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No.28951の一覧
[0] ドラえもん のび太の聖杯戦争奮闘記 (Fate/stay night×ドラえもん)[青空の木陰](2016/07/16 01:09)
[1] のび太ステータス+α ※ネタバレ注意!![青空の木陰](2016/12/11 16:37)
[2] 第一話[青空の木陰](2014/09/29 01:16)
[3] 第二話[青空の木陰](2014/09/29 01:18)
[4] 第三話[青空の木陰](2014/09/29 01:28)
[5] 第四話[青空の木陰](2014/09/29 01:46)
[6] 第五話[青空の木陰](2014/09/29 01:54)
[7] 第六話[青空の木陰](2014/09/29 14:45)
[8] 第六話 (another ver.)[青空の木陰](2014/09/29 14:45)
[9] 第七話[青空の木陰](2014/09/29 15:02)
[10] 第八話[青空の木陰](2014/09/29 15:29)
[11] 第九話[青空の木陰](2014/09/29 15:19)
[12] 第十話[青空の木陰](2014/09/29 15:43)
[14] 第十一話[青空の木陰](2015/02/13 16:27)
[15] 第十二話[青空の木陰](2015/02/13 16:28)
[16] 第十三話[青空の木陰](2015/02/13 16:30)
[17] 第十四話[青空の木陰](2015/02/13 16:31)
[18] 閑話1[青空の木陰](2015/02/13 16:32)
[19] 第十五話[青空の木陰](2015/02/13 16:33)
[20] 第十六話[青空の木陰](2016/01/31 00:24)
[21] 第十七話[青空の木陰](2016/01/31 00:34)
[22] 第十八話 ※キャラ崩壊があります、注意!![青空の木陰](2016/01/31 00:33)
[23] 第十九話[青空の木陰](2011/10/02 17:07)
[24] 第二十話[青空の木陰](2011/10/11 00:01)
[25] 第二十一話 (Aパート)[青空の木陰](2012/03/31 12:16)
[26] 第二十一話 (Bパート)[青空の木陰](2012/03/31 12:49)
[27] 第二十二話[青空の木陰](2011/11/13 22:34)
[28] 第二十三話[青空の木陰](2011/11/27 00:00)
[29] 第二十四話[青空の木陰](2011/12/31 00:48)
[30] 第二十五話[青空の木陰](2012/01/01 02:02)
[31] 第二十六話[青空の木陰](2012/01/23 01:30)
[32] 第二十七話[青空の木陰](2012/02/20 02:00)
[33] 第二十八話[青空の木陰](2012/03/31 23:51)
[34] 第二十九話[青空の木陰](2012/04/26 01:45)
[35] 第三十話[青空の木陰](2012/05/31 11:51)
[36] 第三十一話[青空の木陰](2012/06/21 21:08)
[37] 第三十二話[青空の木陰](2012/09/02 00:30)
[38] 第三十三話[青空の木陰](2012/09/23 00:46)
[39] 第三十四話[青空の木陰](2012/10/30 12:07)
[40] 第三十五話[青空の木陰](2012/12/10 00:52)
[41] 第三十六話[青空の木陰](2013/01/01 18:56)
[42] 第三十七話[青空の木陰](2013/02/18 17:05)
[43] 第三十八話[青空の木陰](2013/03/01 20:00)
[44] 第三十九話[青空の木陰](2013/04/13 11:48)
[45] 第四十話[青空の木陰](2013/05/22 20:15)
[46] 閑話2[青空の木陰](2013/06/08 00:15)
[47] 第四十一話[青空の木陰](2013/07/12 21:15)
[48] 第四十二話[青空の木陰](2013/08/11 00:05)
[49] 第四十三話[青空の木陰](2013/09/13 18:35)
[50] 第四十四話[青空の木陰](2013/10/18 22:35)
[51] 第四十五話[青空の木陰](2013/11/30 14:02)
[52] 第四十六話[青空の木陰](2014/02/23 13:34)
[53] 第四十七話[青空の木陰](2014/03/21 00:28)
[54] 第四十八話[青空の木陰](2014/04/26 00:37)
[55] 第四十九話[青空の木陰](2014/05/28 00:04)
[56] 第五十話[青空の木陰](2014/06/07 21:21)
[57] 第五十一話[青空の木陰](2016/01/16 19:49)
[58] 第五十二話[青空の木陰](2016/03/13 15:11)
[59] 第五十三話[青空の木陰](2016/06/05 00:01)
[60] 第五十四話[青空の木陰](2016/07/16 01:08)
[61] 第五十五話[青空の木陰](2016/10/01 00:10)
[62] 第五十六話[青空の木陰](2016/12/11 16:33)
[63] 第五十七話[青空の木陰](2017/02/20 00:19)
[64] 第五十八話[青空の木陰](2017/06/04 00:03)
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[28951] 第四十一話
Name: 青空の木陰◆c9254621 ID:90f856d7 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/07/12 21:15





