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No.28951の一覧
[0] ドラえもん のび太の聖杯戦争奮闘記 (Fate/stay night×ドラえもん)[青空の木陰](2016/07/16 01:09)
[1] のび太ステータス+α ※ネタバレ注意!![青空の木陰](2016/12/11 16:37)
[2] 第一話[青空の木陰](2014/09/29 01:16)
[3] 第二話[青空の木陰](2014/09/29 01:18)
[4] 第三話[青空の木陰](2014/09/29 01:28)
[5] 第四話[青空の木陰](2014/09/29 01:46)
[6] 第五話[青空の木陰](2014/09/29 01:54)
[7] 第六話[青空の木陰](2014/09/29 14:45)
[8] 第六話 (another ver.)[青空の木陰](2014/09/29 14:45)
[9] 第七話[青空の木陰](2014/09/29 15:02)
[10] 第八話[青空の木陰](2014/09/29 15:29)
[11] 第九話[青空の木陰](2014/09/29 15:19)
[12] 第十話[青空の木陰](2014/09/29 15:43)
[14] 第十一話[青空の木陰](2015/02/13 16:27)
[15] 第十二話[青空の木陰](2015/02/13 16:28)
[16] 第十三話[青空の木陰](2015/02/13 16:30)
[17] 第十四話[青空の木陰](2015/02/13 16:31)
[18] 閑話1[青空の木陰](2015/02/13 16:32)
[19] 第十五話[青空の木陰](2015/02/13 16:33)
[20] 第十六話[青空の木陰](2016/01/31 00:24)
[21] 第十七話[青空の木陰](2016/01/31 00:34)
[22] 第十八話 ※キャラ崩壊があります、注意!![青空の木陰](2016/01/31 00:33)
[23] 第十九話[青空の木陰](2011/10/02 17:07)
[24] 第二十話[青空の木陰](2011/10/11 00:01)
[25] 第二十一話 (Aパート)[青空の木陰](2012/03/31 12:16)
[26] 第二十一話 (Bパート)[青空の木陰](2012/03/31 12:49)
[27] 第二十二話[青空の木陰](2011/11/13 22:34)
[28] 第二十三話[青空の木陰](2011/11/27 00:00)
[29] 第二十四話[青空の木陰](2011/12/31 00:48)
[30] 第二十五話[青空の木陰](2012/01/01 02:02)
[31] 第二十六話[青空の木陰](2012/01/23 01:30)
[32] 第二十七話[青空の木陰](2012/02/20 02:00)
[33] 第二十八話[青空の木陰](2012/03/31 23:51)
[34] 第二十九話[青空の木陰](2012/04/26 01:45)
[35] 第三十話[青空の木陰](2012/05/31 11:51)
[36] 第三十一話[青空の木陰](2012/06/21 21:08)
[37] 第三十二話[青空の木陰](2012/09/02 00:30)
[38] 第三十三話[青空の木陰](2012/09/23 00:46)
[39] 第三十四話[青空の木陰](2012/10/30 12:07)
[40] 第三十五話[青空の木陰](2012/12/10 00:52)
[41] 第三十六話[青空の木陰](2013/01/01 18:56)
[42] 第三十七話[青空の木陰](2013/02/18 17:05)
[43] 第三十八話[青空の木陰](2013/03/01 20:00)
[44] 第三十九話[青空の木陰](2013/04/13 11:48)
[45] 第四十話[青空の木陰](2013/05/22 20:15)
[46] 閑話2[青空の木陰](2013/06/08 00:15)
[47] 第四十一話[青空の木陰](2013/07/12 21:15)
[48] 第四十二話[青空の木陰](2013/08/11 00:05)
[49] 第四十三話[青空の木陰](2013/09/13 18:35)
[50] 第四十四話[青空の木陰](2013/10/18 22:35)
[51] 第四十五話[青空の木陰](2013/11/30 14:02)
[52] 第四十六話[青空の木陰](2014/02/23 13:34)
[53] 第四十七話[青空の木陰](2014/03/21 00:28)
[54] 第四十八話[青空の木陰](2014/04/26 00:37)
[55] 第四十九話[青空の木陰](2014/05/28 00:04)
[56] 第五十話[青空の木陰](2014/06/07 21:21)
[57] 第五十一話[青空の木陰](2016/01/16 19:49)
[58] 第五十二話[青空の木陰](2016/03/13 15:11)
[59] 第五十三話[青空の木陰](2016/06/05 00:01)
[60] 第五十四話[青空の木陰](2016/07/16 01:08)
[61] 第五十五話[青空の木陰](2016/10/01 00:10)
[62] 第五十六話[青空の木陰](2016/12/11 16:33)
[63] 第五十七話[青空の木陰](2017/02/20 00:19)
[64] 第五十八話[青空の木陰](2017/06/04 00:03)
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[28951] 第三十九話
Name: 青空の木陰◆c9254621 ID:90f856d7 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/04/13 11:48




なぜ、自分はこんなところにいるのだろう、と。
低く唸りを上げる機械音の満ちるコクピットの中で、彼女は不意に思った。
気がつけば、消滅したはずの己の身体があり、目の前にあの少年がいた。
嬉しくなかったはずがない。
憎からず想っていた存在との再会に、心躍らぬ道理などないのだから。

「…………ッ」

だが、彼女の表情に喜色は浮かばない。
倒すべき敵としての再会に、喜びを示す道理などないのだから。

『ち、合流を許したか。流石にやるものよ』

彼女の宝具であり、そして支配者でもある黄金の個体の声が響く。
本来、彼女が使役するはずの存在であるにも拘らず、逆に彼女を使役する存在となっている。
どうしてそうなっているのか。
それは、彼女自身が持つ因果と、彼女の元となった存在が持つ物の因果が重なり合ったからだ。
その実、彼女の存在は、幾多の因果に絡め取られている。

「どうしてこんな……『服従回路』なんて、ものが……」

左側頭部に当てられた手が、小刻みに震えている。
彼女の身体には、『強制命令権』を所有する者からのコマンドを受諾する『服従回路』が埋め込まれている。
『強制命令権』を持つ者は、かつて彼女の上官であった、黄金の指揮官。
自我こそ剥奪されないものの、その個体の命令にだけは従う事を強いられてしまう。
抵抗は無意味。コマンドを重ね掛けされれば、抗う力を根こそぎ奪い取られる。
言わば、『我に従え』という令呪の縛りを、何重にも掛け続けられるに等しいのだ。
鋼鉄の縛鎖は、彼女の全身を絡め取り、馬車馬の如く諾々と動く事のみを許容する。

「く……ぅ」

爪が喰い込むほど強く、両手で頭を抱え込む。
縛りつける物を、振り解こうとするかのように。
マフーガと同じく、サーヴァントの変異体である彼女にも、エーテルを介して元となった者の影響を受ける。
狂戦士の変異体であったマフーガは、器であるクラスに付随するスキル『狂化』と、『ヘラクレス』の象徴である宝具、『十二の試練(ゴッド・ハンド)』を継承していた。
そして彼女の場合、前者は同様だが、後者が違う。
『メドゥーサ』と共通する宝具を、彼女は何一つ所有していない。
しかし、騎乗兵(ライダー)というクラスは宝具の威力が物を言う。なまじ強力である分、たとえ共通項がなかろうが因果も僅かに強くなる。
彼女に与えられた因果は、『騎英の手綱(ベルレフォーン)』。
使役者を強制的に支配下に置き、真価を発揮させるという宝具の因果が捻じれて反映され、『服従回路』と『強制命令権』というスキルへと変質した。
主従関係の逆転現象は、こうした裏事情から齎された。

『――――ほう、風のバリアとは。殻に籠ったか。時間稼ぎのつもり……む、ちっ。三名とも回収されたか。ふん、小賢しいな。まあいい』

が、この因果はさらにもうひとつ、余計な『爆弾』をセットでプレゼントしてくれた。
発動条件こそ厳しいものの、発動したが最後、己の命運は完全に尽きる。
もはやここまで来ると異常因果としか言い様のない、死に誘う、悪魔の契約に等しいスキルが彼女の奥深くに根差していた。

『すべてはまだ想定の範囲内だが、さて……』

改めて、思う。
なぜ、自分はこんなところにいるのだろう、と。
原因は、判然としない。だが、目的は解る。

「……いや……だ……」

彼と闘い、彼とその仲間を抹殺する。
それが、この場における彼女の存在理由であり、彼女のやるべき事だ。

「そんなの、いや……!」

コクピット内の集音機でも拾えないほどの、か細い声。
それが、彼女の心のすべてだった。
しかし、逆らえない。抗えない。
自らの背負う業は、意思で跳ね返せるような生易しい物では決してない。
掻き毟るほどの葛藤が、彼女の心を苛む。
モニターに映るロボットを見る度に、己の手が握るコントロールレバーの感触を意識する度に、見えない傷が幾重にも刻まれてゆく。
機械の身体に流れるはずのない、夥しい紅い血潮が彼女の心を悲嘆と絶望に染め上げる。
しかし。

「……けど、だけど」

それでも、ひとつだけ。
たったひとつだけ、彼女は『望み』を抱いていた。
『やるべき事』ではない。押しつけられた役目ではなく、己の意思で『成し遂げたい』と思う事。
それだけが、彼女の心の中に残った、たったひとつの希望であり、光明。
憂いに満ちたガラスの瞳に、微かな輝きが見え隠れしていた。

