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No.28951の一覧
[0] ドラえもん のび太の聖杯戦争奮闘記 (Fate/stay night×ドラえもん)[青空の木陰](2016/07/16 01:09)
[1] のび太ステータス+α ※ネタバレ注意!![青空の木陰](2016/12/11 16:37)
[2] 第一話[青空の木陰](2014/09/29 01:16)
[3] 第二話[青空の木陰](2014/09/29 01:18)
[4] 第三話[青空の木陰](2014/09/29 01:28)
[5] 第四話[青空の木陰](2014/09/29 01:46)
[6] 第五話[青空の木陰](2014/09/29 01:54)
[7] 第六話[青空の木陰](2014/09/29 14:45)
[8] 第六話 (another ver.)[青空の木陰](2014/09/29 14:45)
[9] 第七話[青空の木陰](2014/09/29 15:02)
[10] 第八話[青空の木陰](2014/09/29 15:29)
[11] 第九話[青空の木陰](2014/09/29 15:19)
[12] 第十話[青空の木陰](2014/09/29 15:43)
[14] 第十一話[青空の木陰](2015/02/13 16:27)
[15] 第十二話[青空の木陰](2015/02/13 16:28)
[16] 第十三話[青空の木陰](2015/02/13 16:30)
[17] 第十四話[青空の木陰](2015/02/13 16:31)
[18] 閑話1[青空の木陰](2015/02/13 16:32)
[19] 第十五話[青空の木陰](2015/02/13 16:33)
[20] 第十六話[青空の木陰](2016/01/31 00:24)
[21] 第十七話[青空の木陰](2016/01/31 00:34)
[22] 第十八話 ※キャラ崩壊があります、注意!![青空の木陰](2016/01/31 00:33)
[23] 第十九話[青空の木陰](2011/10/02 17:07)
[24] 第二十話[青空の木陰](2011/10/11 00:01)
[25] 第二十一話 (Aパート)[青空の木陰](2012/03/31 12:16)
[26] 第二十一話 (Bパート)[青空の木陰](2012/03/31 12:49)
[27] 第二十二話[青空の木陰](2011/11/13 22:34)
[28] 第二十三話[青空の木陰](2011/11/27 00:00)
[29] 第二十四話[青空の木陰](2011/12/31 00:48)
[30] 第二十五話[青空の木陰](2012/01/01 02:02)
[31] 第二十六話[青空の木陰](2012/01/23 01:30)
[32] 第二十七話[青空の木陰](2012/02/20 02:00)
[33] 第二十八話[青空の木陰](2012/03/31 23:51)
[34] 第二十九話[青空の木陰](2012/04/26 01:45)
[35] 第三十話[青空の木陰](2012/05/31 11:51)
[36] 第三十一話[青空の木陰](2012/06/21 21:08)
[37] 第三十二話[青空の木陰](2012/09/02 00:30)
[38] 第三十三話[青空の木陰](2012/09/23 00:46)
[39] 第三十四話[青空の木陰](2012/10/30 12:07)
[40] 第三十五話[青空の木陰](2012/12/10 00:52)
[41] 第三十六話[青空の木陰](2013/01/01 18:56)
[42] 第三十七話[青空の木陰](2013/02/18 17:05)
[43] 第三十八話[青空の木陰](2013/03/01 20:00)
[44] 第三十九話[青空の木陰](2013/04/13 11:48)
[45] 第四十話[青空の木陰](2013/05/22 20:15)
[46] 閑話2[青空の木陰](2013/06/08 00:15)
[47] 第四十一話[青空の木陰](2013/07/12 21:15)
[48] 第四十二話[青空の木陰](2013/08/11 00:05)
[49] 第四十三話[青空の木陰](2013/09/13 18:35)
[50] 第四十四話[青空の木陰](2013/10/18 22:35)
[51] 第四十五話[青空の木陰](2013/11/30 14:02)
[52] 第四十六話[青空の木陰](2014/02/23 13:34)
[53] 第四十七話[青空の木陰](2014/03/21 00:28)
[54] 第四十八話[青空の木陰](2014/04/26 00:37)
[55] 第四十九話[青空の木陰](2014/05/28 00:04)
[56] 第五十話[青空の木陰](2014/06/07 21:21)
[57] 第五十一話[青空の木陰](2016/01/16 19:49)
[58] 第五十二話[青空の木陰](2016/03/13 15:11)
[59] 第五十三話[青空の木陰](2016/06/05 00:01)
[60] 第五十四話[青空の木陰](2016/07/16 01:08)
[61] 第五十五話[青空の木陰](2016/10/01 00:10)
[62] 第五十六話[青空の木陰](2016/12/11 16:33)
[63] 第五十七話[青空の木陰](2017/02/20 00:19)
[64] 第五十八話[青空の木陰](2017/06/04 00:03)
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[28951] 第三十三話
Name: 青空の木陰◆c9254621 ID:90f856d7 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/09/23 00:46





