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No.28951の一覧
[0] ドラえもん のび太の聖杯戦争奮闘記 (Fate/stay night×ドラえもん)[青空の木陰](2016/07/16 01:09)
[1] のび太ステータス+α ※ネタバレ注意!![青空の木陰](2016/12/11 16:37)
[2] 第一話[青空の木陰](2014/09/29 01:16)
[3] 第二話[青空の木陰](2014/09/29 01:18)
[4] 第三話[青空の木陰](2014/09/29 01:28)
[5] 第四話[青空の木陰](2014/09/29 01:46)
[6] 第五話[青空の木陰](2014/09/29 01:54)
[7] 第六話[青空の木陰](2014/09/29 14:45)
[8] 第六話 (another ver.)[青空の木陰](2014/09/29 14:45)
[9] 第七話[青空の木陰](2014/09/29 15:02)
[10] 第八話[青空の木陰](2014/09/29 15:29)
[11] 第九話[青空の木陰](2014/09/29 15:19)
[12] 第十話[青空の木陰](2014/09/29 15:43)
[14] 第十一話[青空の木陰](2015/02/13 16:27)
[15] 第十二話[青空の木陰](2015/02/13 16:28)
[16] 第十三話[青空の木陰](2015/02/13 16:30)
[17] 第十四話[青空の木陰](2015/02/13 16:31)
[18] 閑話1[青空の木陰](2015/02/13 16:32)
[19] 第十五話[青空の木陰](2015/02/13 16:33)
[20] 第十六話[青空の木陰](2016/01/31 00:24)
[21] 第十七話[青空の木陰](2016/01/31 00:34)
[22] 第十八話 ※キャラ崩壊があります、注意!![青空の木陰](2016/01/31 00:33)
[23] 第十九話[青空の木陰](2011/10/02 17:07)
[24] 第二十話[青空の木陰](2011/10/11 00:01)
[25] 第二十一話 (Aパート)[青空の木陰](2012/03/31 12:16)
[26] 第二十一話 (Bパート)[青空の木陰](2012/03/31 12:49)
[27] 第二十二話[青空の木陰](2011/11/13 22:34)
[28] 第二十三話[青空の木陰](2011/11/27 00:00)
[29] 第二十四話[青空の木陰](2011/12/31 00:48)
[30] 第二十五話[青空の木陰](2012/01/01 02:02)
[31] 第二十六話[青空の木陰](2012/01/23 01:30)
[32] 第二十七話[青空の木陰](2012/02/20 02:00)
[33] 第二十八話[青空の木陰](2012/03/31 23:51)
[34] 第二十九話[青空の木陰](2012/04/26 01:45)
[35] 第三十話[青空の木陰](2012/05/31 11:51)
[36] 第三十一話[青空の木陰](2012/06/21 21:08)
[37] 第三十二話[青空の木陰](2012/09/02 00:30)
[38] 第三十三話[青空の木陰](2012/09/23 00:46)
[39] 第三十四話[青空の木陰](2012/10/30 12:07)
[40] 第三十五話[青空の木陰](2012/12/10 00:52)
[41] 第三十六話[青空の木陰](2013/01/01 18:56)
[42] 第三十七話[青空の木陰](2013/02/18 17:05)
[43] 第三十八話[青空の木陰](2013/03/01 20:00)
[44] 第三十九話[青空の木陰](2013/04/13 11:48)
[45] 第四十話[青空の木陰](2013/05/22 20:15)
[46] 閑話2[青空の木陰](2013/06/08 00:15)
[47] 第四十一話[青空の木陰](2013/07/12 21:15)
[48] 第四十二話[青空の木陰](2013/08/11 00:05)
[49] 第四十三話[青空の木陰](2013/09/13 18:35)
[50] 第四十四話[青空の木陰](2013/10/18 22:35)
[51] 第四十五話[青空の木陰](2013/11/30 14:02)
[52] 第四十六話[青空の木陰](2014/02/23 13:34)
[53] 第四十七話[青空の木陰](2014/03/21 00:28)
[54] 第四十八話[青空の木陰](2014/04/26 00:37)
[55] 第四十九話[青空の木陰](2014/05/28 00:04)
[56] 第五十話[青空の木陰](2014/06/07 21:21)
[57] 第五十一話[青空の木陰](2016/01/16 19:49)
[58] 第五十二話[青空の木陰](2016/03/13 15:11)
[59] 第五十三話[青空の木陰](2016/06/05 00:01)
[60] 第五十四話[青空の木陰](2016/07/16 01:08)
[61] 第五十五話[青空の木陰](2016/10/01 00:10)
[62] 第五十六話[青空の木陰](2016/12/11 16:33)
[63] 第五十七話[青空の木陰](2017/02/20 00:19)
[64] 第五十八話[青空の木陰](2017/06/04 00:03)
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[28951] 第二十九話
Name: 青空の木陰◆c9254621 ID:90f856d7 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/04/26 01:45