『今日未明、○○県冬木市新都において、大戦中のものと思われる不発弾の相次ぐ爆発が発生し、十数棟のビルが倒壊するという――――』
『昨日午後一時ごろ、○○県の私立高校にて、大規模なガス漏れ事故が発生し、校内にいた生徒、教職員、関係者のほとんどが昏倒――――』

TVの朝のワイドショーで、キャスターがニュースを読み上げる声が耳を刺激し、彼女の脳に情報が書き込まれていく。
どんな過激な事件においても、感情の起伏を見せずに淡々と話すニュースキャスターの方が、彼女個人としては気に入っているのだが、今映っている若い女性キャスターの場合、起伏を意識した話し方をしている。
覚醒してすぐの頭には、これが催眠音波に聞こえてしまう。習慣となっている気つけがなければ、微睡みに負けて瞼は再びシャッターを下ろしているだろう。

「流石綺礼ね。でっち上げもいいところだけど、きっちり情報統制はやってるか」

黎明の光も乏しい居間のテーブルにて、そんな感想を呟いた遠坂凛は、今しがたコップに注いだ牛乳を一気に飲み干した。
衛宮邸に居住している人間の中では、凛が最も早くに目覚め、行動を開始している。いや、せざるを得なかった、と言うのが正しいだろう。
目を閉じれば、意識せずともまざまざと浮かび上がってくるのだ。
崩れ落ちるビルが、空飛ぶ鋼鉄の巨人が、降り注ぐミサイルが、無数の鋼の軍団が。
そして、ぽっかりと空いた世界の穴が。

「ふぅ……ほんと『これ、どこの世紀末?』って話よね。文字通り、世も末だわ」

眠ったのに眠れなかった。その行きつく先は『悲惨』の一言に尽きる。
いつも低血圧で、ひどい事になっている起き抜けの凛の表情は、今日に限っては一段とあんまりな事になっていた。
淡い想いなぞ抱く人間が見たなら、百年の恋もいっぺんで冷める事請け合いである。

「――――あっ」
「ん?」

ふと凛が後ろを振り返ると、居間の入り口に誰かが立っていた。
青みがかった長い髪に、アクセントのリボンがトレードマークのその見慣れた姿は、凛をして無残な表情を改めさせた。
僅かな間が、両者の間に差し挟まれる。そして、先に動いたのは凛の唇であった。

「……おはよう、桜」
「おはよう、ございます……遠坂先ぱ……姉、さん」

やや固い声で朝の挨拶を返した間桐桜は、そのまま軽く頭を下げた。

「早いわね。まだ五時半よ」
「私は、いつもこのくらいの時間には起床しています。朝食を作らなくてはいけませんから」
「士郎の? 涙ぐましいまでの努力よね」
「……藤村先生のも、です。それに、好きでやっている事ですから」

普段通りの会話であるが、どこかぎくしゃくとしている。
いつもであれば、もっとスムーズに会話がなされるのだが、今日に限っては両者共に違和感がつきまとう。
まるで、喧嘩の後に距離感を計りかねている夫婦のようである。
その大元は、桜が凛を“姉”と呼んだ事であろう。
凛からそう呼んで欲しいと桜が言われたのは、昨夜の事であり、凛と桜の因縁は、既にこの家の誰もが知るところとなっていた。
あの夜に打ち明けられた真実は、夜明けを迎えようとしている今でも、余震のように皆の心を揺さぶり続けているのであった。

「あ、そ。でも、藤村先生は入院中よ。というより、昨日休んでた人間以外の穂群原の関係者全員が入院ね。学校は当面休校。まあ、死人が出てないのと、長い人でも一週間の入院で済んだのが不幸中の幸いかな」

ちなみに大河は三日で退院予定である。
これはあの騒動で入院したどの患者よりも軽いもので、本人はベッドで寝込むどころか、搬送された二時間後に目を覚まし、検査後、近くにいた看護士に夕飯を催促した挙句、おかわりまで頼んだほどである。
入院は、あくまで経過を見るための予防措置で、それ以上のものではない。
起き抜けに、監督役からその連絡を受けた凛は、魔道の素養なしでのその強靭さに戦慄を禁じ得なかった。
『冬木の虎』の異名は伊達ではないと、本人が聞けば頭から齧り付かれそうな感想と共に。

