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No.28951の一覧
[0] ドラえもん のび太の聖杯戦争奮闘記 (Fate/stay night×ドラえもん)[青空の木陰](2016/07/16 01:09)
[1] のび太ステータス+α ※ネタバレ注意!![青空の木陰](2016/12/11 16:37)
[2] 第一話[青空の木陰](2014/09/29 01:16)
[3] 第二話[青空の木陰](2014/09/29 01:18)
[4] 第三話[青空の木陰](2014/09/29 01:28)
[5] 第四話[青空の木陰](2014/09/29 01:46)
[6] 第五話[青空の木陰](2014/09/29 01:54)
[7] 第六話[青空の木陰](2014/09/29 14:45)
[8] 第六話 (another ver.)[青空の木陰](2014/09/29 14:45)
[9] 第七話[青空の木陰](2014/09/29 15:02)
[10] 第八話[青空の木陰](2014/09/29 15:29)
[11] 第九話[青空の木陰](2014/09/29 15:19)
[12] 第十話[青空の木陰](2014/09/29 15:43)
[14] 第十一話[青空の木陰](2015/02/13 16:27)
[15] 第十二話[青空の木陰](2015/02/13 16:28)
[16] 第十三話[青空の木陰](2015/02/13 16:30)
[17] 第十四話[青空の木陰](2015/02/13 16:31)
[18] 閑話1[青空の木陰](2015/02/13 16:32)
[19] 第十五話[青空の木陰](2015/02/13 16:33)
[20] 第十六話[青空の木陰](2016/01/31 00:24)
[21] 第十七話[青空の木陰](2016/01/31 00:34)
[22] 第十八話 ※キャラ崩壊があります、注意!![青空の木陰](2016/01/31 00:33)
[23] 第十九話[青空の木陰](2011/10/02 17:07)
[24] 第二十話[青空の木陰](2011/10/11 00:01)
[25] 第二十一話 (Aパート)[青空の木陰](2012/03/31 12:16)
[26] 第二十一話 (Bパート)[青空の木陰](2012/03/31 12:49)
[27] 第二十二話[青空の木陰](2011/11/13 22:34)
[28] 第二十三話[青空の木陰](2011/11/27 00:00)
[29] 第二十四話[青空の木陰](2011/12/31 00:48)
[30] 第二十五話[青空の木陰](2012/01/01 02:02)
[31] 第二十六話[青空の木陰](2012/01/23 01:30)
[32] 第二十七話[青空の木陰](2012/02/20 02:00)
[33] 第二十八話[青空の木陰](2012/03/31 23:51)
[34] 第二十九話[青空の木陰](2012/04/26 01:45)
[35] 第三十話[青空の木陰](2012/05/31 11:51)
[36] 第三十一話[青空の木陰](2012/06/21 21:08)
[37] 第三十二話[青空の木陰](2012/09/02 00:30)
[38] 第三十三話[青空の木陰](2012/09/23 00:46)
[39] 第三十四話[青空の木陰](2012/10/30 12:07)
[40] 第三十五話[青空の木陰](2012/12/10 00:52)
[41] 第三十六話[青空の木陰](2013/01/01 18:56)
[42] 第三十七話[青空の木陰](2013/02/18 17:05)
[43] 第三十八話[青空の木陰](2013/03/01 20:00)
[44] 第三十九話[青空の木陰](2013/04/13 11:48)
[45] 第四十話[青空の木陰](2013/05/22 20:15)
[46] 閑話2[青空の木陰](2013/06/08 00:15)
[47] 第四十一話[青空の木陰](2013/07/12 21:15)
[48] 第四十二話[青空の木陰](2013/08/11 00:05)
[49] 第四十三話[青空の木陰](2013/09/13 18:35)
[50] 第四十四話[青空の木陰](2013/10/18 22:35)
[51] 第四十五話[青空の木陰](2013/11/30 14:02)
[52] 第四十六話[青空の木陰](2014/02/23 13:34)
[53] 第四十七話[青空の木陰](2014/03/21 00:28)
[54] 第四十八話[青空の木陰](2014/04/26 00:37)
[55] 第四十九話[青空の木陰](2014/05/28 00:04)
[56] 第五十話[青空の木陰](2014/06/07 21:21)
[57] 第五十一話[青空の木陰](2016/01/16 19:49)
[58] 第五十二話[青空の木陰](2016/03/13 15:11)
[59] 第五十三話[青空の木陰](2016/06/05 00:01)
[60] 第五十四話[青空の木陰](2016/07/16 01:08)
[61] 第五十五話[青空の木陰](2016/10/01 00:10)
[62] 第五十六話[青空の木陰](2016/12/11 16:33)
[63] 第五十七話[青空の木陰](2017/02/20 00:19)
[64] 第五十八話[青空の木陰](2017/06/04 00:03)
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[28951] 第二十七話
Name: 青空の木陰◆c9254621 ID:90f856d7 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/02/20 02:00








『――――――よかった……生きていてくれて……!!』








『――――――その剣を取る前に、もう一度よく考えた方がいい……』










「う、ぅん……うぅ」


朝の光が閉じられた瞼を刺激し、微睡(まどろみ)の中に浸った意識を覚醒へと導いていく。
急速に眠気を奪われていく感触に、のび太は眠りの底から引き上げられた。


「……ふぁ……く、ぁぁあ……あふ」


欠伸混じりにクシクシと眦を擦りながら、のび太は布団から上半身を起こす。
冬の朝特有のひんやりとした空気が肌を撫で、布団の中で発生していた熱を拭い去っていく。
そんな冷え冷えとした感覚を覚えながらもあまり肌寒く感じないのはどういう訳だろうか。