「見ていて……」

左胸、人間でいう心臓に当たる部分を、そっと押さえる。
無機質の回路と、循環するオイルしか存在しないはずのそこを、まるで儚く、尊い物を扱うように。

「――――“あなた”の願いを、無に帰させはしない」

胸中に抱いた、彼女の望み。

「諦めないから、諦めたくないから」

命令で身体は縛れても、心は決して縛れない。
諦念に覆われた表情に、決然としたものが宿る。
噛みしめられた唇が、声には足りない心を顕す。

「わたしがここにいる理由は、戦うためなんかじゃ、ない。のび太くんと、あなたと出会うため……それが、すべて」

その願いは、奇跡とも呼ばれるほどに難題で、そして純粋なものだった。

『――――命ずる』

機械の心に炎が宿りかけたその時、雪崩のような苦悩が襲い掛かってくる。
指揮官級の言葉は、その実、極限まで研ぎ澄まされた氷のナイフにも等しい。

「……ッ!」

しかし、彼女は歯を食い縛って、その凍てつくような命令を受領する。
言葉の刃で斬られても、絶対零度の絶望に苛まれても。
一度火のついた灯火は、そう容易く消えはしなかった。
耐えるかのように目を閉じて、心を切り裂くコマンドを待つ。

『ジュドを以て、撃ち貫け』

ぎしり、と鈍い音が口内から発せられた。
『ザンダクロス(ジュド)』の武装を、さらに解放しろというお達しだ。
彼女はロボット。魔術師とは違った意味で、常とは隔絶した存在である。
その典型として、彼女は魔力を保持していない。
サーヴァントのクラス枠とエーテルで構成されているにも拘らず、彼女には魔力を司る機構が一切存在していないのだ。
ゆえに、この機械仕掛けの身体では、魔力を操る事が出来ない。騎乗兵のクラススキルである『対魔力』も、その弊害で事実上失われている。
しかし、だからこそ、Aランクを超える三つの宝具を同時使用しても、なんらの負荷も悪影響もない。
魔力に依らないがために、魔術的制約を無視出来るのである。
これほど魔術師の常識を外れる存在も、そうそうないだろう。

「……ぅ、っく!」

戦慄く指先が、コントロールレバーのスイッチに掛かる。
モニターに映るのび太を見るその瞳は、縋るようにも、祈るようにも見える。
心は戦いを忌避するが、身体は戦闘へと赴く。
ベクトルが正反対の方向へとひた走る心と身体は、彼女に多大な消耗を強いる。
内部機関が熱を持ち、放熱処理が追いつかない。
オーバーヒートしそうな葛藤とは別に、彼にまた辛い思いをさせてしまうだろう事への申し訳なさが、津波のように去来していた。

(今、ここにいるわたしは……結局は、仮初の存在。のび太くんの心と記憶から形作られた、幻影。……でも、のび太くん優しいから)

己の望みを聞けば、きっと涙を流すだろう。
他人の痛みを自分の事のように感じてしまう、芯の真っ直ぐな彼ならば。
しかし、願いの成就には、のび太は欠かす事の出来ないファクターなのだ。
戦いたくない、傷つけたくない。けれど、そこから逃げる事は許されない。
逃げてはいけないのだ。己のためにも、“彼女”のためにも。
そして……おそらくは、彼にとっても。

(ごめんなさい……けど、だから……!)

呪縛を振り切るチャンスは、きっと来る。
『強制命令権』も、絶対の存在ではない。針の穴ほどの物ではあるが、抜け道が存在する。
部下の命令に、主を無理矢理従えさせるとはいえ、本来の主従関係までをも覆すものではないのだ。
ゆえに、完全無欠でなく、不完全。縛れる代わりに、条件がある。
そこを突けるかどうかは、向こうの出方とこちらの運次第。
すべては綱渡りどころか、ガラスのロープを伝うような、保証も予定調和もない、伸るか反るかの完全な運否天賦(うんぷてんぷ)。
己の命運をすべて、自ら追い詰める敵の行動に賭けなければならない。
手前勝手に、重荷を預けてしまうその事に、多大な申し訳なさを感じるが、それでも、と思う他はなく、またそう思わずにはいられなかった。
無数対四人という、あんなに絶望的な状況でも、決して諦める事のなかった彼ならば。
奇跡も、手繰り寄せられる。
絶対に大丈夫。そう信じて。

「――――――頑張って!」

焦燥、苦悩、希望、慚愧。
明暗分かたれた感情全てが、混じり合うまま渦を巻く。
咽喉の奥から絞り出すような、あまりにも儚い祈りの言葉。
心の慟哭と共に、彼女の指先はスイッチを押し込んだ。





『“地球はかいばくだん”!?』

都合、四人による一斉唱和が、バリアのドーム内に響き渡った。
アメ細工のミニチュアを持ち上げるように、そうっとブツを抱えたのび太の手。そこに視線が集中する。
その質は、様々だ。
疑惑、困惑、警戒、驚愕、畏怖。
共通しているのは、およそプラス方面の評価はない、という点である。
そして、皆一様に物言わぬ彫像と化してしまっていた。

「あ、あの……もしもし?」

四人に対し、のび太がおずおずと話しかける。

「……ん、む。すまん。正直に言って、予想外だった」

一番早く復調したのは、アーチャーであった。
常の平静な表情で謝罪の言葉を口にする彼だが、よく見ると唇の端が小刻みに震えている。
その内側では、いまだ狂乱の嵐が吹き荒れているのだろう。

「まさか、これ本当に……?」

次いで復活したのは士郎。
しかし、『本当に』から先を告げられない。
言ってしまえば、なにかが終わってしまう。そう示さんばかりの言外の叫びだった。

「あ、その……えっと……“○×占い”、使います?」
「…………」

刹那の葛藤に、士郎は内心で身を捩って悶える。
怖い、だが確かめずにはいられない。確かめない方がもっと怖い。
なにしろペイントされているマークがマーク。しかも、色々と折り紙つきの、理不尽な未来のひみつ道具なのである。
今までのび太が持ち出してきたひみつ道具は、程度や力の多寡こそあれ、ほとんどが名前通りの効力を発揮してきた。
つまり、今のび太が抱えているブツも、額面相応の力を秘めていると考えていい。
実に至りたくなかった結論。だが、これで問題を解決出来るのならば、自分の良識と常識など、粉微塵になっても構わない。
構わない、のだが……しかし、腹は括らねばならなかった。

「……うん」

懊悩、苦悶、逡巡。そして首肯。
崖から転がり落ちる岩のように、士郎の頭が下方へ振られた。
そして。



「あ、やっぱり“○”だった」
「「あああああああああああああっ!?」」



ファンファーレと共に宙に浮く○印を頭上に、ジーザスとばかりに慟哭する二人の男の姿があった。
命題は、『これは地球を木っ端微塵に破壊出来る』というもの。
原爆よりも水爆よりも小型で、しかもそれらより破壊力が段違いのそれが、今目の前の平凡な少年の手に抱えられている。
まさしく核爆弾級の衝撃と同時に、つくづくここが『鏡面世界』でよかったと思う二人であった。
こんなものが現実世界で解き放たれようとしたら、表裏問わずいろんなヤツラの標的になっていた事だろう。

「な、なんというものを……」

絶叫で硬直の解けたセイバーの、亡者のような苦い声が、その尋常でない驚愕の度合いを如実に表していた。
表情がややムンクの『叫び』っぽくなっているが、さもあろう。
英霊は、聖杯を通じて現代の知識も持ち合わせている。
地球が丸く、太陽の周りを公転している事も、現代の最終兵器である核弾頭の存在も、とりあえず把握していた。
いかに神造兵装の『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』といえども、星までは切り裂けない。
“地球はかいばくだん”に比べれば、それこそ爪楊枝(つまようじ)みたいなものである。
魔力次第で連続使用出来るというアドバンテージこそあるが、どちらにしても、そうぽんぽん連発などしてもらいたくない。

「ふ……ふふふ……うふふふふ……」

そして最後の一人。
微動だにしなかった凛の口から、いつの間にか笑い声が漏れ出していた。
底冷えするようなものを感じて、のび太がぎくりと反応する。
壊れた人形の如く、いまだ地に座す慎二同様、頬から上は掛かる前髪に隠れて見えない。
よく見ると、なにやら背中の辺りから真っ黒いものがじわじわと立ち上っている。

「あの、凛さ、んぅぐ!?」

のび太の言葉は、最後まで続かなかった。
言い終わる前に、凛がのび太の胸倉を諸手で掴み上げていたからだ。
不意の衝撃に、のび太の目がぎょっと見開かれる。

「ごめん、先に謝っとくわ。でも、もうダメ。限界。アンタのところは平行世界だから、多少の常識の差異があるのは、なんとか納得出来る。ロボットだのひみつ道具だのも、腹が立つけど、どうにか許容範囲。けどね、これはね。流石にね。もう感情を無理に抑制しなくてもいいと思うのよ……」

目元が隠れたまま、額をぶつけ合わせんばかりに顔を近づける。
締め上げる腕は微細に震え、隠そうとしても隠しきれない感情の昂ぶりを示す。
もう数cmでも前方に寄せれば、唇同士が触れ合いそうな距離である。
ただし、空気は火山の噴火さながら。甘い雰囲気など欠片もない。
のび太の眼鏡に、静かに罅が入りそうな気勢であった。
士郎も、セイバーもアーチャーも、地獄の責め苦にも似た鬼気迫るオーラに気圧され、足が釘付けにされている。