ガチャリ、と野比家のドアが勢いよく開き、買い物篭を下げたドラえもんが駆け足で入ってくる。
物音に気づき、居間の襖から顔を出した玉子は、それがドラえもんだと解ると声を掛けた。


「お帰りなさい、ドラちゃん。早かったわね」


「ただいま戻りました、これ頼まれていたモノです!」


「あ、あら? どうしたの、そんなに慌てて?」


買い物篭を渡すな否や、一目散に二階への階段を駆け上るドラえもん。
玉子が呆気に取られるのも束の間、その後を追いかけるように、新たな人影が玄関から現れた。


「お邪魔しま~す!」


「おっじゃまっしま~す!」


「お、お邪魔します」


しずか、ジャイアン、そしてスネ夫。
玉子への挨拶もそこそこに野比家へと上り込み、足音高く、ドタドタと廊下から階段へ駆けていく。
いったい何事かと、玉子は、ポカンとその場に立ち尽くしてしまう。


「あ、おばさん。今日もきれいですね」


「あ、あらあら……!」


駆け抜けざまに投げられたスネ夫のお世辞に、満更でもない様子の玉子。
突然の慌ただしい来訪への疑問も、それで幾分飛んだのか、鼻歌でも歌いだしそうな表情で台所へと足を向ける。


「……? そういえば、のびちゃんがいなかったわね?」


と、ふと、本来ならばあの面子の中にいなければおかしい、自分の息子がいない事に気づき足を止めると、二階へ向かって声を張り上げた。


「ドラちゃ~ん、のび太はどうしたの?」


「――――あ、はい!? み、見かけませんでしたけど、そのうち帰ってくると思います!?」


「…………?」


やけに慌てた様子の返答に玉子は首を傾げるも、特にそれ以上追及する事もなく、そのまま台所へと引っ込んでいった。










「うーん……家の中にはいないし、靴もなかった。という事は……やっぱり」


部屋へと戻ってきたドラえもんは、右隣にあるのび太の机へと目を向けた。
机の上に乗っている書置きのメモ用紙は、よくよく見れば自分が置いた時の位置と一寸たりともズレてはいない。
つまり、のび太は、この書置きに目を通していないのだ。
ドラえもんの表情が、厳しいものへと変貌する。
そこへ、後を追いかけてきた三人が飛び込んできた。


「おいドラえもん、のび太やっぱり……」


「うん、どうやらアーサー王に会うために“タイムマシン”に。 ……マズいなあ」


「マズいって、何がマズいのドラえもん?」


スネ夫の問いに答える代わりに、ドラえもんは、机の上の書置きを手渡した。
パッと開いたメモ用紙を、しずかとジャイアンがスネ夫の横から覗き込む。


「……ドラちゃん。この時空乱流って、もしかしてククルの時の……」


「うん。それだよ。ちょっと前に、タイムパトロールから通達が来てたんだ。大規模な時空乱流が起こってるから“タイムマシン”は使わないように、って。もし巻き込まれでもしたら大変だからね」