「うぅ……むにゅぅ……ふあぁふ……ッ、っと……なんだろ。なんか……変な夢見てたような」


寝ぼけ眼のまま、のび太は先程の情景の残滓を手繰り寄せてみる。





――――赤い炎、降りしきる雨、倒れ伏す子ども、くたびれたような印象の大人の男性、どこか安堵したような声。





――――見渡す限りの草原、そよぐ風、岩に腰を下ろすフードの老人、しわがれるもどこか峻厳な声。





ブツ切りの、細切れ同然の場面場面がポツリポツリと浮かび上がり、


「うー……、さっぱり分かんないや」


とりとめのない結論に終わってしまった。
適当な映画フィルムの断片をつないだようなイメージでは、如何せん整合性がなさすぎるのだ。


「う~……っ、くっ!」


そうして訳の解らない夢なんてどうでもいいかとばかりにのび太はそのままググッと伸びをし、布団から出ようとする。
……が。


「……あれ?」


身体が上手く動いてくれなかった。
もう一度起きようとするが、何かが身体を押さえつけているようであまり動かせなかった。
服に鉄球かなにかが紐で繋げられているような、妙な重みと違和感。


「ん~……? なんか、服をひっぱられてるような……。布団の中?」


と、のび太は自分の腹の辺りに掛かっている掛布団を引っぺがしてみる。
すると。





「――――んぅ……」





柔らかい唸り声と共に、オレンジの髪が視界に飛び込んできた。
一瞬、ビクッと驚きで身を竦ませたのび太であったが、しかしそのオレンジの髪の持ち主には覚えがあった。





『――――のび太君。悪いんだけど、君の部屋でフー子を頼まれてくれるかな? 気兼ねがいらないだろうからその方がいいと思うし、それに……』





そして昨夜の就寝前のやり取りの内容も、連鎖的に思い出した。


「あ、そっか……。一気に人数が増えて、布団が足りなくなっちゃったから。うーん、今思うと道具で増やせばよかったかなぁ? 色々ありすぎたせいか、咄嗟に出てこなかったなぁ」


「うみゅぅ……のびた……」


のび太の布団にはもう一人。
昨日、奇跡の再会を果たした台風の子ども、フー子がいたのだ。
あの野暮ったい浅葱色のローブではなく、“着せかえカメラ”で出した可愛らしい黄色のパジャマを纏ったフー子は朝の冷気を嫌ったか、のび太の服の端を両手でギュッと掴み、コアラのようにしっかとしがみついて身体をピッタリと密着させる。
身体が動かなかったのはこのためであった。


「ほら、フー子。起きなよ。もう朝だよ」


「う~……」


のび太がユサユサとフー子の身体を揺り動かすが、僅かに身じろぎをしただけでフー子はすぅすぅと寝息を立て続ける。
まだまだ惰眠を貪りたいと抵抗するその様は、まるで元の世界の自分を見ているようで、のび太は何とも妙な感じがした。
そもそものび太がこんな黎明の時刻に起床するという事自体、かなり珍しい。
大抵寝坊して、その度に先生から雷を落とされる、のび太がである。
きっと違う世界に来て、知らないうちに自然と気が立ってしまっているのだろう。
だからこんなに早起きしちゃってるのかな、とのび太は頭の片隅で何気なくそう思った。


「フー子、起きてってば……って、ちょっとちょっと!? 僕が起きれないよこれじゃあ」


もう一度揺さぶってみるも、今度は逆により一層強くしがみついてきた。
む~っ、と額をグリグリとのび太の腹に押し当てながら先程よりも強い抵抗を示す。
枕元に置いていた眼鏡を掛けつつ、のび太は弱ったなぁ、と頭をパリパリ掻き毟る。
嫌がる者を無理矢理叩き起こすのも忍びないが、しかし起こして手を離してもらわなければ布団から抜け出せないのだ。
どうしたものかと頭を悩ませていると。





「――――ドララ♪」





眼鏡があったのび太の枕元で、なにかが動いた。
パッと反射的にのび太が振り返るとそこには、





「あっ、ミニドラ!」



「ドララ♪」




赤い色の“ミニドラえもん”……通称ミニドラが『おはよう』とばかりに手を振っていた。


“ミニドラえもん”


ドラえもんと同じ型、三十センチ程度大きさの小型ロボットである。
昨日の夜、アインツベルン城に殴り込みを掛ける前に留守番として置いておいたのがこのミニドラであり、今のび太の目の前にいるこの赤色を筆頭として、他に緑色と黄色の三体がいる。
のび太はこのミニドラ達に三交代制で番人と監視役を任せていたが、どうやらこの赤色のミニドラ(以後ミニドラ・レッドと便宜上呼ぶ事にする)は今現在、非番であるらしい。


「ミニドラ、ちょっとお願いがあるんだけどさ。フー子、どうにか出来ない? これじゃ起きれなくて……」


「ドララ!」


のび太の言葉に『任せとけ!』とでも言うようにポンと自分の胸を叩くミニドラ・レッド。
そして足音も立てずにいまだ夢の中にいるフー子の頭の傍まで来ると、徐に自分の腹にある“四次元ポケット”を探り、中から何かを取り出した。


「――――って、ラ、ラジカセ?」


「ドララ!」


それは一台のラジカセであった。
ただし、ミニドラサイズであるために人形遊びの小道具程度の大きさのものであったが。
訝しむのび太を尻目に、ミニドラ・レッドは再度ポケットを探り、何かを取り出す。


「ドララ!」


次に出てきたのはこれまたミニドラサイズのメガホン。
それをラジカセのスピーカーの前にセットする。
どうやら音楽のボリュームで起こすつもりのようだ。
ミニドラ・レッドは徐にラジカセのスイッチを入れると……、


「ミー、ミー……」


サッと耳を塞ぐような動作をした。
いったいどこに耳があるのかな……ではなく、音が大きいから耳を塞いだのかとぼんやり思うのび太であったが、やがてどこかで聞いたような覚えのある音楽がそれなりのボリュームで流れ始めた。
ミニドラ・レッドが片手だけを外して音を大きくし、のび太は何とはなしにそれに耳を澄ませてみる。
だがそれは悪手も悪手、しかも超最悪のパターンであった。
次の瞬間、軽快なアップテンポのイントロが終了し、耳慣れた……