「どのみちアンタに言っても仕方がないのは解ってる。この感情が、明らかに筋違いなのも。でもね、何事にも限度ってものがあるの。アンタにもあるでしょ、自分のいっぱいいっぱいのラインって。わたしの場合が今まさにそれ。これまで常識とか、価値観とか、いろいろ耐えて頑張ってきたけど今回ばかりは無理。だからね……」

すぅ、と大きく息を吸い込む音。勢いに煽られ、隠れていた凛の表情が露わになる。
のび太の眼前には。

「――――のぉびぃ太ぁあああああああああ」
「ひっ、ひゃい!?」

般若の面でも縫い付けたかのような、凛の凄まじい形相が展開されていた。



「アンタんとこの世界はいったいどうなってんのよ!? こんなアラヤも心臓発作のシロモノがホイホイ出回ってる二十二世紀ってなに!? あと百年もしたらわたし達の未来もこうなるってぇの!? 冗談じゃないわよ、そんな二十二世紀願い下げよ! ねえ、いくら!? ひみつ道具ってひと山いくらよ!? 宝石がいったい、いくつ買えるのかしら!? 言ってみなさいよ! ほらほら!」



一呼吸でありったけの言葉をぶつけていく凛。
しかし、言っている事が滅茶苦茶である。
鬱憤がそれだけ溜まっていたという事なのだろうが、どのみちのび太にとっては八つ当たり以外の何物でもない。
根が素直なのび太は、目を白黒させながらもつっかえつっかえ、だが火事場にナパームを放り込むような事実をつい、口走ってしまった。

「あぅ、あ、そ、の、ど、ドラえもんが、とっ、時々、未来デパートからっ、お、お小遣いでっ」
「ぁあん、デパートぉ!? デパートってなによ!? そんなモン、デパートでもなんでもないわよ! デパートという名のテロ組織かなんかよ! シ○ッカーみたいな! しかもお小遣いだぁ!? 価格と一緒にこっちの常識まで破壊するんじゃないってぇーの! どっかの拳の世紀末じゃあるまいし、そんな無法地帯認めてたまるかぁああああーーーーっ!」

ごりごりと額に額を押しつけ、目を剥いて牙を突き立てんばかりに締め上げる。
このメンツにおいて、最も己の良識を堅持する傾向が強いのが彼女である。
それはつまり、心の許容量が最も少ないという事。
誤解を恐れず言ってしまえば、器が小さいのである。
だが、彼女を責めてはいけない。
彼女は一流魔術師だが、魔術師としては心根等が色々と甘い。ゆえに、まだ保った方なのだ。
倫敦(ロンドン)辺りに棲息する生粋の魔術至上主義者など、とうの昔に逆上するか、あるいは発狂していてもおかしくはない。
どこぞの二十七祖だって、少なくとも内心穏やかでいられる者はないはずだ。

「……遠坂、藤ねえそっくりだな」
「元の気性が似通っているのだろうよ。己のルールを自己にも他者にも適用しようとするところ等がな」
「たしか、トラとネコは同科でしたね……」

あまりの剣幕に呆気にとられた残りのメンツは、二人を遠巻きにしつつ、どうでもいい事を口にする。
フー子は障壁の維持に意識を傾けているようで、特にこれといった反応を示していない。
しかし流石に雰囲気だけは感じ取っているようで、怯えたようにびくびく肩を震わせている。

「り、凛さん、痛い! 頭、あたま……っ!」
「ああ!? 痛いですってぇ!? 痛いのはこっちの頭とハートよ! いーや、痛みなんてモンじゃないわ! あれは心の凌辱よ、レイプよDVよ! 無垢な乙女の尊厳を踏みにじったその罪は、マリアナ海溝より深いのよ! その辺、理解してんのかこのスカタン頭は! ええっ!? だいたい、あんなハルマゲドンいつ使うっていうのよ!?」
「ま、前にドラえもんが、ネ、ズミが一匹、いたか、らって……く、苦しっ」
「ネズミ一匹が地球より重いってかぁああああああーーーーっ!?」

もはや、山姥に喰われそうになっている小僧さんそのものである。
小学生に対して不適切な単語が矢継ぎ早に出てくる辺り、そろそろ消火せねばならない。
またこのパターンかよ、と呆れと諦念を交えて視線を合わせ、三枚のお札が起動した。

「凛、そこまでにしろ。気持ちは、痛いほど理解出来るが」
「それ以上は流石にやり過ぎです。気持ちは、身につまされるほど理解出来ますが」
「もう猶予は少ないんだ。気持ちは、気が狂うほど理解出来るけど」

いろいろとひどかった。



――――その、次の瞬間だった。



「フ!?」
「きゃ!?」
「ぬあ!? な、なんだよこの光は!?」
「く、あの巨大ロボットからか!?」

突如、ビルの向こうがチカッと光ったかと思うと、同時に直径三メートルはあろうかというビームが、風のドームに直撃したのだ。
今までとは違う、零距離で打ち込まれたパイルバンカーのような強烈な圧力に、フー子の表情が苦悶に歪む。
冬木大橋からの、大出力の大型レーザー砲による砲撃。
周囲に群れていた兵士達の姿はない。巻き添えを食わないよう、のび太達のドタバタに乗じていつの間にやら後退し、遠巻きにのび太達を包囲している。
『ザンダクロス(ジュド)』の標準兵装であり、全武装中、最も貫通能力に長けたこの一撃には、鉄壁を誇った風の障壁も悲鳴を上げた。

「ううっ……!」
「フー子!」

拮抗も束の間。
威力に圧されて、風のドームが直径を狭めたかと思うと同時、ついに均衡が破られる。
内部まで侵食こそされなかったが、代わりに限界を迎えた障壁は、耳を劈く破裂音を伴って消滅した。

「きゃあっ!?」
「うわぁっ!」
『今だ、かかれいっ!』

各員が、遠く、散り散りに吹き飛ばされる。
それと同時に、黄金の指揮官が一斉突撃の号令を下した。

「ちっ……させん!」
「『風王鉄槌(ストライク・エア)』!」

英霊二人は、流石に落ち着いていた。
着地後、素早く体勢を立て直すと、手近にいた兵士ロボットを己の獲物でガラクタにする。
弓兵は、二刀一対の双剣で鉄の首を次々と両断。
剣士は、不可視の剣から風のハンマーを円状に発生させ、群がる周囲のロボットを一気に吹き飛ばした。
そのまま、打ち寄せる鋼の波を切り分けるように疾駆。それぞれ味方と合流を目指す。

「フー子、大丈夫!?」
「……フゥ」

のび太の腕の中で、ぷるぷる首を振って気付けをするフー子。
特に傷らしい傷も負っていないので、問題はないようだ。
傍らに鎮座している“地球はかいばくだん”も、衝撃で暴発する事もなく健在である。
二人とも、吹っ飛ばされた位置がよかったお陰で、他と比べてロボットの進行度合いが遅い。
狭く浅い、すり鉢状に抉れた地面に、周囲が建物の残骸や、破壊されたロボットのパーツのバリケードで覆われている。
人工物の塹壕であり、のび太達はそこに運よく、まとめて放り出されたのだ。
時折、上空から飛んでくる個体もいたが、そこはそれ。
接近前に、のび太が“ショックガン”できっちりと撃ち落としていた。
撃破した獲物は墜落し、そのままバリケードの肥しとなる。このサイクルが、先程から延々と繰り返されていた。

「な……なな……」

そして、この塹壕にはのび太とフー子以外に、もうひとりいた。
胸元を押さえ、全力疾走した後のような荒い呼吸を繰り返す。
目じりにはうっすらと輝く物が浮かび、肩をわなわなと震えているその人物。

「なにをしてくれてんのよぉおおおおおおっ!! アンタらわぁあああああああああっ!?」
「うひゃあっ、凛さん!?」
「フ!?」

怒声とも、奇声とも取れぬ大音声を発しながら、バリケードから顔を出した凛は、辺り構わず、ガトリング砲さながらにガンドを撒き散らす。
普通ならば、牽制程度にしかならないはずのそれは、たったの一撃で、兵士ロボットの鋼鉄の胸板を貫通していた。
しかも、それが両手撃ちである。徹甲弾に複数回射抜かれたロボットは、さながら熊に壊された蜂の巣のよう。
凛の、差し出された腕の魔術刻印が、常とは違う、異常に強く妖しい輝きを放っている。
業火の如き怒りによる、魔術回路の過剰運転(オーバーロード)。
その、逆上にも等しい憤怒の原因は。

「ここにあるのがなにかアンタら解ってんのかぁああああああっ!? なに、なんなの、バカなの、死ぬの!? ええっ!? 死ぬんだったらアンタ達だけで逝きなさいよ! 危うく寿命が縮むどころか、エンドロールで終幕を迎えるところだったでしょうがぁああああああああああっ!!」

のび太の傍に転がるブツにあった。
人間が簡単に宙を舞うほどの衝撃だ。普通だったら、誤作動で起爆していてもおかしくはない。
なにしろ、取り出す際に一度、地面にしたたか落っことしているのだ。
そのペケもあって、暴発のリスクは必然、高められていた。
爆発物処理班も卒倒モノである。
さまざまな意味での涙が滲むのも、当然であった。