「それはともかく、献立はどうするの?」
「あ、それは冷蔵庫を見てみない事には……なんとも。ここ数日は、来てませんでしたから」
「そう言えばそうね」

セイバーが呼び出された翌日から、桜は衛宮邸の敷居を超えていない。
よって、献立を考えるには冷蔵庫の中身を把握する必要があった。
足音低く、桜はそっと台所へ赴くと、冷蔵庫の扉を開ける。

「お豆腐に……揚げ……卵……ベーコン……うん、じゃあ、お味噌汁にベーコンエッグでいいですか?」

食材をチェックしながら、桜が凛へ献立を確認する。
作ってくれるというのなら否やはない。

「構わな「――――サクラ」い……って!?」

突如として響いてきた声に、反射的に凛は振り返った。
音もなく、気配もなく、まるでアサシンのようにいつの間にか、凛の背後にその女性は立っていた。
足元まで伸びた紫の髪は、あの夜の凄惨な状態と違って艶を取り戻し、モデルのそれよりも美しく際立っている。
白磁の肌は肌理(きめ)細かく、世の女性の羨望と嫉妬を掻きたてるほどに、生気に満ちている。
縁なし眼鏡の奥から覗くアメジストの瞳は、微かな慈しみの光を湛えて真っ直ぐに桜に向けられていた。



「あっ、ライダー。おはよう」
「おはようございます」



あの夜、消滅の運命にあったはずの騎乗兵のサーヴァントは、主に朝の挨拶を返した。

「ちょっと……音もなく後ろに立たないでくれる? 心臓止まるかと思ったじゃない」

くの一さながらなマネをされて、驚かない人間はまずいない。
思わず立ち上がってしまった凛は、相手を見下ろしざま抗議の声を上げる。

「ああ、すみません。悪戯が過ぎましたか」

そう。見下ろして、である。普通に考えれば、これは明らかにおかしい。
ライダーの身長は172cmで、凛はおろか士郎よりも高い。流石にアーチャーよりは低いものの、男性の平均身長を確実に上回っているのである。
士郎は内心、羨ましいと感じているのだが、当の本人にとっては拭い去りがたいコンプレックスでしかない。小柄な方が、女性としては可愛らしく見えるから、というのが理由だ。
彼女が生きていた神代基準の価値観と、永遠の少女であった二人の姉の事を考えれば、そういう結論に至っても不思議ではない。
価値観の多様化した現代では、決してそんな事もないのだが、それはさておく。

「貴女、もう身体はいいの?」
「はい。最初こそ戸惑いましたが、違和感は感じません。体調という意味で言えば、調子がいいくらいです」
「そう」

ではなぜ、凛はライダーを見下ろせているのか。
ライダーが膝を折り曲げている訳でも、凛が爪先立ちをしている訳でもない。
その答えは、先程ライダーが言った『戸惑い』の意味にあった。

「けど……まさかここまで小さくなっちゃうとはねえ。中学生くらい? 背丈はのび太以上、セイバー以下ってところだけど」
「頭を撫でないでください。縮んだとはいえ、子どもになった訳ではありませんので」
「そうね。そう言えば子持ちだったものね、貴女。天馬だけど」
「……それはそれで不愉快なのですが」
「脅かされたお返しよ」

そう言って、凛はライダーの頭に乗せていた手を降ろした。
滅多に感情を表に出さないライダーの唇が微かに尖っていたのに気付いたのは、横目で様子を窺っていた主である桜だけであった。

「――――でも、なんで胸だけ一切サイズダウンしてないのよ!? なによこのマスクメロンの特盛りは! 詐欺じゃないの!?」
「知りません。それと、嫉妬ほどみっともないものもありませんよ」
「嫉妬じゃないわよ! 理不尽に対する正当な憤慨よ!」

人、それを嫉妬と呼ぶのである。






結論から言えば、ライダーは生き残った。
リルルの願いを聞き届けたのび太の手によって、滅する運命から解き放たれたのだ。
しかし、代償もあった。
当然だ、サーヴァントという枠に押し込まれているとはいえ、『メドゥーサ』は神代の女神である。
奇跡には、相応の代償が必要となる。格が上になればなるほど、支払金額はかさんでいく。
支払われたのは、機械の天使の生命と『メドゥーサ』の魂の殆ど、そしてライダーという存在の“殻”そのものであった。

「まったく、のび太君の“タイムふろしき”も大概だよな。まさか、消滅寸前のライダーの時間を巻き戻して女神時代の身体に戻しちまうなんてさ」

お椀の底に沈んだ味噌を箸で撹拌しながら、士郎がなんとはなしに呟いた。
時刻は、六時半になろうかという頃。一部を除き、主だった面々は既に起床している。
居間の食卓には、桜の作った心づくしの手料理が並び、湯気とともに立ち上る芳醇な香りが、席に着く者の空の胃袋を刺激する。
寝過ごした所為で手伝いすら出来ず、家主として申し訳なさを覚える士郎であったが、戦いが始まる前も、桜は士郎が起床する前にやってきては朝食を準備するフライングを度々やっていたので、そこまで深く気に病むでもなかった。

