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No.28759の一覧
[0] 【秘封短編】すれ違う願い、重なる想い[トラシガ](2011/07/09 23:25)
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[28759] 【秘封短編】すれ違う願い、重なる想い
Name: トラシガ◆77bc29f0 ID:c4c83957
Date: 2011/07/09 23:25
「今日も暑いわね……」

「本当にね。時期が時期だから仕方ないけど」

蓮子は、恨めしそうに雲ひとつない、真っ青な空を見上げる。

私と蓮子は、じりじりと太陽が照りつけるなかを並んで歩いていた。

時間は正午過ぎ。まだまだ暑くなる時間帯だ。

道を舗装するアスファルトからの反射熱も私たちを焦がす。

道行く人たちは、日傘やハンカチを片手に、この殺人的なまでの日差しに対処している。

それでもどこか、うんざりとした表情を浮かべている。

「暑いから早くお店決めちゃいたいんだけど。何か食べたいものはある?」

蓮子は先ほど、宣伝と称して配っていた小さなうちわを仰ぎながら私に訊ねる。

それよりそのうちわ、あんまり意味なさそうね。

「そーね……。空気が暑いから、仰いでも焼け石に水状態よ」

やってみりゃわかるわ、と蓮子は手に持ったうちわを私に寄越す。

ためしに仰いで見たが、なるほど、これはあまり意味ない様だ。

私はうちわを蓮子に返し、ミニタオルを取り出して額の汗を拭う。

小さいタオルのため、既に汗でびっしょりだ。

「でメリーさん。昼ごはんどうするの……?」

「何でもいいわね。正直、この暑さから逃れられればなんでも」

「確かにそうなんだけど、何でもいい、が一番困るのよね……」

「じゃあ、その辺のファストフードでもいいんじゃないかしら。早いし、涼しいしで、一石二鳥じゃない」

「じゃあそれに決定~」

蓮子の声に覇気がない。よほど暑さに弱いのだろうか。

しかし、こういう蓮子を見るのはなんだか新鮮な気がする。

だって、いつも鬱陶しいくらい元気一杯なんですもの。

私たちはゆっくりとした足取りでファストフード店のドアをくぐっていた。

「はぁー、生き返るわ。いやほんとに」

「気温差が激しいけどね。でも、やっぱり混んでいたわね……」

一歩店内へと足を踏み入れると、そこは天国だった。

ただのファストフード店のはずだが、外とは切り離された別世界のようだ。

エアコンからは、絶え間無く冷気が吐き出されていて、時折開く自動ドアから入り込む熱気を、一瞬で冷やしている。

汗をかいているので少し寒いくらいだが、外の暑さに比べればなんてことはない。

ただ昼時ということもあり、既にレジには長蛇の列ができていた。

「さて、何食べようかしら?」

暑さから逃れることができ、すっかり元気を取り戻した蓮子は、列の最後尾へと着く。

私もそれに倣う。まだ、何を頼むかは決まっていなかったが、列の長さが十分な時間を与えてくれた。

そして十数分後、無事に品物を得ることが出来た私と蓮子は、揃って隅にある席へと腰を下ろしていた。

「ふぅ。やっと落ち着けたって感じね」

蓮子はアイスコーヒーを吸いながら息を吐く。

余程暑いのに参っていたんだろう。

蓮子のコーヒーは半分近くなくなってしまった。

「そうね。それにしてもまだ7月も始めだというのになんなのかしら、この暑さは」

「さてねぇ。やっぱり、温暖化の影響なのかしら」

「そんなに顕著に影響あるの?」

「私は環境問題には明るくないけどさ」

ぱくついていたハンバーガーを飲み込み、蓮子は語り始める。

「年々、真夏の平均気温が上がってきているらしいわ。
もともと、温室効果ガスは地球の周りを覆っていたというのは知っているわね? 
そのガスがあったからこそ、地球表面はさほど寒くならずに済んだわけよ。
それに、人間がここまで発展するまで、『温暖化』なんて言葉は微塵もなかったの。
自然と生活が調和していたから。
でも産業革命以降、急速に発展していった人々の社会には、自然を支配し、自分たちの生活を豊かにすることしか頭にはなかった。
その結果、自然とのバランスが崩れていった。それが今ってわけだよね」