「たしかポコの時もそれっぽいのに……つーかさ、そんなポンポンと起こるモンなのかよ? 時空乱流って」


「時空間に関しては、二十二世紀の科学でも解ってない事が多いんだよ。時々起こる時空乱流についてもね」


時空間には、例えば『支流』という、タイムパトロールが未だ把握しきれていない、所謂抜け道のようなものが存在する。
以前、ドラえもん達が出会った昆虫人類は、この『支流』を使って、タイムパトロールの監視網を掻い潜り、時空間の自由な航行を可能としていた。
他にも、七万年前の人間が時空間に迷い込んた末に現代に辿り着いたり、地球から遠く離れた星のロボットが次元の壁を超えて漂着したりと、時空間に係わりのある原理不明の事象は数多い。
まだまだ謎や秘密が隠された超空間、それが時空間なのである。


「じゃあ、のび太さんは時空乱流が起こっている事を知らないで、“タイムマシン”に?」


「そうみたい。なにしろ、僕が置いておいたメモが最初の場所から一ミリも動いてないんだもの」


「つまりのび太は、このメモを見てないって事かぁ。でものび太なら案外、大丈夫なんじゃない? ほら、このSSのコンセプトって『大長編のノリ』なんだし、大長編だとのび太、頼りになるし――――あ痛たッ!? な、なんでいきなりぶつのジャイアン!?」


「うるせぇ! スネ夫、お前のび太が心配じゃねえのかよ!?」


「そ、そうじゃないけど、そもそものび太、本当に“タイムマシン”に乗ったの!?」


「……あ、そっか!」


指摘されて、ハタと気づいたドラえもん。
のび太が本当に“タイムマシン”に乗って行ったのかどうか、その確認をまだしていなかった。
ドラえもんは“タイムマシン”のある、のび太の机の引き出しに急ぎ足で向かう。
“タイムマシン”を使っていなければ、まだ引き出しの中に“タイムマシン”が待機しているはずで、使っていればその逆。
何事もなく“タイムマシン”が鎮座している事を祈りつつ、ドラえもんは引き出しを開け、中を覗き込む。
……が。


「――――――あぁあっ!?」


「な、何? なんなの?」


「どっ、どうしたドラえもん!?」


突然の絶叫に、慌てて駆け寄る三人。
机の引き出しに首を突っ込んだ体勢のまま固まるドラえもんの脇から、めいめい中を覗き込むと、皆一斉に硬直した。





あり得ない方向に捻じ曲がったバー。





見るも無残に引き千切られたコード類。





凹み、歪み、原形を留めない程に変形してしまった外装。





罅割れて、もうもうと黒い煙を吐き出している画面パネル。





ところどころが砕け、幾筋もの亀裂の走った床のボード。





『ピ……ピ、ガガ……ピ……ノビ……ノノビ……タサ……ガガ、ピ、ガガ…………』





あちこちから火花を散らし、満身創痍といった体で時空間に待機する“タイムマシン”が、そこにはあった。




















「いや~、ごめんね士郎。しっかりやれって言った矢先に」


「そう思うんだったら、少しは自重してください。藤村先生。いきなり『士郎、お昼のお弁当大至急! 肉魚野菜バランスよく和洋折衷卵焼き甘めでヨロシク!!』って電話で言われて、『ヘイ、お待ちィ!』って訳にはいきませんので。まあ、どうにか間に合わせたけど」


そもそも来客中に昼飯のデリバリー頼むなよ、と溜息混じりに机の上に風呂敷包みを乗せる、制服姿の士郎。
両手を合わせて謝罪と感謝の意を示しつつも、チラチラと横目で包みを確認し、鼻をヒクつかせる大河にますます力が抜けてくる。
ガシガシ、と髪の毛を乱雑に掻き回し、チラリと背後の壁に取り付けられた時計を確認。
丁度、四時間目が終了しようという時間。昼時タイムリーだ。
ああ、きっと虎の胃が猛ってるんだろうな、メシ寄こせって。


(……本能にイイ感じに素直な点は、そろそろ改善してくれよ)


穂群原の職員室の壁にぼんやりと視線を散らしながら、半ば投げやりに士郎は思った。


「ところでさ、士郎」


「んー?」


呼びかけられて大河に視線を戻した士郎は、大河が自分の傍らに目を向けている事に気づいた。
どうやら怒ってはいないようだが、意外には思ったらしい。
一応問題にならないよう、事前に事務室で許可は貰っているし、話も通ってはいるのだが、まあそれも当然だ。