「ぐがぁあああああああっ!?」


「おっ……と!」


“ショックガン”の光線を浴び、轟沈する慎二。
立ち上がりかけた姿勢のまま喰らったので、バランスを崩し、階下に転がり落ちそうになるも、階段を駆け上ってきた士郎にキャッチがてら拘束され、時代劇の悪役のような末路を辿る事はなかった。


「ふぅ……間に合った。とりあえず、縛っておくか」


そう言うと、士郎は慎二を階段下に引きずり降ろし、上着のポケットの中の“スペアポケット”から縄を取り出す。
そして、白目を剥いて気絶している慎二の身体をぐるぐる巻きに、がっちりと固く縛り上げた。
“ショックガン”を喰らった人間は、余程の事がない限りしばらく目を覚まさないが、一度慎二を取り逃がした事から、念には念をという意図のようだ。


「よしっ、これで……大丈夫だろ。あ、そうだ。のび太く……ん?」


ギュッと縄を引き絞り、決してほどける事のないように固定したところで、士郎は階上ののび太を仰ぎ見るが、一瞬その眼が点になった。


「はーっ、はーっ……はひぃ、よ、よかったぁ、上手くいって……」


慎二を仕留めた、あの雄姿はどこへやら。
踊り場の床にペタンと尻餅をつき、恐怖と不安からようやっと解放されたと言わんばかりの、実に情けない姿を晒していた。
その様子に、士郎は僅かに苦笑を漏らす。
途轍もなく勇敢だったり、かと思えば、今のように小市民的な不格好さも見せる。
相変わらずの両極端振りである。


「大丈夫か、のび太君?」


「あ、ああ、はい。なんとか……」


ややヨタヨタしながらも立ち上がり、階段を下りて士郎の下へ向かうのび太。
ふらつきがちで、ところどころに傷だの痣だのはあるものの、急を要するような身体の異常は見受けられない。精神も、疲労感以外に問題はないようだ。


「そっか、安心したよ。慎二にあんな目に遭わされてたから……あ、そうだ」


「はい?」


「どうしてあの時、いきなり慎二の前に飛び出したりしたんだ!? 慎二は爆弾持ってたんだぞ! 怪我こそしなかったからよかったものの、一歩間違えれば……!」


眉間に皺が刻まれ、静かな怒りの表情となった士郎は、そうのび太を叱責する。
あの行動で、どれだけ士郎が肝を冷やしたか知れない。
加えて言えば、のび太のあの行動は、傍目から見れば無謀な特攻以外の何物にも見えなかっただろう。士郎の怒りももっともである。
それに対し、のび太はバツが悪そうに頬を掻くと、そのまま頭を垂れる。


「あ、あ~、その……ごめんなさい。でも、この人が持ってたあれ、“こけおどし手投げ弾”だったし、両手にあったのがポケットとそれだけだったから、ポケットを取り返すチャンスかなと思って」


「こ、こけおどし手投げ……?」


「“こけおどし手投げ弾”です。あれは……」


音と光と煙しか出ない爆弾だ、と。
ごく簡潔に、のび太が“こけおどし手投げ弾”の効果を説明する。
それで、のび太の行動に一応納得がいったのか、士郎は二、三度頭を軽く上下させた。


「――――成る程。殺傷能力のまったくない爆弾だった、と。だから、喰らっても無傷だったのか……」


「はい」


「う~ん……まあ、ちゃんと謝ったし、結果的に助かったから、叱るのはここまでにしておくけど……しかし、慎二はなんでそんなモン引き当てちゃったんだ?」


「えっと、武器か何かを思い浮かべながらポケットを漁ってたから? かな? だと、思います。なんでもいいから出そうと思うと、偶にイメージで道具が出てくる事があるから……」


「へえ……ん? だとすると、慎二は、相当運が悪かった? 武器は武器でも、よりによって傷付かないハズレ兵器を引っ掴むって……」


「た、たぶん……でも、僕達にとってはラッキーでしたね」


慎二の不運が凄まじいのか、のび太の悪運が勝ったのか。
おそらく両方だろう。のび太も普段は幸薄いが、土壇場に追い込まれた時だけはギリギリで救われたという経験は枚挙に暇がない。
苦笑いを浮かべ、互いに見合わせあう二人。
だが、その直後。


「……? なんだ、この振動?」


「地震じゃない……けど、揺れてる?」


窓ガラスがビリビリと音を立て、小刻みな揺れがフロア全体に響き始めた。
二人が訝しげに首を傾げたその次の瞬間、突如天井に亀裂が走り、次いで天井が轟音を立てて崩落した。


「おわっ!?」


「うわぁああああっ!?」


咄嗟にのび太の上に覆い被さり、士郎は自らの身体を盾とする。
幸い、天井が崩れた位置は二人のいる位置から七、八メートル程度離れており、怒涛の勢いで降り注ぐ瓦礫の下敷きになる事は免れた。
しかし、埃と粉塵は勢いそのままに容赦なく襲い掛かり、士郎の制服を煤けた灰色に染め上げていった。