『――――ホゲェ~~~~♪♪』










「うわあああああああああぁぁぁぁぁぁぁっ!!??」



「フウウウウゥゥゥッ!!??」



「ミ、ミーーー!!??」





超絶音痴のダミ声が部屋中に響き渡った。
そのあまりの衝撃に、先程までおねむモードであったフー子が物凄い勢いで跳ね起き、耳を押さえてその場に蹲る。
それと同時に、一瞬意識が遠のきかけたのび太も耳を塞ぐが、時すでに遅し。
一度喰らった衝撃は早々抜けてくれないし、スピーカーから響いてくるゴッドボイスはどんどんノリを増してくるのだ。
そして曲がサビ部分に突入したその途端、窓ガラスにビシリと亀裂が走り、扉はガタガタと震え、柱や梁がミキミキとイヤな音を奏で始めた。
より一層耳を強く押さえ、決して耳に入れまいとなけなしの努力をする三人。


「な、なんでジャイアンの歌がミニドラのラジカセに!? ああああぁぁぁ、止めて止めて消して消してえええぇぇぇぇ!?」


「う、ううぅぅみゅ……みみ、いた……!」


「ど、どらら……!?」


何故か愕然とした表情となっていたミニドラ・レッドが片手を耳(?)から外し、目がややうずまきになりながらもどうにかラジカセのスイッチを切った。
不協和音を超えた“腐恐禍音”がピタリと止み、同時に部屋の崩壊も収まってようやく元の静寂な空間が戻ってきた。


「う、うぅぅぅ……み、耳が……! あ、あああ、朝っぱらからなんてモノ聞かせるのさミニドラ!?」


「ど、ドラ……ドララ」


「え? いつの間にかあれがラジカセに入ってた? たぶんグリーンの仕業?」


「ドラ、ドララ!」


「最初は“第九”を入れてた筈なのに許せない。あの野郎、とっちめてやるって? キミ達いったい普段なにしてるのさ……?」


シュッシュッ、と怒りの籠ったシャドーボクシングを始めるミニドラ・レッド。
その様子にのび太は毒気を抜かれ、はぁあ、と深い溜息を吐いた。
ミニドラ同士の確執はさておき、のび太としてはミニドラ・グリーンが何をどうして『ジャイアン・リサイタル』の曲なぞ持っていたのか、その点が妙に気になってしまった。


「まさかジャイアンのファン……な訳ないよね。じゃあ単にイヤガラセ目的? ……うーん、いったいどこから手に入れたんだろ「フゥ」……あ」


と、考えに耽るのび太だったが唐突に横から袖を引っ張られ、そちらの方に目を向ける。
そこにはペタン、と腰が抜けたように鎮座するフー子がいた。
瞳が若干涙で潤んでいるところを見ると、先程のショックがまだ抜けきってはいないようだが一応キチンと目は覚めたようだ。
いつまでもこうしている訳にもいかないので、のび太はススッと居住まいを正してフー子に正対する。
そして。





「おはよう、フー子」



「――――おはよう、のびた♪」





朝の挨拶。
しかしその単純なやり取りの中には、それ以上のものが確と込められていた。
二度と実現する事はない筈だったこのやり取りが、現実としてある。
最悪の目覚めではあったが、ある意味では最高の目覚めでもあった。















「……む、ノビタですか。おはようございます。何かあったのですか?」


着替えと“復元光線”による補修を済ませ、居間へと向かっていたのび太、フー子、ミニドラ・レッドであったが、唐突に横から声を掛けられる。
そちらを振り返ると、たった今起きたのであろうセイバーが佇んでいた。


「あ、セイバーおはよう。何かって?」


「いえ、先程貴方の部屋から異音というか、騒音というか……妙な音が聞こえてきまして。それで今しがた目が覚めたのです」


「あ、あぁ……あれ、聞こえてたんだ」


セイバーは士郎の隣の部屋で寝起きしているのだが、英霊の敏感な聴覚は離れた位置にあるのび太の部屋からの『ジャイアン・リサイタル』を聴き取ったらしい。
言葉のニュアンスからしてそこまでよくは聞こえなかったようだが、はっきり聞き取れていたらさぞ最悪な目覚めだっただろうな、とのび太は少々の申し訳なさを感じ、パリパリと髪を掻き回す。


「えぇと、なんて言えばいいのかな……ミニドラがフー子を音楽の音で起こそうとしたんだけど、ラジカセに入ってたのがジャイアンの歌で……」


「はい? ……あれは歌だったのですか?」


「え? ……う、うん」


哀れ、ジャイアンの歌はセイバーにとって歌だと認識されなかったようだ。
のび太は心の中でそっと、今は遠い世界にいるジャイアンへ向けて合掌を送った。


「おはよう、おねえちゃん」


「ドララ♪」


と、今度はのび太の隣にいたフー子とのび太の頭の上に乗っかっていたミニドラ・レッドがセイバーに向かって挨拶をする。


「おや、フーコにミニドラ。おはようございます……、ふぅ」


「……? おねえちゃん、げんき、ない?」


「……あ、いえ。そういう訳ではないのですが。少々、夢を見まして」


「夢? どんな?」


夢を見た、という言葉にのび太はつい反応してしまう。
既に起床してから時間がそれなりに経っているため、夢の断片がギリギリ思い出せる程度にしか記憶に残っていないが、自分も変な夢を見たなと思っていたところなのだ。
しかしそれに対しセイバーの目がスッと、微かに細められた。


「――――さて。もう、忘れてしまいました」


……が、次の瞬間には何事もなかったかのように、さらりとそう言葉を返した。


「あ、そうなんだ。夢って起きたらすぐ忘れちゃうもんね。僕もさぁ、なんか変な夢を見たような気がするんだけど、もうほとんど覚えてなくて。確か、おじさんと……おじいさん、かな? そういう人達が出てきた夢……だったような」


刹那の変化に気づく事もなく、のび太は自分の見た夢について覚えている限りを語る。
セイバーはそれをジッと聞いていたが、話が進むにつれて再び、眼光が鋭くなっていく。


「えっと、それでそのおじさんとおじいさんが……なんて言ってたんだっけ? え~っと、『生きて……』とか、『よく考えろ』、だったっ、け? うーん、あー……「――――他には」……って、え?」


