変なお爺さん……ううん。声は若かったし、あれは女だ。変な女に拉致された私達は、いきなり冒険者ギルドに出現した。
安心した途端、眠気が訪れる。
倒れこむように眠った私達と争ってそれを保護する冒険者達。
私達の救出に賞金が掛けられていたのだ。
私達は、丸一日ぐっすり眠って、すごい勢いで食事をとった。
そして、事情聴取が始まった。
ご領主様自ら、事情を聞いてきた。
「そんな事が……? そんなスキル、聞いたことがない」
「多分、訓練士だと思います……いえ、訓練士です。モンスター捕獲呪文、使えますから」
「なるほど……。そういえば、これは君達が揃って持っていたカバンだが」
「見たことがありませんね……」
私がカバンを開けると、中の物が散らばってカバンは消える。
「これは、もらった装備とアイテム……。最初に貰った装備は無いみたいね」
「素晴らしい武具だ。一流の冒険者のものと言っていい。……そして、君のレベルも既に一流だ。彼の目的は予想がつくかね?」
領主が綺羅びやかに輝く装備を撫でる。その手はわずかに震えていた。
「愉快犯、だったとしか思えません……」
沈黙が落ちる。
得体のしれない何かに、怯えているのだ。
「……伝説の英雄に、100レベルを超えたものがいたという」
「人間の限界は百レベルです……。けれど、確かにあの時、アイテムを使われてむりやり限界を超えさせられた感じがしました。気が高ぶった時だったと思います。沸騰して圧力が最大になった瞬間に、蓋を開けられたみたいな……」
「……そうだ。これは一般に知られていない伝説だが、神は戯れに限界を超すアイテムを使い、試練を与えて英雄を作ったという。パリスも君達も、それにやられたのかもしれん……。しかし、50レベルか」
そこで、領主様は苦笑した。
「泣き虫パリスが、一番レベルが高くなるとはな」
「パリス様は、必死に戦って下さいました」
「一番レベルは低いがな」
「でも、パリス様は、あのアイテムを使われていません。きっと、一番才能があったんです。それが私は悔しい。訓練士のレベル50になってしまえば、他の道は選べないから。パリス様の将来の芽を摘んだあいつが憎い」
領主は目を見開き、そっと私を撫でた。
事情聴取が終わると、パリス様が走ってきた。
「ファナ! 傷はないか!?」
「ええ、パリス様」
パリス様は、すっと手を伸ばして、私の手を握られる。
「ファナ、一緒に教師になろう!」
「ええ!?」
「僕はもう、領主はできない。領主にふさわしい職業につけなかったから。けど、きっと弟が立派に継いでくれる。だから、一緒になろう」
「パ、パリス様、そんな、無理です……!」
私は言い募るが、パリス様は領主としての奉仕の義務を果たすことと引換に、領主様の許可をとってくださった。奉仕の義務。モンスターを集めて、兵士達の訓練に使うこと。訓練士は、経験値の取得効率や回復率、上達速度、威力など、あらゆるものを強化できることが分かったのだ。
まだまだ勉強は必要だけど。こうして私は、若くして教師になったのだった。
さて、カンスト&転生である。
転生の間へと転移して、転生をする。そうしていると、やっぱり考えてしまうことがある。
……サクラとヤナギを訓練士にしちゃおっかな~。
これは、かなり切実な問題だ。一番レベル上げで美味しいのは訓練士だ。
というか、神以降レベル上げをするなら、訓練士でないと無理だ。
それほど、訓練士は突出しているのだ。
転生の際に訓練士を挟むのは定石であるし、だからこそ私は二キャラに訓練士を入れないだけで廃扱いされた。私は廃じゃないのに。
レベル上げに、知り合いの訓練士の力を借りているし。
事実、クスノキは実は一番若く使っていないキャラなのである。一番使い勝手はいいが。
私は少し考えた後、首を振った。ノーマルで1000レベル達成はなかなか美味しい特典があるし、コンボが崩れてしまう。何より、神上がりの際はやはり人でありたい。
大体、神上がりを訓練士でするなら、訓練士を十回繰り返すぐらいでないと意味がない。
転生を決まった職業で達成するとコンボとなり、特典が発生するのだ。友達がやりとげたが、あれは美しいエフェクトだった……。
うん、やっぱり人間だな。コンボ決めたい。訓練士は神化の後で。
私は一人納得して、クスノキの外観を決める。
やっぱり、メインのイメージは後進を育てる歴戦の戦士だよね。
男も女もやってきたけど、やっぱり最後は中の人と同じ女だ。
ボンキュッボンで緑色の瞳に、茶髪がいい。
そしてポニーテール。
サクラは桜の花のように淡く可愛らしいイメージだけど、クスノキは大樹のような格好いい感じの美女が良い。
しばらく弱くなるけれど、まだヤナギがいるから大丈夫だよね。
ヤナギが転生するほど育つ頃には、クスノキは神化しているだろう。実際、メーカー職と訓練士の成長速度の差は5倍なんてもんじゃないし。
ありえるありえる。
あーでも、ヤナギは男にしよっかなぁ。全部女ってあれだよねぇ。
悩みながらも、私は転生を済ませたのだった。