「どうして、のび太君とフー子ちゃんがここにいるの?」


「あ、えと、その……け、見学、です。し、士郎さんの学校って、どんな学校なのかなぁって、お、思って。ア、アハハハ」


「ん」


のび太の言葉を肯定するように頷くフー子。
士郎のお使いに便乗する形で、のび太とフー子は穂群原の敷居を跨いでいた。
無論、今述べた理由は、単なるでっち上げであり、建前。
真の目的は、別にある。


「ふ~ん……じゃあ、穂群原の第一印象ってどんな感じだった?」


「え? あ、う~ん……あ、あんまり、堅苦しくない学校、かな?」


藤村先生みたいな先生って見た事ないし、という言葉は飲み込んで、のび太はそう答えた。
のび太の通う学校の先生は、担任を代表として厳格かつ真面目そのもの、悪く言えばカタブツの先生が多い。
大河のような大らかで、妙にアグレッシブな先生はそうそうお目にかかった事がない。
それ故の、この返答であった。
というか、大河のようなタイプの先生ばかりがいる学校というのも、それはそれで大いに問題があるだろう。


「そ? じゃあ、のび太君も中学卒業したら、ここに入学する?」


「う、う~ん……僕ん家、遠くにあるから……」


「あ、そうなんだ……うーん、残念」


本当に残念なのかよく解らない、軽い調子で大河は唸る。
と、今度はのび太の隣のフー子に目を移した。


「あれ? そういえばフー子ちゃん、朝と格好が違うけど?」


「あ、ああ、それは……遠坂がはりきったんだよ。『せっかくだから、オシャレしましょ!』とか何とか言って、かなり悪ノリしてた」


「へえ~。うんうん、とっても可愛いし、すごく似合ってるわよ。遠坂さん、グッジョブ!」


「…………ッ」


朝までは、復活した際に身に纏っていた浅黄色のワンピース姿だったが、今の装いは違う。
来客用のスリッパを履く足には、黒白のストライプニーソックス。
無地のシャツの上から白いパーカーを羽織り、濃紺のデニムのハーフパンツを皮のベルトで止めている。
何より特徴的なのは、鮮やかなオレンジの髪に結われた、後頭部の大きなピンクのリボンだ。
それが見た目の年相応の可愛らしさを一層引き立て、将来が楽しみな美少女としてフー子を際立たせていた。
なにやら面映そうに頬を掻くフー子に、大河の目じりがますます下がる。


「で、これからどうするの士郎? もう帰る?」


「ああいや、もう少しのび太君達に学校を案内するつもりなんだけど。大丈夫だよな?」


「うん、別に大丈夫だけど、一応昼休みの間だけね。士郎はともかく、のび太君達は本来部外者だから、今日みたいな平日にはあんまり長居させられないのよ。ゴメンね?」


「あ、いえ大丈夫です。こっちこそ急に……」


「いーのいーの、それくらい。念のため、話は通しておくから。で、士郎の手にあるもう一つの袋はなんだ?」


「ん? ああ、これは俺達の昼飯。どっか場所借りて食うつもりだったんだけど」


目敏い大河に呆れながらも、律儀に答える士郎。
ふんふんと頷きを返しつつ、ちょっぴり残念そうにブツを見つめる大河の胸の内を、士郎は正確に見透かしていた。
すなわち。


(これも食うつもりだったな……)


少しは自重してくれ、と。
出かかった溜息を飲み込み、士郎は扉の方へ踵を返した。


「じゃあもうすぐ昼休みだし、行こうかのび太君」


「あ、はい! し、失礼します。行こう、フー子」


士郎に促され、コクン、と頷くフー子の手を握ると、のび太は士郎の後をついて職員室を後にした。




















『……藤村先生のお使い、ね。それなら、ついでにちょっとライダーの結界を調べてきなさいな。のび太も連れてね』



『のび太君も?』



『お呼びでないわたしは出て行けないしね。たぶん、結界の天敵はのび太の“あの道具”よ。学校の人間全部、人質に取られてるようなものだから下手には動けないけど、いざという時の保険にのび太は必須よ。あんたにのび太のポケット持たせたって、きっと持て余すだけだろうし、適当に口実作って連れて行きなさい。それと、こっちもね』