「他に、何か覚えていたりしませんか? たとえば色や、景色など」


「色に、景色……んん~っと……あ、そういえば。夢の最初の方で、たぶんあれは火……と……雨、かな? そんなのが「ドララ!」……あ、ミニドラ。どうしたの?」


記憶の掘り起こしに夢中になっていたのび太の頭上で、不意にミニドラがポンポンとのび太の頭を叩いて何事かを訴え始めた。


「ドララ、ドラ、ドララ!」


「え、時間がもうだいぶ経ってるから早く居間に行け? ……あ、そっか。ごめんねミニドラ。行こうフー子、セイバー」


「フ!」


「……はい」


ミニドラ・レッドからの指摘に従い、居間へと続く廊下を再びゆっくりと歩き始めるのび太達。
……だが。





「火……いや、炎と、雨。私が見たモノと、同じ。おそらくあれは……きっと、私をバイパスとして。……しかし、最後の光景だけは違う。あれは、もしや彼の……」










――――そんなに気を落とすなよ。運命は、変えることができるんだから。










前を行くのび太の背中に視線を送りながら、密やかに呟かれたセイバーの言葉は、この場の誰にも聞き取られる事はなかった。
……そして。





「ロボット、という話でしたが……はて。あれは、タヌキを模しているのでしょうか? ミニドラも同じ形ですが……」





誰かさんが聞いたら激昂モノの、この痛烈な一言も。















「おはようございま~す!」


「おはようございます」


「おはようございます♪」


挨拶と共に居間へと入る一同。
ミニドラ・レッドは番人役のミニドラ・グリーンをとっちめに行ったため、この場にはいない。最後の一体であるミニドラ・イエローは客間の一室に設置した“スパイ衛星”の前で諸々の監視を行っている。
居間には既に士郎と凛、そして昨夜からこっち衛宮邸に居を移したアインツベルン組がいた。
それぞれの前には既に人数分の出来たての朝食が並べられており、食欲をそそる何ともいい香りがのび太達の鼻孔を擽る。
昨日、バーサーカーとの決戦の前に買い出しを行ったため、材料の備蓄は十分である。


「おう、おはよう」


「おはよ。もう少し寝てるかと思ったんだけど、案外早く起きたのね」


「あはは……いつもは寝坊ばっかりなんですけど、ここに来てからなんか目が冴えちゃって。イリヤちゃんとセラさん、リズさんも、おはよう」


「おはようノビタ」


「おはようございます」


「おはよう……フーコも」


「フゥ♪」


朝の挨拶を滞りなく終え、それぞれ卓につく。
ただし、如何せん人数が人数だ。
卓自体がそこまで大きいものではないため、結果的に隣り合う人間との間隔はかなり狭いものとなっている。
当初セラ、リーゼリットの従者二名が、主と卓を同じくするのは不敬であるとして別の場所で食事を摂ると主張していたが、家主である士郎がそれを却下した。


「別にいいじゃない、ここはお城じゃなくてシロウの家なんだから。『郷に入っては郷に従え』……だったかしら? ここは郷に従うべきよ」


イリヤスフィールもこれに追従したため、結局総勢九名が一斉に卓を囲む事となった。
……のだが、この場の人数は八名。一人が欠けている。


「あれ? アーチャーさんは?」


「もう来るわよ。……ふっ、くくっ……」


「リン? どうしてそこで笑うのですか?」


忍び笑いを漏らす凛に、セイバーが疑念混じりの視線で問いかける。
凛は手で口元を押さえながらも手をパタパタと振り、


「すぐ解るわよ。正直、想像するだけでもう、こう……ね! くくっ」


「……?」


解ったような解らないような答えを返すのみ。
だがこの数秒後、居間の戸が再度音を立てて開けられた事で、この凛の態度の訳が皆々の腑に落ちたのであった。





「――――これでいいのだろう、凛?」



『…………』





瞬間、時が凍りつく。
現れたのは件の男……アーチャー。
スッと音もなく入ってきた彼の姿に、一同はまるで咽喉がピッタリと接着されたかのように声も出せずにいる。
いったい何故なのか。
それはその身に纏われていたのが、見慣れたあの黒の軽鎧に真紅の外套ではなかったからだ。


「あ、アーチャーさん……その、恰好って」


「……凛から、朝食を取るならセイバーと同じように普通の服を着ろ、とのお達しでな、少年」


「これは……スゴイな、いろんな意味で」


「それは皮肉か、小僧……?」


黒のワイシャツに黒のズボン。
オールバックの白髪を重力に委ねるように前に降ろし、諦観の念と若干の怨みのない交ぜになった瞳で士郎を睥睨する。
完全無欠の、スタイリッシュな恰好に身を包んだ弓の英霊がそこにいた。
……が。


「――――なんか、違和感が服を着て歩いてるみたいね、まるで」


「そうですね……普段の恰好がアレですから。私もお嬢様と同じような印象を受けてしまいます」


「うん。ヘンな感じ」


「……純白のメイド衣装という、およそ日本家屋には似つかわしくない恰好の君達が言えた義理か?」


そう、違和感が半端ではないのである。
例えるなら、いい歳した大人が七五三の礼装を着込んで闊歩しているようなものだろうか。
服を着ているのではなく、服に着られているというか……とにかく、そんなチグハグ感を一同はアーチャーから感じ取っていた。
凛の笑いが目下再燃しているのもむべなるかな、である。


「しかし……違和感はともかく、こうして見てみれば、貴方は意外と若いのですね」


「……君が私をどういう目で見ていたのか甚だ疑問なのだが、それはさておこう。セイバー、前にも言ったかと思うが私のこの姿は二十代のものだ」


「まぁ、オールバックの髪を降ろせばそう見えなくもないな。あれが老け……渋い印象の一要素だしな」


「……今のも敢えて聞き流そう。髪も降ろして少しは若々しく見せろとの暴君(あるじ)からの指示故、だ。……まったく、何度も言うが元々サーヴァントに食事など必要ないというに」