「ふーん……」

私は程よく溶けて飲みやすくなったシェイクを吸い込みながらガラス窓の外を見る。

外は相変わらず暑いようで、道から陽炎が立ち昇っている。

こんな中を歩くというのは、苦行の域だろう。

先ほどまでその苦行を否応なしに行っていた私が言うのだ。説得力あると思う。

蓮子の話はまだ続く。

「あとはヒートアイランド現象よね。
高層ビルといった建物が、川や海から都市中心部を隔離するように建てられいるから、涼しい風が入り込みにくいし、エアコンの放出熱やアスファルトの反射熱、さらには自動車の排気ガスもその要因の一つらしいし。
それにビルが多いと、熱が上空に逃げにくいから、下に溜まるしかないのよね」

蓮子は残ったアイスコーヒーを飲み干し、さらにはカップの氷を口に含む。

しばらく、蓮子からは氷をガリガリと噛み砕く音しか聞こえてこない。

私も、殆ど溶けてしまっているシェイクを飲み干す。

冷たく甘いミルクの味が舌に残り、少し寂しさを感じさせる。

「で、メリーに相談なんだけど」

「ん、何かしら?」

「今日の夜、メリーの部屋行ってもいい?」

いきなりの言葉に、私は面を喰らう。ええっと……。

「何を慌てているのかしら?」

「だって心の準備とかいろいろ……」

「へ? 何を勘違いしているのか知らないけど、とりあえず置いておくわ。
……ねぇメリー、今日は何の日か知っている?」

「今日? ……ちょっと失礼して」

私は肩掛けバックから端末を取り出し、カレンダーを開く。

今日の日には特に何かがあるというわけではないようだけど……。

ぱちんと端末を閉じ、蓮子の顔を窺う。……うわ。いつもの悪戯猫のような笑顔。

あの顔は何かを企んでいる顔だ。

「まぁ、分からないというなら夜のお楽しみね。首を長くして待っていなさい

!!」

「何故にドヤ顔……?」

びしっと蓮子は私に指を指す。すこし気になったが、まぁいつものことだ。

しかし……、本当に今日って何の日なのだろうか?

蓮子がここまで推しているということは、何かしらあるんだろうが……。

とりあえず、夜まで待ってみることにしよう。

「さて、そろそろ行きましょうか」

「そうね……。はぁ、またあの灼熱地獄の中に戻るのか……」

蓮子は憂鬱そうだ。無理もないか。

自動ドアが開いて外気が入ってくるだけで、汗をかきかねないほどなんだから。

というか蓮子の場合は、服装が黒メインだからじゃないのかしら……? 帽子すら黒いし。

「これが私のアイデンティティよ! 今更引けますか」

「はいはい」


そしてその夜。

「メリー、約束どおりやって来たわよ」

「蓮子? 今鍵あけるわ」

パタパタとスリッパを鳴らしながら玄関まで駆けていき、私は鍵を開けて蓮子を迎える。

「ヤッホー、メリー」

「ヤッホー……ってそれなに?」

蓮子は昼間と同じ格好をしていたのだが、手に掴んだものだけが異彩を放っていた。

「何って?」

「いや、その手に持ったものよ」

「ああこれ?」

蓮子は手に持った「それ」を私の押し付ける。

葉の擦れあう音が2重にも3重にも重なって涼しげだ。

「これは単子葉植物イネ科タケ亜科の植物で、竹の亜種よ」

「素直に笹って言いなさいよ。……笹? ああ、そういうことね」

蓮子が昼間に言っていたこと。そして、この笹。

二つの情報が私の中で一つの絵となって表われた。

「今日は『七夕』よ、メリー姫さま」

「蓮子はこういうイベントごと好きよね」

「楽しむ時は楽しまないと損でしょ」

蓮子は満面の笑みで私のおでこをちょこんと突付く。

本当にこういうときの蓮子は、子供がそのまま大きくなったみたいよね。

行動力も、無邪気さも。こういうのは見習うべきなのかな?

