『ちゃらっちゃちゃらっちゃらったった』
『らんらんらんらんほーやーっほー』
意味不明な歌を歌いながら、私、クスノキを含む数人のプレイヤーキャラが冒険者ギルドに侵入する。
冒険者ギルドでは、可哀想なNPCが、呑気に受付に並んでいたり、掲示板を見たり、会話を楽しんでいた。
冒険者ギルド……そこは絶好の狩場である。騎士や兵士の詰め所では、監視が厳しくなって来たので最近はいつもここで狩っている。
私達は、この日の為に三日も費やした。
スカウトスキルによって素質や能力限界、現在のレベルを調べ、有望なNPCをリストアップ。NPCに聞きこみをし、友情を取り持つ類のおつかいイベントをこなして、既に友好関係を調査・イベントによって強化している。後は収穫を待つのみなのだ。
もちろん、私達は変装スキルを使用している。既に私達は指名手配されていた。これはもう、転生しない限り解ける事はない。
あるプレイヤーが神化した後、1001レベル記念にメーカーに提出した、俺の考えたかっこいい職業、訓練士。別名、人攫い。大人気の職業である。私達は、その職業に転職していたのだ。
ちなみにメーカーはNPCのAI総書き換えなこの職業に涙を流したという。
キャラクター達には、視線の向きと言う物が設定されている。
ターゲット全員の注意がそれたその一瞬、私達は一斉に動いた。
訓練士達が袋を掲げ、NPCに覆いかぶせて担ぎあげる!
混乱するNPC達。ガードマンや熟練冒険者のNPCとの戦闘が起き、私達は片手使用不可というハンデを負いながらも戦いつつ、ワープポータルへと入る。
すると、修行の間と言う、魔法陣が書かれた丸い闘技場のような物がいくつもある場所にワープされるのだ。
魔法陣の中央に行くと、自動で袋を置くので、その後魔法陣の外に出る。
袋がもぞもぞと動いて、解放されるNPC達。
「なんだなんだ!?」
「人攫い!」
「マリー、私が守る!」
「どうしてこんな所に連れてこられたんですか、なんでみんな見てるんですか」
『初々しいのうw 初々しいのぅw』
『か・わ・い・いwww』
『全て爺達に任すんじゃ』
『レベル1は警戒心が無いから浚いやすいなw』
そうやってはやし立てている間に、魔法陣に結界完成。NPCは閉じ込められる。
ワープポータルを作動させた訓練士のみ、ここで選択肢が現れる。
装備とアイテムを所定の物に変えるかどうかだ。
これは、事前に数を揃えて設定しておかなくてはならない。しかも、浚った人数ごとにだ。しかも、装備は個別には変えられない為、全員一緒の物となる。
装備プレゼントという方法もあるが、狙ったNPCが装備を着てくれるとは限らない上、訓練後に戻ってこないという問題があるので、よっぽどの事がない限り、しない。
今回は、全員導きの装備セットを装備してもらった。ふふふ。
さらに、結界の上部にカウントが現れる。
私達訓練士は、すぐさま魔物召喚スキルを使った。
魔物召喚スキルは、訓練士が捕えた魔物を魔法陣内に放流できるスキルだ。適当な数を選択して放流する。
魔法陣の中に召喚される魔物。
NPC達は急いで戦闘準備に入る。
『ちょwwwビギナーちゃんにオークヒドスwww』
『狼で魔法陣埋まってるwww』
魔物が10秒間結界内にいない状態になると、NPCは元いた場所に戻される。
また、NPCのHPが一割切ってもHPを回復した状態で戻される。
ただし、NPCが死んでしまったら、そのNPCは永遠に失われ、私達はデスペナルティ以上の大きなペナルティを受ける。具体的には、NPCに止めを刺した訓練士の二四時間取得経験値半分、レベルに応じた経験値マイナス、それに加えて死んだNPCの魔法陣内で受けた総ダメージを受けるのだ。総ダメージと言うのが肝で、下手するとどんな高レベルでも一撃で死にかねない。
だから、はしゃいでいても、私達は真剣だ。
魔物を出すと、訓練士である私達は、次にNPCへの強化スキルを次々と繰り出し、アイテムを使用する。