「しかし、お陰でたとえ、聖杯戦争にピリオドが打たれようとも、私は存在していられます」

齧っていた沢庵を飲み込んで、ライダーはそう返答をした。
表情こそ素面だが、隠しきれない歓喜のオーラが滲み出ている。

「彼女と……のび太には、どれほど感謝しようと、足りるものではありません」

桜によって呼び出された『メドゥーサ』の願いは、機械の天使の奇跡によって形となった。
ライダーが滅する寸前、のび太はリルルの指示通り、“スペアポケット”から引っ張り出した“タイムふろしき”を被せた。
時間を巻き戻す事によって、消滅する前の状態に回帰させようと試みたのである。
本来であれば、決して確実とは言えない試みであろう。そもそも、時間を巻き戻す対象そのものが、サーヴァントというよく解らないシロモノなのだ。
サーヴァントは、人間のように単純な『個』ではない。複雑怪奇な魔術理論によって形成された、魔術生命体とも言えるものだ。
状態の安定した平時ならともかく、崩壊寸前の状態では、時間操作による不確定性は、高い確率で存在する。
この状態では、果たして魂なのかエーテルなのか魔力の残滓なのか、容易に判別がつかないからだ。
巻き戻した結果、得体の知れないスライムみたいなものが出てきました、という可能性もあり得る。
しかし、リルルの奇跡はその不確定性を是正し、なおかつそのさらに先にまで希望の光を降り注がせた。
彼女がのび太に与えた『天使の祝福』の効果は、サーヴァントの枠を超えて英霊を現界させる力を、のび太を介して“タイムふろしき”に齎す事であった。

「本来ならば、“タイムふろしき”といえどもこんな事は不可能なはずです」

『メドゥーサ』の願いとは、いずれ己と同じ末路を辿るであろう少女を見守り、叶うならばその破滅の結末に至る事のないように救い上げる事であった。
己の運命と近しいものがあったからこそ、『メドゥーサ』は真の主である間桐桜の召喚に応じたのだ。
その願いを知っていたリルルは、宿命を振り切って己が夢幻の命を賭し、『メドゥーサ』への一助を至上の命題としたのだった。

「え、そうは思えないけどな。あの時、“タイムふろしき”で令呪ばんばん復活補充させてたし。元からそれぐらい出来たんじゃ」
「可能性を否定はしませんが、確実とは言えません。女神としての私の復活を確実としたのは、紛れもなく彼女の力です。私は彼女の記憶を受け継いでいますので、断言出来ます」

ライダーに“タイムふろしき”を被せる際、のび太はサーヴァントとして全快する相当時間以上に長い時間、“タイムふろしき”を被せ続けた。
リルルに耳打ちされた際、そうするように指示を受けたからだ。
魂と魔力のほぼすべてが無色の力として聖杯に還元され、魂の“ガラ”にも等しかった『メドゥーサ』の残骸は、存在の時を遡った。
サーヴァントから『英霊の座』、そして『座』へと至る前への状態へと。元々、サーヴァントとして呼び出されるのは、『英霊の座』にある本体のコピーのようなものであるから、二重存在に関する矛盾は発生しない。
慎重になりすぎて、のび太が時間を巻き戻しすぎてしまったため、現在のライダーとなる前の成長途上の状態へ回帰してしまったが、ライダー個人としては背の低い今の状態がいいので問題はないらしい。
背の高さに対するコンプレックスは、よほどのものであったようだ。

「ただ、力はガタ落ちしています。全盛期以前の状態ですから。流石に戦闘力最弱のキャスターにすら劣る、とまではいきませんが」
「ま、そうだろうな。どっかの名探偵みたく、幼児化したみたいなもんだし。宝具とか、クラススキルとかも使えないのか?」
「いえ、そちらは一部を除いてなぜか保持したままです。これも祝福の効果なのでしょう。具体的には、『怪力』と『単独行動』がなくなって、クラススキルの『対魔力』がアップしています。そちらの主観で言えば、Aランクですか」
「せ、セイバー並にか」
「『神性』がE-からAとなったからかと。一応、今の私は女神ですから、神秘に対する抵抗力が上がるのも解らない話ではありません。もっとも、本来はEXでもおかしくないはずなのですが……おそらく、これは『世界』からの修正でしょう。基本能力の減退も、全盛期云々とは別個に修正が働いているものと」
「ふうん……」