「さて、ベランダ借りるわよ」

「あ、ちょっと待ってよ~」

靴を脱いで、まさに勝手知りたる他人の家のようにベランダへと向かう蓮子を追い、私はまたスリッパを鳴らす。

「今年も晴れてよかったわね。星が綺麗に瞬いているわ」

「本当にね……」

私は思わず見とれてしまった。空一面に散りばめられた星々。

手を伸ばせば掴めそうなほどだ。

普段、あまり夜に空を見上げることがないから、その感動は計り知れない。

星空を眺めるなんて、きっと年に数回だろう。そのうちの一回が今日という日なのだ。

「メリー、せっかく笹を持ってきたんだし、願い事書きましょうよ。ほら、見とれてないで」

「え~、もっと見ていたいのに……」

蓮子に腕を、星空に後ろ髪引かれながら室内に入る。

そして手渡された長方形で桃色の紙。

これに願い事を書けってことね。

「そ。お互い書いたら、笹に吊るしに行きましょう。あ、でもまだ見ちゃ駄目よ」

「なんで?」

「なんとなく!」

「だからなんで誇らしげにドヤ顔……?」

なにか腑に落ちない気がしたが、とにかく願い事を書くことにしよう。

なんて書こうかなぁ……。

私は書きあぐねて、ペンをくるくると回している。

ちらりと横目で蓮子を窺う。

蓮子は鼻歌交じりに軽くペンを走らせている。

一体、何を書いているのだろうか。

ばれない様に、蓮子の紙へと視線を移していく。

「おおっと! 見せるわけにはいかないなぁ!」

くっ、目ざといわね……。いや、観察力があるというべきか。

しかたない、自分のを書く作業に戻るとしよう。

その時、ふと一つの「願い」が頭を過ぎった。

でもこれ書いて、これを蓮子が見たらなんていうかなぁ。

「馬鹿ねぇ」

とか言われそうだ。でも、この願いは私にとって切実な願いなのだ。

誰にも否定されることのない、純粋な想い。

「……よし。それにしよう」

決心し、ペンを走らせる。

ピンクの紙の上に、黒い線が文字を描いていく。

私の願いをこの一言に乗せて……。

「メリーも書けたようね。さ、吊るしにいきましょう」

「そうね。きっとこんなにも綺麗な星空なら、織姫も彦星も願い事を叶えてくれることでしょう」

二人で短冊を笹へと吊るす。さわさわと葉の擦れる音が心地よい響きだ。

優しげな風が私たちの髪と笹の葉を弄ぶ。

昼間、うんざりするほどの暑さだったのが今では身を潜めている。

「さて、星鑑賞もそこそこに、夕食にしましょ」

「え。もうそんな時間? ていうかもしかして泊まっていく気なの?」

「モチのロンよ。だってほら、寝巻きも持ってきているし。それに、明日の朝一でメリーの願い事見てやるんだからね」

「はいはい。なら、夕食の準備を手伝いなさいよ」

「はーい。夕食なしにされても困るしね」

呆れた顔をしながらも、いつも一人で夕食をとっている私にとってはとても喜ばしいことだった。

今夜は騒がしい夜になりそうだ。

                  ※

「今日は年に一度、彦星様に会える日だわ」

7月7日。世間では「七夕」なんて呼ばれているみたい。

私たちの再会を祝福してくれているみたいだけど、それにかこつけて願い事をしているらしい。

一体何の因果があって、願い事をするようになったのかしらね。

「願い」は自分で叶えてこそのものなのに……。

ま、とにかく彦星様に会えるのだから、目一杯おめかししなきゃね。

「織姫様、そろそろお時間です」

「あ、はーい」

彦星様からの使いの声を聞き、私は飛びだす。

早く会いたいという気持ちが大きくて、自然と早足になる。

自然と笑顔になる。

なんたって、一年に一度きりなんですもの。

気持ちが焦らないなんて嘘よね。

「少し早かったかしら」

天の川のほとりに私は着いた。けれども、彦星様のお姿は見えない。

急ぎすぎたみたい。

私は天の川の川岸に腰掛をかけて足を遊ばす。

さらさらとした清流は冷たく感じられた。

「まだかなぁ……」

「織姫!」

不意に川の向こう側から声が聞こえ、はっと顔を上げる。

そこには、愛しの彦星様が私に手を振っていた。

「彦星様!」

私の嬉しそうな声と同時に、何処からともなくカササギがたくさん飛んできて、その翼と背で長い長い橋を架けた。