『こっち、って……』




















「成る程ね……意識して見てみると、はっきり解る。それにこの、不自然に甘い匂い……なんで気づかなかったのかね」


鼻をヒクつかせ、納得顔で廊下を歩く士郎。
後ろから、手をつないだのび太とフー子がゆっくりとついてくる。


「どうかしたんですか?」


「ん? いや、結界の気配……というか、効果というか。そんなのを感じるんだよ。こう、改めて意識を集中すると、さ。人の様子とか、甘い匂いとか」


「匂い……? 別に感じないですけど?」


クンクン、と鼻を動かすのび太だが、士郎の言うような匂いなどまったく感じられない。
こういった魔術的な素養が必要な感覚を、のび太は持ち合わせてはいないからだ。
蛇は体温を感知出来る器官を持っているが、人間は持っていない。それと同じ事である。
よしんばのび太に素養があったとしても、果たして同じものを感じ取れるのかと問われれば、答えは否。
この手の感覚には個人差がある。
甘い匂いというのも、あくまで士郎が主観的に感じられる感覚なのであって、別の人間も同じく甘い匂いを感じるという訳ではない。


「まあ、匂い云々はその手の力がないと解らないと思うけど、結構まずい状況になってるのは間違いない。匂いが解らなくても、周りの人を注意深く見回してみると解るよ。ほら」


そう言って士郎が指差したのは、ある一つの教室。
丁度そこでは、数学の授業が行われていた。


『――――であるからして、ここの数字が……』


『…………』


担当教師によって黒板に書かれていく文字を、生徒はペンを走らせてノートに書きとってゆく。
しかし、それを満足に行えているのは、精々数人程度。
大半の生徒は欠伸を噛み殺していたり、頬杖をついて溜息を吐いていたり、机に突っ伏して微睡(まどろ)んでいたりと明らかに集中力が欠けていた。


「皆、疲れがたまってるような感じだろ?」


「はぁ……うーん、でも、今お昼前ですし、ああなっても無理ないんじゃ? 僕も眠たくなるし」


「それだけじゃない。何よりおかしいのは、あの黒板に式を書いてる先生の方なんだ」


「先生の?」


「ああ。あの先生、かなり厳しい事で有名なんだよ。居眠りなんかしたら、間違いなく怒鳴り声が飛んでくる。そんな先生が、だらけてる生徒に対して注意も怒りもせずに、ズルズルと授業を進めてるんだ」


そう言われて、のび太は、担任の先生が同じような事をしている光景を思い浮かべてみた。
自分の席は教室の前方、教卓のすぐ近くにあり、嫌でも先生の目に入る。
そこで自分は教科書も広げず、スヤスヤと寝息を立てて、夢の世界へと旅立っている真っ最中だ。
にも拘らず、先生は淡々と『えー、ここの数字が……』などと板書をし、自分に向かって雷を落とす事はない。
自分が視界に入っているのは確実なのに、いつものような凄まじい剣幕で起きろとも、廊下に立ってなさいとも言わない……。