『ぬぅ、怯むな!』

狂乱の弾幕に負けじとばかり、ビルの屋上から檄が飛ぶ。
戦場の争点が、塹壕を基点とした防衛戦へと移行し始めていた。





「この!」

光線が飛び、空間を薙いで一直線にクリティカルヒット。
兵士ロボットが煙を噴き上げ、紫電と共に倒れ伏す。
しかし、百が九十九になったところで、多勢に無勢は変わらない。
進軍する機械歩兵は、たとえ何体屠られようが動揺も狼狽も露わにせず、粛々と指揮官の命に従うのみ。
『お荷物』を抱えた今の状態は、足枷を付けられたまま脱獄を図る囚人に近かった。

「慎二……く、ダメか!」

悪態を吐くは、衛宮士郎。
『お荷物』の名は、間桐慎二。
のび太達とは違い、二人がセットで吹き飛ばされた先は、機械歩兵のアリ地獄だった。
水面の波紋を逆再生するかのように周囲をびっしりと取り囲まれ、文字通り、蟻の這い出る隙間もない。
抵抗を試みるのは、士郎だけ。
ガス欠寸前の“空気砲”から“ショックガン”に切り替え、鉄の波を突き崩そうとするが、焼け石に水どころか雪山に熱湯という有様であった。
令呪を使う暇もない。
セイバーを強制的に転移させる間に、殺人光線が二桁は確実に飛んでくる。
おまけに。

「…………」

慎二は、いまだ弛緩状態。
ずるりと地面にへたり込み、顔を真下に落としたままだ。
士郎が引きずるようにして無理矢理動かしているが、なまじ人間である分、バーベルを担いでいく方がまだいくらかマシといった塩梅であった。
このまま慎二を放り出して、自分だけで行くなど選択肢にすら上がらない。
そうするぐらいなら、最初から慎二を助けたりはしなかった。
弓兵ならば、根元まで吸いきった煙草のようにあっさりと捨て置いただろうが、士郎は進んでこの重荷を背負っていた。

『……ふん、なんとも甘い事だ』
「う!?」

と、鉄の波の渦中から指揮官級の声が響く。
平坦な物言いの中に、嘲笑が混じっている。
僅かに慎二の肩が反応し、士郎は右手の“ショックガン”を声のした方へと構える。

『その愚か者を庇いながら、我々を切り抜けようなどと』
「ッ、なに!?」

ギョッ、と士郎の目が見開かれる。
明らかに今の声はおかしかった。
今の声は指揮官級の物。それは間違いない。聞き間違える事などあり得ない。
では何がおかしかったのかというと、声のした方向である。
その声は、構えた士郎の『背中側』から響いてきたのだ。

『実に労力の無駄だ。使い捨ての盾程度にはなるかもしれんが、それにすらしないとは。まったく、不合理な存在だ』
「くっ!?」

今度は頭上。しかし、上を向く余裕はない。
いったいどうなってるんだ、と混乱しかけたところで、頭の中で指揮官級の言葉が甦った。


――――我々は、すべての存在とリンクしておる。お前とて、インターネットの原理は知っていよう。それと同じ。我々にとって、ボディとは突き詰めて言えば単なる『端末』にすぎん。


つまりは、そういう事だった。
ただ、同一の自我を保持した指揮官級が三機、ここに参上しただけの話。
同一人物が同時に三人も同じ現場に居合わせる。
普通ならドッペルゲンガーかクローン人間といった、B級ホラーばりのぞっとしない結論に至るが、ロボットにその常識は通用しない。
ハードとソフトさえあれば、コピーなどあっさり作り上げられる。

『逃しはせん。英霊やノビ・ノビタに比べれば、貴様らなどさほどの脅威ではないが』
『好機を逸す理由にはならん。敵である以上、確実に殲滅する』
『たとえ、取るに足らん愚物であろうとも、な』
「ええい、くそ!」

輪を縮める鉄に対し、士郎はまず上空にいる指揮官級を狙い撃ちする。
地上にいて、兵士級の陰に隠れている個体とは違い、姿を完全に晒しているからだ。
とはいえ、兵士級と指揮官級のスペックは、当然ながら後者の方が上。黄金色は、伊達ではない。
ひらり、ひらりと三発目まで回避されたが、幸運な事に四発目でどうにか撃墜する。
しかし、地上に追突する金属音が響く前に、包囲網はじわじわと、さらに縮まっていく。

『無駄な事を』
『我々をどれだけ破壊しようと、代わりはいくらでもいる』

覆しようのない、厳然たる事実が耳朶を打つ。
解ってはいたが、改めて指摘される事ほど痛烈なものもない。
しかも、事の元凶からの直言だ。ライフル弾で鳩尾を抉られるに等しい。

「ぐ……!」

唇を噛みしめ、それでも士郎は抵抗を諦めない。
当たるを幸い撃ちまくり、近づく敵を片っ端からスクラップにする。
その傍らで、爆風でめくり上げられたアスファルトや、破壊した兵士の身体を盾にして、敵からの射撃攻勢を凌ぎきっていく。
敵の唯一の武装であり、最大の武器でもある指先からの光線には、実は欠点が存在する。
高威力であるがゆえに、一定数発射すると、エネルギー再充填のインターバルを挟まなければならないのだ。
そうでなければ、四六時中撃ちこまれっぱなしであるのは間違いなく、とうの昔に焼け焦げた死体が出来上がっている。
のび太達が過去、『鉄人兵団』を相手に四人であれだけ粘れたのも、道具の力の他にこういった要因もあったからなのだ。
ただし、今回はその辺りを指揮官級の用兵術がカバーしており、実質的に撃ち込まれっぱなしなのと、実は大差がなかったりする。
早い話が、『種子島三段撃ち』方式だ。『軍略』スキルを保持する指揮官級からすれば、この程度の用兵を考えつかないはずもない。
しかも、前回のように指揮官級が一機だけではないという事実が、間断ない光線の槍衾(やりぶすま)の実現を可能としていた。

「ちぃ……ダメか! 多勢に無勢すぎる!」

トリガーを引き続けながら、舌打ち混じりに士郎は考えを巡らせる。
一際大きな爆発音が連続して響く、ある一方の区画。
おそらくは、そこに味方の誰かが、もしくは全員がいるはずだ。
生き延びるには、全員が合流するしかない。
独力では何も出来ない、己が非力さに涙が出そうになるが、悲嘆に暮れている暇などない。
急がなければ。士郎はそう判断を下して。

「慎二、走るぞ! 立……ッ!?」

背後に振り返ったその瞬間、背筋が凍りつく感覚に襲われた。



「……慎、二」
「…………ッハ、ハ」



己の頭目掛けて、いつの間にか立ち上がっていた慎二が凶器を向けていた。
構えられているのは、士郎が手にするのと同じ、メカニカルなピストル……“ショックガン”。
それは、エネルギーが切れかけていたために、のび太が地面に打ち捨てていたもの。
ひみつ道具のアレコレで士郎達が揉めていた時、ドサクサ紛れにそっと掠め取っていたようだ。
如何にガス欠寸前とはいえ、確実にあと数発は撃てる。
そしてここで一撃でも貰えば、あっという間に鉄脚の波に轢殺(れきさつ)されるのは間違いない。撃った本人諸共、である。
それを想像出来ない慎二ではない。それでも銃を向けた、その真意は。

「お、前……!」
「ハハ……はっ、アははハはハハハっ、ぅフぁああアっハハはハハはっハハはァア!!」

狂人のそれよりも壊れた哄笑を、誰憚らずに撒き散らす。
動いているのは口元だけ。それより上は、簾のように垂れ下がった前髪がいまだ覆い隠している。
足先から体温を拭い去られるような、冷たく、異様な雰囲気に士郎だけでなく、周囲のロボット達もまた呑まれかけていた。

『ふん、とうとう壊れたか? まあ、保った方だろう。お前程度、そこらに散らばっているビルの破片と大して差はない』
『そこの赤髪の人間の方が、脅威は遥かに高い。……しかし、いささか耳障りだな』

そこへ、指揮官級の一体がロボットを掻き分け、士郎の背後に現れた。
姿は、完全に晒しておらず、頭だけが盾として前方に佇む複数の兵士級の肩口から覗いている。
いくら代わりがいようとも、指揮官級を失う事は避けたいのだろう。やはり、そこだけは慎重だ。
敵将に背後を取られても、慎二の凶器がそちらへ振り向く事を許してくれない。

「慎二、止めろ! 周りを見ろ、そんな場合か!?」
「フぁあはハ、ハハ……くっ、クク」
「聞いてるのか、おい! しん「――――黙れよ」……ッ!!」

その一言が、士郎の肺腑を抉る。
理由はともかく、自分が慎二に憎まれている事は解っていたが、たった四文字がこうまで重いとは思わなかった。
中学時代からの腐れ縁で、関係が歪に捩じれて決裂してしまった今でも、士郎はいまだ慎二に友情めいたものを感じている。
今更だと無理矢理理解を試みるが、それでも辛いものはどこまでも辛い。
血が滲むかと思うほど強く、唇を噛み締める。
騎乗兵のマスターだと知った時以上に、学校で殺し合いを演じた時以上に、この不条理に対する怒りとやるせなさが去来していた。
ギリッ、という音が、慎二の掴む“ショックガン”から響く。

