの場合、いかに弾速が速かろうがブツが大きいだけ、落下場所を見切るのは容易く、むしろ着弾直後の衝撃波と抉れた足場に気を配っていた。
お互い、疲労が蓄積している分、無駄な動きをして消耗するのは愚の骨頂であった。

「くぅううう……!」

凛もまた、スカートのポケットに忍ばせていた“バリヤーポイント”を展開し、地べたに手と膝をついていた。
彼女もまた、前回同様“バリヤーポイント”を携帯していた。これ以上の防御装置など、魔術の中にもそうそうないと言っていい。
しかし、このひみつ道具を以てしても、流星群の威力は凄まじかった。なにしろバリアにぶつかる音が凛をして、背筋を凍らせるほど凄絶なのだ。
バリア越しでも、背骨からびりびりと身体を揺さぶるそれが、彼女に星が秘める破壊力を教えてくれる。
絶対にバリアは解けない。少なくともこの流星群が止むまでは、決して。
幸い、星はバリアに当たると弾き返され、明後日の方へ吹き飛んでいくため、間断なき圧力超過で筐体が爆散する事はなさそうだった。
だが、最大の危機は凛の足元に、既に訪れていた。



「……え?」



びし、と。
凛の耳と脚に、なにか硬い物が裂ける音と感触が伝わってきた。
背筋を這いずる、強烈な悪寒。自分が陥るであろう数秒後のビジョンが、鮮明に脳裏に描かれる。
決して手抜きなどしてはいないだろうが、今いるここは人工建造物。そこに大地震とも呼べる揺れとクレーターを作れるほどに破壊力を秘めた流星の散弾。
ここから連想されるのは、ただひとつ。

「ちょ……!」
「り、凛さん!?」
「リン!」

ライダーが駆け出しかけるが、その時にはもう始まってしまっていた。
大黒柱を引っこ抜かれた積木の城のように、中心から崩落していく白亜の床たる地面。
陥没した大地が、暗闇を湛えた直径十メートルの円環となるのにその実、数秒も要しなかった。

「きゃあああああああ――――!!」

手を伸ばしたところで無意味。
底なし沼のような深い闇の中へ、凛は溶けるようにして消えていった。





――――きん、きん、きん、と。

そんな甲高い音を立ててぶつかり合うのは、冴え冴えとして鋭利な鋼と鋼だ。
居合の演武で日本刀同士が噛み合う時、見るも鮮やかな火花が散る。
この場で行われている事は、光景だけを切り取ってみればほぼ同じ。
ただし、明らかに異なっているのは、これは演武などではなく真に迫った命のやり取りだという、その一点である。

『クククク……どうした、アーチャー? 押されているぞ?』

柳洞寺、境内。
闇夜を照らす、線香花火と遜色ないその光に浮かび上がるは、ふたつの影。

「シミュレーションでは、七対三でこちらの方が勝っていたぞ』
「勝る? 戯言を。半人前を乗っ取った程度で、よくそんな口が叩けるものだ!」

銀閃が翻る。アーチャーの諸手が繰り出すのは、彼の最も使い慣れた一対の中華剣だ。
弓が本分であるにも拘らず、この弓兵は白兵戦において……トリックめいた奇手を用いたとはいえ……ランサーこと『クー・フーリン』とも渡り合ってみせた実績を持つ。
人間よりも格上の存在である英霊が、人間に後れを取るなど、通常あり得る事ではない。

『ふん……戯言か。試してみるか?』

しかし、相手は人間ではあるが、人間ではない。
悪意の塊とも呼ぶべき悪魔に憑りつかれた、人間である。
かつて宇宙の果てにて、艦隊とも言える大宇宙船団を影から牛耳り、遂には地球と闘争を引き起こそうとした黒幕『アンゴルモア』。
アサシンの肉体を依代として出でたそれが衛宮士郎の身体を乗っ取り、手近にいたのび太に近しい者……すなわち士郎、そしてアーチャーへと襲い掛かっていた。

『ぬん!』

アンゴルモアに操られた士郎の腕が引かれ、身体が弓形に引き絞られる。
同時に、身体からめりめりと筋肉の膨れ上がる異様な音が発せられていた。
その瞬間、アーチャーの脳髄でけたたましくアラートが鳴る。
咄嗟に、手にする双剣を交差させて頭上に翳した。