「ぐぅうう……ぁあ、いきなりなん……!?」


顔を上げた士郎の視線の先にあったのは、瓦礫の上に立つ影が二つ。
一つは縦に長く細い影、もう一つはそれよりも短く、透明な靄のようなものに覆われている影。
その正体など、考えるまでもない。


「セイバーに、ライダーか!」


「ッ!? シロウ、無事ですか!?」


「なんとか……っう、わ!」


身体を起こしかけた刹那、士郎の横を凄まじいスピードで何かが駆け抜けていった。
そのあまりの速度に、もうもうと漂うコンクリート塵が風圧で舞い上がり、蒸発するように吹き飛ばされる。


「シロウ!?」


「だ、大丈夫……ッ!? 待て、今のは、まさか!?」 


血相を変えた士郎が振り返ったそこには、


「う!?」


「え? ……ああっ!?」


慎二を小脇に抱え、四足獣を彷彿とさせる姿勢で士郎達を見据える、ライダーがいた。
縄で縛られた主の様子から全てを悟り、天井崩落とセイバーに気を取られた士郎の隙を突いて奪取したのだ。
士郎が庇ったのはのび太だけであり、慎二はその横に置かれていただけだったのも、これに一役買っていた。
瞬時の判断が物を言う状況では、流石に慎二まで気を回す余裕はなかった。


「……マスターがこれでは、チェックメイト寸前だったという訳ですか」


無表情そのままに呟くライダー。
ボディコンのような服装の至る所に煤けたような傷が付き、足元まで伸びる紫の髪も掻き乱したように荒れている。
本人は隠しているようだが、呼吸が不規則かつ乱雑なペースになっており、かなり疲労が溜まっているのが窺い知れる。
その姿が、セイバー相手にどれだけ劣勢に立たされていたのかを、如実に物語っていた。


「執拗に私の足元に釘を放ってきていたと思えば、これが狙いだったとは……」


「貴女の豪力を逆に利用させて頂きました。床に幾つか致命的な損傷を与えておけばおそらくは、と。賭けに近い判断でしたが」


「そうなるように知らず、誘導されていたとは、な。それならば、床が崩落する寸前、回避に徹しきっていたのも頷ける。なかなかに強かで、他力本願だ」 


「褒め言葉と受け取っておきましょう。運よく、マスターも奪い返せました。ですので……」


その瞬間、ライダーの身体がブレた。
不穏な気配を察したセイバーが一歩踏み出したが、すでに遅い。


「逃げの一手を打たせて頂きます」


身の構え通り、四足獣さながらのスピードでライダーは逃走を図った。
この場で打てる、最善の一手。
勝ち目のない、今の状況を強引に仕切り直し、必殺の再起を図るために。
脱兎の如く、その場からトップスピードで駆け出した。


「しまった! 待て!」


ライダーを追って、階段を一足飛びに駆け上がるセイバー。
凄まじい踏込のパワーに、床が足の形に陥没している。


「セイバー!? くっ、立てるかのび太君!?」


「な、なんとか!」


二人は慌てて追いかけようとするが、


「って、速い!? もう階段を上り切ってる!?」


「士郎さん、“タケコプター”で!」


走るスピードでは英霊二人には到底敵わないため、二人は“スペアポケット”から“タケコプター”を取り出す。
タケコプターの最高速度は80km/h。走るよりも断然効率がいい上、屋内移動もお手の物だ。
頭に小型プロペラを装着し、二人はセイバーの背中を追いかけるべく飛び上がり、宙を舞った。















「単なる保険のつもりが、まさか本当に使う事になるとは……」


校舎四階。
廊下の突き当たりにある壁を見据え、ライダーはそう呟いた。
穂群原にライダーが仕掛けたのは、『他者結界・鮮血神殿(ブラッドフォート・アンドロメダ)』だけではない。
そこから得られる魔力を一部流用し、隠蔽工作を入念に施した上で、いざという時のための切り札をもう一つ、設置していた。
もっとも、ライダーとしては出来るなら使いたくはない、というのが本音であった。
この切り札も自らの宝具であるが、消費する魔力が尋常ではない。
一度使えば、『他者結界・鮮血神殿(ブラッドフォート・アンドロメダ)』で収集した魔力のほぼすべてを失ってしまう。
そうなれば、これまでの努力は水泡に帰す。
結界を仕掛ける前と変わらない魔力保有量のまま、成果なしという事実と徒労だけが残される事になる。


「……しかし、なりふり構ってはいられない。まだ私は、消える訳にはいかないのですから……」


他にも、この宝具はいろいろと特徴的であり、自らの出自が判明するリスクも潜在的に存在するが、ライダーは現時点で、そのリスクを無視する事にしていた。
必要ならば、これとは別の、三つ目の宝具も解放するつもりですらある。
むしろこちらの方が、その点で言えば危険だ。
使えば、確実に自らの正体が判明するだろう。そうなれば、この聖杯戦争下における致命傷を負う事になる。
しかし、それでも尚、ライダーは命脈を繋がんとすべてを投げうって足掻きに足掻く。
彼女に護るべき『存在』がある限り、退場する気など毛頭ない。