「……誰が助けてくれ、なんて頼んだ。余計なマネしやがって……どこまでも、むかつくヤツだ」

やられる。
本能的に殺気を感知した士郎がジリ、と後退しかけたその時。

「ましてや自分を殺そうとした敵をだ……ああ、まったく……――――その甘さには、反吐が出るね!」

慎二が徐に顔を上げ、面貌のすべてが露わになった。
見ているだけで身を引き裂かれそうな、苛烈にぎらつく双眸。
今にも噛みちぎらんばかりに、剥き出された犬歯。
狂想に彩られた、煮え滾る原油のような激情が、悪鬼さながらの表情にべったりと塗りたくられていた。

「お前は……そこまで、俺を」

呑まれてしまった。
決して臆してはいけないのに、生胆を引き抜かれてしまった。
衛宮士郎の、根幹が揺らぐ。
身を挺してまで救おうとした者に、己が行為を否定される。
善を行ったとて、相手が善を以て返答してくれるとは限らない。
そんな事、これまでの短い人生の中でも、少なからず思い知らされてきたはずなのに。
相手が相手だ。感謝などなく、罵声のひとつふたつが来るだろうと、理解していたはずなのに。
今、この場で誰より、慎二に突き付けられた事が。
身を捩るほどに、狂おしいほどに重たかった。
受け手に賛同される事のない、一方通行の善。それを『独善』と人は呼ぶ。
この未曾有の窮地において、たとえ敵だろうと、救える者は救いたい。
その本心に従った自分の行いは、結局は独りよがりのものでしかなかったのか。
心が傾ぎ、血反吐を吐く。
石膏像のように色を失った士郎に、かつん、と慎二が一歩を踏み込む。
そして、銃の引鉄にかかったその人差し指が、力強くフック状に折り曲げられた。

「何より、一番腹が立つのは……」
「くっ!?」

銃撃が来る、その予兆。
士郎は、咄嗟に顔の前で、腕を交差させる。
しかし、“ショックガン”にそんな防御は意味をなさない。
掠っただけで致命的。死にこそしないが、気絶の先には死が待っている。

「待っ――――」

制止の甲斐もなく。
言い終わる前に、慎二の人差し指が引き絞られ。



「――――お前だよ、そこの金ぴか人形!!」



光線が士郎の脇を掠め、背後の黄金の指揮官を直撃した。

『ぐお!? が――――!?』

SPの兵士級の合間を縫って。
まさしく針の穴を通すような、ここしかないというところに突き刺さる。
兵士級の肩口の隙間から頭部を射抜かれた指揮官級が、断末魔と共に火花を噴き上げ、どうと背中から倒れ伏した。
ジジジジ、と紫電がボディを這い回り、完全に物言わぬスクラップと化している。
見ると、ブレーカーでも落ちたかのように、周囲の兵士級の動きが止まっていた。
この周囲の統括の一針である指揮官級が一機落とされた事で、一時的に、指揮系統が麻痺したようだ。

「え、あ……」
「よくも言いたい放題言ってくれたな――――たかがゼンマイ仕掛けの分際で! ああ!?」

予想だにしなかった光景に腕を下げるのも忘れ、士郎は呆然とその光景を眺めている。
それを余所に、慎二の気炎はここぞとばかりに、一気呵成に膨れ上がった。

「言ってみろよ、僕は誰だ?」

研ぎあがったばかりの大鉈のような気迫。
降りかかるものすべてを弾き返さんと、今までの屍のような姿からは想像も出来ない強靭な意思が、慎二の身体を通して伝わってくる。

「答えろ! 僕は誰だって聞いてるんだ!!」

叫ぶと共に、“ショックガン”の引鉄を引く。
吐き出された光線が、未だ硬直の解けない兵士級を捉え、その機能を停止させる。
だが、一発では終わらない。光線は間断なく放たれ、次々と兵士級を再起不能に追いやっていく。
癇癪、ではない。銃をただめったやたらに振り回すのではなく、慎二は、一発一発しっかりと、斃すという意思の下、狙い澄まして放っている。
なにかが違う。決定的になにかが違っている。
纏まらぬ思考をそのままに、士郎は漠然とそれを感じ取っていた。

『ふん、笑わせるな! 愚か者が何を吼える!』

残った最後の指揮官級の号令が、兵士級の金縛りを解いた。
指揮系統が復活し、一機一機が単眼の光をぎらつかせながら行軍を再開する。
しかし、慎二の気勢は衰える事なく、枯れよとばかりに声を張り上げた。

「誰が愚か者だ! 僕は間桐慎二だ!」
『そのマトウ・シンジがどうした! 狭い価値観に未練がましく拘り、ささやかな優越に引き篭もるだけの腑抜けが!』
「その言葉、そっくりそのまま返してやるよ! 戦う事と操る事しか能のない、木偶人形が!」
『ロボットに、与えられた役割があるのは当然の事。役割すら自分で見出せん、矮小な人間がほざくな!』
「矮小だ、愚かだ腑抜けだと、いちいちうるさいんだよ! そんな安っぽい言葉で、僕をくくるな!!」

爛々とした光を放つ瞳は、腑抜けた者のそれではない。
見る者の肌を粟立たせるような気迫は、矮小な者のそれではない。

「ああ、認めてやるさ! 僕に魔術の才能はない! だからっ! 才能を持つヤツがこの上なく憎たらしいし、妬ましかったよ! 衛宮も! 遠坂も、桜も! あの陰険ジジイでさえも! ちょっとでも才を持ってるヤツが、羨ましくて仕方なかった!!」

剥き出しにした感情のまま、己の弱さを吐露する。
永らく眼を背け続けていた事実に、慎二はやっと目を向けている。
汚らしく、血を吐くような独白は、それだけでマトウシンジを覆う殻に亀裂を入れていた。

「だがっ! それで終わりじゃない! 間桐慎二は、それだけでは終わらない!」

『虚栄心』と『傲慢』。
およそマトウシンジをよく知る人間から見れば、彼の本質は、おおよそそんなものだと思うだろう。
しかし、それはある意味事実ではあるが、真実ではない。
慎二の元々の本質は、『反骨心』と『承認願望』だ。

「終わってたまるか! 終われるものかよ! ああ、そうだ! 間桐慎二が、そんなところで終われるか!!」

己を見下す者を、見返してやりたい。
誰かに、己を認めてもらいたい。
それが慎二の、原初の気質。
祖父から、マキリの家から、失望を以て貼られた落伍者のレッテル。
マトウシンジを構成する根幹は、そのレッテルを基点として反作用的に生み出され、形作られた。
コンプレックスを弾き返そうという気概を、慎二は元々持っていたのだ。
しかし、伏魔殿たるマキリの闇は、慎二の根幹を根こそぎへし折り、歪ませるに十分すぎた。
やがて、『反骨心』は『虚栄心』へと成り下がり、『承認願望』は『傲慢』へと変質する。
外へ、外へと広がろうとしたものが反転、内へ、内へと濁り、篭るようになり。
感情のヘドロとも言うべき鬱屈したものを抱え込んだまま、慎二はここまで来てしまった。

「僕は間桐慎二だ! 他の誰にも、何にも縛られないマトウシンジだ! だから! どこにだって行けるし、何にだってなれる! 魔術回路がないくらいで全部終わらせて、這いつくばったままで諦めてたまるか! 魔道のその先にだって、果てにだって、いや、逆方向の、その極致にだって行ってみせる!!」

だが、反転したものはいつか、きっかけを与えられれば『逆転』するもの。
内側に向いたベクトルが外側へと、強烈な意志の咆哮と共に解き放たれる。
いつの間にか、士郎の目が慎二へと向いたまま離れない。
明らかに、今までの慎二とは異なっていた。

『ふっ……ふ、はははははは! 何を言うかと思えば、くだらん! 実にくだらん! 負け犬の遠吠えとは、まさにこの事だな!』
「はっ! ほざいてろデクが! なんだったら、お前らの『神』にさえなってみせるさぁ!! 本気になった僕に、間桐慎二に出来ない事などあるものかよ!!」
『な、貴様! 人間風情が何を言う!? 不遜な物言いは死を招くぞ!』
「お前らだって、どうせ元は人間が作ったんだろうが! 不遜な物言い? ちゃんちゃらおかしいね! お前らが人間よりマシだとは、これっぽっちも思えないぞ! いいや、むしろ、人間以下にさえ感じるねぇこの、出来損ないのガラクタどもが!!」
『ギ、ガ……ガラクタだと!? 思い上がるな塵芥が! 貴様の言動、万死に値する! 総員、構え! 骨の一片すら残さず、虐殺せよ!!』

冷徹なまでに役割に努めていた指揮官級らしからぬ、憤怒と絶叫。
人間を過小評価していない指揮官級だが、そもそもの脅威度が群を抜いて低かった慎二だけは例外だった。
そしてここに至り、ほんの、ほんの些細なものでしかないが、しかし『鉄人兵団』は、致命的なミスを犯した。
本来なら放置して然るべきの、寝た子を起こしてしまったのだ。

「なめるな!! やれるもんなら、やってみろぉ!!」

号令一下、速度を増した鋼の波。
慎二は無視するかのように士郎の脇を通り抜け、銃を構えて烈火の気迫で迎え撃たんとする。
士郎の視界に、生きた屍はもういない。
かといって、自分を仇敵としてつけ狙う、負の感情の撒き散らす醜悪な人間ももういない。
そこには、弱さを認め、己を見据え、すべてを背負って高みを目指す、一人の男の姿があった。
今この時、本当の意味で、間桐慎二は“間桐慎二”を始めたのだった。