「くっ!?」
『はあっ!!』

最上段から繰り出されたアンゴルモアの諸手。
掌中にあった得物が双剣を捉えたその刹那、がしゃん、とガラスが地面に撒き散らされたような音が響き渡った。

「――――ぬ、ぅぐっ!?」

金属の破片がばらばらとアーチャーの頭に降り注ぎ、骨を直接ハンマーで殴られたような痺れが、彼の腕にのしかかってきた。
そして両手にさらに伝わる、心許ない剣の柄の軽さ。
その感触は、両刀身が木っ端微塵に砕け散った事を持ち主に教えていた。

『さて、これでも戯言と言うか?』
「……ほざいていろ」

嘲り笑いを浮かべるアンゴルモアを貼り付けた鉄面皮で見据え、アーチャーは残った柄を放り捨てる。
受ける際、僅かに腕を引いたお陰で、痺れはあと五秒足らずで抜ける。
まるでミュータントのような顔貌となった士郎の顔を見ながら、彼は心中で盛大に舌打ちをした。

「腑に落ちん。この異常な力と成長、種はいったい……?」

砕かれた双剣、正式な銘は『陽剣・干将』と『陰剣・莫耶』と言う。
古の刀工、干将が妻の莫耶の命と引き換えにして生み出したとされる『曰くつき』のもので、そう容易く砕かれる代物ではない。
それこそ、ランサーやセイバー、バーサーカーの渾身の一撃でもなければ、だ。
それを、砕かれた。肥大した膂力を以て。魔術師として未熟で半端者の衛宮士郎の肉体“そのまま”では、明らかにあり得ない現象であった。
他にも、腑に落ちない点はある。斬り合いが始まった当初、アーチャーが圧倒的に優勢であった。
アーチャーは、剣士としては才なくせいぜい二流。対する士郎は同じく才なき上に、アーチャーに一方的にのされるような力量しか持っていない。
アンゴルモアが憑りついたところで、才能の有無までは覆せない。それが当然の流れであった。
繰り出される攻撃を捌いては肩を極めて関節を外したり、剣で膝を割ったりして動きを止め、無力化しようと試みた。士郎の身体には浅くないダメージと傷が、どんどん刻まれていった。そこまではよかった。
しかし、士郎の肉体は傷ついたその端からぐじゅぐじゅと音を立てて負傷箇所が一気に治癒して元に戻り、再度斬りかかってきた際には、前よりも剣閃の鋭さが増していたのだ。
異様な事態に眉を顰めたアーチャーであったが、気を取り直してもう一度腕の関節を外し、今度は腱を数ヶ所断った。だが傷付けた身体はまた再生し、さらに剣の鋭さは増す。
何度かその応酬が繰り返されたが、いつしか敵の力量はアーチャーのそれと遜色ないところまで伸び、彼をしてヒヤリとさせられるところまで到達していた。

『クククク、これは面白い。まったくもって、面白い』

だがそれすら霞む、極め付けと言ってもいい異常の象徴が、アンゴルモアの手の中に存在していた。
気味の悪い笑い声を上げてゆっくりと構え直す、今しがたアーチャーに対して振り下ろしては双剣を砕いた得物、それは。

『これを喜劇と言わずしてなんと言う! ククククク……!』

アーチャーが所持していたものと寸分違わぬ、『干将・莫耶』であった。
それが士郎の持つひみつ道具によるイミテーションでも、アーチャーから盗み出されたものでもない事は、他ならぬ彼自身が知覚している。

「……何が喜劇だ、と?」
『貴様の存在、そのものがだ』

他の誰でもない『衛宮士郎』が、アーチャーに何も悟られぬまま『干将・莫耶』を手にし、その剣を以て同種同質の剣を砕いた。
その意味を、アーチャーは心の奥底で言い知れぬ悪寒と共に模索していた……否。

「妙な事を言う。アンゴルモアよ、お前が私の何を知っていると? そもそも、我々に接点などないはずだが」

既に結論は彼の中で出ており、しかしそれを彼は受け入れられず、無意識に拒否していると言った方が、正確かもしれない。
それは、ある意味では彼の根幹に関わってくるものであるゆえに。

『ふん、たしかに接点などないな。だが……この小僧』
「む……?」
『我が依代のこの小僧、なにやら貴様と浅からぬ因縁があるようだな』
「……!」

にしゃあっ、とアンゴルモアの唇が吊り上がる。
その言葉で、アーチャーの出した結論に確たる裏付けが取られた。
肉厚の氷のナイフで背中を突かれたような衝撃が、アーチャーの内面を襲う。