「ライダー!」


「……来ましたか」


勇ましい声に、ライダーが振り返る。
そこには、怪訝な表情で構えを取ったセイバーがいた。


「……逃げるのではなかったのか? スピードだけならば私以上の貴女が、こんな行き止まりで立ち往生とは」


スピードだけで逃げられるのなら、苦労はない。
ライダーは、そう内心で毒づいた。


「逃げますよ? しかし、逃げるにも手順というものがあるのですよ」


ライダーが言い切ったところで、セイバーの背後から、“タケコプター”で飛んできた士郎とのび太が追いついてきた。


「シロウ、ノビタ! なぜ来たのですか!?」


「いや、なぜもなにも……慎二を持って行かれちまったし、責任は果たさないと」


「……でも、なんで四階に?」


頭に付けた小さなプロペラで空を飛ぶという光景に、ライダーは一瞬、眼帯の下で目を見開く。
飛行や浮遊の魔術は、高等魔術として扱われる。
それを如何なる原理か、一流とは程遠い魔術師の少年と、どこにでもいそうな子どもが実にあっさりとやってのけている。
僅かな驚愕を覚えたライダーであったが、それも些末事だと、無理矢理意識の底へと捻じ伏せる。
そして、着地と同時に頭からプロペラを剥がした二人から視線を外し、再度セイバーを視界の中央に収めた。


「セイバー、貴女は強い」


「……いきなりなんだ?」


「無尽蔵とも思える膨大な魔力量、圧倒的なパワーと研ぎ澄まされた剣の技量……最優のサーヴァントと言われるだけはある。私の力では太刀打ち出来ないでしょう」


降参宣言とも取れる独白に、三人は揃って頭の上に疑問符を浮かべる。
だが、降参する気などさらさらないという事は、ライダーの衰えぬ覇気が物語っている。彼女が何を考えているのか、三人はまるで読めずにいた。
そんな三人に対し、ライダーは心中で笑みをこぼすとさらに言葉を繋げる。


「おまけに、貴女方はトオサカリン主従と同盟を組んでいる」


「……こっちの内部事情は、ある程度知ってるってか?」


「偵察は、そちらの専売特許ではありませんよ?」


丁々発止。
カマかけ、探り合いのような会話が交わされ、空気が徐々に冷え切っていく。
しかし、彼女が欲しいのは、情報ではない。
『時間』なのだ。


「ですが、少々不可解ですね?」


「なんだよ?」


「その眼鏡の子どもです。不可思議な気配と微かな魔力を感じはしますが、魔術師でもない、普通の人間だというのは察せられます。明らかに聖杯戦争とは無縁の存在。しかし、そちらにしてみれば重要な存在のようです」


「…………」


あと少し。
切り札の起動まで、もう一手間がいる。
限界まで会話を引き伸ばせ。


「それに、先程から妙な道具を使っていますね。そこの二人が頭に付けていた機械、一見したところ、魔術具という訳ではなさそうです」


「……だったらどうした」


「おや、否定しないのですか。なんとも、らしくない魔術師「――――もういい」……ッ」


セイバーが話の流れを、強引に断ち切った。
腰を深く落とし、必殺の構えを再度構築。少女の闘気が、急激に膨れ上がる。
これ以上、会話による時間稼ぎは出来ない。
最終工程、魔力を流し込めば切り札が起動する。しかし、流し込んでいる僅かな間に自分は斬り伏せられるだろう。
ならば、どうする。決まっている。
あとほんの少しでいい。時を無理矢理作り出す。
三つ目の、最後の宝具を開帳して。
ライダーは、意を決した。


「せっかちですね、貴女は」


「これ以上問答を重ねても、埒が明かない。逃げる気がないのなら、それも結構。あとは互いの獲物で語り合うだけだ」


「……そうですか。では」


弓を引き絞るように、セイバーが身体を沈める。
それと同時に、ライダーも右手を動かし、目を覆い隠すように顔の前に翳す。


「私はこの『眼』で、語るとしましょう」


そしてセイバーが矢のように飛び出そうとしたその瞬間。





「『自己封印・暗黒神殿(ブレーカー・ゴルゴーン)』」





空間がモノクロームに染まり、軋んだ。


「ぐぅっ!?」


突如として、異様な重みに襲われるセイバー。
まるで鉛を全身隙間なく、がっちり巻かれたかのような重量感。前進途中の身体が前方へとぐらつく。
膝を付くまではいかないが、それでも踏み込みの勢いは完全に削がれてしまった。
さながら、飛び立つ寸前に叩き落とされた鳥のようだ。