強化に強化をされたNPC達は、圧倒的な敵に対して錯乱状態になりながら(レベルと敵の数を特殊な計算方法で算出した数値が、味方数とレベルの数を特殊な計算方法で算出した数値に一定以上の割合で上回ると錯乱状態になる)も、必死で生きぬかんと抗う。
その上導きの装備つきだ。自然、どんどんレベルが上がっていく。
その上今回は、レベル上限が21の子を混ぜてある。この子がメインターゲットだ。
導きの装備が弾け飛んで裸になっても、三レベル位は上がってもらうつもりである。
次々と装備が弾け飛び、インナー姿になる冒険者達。
装備が無くなったので、ここで少し敵のレベルを落とす。
そして、絶対に殺さないように、じわじわとHPを削っていく。
メインターゲットの妹、マリーのHPが三割を切った。
「マリー! マリー! 私は、マリーを守ると誓ったんだ。うおおおおおおおお」
メインターゲットが発光する。その時、素早く限界突破アイテムを使う。
リミットブレイク。美しいグラフィックと共に、限界突破を起こしてメインターゲットのレベルが上がる。
『ご馳走さま―。じゃあ、撤収しましょうか―』
『了解でーす』
『姉妹愛……美しい……』
その言葉と共に、一層NPCを強化すると共に、魔物を入れるのをやめる。
全ての魔物が駆逐され、10秒たつとNPC達は送り返され、「○○、○○、○○はワシが育てた」とログが流れ、訓練士達の足元に波のエフェクトが現れ、それと同時に訓練士達の元に膨大な経験値が転がり込む。
この経験値は、NPC達の元のレベルの高さや素質、上がったレベル、上がったスキル、リミットブレイクした回数から産出される。
特にこのリミットブレイクの経験値がべらぼうに美味い。
1000レベル越えの、通称神(神化しただけの1000レベル未満のキャラは神子と呼ばれる)ですらNPC狩りをする程に美味い。
更に、NPCを強化する事で、国力も大幅に上がって様々な特典が増えるのだ。
例えば、ダンジョン内の拠点の設置や維持、雑魚敵の排除等は全てNPCが行っている。
NPCのレベルに合わせて、売られる武器防具、道具が変動する。
だから、NPCが強ければ強い程、何かと便利になるのだ。
NPCの強化はこのゲームの根幹であるが、強い魔物と戦うのをNPCが好まない為(稀に強い魔物と戦うのが好きなNPCもいるが、目を離すとすぐに死ぬので使えない)、手っ取り早く強化するのは難しい。
もちろん、NPCのレベルをあげる方法は他にもある。訓練士でなくても、普通にクエストでNPCとパーティを組めるものもあるし、訓練士には他にも師事する為の様々なスキルがある。
しかし、好感度をあげて一次的にパーティに編入させるクエストを起こしても、強敵と戦わせれば一気に好感度が下がって次のクエストが発生しなくなる。
それゆえ、手っ取り早く浚ってくる方法が良く利用された。
指名手配されるけど。
変装なしには町に入れないけど。
プレイヤーが考案した職業でありながら、既に訓練士はリミットブレイクの看板職業になりつつあった。
外道オンラインの名も定着しつつある。
そして、私はそんなリミットブレイク・オンラインが大好きだった。
次々と新たな物が発掘されて、本当に飽きないのである。
特に訓練士。私のサブキャラは、リミットブレイク・オンラインでの訓練実績第一位だった。一度も加減を誤って殺した事が無いし、何人もリミットブレイクさせてきた。
鬼教官のクスノキが二つ名である。
けれど、それはゲームだからであり、現実じゃないからだ。
私はあの日のゲームの夢を見て、飛び起きる。
汗でパジャマがびしょぬれだ。
今の私は、異様なまでに高い素質を持っている。訓練士の絶好の餌だ。
「そうだ……忘れてた。調べる事、まだまだいっぱいあるや……」
それでも私は、あくまでも万一の為の用心という意識を拭えなかった。
私なんかが、知るはずも無かった。不穏な噂も、徐々に魔物が増えているという事も……。
この世界に、私は呼べれるべくして呼ばれたのだという事も。