「確かに……おかしい」


「……今の間がちょっと気になるんだけど……まあ、そんなところだよ」


逆に心配になっちゃうなぁ、と呟くのび太に視線をやりながら、士郎はカリカリと頬を掻いた。
と、丁度その時、


「あ」


「ん……四時間目が終わったか」


終業のチャイムが校内に響き渡った。
あちらこちらの教室からガタガタ、ガガーッと机や椅子を引く音が鳴り、廊下には制服を着た人間が群を成してごった返し始めた。


「人が多くなってきたな……とっとと移動しよう」


「あ、はい」


目指す場所まで、まだそれなりに距離がある。
それに、それぞれの腹具合もいい感じに鳴り始めていた。
三人が、やや急ぎ足に歩き出そうとした瞬間、


「おーい、衛宮!」


「ん?」


後ろから声が飛んできた。
振り返ると、茶褐色のおかっぱ頭の女生徒が廊下の向こう側から手を振り、こちらに向かってきていた。


「美綴?」


「おお、やっぱり衛宮だったか。今日は休みだって、藤村先生からチラッと聞いてたんだけど、ありゃアタシの気のせいだったか?」


「いや、休みで合ってるぞ。他ならぬ、その件の教師のお使いでな。弁当のデリバリー。休みだったのを引っ張り出されたんだよ。もう済んだけど」


それで納得したのか女生徒は、あ~成る程……、と苦笑混じりに頷いていた。
大河のアレは日常茶飯事という事なのか、妙に慣れた反応である。


「士郎さん、この人は?」


「んん? 衛宮、なんで学校に子どもが二人もいるんだ? 衛宮の子どもか?」


「……いや、あり得ないだろそれは。どうしてそんな結論が出てくる?」


「あ~……間桐との子ども、とか?」


「それは桜に対して失礼だろ……第一、のび太君は小学五年生だ。年齢的に無理があるのは見て解るだろうに」


額を押さえて嘆息する士郎。
勿論女生徒の方も本気で言った訳ではなく、ゴメンゴメンと両手を合わせて陳謝していた。


「……ん~、間桐も可哀そうに……で、結局その子達は?」


「遠縁の子だよ。親父の墓参りでね、はるばる遠方から出てきてるんだ。俺が学校を休んでるのは、ホスト役だからだ」


「の、野比のび太です。こっちは、フー子です」


自己紹介と共に、のび太は、フー子と一緒に頭を下げる。
すると、女生徒はバツが悪そうにパリパリと頭を掻いた。


「あちゃ~、先に言われちゃったか。じゃあ、改めて。アタシは美綴綾子っていうんだ。弓道部の部長をやってる」


「弓道部? 弓、ですか?」


「ああ。衛宮は一時期、弓道部に入っててね。その縁で顔見知りなんだよ」


「へぇえ~」


「衛宮はさ、実はアタシより弓が上手いんだ。でも、いきなり弓道部辞めちゃってさ。負けっぱなしなのはイヤだから、何度も再戦を申し込んでるんだけど、全然相手にしてくれないんだよな~……」


言外に、キミからも衛宮に頼んでみてよ~……、というニュアンスを含んで愚痴る綾子。
つい今知り合ったばかりののび太には、勿論そんな事をする義務も義理もないのだが、溺れる者はなんとやら、という事なのかもしれない。
言うなれば勝気な姉御肌、といった雰囲気を持つ綾子もまた、のび太にとって、あまり相対した事のないタイプの人間だ。
性格上、押しに弱いのですげなく断る事も出来ず、対処に困ったのび太は士郎に視線を向けた。


「いや、あのな……あ~、前向きに検討しとくから、その話はまた今度にしてくれ。それより、今から弓道場使っていいか? そこで昼飯食いたいんだ」


「ん? ああ、それは衛宮達の弁当なのか。別にいいよ、昼練もないし。というか、今弓道部、一時休止状態なんだよ」


「い、一時休止? なんでさ?」


士郎の目が点になる。
そもそも部活動が休止状態になった事など、士郎の記憶を掘り起こしてみても一度たりともない。
いったい何が起こったのか。


「いやぁ、ここ数日、ダウンする人間が続出してるんだよ。風邪にインフルエンザ、感染性胃腸炎と、まあ原因は色々。学年問わず、ここ数日欠席する人間が多いんだけど、弓道部は輪をかけて欠席者がヒドイんだ。それこそ、活動が立ち行かなくなるくらいにね。だから、やむを得ず、今日から部活動を一時休止にしてるんだよ」


「成る程……」


綾子の言葉にいちいち頷きを返しながらも、士郎は顎に手をやり思案する。
これも結界の影響なのだろうか、と。
確かにあり得る話ではある。
結界は、人間の活力をどんどんと吸い上げているのだから、中の人間の病気に対する抵抗力が落ちるのも解らないではない。


(……でも、弓道部員の欠席率が他より高いのはなんでだ?)