「むぅ……ッ!? それは……その眼、魔眼か!?」


「見ての通りです。しかし、やはり貴女には通じませんか。『重圧』を掛けるのが精一杯とは」


ライダーの顔半分を覆い隠していた異様な眼帯。
それが取り去られ、隠されていた彼女の瞳が露わになっていた。
寒々しいまでに無機質な、それでいて悠久の美を秘めた宝石を思わせる、淡紫の異質な瞳。
幾多の魔眼の中でも、最高位に位置する魔眼『キュベレイ』。
その視界に入れた者を、内包した概念で一色に染め上げる魔性の瞳である。
彼女の三つ目の宝具は、実はその両の目ではなく、眼帯。
何の意味もなく、彼女は目を覆っていた訳ではない。
眼帯は、自らの意思で制御する事の出来ない、魔眼を封印するための枷なのである。


「ですが、貴女の背後には、しっかりと効いているようですね」


「え……っな!?」


ライダーの言葉に振り返ったセイバーは、絶句する。


「がっ! な、なんだ、これ!?」


「か、身体が、固まる……!?」


士郎とのび太の身体が、足元からまるで石のように固まりつつあった。
『キュベレイ』は、石化の魔眼。
魅入られた者を、容赦なく石像へと造り替える恐るべき概念兵器なのだ。
対抗(キャンセル)するには、一定以上の魔力値が必要となるが、それで石化を免れたとしても、パラメーターを低下させる『重圧』からは何人たりとも逃れられない。
“竜の因子”を解放して、魔力が満ち溢れているセイバーは『重圧』だけで済んでいるが、魔力値が底辺並みの士郎とのび太はそうはいかない。
特に、魔力の地力で士郎より劣っているのび太の方は、石化の進行が士郎よりも早かった。
既に、膝上まで灰色の石膏像になってしまっている。


「くっ!」


唇を噛みしめつつも、即座にセイバーがのび太の“竜の因子”にアクセス。
のび太の身体が淡く光を発し、共鳴作用により因子が活性化。身体が魔力で満たされる。


「うぅ……っあ、あれ? 遅く、なった?」 


発生した魔力で、石化の進行が目に見えて鈍り出した。
のび太の身から次々に生産される魔力が、石化を押し返しているのだ。
ラインを通じて、セイバーの方に流れる魔力の方が明らかに多いものの、そもそも生産量が尋常ではないので、のび太の限界魔力保有量でも勢いに乗じた対抗効果はあった。
だが、それが因子によるカウンターの限界であるとも言える。
進行を遅らせているだけで、石化が止まった訳でも、回復した訳でもないのだから。


「ぐ……くそっ!」


それに、セイバーがカバー不可能な士郎の方は、今も絶賛石化進行中なのである。
魔術回路をフル回転させているも、およそ跳ね返すのに必要な魔力は確保出来ない。
早急に大元を叩かなければ、全員の命運が尽きる。


「この……!」


再度、セイバーはライダーへと振り返る。
しかしその瞬間、セイバーは再び絶句する事になった。


「すべての手順は完了……」


笑みを浮かべるライダーの背後。
行き止まりのコンクリートの壁でしかなかったそこに、血のように赤い魔方陣が描かれていた。
『他者封印・鮮血神殿(ブラッドフォート・アンドロメダ)』の物とは明らかに違う。
禍々しいのは共通しているが、そこから漏れ出てくる気配が異なっている。


「これで、準備は整いました」


前者が甘い匂いや血臭だったのに対し、こちらからは、言うなれば『真っ白な威圧感』。
まだ解放されてもいないのに、ビリビリと、叩き付けるような重い圧力が、セイバー達の全身に伝わってくる。
ここに、ライダーの機はなった。


「これは……!」


「先程、貴女に言った言葉を、もう一度。ここは、逃げの一手を打たせて頂きます」


魔法陣が、一際大きく輝く。
『重圧』を無視して、セイバーが踏み込もうとするが、既に遅く。


「ぐぅう!?」


「うぐぅあ!?」


「うわぁあああっ!?」





「――――いずれまた、お会いしましょう」





光と呼ぶのもおこがましい程の白の暴流が、爆音と共に廊下を塗り潰した。















辺りを見渡す。
鉄筋入りの校舎の壁は無残に崩れ落ち、瓦礫の山と共に円形の大きな穴が出来上がっている。
コンクリートの床は、何かが凄まじい勢いで突き抜けて行ったように、深々と扇状に抉れており。
窓ガラスは、廊下側のも教室側のもソニックブームで粉微塵。
天井の蛍光灯も跡形もなく消し飛ばされ、校舎四階は半ば戦場の廃墟と化していた。


「……死人が出なかったのが不思議なくらいね」


「そうだな……英霊同士の戦いで、この程度の被害で済んだのは奇跡に近い」


そう評価づけるのは、紅の主従。
轟音を聞きつけ、仕事を完遂した彼女らは、一直線にここまで駆けてきた。
学校にいた全員が意識を失っているが、一人の死者も出なかったのはまさに僥倖としか言えない。
ざっと見た限りでは、命に別状はなかった。後遺症もおそらくないだろう。
事実上、多少の苦痛と多大な疲労感と共に、結界によって即座に気絶させられたに等しい。
工事すれば直る校舎と違って、人命は失ったら二度と戻っては来ない。
我ながら甘いと思いつつも、凛は、心の中で大きな息を吐いた。
それと同時に、己の横へと向き直り、視界の中央に収めた人物へ向けて、口を開く。