「まあそう言わない。のび太も言ってたでしょ? 『みんなで食べた方が楽しい』って。それに……アンタ、治り切ってないでしょ。身体と魔力」


「……ふん」


含み笑いのまま、出されていたお茶を啜る凛の言葉にアーチャーは軽く鼻を鳴らすと、そのまま卓に着く。
昨夜の決戦。虎の子の一撃を放ち、マフーガの身体を寸断したアーチャーは一見ダメージを負っていないように見えて、その実かなりの消耗を強いられていた。
『偽・螺旋剣(カラドボルグⅡ)』に魔力を限界まで詰め込んで放ったため、その反作用からくる負荷で体内に相当の損傷を被(こうむ)っている。
その上ほぼ魔力が空の状態のままで、マフーガへと突っ込んでいったのだ。
あの戦いで、ある意味最も身体を張っていたのがアーチャーであり、そして一晩経った今なお完全に回復したとは言い難い状態なのである。
それを的確に見抜いていたが故の凛の言葉……なのだが。


「ありがたいんだか、ありがたくないんだかよく解らない気遣いね。そもそもリン、どうしてアーチャーを着替えさせたの?」


「ああ……それね。ちょっと前に士郎と話してたんだけど、これから来る人物に一芝居打つためよ」


「お芝居……? それに、これから来る人って? えーと、桜さんですか?」


「いや、桜じゃない。さっき連絡があって、今日も来れないって電話口で謝られた。もう一人の方……通り名を“冬木の虎”、藤ねえこと藤村大河だ」


「トラ……ですか? あの、シロウ。それはどういう……?」


セイバーの追及を士郎は『待った』と手を翳す事で遮る。
そして一度、グルリとこの場の全員を見渡すと一拍置いて再度口を開いた。


「もうすぐ一人、朝飯を食いに俺の家族……いや、ある意味姉? って言うべきなのか? まあ、そんな人が来るんだけど……正直この大所帯じゃ、隠し通すのはちょっと厳しいと思う。あれでいて異様に勘が鋭いし、毎日のように朝夕来てるから、いきなり帰れとか来るなとか言いづらいし……のび太君の道具をこんな事に使うのもアレで気が引けるし。そこで遠坂とちょっと話し合ったんだが、あえて皆の事を話そうと思う」


「……は? あの、エミヤシロウ? それはいくらなんでも……」


「ああ、心配しなくてもちゃんと誤魔化すところは誤魔化す。といっても俺は演技とか誤魔化しとかは下手だし苦手だから、主に遠坂先生頼りだけど」


「まあそういう訳で、とりあえず皆わたしに話を合わせて。あとはこっちで上手くやるから」


士郎に水を向けられ、鷹揚に応える凛。
ネゴシエイトスキルはともかく、口八丁で言い包めるのは得意である。
諸々の事情にも精通しているし、頭も気も回る。士郎がゲタを預けたのも解る話だ。


「はあ……あの、リン。具体的にはどうするのです?」


「それは「――――おっはよー、しろ~~~う!!」あっ!?」


と、その時玄関の方から女性の溌剌とした声が響き、凛の言葉は中断を余儀なくされた。
件の人間が訪れたのだ。士郎の想定よりも若干早いタイミングで。
口裏を合わせている時間は消えた。あとはのるかそるか、出たとこ勝負。





『…………!』





サッ、と一瞬で視線を交わす一同。


『わたしと士郎で流れを作るから、上手く合わせて』『ラージャ』


視線の交錯を言葉に直すなら、こんな感じだろうか。
いやに呼吸が合っているあたり、この超短期間で妙な連帯感が形成されている気がするがそれはともかく。





「しろ~~~~。ごはーーー…………あら?」



「……おはよう藤ねえ。まあ、とりあえず座りなよ。ほい、ご飯。それと、今日は桜は休みだ」



「はぇ? うん……うーん?」





居間の戸を勢いよく開けて入ってきたのは茶色のショートカットの、二十代半ば程と思われる活発そうな印象の女性。
改めて言うまでもないだろうが、件の藤村大河その人である。
戸を開け放った体勢のままポカンとした表情で固まっていたが、士郎から湯気の立つ茶碗を差し出された事でとりあえずフラフラと指定席に着き、碗を受け取った。
頭の上に疑問符を乱舞させつつも……おそらく疑問よりも食欲が勝ったのだろう……箸を取って、ご飯を口に運びムグムグと咀嚼し始める。
それを合図に、皆が一斉に箸を取り、朝食を摂り始めた。
てっきり最初に追及が来るものだとばかり思っていた一同であったが、どういう訳か大河は黙々と食事をし続けており、微妙に出端を挫かれた形となってしまっている。
一同がしばらく無言で箸を動かしていると(フー子とアインツベルン組は使い慣れない箸に苦心していたが。ちなみにフー子は人化した事で食事が可能となっている)、大河が早々と茶碗を空にする。


「士郎、おかわり」


「……はいよ」


茶碗を差出す大河、士郎が言葉少なにそれを受け取る。
そして山と盛られた茶碗を受け取り、彼女はご飯を一口頬張ると今度は味噌汁の碗を手に取った。


『…………』


空気が不穏な緊張感に包まれ始めている。
のび太はおろかセイバーですら箸があまり動いておらず、むしろいたたまれないような表情でモソモソと食事を行う有様。
早くきっかけが欲しい、とっとと疑問を切り出せというのが大河へ望む一同の共通の願いである。
こんな変にピリピリした空気の中での食事なぞ、砂を噛むようなものであろう。


「ねえ士郎」


「ッ!? な、なんだ藤ねえ?」


来たっ、と皆が一斉に心の中で身構える。
大河は凛、のび太、フー子、セイバー、アーチャー、アインツベルン主従をそれぞれグルリと睥睨して、


「どうして遠坂さんがここにいるの? それに、この子達は?」


ようやく最初にぶつけて当然の質問を投げかけてきた。
全員の視線が士郎に集中する。
この女性の厄介さを士郎は長年の経験から身を以て理解している。
場合によっては常識が通用しない相手であるという事も。
だが士郎達にはある意味強力なカードがある。
士郎がカードを切り、凛がそれを持ち前の神算鬼謀で以て最大限利活用。そして目標を達成する。
質問の後に一拍置いて、士郎はこう口を開いた。