「慎二……」

その背中が語っている。
ぼうっと見てないで、さっさと動きやがれ、と。
弾かれたように、士郎は走り出した。

「うぅおおおおおおおおおっ!」

慎二の背中に己が背を向け、慎二の死角をカバーするように構える。
ポケットから、予備の“ショックガン”を取り出し、士郎は、二丁拳銃でロックオンする標的を探り始めた。

「衛宮!? お前、余計なマネするな!!」
「生憎と、こっちも余裕がないんだよ! 利用出来るものは利用させてもらう、それだけだ!」
「……ちっ、足だけは引っ張るなよ!」

協力しよう、などと言っても、自尊心の高い慎二の場合、上手くいくとは限らない。
むしろ、こういった婉曲かつ捻くれた物言いの方が、不承不承という接頭語がつくが、呑み込んでくれる。
腐っても悪友、心得たものであった。

「蹴散らすぞ!」
「僕に指図するな!」

言い捨てると同時に引かれる引鉄。
色とりどりの光線が、空中で火花を吹き散らす。

「慎二、横だ!」
「うるさい!!」

その只中において、二人の息はぴったりだった。
常に背中合わせになるよう立ち回り、お互いに致命傷を受けないよう、膝を折り曲げ、一所に立ち止まらないよう動き回っている。
反目し合っていたのが、まるで嘘のようである。

『ぬ……く、抜かったわ!』

この場における、最底辺の敵の予想以上の奮戦ぶりに、指揮官級が舌打ちを漏らす。
言葉の上では、決して仲がいいとは言えないが、互いが互いの死角を庇い合い、手の届く範囲はどこまでか、それぞれが何を標的に定めるかをきっちりと線引きし、効率よく間引いていく。
窮鼠猫を噛む、ではないが、追い詰められた人間は、意外とも思えるほどにしぶとい粘りを見せる事がある。
まるで、追い込まれる事で秘められたポテンシャルをこじ開けるかの如く。

「この……ッ!? くそ、弾切れかよ!?」

と、カチン、カチン、と慎二の“ショックガンから空撃ちの音が鳴る。
元々、拾い物の武器である。むしろ、保った方だろう。
慎二側からの銃撃が止み、そちら側からの進軍速度が上がった。
ブツを敵目掛けて投げ捨て、投石でもして少しでもやり過ごそうと、慎二が身を屈めかけたその時。

「使え、慎二!」

声と共に、頭上から何かが降ってきた。
反射的に、慎二が手を伸ばしてそれを掴む。

「……どういうつもりだ、お前!?」

それは、グリップ部分がほんのりと温かい、“ショックガン”だった。
士郎が使用していた二丁のうちの一丁を、背後の慎二の目の前に来るよう、背中側に放り投げたのだ。

「足引っ張るなって言ったお前が、俺の足を引っ張りたいのか?」
「くそ……いいだろう、使ってやるよ甘ちゃんが!」

売り言葉に買い言葉。
乗せられていると解っていながらも、慎二は突き返す事もせずブツの銃床を握り締めた。
中学時代からの腐れ縁は、伊達ではない。
互いに物の貸し借りなどもしたし、慎二が士郎にいらない物を押し付けた事もあった。
主に、凛辺りに見つかったら平手かガンドが飛んできそうな曰くつきのブツだが、それ以外の物も少々。
時には、学校の先輩相手に二人で大立ち回りをやらかした時もあった。
士郎、慎二、共に身内以外の人間との付き合いは、広いが、浅い。
しかし、二人の場合はどういう訳か、形を変えこそすれ思いの外深いものとなっていた。
阿吽の呼吸で互いの心情を察しうる。
それが窮地にも拘らず、二人して、中学時代に戻ったかのような錯覚に陥らせた。
もっとも、互いの表情はそれぞれ対照的なものではあったが。
かたや苦笑、かたや渋面。
どちらがどちらかは、推して知るべし。述べるまでもないだろう。
双方とも、思うところは多々ある。特に慎二の負債はいまだ、重くのしかかったままだ
それでもそれらを一旦、棚に上げ、呉越同舟を成立させた事が、二人を生き永らえさせていた。

「ちっ。こっちだ、慎二!」
「む、ぐぁ!? おい、なに引っ張ってんだ衛宮!」
「言ってる場合かよ! 我慢しろ!」

士郎が突如、慎二の首根っこを引っ掴み、近くにあった倒壊寸前の店舗の陰へさっと身を潜める。
幸運にも、そこに敵の姿はない。
天井が跡形もなく吹き飛び、壁も、床も、ガラスも罅割れ、砕け、ほとんど店の原形を留めていないが、その場凌ぎの塹壕程度には利用出来た。
四方の壁がそこそこ頑丈に作られていたおかげで、バリケードとしての体をぎりぎり成している。
空中からの敵には無防備に近いが、その分、逆に的が絞りやすくなっているのでさしたるマイナスでもない。
状況的には、屋外のサバイバルゲームとゲームセンターのガンシューティングを、足して二で割ったようなものとなっていた。
ただし、双方実弾で危険はレッドゾーン。利用料金は自分の命という、エキサイティングどころかデンジャラスの域に踏み込んでいるデスゲームだが。
周囲の壁の向こうから続々現れる敵影に“ショックガン”をばしばし浴びせかけつつ、士郎は独りごちた。

「ここで迎撃すれば多少はマシになる。どうにか遠坂達と合流出来ればいいんだが……正確な位置が。令呪でセイバーを呼ぶか? それとも……」
「お前……余計なマネするなって言わなかったか!? いいか、僕は「このままじゃ!」……ッ!」

激する慎二の言葉を遮り、語気も荒く士郎は遠まわしに諭す。
敵は無限、こちらは一桁。このままいけば、奮戦虚しく全員戦場の露と消えると。
反論の余地など一切ない、無慈悲な確定事項。

「……くそったれが。どこまでも腹立たしいガラクタどもだ」

慎二も漠然とその事を悟っていたようで、憮然とした表情で唇を噛みしめていた。
と、その時。

『――――士郎さん、士郎さぁんっ!? 聞こえてますかぁ!?』
「ッ!? の、のび太君か!?」

突如耳元で、のび太の声が炸裂した。
キーンと耳鳴りがしそうなほどに、近くから響いた。
慌てて振り向くが、そこにのび太の姿はない。
考えられるのは。

(“とりよせバッグ”を使ってるのか?)

物を取り寄せるために空間連結を行うあのひみつ道具なら、応用でそのくらいは出来る。
士郎はなんとなく、それが正解である確信を抱いた。
隣の慎二にも聞こえているのだろう。訝しげに、士郎の傍らに視線を向けている。

『――――居場所は、セイバーがある程度教えてくれてるわ! 今から目印を打ち上げるから、ここまでなんとか辿り着きなさい!』

今度は、凛の声が轟いた。
バッグの使い手が交代したらしい。

『――――セイバーさんが迎えに行きます! それまで頑張ってください!』

さらに代わって、のび太の声が木霊すると同時、二人の視界に突如として、天を目指して突き上げる竜巻が映り込んだ。
つまり、あれが目印、という事のようだ。
そこから。

『――――伏せていろ、小僧!』
「は……うお!?」
「くぁ!?」

士郎達の目の前を、横一直線に切り裂くように何かが通り過ぎた。
強烈な衝撃波を伴い、吹き荒れる突風の渦に、二人は揃って身を伏せ、両腕で顔を庇った。
ばらばらと降りかかる、夥しい量のコンクリートの粉塵と、焼け焦げた鉄灰。
刹那の瞬間だったが、士郎にははっきりと解った。
今、竜巻の根元から放たれたであろうそれが、『偽・螺旋剣(カラドボルグⅡ)』である事を。
火を噴くほどに凄まじい一撃。兵士級の海がモーゼの十戒のように穿たれ、竜巻の根元への直通路が開いていた。
おそらく、令呪によるブーストを行っている。のび太がいるという事は、“タイムふろしき”もあるという事。
回復手段があるならば、出し惜しみなどする理由がない。

「走るぞ! バリアを張るっ、近寄れ慎二!」
「ちっ!」

二人同時に塹壕の陰から飛び出し、駆け出す。
それと同時に、士郎はポケットの中の“バリヤーポイント”のスイッチを入れた。
バッテリー残量が僅かとはいえ、海の底を渡る間くらいは保つ。
強烈な一矢で、十メートル単位はいきそうなだだっ広い空間が出来ている。
狭いバリア範囲の中に二人いるので、ほとんど二人三脚に近い。
互いに足がもつれそうになりながらも、全速力で開けた通路を駆け抜ける。

『逃がさん! 囲い込め!』

だが、それも束の間。
指揮官級の号令一下、通路が急激に狭まりだした。

「させるか!」
「寄るな、ガラクタが!」

近づく敵に、バリアの中から、士郎と慎二が手当たり次第に撃ちまくる。
“バリヤーポイント”最大の利点は、バリアの内側から攻撃出来る事。
白兵戦はバリアの範囲の問題で難しいが、捨て身の体当たりか遠距離攻撃ならば、遠慮なしに仕掛けられる。
次々ショートし、崩れ落ちる兵士級。だが、たった二人の抵抗では勢いは止まらない。
凄まじい勢いで、元の海へと戻ろうとしている。このままでは押し潰されてしまう。

「――――シロウ!」

しかし、そこに颯爽と飛び込んできた蒼銀の流星が、潮流を掻き乱す。
『魔力放出』のジェット噴射を最大で利用し、暴風のような魔力の余波を伴いながら、纏わりついてくる鉄の波を吹き飛ばし、向こう側から猛然と近づいてきた。