その点が引っ掛かって仕方がなかった。
些細な事ではあるが、しかし単なる誤差とも思えない。
解を導き出そうと知恵を絞るも、その手の知恵が身についていない士郎では、見当すらつかない。


「……士郎さん?」


「お~い、どうかしたか?」


と、様子が気になったのび太と綾子の呼びかけにより、士郎の意識は引き戻された。
何でもないとパタパタ手を振り、とりあえず疑問を一旦棚に上げて、弓道場の使用許可を再確認する。


「じゃあ、弓道場使っていいんだな?」


「ああ、鍵はいつものところにあるから。それと、汚しはしないだろうけど、一応出る時は掃除しておいてくれよ」


「了解。それじゃ――――――あ、そうだ」


「ん?」


そして踵を返し、弓道場へ向けて歩き出そうとする直前に、ああちなみに、といった感じで士郎は綾子に振り返った。


「弓道部の休みって、具体的にどのくらいの人数が出てるんだ?」


「へ? ああ、そうだな~……二年はアタシと兄貴の方くらいしか出てきてないな。他は全員アウト。あと一年は半分くらいが休みだ。間桐も込みで」


「そうか……桜も休みなのか。慎二は元気なんだな」


「ん~、ありゃ元気、って言うのかな? ここ二、三日、ブツブツ独り言呟いてたり、時々ヘンな薄笑い浮かべたりしてるんだけど。ある意味、別の方向で問題があるような気がするよ」


苦笑気味に語る綾子。
それなりに長い付き合いをしている士郎には、なんとなく、慎二の心情が読み取れたような気がした。
そして、同時にゾワリと薄ら寒い感覚が走り、気がつけば肌が粟立っていた。










「――――――――クク、そうか。来てたのか、衛宮……」











士郎達の左手、十数メートルほど離れた廊下の陰。
そんな事を呟く人間の暗く、粘ついたような視線に、士郎は気づかない。




















「……なんか、意識し始めると……あ~、気分が悪くなりそうだな、これ」


「はい?」


弓道場の扉を前に、ボソッと漏れ出た士郎の独り言に、のび太は視線を上げる。
しかめっ面で鼻を押さえる士郎の眉間には、深い皺が刻まれていた。


「いや、もうそこら中から甘ったるい匂いが漂ってきててね。酔いそうなんだよ。鼻もかなりマヒしてるしなぁ」


「そんなに匂い、キツいんですか?」


「まあ、この匂いを自覚しだしたらね、気にせずにはいられないよ」


諦観気味にそうぼやく士郎だが、自覚の出来ないのび太には今ひとつピンと来ない。
ふと傍らのフー子に視線を移すと、どことなく気分が悪そうに見えた。


「どうしたの?」


「……ち、の、におい」


「ち? ……血?」


士郎が甘いと感じている匂いも、彼女には血臭として感じられているようだ。
それが不快なのだろう。表情こそ変わっていないものの、のび太が握っている彼女の小さい掌は、ベッタリと嫌な汗をかいてしまっている。
知らず、のび太の背筋に冷たい物が走った。
その間に、士郎は予め回収しておいた鍵を使い、弓道場のドアを開錠した。


「さ、二人とも入って」


「うわぁ……」


扉の向こう側に広がる、だだっ広い空間を見てのび太は呆けたような声を上げた。
なにせ弓道場など初めて見るものだから、目に映る全てが物珍しい。
そして、道場の中に立ち込める木の匂いや、静かな空間に満ちる独特の雰囲気が、のび太の感嘆をさらに押し上げていた。


「そんなに珍しいかい? 弓道場」


「はい。他のところはともかく、弓道場は入った事がないですし……」


「そっか。……ま、とにかく飯にしよう」


士郎達は靴を脱いで、板敷の床へ上がると道場の中央部へと移動し、いそいそと昼食の準備を始める。
手提げの中から風呂敷包みの重箱を取り出して広げ、同時にお茶の入った水筒、それに箸と皿を用意する。
重箱には、先の大河の分とはまた別の、三人分のご飯とおかずが詰められていた。
三段重ねの一段目は、鮭や梅干し、おかかを中に封じ込めた三角むすびと俵むすび。
二段目には鶏の唐揚げや卵焼き、白身魚の塩焼きなどの肉魚類。
最後の三段目にはポテトサラダ、キンピラごぼう、ウサギの形にカットしたリンゴなどの菜類と果物といった、なんとも食欲を誘う豪勢なレパートリーが揃っていた。