矛盾を嫌うのが『世界』の習性。これは、魔道を歩む者なら駆け出しですら知る常識である。
現代には、神代の神など存在していない。それらはすべて、幻想の彼方へと追いやられている。ゆえに、現代に降臨した『メドゥーサ』の存在を、『世界』は許さない。
しかし、現実問題として『メドゥーサ』は現代に存在してしまっている。この事実を、『世界』は覆しようがない。サーヴァントに関する特殊な事情が絡むとはいえ、こうなると、鶏が先か、卵が先かという問題となってくる。
その釣り合いと、帳尻を合わせるために、『世界』は『メドゥーサ』の力を制限しにかかったのだ。『神性』が落ちれば、矛盾はある程度解消されないでもないからだ。
妥協を通り越して、あまりにも都合のよすぎる処置に見えるが、それらもすべてひっくるめての『天使の祝福』だと考えると、駆け出し以下の知識しかない士郎としても、なんとなく頷ける話ではあった。

「総合すれば、半神半人といったところでしょうか。サーヴァントの頃の強靭さや回復力はありませんが、代わりに魔力が自活出来ますので魔力供給は必要ありません。そして……」
「そして?」
「子どもも作れます」
「ぶふっ!?」

啜っていた味噌汁を噴き出した士郎を尻目に、ライダーは澄ました顔でご飯を咀嚼していた。
今までのライダーであれば、長身の妖艶な美女であっただけにそこまで狼狽する事もなかったのだが、現在のティーンエイジ前半頃の姿になってしまったライダーでは、青い果実の犯罪臭しかしない。
しかも、幼さの滲む容貌や背格好に反して、不釣り合いなほどに各所が発達しているアンバランスボディなのだ。
着込んだ黒のセーターの前面が異様な盛り上がりを見せる反面、ウエスト部は細くくびれ、かと思えば黒のデニムに包まれた腰回りは、豊かな丸みを帯びている。
その背徳的かつ倒錯的な色香を以て迫られれば、余人はおろか、鉄壁の良識を持った士郎であっても、前傾姿勢を飛び越えて野獣と化すに違いない。

「ごほっ、けほっ!? そ、そういう冗談はっ、やめてくれ。今のライダーが言うと、ちょっと……アレだし。げほっ」
「事実を言ったまでです……しかし、これはなんとかならなかったのでしょうか」

ライダーはくい、と人差し指で魔眼殺しの眼鏡のズレを直すと、その手をそのまま胸元へと降ろし、メロンサイズのそれを持ち上げた。
彼女としては、身長と一緒にそれも収縮して欲しかったらしい。ライダーの美意識の基準は、彼女のふたりの姉、神代の美少女アイドルのような立場であったゴルゴン三姉妹の長女『ステンノ』と次女『エウリュアレ』の容貌が基となっており、小ささと可愛らしさこそが女性の美の主幹であると考えている。
縮んだ身体に付随する、豊かに実ったふたつの果実は、あまりにもミスマッチである。ライダーにとっては、画竜点睛を欠く、といったところであろう。
この背丈の頃の彼女は、まだここまで女性らしさを帯びていなかった。胸部は平野ではなかったが、せいぜい台地くらいだった。間違っても、こんな山脈級ではありえない。

「あるいは、これも『天使の祝福』の効果なのかもしれませんね」
「そ、そうなのか? というか、そんなナナメ上の奇跡ってアリなのか?」
「記憶こそ受け継いでいますが、深層心理まで完全に受け継いでいる訳ではありません。という事は、ひょっとしてコンプレックスだったのでしょうか」

成長しない機械の肉体を持つ天使である。そういう事に憧れなり劣等感なりを持っていたとしても不自然ではないのかもしれない。
一応、外見相応の肢体ではあったのだが、そこはロボットとはいえ乙女だという事なのか。

「いずれにせよ、ここまでの余計な奇跡は流石に……少々」

遠慮したいところです、というライダーの言葉は、最後まで続かなかった。
傍らから差し込まれた、地獄の釜から滲み出たような呪詛の声によって遮られたからだ。

「ライダー……それ以上は、止めてちょうだい」

発信源は、ライダーの向かい側で浅漬けを咀嚼していた凛である。
表面は至って無表情。しかし、その内側で激しく渦を巻いている感情は、その底冷えするようなガラスの仮面を超えて滲み出していた。