私はカササギの上を出来る限り速く歩く。

そして、天の川の真ん中で。

「織姫、一年ぶりだね」

「彦星様……」

私たちは手を取り合うことが出来た。

この一瞬のためだけに、この一年を過ごしてきたのね。

手を取ったまま、私たちは見つめあう。

一年の溝を埋めるかのように。

言の葉を使わずとも、私たちは通じ合っているのだと実感できる。

きらきらと、天の川が輝いている。

まるで私と彦星様の再会を祝福してくれているみたいね。

毎年のことだけど、毎年そう思う。

「彦星様……」

「ん? なんだい?」

「いえ、ただ呼んでみただけですわ」

「なんだい、そりゃ」

二人して笑いあう。この時間が永遠に続けば良いなと思った。

それが私の願いだった。

他には何も望まない。ただ、それが私の切実な願い。

でも、そんな時間は長くは続かなかった。

気付けば、水かさが増している。

もしかして……。

「彦星様!」

「川が増水している……。これ以上はカササギたちも、僕たちも危ないかも」

「そんな……」

まだ、そのお声を聞きたい。触れていたい。体温を感じていたい。

でも、どんどん増える水がそれはいけないと言っているように感じる。

「悲しそうな顔をしないで。また一年後会えるんだから」

「ですが……!」

私は言い切ることは出来なかった。

だって、唇を塞がれてしまったんですもの。

これではものを言うことなんて出来ない。

私は反射的に目を瞑る。

彦星様の顔が近くで恥ずかしかったというのもあるけれど、作法に倣ったのだ。

「じゃあ、またね」

「はい……」

夢心地のまま、私と彦星様との距離は離れていく。

また、来年会いましょうと心で告げながら……。

                 ※

夢を見ていた。しかもそれは、織姫と彦星の夢だった。

つー、と頬を一滴が伝う。

突然のアクシデントで離れ離れになってしまう2人。

夢の中で2人は気丈に振舞っていたけれど、織姫と彦星の気持ちを考えると、とても切ない気持ちになった。


「蓮子……」

口からこぼれた声はとても弱弱しかった。

自分でも情けない声が出たと思う。

隣りで寝ているであろう相棒の布団を見ると、既に開けていた。

ふと、先ほどの夢が思い出される。

「蓮子……!」

布団を抜け出し、寝室の戸をあける。

するとそこには、驚いた蓮子の顔があった。

「メリーおはよう。雨降ってたわ……ってどうしたの?」

蓮子を見つけた私はへなへなと崩れ落ちてしまった。

蓮子の着ている寝巻きのパンツを力なく掴む。

「いや、ちょっと『夢』を見て……」

「そう」

一言だけ蓮子は呟くと、私を抱擁する。

とても暖かい蓮子の腕の中。

これが近くにいるという安心感なんだ。

「大丈夫。私はあなたの傍にいるわ」

「うん……」

身体を離し、互いに見つめ合う。

それは、夢に出てきた二人のように。

言葉がなくても通じ合うものはあった。

それは確かに私の中に流れ込んできた。

「そうそうメリー、あなたの願い見たわよ」

「宣言どおり朝一ね……」

「あったりまえでしょ。それにしても馬鹿ね、メリーは」

「予想通りの反応よ、蓮子」

「あら、メリーに読まれるなんて私もまだまだね」

くつくつと蓮子は笑う。

なんだかその顔が気に食わなくて、私は蓮子の頬を抓る。

「いひゃいひゃい! 何するのよ~」

「蓮子が笑うのがいけないのよ。私にとって、あの願いはとても大事なんだから……」

「『これからも傍にいれるよね?』ってやつね。だから、メリーは馬鹿だって言うのよ」

「……」

「なら、私の願いを教えてあげるわ。それはね……」

蓮子は、自分の額と私の額をこつんと重ね合わせる。

蓮子の吐息が感じられるまでに近づき、そして優しく、それでも力強く。

────これからも傍にいてよね?



読んでくださいましてありがとうございました。
初めまして。トラシガと申します。
今回が初投稿となります。
テーマは七夕。日にちはずれてしまいましたが、そこはご勘弁を。
これを読んだ感想、文章に対しての批評などありましたら、
書いてくださると嬉しいです。


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