「うわあ、おいしそう……!」


「…………ッ」


ご馳走を前にしてのび太は目を輝かせ、フー子はそっと生唾を呑みこむ。
士郎はそれを苦笑混じりに見やったかと思うと、徐に表情をスッと神妙なものへと変え、身体の前で両手を合わせた。
それに倣い、二人も慌てて合掌する。


「さて、それじゃあ……いただきます」


「「いただきます!」」


号令一下、三人の箸が一斉に重箱目掛けて突き出された。
それぞれ皿に好きな物を取り分け、口の中に放り込んでいく。


「う~ん、お~いしい~!」


梅の三角むすびを片手に、鶏の唐揚げを頬張るのび太。
下味がよく染み込んでいて、鼻に抜ける風味も食欲をさらに掻き立てる。
サラダやキンピラ、卵焼きを次々口に含み、頬をパンパンに膨らませて、のび太は至福の表情を浮かべる。


「……ッ、…………ッ」


一方フー子はというと、サラダ、唐揚げ、塩焼き、鮭の俵むすび、キンピラと順序よく、そしてバランスよく一品ずつ食している。
箸を巧みに操り、コクコクと一口一口よく味わうかのように咀嚼しつつも、時折ふにゃっ、と蕩けるように笑み崩れる様は実にあどけなく、そして可愛らしい。


「……くっ、これもか」


だが、ただ一人。
士郎だけは、なぜか料理を一品食べる毎に段々と表情が険しいものへと変貌してゆき、ブツブツと呪詛でも紡ぐかのように暗い声を漏らしていた。
いったい、何故か?
実はこの弁当、士郎が手ずから作ったものではないのだ。





『学校に弁当を届ける? ……ふむ、ならば好都合か。貴様の作る注文分とは別に、私が貴様達の分を作るとしよう。先日は思わぬアクシデントで叶わなかったが、今この場で、改めて宣言する。貴様と私、どちらが上か文字通り、確と噛みしめるがいい』





そう得意げにのたまいやがった白髪頭の幻影を振り払い、士郎は卵焼きを口へと運ぶ。
味付け……あっさりすぎず、かといってしつこすぎもせず、まさに極上。
焼き加減……弁当用に水分が滲み出ない程に焼かれていながら、それでいてとろけるような柔らかい口触りでベリーグッド。
風味……だしの使い方が的確で上手いのだろう、口の中から鼻腔にまで広がる、得も言われぬ香り高さに思わず花丸を与えたくなる。


「ちくしょう……ちくしょう……ッ!」


のび太達にわざわざ尋ねるまでもない。
目の前にまざまざと突き付けられた、揺るぎない、確固たる事実。
口だけではなかったのだ、奴の実力は。
士郎は己が舌を以て、自らの完全敗北を悟った。


「え、士郎さん? ど、どうして食べながら泣いてるんですか?」


「……いや、泣いてない。泣いてないよのび太君。ちょっと、おにぎりの塩加減がキツくてね……」


「はあ……?」


左の手に掴んでいる、おかかの三角むすびを貪るように口へと収め。
そのままグイ、と袖で目元を横一文字。
プライドを破壊されてもなお、精一杯の虚勢を張って士郎はのび太の方へ、ぎこちない笑みを形作る。


「…………」


そんな士郎の苦悩を知ってか知らずか。
頭の上にポン、とフー子の小さな掌が乗せられた。






























―――――――――――その、瞬間。






























『――――――やれ、ライダー』










『――――――ッ。 ……他者封印・鮮血神殿(ブラットフォート・アンドロメダ)』




















「―――――っな!?」




「―――――え、え!? な、なにこれっ!?」




「―――――ッ!?」




















穂群原のすべてが、血のような『紅』に染め上げられた。











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