「世の中にはね、誰を押しのけてでもアンタが言った余計な奇跡に縋りたいと願う人間だっているの。解るわね……この意味が」

凛の突き刺すような視線が、ライダーの山脈を穿つ。
『ゲイ・ボルク』にも似たその強烈な眼光は、ライダーをして心臓を貫かれたと錯覚させるほどであった。
じんわりと、背筋に冷や汗が滲む。ここで口答えなど、以ての外だ。
相手のプレッシャーは、英霊のそれと遜色ない。覇王もかくやと評すべきほどで、凄まじいの一言に尽きる。
一応、彼女の肢体は日本人としての年齢平均相応のものなので、実際にそこまで卑下する必要もないのだが、今のこの場においてそんな活火山に水爆を放り込むような評価コメントなど、言えるはずもない。
ましてや、血を分けた妹がアレなのである。互いに最も近しい遺伝子で肉体が構成されているはずなのに、あそこまでの決定的な格差があるという現実は、本人にとって身を捩らんばかりの屈辱であった。
改めて言うが、口答えなど以ての外だ。

「……失礼しました」

その一言だけが、ライダーに許された選択肢であった。
これにより、一応溜飲は下がったようで、ふん、と鼻を鳴らすと同時に凛のプレッシャーは、徐々に霧散していった。

「もういいわ。それよりも、わたしとしては、桜がライダーを呼び出してたっていうのがショックだったわよ」
「ご、ごめんなさい……姉さん」
「別に桜が謝る事じゃないわ……なんとなく、事情も解るから。納得はいかないけどね」

かりかりのベーコンエッグを箸で切り分けていた凛が、むっつりとした表情で言い捨てた。
食べ物と一緒に、苛立ちをも噛み締めているかのような苦い声だ。

「俺は、遠坂と桜が姉妹だったってのが衝撃だったよ。だから遠坂、いつも桜を気にかけてたのか」
「遠坂と間桐は、そういう間柄だったのよ。昨夜もちらっと言ったけど、十年と少し前に、魔術回路の枯れ果ててしまった間桐に、後継として桜が養子に行ったの。わたし達の父と、間桐の当主との約定に沿って、ね……ごめん、これ以上は聞かないで」

物に当たり散らしたくなってくるから。
そう言って、凛は追及を遮った。
耳を澄ますと、凛の握る箸がみしみし音を立てている。その意味に気づかぬほど、士郎は間抜けではない。

「慎二にマスター権を委譲してたのは」
「昨夜も言いましたけど……その、争いたくなかったので。兄さんは、むしろ乗り気でした」
「でしょうね。あの様子じゃあ……イカレ気味だったけど」
「あの……兄さんは、どうなったんでしょうか」
「ん」

ご飯を噛みながら、凛はTVを微妙に歪曲した箸で指し示した。
ブラウン管には、穂群原の生徒、職員及び関係者が運び込まれた病院が映し出され、リポーターがなにやらマイクに向かって言葉を捲し立てている。

「あそこに収容されたわ。監督役がどさくさ紛れに、まとめて放り込んだみたい。両腕と肋骨の骨折に全身裂傷、おまけに意識不明の重体よ」
「え……っ」
「回復の目途は立ってないそうよ。なにしろ重傷の上に、頭を強打したからね」

それを聞いた桜の表情が凍りついたが、凛は敢えてそれを無視した。
穂群原から始まった昨日の一連の戦闘において、最も手酷い痛手を被ったのは慎二であった。
ある意味、因果応報とも受け取れるが、それをこの場で口にするのは不謹慎だという事は、凛とて理解している。
場の空気を読む能力は、凛の処世術における基礎中の基礎である。

「……大丈夫だよな、あいつ」
「まだ死んでないんだから、見込みはあるでしょ。怒りと執念だけでロボットの首、素手で捻じ切ったヤツよ。しつこさとしぶとさは並大抵じゃないわ」
「言えていますね。あの手の人間は、化ければ強かですから」
「言うわね、ライダー。けどまあ、病院送りじゃどっちにしろアイツはこれで完全にリタイアね」

手負いのマスターを教会で保護しなくていいのかという疑問もないではないが、その辺りはきっちりと手を打っているはずである。
言峰綺礼の監督役としての腕には、凛もそこそこの信用を置いているのだ。
ちなみに、凛には慎二を治療する気は毛頭なく、その点は綺礼にも念を押している。
あくまで、通常の医療技術で手を施すようにと。それによって、回復に時間がかかろうが知った事ではない。
魔道に縋る事を振り切ったのなら、魔術に依らずに生き足掻くのもまた道理だろうと暗に皮肉っている。それが凛に出来る、せめてもの意趣返しであった。