「あ、いや……実は、親父の子どもなんだ」





目玉焼きをつついていたイリヤスフィールの片眉がピクリと跳ねる。
昨夜明かされた、イリヤスフィールは士郎の養父である衛宮切嗣の実の娘だったという衝撃の事実。
まだ改めて確認を取った訳ではないが、あの夜の様子からしておそらく間違いはない。
その点から話を広げていけば基本的に人の良い藤ねえの事、何とかなるだろう。
これが士郎と凛の立てた計画であった。


「へ~、そうなんだ。切嗣さんのねぇ」


ふんふんと頷きを返しながらクイ、と味噌汁を啜る大河。
およ、と一同が肩透かしを喰ったような表情になる。
もっとこう、目立った反応を見せるかと思っていたのにまさかのスルーとは。
……が。










「――――ぶっふうううううぅぅぅぅぅぅぅ!!!???」



「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉっ!!??」










そんな事はなかったのである。
大河の鼻孔と口腔から華麗な毒霧殺法が炸裂。対面に座していた士郎に甚大な被害を及ぼした。


「ゲホッ、ゲホッ、グフ……ッ!? ちょ、ちょっと士郎!? 切嗣さんの子どもってなによ!? ゴホッ!」


「う、うええぇぇ汚い……さ、流石にこれは予想外だった――――あ、すまんセラ。藤ねえ、とりあえず一旦落ち着いて話を聞いてくれ」


「これが落ち着いていられますかってぇの!! ゲホッ! そんな話、切嗣さんから聞いた事もないのにいきなり何なのそれ!? どういう事なのよしろおおおぉぉぉぉぉ!?? ゲフッ、ゴホッ!」


「うわーい、聞いてるようで聞いちゃいねぇ」


斜向かいにいたセラから無言かつジト目で差し出された布巾で、士郎は味噌の香りの飛沫を拭う。
いまだ口元に味噌汁を滴らせて咽込みながら、鬼気迫る形相……というよりは半泣きか?……で詰め寄ってくる藤村女史に辟易しつつ、手に持った布巾を手渡してどうどうと宥める。


「ちゃっちゃと説明しなさい、簡潔に説明しなさい、明確に説明しなさいしろおおおおおおぉぉぉぉぉ!!」


「だああぁぁぁぁ!? 襟首引っ掴んで揺するな藤ねええええぇぇぇ!!? 説明しようにも出来ないだろうがああぁぁああぁぁ!!?」


……も、効果なし。
ガクンガクンと揺すられる士郎。異名通り、虎を連想させるほどに妙な猛り狂い方をしている。
黄色と黒のストライプという上着の柄も後押しして、彼女の背後に獰猛な虎のイメージを幻視させていた。


「ちょっ、いいから落ち、着け……って、ああもう遠坂、頼む! バトンタッチ!」


「……はいはい」


持て余した士郎はどうにか大河を抑え込み、そのままネゴシエイター遠坂凛に全権委譲。
バトンを渡された凛は呆れの吐息を漏らしながら茶碗を置き、興奮冷めやらぬ大河に向かって口を開いた。


「藤村先生、落ち着いてください」


「……せんせい? 凛さん、この人先生なんですか?」


「穂群原の英語教師なのよ。し……衛宮くんの担任で、わたしのクラスの授業も担当してるわ」


「む、なに遠坂さん。というか、どうして遠坂さんがここでご飯を食べているの?」


「……それも含めてお話しますので、とにかく座ってください」


差し挟まれたのび太の疑問に簡潔に答えつつ、凛は大河を着座させ自らも居住まいを正す。


「まずはじめに、わたしがここにいる理由としてはこの子が関係しています」


と言って凛はイリヤスフィールを指し示した。
話を合わせるため、イリヤスフィールは大河の方に視線を向ける。


「この子はイリヤスフィール・フォン・アインツベルンといって、衛宮くんのお父様の実の子どもなんです」


「え……えぇぇええ!!? ちょ、ちょっと本当なのそれ!?」


「事実です。お嬢様はエミヤキリツグの実子。出生届も生国の役所に提出されていますし、諸々の公的な記録簿にもその旨が記載されております」


セラの絶妙な合いの手が入る。
実際、アインツベルン主従は日本に正規の手段で入国している。
偽造などの非合法手段を使って余計な煩いを抱え込まないようにするための処置だが(ただしその分裏側への防諜対策が必要)、それには国籍や住民登録の存在が前提となる。
アインツベルンは表の世界でも名家。“裏事情”はどうあれ表側の来歴や記録もきっちり存在しているのだ。
やろうと思えば照会だって可能である。手続きは面倒だろうが。


「あの、失礼ですが貴女は?」


「これは申し遅れました。セラと申します。イリヤスフィール様の身の回りのお世話をこちらのリーゼリットと共にさせて頂いております」


「……リーゼリット」


「あ、こ、これはご丁寧にどうも……日本語、お上手なんですね」


「私はお嬢様の教育係も務めておりますので。お嬢様もリーゼリットも、その点につきましては問題ありません」


従者二名が礼をすると同時に、大河も慌てて頭を下げる。
どうやらイリヤスフィールがやんごとないところの人間であると理解したようだ。
それと共に、切嗣の過去に謎が多いという事にも。


「あの……それでどうして」


「わたしの家とアインツベルンには浅からぬ縁がありまして」


それに答えたのはアインツベルン主従ではなく、凛であった。
確かにそれは間違っていない。少なくとも“始まりの御三家”同士なのだ。
どちらかといえば因縁、と言うべきかもしれないが、とにかく縁は縁である。


「衛宮くんのお父様のお墓がこちらにあると知って、わたしを頼って日本に来たんです」


「私どもは日本の地に来るのが初めてですので。奥様と死別されて以降、エミヤキリツグはお嬢様を実家に預けられたままぷつりと消息を絶ってしまいました」


ピクッ、と大河の表情が歪んだ。
やたらヘビーな内容そうだと感じたからである。
この辺りの呼吸の合わせ方と話題の持っていき方はセラのファインプレーだ。
案外、凛とセラの二人は相性がいいのかもしれない。