「散れ! 『風王鉄槌(ストライク・エア)』!」

そして、士郎達の傍まで接近すると、剣に纏う『風王結界(インビジブル・エア)』を解放する。
バリアを張っている事は、既に状況から見て取っている。遠慮は無用とばかりに勢いよく放たれたそれは、士郎達の周囲に円状の空白地帯を強制的に作り出した。
本来は、一度きりで使い捨て同然のシロモノだが、“タイムふろしき”にかかればそんな枷などないに等しい。

「セイバー!」
「シロウ! 無事でよか……む、ライダーのマスター……」
「……ふん」
「今は敵じゃない。敵の敵だ」
「は……?」

士郎の言い回しに、セイバーは一瞬、理解が追いつかなかった。
ややもして、一応味方と考えていいんだな、というところに行きつき、とりあえず軽く頷く。

「解りました。では、私が先頭を突き進みます! シロウ達は、その後を!」
「了解! 行くぞ、慎二!」
「指図するなって言ってるだろ!」

不可視の剣を振るい、セイバーが己の背後の道へスタートを切る。
その背を追って、二人はバリアに仲良く入ったまま、流鏑馬もどきの全力疾走を再開した。





「来たぞ、凛」
「了解! のび太、準備は!?」
「ちょっと待って……ここ、結構でこぼこしてて……」

一方、竜巻直下の仮塹壕では、着々と準備が進められていた。
のび太が地面に敷いているのは、“おざしきつり堀”。その傍らには、“逆世界入りこみオイル”と“地球はかいばくだん”が鎮座している。
気が気でないのか、凛は時折ちらちらと爆弾に視線をやりながら、もどかしそうな表情を作る。

「よし……あとは、スイッチを入れて……」

本体シートをどうにか広げきったのび太は、すぐさま“おざしきつり堀”の計器をいじる。
すると、シートの上の四角い大きな空洞部分に、ぱっと水面が映し出された。

「はい」
「あ、ありがとうフー子」

手渡されたオイルの缶の蓋を開け、中身をひっくり返す。
竜巻を維持しているフー子だが、風の障壁や竜を維持するほどには力を消費しないので、片手間でのび太の助手が出来ていた。
それでも相当量の魔力を風に転化しているのは間違いないので、それだけでフー子の尋常ならざる魔力総量が窺い知れる。

「む、到着だ。竜巻を一部解除してくれ」
「あっ、フー子!」
「フゥ!」

フー子が首肯したと同時、のび太達の周囲の風の渦が緩み、ぽっかりと扉大の隙間が造られる。
そこに、三つの人影が一斉になだれ込んできた。

「お待たせしました、リン」
「ご苦労様、セイバー……慎二も、なのね」
「ええ。シロウ曰く、今は敵の敵だそうです」
「そう。まあ、いいわ」

まず、セイバーが任務完了の報告をする。
英霊二人と再合流した後、士郎の回収に“とりよせバッグ”を使わず、わざわざ迎えに行かせるよう指示を出したのは凛だった。
理由はひとつ。士郎のいるだろう位置が混戦模様だったからだ。
下手にバッグに手を入れて、負傷者を作る事態は避けたかった。
なにしろ、バッグ使用時、突っ込んだ腕は無防備に近くなる。
火災現場に普段着のまま突入するようなもので、仮に英霊であってもただでは済むまい。
最初に士郎達を回収した時は、運がよかった。しかし、次もそうであるとは限らない。
それなら、直接向かった方がまだ対処のしようがあると、凛は判断したのである。

「……はぁ、はぁ、あ、危なかった……おい、慎二。大丈夫か?」
「ぐっ……う、うるさい、構うな! 掠り傷だ、この程度ッ!? ぎ……っう、はぁ、はぁ……ごほっ」

地面に膝をつき、荒い息を吐きながら、慎二は近づいてきた士郎を振り払う。
その固く握り締められた拳からは、だくだくと赤い血が流れ、地面に小さな血溜りを幾つも作っていた。

「はぁ……はぁ、はははは、は、はは……! やって……やって、やったぞ! 魔術に縋るしかない愚か者だと、僕を侮るからだ! ざまあないぜ!!」

ガシャン、と血の滴る手で、慎二は掴んでいた物をアスファルトに叩き付ける。
甲高い金属音を鳴らして地面に転がるそれは、鉄さびを被ったような模様をつけた、金色の兜……いや。

「フ!?」
「えっ、これって……あの金色の、首!?」
「はっ、それ以外の何に見えるってんだよクソガキども! 手近にいたもんだから、すれ違いざま、素手で首を捻じ切ってやったのさ!」
「まさか、魔術も使えないアンタが!?」
「ああ!? それがどうした、遠坂! 僕を舐めるな! そんなの、敵を倒せない理由になるかよ! 魔術なんかなくったって、僕だってこれくらいは出来るんだっ!」

腹の底から、生の感情諸共に言葉を吐き出し、己の血で汚れた敵の首級を踏み付ける。
セイバーが先鋒を担い、前方に立ち塞がる障害を切り払っていたとはいえ、それで無数に湧く鉄の兵士すべてを喰い止められるという訳ではない。
それ以前に、セイバーの得意とする白兵戦とは、一対一もしくは一対複数戦闘において真価を発揮する。
一対多数は、絶対的に不利なのだ。
必然、士郎と慎二側にも敵が押し寄せ、凄絶なビームの撃ち合いを演じる事になった結果、ゴールまであと百メートルもないところまで来て、“バリヤーポイント”のバッテリーが切れてしまった。
ここぞとばかりに奮い立つ敵。その中に、指揮官級の姿が見えた。
それが、あの三体の内の最後の一体だったのは、果たして偶然だったのか必然だったのか。勿論、件の本体以外にその事実を知りようなどないが。
その瞬間、慎二は腹の底から唸り声を上げると、なんと“ショックガン”を放り捨てて駆け出し、素手で挑みかかったのだ。
まさか雑魚が徒手空拳で来るとは思わなかったようで、敵が僅かに戸惑う。その一瞬の隙に慎二はつけ込んだ。
並み居る兵士級の脇をすり抜け、一気に指揮官級に肉迫すると勢いそのまま、突き出された指先を蹴りで発射前に潰し。
手がずたずたになる事も厭わず、左拳で顔面を殴りつけ、反対の右手で首部分に、空手で言う『抜き手』を突き入れた。
兵士級よりもギミックの多い指揮官級は、首の関節もそれなりに複雑な造りになっている。
声にならない咆哮と共に、指をねじ込んだ関節部の隙間から、無理矢理コードを引きずり出して引き千切り、首と胴を分かとうと頭部の縁に手を掛け、折れろとばかりに引っぺがす。
しかしながら、実力の上では相手の方が遥かに格上。当然、反撃も来る。
残った腕でしたたか殴りつけられ、脇腹や側頭部に数発貰ってしまうも、それでも、慎二より先に指揮官級が破壊される方が早かった。
指揮官級の振りかぶった拳が顔面に直撃しそうになったその瞬間、感情の昂揚でリミッターの外れた慎二の右手が、頸椎のフレームごと首をへし折るように捻じ切った。
波を掻き分け、やっと救援に駆け付けた士郎達が見た物は、鬼神さながらの凄絶な形相で、頭部片手に首なし死体を足蹴にする、血みどろの慎二の横顔。
血走った眼を虚空に向け、獣のように吼えるその姿と、背中から湧き上がる、形容しがたい熱波のような意思のオーラに、士郎はおろかセイバーまでもが、一瞬、言葉を失ったのだった。

「……アンタ、変わった?」
「ふん。皮肉かよ、それは」

言い置いて、慎二は鮮血に染まった己の両手に目を落とす。
爪こそかろうじて剥がれてはいないが、左手の指の骨には間違いなく罅が入っている上、拳の部分の皮が軒並み剥がれ、内皮までもが抉れている。
右手は裂傷だらけで裂けていない個所など見当たらず、掌から指から、止めどなく血潮が溢れ出している。
腕だけではない。肋骨が数本は確実にもっていかれているし、左の米神からは、拭えど押さえど出血が収まる様子はない。
纏う穂群原の制服は、袖口をはじめとしてあちこちがどす黒く汚れ変色し、命からがら災害現場から生還した被災者のようだ。
変わり果てた姿、という意味ではたしかにそうとも言えるかもしれない。勿論、凛が言いたかったのはそこではないのだが。
以前と違い、自分の方に目もくれない慎二に、凛はなんとも言えない表情を形作り、ふっと息を吐いた。
まるて捻じれに捻じれて、そのまま真っ直ぐ伸びた螺旋のようだと、そんな感想が脳裏をよぎる。
常の軽薄さが失せ、気位の高さが前面に出た、ひどく尖った性格。
瞳には鮮烈な眼光を湛え、ぶちまけられた火薬のような気難しさが、傷だらけの全身から滲み出ている。
色男、ここに極まれりな時とは違った意味で、扱いにくい印象を抱かせたが、凛はかつてのような不快感は感じなかった。
勿論、許されない前科を背負っているので、全面的に信用を置ける訳ではないものの、それでもこちらの方がやや好ましくはある。
なんとはなしに、凛が前髪を掻き揚げたその時、のび太の歓声が響いた。