「……で、学校の一角をこんな滅茶苦茶にしたライダーの宝具って、なに?」


「……さて、なんなのでしょう。魔法陣が作られていた事からして、なにかしらの召喚術だとは思いますが」


「召喚術、か。その術の余波でこうなったのか、それとも呼び出された“モノ”がこれだけの破壊力を秘めていたのか……状況からして、後者か」


「突破のために威力を一点集中させていたから、隣の教室も崩れず、両端の壁に穴が空いた程度の被害で済んだのでしょう。ひとつだけ言えるのは、英霊である私ですら釘付けにする威圧感を、あの魔方陣は放っていた。つまり、ライダーが呼び出したモノとは、おそらく……」


「英霊と同格、あるいはそれ以上の神秘を纏った存在。十中八九、『幻想種』だろうな」


「ええ……」


思案顔でそう結論付けたアーチャーの言葉に頷きを返したのは、顎に手を当てたセイバーであった。
若干、身体のあちこちが汚れて埃っぽくなっているものの、負傷などはなく、五体満足そのもの。


「キャスターの件も含めれば……さて、厄介な事になった」


魔法陣が浮かび上がっていた壁は、現在風穴がぽっかりと開いている。
廊下の向こう端に同じように穴が開いている事から、魔法陣から現れた『ナニカ』と共に廊下を突っ切り、脱出を図ったものと思われる。
抉れた床に手を這わせるセイバーの表情は、真剣かつ深刻な色を帯びていた。


「ところで士郎、アンタ大丈夫?」


「まあ、なんとか……」


一方、セイバーの斜め向こう。四階教室の入口付近では、士郎が身体をさすっていた。
まるで強張りを癒すように、腕、腰、肩、両脚とあちこちを両手で丹念に揉み解している。


「まさか、石にされるとは思わなかった……凝りがひどい」


「普通は凝りじゃ済まないのよ。首元まで石化してたんだし、わたし達が来るのがほんの少しでも遅れてたら、アンタ物言わぬ石像になって一生を終えてたんだから」


「あ、ああ。その点は感謝してもしきれない。でも、石化のお陰で吹き飛ばされずに済んだし、怪我もしてない訳だしな。そこだけはライダーに」


「感謝してもいい……などと言うなよ、阿呆が。そんなものは、単なる結果論にすぎん。まったく……その緩んだ頭にはいい加減、誅を下したくなる」


アーチャーにバッサリと言い切られ、士郎は憮然とした表情となる。
なにもそこまで言わなくても、とでも言いたげだ。
しかし、アーチャーが発した次の言葉で、士郎の表情は一転した。


「第一、この一連の戦いで最も疲弊したのは、あの少年だ。身の丈に合わぬ状況に、幾度となくぶつかる事になったのだからな」


アーチャーが顎である一点を指し示す。
そこには。


「う……う~ん……」


リーゼリットに抱きかかえられ、目を回しているのび太がいた。
服があちこち擦り切れたようになっているが、目立った外傷はない。単に気絶しているだけだ。
ライダーの魔法陣が発動した際、身体の半ばまで石化していた士郎の陰にいた事で、最小限の余波を被る程度で済んだが、それでも襲い来る衝撃波を完全にやり過ごせた訳ではなかった。
圧力に押されて吹き飛ばされ、背後の壁に叩き付けられて、そのままのびてしまったのだった。


「……すまん。ちょっと舞い上がってた。考えてみれば、のび太君が一番割を喰ってたんだよな……」


「ふん……反省するだけまだマシか。だが、私に謝るのは筋違いだ」


のび太を抱え直すリーゼリットを横目に見ながら、士郎は謝罪の言葉を口にした。
横抱きに抱えられるのび太の表情は、やや苦しげに歪められている。
理由は実に単純。
ただ、呼吸がしにくくて息苦しいだけなのだ。理由は、推して知るべし。
男であれば土下座してでも代わって欲しいと思うだろう状況だが、生憎のび太はまだその点に関しては未成熟であり、しかも気を失っている状態だ。
とりあえず、呼吸困難で逝かない事を祈るばかりである。



「魔法陣による召喚術に、石化の魔眼。鎖のついた、釘のような短剣と、吸収型結界……ふぅん。なんとなく、ライダーの正体が見えてきたわね」


「とりわけ石化の魔眼は決定的だな。他はともかく、石化の魔眼が示す女性の英傑……いや、『反英雄』などまず一人しかいまい」


アーチャーの言葉に、気絶中ののび太とその寝顔をじっと観察しているリーゼリットを除いた、全員が一斉に頷いた。
ギリシャ神話に名高い、ゴルゴン三姉妹の末妹。
その美貌を妬んだとある女神の手により、凶暴凶悪な怪物へと堕とされ、最期には英雄ペルセウスに討伐された。
日本でもよく知られた、その女怪の名は。