「ところがつい最近、彼女の実家が衛宮くんのお父さんの消息を掴んだそうなんです。既に他界していて、こっちにお墓があると。それで日本に」


「そ、そうだったの……あの、その。イリヤスフィールさん「イリヤでいいわ」そ、そう……イリヤちゃんは、切嗣さんが士郎を引き取っていた事を知ってたの?」


「……ええ。でもエミヤキリツグはともかく、シロウには取り立てて思うところはないわ。もう」


やや固い口調で語られた心情。
大河だけでなく、のび太や士郎はおろか凛までびく、と固まってしまう。
聖杯戦争の事を除けば話の大筋が合っている事実を鑑みれば、おそらくそれは本心から出たものなのだろう。
自らを捨てるように去っていった父親に対する憎悪と、義理の兄弟に対する親愛と侘しさの絡み合った歪な感情。
イリヤスフィールはそれらを持て余したまま、この聖杯戦争に臨んでしまった。
だが最初の襲撃と枯れた森での死闘、何より昨夜の異変と狂戦士の最期の言葉が、義理の兄弟に対する蟠りをいくばくか溶かし去った。
少なくとも、士郎に対しては敵意も害意も既にない。ただ、さざ波のような揺らぎがあるだけだ。
そんなイリヤスフィールの胸中を余所に、凛の語りならぬ“騙り”は続く。


「……っと、それからイリヤスフィールは数日前に日本に到着しまして、その時にどうせだからと縁者も伴って来たんです。それがこの子達」


凛がのび太、フー子、セイバーの三人を指差し、のび太達は一瞬遅れて一斉に頭を下げる。


「お初にお目にかかります。セイバーと申します。キリツグとは昔交流がありまして、故人を偲ぶため先日よりこちらに厄介になっております」


「え、えと……初めまして。の、野比のび太です」


「ボク、ふーこ、です♪」


「う、うん。初めまして。えっと、セイバーさん? も日本語が上手なのね」


「ええ、まあ。日本語の他にもあと数ヶ国語は」


その言葉に大河はへえっ、と感心したように声を漏らした。
アーサー王はイングランドのみではなく、海を越えたヨーロッパへも軍を進めているし、自身も異国の地へ足を運んている。
少なくとも欧州圏で使われている言語を理解し、操れるだけの知識とスキルは王として必要だった筈。頷ける話だ。
もっとも時代が時代なだけに、かなり古い言語体系だろうから現代で実際に通用するかは不明だが。


「えっと、のび太君と、フー子ちゃんは兄妹?」


「フ?」


「え!? あ……は、はい! ぼ、僕達はっ、兄妹です! え、エヘヘヘ……!」


コテンとフー子が首を傾げたのを誤魔化すように、のび太が慌てて返答する。
大河はふんふんと頷きを返したが、ふと頭に疑問符を浮かべる。


「あれ? うーん、でもそれにしては髪の色とか瞳の色が違うような……」


「ぎく!? ……え、えっと……そ、それは「いえ、実は彼らの家庭事情は少々複雑でして。彼らに血縁関係はないのです」……っそ、そう! そうなんです! あ、アハハ、ハハ……!」


「あ……ご、ごめんなさいっ!」


しまった、と罪悪感に染まった表情で大河は頭を下げる。
はっきり言ってまったくのデタラメなのだが、これ以上の追及を避けるには効果的な手だ。
そしてセイバーのこのファインプレーを引き継ぐような形で、凛がここぞとばかりに畳み掛ける。


「この二人は衛宮くんのお父様から援助を受けていたそうで、保護者や学校の許可を得てこちらに。セイバーやアインツベルンとも交流がありましたので、同道してきたのです」


「それで、数日前に遠坂から色々と事情を聞かされてな。一昨日の晩から皆してこっちに来たんだ。正直驚いたんだけど、俺は親父が過去どうしていたか、なんて話は今まで聞かされた事なかったし、親父はいつもアチコチ放浪してたヒョウロク玉だったからな。むしろそういう事もあったのか、って親父のアレコレに納得がいった。言うのが遅れた事は謝っておく」


「う、うーん……まあ、わたしも切嗣さんの昔の事って聞かされた事なかったからねぇ……。じゃあ、そっちの方も?」


大河が指差したのは素知らぬ顔で味噌汁を啜る褐色の男。
この場においてただ一人、アーチャーだけは我関せずといった体で黙々と食事を続行していたのだ。
豪胆と言うべきか、空気を読んでいると言うべきか……。
だが耳だけはしっかりと傾けており、話の趨勢はちゃんと理解している。


「はい。まあ正確には、彼はわたしの縁者なんですが……」


自分の事に話題が変化したな、と気づきつつも、今までの言から妙な事にはならないだろうとアーチャーはグッと一気に味噌汁を傾ける。










「――――衛宮くんのお父様とも、遠縁ですが類縁関係がありまして。名前もエミヤと言います」










「――――ぶふぅぅうお!!??」



「ぬおおおおぉぉぉぉおおお!!??」





が、突如盛大に味噌汁を噴出し、なぜか正面の凛ではなく斜め前方の士郎へと、二度目の毒霧殺法をお見舞いした。
ポタポタと、再び味噌汁の飛沫を滴らせる士郎。
加害者にジロリと視線を向けるが、今度のものは大河の時のようになぁなぁではなく、怒りと怨嗟がこれでもかとばかりに籠められていた。


「……テメェ、なんか俺に恨みでもあんのか? 咄嗟に俺の方に顔向けやがって!」


「ガハッ、ゴホッ……! な、ないとは言わん、がっ、流石に凛に浴びせる訳にはいくまい! ゴフッ!」


「だったら最初から噴くな、この野郎!」


「……無、茶を言うなっ! ゲホッ、ゴホッ!」


「あ、あの、大丈夫ですか?」


「ゴホッ、っむ……も、申し訳ない。気管に入ってしまって。コホッ」


咽るアーチャーの背中を摩る大河。
されるがままになりながらも、アーチャーはラインを通じて凛に念話を送る。


『これはどういう事だ、凛……!?』


『どうもこうも、こうしておいた方が色々と都合がいいのよ、流れ的に。とりあえず合わせなさい』


『だが、何も小僧と同じ名前でなくとも……!』


……しかし無情にも、アーチャーの念は無視された。
そしてそのまま話を続けようとする凛。アーチャーはつい漏れそうになった溜息をグッと飲み込んだ。


「こっちはイリヤスフィール達より前に所用でわたしのところに来ていたんです。それで、折角だからとその後に来たイリヤスフィール達に同行する形でここに。両者に縁がありますので」