「そう言えば、なし崩しに桜、こっちに連れてきたけど本当によかったのか? 家に戻らなくて」

噛んでいたベーコンを飲み下し、士郎は桜へ問いを投げる。
あの戦闘が終了した時、言うまでもなく、周囲は瓦礫とスクラップの山であった。
一昔前の夢の島も真っ青である。
人払いの魔術も切れており、いつ野次馬が出てきてもおかしくなかったので話し合いもそこそこに退散する事となったのだが、桜も一緒に、そのまま衛宮邸まで連れてきてしまったのだ。
特に反対もしなかったために、都合がよかったと言えばよかったものの、やはり意向くらいはきちんと確認しておくべきだったと、根が真面目な彼としては若干の申し訳なさもあったりする。
そんな士郎に対し、桜はゆっくりと首を横に振った。

「大丈夫です。むしろ、ここにいた方がいいと思います。兄さんもいませんし……お爺様も今は……」
「ん、お爺様って……」
「――――マキリ・ゾォルケンね」

士郎が口を挟みかけたその時、居間の戸が開いた。

「イリヤ」

入ってきたのは、傍にセラを伴ったイリヤスフィールであった。
今しがたまで寝ていたのであろう。寝癖などは解かされたのか見当たらないが、瞼が若干下がり気味になっている。
だが、常にセラとセットであるリーゼリットの姿はない。

「おはよう。リズは?」
「まだ就寝中です。リーゼリットは少々特殊なホムンクルスでして、一日におよそ十二時間の睡眠を必要とします。聖杯戦争が始まって以来、少々無理をし続けていましたので、強制的に眠らせています」
「十二時間……って、俺なら脳が腐ってるな」

士郎にしてみれば、リーゼリットの半分も眠れば十分すぎるほどに睡眠を取った事になる。
深夜の魔術の鍛錬で丑三つ時近くに就寝し、朝食の用意のために日も昇り切らぬ頃に目を覚ます。そんな生活をずっと続けてきた士郎にとっては、十二時間も寝るなど考えられない事である。

「寝不足みたいね、イリヤスフィール」
「仕方ないじゃない。昨日の新都は、まるでアニメーションの世界だったもの。ミニドラ達がうるさかったわ。シロウ達も一時、ロストしちゃうし。“タイムテレビ”が壊れたかって、焦っちゃった」
「極めつけは、あの穴です。まったく、何をどうすればあんな悪夢のような奇跡が……」

就寝時間が遅かったのと、異常事態を垣間見た事で神経が昂ぶっていた事が、三人に災いしたようだ。
二人が卓に着くと、桜が自然な動作でご飯と味噌汁をよそって差し出し、ベーコンエッグの乗った皿を眼前に並べていく。
その間に、イリヤスフィールは置かれていたコップに水差しから水を注いで、こくこくと乾した。

「ふぅ……おいし。それで、マキリがどうかしたの? もしかして、とうとうあの吸血鬼が死んじゃったとか?」

何気なく発された冗談が、刹那の間、ぴたりと桜の時を止めた。
皿を握る手が空中で一瞬制止し、やがて気を取り直したようにすっと滑らかな動作でイリヤスフィールの前に置かれる。
時として、人の所作は言葉よりも雄弁である。その一連の所作が示す意味を、イリヤスフィールは正確に察したのだった。

「え、ちょっと。ホント、それ?」
「……その……たぶん」
「たぶん?」
「証明する事も難しいですし……自分でも未だに信じられないから」

顔を伏せがちにして語る桜に、イリヤスフィールは一瞬だけ思案気な表情を浮かべるも、すぐさま決を下した。

「いいわ。話してちょうだい、サクラ。昨日は皆帰ってきたと同時に一斉にお開きだったから、他にも色々と詰めておきたいし……そう、色々と、ね」

状況の説明を促す。
サーヴァントの変移に巨大ロボット、聖杯に依るでもなく科学の力によって穿たれた『』へと至る穴と、今まで散々、既存の聖杯戦争の枠を超えた異常事態を目の当たりにしてきたのだ。
今更マキリの当主が鬼籍に入りましたと聞かされたところで、びくともしない。
それもあり得るかも、と得心するだけの下地は、既に十二分に出来上がっている。

「その、二日ほど前の事……なんですけど」

そうして、桜は語り始めた。
勿論、すべてではない。あそこには、秘匿すべき己の暗部もある。それを知られたくはない。
特に実姉と、想い人には尚更に。だからこそ、出来るだけ簡潔に告げるに留まる。
マキリ・ゾォルケン……間桐臓硯が、突如として現れた、見知らぬ輩によって存在を抹消された、その瞬間の出来事を。






「……む……ぅ……」

うっすらと朝日が差し込み始めた洋装の一室。
八畳間の、そこまで広くはない部屋のその角には、円形の小さな幾何学模様の陣が設営されている。
人一人がすっぽりと入れる程度の大きさで、その中央には、一人の男が片膝を立てて蹲っていた。