「『メドゥーサ』……だな」


「ええ。しかし、そうなるとこれから先、彼女と刃を交える際は、難しい判断を迫られる事でしょう」


「同感だ。特に石化の魔眼への対応がな。我々英霊はともかく、マスター陣はどうしようもない」


「対症療法は……まぁ、あるんだけどね」


そう言って凛が持ち上げた右手には、時計の模様が散りばめられた布があった。
もはやお馴染みとなってしまったそれ、説明するまでもないだろう。
“タイムふろしき”だ。
校舎のあちこちに次々と現れるキャスターの骸骨兵をすべて駆逐した凛達が駆けつけた時、士郎の石化は胸元まで進行していた。
そこで、凛は咄嗟に気絶し倒れていたのび太のポケットから“スペアポケット”を取り出し、中から“タイムふろしき”を引っ張り出して士郎に被せたのだ。
焦りで表裏を取り違え、時間を進める側を被せなかったのは、僥倖だったろう。それくらい、士郎の石化の度合いはひどかった。
石化の魔眼と言えども、流石に対象の『時間』を操られてはどうしようもない。
つま先から頭の天辺まで完全に石化されていたら即死だったかも解らないが、とにもかくにも、これによって士郎とのび太は石化から脱する事が出来たのだった。


「何度言ったかも忘れたが、相変わらず、理不尽なシロモノだな。少年の道具は。とはいえ、対症療法では根本的な解決にはならん」


「そうですね。伝説のように鏡の盾で……という訳にもいかないようです。あの魔眼は、視界に収めた全てのモノに影響を及ぼすようですから」


「そうね……でも、ま、その辺はあとにしましょ。目下大事な事はそっちじゃなくて、これからどう動くかなんだから」


思案を広げるセイバーとアーチャーに、凛が冷や水をぶっかけた。
確かに、今は議論をしている場合ではない。
校舎は半壊、中にいた人間は悉く意識不明である。
素早く、適切なアクションを起こさなければ、いろいろと面倒な事になる。
凛は、ポケットから携帯電話を取り出し、そして。


「士郎。今から言う番号にかけてちょうだい」


士郎に向けて差し出した。


「は? なんでさ?」


「綺礼に後処理を頼むのよ。そのための監督役なんだし」


「いや、そうじゃなくて……なんで俺にかけさせるんだよ。自分でかければいいだろ。人の携帯なんて、そう気安くいじるモンでもなし」


「……そう、だけど……」


なぜか言葉に詰まる凛。
士郎から目を逸らし、折り畳み式の携帯電話をパカパカと忙しなく開いたり閉じたりしている。
迷っているような、自信がないような、まるで落ち着きがない素振り。
士郎は、なんとなく理解した。


「……ひょっとして、携帯、操作出来ないのか?」


「――――……、悪い?」 


プイ、とそっぽを向いて、凛は小さな声でそう呟いた。
不覚にも、ちょっと可愛いとか思ってしまった士郎であったが、そんな心境など決しておくびにも出さず。
再度携帯電話に視線を落とすと、とりあえず無言で番号をプッシュする。


「ほれ」


「……ありがと」


数回のコールの後、凛の電話が教会の物と繋がった。


「もしもし、綺礼? わたしだけど……」


凛は穂群原で戦闘があった事、その事後処理を頼みたい事を簡潔に伝える。
戦闘の経過や結果などは伝えない。そこまで言う義務はないからだ。
単にどういう損害が出ているのか、どの程度の手間が必要なのか。
渡すのは必要最低限の情報でいい。
あとは、向こうが勝手にやってくれる。


「以上よ、あとはお願い……そういえば、綺礼。アンタ、体調でも悪いの? 気分が悪そうな声しているけど……は? サバの食べ過ぎ? なによ、それ」


途中、意味不明の言葉が凛の口から漏れ、一同の首が横に傾けられる。
どうも話が変な方向へ行っているようだ。


「……まあ、いいわ。とにかく、なるべく急いでね。それから、お大事に……切れたか。切って」


「はいはい」


手渡された携帯電話の通話スイッチを切り、凛に返す士郎。
ここまで苦手なら、なんで携帯買ったんだろう……と思いもするが、藪蛇になるかもと口を閉ざす。
実に賢明である。欠点を揶揄されて、不快な気分にならない人間などまずいない。まして相手は凛である。
迂闊な一言が命取りとなる場合だってあり得る。


「さて、と。じゃ、わたしはここに残るわ」


「え、残るって……なんでさ」


「理由は二つ。ひとつは綺礼に状況を説明するため、もうひとつは、この機会に聖杯戦争の情報を得るためよ。腐っても監督役。わたし達の知らない情報を、アイツが持ってるとも限らないからね」