「……そういう、事です。あ、もう落ち着きましたので……お気遣い、感謝します」


「あら、そうですか? ……あれ? ……う~ん、んん~?」


「……あの、何か?」


「ああ、いえ……あのぅ……失礼ですが、どこかでお会いした事ありません?」


「ッ!? ……いや、気のせい……でしょう。少なくとも、私に貴女との面識は……」


「はぁ、ですよねぇ。……うぅ~む?」


それでも釈然としないのか、大河は腕を組んで何やら考え込み始めた。
アーチャーは士郎から投げ渡された布巾で自らの味噌汁の飛沫を拭いながら、どこか忙しなく視線を宙に泳がせている。





「髪を降ろしたのは失敗だったか? ……だが、偶然。そう、これは偶然だ。大丈夫、まだ大丈夫……の、筈、だ……よな?」





布巾で覆われた口元がモゴモゴと動くが、そのくぐもった声はこの場の誰の耳にも拾われる事はなかった。















「……藤村先生。話を戻してもよろしいでしょうか?」


「っえ? あ、ああ、ごめんなさい遠坂さん。え~と、まあ大体事情は飲み込めたわ。つまりここにいる皆さんは切嗣さんのお墓詣りに来たって事ね。だから士郎、昨日学校休むって連絡したのかぁ」


「ああ。まあ積る話もあるし、イリヤ達ももうしばらくここに滞在する予定だから、俺もそれに合わせてしばらく学校休ませてもらうつもりなんだけど。いいよな藤ねえ?」


「うーん……ホントはダメ、って言いたいところなんだけど……家主がお客さん放っといて家を空けるっていうのもアレだから、そういう訳にもいかなさそうだしねぇ……」


ウンウン唸りながら頭を抱え込む大河であったが、結局折れて首を縦に振る事に。
ホスト役がいなくては失礼に値する上、家の人間が士郎しかいないのだ。
選択の余地など、実質あってないようなものである。


「ふぅ~……ん、あれ? え~っ、と、じゃあどうして遠坂さんはここにいるの?」


「はい? なにかおかしいでしょうか?」


「おかしいわよ。だっていくら親類がこっちに用があるからって、貴女まで士郎のところにいなくてもいいじゃないの。それに遠坂さんも学校、休んでるでしょ? ダメよ、アナタは出なきゃ」


ちっ、誤魔化されなかったか……、と凛は心の中で舌打ちする。
自分がこの場にいる事を突っ込まれるだろうとは思っていたが、いらぬ手間は少ないに越した事はない。
それだけに面倒くさく感じてしまうが、まぁやるしかないかと即座に頭の回路を切り換えた。


「しかし藤村先生、イリヤスフィールはわたしを頼ってこっちに来ている訳ですし、このア……エミヤもわたしの客人です。それを衛宮くんに放り投げたまま、というのは不義理の極みですし、わたしにも責任を負う義務があります」


「う、それは……そうだけど「それに、わたしは既に衛宮くんのところで一泊していますし」……は?」


凛の一言に大河の表情がビキリと凍りつく。
そして瞬きをニ度三度、パチパチと繰り返し凛を、そして士郎を見やる。
やや虚ろで光の消えたその目、大河の心情をこれ以上なく表現しきっていた。


「……ホントの話、なの? 士郎?」


「あ……ああ、まあ」


異様な気配を放ち始めた大河に言いよどむも、正直に答える士郎。
次の瞬間、士郎の視界が物凄い勢いでブレた。


「それってどういう事よ、しろおおおぉぉぉぉおお!! 年頃の女の子数人とお泊り会なんて、いったいどこのスケコマシだい! そんなのぜったいダメダメダメダメダメえええぇぇぇぇぇーーーーーーー!!!」


「だああああぁぁぁぁああ!!? またこのパターンか!? お、落ち着けこのバカトラっ! のび太君やそこの白髪黒助(しらがくろすけ)だっているだろうが! 断じてそんなモンじゃない!!」


「言い訳しないっ! お、お姉ちゃんはそんな節操のない子に育てた覚えはありません!! というかわたしをトラと呼ぶなあああぁぁぁぁぁぁあああ!!!」


再び襟首シェイクの刑に処される士郎。
抗弁するも聞く耳持たず、ガクンガクンと揺すり続ける大河の目は涙で潤み、白い部分に赤い線が走りつつある。
逆上している虎は手に負えない。鎮静剤が必要だ。
士郎は必死に手で合図を送る。早くどうにかしてくれと。


「はぁ……藤村先生。衛宮くんはそんなに信用ならないのでしょうか? 小学生の子どもが滞在しているにも拘らず、いえ仮にそうでなかったとしても、いずれ間違いを犯してしまうとでも?」


「そんな訳ないじゃない!! 士郎はそんなコトしないもんっ!!」


「でしたら何も問題ありませんね。衛宮くんも言った通り、ここには大人の男性もいますから。それに先生が太鼓判を押してくださるのなら、わたしも安心です」


「うぐっ……!」


揺さぶる手を止め、言葉を詰まらせる大河。
結局、首肯以外の選択肢の悉くを潰され、最終的に凛の一人勝ちという結果に終わってしまうのであった。















その後。





「そういえば昨夜の嵐、スゴかったわね~。来る前に見たニュースじゃ、東アジアの大半が嵐の勢力圏内だったんだって。でもすぐ止んじゃったから、そんなに被害はなかったみたいだけど」





「あら? この記事……『太平洋沖で謎の巨大爆発』? 物騒ね~……ふんふん、調査団が現地入り?」





どうにか気を取り直し、平常運転に戻った大河。
時折ヒヤリとさせられるようなワードが飛び出しつつも、台風一過の晴天のように朝の食事の時間はどうにかつつがなく過ぎていった。















ほんの少しだけ騒々しい、なんて事はない朝の風景。















……しかしながら。














新たな戦いのゴングは、既に間近に迫っていたのである。











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