「……ふむ、朝か。まさか、ここまで深く寝入ってしまうとはな」

さながら、戦場で壁を枕に微睡む傭兵のような体を晒すその男は、顔を上げると気怠そうに白髪を掻き上げた。

「やはり、複数回に渡る令呪のブーストは、極度に消耗も強いるという事か。まあ、あれはドーピングにも近い行為だからな。そういった意味では、令呪も万能とは言えん」

座したまま、ぐりぐりと手首や関節を動かし、揉み解すように身体の状態をチェックする。
令呪によって何度も流し込まれた過剰な魔力に加え、アイアスの盾を使用して半ばまで破壊された反動もある。
凛が用意したこの簡素な魔法陣は、即座に全快に至るまでの効能こそないが、霊的な回復力を促進するものであるので、英霊自前の回復力があれば数時間で全快まで持っていける。
加えて、直接傷を負わなかった事も大きい。なんだかんだと目まぐるしかったあの戦いだが、驚く事に間桐慎二以外に、まともな負傷者は出ていないのだ。
万を超える軍隊の強襲と、空襲さながらの大爆撃を考えれば、奇跡どころの話ではない損耗のなさである。

「支障は……ないな。急ごしらえの陣だと言っていたが、なかなかどうして。流石は凛だな」

片腕を天へと突き上げ、僅かに伸びをすると、アーチャーは身体を起こして立ち上がった。
そして、徐に周囲へと首を巡らせる。

「……凛は朝食か。小僧や桜、ライダーにイリヤスフィール主従もいるな。いないのは……少年と少女、リーゼリットに……セイバー、か」

気配を読むなど、鷹を彷彿とさせるこの男にとっては造作もない事だ。
遠距離からの狙撃を生命線とする弓兵には、そういったスキルも要求される。
アイスピックのように鋭く磨かれた感覚は、決して嘘をつかないし、また欺瞞を見抜けぬ事などない。
ちなみに、不寝番として完徹の見張りを行っていたミニドラ三体も、現在見張り部屋で轟沈している。

「しかし、少年少女とリーゼリットはともかく、セイバーまでいまだ夢の中とは。そこまで寝汚いとは思えんのだが、もしや不貞寝かね」

自分で言い放った軽口に、アーチャーはつい苦笑してしまう。
あのセイバーが、いったい何に不貞腐れるというのだろうか。

「いや、というよりは」

不貞腐れるというよりも、むしろ消えては浮かぶ疑問と猜疑に苛まれていると言うところだろう。
なんとなく、そんな気がしてイメージがすんなりと脳裏に浮かび上がってくる。
それで知恵熱でも起こしたのかもしれんな。
そんな埒もない事を考え、アーチャーは再びの苦笑を浮かべた。

「……互いに間違った望みを後生大事に抱き、鬱屈したものを消化出来んか。まったく、笑うに笑えん奇縁だな。時流の果てに、ここまで似通ってしまうとは」

立ち位置の違いこそあるが、とそこまで言ったところで、アーチャーの顔から笑みが徐々に薄れていった。

「丁度いい、と言うべきかな。心苦しく思うが、少年自身が言いだした真理だ。皆がいるのに共に食さぬ朝食など、たしかに味気ないものだからな」

とってつけたような余韻を残して、アーチャーは出口へと向かう。
その脳裏に思い描いていたのは、のび太の腕の中で消えた機械の天使の姿であった。

「その手で、機械の星の歴史を塗りつぶして消えた女……か。ふん、“俺”にとっては皮肉でしかないな」

普段の彼らしくもない、擦れた物言いが虚空に消える。
その背中は、かつて不条理に己の持つすべてを失わざるを得なかった、世捨て人のようでもあった。

「世界の法理は、絶対の真理ではないのかもしれん。世界の数だけ存在し、決して一元的なものではないのかもしれん。だが、それでも万に一つの可能性に縋りたいと思うのは……くく。やはり、堕ちるところまで堕ちたものだな」

――――セイギノミカタも。

その言葉は、口中から漏れずにそのままアーチャーの内心に仕舞われた。
聖杯戦争にかける彼の本来の目的に、思いもよらぬところから追い風が吹いた。それが、一旦は押さえていた彼の妄執を刺激した。誘惑、と言ってもいいかもしれない。
機械の天使、ひいてはマレビトの過去が齎した可能性は、それだけの魅力を振り撒くものだったのだ。
そして、赤い姿は陽炎のように消え失せる。
風の流動にも近い気配の消失のみが、彼の退室を示していた。

「君も、マレビトの抱く可能性に縋って、堕ちるところまで堕ちるつもりかね……セイバーよ」

虚空に溶けたその呟きには、同じ穴の貉(むじな)を憂う響きだけがあった。






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