「ふむ、監督役にはある程度、情報が集まってくるようだからな。イレギュラーの事についても、なにかしら解るかもしれんか」


「そ。だから、アーチャーは霊体化してわたしの傍に待機しておいてちょうだい」


「了解した」


「それで、士郎はどうする? 残りたいなら、構わないけど」


「へ、あ、そうだな、俺は……」


どうしようかと、顎に手を当て考え込む。
あの神父は雰囲気からして苦手だが、聖杯戦争の情報が手に入るかもというのは魅力的だ。
凛の口振りからして、凛と自分が共闘しているというのは、向こうも薄々察しているらしい。
同席したからといって、どうなる訳でもないが、あの神父は自分に興味を持っているようだから、探り針くらいにはなるだろう。
それに、慎二の処遇も気になる。
もっと先の話になるだろうが、仮に慎二から令呪を剥奪し、保護の名目で神父に突き出した場合、どういった処置がとられるのか、士郎は知りたかった。
外道と化しても、一応まだ友人であると思っているし、桜の兄である。せめて便宜くらいは図っておきたいという意図があった。


「俺も残る」


「そう、解ったわ」


士郎の返答に頷きを返すと、凛は、今度はセイバーへと向き直った。


「それから、セイバーとリズ、あとのび太は……」


「歩いて戻ります。その方がいいでしょう」


言を遮り、セイバーが簡潔に述べた。
“どこでもドア”を使えば手っ取り早いのだが、今、この場はおそらくキャスターに監視されている。
そもそも魔術の類ではないので可能性は低いが、万が一にもひみつ道具の詳細を暴かれるのはまずい。
そのリスクを考えれば、このまま歩いて帰った方が時間は掛かるが安全である。
既に凛達が突入した際に“どこでもドア”で移動してきた瞬間を見られているだろうが、そうだとしても何度も見せてやる必要はない。


「流石ね。わたしが言うまでもなかったか」


「シロウ。不測の事態が起こった場合は、令呪で召喚を」


「あ、ああ……解った。三回を惜しむ理由も、必要もないしな」


セイバーの言葉に、士郎は躊躇う様子もなく、素直に頷きを返す。
のび太が味方にいる今、事実上、令呪を無限に使える状態だ。
一度に最大三回までの行使が限度ではあるが、もし使い切っても“タイムふろしき”を被せて使う前の状態に回帰させれば、あっという間に元通りに補充する事が出来る。
これまで令呪の運用であくせくしていた、過去のマスター陣涙目である。


「それから……リーゼリット、ノビタをこちらに」


「…………なんで?」


「そのままでは、護るまでもなくノビタが窒息死しそうです」


そのおそろしく無駄に発達したスタイルのせいで、とセイバーが言うと、リーゼリットはしゅんとした表情となった。
自分の親切心からした事が裏目に出たので、申し訳なさを感じたようだ。
若干、凛の眉根がピクリと跳ね上がったが、さもあろう。
この場にいる女性の中では、将来の可能性も含めて凛が最も「黙れ」……了解。


「私の背中に乗せてください、背負っていきます」


「……わかった。はい」


のび太の身体がセイバーの背中へと預けられる。
セイバーはそのまま、一旦腰をかがめてのび太を抱え直すと、両腕でしっかりとのび太の脚を抱え込み、背中の重みを固定した。


「うぅ……ん……」


振動に反応したのか、のび太の寝言のような声を上げる。
セイバーの肩にコテンと乗せられたのび太の顔は、血色が戻ってきていた。
腕は力なくダラリと前方に投げ出されているが、ずり落ちるなどという事は間違ってもなさそうだ。


「……なんともまあ、ノンキな寝顔してるわねぇ。なんか腹立つわ。叩き起こしてやろうかしら」


「おいおい……」


無茶苦茶な凛の台詞に、士郎が何とも言えない表情となる。
歯に衣着せぬ物言いが、らしいと言えばらしいが、厳しいようでいて、その根っこは意外に甘いところがあるのが遠坂凛である。
本気の発言ではなく、単なる愚痴のようなものであったらしく、実際に行動に移す事はなかった。


「ではシロウ、リン。我々は戻ります」


「ええ。気を付けてね」


「のび太君の事、頼むな」


「うん」


一方は残り、もう一方は帰路へ。
穂群原の校舎で行われた、騎乗兵・魔術師入り乱れての攻防は、こうして幕を閉じたのだった。















――――――確かに幕は下りた。そう、表の舞台の幕は。
だが、この聖杯戦争には『舞台裏』が存在する。
戦争に潜む黒幕の踊る、その存在のためだけの、奈落の底のように漆黒に染まった舞台が。










「お、おま、え、は……!?」




「よぉ、久しぶりだなぁ……クソガキよぉ」










その誰の認識も及ばぬ段上で。




「ああ、こうしてツラ合わせんのは、初めてだったなぁ。んじゃ、自己紹介といくか。ケケ、その右から左によく抜ける両耳かっぽじって、一言一句漏らさず脳ミソにでも刻み込んどけ。オレの名は――――――」




異邦人たる少年が、聖杯戦争の“闇”と、二度目の邂逅を果たす。






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