「よし、準備完了! いいですよ凛さん、これでいけます!」

見ると、“おざしきつり堀”の計器から、今度は“地球はかいばくだん”へと手を掛けるのび太の姿があった。
爆弾本体の一部のカバーが開け放たれ、その中には、小さな数字パネルとディスプレイがあった。

「わかった。じゃ、全員、手筈通りにいくわよ。のび太、設定は三十秒ね」
「ちょっと待った、遠坂。手筈って」
「ん? ああ、そっか。手短に言うわよ。爆弾を三十秒後に爆発するようセットして、カウントダウンしている間に向こう側に退避。以上」

一言で終わったが、士郎は一応理解出来た。
たしかに、今打てる手の中では、それが最も堅実な手だろう。
怖いのは、“地球はかいばくだん”の誤作動だが、そこは考えれば考えるほどドツボにはまりこむので、悩んでも仕方ない。
よろり、と士郎が立ち上がった、その時だった。

「敵が、退がる……!? いかん、砲撃が来るぞ!」

竜巻の縁で、じっと周囲を観察していたアーチャーの警告に、ぞわり、と全員が総毛だった。
兵士級の波が、津波の前兆のように退く。
それは、この後に来る大砲火の合図だ。
果たして、ミサイルかビームか。
答えは、すぐに弓兵より齎された。

「デカブツの腹部が……レーザーか!」

よりにもよって、最も強烈な方だった。
フー子の風の障壁もぶち抜く、大出力のレーザー砲。
最初の一撃こそ吹き飛ばされるだけで済んだが、もう一度喰らえば瞬時に蒸発するのは必定だ。
なにしろ、今張っているのは風の障壁ではなく、竜巻である。
前者より強度は確実に劣る。
その上、『鉄人兵団』が扱うビームとは違い、『ザンダクロス(ジュド)』のレーザーは本来の性質そのまま、光の速さで飛んでくる。
風の障壁は、密度を最大にするのにどうしても数テンポ要するため、どう足掻いても間に合わなかった。
フー子は実力者ではあるが、戦士ではない。ゆえに、戦場の機微など、推し量りようもない。
士郎達を回収した際、風の障壁へすぐさま切り換えなかった事が、最大のミスだった。

「フー子!」
「うぅ……」

それでも諦めず、フー子は竜巻を解除し、風の障壁を作り出そうと諸手を掲げる。
しかし、そこに。

「私が請け負う!」

天空に片腕を掲げた、アーチャーが割り込んだ。
鷹の目でレーザーの着弾点を割り出し、誰にも聞き取れないほど小さな声で、何事かを呟く。

「『――――f my sword(……は剣……ている)』」

現時点では、アーチャーのみが知るキースペル。
しかし、それはあくまでセイフティ解除の合図でしかない。
フー子よりも早く、とうの昔に準備は完了しており、一分の隙なく整えられていた。
川向うから、『ザンダクロス(ジュド)』の腹部が光を放つ。
その数瞬前に、アーチャーがそれを解き放った。

「『熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)』!」

口中の宣言と同時に、七枚の赤い、花弁のような壁が宙に現れ、円を描いて集束し、組み合わさる。
簡素化したバラを思わせるその紅の障壁が、解き放たれた分厚いレーザーを受け止め、完全にシャットアウトしていた。

「ぐぅ、っがあ!?」
「アーチャー!」

だが、『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』に匹敵するほどの攻撃をキャッチして、ただで済むはずもない。
七枚の障壁が、アメ細工のガラスを突き破るように、一枚、一枚とあっさり砕かれていく。
激痛と共に、重力が十倍になったかのような、凄まじい負荷がアーチャーを襲う。
令呪の余波で余ったなけなしの魔力を紅の盾にくべ続け、滝のような汗を流して耐えるアーチャーの表情は、鬼のそれと変わりはなかった。
花弁の盾は、既に残り四枚。
盾を超えて衝撃が、びりびりとのび太達を脅かす。

「のび太、急いで!」
「は、はい!」

アーチャーの苦悶の表情に焦った凛が、のび太に発破をかける。
それがいけなかった。
“地球はかいばくだん”は、地面に置かれている。
そして、振動は空気を伝い、アスファルトの地面までをも揺るがせていた。
慌ててボタンを操作しようと、のび太がパネルに指を伸ばし押し込もうとしたその瞬間、カタン、と爆弾本体が僅かに揺れた。

「あ」

そのままグイ、と押される、複数のボタン。
ピ、ポ、パ、と鳴る電子音。
同時に、ディスプレイの上にパッとカウンターが映し出され、カウントダウンが開始された。
そのタイマーの時間は……。

『00:10:00』

残り十秒だった。

「ま、間違えたぁーーーー!? り、りりりり凛さん!? あ、あと、十秒で爆発……!?」
「は!? ちょ、こ、このバカぁあああっ!? ぜ、全員、急いで飛び込めーーーー!」

青くなった凛の絶叫。慎二を除く、全員の表情からも血の気が失せた。
よりにもよって、たったの十秒。あまりにも時間がなさすぎる。
青白く眩いレーザー光に包まれる中、いち早く動き出したセイバーが、士郎の腕を掴み上げ、釣り堀の中へ放り投げた。

「な、うわぁあああっ!?」
「おい、お前らいったいなに……ぐぁ!?」

そのついでに、眼にも止まらぬ早業で慎二の襟首を引っ掴み、有無を言わさず叩き込む。
怪我してようが重傷だろうが、知った事かと言わんばかりに。
余りの勢いに、慎二が踏みつけていた金色の頭部も、カラカラと乾いた音を立てて地面を転がり、すぽんと水面へ吸い込まれるように落ちた。

「アーチャー! 『その盾をきっちり維持したまま、戻りなさい』!」

次に動いたのは凛。
“タイムふろしき”で回帰補充していた令呪を掲げ、早口でアーチャーに指令を飛ばす。
すぐさま令呪が輝き、アーチャーの身体が閃光に包まれたと同時にその姿を消した。
強制霊体化し、凛の下へ戻ったのだ。

「ああ、もう! 結局最後まで計画が狂いっぱなし……!」

そのまま、素早くバックステップで釣り堀に飛び込み、現実世界へ逃れる。当然、霊体となったアーチャーも一緒である。
姿がなくなった後でも、アイアスは四枚のまま変わりなく健在で、空中でレーザー相手に均衡を保っていた。
トロイア戦争にて、英雄ヘクトールの投槍を唯一防いだと言われる大アイアスの盾。
その名を冠する『熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)』は、投擲武具、ひいては遠距離攻撃に関して絶大な防御能力を有している。
令呪のバックアップを受けたアイアスの強度は、一時的にではあるが、A++ランクの対城宝具の一撃にも耐えうるほどの強度を得ていた。
相手が選んだ手段がレーザーであった事が、この時ばかりはプラスに働いている。
面制圧に適しているミサイルだと、アイアスでは完全に受け止められないからだ。
点でダイレクトに攻撃可能なレーザーだからこそ、『熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)』が通用する。
残り時間は、あと五秒。

「ノビタ、急ぎなさい!」
「フゥ! フゥウウ!」
「ちょ、ちょっと待って!」

セイバーとフー子に急かされながら、のび太は“スペアポケット”を漁り、“とりよせバッグ”を取り出す。
今からやる事は、賭けだ。
本来ならば、三十秒カウントダウン時に確実な手段で行うはずだったが、ボタンを押し間違えた事でその猶予がなくなってしまった。
残り五秒では、絶対に無理である。

「こいつを!」

残り四秒を切る。
その刹那、蛇口を閉じるようにレーザーの照射が止み、同時に役目を終えた『熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)』が、陽炎のように掻き消える。
そして、のび太達の塹壕を遠巻きにしていた鋼鉄の群れがざわりと揺れた。
これは、せめてもの悪足掻き。
蜘蛛の糸ほどに細くなった可能性の糸を、千切れる前に手繰り寄せる。
一縷の望みを繋ぐ、悪足掻きだった。

「くっ、行きますよ!」
「開けて……うわ!?」

襟首が引っ張られる。
掴んだのはセイバーの右手。
左手には、フー子の小さな身体が抱えられている。
ぐっと抱きすくめるように、セイバーはのび太を抱え込むと、背中から滑り込む形で“おざしきつり堀”の水面へ突入する。
その瞬間、のび太は全身全霊を込め、“とりよせバッグ”の開いた口へ、思い切りこう叫んだ。

「り、リルルッ、すぐ『鏡面世界』から脱出して!!」

上手くいくかは解らない。
しかし、これ以外に残された手はなく、あとは運を天に任せるのみだ。
水面の中に、三人の姿が完全に埋没した時、残り時間は二秒を割っていた。

『かかれぃ!』

地割れのような怒号。
鉄の波が、イナゴのようにアスファルトの大地を喰い荒らし、無人となった塹壕へ押し寄せる。
そして、一体の兵士が空より急襲を仕掛け、塹壕の中をカメラ・アイに収めたその瞬間。

『ぬ? こ、これは!?』

敷かれたシートがふっと掻き消え、ディスプレイの数字がカウンターストップ。
残り時間『00:00:00』。

『まさか……!?』

時は来た。
未来の世界の最終兵器が、『鏡面世界』へ牙を剥く。
地獄の釜の封が解かれ、金属の外殻を突き破って、内なる狂気が行き場を求めて迸る。
指揮官級が最期に見た物。それは。



『な――――――』



この世のすべてを照らし出す。
まさに今、目の前で太陽が生まれたかのような、永遠なる灼熱の“白”だった。






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