『詳しくは知らんが、この世界の降霊術の一種には』
「ぬんっ!」

言い終わらぬうちに、紅い背中が揺れ、アンゴルモアの間合いに踏み込む。
抜き打ちのように放たれた諸手には、たった今砕かれたはずの『干将・莫耶』が、いつの間にか再び掴まれていた。
がちん、と噛み合う刃と刃。斬撃の軌道を読み切り、『干将・莫耶』を『干将・莫耶』で受け止めたアンゴルモアの薄ら笑いは、小動(こゆるぎ)もしない。

『なんだ、なにを焦っている?』
「……隙を見せた貴様が悪い」
『隙? 隙と言うのならば、動揺を見せた貴様の方こそ隙だらけよ!』

途端、アンゴルモアの瞳が紅く、妖しい輝きを放った。
煙草の火よりも強く炯々と、血染めのプリズムを通して発された光がアーチャーの眼球に飛び込んでくる。
その時、じわり、と眩暈にも似た奇妙な感覚に襲われた。

「ぬ……ぅ」

頭の奥で、数千匹ものミミズがのたうち回るような、そんな感触。
ミミズが蠢く度に、脳髄をちびちび齧り取られていく。
ほんの、ほんの僅かずつ。粉のようなビスケットの欠片よりも微細な量を、幾千もの蟲達が。
じわじわ、じわじわと中心から、全体へとそれは広がっていき……。

「――――喝ッ!!」

かっ、と括目したアーチャーの気合一喝。
頭の中の不快感が蒸発するように掻き消され、刹那の後に彼の右手がぶれる勢いで振り上げられた。

『む、ぅが!?』

一瞬後に響く、アンゴルモアの奇声。
唐突な一喝に反応が遅れ、対応出来なかった。
アンゴルモアの腹部には、弓兵が投げ放った双剣の片割れが、深々と突き刺さっていた。
ごぼっ、とどす黒いを吐血する。柄に近い位置まで体内に潜り込んだ剣は、内臓まで達したようだ。
空いた手で米神を叩きながら、眼の焦点を調整するようにアーチャーの眉間にぎゅっと皺が寄った。

「ち……今のが『超能力』というやつか」
『ぐっ、グ、グフ……ク、クク。ノビ・ノビタから聞いていたか』
「『超能力』で一国の長を操っていた、という事はな。成る程、なかなかに強力だ」

おそらく凛やイリヤスフィール辺りの実力者でも危なかったであろうと、アーチャーは思う。
弾き返せたのは、セイバーやキャスターほどではないにしろ、それでも意外に高い魔力値と、魔よけのアミュレット程度のものではあるが、クラススキルの『対魔力』のお陰であった。

『だ、だが、ゴホ! 先程までとは、明らかに違う、な。まさか腹に剣を突き通す、とは。とうとう、こやつ諸共潰す気になったか?』
「骨を外そうが腱を断とうが、さんざん再生していたのだ。今更、その程度では死ぬまい?」
『まあな……クク、遠慮を捨てたか。だが、これはこれで好都合』
「なに?」

訝しんだアーチャーの眼前で、アンゴルモアが腹に突き立っていた剣を勢いよく引き抜く。
噴き出した血潮が、境内を赤く染めるが、アンゴルモアの身体は揺るがない。
ふらつく事なく堂々と二本の脚で立ったまま、徐に抜いた剣の刃を掴んだ。

『貴様がこやつを傷付けるだけ……』

みしみし音を奏でる刀身。
アンゴルモアの右手に力が籠る毎に、刃に亀裂が走っていく。
そして。

『こちらに勝利は近づくのだからな!』

ぐしゃり、と。
アメ細工を握り潰すように、剣が手の中で粉々となる。内臓まで抉られた腹の傷も、やはりぐじゅぐじゅという生理的嫌悪を齎す音と共にいつの間にか塞がりきっていた。
高らかな宣告は虚勢とも余裕とも取れ、判別はつかない。
士郎のシャツもジーンズも、度重なる負傷でずたずたで、その実ボロ布と変わりない。
しかし、その下にある肉体は健在。アンゴルモアが入り込んだせいなのか、心なしか一回り肥大しているようにも見えた。

「……ふん。好きに咆えていろ、ミュータント」

残った左手の干将を構え、アーチャーは鷹の目に冷たい闘志を漲らせる。
だが、鉄面皮の表面を伝う一筋の汗は、仮面の下の彼の内心を唯一発露させていた。

「――――いつまで、寝ているつもりだ。小僧」

絶望と、願望と、希望とが一緒くたとなり、渦巻くように揺れ動く。
一粒の雫が表すもの。それはこの戦局における決め手を欠く事から来る、掻き毟るような焦燥と。



「……ちっ」



――――己と士郎の間にある色濃い因縁に起因した、混沌に満ちた葛藤であった。






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